山村智美の「ぼくらとゲームの」
連載第154回
ゲームプラットフォーム新時代の訪れをまたひとつリアルタイムに目撃した僕らの話
2019年3月20日 12:00
この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。
Google「STADIA」がゲームの歴史のターニングポイントとなるかどうか。僕らは貴重で楽しい瞬間をリアルタイムに生きていますね。
GDCこと「Game Developers Conference 2019」にて、Googleが新しいゲームストリーミングサービスを発表しました。
その名は「STADIA」!
ブラウザのGoogle Chromeでストリーミングのゲーム映像を見つつ、「STADIAコントローラー」で操作をしてゲームプレイを楽しむ、いわゆるクラウドゲーミング系のサービスですね。
ちなみにSTADIAという言葉は、ギリシャ語やラテン語で言うところの“距離の単位の複数形”のようです。場所を問わず、距離も越えて楽しめる的な意味合いが込められているのでしょうか。
今回の発表で特にインパクトがあったのは“Googleならではの強さ”ですね。なにしろ「あのGoogleが動いた!」的な強さだけでも相当なものがあるわけですが、
その中身も非常に強さが強調されているものでした。
「STADIA」はストリーミングですので、もちろんサーバーがなにより大事になるわけですが、Googleの強大なデータセンターと運用技術を活かしてゲームプラットフォームを展開するという、Googleの強みを存分に活かした展開です。
ゲームプレイの解像度は1080pから4K HDR 60p、さらに将来的には8K/120fpsも予定しており、しかもそれは、スマートフォンから4Kテレビなど様々なデバイスに中断なしに切り替えてプレイすることもできるというフレキシブルさも備えています。
「STADIA」のサーバーの処理性能は10.7TFlops。TFLOPS(テラフロップス)とは、ざっくり言うとそのハードの処理性能を示す単位で、もっとざっくり言うと性能であり戦闘力とも言えるのですが、PS4 Proは4.2TFlops、Xbox One Xは6.0TFlopsなので、両方を合計したとしても、それをさらに上回ります。
Googleが運用するデータセンターでこの10.7TFlopsという処理性能には、まさに“レベルを上げて物理で殴ればいい”的な、力こそ正義な強さを感じさせるものがありますねー。
なんと言ってもGoogleですので、強さのひとつにYouTubeをはじめとしたネット連携の上手さというものもあります。カンファレンスではYouTubeでUBIの「アサシンクリード オデッセイ」のトレーラー映像を見ているところから、「Play Now」ボタンを押してわずか5秒で「アサシンクリード オデッセイ」のプレイを開始する様子が紹介されました。
このようにYoutubeでの動画から興味を持ったゲームのプレイを即座に開始したり、ストリーマーの人がライブでプレイしているゲームを自分もプレイし始めたり、ゲームに参加したりも、ブラウザ上のPlayボタンですぐさま、というわけです。
ちなみに動画配信等のデータアップロードは4K/60fpsをサポートするとのことなので、手軽にいろんなゲームプレイを動画配信する手段としてもかなり優れたものになります。
なにしろブラウザ上でプレイするサービスですので、他にもゲームニュースサイトやSNSから、興味を持ったら即プレイということもできますよね。
これまでのゲームハードではあくまでゲームハードありきでオンラインで楽しむのはその先にあるものだったわけですが、「STADIA」は動画やSNSなどのコミュニティが入り口で、そこからワンクリックでゲームプレイに入れるというわけで。
このゲーム体験の流れの変化、そのシームレスさは強いですよ。
ストリーミングサービスだからこそのメリットも、カンファレンスではしっかりと強調されていました。
まず、アップデートの必要がなく、ダウンロードやインストールの時間で待たされることもありません。それはGoogleさんがサーバー側でやっておくことになるから、プレーヤーが意識する問題ではなくなるというわけですね。
また、チート行為もほぼ難しくなります。ゲームデータを動かしているのはGoogleの「STADIA」サーバーであり、ストリーミング越しのプレイですので、そこをいじるのは難しいですよね。コントローラーを改造するなどのハードウェアチートの方向は出てくるかもしれませんが。
開発者目線では、ブラウザで動作するストリーミングサービスですので、現段階で最も多彩かつ楽に展開できるマルチプラットフォームと言えます。ハードウェアごとの最適化も必要ないですよね。
逆にデメリットという気になるところを挙げると、やはり最大のポイントは操作のレスポンスですね。他のクラウドストリーミング系のゲームサービスでも、今は十分なレスポンスが得られるものがありますが、それでも、1~2フレームのわずかなズレはありますし、例えばプレイ環境によって、コントローラーそのもの遅延とモニターの遅延と操作データの遅延とが合わさってそこそこの数値になってしまうと、さすがにeスポーツ的な“競技性を求めるタイトル”ともなると厳しくなります。
この点については今回のカンファレンスでも、プレーヤーから「STADIA」サーバーまでの経路で経由する数を極力減らしてレスポンスを高めるというアピールがされていましたが、どこまで突き詰めたところまで縮められるか、それ次第で「STADIA」で楽しむゲームジャンルが決まってくるところはあると思います。
日本のゲームファンの僕らとしては、「STADIA」の提供は2019年に北米、カナダ、イギリス、欧州で予定とのことなので、実は今のところ海外のお話で僕らは触れないという現状なのが残念なんですよね。日本やアジア地域への展開がいつになるか気になるところ。
「なーんだ、まだ海外だけの話かー」って思われる人も多いと思いますけども、「STADIA」が登場したことで“他のゲームプラットフォームがどう動いてくるか”というのも注目どころなんですよ。
ソニー・インタラクティブエンタテインメントは「PS Now」のサービスをすでに行なっており先行していますが、任天堂なども「STADIA」のようなサービスにどう向き合っていくのかは今後にとって大事なポイントになっていきます。
これまでは“いつかはクラウドストリーミングが伸びる……でもいつかはまだわからない”という空気だったものが、Google「STADIA」が具体的な姿をかなりパワフルに示したことで変わります。一気にゲームシーンの流れが加速していく可能性があるというわけですね。
はたして、今後はどうなっていくのか。
何年か経ってからこの発表が、「今思えば、あれがターニングポイントだったんだな」と思うような出来事になるのか、それともならないのか。
いずれにしろ新しい未来がどのようなものになるのか……楽しみですね。
ではでは、今回はこのへんで。また来週。
【訂正】
記事掲載当初「Xbox Game Pass」などについての事実誤認があり訂正いたしました。お詫びいたします。