山村智美の「ぼくらとゲームの」

連載第132回

ゲームを好きでいる理由を改めて気づかせてくれる「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」の話

この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。

僕らの住むこの世界では、たまに素敵な未来を感じさせてくれるゲームが現われて、僕たちを夢中にさせてくれるから、ゲームを好きでいる気持ちに終わりはいつまでもいつまでも訪れないんですよ。

先週10月4日に、PlayStation VRの期待作「ASTRO BOT:RESCUE MISSION」が発売されました。ソニー・インタラクティブエンタテインメントのJAPAN Studio ASOBI! Teamが手がける新感覚アクションですが、

各方面から「これはすごいゲームだ!」的な絶賛の感想が出ていますので、「PS VRは持っていないけど評判を見てちょっと気になっているんですー」という人も結構いるのではないでしょうか?

一方で、高評価が並ぶのをみて「ちょっとおおげさなんじゃない?」って懐疑的になっちゃうという人もいるかもしれませんよね。実際のところ僕もプレイ前は、「どのあたりにそんなに高評価されるようなところがあるんだろう?」と、不思議に思ったものでした。

そんな感じで、わりと慎重に「ASTRO BOT」を触れていったわけですが、

プレイしてみると前評判の高さにもすぐに納得。

「ASTRO BOT」はゲームの歴史の中でたまーに現われる、「新しい未来が到来したのを実感できるゲーム」だったんです。

新しい未来の訪れ。

今までに感じた事のない体験との出会い。

ゲーム好きの大好物とも言えるそれらに「ASTRO BOT」は満ちていて、もちろん僕もそれが大好きで、夢中で「ASTRO BOT」を楽しんでいます。

「ASTRO BOT」は、主人公アストロを操作して、ジャンプで障害物を乗り越え、パンチで敵を倒しつつゴールを目指すそんなステージクリア型のゲーム。ジャンル的にシンプルな言い方をすれば、「ジャンプアクション」です。

ジャンプアクションと言えば、「スーパーマリオブラザーズ」に代表される2Dアクションから始まり、「スーパーマリオ64」では3Dへ。奥行きのある3Dグラフィックスの世界になったことで、いろんな新しいアイデアが盛り込まれ、プレーヤーに新鮮なプレイ体験を与えました。

そして、2Dと3Dがあったジャンプアクションの次のステップ、もうひとつの広がりとして、「VRの世界でジャンプアクションを作るとどんなゲームが生まれるのか?」をやっているのが、この「ASTRO BOT」なんです。

そこには、2Dから3Dになっていろんなアイデアが生まれていったのと同様に、VRだからこそのアイデアがたくさん込められています。

VRの特徴と言えばなんといっても、360度の視界の全てが3D立体視で見えて、自分の周りに空間が存在するかのように感じられるところが魅力ですが、「ASTRO BOT」の魅力もまずそこにあります。

ステージが立体空間で広がっていて自分はそこを自由に見回せますし、手に持っているコントローラーのDUALSHOCK4もゲーム内に常に表示されるので、実際に自分がそこにいて、DUALSHOCK4を手に主人公アストロを見守っているというスタイルになっています。

従来のタイトルだと、プレイに集中し没入しても3D空間の世界を平面で覗き込んでいるというところを越えるのは難しかったですが、VRなら箱庭のような空間の中に自分がいるという境地まですぐにたどり着けます。

今から進んで行くステージが広がっていて、そこにアストロと自分がいる。

自分の見えている同じ空間の中に、目の前にジャンプしたりパンチしたり綱渡りしたり敵にやられたりのアストロがいて、あくまで自分が操作しているものの、どこか2人で一緒にステージを進んで行っているかのような、不思議な一体感が味わえます。

VRならではなところとして、カメラワークを自分の顔の向きでできるところ、そしてそれを上手くゲーム性に活かしているのも「ASTRO BOT」の面白いところ。

基本的には自分が操作しているアストロを見ているんですけど、顔を向ければ好きなところを見ることができるので、例えば後ろを向いてみるとそこには助けるべき仲間がいたり、上を見上げたらそこにも隠れていたり。

ちなみに、いろんなところを見回しつつ同時にアストロの操作もしていると、アストロの姿を見失ってちょっと慌ててしまうなんていうことも起きます。それ自体は不便と言えば不便なんですけど、ちゃんとアストロと自分がそれぞれ独立しているのが感じられて、それぞれの存在感が出るんですよね。、

ステージ構成においても、正面からは見えないけど、体ごと前に乗り出して覗き込んでみると足場が見えるところがあったりして、自分の動きで視界を変えられるVRヘッドセットの特徴をゲームの仕掛けに組み込んでいます。

ゲーム内の視界をコントロールするカメラワークというのは、従来のゲームだと重要な要素だったわけですが、VRでのジャンプアクションなら、自分の顔でやることであって、それが新しい面白さや仕掛けも生んでいるというわけなんですよね。

アストロを操作しつつ自分の見やすい角度や高さに体を向けているとき、もうそれはアストロと自分がコンビでゲームの世界を攻略しているよう。

そんな新感覚が生まれます。

見づらいところも、自分が顔を近づけて覗き込むようにすればいいという、VRならではの発想で作られています
プレーヤーはカメラのような装置でアストロを追っているのですが、画像のようにそのカメラを攻撃してくる敵も。こういう敵の攻撃を頭を振って避け、頭突きして倒します

アストロと自分のコンビプレイというのは他にもいろいろあって、特に、ゲーム内にも常に位置がトレースされて表示されているDUALSHOCK4がポイント。

例えば、DUALSHOCK4からフック付きロープを発射して、遠くの足場に繋ぎ、そこにアストロをジャンプして乗せて綱渡りさせていくという場面もあったりします。まさに2人の共同作業といったところですが、そのときにDUALSHOCK4を上に振ってアストロを空中にはねあげることも! それで飛んでくる敵を避けたり、上空のコインを取ったりなどなど、うまくジャンプアクションの楽しさに組み込まれています。

DUALSHOCK4からロープを発射して、そこをアストロが綱渡り。手に持っているコントローラーとゲーム内キャラクターとの協力プレイ

敵が蹴ってくるサッカーボールを、自分の頭の動きでヘディングして跳ね返したり、アストロが進むのに邪魔になる壁を頭突きで破壊したり、アストロが持ったボールを投げる目標を自分の目線で示したり。また、PS VRにはマイクも搭載されているので、タンポポの綿毛に「ふーっ」と息を吹きかけると、マイクが息を拾って、綿毛が飛んでいったりもします。

そういう、アストロだけでなく自分もそこにいるという要素をふんだんに取り入れていて、それがジャンプアクションのゲームにVRならではな新しい面白さを加えているんですよね。

自分がゲームの中にいるという感覚を作りやすいVRだからこそ、カメラというか視界を変えるのは自分、主人公キャラと協力するのも自分。一緒に世界を冒険する。そんな新境地にたどり着いています。

視線で敵を指定して、アストロにボールを投げさせる!
フーッと息を吹けばタンポポの綿毛を飛ばすこともできる

ちなみに、従来の3Dグラフィックスでのジャンプアクションというと、どうしても距離感の掴みづらいシーンがあったりもするのですが、全てが立体に見えるVRなら距離感がより自然に掴めるというのもメリットのひとつですね。

ここまでに紹介してきた以外にも、ジャンプアクションとしての出来やバランス感覚も非常に良くて、コイン集めや隠れた仲間探しといったステージ内探索に比重が置かれつつも、しっかりと難所があったり、プレーヤーの操作リズムを見越してちょっといじわるな感じの敵配置もたまにあったりと、適度な歯ごたえも。

グラフィックスのクオリティはPS VRタイトルの中でもおそらく最上位クラスで、目の前に広がるステージとともに景色の美しさを楽しめるシチュエーションも豊富。冒険の見せ方や演出も優れていますしVRの立体空間だからこそ迫力も出ていますね。楽曲のキャッチーさと盛り上げの上手さもポイント。

隅から隅まで丁寧に作り込まれているのをどの場面でも感じることのできるゲームに仕上がっています。

……なんだかすっかり、「これはコラムというよりレビューなんじゃないか」という感じになってきましたが。

いろいろと「ASTRO BOT」の良さをお伝えしていきましたが、なによりも最大の見所は、

“VRならではの3Dジャンプアクションゲームという未知の楽しさ”

が、そこにあるということですね。

ゲームの歴史の中には時に、「その作品が後にいろんなものに影響を与えた」というものや、「それまでのジャンルの常識を変えた」というものが出現したりしますが、

「ASTRO BOT」は、3DジャンプアクションというジャンルはVRというフィールドでどう進化するのか。そのひとつをお手本のように見事に示していると思えます。

ゲーム好きとしては、こういうゲームに出会えて驚かされるのが何よりも嬉しいことですよね。

何かがここから変わっていくかのような革新の気配、

新しいものが現われてきた嬉しさ、

また味わったことのないプレイフィールの感触、

ゲームを好きでいる理由。

気になっているという人はぜひ手を出してみてもらいたいなと思います。

ではでは、今回はこのへんで。また来週。