山村智美の「ぼくらとゲームの」

連載第118回

「オクトパス トラベラー」のデモを遅ればせながらプレイしたらものすごく良かったので褒め倒していく話

この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。

E3 2018からワールドカップへと、寝ている場合じゃないぜ的な日々が続きに続いて、気がつけばあっという間に7月です。寝不足を押して楽しんでいる人も多いと思われますが、だいぶ暑くなってきましたので無理のし過ぎは禁物ですよ。

さてさて、そんな7月に注目していきたいのは、スクウェア・エニックスから7月13日に発売となるNintendo Switch用RPG「OCTOPATH TRAVELER(オクトパス トラベラー)」です。

「オクトパス トラベラー」と言えば、6月15日にゲーム序盤を3時間プレイ可能で製品版へとセーブデータの引き継ぎもできる「プロローグ・デモ」が配信されていたわけですが、僕はその「プロローグ・デモ」を遅ればせながら今週にやっとこさプレイしたんです。

配信開始直後はE3期間中で鬼のように忙しいまっただ中でしたし、そこからのドタバタもあって、なかなかプレイする時間が取れなかったんですよね。

で、いざじっくり「プロローグ・デモ」をプレイしてみると、これが想像していた以上に良い感じだったんですよ。

……「プロローグ・デモ」をとっくに遊び倒したという人からの「知ってた」とか「おそっ」っていう声が聞こえてくるかのようですが!

今回はもう遅くなったぶんも褒めに褒めて、褒め倒してやりますとも!えぇそりゃもう。

「もう止めて、これ以上は褒め殺しになるからっ!」と言われても、

僕は「オクトパス トラベラー」を褒めるのを止めないっ!

というわけで、プロローグ・デモから感じた「オクトパス トラベラー」の良いところはたくさんありますが、

まずはその特徴的なグラフィックスですね。

「オクトパス トラベラー」のグラフィックスには、「HD-2D」と呼んでいるドット絵に3DCGの効果を加えたオリジナルな手法が使われているのですが、実際のところは3Dモデルにドット絵のテクスチャを貼って作り込んでいるそうで、むしろ手間がかかり、そしてセンスが問われる表現を用いています。

その味わいたるや、静止しているときには1枚のドット絵のようなのに、動くと何層もの3Dモデルの重なりが見えて、奥行き感が出てきます。スクリーンショットではなく映像で見てもらいたいグラフィックスですね。

同時に、被写界深度のエフェクトや、画面の四隅が暗くなる周辺減光、あえての焼き付け系な色使いなど、写真で用いられる技術も多く使って印象的なグラフィックスにしています。(被写界深度はピントがあっている前後のくっきりと見える範囲のこと。被写界深度の外はぼやけます)

一方で、エフェクトやパーティクルは最新のものを使っていて、ドット絵を光源で照らしたり動的なシャドウをつけたりと、手法を融合させた印象的な描写を作っているのもポイント。

川などの水の描写も無理にドット絵にはしておらず3Dモデルによるものにしていて、そうした適材適所な取捨選択もしています。

これは単純な3Dグラフィックスを手がけるよりも手間がかかるし、ひとつひとつに試行錯誤と取捨選択、そしてそのセンスが問われる仕事と思えます。

それだけにできあがったゲーム内の世界は、新しいとか古いといった捉え方とは全く異なる「ゲームのテイストに適した表現」に辿りついています。

ドット絵=昔、フォトリアル=最新、といった価値観はいつ頃からか僕の中からは消えて、どちらにも上も下も新しいも古いもなく、表現手法の選択肢だと考えているのですが、「オクトパス トラベラー」のこだわりと、その結果生まれたグラフィックスの味わいには嬉しくなるものがります。ゲームには新旧に囚われずに、もっといろんな見せ方や方向性があってもいいですし、むしろなくてはならないはず。それにはゲームファンの人たちの捉え方の革新も必要かもしれません。

「褒め殺す気かっ!!」っていう勢いで褒めたグラフィックスですが、それよりもさらに僕が気に入っているのは“楽曲”です。

これがまた、メインテーマからバトル曲、フィールドそれぞれの曲に、イベントシーンでの感情を呼び起こすものまで、どれもビビッとくるものばかり。

「オクトパス トラベラー」の楽曲を手がけているのは、かつてKONAMIで数々のタイトルの楽曲を手がけ、現在はフリーの音楽家として活動されているという西木康智氏。

どの曲も甲乙つけがたいんですけど、個人的には、「狩人ハンイットのテーマ」が自然と共に生きるハンイットの曲に、少し寂しげであり暖かさもあるピアノ伴奏の曲をあてているあたり、堪らないものがあります。

メインテーマの口ずさみたくなる鮮烈さ、バトルテーマの“プレーヤーの心にもブーストがかかる”ようなメロディーもすんばらしいです。

RPGとしての手触りもかなりいい感じ。キャラクターそれぞれのエピソードや、各所で発生するサブストーリーを、プレーヤーの気の向くままに進めていける自由度の高さが魅力。

そして、それがゆえにやり込みの深さもありそうで、その一部はすでに「プロローグ・デモ」でも見えてきています。デモに3時間というプレイ時間制限があるがゆえでもありますが、キャラクターごとのアビリティを活かしたプレイ順や育成次第で、同じ3時間でもガラッと変わっていきます。

自分で考え、システムを活かして工夫ができるRPGというのは、昨今だとなかなか難しく少ないですが、「オクトパス トラベラー」は、デモをプレイする限りそういう魅力を持っています。ただ、その先の製品版でもそういう魅力や奥行きが続くかはまだわからないので、期待するほかないわけですが。

バトルシステムも、「コマンドブースト」という攻撃回数を増やしたりアビリティの威力を高めることのできる要素があってそれをどのタイミングで使うかがポイント。敵の弱点になる武器や属性を当てて崩す「ブレイク」の要素もあるので、例えば、敵が強烈な攻撃を放つ構えを見てからブーストを使った攻撃で一気にブレイクさせて強烈な攻撃を止めるといったこともできます。コマンドバトルならではの戦略性が楽しめます。

デモをプレイする限り、バトルの難易度は思いのほかしっかり高めで決してぬるくなく、ちゃんと取り組めば乗り越えられるような達成感のあるものになっていたのも、個人的に嬉しいポイント。自分で考えやり込んでいきたくなるシステムだからこそ、尖ったバランスの方がより個性的で面白くなると思えます。

一方で、物語の見せ方や演出は、ドット絵テイストのグラフィックスやキャラクターだけに映像的な見せ方ではなく、テーブルトークRPG風というかテキストベースに伝えられます。

これについては僕のようにテキストを読むのが苦じゃなく、むしろ自分の読む速さでテンポを作れるし、描写に補完の味わいが出るから好きという人はいいんですけど、苦手という人だと……ちょっと好みが別れるかもしれませんね。

ただプロローグ・デモを見る限り、テキストのセンスやリズムも随所に良いものがあって魅力的でしたので、読むのが苦手という人にも取り組んでみてもらいたいなと思います。いいものに触れることで、そこから意識が変わっていったりするものですから。

とまぁ、そんなわけで遅ればせながらも、どうしても伝えたくなったプロローグ・デモで感じた「オクトパス トラベラー」の魅力。

褒め倒してみましたが、いかがだったでしょうか。

まだデモに手をつけていなかったーとか、どんなゲームかあまりチェックできていなかったという人も、発売まで1週間ちょいありますのでぜひ手を出してみてもらいたいところ。

いずれの要素にも光るものを感じているタイトルですが、特にサウンド面はもしかすると今年リリースされる作品の中でも1、2を争うものかもしれません。

僕も来週13日の発売までに、もっとプロローグ・デモをやりこんで発売に備えたいと思います。

ではでは、今回はこのへんで。また来週。