山村智美の「ぼくらとゲームの」
連載第102回
あの日、あの時、あの場所で、ワームホールと出会った兵士のサバイバル生活が楽しい「メタルギア サヴァイブ」の話
2018年2月28日 12:00
この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。
いやぁ僕もね、発表の当時から実際にプレイするまではね、「どうなんだろうなぁ、複雑な気持ちもあるしなぁ……」って思ってたんですよ? でもね、いざ製品版をプレイしたらめっちゃ面白いんですよ、「METAL GEAR SURVIVE」。
というわけで「メタルギア サヴァイブ」です。
プレイステーション 4/Xbox One/PC用に発売されたサバイバルアクションですね。
このコラムまで読んでくれるぐらいにゲームファンな皆様には説明する必要はなさそうだなとも思いますが、
「メタルギア」シリーズはステルスアクションの代名詞的な作品。日本をはじめ世界中にファンも多いですが、シリーズ制作の顔と言える小島秀夫氏こと小島監督がKONAMIを退社したことで、シリーズの今後がどうなるのか注目されていました。
その話題やイメージは、ぶっちゃけた話「メタルギア サヴァイブ」に今もすごくついていると思いますし、
実際のところ僕もまたそういう目で見ちゃっていたところがあったんですよね。
それが冒頭の“複雑な気持ちもあった”っていうもので。
僕も「メタルギア」シリーズは好きですし、3年前の「METAL GEAR SOLID V: THE PHANTOM PAIN」発売時には、ゲームメディアが発売前にクリアを目指すブートキャンプに参加してインプレッションとレビューも書きまして。それぐらいに触れた作品なこともあって、その後のあれやこれやも当然、気にかけてきたんですよ。
そんな複雑さもあって、「メタルギア サヴァイブ」を個人的にプレイするかどうかは正直なところ悩んでいたんですけど……、
いざ購入してプレイしてみると「メタルギア サヴァイブ」は、そんなあれこれがどうでもよくなるぐらいに、えっらい面白いゲームだったんですよ……!
「メタルギア サヴァイブ」がどんなゲームかというと、生きていくのに必死になるのが楽しい、まさにタイトルどおりのサバイバル生活ゲームです。
これだけだとよくわからないでしょうから順を追っていきますが、
物語の時系列としては、「METAL GEAR SOLID V」の序章とも言える「GROUND ZEROES」の終盤頃。
ビッグボスたちの拠点だったマザーベースは謎の集団に襲撃され壊滅してしまうのですが、「メタルギア サヴァイブ」の主人公は、あの日、あのとき、その場所にいた1人の兵士。
ビッグボスたちが離脱した後、マザーベース上空に突如として異世界と繋がるワームホールが出現し、マザーベースの一部や資材、そして兵士など、いろんなものを飲み込んでしまいます。
そんなワームホールの先にある異世界を舞台に、「メタルギア」の世界にもしもこんなことが起きていたら……という、ifの物語を広げていくスピンオフ作品となっています。
この、スピンオフならではなダイナミックな設定と、そこに漂うB級感には、「面白そう!」ってなる人と、「なんじゃそりゃー」って呆れる人がきっぱり別れそうな感じがしますね。
(とはいえ、ワームホール自体は「MGSV:TPP」のFOBにも登場しましたし、丸っきり初出のワードでもないという、微妙ないいところを突いてる感がある設定だったりします)
さてさて、そんなわけで異世界にきた主人公ですが、
元の世界に帰るためにも、先行してこの世界にきていたものの消息不明になってしまったという部隊が残したデータを探して世界を探索していくことになります。
ちなみに世界は「MGSV:TPP」同様にオープンワールドです。
そこで最大の敵になるのが、
“飢え”と“渇き”です。
平たく言うと、
時間経過とともに、お腹が減るし、喉が渇くんですね。
そして、放っておけばめまいがするようになり、そのうちに力尽きます。
プレイしている間はポーズをかけない限りは常にこの腹減りと喉カラカラがつきまとうんです。
僕もプレイ序盤にびっくりしたんですけど、このお腹が減っていくのと喉が乾いていくスピードが、なかなかの速さなんですよ。
プレイ開始の数分後には
「え、もう20%切ってるの!? まともな飲み物とかなにもないけど!?」
となるほどで、しかたなく近場にあった水たまりの水をビンで汲んでそれを飲むことにします。
アイテム名の表示は「汚れた水」であり、どうやら飲むと細菌感染症になる可能性があるのだとか。あれですよね。井戸水とか生で飲んだらあかんよ的なことです。
でも飲まないと水分不足で死んでしまうので……汚い水を飲みつつ行動し続けます。
しばらくは大丈夫でしたが、汚い水を何度も飲むうちに当然のように病気になりました。
病気のせいで少し歩くごとにゲーゲー吐くようになってしまいましたが、
それでも行動しないといずれは食料も水も尽きてやっぱり死んでしまうので。吐きながらもがんばります。
過酷です。
一方で食べ物はというと、スタートした地点の近くに羊が3頭いたので、それを仕留めて手に入れた肉を焼いて食べていました。が、それもしばらくすれば尽きていきます。
どうしたものかと悩んでいたところ、足下をチョロチョロっと動く影が。
「ネズミだ!」
サッと捕まえて、すぐさま丸焼き! からの、もぐもぐタイム!
こんな感じで、なんとか食べられるものを見つけてお腹を持たせていくんですね。
この、「いかにもサバイバルな過酷なものを飲み食いしつつ、それで保たせている間により良い食料や水分を見つけていく」というサイクル。
いわゆる自転車操業な、食いつないでいくプレイ。貧乏な生活からほんの少しずつ蓄え作っていくような展開。
それを繰り返しながら、少しずつ探索の範囲を広げていくというのが醍醐味なんです。
……実にサバイバルでしょう。
生きるのに必死になりますよ。マジで。
それだけに、まともな食料や飲み物を手に入れたときには、かなり嬉しかったりもします。
動物を見たら、
「肉だー!」
って声に出して反応するようになるほどです。
賢明な「MGS」ファンの人には、「メタルギアソリッド3」で何でも食べて、たまに吐いていたスネークを思い出させるものがあり、あれをよりゲームデザインの中心にしてシビアにした感じ……と言うとわかりやすいかもしれませんね。
言うなれば、これもまた「メタルギア」にあったエッセンスのひとつなんです。
もちろん脅威は他にもあります。
「ワンダラー」と呼ばれる、謎の生物に寄生されてまるでゾンビのようになってしまった元人間が、この世界にはたくさんいるんですね。
ワンダラーは、のそのそと近づいてきてこちらを引っ掻いたり、地面を這ってこちらの足にしがみついてきたりと、実にゾンビ的。
ワンダラーに見つかったときは、「メタルギア」シリーズお馴染みの「!」サウンドからのCAUTION状態になりますし、ワンダラーから身を隠して追跡を振り切ったりしているときには、「あーなるほど、こういうところはしっかり『メタルギア』だなぁ」って思えます。
ワンダラーは動きがそれほど早くもないですし、普段はそれほどの脅威にはならないのですが、ワンダラーがうようよいる地帯で、腹減り、喉カラカラ、病気などが重なってくると、なかなかの追い込まれ感にパニックになるときもあったりします。
そのあたりのバランスも良い具合に厄介さで、これがうまくできてるんですよ。
ワンダラーの存在は、何か目的のものを求めて薄暗い建物の奥深くへと入っているときに、より脅威になります。
というか、そういうシチュエーションだと「メタルギア サヴァイブ」がホラーゲーム的なものに様変わりするんですよね。
薄暗いなかおそるおそる進んでいたら、通路を曲がったところにワンダラーがいてびっくりしたり、うめき声だけがずっと聞こえていて姿が見えないときには恐怖が倍増したり。
「メタルギア」というより「バイオハザード」をプレイしているような気持ちになってきたり。
はたまた、床に倒れているワンダラーが完全に死んでいるように見えるものの、
「お前は死んだふりしてるけど近づくと襲ってくるに違いない! まるっとお見通しだ!」
と、「ダークソウル」シリーズで経験したことが活きてきたり。
「メタルギア」シリーズの土台のなかにいろんな面白さが詰め込まれています。
また、そういうおっかなびっくりで遅々として進めていると、食料や水が足りなくなってきて、焦りはじめるということも起きてくるわけで、
そのあたり、いい感じにゲームデザインの良さが噛み合ってかけ算になっています。よくできてる。
慣れてくると、プレイはだんだん計画的になってきます。
プレーヤーのプレイスキルが上がり、サバイバル生活が上達してくるんですね。
「今、空腹が○%、水が○%だから、次のこの目的地に行って帰ってくるなら、もう少し食べて満腹にしておいた方が良い……ここに何か動物がいるみたいだから先にこっちに行こう!」
といった感じに、手持ちの食料類(特定のエリアでは酸素もおなじく有限になります)を確認してサバイバルプランを立てていきます。
こんな感じに“常に生存するために考え続けるゲーム”に変貌していくのですが、
それがまたプレイの密度を高めていくんです。
食料調達をして飲み食いしつつ目的を達成していくという、演出的なところからすると地味ですらあるんですけど、プレイ内容と体験は非常にゲーム的な手触りがあるもので、かなり濃いものになるんですよ。
それが実に面白いんですね。
僕は「メタルギア サヴァイブ」をプレイしながら、だいたい2~3時間おきぐらいに、「このゲーム本当に面白いな……」って呟きながらプレイしていたぐらいです。
ちなみに、そうした苦しいなかをヒィヒィ言いつつも、目的を達成していくのが面白い本作ですが、積み重ねていくと、だんだんといろんなものが充実していくんです。
その頃には、醍醐味と言えるものに「拠点を充実させていく」というものが加わってくるんです。
こちらも賢明な「MGS」ファンの人ですと、「メタルギアソリッド ピースウォーカー」や「MGSV:TPP」にあった、マザーベースを拡張していくものを思い浮かべてもらえると分かりやすいところ。
もちろんあくまで「メタルギア サヴァイブ」のサバイバルテイストのなかでやっていくものにはなるのですが、そういう充実感から、さらに「あれも作りたい、これも作りたい」が加速していくようになっています。
そこにたどり着くと、よりこのゲームが「メタルギア」シリーズのいろんな要素を、サバイバルという軸で再構築したものだというのが実感としてわかるようになっていきます。本編シリーズに影響するようなストーリー周りとしてのことではなく、あくまでゲーム性のところを活かしたアプローチという意味で、ですね。
とまぁ、こんな感じでして。
なかなかに変わったゲームで、「これはメタルギアかどうか」というのはどうでも良くなるというか、ある程度プレイしていくと「でも確かに色味や角度が全然違うけど、これは『メタルギア』だ」と感じるところもたくさんあって、プレイ前に抱いていたいろいろなものが変わっていきます。
独特なゲームになっていて、それがまた魅力。
あの日、あのとき、あの場所で。ワームホールと出会った兵士の異世界サバイバル生活。
「メタルギア サヴァイブ」、オススメですよ。
ではでは、今回はこのへんで。また来週。