山村智美の「ぼくらとゲームの」

連載第98回

ついに日本で開催!格ゲーの祭典「EVO Japan 2018」を3日間たっぷりと楽しんだ話

この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。

世界最大の格闘ゲームの祭典「Evolution Championship Series」。その初めての日本開催となる「EVO Japan 2018」が、1月26日より28日までの3日間に渡って開催されました!

この「EVO Japan 2018」では、

・「鉄拳7」
・「GUILTY GEAR Xrd REV 2」
・「THE KING OF FIGHTERS XIV」
・「BLAZBLUE CENTRALFICTION」
・「ストリートファイターV アーケードエディション」
・「大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U」
・「ARMS」

上記7タイトルで公式トーナメント戦が行なわれ、その全エントリー数は約7千近くと大盛況となっておりました。

また、その他のタイトルでもユーザー主導のサイドイベントが多数開催されて盛り上がっていたのが印象的で、まさに格ゲーのお祭りそのもの、夢のような光景を生んでいました。

配信で試合を観てたっていう人も、いずれかのタイトルに参戦したっていう人も、試合には出なかったけど現地に観戦に行ったっていう人も、誰もが熱くなれた3日間だったのではないでしょうか?

僕も3日間がっつりと現地で楽しみましたので、その模様をお伝えしていきましょうー。

まずは1月26日の「EVO Japan 2018」初日。

予選会場となった池袋サンシャインシティは、1番早い組の予選開始となる朝9時の時点から多くの参加者や応援・観戦の人で埋め尽くされていて、かなりの熱気に包まれていました。

すぐに感じたのは、海外からの参加者の多さですね。誰もが知る有名な海外プロゲーマークラスの人ではなくて、腕を磨いてきた海外の格闘ゲームファンと思われる人が、想像していたよりもずっと多く見られました。

そのあたりに「EVO」シリーズの大会ならではというか。日本の大会ではなく“世界大会の日本開催”なんだということを、実感しました。

日本開催なので、韓国、台湾、香港あたりのアジア圏のプレーヤーが参加しやすいというのもありますよね。

海外プレーヤーの姿が非常に多く、“世界大会の日本開催”を実感できる光景となっていました

そんななか僕はというと、あくまで取材であり観戦のみの立場なので、さすがに予選の初日朝1番から行かなくても……というところではあったのですけど、

実はAV Watchの連載「西川善司の大画面マニア」や、ゲームの3Dグラフィックスの技術解説などで知られるテクニカルライターの西川善司さんが「ストリートファイターVアーケードエディション」部門に出場していて、それが1番早い朝9時からのプールAだということで、その応援に駆けつけたんですね。

また、ネット配信番組「インプレスeスポーツ部」で「ストV」プレイ企画をされているPC Watch編集長の若杉紀彦さんも「ストV」部門に出場しており、やはり朝9時からのプールAになったということで、そちらの応援も。

……特に西川善司さんはゲームファンでなくともご存じな人が多いでしょうし、「EVO Japan 2018」に出場しているなんて意外に思われるかもしれないですが、善司さんはバルログをメインキャラに、日本にいるときは毎夜のように配信しながらランクマッチにいそしんでいたりするんですよ。

試合の結果はというと、お2人とも1、2勝はしたものの最終的にプールを抜けることはできず、ラウンド1で敗退となってしまいました。

ただ、大会で試合をした経験はやはり刺激的だったようで。後日、善司さんのランクマッチ配信は以前にも増して熱のこもったものになっていました。

……大会に出て、勝つことの嬉しさと負けることの悔しさを知って。それが本当の格ゲープレーヤーの道への第一歩と言えるかもしれませんね。すんごい楽しくて、すんごいヘビーな、楽しい格ゲー天国&地獄の始まりです。

「西川善司の大画面マニア」や3Dグラフィックスの技術解説などで知られる西川善司さん。バルログ使いです
PC Watch編集長の若杉紀彦さんも「ストV」部門に出場してました

初日ですと、モニターだけが用意されていたBYOCエリア(By Your Own Console……
ゲーム機持参してきてねって意味だそうです)で、PS4とソフトとコントローラーさえあれば、自由に対戦なり練習なりができました。

「ストV」ですとアーケード筐体版がないので、ほとんど多くのプレーヤーにとっては、こうしたオフラインの場で顔を合わせて対戦するという機会がないんですよね。

それだけに、「EVO Japan 2018」のBYOCエリアでは、そうしたコミュニティの楽しさ、しかも海外のプレーヤーもそこらにたくさんいる世界レベルの格ゲーコミュニケーションが楽しめたというのが、それだけでもすごく貴重で、なにより楽しい時間になったのではないでしょうか?

さてさて、日をまたいで2日目になりますと、有名どころのプレーヤー同士の激突がみられるようになり、初日のなごやかな様子も、グッと引き締まってきます。

平日だった前日とは違って土曜日ということで、人の入りも初日の数倍。

トイレや水分補給のための移動にも苦労するほどのとてつもない賑わいに。

そんな、クラクラするほどの熱気のなか、熱戦が続きます。

「ストV」的には約1週間ほど前にアーケードエディション、いわゆるシーズン3という大型アップデートが入った直後に行なわれた大きな大会がこの「EVO Japan 2018」だったわけで、格ゲーマー的には実はそれは荒れる予感というか、「何かやばいのあるんじゃない?」ってなるんですよね。後にもう少しアップデートで調整されるような要素が見つかって、大会で猛威を振るうのでは的なことです。

各キャラの性能の変化が影響したのは言うに及ばずですが、個人的には、ソニックの撃ちわけの巧みさが最大の武器である梅原選手のガイルを相手に、Humanbomb選手の春麗がみせたソニックくぐりVトリガーII気功掌コンボ、そして最終ラウンドの気功掌崩し後から粘って逆転していく展開は、新要素が見せたドラマでもあり、TOP32あたりのベストバウトでした。Humanbomb選手の素晴らしい集中力と折れずに攻める気持ちの強さ。すごい。

もうひとつはやっぱり、ギャラリー全体が静まりかえる場面すらあったアビゲイルの猛威でしょうか。えぇ。

そんな波乱の多そうな状況ではあったのですが、結果として最終日のファイナルへと進んだのはやはり名だたるプロゲーマー揃い。短い期間でどれぐらい新しいバランスや要素に対応できるかという点でも、強さを見せたというところだと思います。

さぁ、会場は秋葉原UDXに変わって3日目、最終日です。

個人的には「鉄拳7」の挑発ジェッパすごいぜとかも書きたいんですけど、あれこれ寄り道しているとこの記事いつまで経っても書き終わらなくなっちゃうので……。すいませんが、「ストV」に絞ります。

ウィナーズサイドの試合では、やはりラシードを使う竹内ジョン選手の若さ溢れる反応の速さ、差込みとヒット確認からの正確さ、それらが支える強気さに驚かされました。すごいすごいと評判の選手でしたが、今大会で一気に知名度を高めたのではないでしょうか。

続いて登場したのは、攻めも受けも強いけど、体力リードからの巧みな対応になるともうやってられない強さになるインフィルことINFILTRATION選手。メナトのトリッキーさとリーチを活かしまくって対応も完璧。そのプレイに、見ていて唸っちゃった人も多いのではないでしょうか。僕も唸りました。

ルーザーズサイドに移り、最初に登場したのは豪鬼のときど選手と、アビゲイルのストーム久保選手。アビゲイルのスーパーアーマーに弾かれ投げられ、ごっそり持っていかれ。続くラウンドでもアビゲイルの追い打ちたっぷり最大ダメージコンボ体力5割越えを目撃しちゃった会場全体には、「ときどでもトップクラスのアビゲイルは無理なのか……」という空気が広がっていきます。

誘い多めの動きでアビゲイルの隙を突いて削っていくときど選手ですが、その道のりは細かく遠く。EX1ミスでそれまでのリードを全てひっくり返されるという流れを失うようなラウンドもあり、いよいよときど選手はマッチポイントへと追い込まれます。

ですが、

誰もが「これは、ときど選手終わりだ……」っと思った残り体力わずかのところから、強気の昇竜、Vトリガー発動、跳びを斬空波動拳で落としてからの着地に……瞬獄殺!絶望的状況からのドラマティック過ぎる逆転に、会場からこの日トップクラスの大歓声があがります。

細い糸をたぐりよせてもぎとった流れを逃さない、ときど選手。その後のラウンドではジャンプ飛び込み>着地>垂直ジャンプで崩すという強気な誘いも混ぜ、ストーム久保選手に立て直すきっかけを与えないまま逆転勝利! その主人公感たるや、すごいの一言に尽きます。

ストーム久保選手のアビゲイルに絶体絶命のところまで追い込まれてから、大逆転をみせたときど選手

苦しい試合展開からのドラマティックな逆転という、最も勢いのつく勝ち方をしたときど選手は、Humanbomb選手を流れに飲み込むように倒してルーザーズサイドのセミファイナルへ。

一方、そこに上がってきたのは梅原選手のガイル。板橋ザンギエフ選手、MOV選手を倒し、十分に暖まった状態で、ときど選手との戦いに挑みます。

この組み合わせを大きな舞台で見たかったという人、たくさんいますよね。日本を代表する「ストV」プレーヤーを聞けば、おそらくこの2人がトップ2で名前があがるように思います。

そんな2人の試合ですが、お互いのプレイやクセ、考え方などを熟知しているゆえでしょうか、プレイに淀みがなく、ある意味ではキレイな組手のように見えました。この試合に限って言えば、ペースや流れというものも感じないぐらいで、互いに五分五分で、互いにその瞬間の最善手をギリギリの精度で出していて、ラウンドを取り、次は取られ。

何度見返しても、キレイな試合だなって思います。

それでも少しずつ、ほんのわずかな乱れ、梅原選手がそれこそ20数年前に「スーパーストリートファイターIIX」でガイルを使っていて、その頃から幾度もソニックを撃ってきた……その差でしょうか。不思議に喰らってしまうソニックが、ときど選手の表情を曇らせます。梅原選手勝利が決まったとき、ときど選手は自らを納得させるように頷きました。

板橋ザンギエフ選手 vs 梅原選手。板ザン選手が試合前の握手で手を伸ばすと、梅原選手が「あ、レッドブル飲む?」という感じでレッドブルを渡そうとする場面も
ときど選手 vs 梅原選手。多くの人が見たいと願っていたカードが実現!

ウィナーズのファイナルは、ジョン竹内選手 VS INFILTRATION選手。INFILTRATION選手はこれまで同様にメナトで挑みますが、ジョン竹内選手の反応の速さにラシードの速さが組み合わさると、メナトでは捌ききれないのか、懐に入られる場面が続き、ペースを掴めないまま、2試合を取られます。

ここで少し考え込んだINFILTRATION選手はキャラクターをジュリに変更!ジョン竹内選手のラシードに近いスピードでの差し合いへと戦い方を変えます。

このウィナーズファイナルの3試合目、画面端に追い詰められたINFILTRATION選手がジョン竹内選手の攻めを10秒近くガードし続けて、そこから逆転するというラウンドがあるのですが、試合を見返すと、そこに暗示めいたものを感じます。

ただ、このウィナーズファイナル自体はジョン竹内選手が勝利。

INFILTRATION選手は、ルーザーズの勝者である梅原選手との対戦へ。梅原選手のガイルに対して選んだのはメナト。ソニックを撃ちづらいメナトという引き出し、ラシードに対抗できるジュリという引き出しがINFILTRATION選手にあったことが、結果を左右した最後のポイントだったのだなと思えます。

梅原選手は善戦するもINFILTRATION選手にペースを先行されるラウンドが続き、苦しい展開を返せないまま、3試合を取られ敗北という結果に。

ついにグランドファイナル!ジョン竹内選手に再び挑むINFILTRATION選手は、今度は最初からジュリを選択。序盤こそ互角の展開になりますが、だんだんとINFILTRATION選手が体力リードし、ジョン竹内選手が詰めたところを的確に反応されるという場面が目立つように。こういう体力リードから的確な対応で処理されるという負け方が続くと、何も通用しないっていう手詰まり感を感じてしまいそうで、おそろしいですね……。

INFILTRATION選手が3試合勝利して、1度ジョン竹内選手に負けているぶんのビハインドをリセット!使用キャラはラシードとジュリのまま変わらず、試合展開はますますINFILTRATION選手がジョン竹内選手に噛み合っていくという流れが続き、グランドファイナルをINFILTRATION選手が制しました!

使えるキャラの相性もかみ合い、INFILTRATION選手がその引き出しの豊富さ、我慢強さで流れを作り、優勝を決めた

というわけで、日本で初めて開催された「EVO Japan 2018」でしたが、本家の流れ、熱気、そして名試合の数々と、まさに「EVO」の醍醐味をたっぷり味わえる3日間となっていました。

この夏には「EVO World 2018」が、そして「EVO Japan」についても来年にまた日本で開催するという宣言がされました。今年は現地に行けなかったという人も、来年はぜひ、この熱気を肌で感じてみてもらいたいなと思います。

全てのトーナメントが終わり、表彰式後には。3日間のダイジェスト映像をまとめたエピローグのムービーが上映されて、「EVO Japan 2018」はその幕を下ろしました
evoのEvo Japan 2018 - Street Fighter V Top 8をwww.twitch.tvから視聴する

ではでは、今回はこのへんで。また来週。