山村智美の「ぼくらとゲームの」

連載第99回

プロゲーマーのライセンスということ、梅原さんの講演のこと、僕たちの過ごした季節がスポーツになる話

この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。

今週は、みなさんも連日連夜遊びこんでいるであろう「モンスターハンター:ワールド」の話題を……と思っていたのですが。僕がこの1週間ずっと考えこんでいたのは“プロゲーマーのライセンスってどうなんだろう?”というものであり、そっちの話です。

いや、もちろん「モンハン:ワールド」もやってるんですけどね。

「モンハン:ワールド」をプレイしているときだけはそのことを忘れて明るく楽しく過ごし、それ以外の時間はライセンスの話をぐるぐると考えている感じでした。

Japan e Sports Union、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU、ジェス)が発足されました

ご存じの方も多いと思いますが、2月1日に、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU、ジェス)が発足されました。

ジェスというのは、Japan e Sports Unionの略。日本国内のeスポーツ振興を目的とした統一団体で、

コンピューターエンターテインメント協会(CESA)
日本オンラインゲーム協会(JOGA)
日本eスポーツ協会JeSPA
e-sports促進機構
日本eスポーツ連盟JeSF

という国内のゲーム産業、協会、eスポーツ団体が1つにまとまった組織です。

このジェスの理事には、セガホールディングス、カプコン、コナミデジタルテンタテインメント、ガンホー・オンライン・エンターテインメント、Gzブレイン、電通、SANKOより、主に代表取締役社長の皆様が入っておられます。

そして、このジェスが具体的には何をするのかというのが、

「プロライセンスの発行」

なわけです。

現時点でのプロライセンス発行予定タイトルは、

・「ウイニングイレブン 2018」(コナミデジタルエンタテインメント)
・「コール オブ デューティ ワールドウォーII」(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)

・「ストリートファイターV アーケードエディション」(カプコン)
・「鉄拳7」(バンダイナムコエンターテインメント)
・「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンライン・エンターテイメント)
・「モンスターストライク」(ミクシィ)

となっております。

まぁ、あのー、このタイトルにもネット上では様々な声や反応が見られるわけですが、理事の皆様の会社から考えると、まずは理事の皆様の裁量ですぐに実現できるタイトルが、まずは入っているという感じでしょうかね。今後にはそのタイトルも増やしていくということですから。

あと、「パズドラ」、「モンスト」といったスマホアプリがリストにあるのに違和感を覚えるという声も見かけたのですが、

これについては、「パズドラ」なんかは単独でスコアアタックの全国大会(レギュレーションは使用キャラのチーム固定、使用する端末も試合用に用意したもので固定)を行なってきていますし、

「モンスト」も同じく、レギュレーション固定での4人1チームで、指定ステージのクリアタイムを競うという形式の全国大会をこれまでに何度か行なってきています。

そう考えると、例えば「ぷよぷよ」シリーズの全国大会に近いような、パズルジャンルの大会的な捉え方をすると、ありなんじゃないかなーって思えるのではないでしょうか?日本ならではのタイトルをサポートするっていう意義で考えると、むしろいかにもなタイトルだとも思えます。

このほか、ジェス発足にあたっての今後の展望や詳細については、以下の記事をご覧ください。

□「日本におけるeスポーツ発展の大きな一歩」 日本eスポーツ連合(JeSU)発足
ゲーム業界全体でeスポーツアスリートの育成、支援、地位向上を目指す
https://game.watch.impress.co.jp/docs/news/1104342.html

ここまでは、ジェス発足の記事などを見た人ならご存じな話や見解ばかりなわけですが、翌日の2月2日には、早速「ストリートファイターV アーケードエディション」のプロライセンス発行推薦というものが公開されました。

これまでに「ストV」プレーヤーとして実績がある選手をカプコンから先駆けて推薦するということなんですね。

ですが、ここには「『CPT 2017 100位 以内の日本人選手』を推薦の基準としました。対象者の22名の内、21名の方が、本施策に関して賛同いただけました。」という記述がありました。

この推薦基準に当てはまるなかで、「ももち」選手こと百地祐輔氏だけが賛同しなかったということであり、格闘ゲームファンの間に大きな物議をかもしました。

そもそも百地祐輔氏は昨年末に「日本国内におけるプロゲーマーのライセンス制度について」という、自身の考えをまとめた声明を公開していて、その中には、「なぜ新設される予定の特定の団体に“プロを定義”する資格があるのか」という、誰もが少しは思っていたことをズバッと指摘されていたりもします。

こうした流れがあっただけに、このジェス発足までに話し合いの折り合いはついたのかを気にかけていたのですが……。今現在はこういう形になっているということですね。

百地祐輔氏が昨年末に公開した「日本国内におけるプロゲーマーのライセンス制度について」。いろいろな方向からの考えがまとめられています

百地祐輔氏がまとめている言葉を読んで僕は「気持ちはすごくわかる」と思ったんです。

以前にこの連載で少し触れましたけど、僕もかつては「バーチャファイター」系の3D格闘ゲームを中心に、生活の全てを注いでほぼ毎日のようにゲーセンにいて、どこかで大会があると聞けば片っ端から出ていた大会ガチ勢でした。

そんなわけで、こと格ゲーについてはプレーヤー目線、ユーザーコミュニティ目線に気持ちが入るところのある僕でして。それを抜きにしたって、昨今のeスポーツという盛り上がりよりもずっと前から、格闘ゲームは主にユーザーコミュニティ、アーケードシーンでの支えや盛り上げで繋がってきたものなのですから、特にこうしたもやもやとした気持ちが生まれるのは当然かとも思うんです。

「ライセンスなんてなくても、いつでも自分の全存在をかけてプレイしてきましたよ。」

って、もし僕だったら、一言ぐらい言いたくもなるんじゃあないかなって。

そこには、「プロゲーマーってなんだろうね?」っていう、そもそも論も絡んでくるのだと思いますし、それを誰が決めるべきなのか。本当は、誰も決めないほうが上手くやっていけることだったのかもしれません。

一方で、カプコンの「ストリートファイターV アーケードエディション」エグゼクティブプロデューサー小野義徳氏は「JeSU認定のプロライセンス発行タイトルに認定されたことをうけて」というタイトルで、自身の考えを伝えています。

ぜひ、興味を持った人には誤解のないように全文お読み頂きたいのですが、その中では「個人的には、ゲームをプレイすることやゲーム大会に参加することに、そもそもライセンスは必要無いと思っています。」という言葉も早い段階で出てきます。

ただ、そうは言っても「日本は海外と事情が異なるところがある」ということ、「ライセンス保持者には、日本のカプコンから問題なく賞金提供を行なうことができるようになる」ということ、「ライセンス非保持の日本人に対しては、日本のルールに則り賞金提供には上限が設定される」ということなど、プロライセンス制度を設けることで、特に賞金周りについて実現可能になることがあるということが伺える内容にもなっています。

また、終わりには、選手、ファン、コミュニティの活動を阻害しないという一文で締めくくられているというものになっています。

……これが一連の流れとなるのですが、いかがでしょうか?

僕は約1週間ほど考え続けたのですが、くっきりとした明快な答えはまだ持っていません。すいません。投げっぱなしで本当にすいません。

ただ1つパッと思ったのは、「とりあえずライセンスをもらっておいて、なんかおかしいなって思ったら返せばいいんじゃないかな!」っていう、割とあっけらかんとしたやつです。これに行き着く人は多いでしょうし、おそらくバランスの取れた考え方だと思います。実際のところ、この後に紹介する梅原大吾選手も、この考えを話しています。

もうひとつは、僕が自分に対して思ったことなのですが、もし、もし、何か日本のeスポーツやゲームシーンの様子がおかしいな、このままじゃ悪いことが起きるんじゃないかな、ってなったときには、僕みたいなゲームメディアの人が「こんなん良くないですよ!」ってはっきり言わないといけないよねってことです。

もし日本のeスポーツシーン、ゲームシーンが風邪を引いた、もしくは引きそうなら、メディアで働く人は風邪薬にならないといけない。

そんな風に思っています。

なので今回のことも、今も慎重にみています。

……ただ、風邪薬の出番なんて来ない方がもちろんいいので。「一生出番が来ないといいな!」って思ってます。思ってますよ。

今週には闘会議2018でジェスによってプロライセンスが発行される大会が開催され、東京ゲームショウ2018でもイベントを開催予定とのこと。日本での大会はこの流れが増えるのかもしれません

僕がそんなことをウダウダとループ気味に考え続けている中、日本人プロゲーマー第1号の梅原大吾氏による、「自分の人生を生きる『たかがゲーム』と言われても」という講演が開かれました。

約40分の梅原選手の話に、受講者からの質疑応答もあり、この内容が大変に優れていたんですよ。

この講演はTwitchのBeasTVにてアーカイブを視聴できますので、ぜひご覧頂きたいなと思います。講演の中では、今回のプロライセンスというものについて直接触れている話もありますし、そうでない話にも、まわりまわって今回のことの答えとなるような話がたくさんあります。

daigothebeastvの自分の人生を生きる -たかが「ゲーム」と言われてもー Daigo Lecture at NHK Bunka Centerをwww.twitch.tvから視聴する

いろいろ楽しい話が満載なんですけど、個人的にグッときたのは質疑応答での、

「eスポーツの盛り上がりに、ちょっとバブル的な部分もあるようなところが僕の中にあるんです。今後、梅原さんの中で、プレーヤー目線なりでこうしていけたらいいのでは、という道筋や案はありますか?」

という質問に対して梅原さんが、どちらかと言うと個人的な思い入れを回答したところでした。

梅原さんは、

「今のeスポーツの動きっていうのは、プロゲーマー1号としてではなくて、僕の個人的な意見になっちゃうと思うんですけど。正直に言うと、ありがたいんだけど……1番楽しかった時期が終わっちゃったのかもしれないなっていう寂しさは正直あります。

RPGでも、僕は『これがラスボスか』ってわかると、エンディングは見なくてもいいかなと思って辞めちゃうことがあって。それがいろんな事に対して当てはまるんですよね、自分の場合。

なんというか……2010年からプロゲーマーという仕事を広めようとか、格闘ゲームの良さを広めようとやってきて、その道中は不安もあったけど、すごく楽しかった。やりがいもあった。

それこそ、獣道。
舗装されていない獣道を歩いていた。

これから先、そういう大きな力が動き始めると、もう開拓っていうのはさせてもらえないなって思うんですよね。まわりが勝手に動いていって、いろんな制度が出来て。その中で自分がどう生きていくかっていうことになるので。

いつかはこういう時が来るだろうなとは思っていましたけれど、自分の中で大冒険をしていたような気分があったんだけど、1番楽しい時期は終わりを迎えつつあるのかなって思っています。」

と答えました。

ゲーセン文化、ストリートシーンから始まった格ゲーというものが、日本でも本格的にeスポーツという名前のくくりになっていきます。

もしかすると、ひとつの季節が過ぎ去ろうとしているのかもしれません。

僕も「ちょっと寂しいかな……」って不思議と思うときがあるんですけど、その先には新しいものが生まれてくるんだろうなって思います。

何かに本気で挑むということ、今の自分にとって1番大事なものはこれなんだと全てを投げ打って挑むということは、その後の人生にとってとても大切なものになります。そして、それはこれからも変わらないのだと思います。

プロライセンスというものや舗装された道によって、今までよりももっと本気で挑むことがしやすくなるのなら。ぜひ、特に若いゲーム好きの人に。自分がどれぐらいやれるのか、何者なのかを、人生に1度だけで十分ですので。試してみてもらいたいです。

僕もかつてそれをやりました。僕なりにでしたが。やって良かったです。

この講演で何を話すかを歩きながら考えていたら1週間で175kmも歩いていたという梅原大吾氏。たくさんの人に、講演のアーカイブを見てもらいたいと思います

ではでは、今回はこのへんで。また来週。