山村智美の「ぼくらとゲームの」
連載第78回
プレーヤーの心を引き寄せる“引力”という「ゼルダの伝説」の伝説的パワーワードが凄い話
2017年9月6日 12:00
この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。
「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」は、その作り方や考え方においてもゲームの歴史に新たな1ページを記すタイトルだなぁと。
日本最大のゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2017」が8月30日から3日間開催されました。CEDECは、正式名称をComputer Entertainment Developers Conference。いわゆるゲームの作り方においての技術や工夫についてゲーム開発者がプレゼンテーションし、技術交流をしていくという会です。
そんなCEDECで今年もたくさんのプレゼンテーションが行なわれたわけですが、やっぱり注目度が高かったのは「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」。GAME Watchはもとより、各メディアでもそのプレゼンテーションの記事が掲載されています。
……ただ、ゼルダのプレゼンテーション中のスライドは撮影不可だったそうで、各方面の該当記事からスライドの画像が姿を消していくという事態になっているようですが……。
なにぶん、僕は今回は現地取材していないですし事情もあまり詳しくないので。このコラムではそこにはあまり触れません。あしからず。
それはそれとして、何よりも話題になったのはそのプレゼンテーションの内容ですよね。
語られたのは、
“どのようにして「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」は作られていったのか?”
です。
そこには、プレーヤー心理をじっくりと考え抜き、それを理論的にチーム内で共有し積み重ねていったという、ゲーム作りの理想とも思えるような取り組みがあったということが、非常にわかりやすく、伝えられていました。
なかでも僕がシビれたのは、「『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』におけるフィールドレベルデザイン~ハイラルの大地ができるまで~」のセッションで語られている、マップにプレーヤーを引き寄せる“引力”のあるロケーションを配置していったというお話です。
(記事はこちら http://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1078569.html)
「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」をプレイした人の多くは、まず何かを見つけてそれに近づき、さらに、そこから見えた別のものに気がついてそちらへと進み、そうかと思えばその途中に目に入ったより気になるものの方へと方向転換しちゃったりと、あっちこっちに好奇心の赴くままに歩き回り。ゼルダ姫が「リンク……リンク……あなたはいったいいつになったら本来の目的を思い出してくれるのですか?」とお怒りになること間違いなしのプレイをした人がたくさんいると思います。
その体験を生んでいたのが「引力」。プレーヤーの心を引き寄せる力であり、プレーヤーの行動そのものを引っ張って誘導する力を、マップの至るところに散りばめていたというわけですね。
ゲームプレイで展開されていくものが常にプレーヤーの心を惹き付けるものであること。それが続いていくことというのは、ゲームとして理想的な話ですよね。
でもそれは、いわゆる“言うは易く行なうは難し”的な、口で言うのは簡単だけど、それを実現するのは難しいもの。
そういうときによくあるケースとしては、1人の天才のセンス(そういうものは大概理屈抜きだったり)を信じて、そのとおりにしていくというのが、あるある話だったと思います。
ですが、「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」では、そうしたアナログな心の作用を非常に論理的に捉えているところが、ひとつのポイントです。そして、それをしっかりと情報共有してデザインに組み込んでいていったというところが、より大きなポイント。
感覚的なものを他人と共有していくことの難しさはかなりのもので、そこには人それぞれの感性の違いもあってぶつかり合いも生まれます。それを乗り越え上手く行なっていくというのも、これもまた“言うは易く行なうは難し”的なことですよね。
このプレゼンテーションで1番のポイントは、そうした一般には難しいことを行なっていける任天堂という会社の凄み。ゲーム体験、プレイフィールの感覚的なものを重視し、それを共有できるぐらいの下地が任天堂という会社そのものにあるからではないかなと思えます。
長年ひとつの方向性でゲームに取り組んできたからこその、歴史と文化とも言えるものなのかもしれません。
それにしても“引力”とは、良い言葉だなぁと思います。よくよく考えれば、ゲームを買うことそのものもそのゲームタイトルの引力に惹かれているわけで、それをプレイすること、いつかエンドロールに辿りつくこと、いずれも引力の結果とも言えるのかもしれません。
先週のこの連載では僕が「ファイナルファンタジーVI」がいまだに好きで、3DSのバーチャルコンソール版を購入してまたプレイしているという話を書きましたが、あの作品の引力は、今も僕を惹き付けてやまないというわけですね。
今回のCEDECのプレゼンテーションで、ある意味ハードルがさらに上がっているかもしれませんが、次に異様な引力を放っているタイトルのひとつが「スーパーマリオ オデッセイ」ではないでしょうか。
今年6月にE3 2017のタイミングで公開された2nd トレーラー、そこで登場したポリーン(『ドンキーコング』シリーズでマリオが救出していたヒロイン)と、彼女が歌う「Jump up Super Star!」。それらの放つ引力たるや、計り知れないものがあります。
あんまりハードルを上げすぎるのも良くないんですけど、楽しみですよね。
彼女の名は「ポリーン」。美人で剛腕と評判のニュードンク・シティーの市長。平和な街を目指して建設的に働く姿により、市民からの支持も高いんです。pic.twitter.com/yRsvpXlzXz
— スーパーマリオ オデッセイ (@mario_odysseyJP)2017年6月15日
ポリーン市長の趣味は歌うこと。この歌「Jump Up, Super Star!」も、ポリーン市長が歌っているんだとか!?https://t.co/2cBnA8Ze6fpic.twitter.com/eS8hUfnsYV
— スーパーマリオ オデッセイ (@mario_odysseyJP)2017年6月15日
ではでは、今回はこのへんで。また来週。