山村智美の「ぼくらとゲームの」

連載第123回

帝王が待つその場所へ、数多の戦いをくぐり抜けた王者がたどり着いた「EVO 2018」のドラマの話

この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。

なぜ「EVO」は毎年毎年、思わず唸ってしまうほどのドラマを生むのか。今年も見所満載で面白かったですねぇ……(しみじみ)。

昨年の「EVO 2017」では、まるで英雄の物語のようなドラマを経て「ときど」選手が優勝した「ストリートファイターV」部門。今年は「ストリートファイターVアーケードエディション」ですが、

今年は“最後にはベガが王者を待ち受けている”という原作さながらのドラマが展開されました。

そして結果的には昨年同様に今年も、「ときど選手が険しい道のりを経て強大な相手に挑んだ」という言い方ができるかもしれません。

昨年の覇者が二連覇を目指した戦いは、今年もドラマに満ちたものになったんです。

今年のファイナリスト8人は、イギリスのProblem-X選手、フランスのLuffy選手、アメリカのTHE COOL KID選手、ドミニカ共和国のCaba選手、そして日本からは、ふ~ど選手、ときど選手、ガチくん選手、藤村選手の4人。韓国のInfiltration選手をはじめとした上位常連の多くが姿を消しつつ、国際色の豊かな顔ぶれとなりました。

8人のファイナリスト。左から順に、アメリカのTHE COOL KID選手、日本の藤村選手、日本のときど選手、日本のガチくん選手
左から順に、イギリスのProblem-X選手、日本のふ~ど選手、フランスのLuffy選手、ドミニカ共和国のCaba選手

ときど選手の最初の試合は、ミカを使うふ~ど選手との日本人同士の対戦に。長年にわたってお互いを良く知り、大会でも何度も対戦している2人。というか、某リーグ戦ではチームメイトだった2人の対決。そうした間柄ですと、いわゆる人読み……その相手に特化した対策がポイントになります。

ときど選手はこの1年を通して、通常技での差し合いのギリギリ外からの波動拳、外波動を非常に多様してきました。特に“ギリギリ届く距離の小足をガードさせてからの波動”が非常に多いんですよね。ですが、ふ~ど選手はそこに的を絞ってしっかり突いていきました。

ときど選手の出す“小足ガードさせてからの外波動”にEXシューティングピーチを、

次に同じような場面ではクリティカルアーツを叩き込み、

そして最後も、ときど選手の波動拳に「上からナデシコ」を合わせて、ふ~ど選手が勝利!

ときど選手はルーザーズへとまわります。

ときど選手vsふ~ど選手。お互いにこの日の初戦であり、互いをよく知りすぎている好敵手
通常技の差し合いが微妙に届かない外からの波動を多様するときど選手
ふ~ど選手は外波動に狙いを絞り、EXシューティングピーチのアーマーで突き抜けていく
ゲージが貯まった直後の小足ガード波動に……
ふ~ど選手のクリティカルアーツが炸裂!

ときど選手は、主軸の動きを逆手に取られて敗北したということになります。その日の最初の試合で流れを掴めないままにこうした負け方をしてしまうと心理的にも大きく影響するでしょう。ともすれば、長く引きずるような苦手意識を持ってしまうことにもなりかねません。

そして、ときど選手の次の相手は奇しくも、ふ~ど選手と同じくミカをメインキャラとするフランスのルフィ選手。もちろんルフィ選手は先のときど選手とふ~ど選手の試合を見ています。

OPENREC.tvにて解説をしていたマゴ選手曰く、「ルフィと戦っていても、ふ~どの影がチラ付いてしまう」ということで、同じような場面になると「さっきはこうなってしまった」ということが脳裏をよぎり、選択に迷いが出てしまうわけですね。

ペースを掴めないまま“一気にプレイが崩れてしまう可能性”もある……。

この試練とも言える状況に対して、ときど選手は非常に慎重で丁寧なプレイを展開。無理に技を置いて仕掛けることはせず、大きな狙いも見せず、基本的な差し合いに終始して、ヒット確認からの確実なダメージを積み重ねていきます。そのプレイは楽器の音合わせさながらに自身を調整しているかのよう。

これに困惑した様子を見せたのはルフィ選手。我慢比べとも言えるじりじりとした展開に、流れを作るべく仕掛けますが、それをことごとく丁寧にときど選手に対応されます。そうしてじわじわと、確実にペースを取り戻したときど選手。最終ラウンド付近では攻めのリズムも取り戻してルフィ選手に3-0で勝利!

我慢比べの展開に困惑の表情を見せたルフィ選手

一方、ときど選手に勝利したふ~ど選手がウィナーズファイナルで戦うのは、日本人選手の中でも成長の著しいガチくん選手を倒したイギリスのベガ使いProblem-X選手。

このベガのProblem-X選手が、今大会で世界中を驚かせます。

ガードされても有利フレームの続く性能のいい技を置いている間は強いベガですが、逆に押し込まれると切り返せる技が少なく、跳びで懐に入られると辛いところもあって、対策のしっかりしているプレーヤー相手には苦しいとされるベガ。

そんなベガを使うProblem-X選手ですが、ベガの強みを活かした有利状態を維持する組み立てが非常に上手いだけでなく、相手に押されているときでもリスクのあるVトリガーは多用せず冷静に差し返し、相手の跳びを読んで空対空で落とすのも意味がわからないほどに上手い。昨年のPunk選手とは違った意味で、ものすごくプレイの精度が高いプレーヤーです。

ガチくん選手のラシードが猛攻をかけても、崩しきれなかったProblem-X選手のベガ。そのあまりのプレイの組み立ての上手さに、世界中のファンがざわつき始めます

初戦でときど選手を倒し、いい流れを掴んでいるふ~ど選手と、同じくガチくん選手の猛攻を捌ききったProblem-X選手の試合は、まさに死闘!

1セットずつ交互に取りあっていく一歩も譲らぬ展開から、迎えた互いがマッチポイントの5試合目、互いがさらに1セットずつ取ってのフルセットのラストラウンドへ! 跳びで入れ替わった直後の着地に手をつけたProblem-X選手が、ベガならではの有利押し込みラッシュで一気に画面端へ!

追い詰められたふ~ど選手は、起き上がりにProblem-X選手が前ステップしてきたのを見て、起死回生を狙ったクリティカルアーツを出しましたが……

暗転後にProblem-X選手は……

跳んでいたっ……!

クリティカルアーツが空を切り、Problem-X選手にたたみかけられスタンへ。死闘を制してグランドファイナルへと進んだのは、Problem-X選手でした。

フルセットまでもつれ込んだ死闘でしたが、ふ~ど選手が起死回生を狙ったクリティカルアーツをProblem-X選手は跳んでいた……!
試合後にはProblem-X選手もさすがにこの表情

Problem-X選手に敗北したことでルーザーズファイナルにまわったふ~ど選手。その対戦相手に手をかけているのは、この日ふ~ど選手に1敗したときど選手と、同じくこの日Problem-X選手に1敗したガチくん選手。

自身を調整し直したときど選手と、エンジンが完全に温まったガチくんの戦いは、序盤はガチくん選手の攻めがときど選手を制して1試合を先取。

だが、ときど選手は試合の合間に笑顔を見せます。

2試合目も優勢に試合を進めたガチくん選手ですが、ときど選手の出した遠めの豪波動拳にガチくん選手がEXイーグル・スパイクを合わせたものの、それは誘いで、ときど選手はすぐさまVトリガー発動からのバックジャンプでイーグル・スパイクの突進をかわし、フルコンボを決めてラウンドを取ります。この攻防からときど選手に読み合いの主導権が傾いていきます。

そこからは、「近づいても辛いし遠くから仕掛けると逆に誘われる……」といったように、ガチくん選手が攻めあぐねる状況に。それに対してときど選手は距離を保ってのじっくりとした構えで、ガチくん選手の選択肢をひとつひとつ摘み取っていく。その様子は手持ちの駒がひとつひとつ着実に取られていっている将棋の盤面のよう。

最終的には距離を詰めることも難しくなったガチくん選手を倒し、ときど選手が勝利を収めた。

この試合は、読み合いの主導権を取るということがどういうことかを嫌と言うほど感じられる、玄人好みな試合だったのではないでしょうか。

ガチくん選手の攻め手をことごとく封じたときど選手。マッチポイントのラウンドでは距離を詰めることも厳しくなっていた

ルーザーズファイナル。再びふ~ど選手とときど選手の、好敵手の激突。

満面の笑顔で握手を交す、ときど選手。

その様子は「これ以上に楽しいことなんてこの世にないんだ!」と言わんばかりです。

試合の展開は、先ほどの対戦とはうって変わって、ときど選手は予測のしづらい自由度の高い攻めを展開。ふ~ど選手に対応させないように次々にリズムと選択肢を変化させていきます。

目の覚めるような敗北から自身を調整し直し、この日のリズムを戦いながら掴み直して再び上がってきたときど選手は、もはや手のつけようがない万全以上の仕上がり。1試合を先取し、続く2試合目もふ~ど選手にきっかけを与えません。

途中、ペースを引き戻してときど選手を捕まえ始めたふ~ど選手でしたが、それでもプレイに自信がみなぎっているときど選手を鎮めることはできず。3-1でときど選手の勝利となりました。

この日2度目の対戦となった2人。だが1戦目とはうって変わって、ときど選手が圧倒する結果に
ステージ「Ring of Power」奥の玉座には、シャドルーの幹部やベガの姿が。プレーヤーがベガを使うと、玉座からちゃんといなくなる。……まるで今年の「EVO」の展開を予見していたかのような作りだ

Capcom Pro Tourでは大会をイメージしたステージが毎年制作されていますが、ステージ「Ring of Power」は、サイコオーラの漂う禍々しい雰囲気のなか、中央に大きなベガの顔があり、手前にシャドルー幹部の3人が、そして中央奥の玉座にはベガが座って戦いを眺めているというもの。

底知れないプレイでウィナーズを勝ち上がり、ルーザーズから勝ち上がってくる挑戦者を待っているのは、まさにその帝王ベガを使うProblem-X選手。

そこに挑むのは、1度はお互いをよく知る好敵手に敗れ、そこから這い上がって、再び好敵手と戦い乗り越えてきた、昨年の王者ときど選手。

ステージの「Ring of Power」は、まるでこの瞬間を予見していたかのよう。

昨年のドラマに満ちた流れを再びなぞるかのような展開に、会場も、配信を見つめている世界中も、「もしかして今年も!?」という予感に期待を高めていきます。

リセットからの2連覇という信じがたいものを、目撃したいという期待。

止まることを知らず高まり続けるボルテージ。

興奮がほとばしったような絶叫に近い大歓声が響きます。

……「EVO」はどうしてこんなにも出来過ぎなほどの物語がしょっちゅう生まれるのか。いつも不思議でしょうがないんですけど。いや、ホントに。でも、だからこそ「EVO」なんですよね。

「EVO 2018」、「ストリートファイターV アーケードエディション」のグランドファイナルに残ったのは、Problem-X選手とときど選手

玉座から立ち上がり、豪鬼を迎えたベガ。

ついに2018年のグランドファイナル。

Problem-X選手と、ときど選手の戦い。

ウィナーズのProblem-X選手は3試合先取すれば優勝ですが、ルーザーズのときど選手は3試合を先取して、リセットをかけてから、さらにもう3試合勝たなければなりません。

立ち上がりは、打撃の探り合いが噛み合ってProblem-X選手が優勢。距離を詰めようとする出がかりにカウンターを取ろうとリズムを計るときど選手ですが、それを精度の高い間合い調節でずらしていくProblem-X選手。

1試合目をProblem-X選手が取り、続く2試合目も決定的な流れを掴めずにいるときど選手。Problem-X選手のいなしかたがあまりに上手く、ベガが存在感とは裏腹に非常に攻防が柔軟なキャラクターに見えてきます。ときど選手は、何度か見せた垂直ジャンプでProblem-X選手の前ステップを誘い、斬空波動拳で引っかけてからくも2試合目を取ったものの、息苦しい展開が続きます。

続く3試合目は、ときど選手の前跳びをProblem-X選手が空対空で止める場面が目立ち始め、次第に対応されていきます。Problem-X選手が2試合目を取って1-2に。

追い詰められたときど選手。3試合目もマッチポイントまで追い詰められるも、からくも勝利して2-2へと繋げます。

あと1試合勝てばリセット……!

5試合目。ここで初めてProblem-X選手の守りがわずかな乱れを見せます。序盤からリズムを計り続けていたときど選手の差込みが連続して刺さり、Problem-X選手の動きを封じていく。

そして、ときど選手が5試合目を勝ってついにビハインドをリセット!!

これには会場も大歓声! 次に3試合を先取した方が今年の覇者。

2試合を取られながらも、ギリギリのところを制してビハインドをリセット!

リセットまでの道のりで多くの攻防を見せた2人の、リセット後の1試合目は、シンプルな間合い管理の差し合いに。まだProblem-X選手に焦りは感じられず、リセットまで持ち込んだとは言っても、ときど選手が流れを作れているとも言いがたい。流れを作れるようなはっきりとした読み勝ちをひとつ決めたいところ。

じりじりとした差し合いを続けるなか、ときど選手はチャンスを待ちます。

奇襲のスライディングヒットから、Problem-X選手が仕掛けて、ときど選手の体力は残りわずか。豪鬼の起き上がりに前ステップで詰めてきたベガを見てときど選手が出したのは、

瞬獄殺!

体力リードを瞬獄殺で逆転したとなれば、少なからず流れを作れるはず。

ですが、瞬獄殺の暗転が開けた直後……、

Problem-X選手は……

跳んでいたっ……!

解説をしていたマゴ選手曰く、あのタイミングの瞬獄殺は暗転前にジャンプをしていないとかわせないということですが、相手のダウンに前ステップで詰めて直2択を重ねにいくと見せかけてジャンプし相手のクリティカルアーツに空を切らせたのは、この日2度目。ふ~ど選手の最後のクリティカルアーツをかわしたときと同様だったのです……。

ときど選手の瞬獄殺! だが、Problem-X選手は……跳んでいたっ!(この日2回目)

この攻防はやはり大きな変化をつけたのか、ここからはProblem-X選手の動きに余裕が生まれていきます。ときど選手の差し合い外から波動に大胆にスライディングを突き刺したかと思えば、悠然とときど選手が仕掛けるてくるのを待つという場面も。

主導権を取ったProblem-X選手はそのまま3試合を連続して勝利し、「EVO 2018」の「ストリートファイターV アーケードエディション」部門の覇者となりました。

「EVO 2018」の「ストリートファイターV アーケードエディション」部門の覇者はProblem-X選手! 2位、3位、4位は日本人プレーヤーとなりました

というわけで、「EVO 2018」の「ストリートファイターV」部門。今年もあまりにも出来過ぎなほどにドラマがあり、なんといっても、二連覇こそ逃しましたが、そこにあと一歩まで迫ったときど選手の凄さには驚くばかりです。同時に、Problem-X選手の上手さと冷静さにも同じぐらい驚きましたが(笑)。どうなってるの? ホントに。

まさに“Art of Fighting”だな、と。……いや、「竜虎の拳」のことじゃなくて、格闘ゲームに全てを費やして挑む姿、そのぶつかりあいが生むドラマ、高まっていく感情。そういう素晴らしさや美しさを全部ひっくるめて表現できないかなと考えた時に、浮かんだ言葉が“Art of Fighting”でした。格闘ゲームの祭典の戦いは、今年も素晴らしいシーンを作り上げました。

来年の「EVO」はどうなるでしょうね。「EVO」に行ってみたい挑戦してみたいという人は、1年ありますけど逆に言うと1年しかありませんから。ぜひぜひ切磋琢磨してください。その間には「EVO Japan」もありますからね。

evoのEVO 2018 - CHAMPIONSHIP SUNDAYをwww.twitch.tvから視聴する

最後に見逃せない番組の情報ですね。今回がっつり活躍をお伝えしたプロゲーマーときど選手に密着した「情熱大陸」が08月12日放送ということですので。こちらも要チェックですね。

ではでは、今回はこのへんで。また来週。