山村智美の「ぼくらとゲームの」

連載第137回

「テトリスエフェクト」でボクらが旅に出る理由の話

この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。

プレイしていると、「ずいぶん遠くまで来たなぁ」っていう気持ちと「……どこまで行けるのかなぁ」っていう気持ちに、ふとなるんです。

この11月はブラックフライデー期間(11月第4金曜日あたり)周辺に海外AAAクラスのタイトルがひしめき合っていて、秋の夜長をいくら費やしても遊びきれないといったところですが、

そんななか、ボクがそれらタイトルの合間にちょこちょことプレイして心地良さを得ているのが、

「テトリスエフェクト」。

11月9日に発売となった、水口哲也氏の率いるEnhance Gamesの最新作ですね。

体験版や製品版で実際にプレイされて、「テトリス」という誰もが知るパズルをここまで新しい感覚で楽しむものしていることに驚かれた人も多いと思います。もちろんボクもその1人。

これまで2度ほど水口哲也氏にインタビューさせて頂いて、「テトリスエフェクト」はどういうゲームなのかということをお聞きしてきたわけですが、

そこで浮かび上がってきたのは、“旅”、“感情を揺さぶるエモーショナルな試み”、“テトリス効果と呼ばれる癒やし”、“本質的な気持ち良さの探求”というものでした。

既にプレイした人なら、なるほどなーと納得されるキーワードばかりと思うのですが、なかでもボクが魅力に感じていて、その中身にいろいろな意味を感じているのは“旅”という言葉。

「テトリスエフェクト」にはジャーニーモードという、文字通りいろいろなロケーションのステージを旅するようにプレイしていくというモードがあるわけですが、

その見た目にもわかりやすい旅という構成のことだけではなく、プレイしているときの体験、感覚、心の動きそのものが「旅」のように感じられるところが、ボクにはあったんです。

テトリミノを回転させた時の音で、自然とBGMに合うようなリズムを作りつつ、ゆったりと余裕を楽しむようなスタートから、

だんだんと「テトリス」のプレイに意識が集中していき、めまぐるしくエフェクトが瞬いて、景色が移り変わり。

自分の視界はあくまで「テトリス」の枠に向けられていて、意識もそこに集中しているけど、その周りに映っている景色や、輝く光、プレイのリズムを無意識に作ってくれているBGMが「テトリス」に集中している意識を包み込んでいるというような。

テトリスに向き合う自分がいてて、その周りに世界と音が広がっているというような独特の感覚。

もちろん、景色がまったく目に入っていないわけではなく視界には入っていて、ふとした瞬間瞬間にハッとさせられながらプレイを続けて。

途中、BGMの盛り上がりとともにテトリミノの落下速度が加速していき、それを乗り越えると、また落下速度が緩やかになったので、そこで心は一息ついたんです。

その時にふと、

「……今まで、いろんなことがあったな」

っていう気持ちになったんですね。

プレイのことではなくて自分自身のこと。人生のこと。

おそらくそれは、「テトリス」に集中していて余計なことを考えていない、ある意味で無防備な意識を、音と光、落下速度の速い場面とそこを乗り越えた達成感と安堵という緩急が揺さぶり。そのあとに背景の景色を見て、

「ずいぶん遠くまで来た気がするなぁ……」

という感覚になって。そこから、自分自身を振り返るような感情になったのかなと思います。

そこに到達してから以降のプレイは、いわゆる「心の旅」でした。いろんなことを思い出しながら、ステージの景色を見て何かを思い出したり、その季節感から何かを思い出したり。

ずっと「テトリス」のプレイに集中しながら、自分が歩んできた人生という旅の振り返り。

音楽が感情を揺さぶり続けて、

「次はどんなステージかな」っていう期待と「今のステージ良かったな」っていう気持ちが、

自分自身への“これからの期待”と“これまでに過ぎていったことへの寂しさ”が同居しているような感情へとリンクしていって。

ジャーニーモードを通しでプレイし終えたときには、これまでのいろんなことへの整理がついたような。旅をして自分を見つめ直したような。そんなすっきりとした気持ちになっていました。

ゲームプレイで楽しさの感触を得ながら、エフェクトの美しさに心を晴れやかにしたり、揺さぶられた感情から自分のことやこれからのことを考えたりしながら。

ゲームがいろんな感情や手触りを与えてくれて、それが楽しくて、楽しみで、そして毎日はつづいてく。

人によって何をどう感じるかは様々ですが、「テトリスエフェクト」が見せてくるいろんなマテリアル(素材)に心や記憶がひっかかる何かを持っていればいるほど、よりいろんな感情になれるのではないかなと思えます。

そういう意味では、すごく大人向けのゲームという一面もあるかもしれませんね。

一方で若いゲームファンの人ならシンプルに音楽の魅力に委ねて、エフェクトの美しさやリズムの気持ち良さに没頭できるのではないかなとも思います。

「ルミネス」や「Rez」が好きな人は言うにおよばず、「テトリス」が好きな人、「どこか遠くまでいきたい」という気持ちがどこかにある人。そんな人に「テトリスエフェクト」おすすめです。

ではでは、今回はこのへんで。また来週。