山村智美の「ぼくらとゲームの」

連載第101回

議論を重ねて一歩ずつ進んでいくことが大事な、eスポーツとプロゲーマー、ひいてはゲームという魅力の話

この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。

日本中が平昌オリンピックに盛り上がり、頭脳スポーツと言える将棋の世界も盛り上がるなか、今後にオリンピック種目にもなっていくとされるeスポーツのプロライセンスの議論や話題も、連日のようにどこかしらでみられる1週間でした。

プロゲーマーウメハラ氏の配信チャンネル「Daigo the BeasTV」で2月18日に放送された座談会「ゲームと金」。

こちらは、ウメハラ選手やふ~ど選手、現在はスクウェア・エニックス社員とプロゲーマーを兼業しているネモ選手といった現プロゲーマー、各方面で格闘ゲームコミュニティの運営している代表者、さらにはアリカ代表取締役社長にして「ストリートファイターII」の生みの親である西谷亮氏などのそうそうたるメンバーに、日本eスポーツ連合(JeSU)の副会長である浜村弘一氏が参加して、総勢12人でJeSUの「プロライセンス制度」についての論議が交わされました。

こちらがその配信のアーカイブ(YouTube版)となっているので、興味のある方はぜひ全編をご覧頂きたいところです。

いずれのテーマの議論も注目すべきものなのですが、やはり中でも考えていきたいのは、

「プロライセンス制度を用いれば大会で高額賞金を出せる」

という、JeSUが発足当初より掲げている最大のポイント。

これについて浜村氏はまず「消費者庁に5回も行って相談したもの」としつつ、「プロへの報酬という形であれば整理がつきやすい」という回答を得たとし、さらにライセンスの必要姓について聞かれた際には、「20名程度が参加する大会もあれば、参加者が1,000人ぐらいの大会もある。いろんな大会があるなかで、『どこからどこまでをプロと呼んでいいのか、明確に定義できた方がいい』と考えて、ライセンスという制度を設けた」と答えました。

左はピンポイントな質問を多くぶつけていたライター/「Evo Japan」運営委員長のハメコ。氏、右は日本eスポーツ連合(JeSU)の副会長である浜村弘一氏

もう少しくだいた形で説明すると、

「消費者庁から『プロへの報酬という形であれば整理がつきやすい』と言われた」

「じゃあ、プロって何だろう、何でもかんでもプロへの報酬って言っちゃっていいのかな?」

「それはおそらくまずいので、実績のある人にライセンスを発行して、その人に報酬を出すようにします」

という流れになったということですね。

まぁ確かに、プロへの報酬という形でお金を払うなら問題がないとしても、次に待っているのは「プロと認められる定義はなんなのか」になるのは必然であり、確かな認定制度が必要になるというのはわかりやすい話です。

また、浜村氏はこの回答のなかで、経済産業大臣の世耕大臣がプロに対する報酬なら問題ないという趣旨の発言をしている動画もYouTubeにあるので、ぜひ見て欲しいという話もされていました。

というわけで、下の動画が世耕大臣がeスポーツへの支援について回答しているものになります。

こちらは「2018年2月7日の日本維新の会予算委員会」経済産業大臣の世耕大臣がeスポーツについて回答しているものです。ここでは、「経産省も間に入り、消費者庁と関連団体の間で整理をさせて頂きまして、『プロのプレーヤーが参加する興行性のあるeスポーツ大会における賞金』は、あくまでも仕事の報酬であり、法律上の景品類にはあたらない」と話されています。

ここで大事になるのは、「あくまで仕事の報酬である」と、世耕大臣が確かに話しているところですね。

そしてそれは、eスポーツで得るのがプロとしての興行での労務報酬というものである以上、本業が別にある人だとプロゲーマーの収入が副業扱いになってしまうということ、そうなれば、副業を禁止している会社などの場合、就業規則を破ってしまうことになるということです。

これは現在スクウェア・エニックス社員であり社会人プロゲーマーとして兼業状態で活動しているネモ選手にとってピンポイントな問題であり、浜村氏に直接質問されていました。ですが、「それは会社側に相談して欲しい」という答えであって、解決にはならないままでした。

僕はここが結構引っかかっているところで、要するに日本のプロゲーマーは兼業というスタンスが取れない、または取りづらい制度だということなんですよね(日本の企業の85%が副業を認めていないのだそうです)。

それは例えば、副業禁止の会社に勤めていてゲームが趣味の人が、それまではアマチュアの立場で大会に出ていたものの、賞金がもらえるレベルにまで実力が身についてきたという場合、選択と覚悟を迫られるということになります。そのときのeスポーツ報酬を得る段階で、本業を退職するなりの判断が必要になるかもしれず、その後の未来を天秤にかけないといけない状態になってしまいかねないんですよね。想像してみると、ちょっと厳しい。

社会人プロゲーマーとして現在はスクウェア・エニックスの社員と兼業状態のネモ選手。実際に闘会議2018の参加も直前に見合わせています。JeSUの取っている方法に1番ピンポイントに悩んでいるのがネモ選手かもしれませんし、この問題は他の多くの社会人ゲーマーに影響するかもしれません

また、この問題をさらに考えていくと、座談会でふ~ど選手から出た「プロライセンス制度で収入を得られる大会を今後どれぐらい開いてもらえるのか?」という質問が大きな意味を持っていきます。

仕事の報酬として得るもので、副業禁止の会社勤めとは兼業できない可能性が高い。それならば、専業にしたときに、プロとして実力次第では生活できるレベルの賞金を得るチャンスがあるものでないと釣り合いません。もちろん報酬がもらえる上位入賞できることが前提ですけど、そもそもその大会自体がほとんど開催されないのでは、どうにもならないですから。

この質問に浜村氏からは、「大会はメーカー主導で行なうものになっていて、日本eスポーツ連合として次に開催するのは東京ゲームショウ 2018のときに行なうものになる」という回答でした。

それに対してふ~ど選手は、「東京ゲームショウぐらいのタイミングで開くというのなら、年に10回もないのかもしれない。それで食べていける人は何人出てくるのかなとか思ったときに、プロゲーマーライセンスはおこづかいをもらえるかもしれない大会への参加権利ぐらいにしかならないのかもしれない、それならばなくてもいいと思ってしまう」と自身の考えを語りました。

これ。これは実はものすごくクリティカルで、実際のプロとしての活動に目線をおいた1番大事なポイントだと思います。もちろん先ほどの副業にあたる可能性があるという話もここに噛んできますよね。

ふ~ど選手らしい実を取ったロジカルな捉え方だと思いますし、より若いゲーム好きの人の思考にも寄っている考え方ではないかなと思えます。

もちろん今の段階で、すぐにバンバン大会を開いてくれというわけにはいかないですし、今はその前に未来のために議論をし尽くすべき時期だと思います。ですが、その後に本格始動していくのであれば、大会をたくさん開くこともしくはリーグのようなものの設立が必要になると思えます。それがなければ全てが形骸になってしまうし、若いプレーヤーも気持ちを踏みこめないものになってしまいます。

JeSUのライセンスは「なくてもいい」と思ったという、ふ~ど選手。それは大会がどれぐらい開かれるのかがポイントで、年に数回しかなくその上位入賞者だけに報酬があるのでは食べていける人がほぼ現われないのではという、非常に現実的なものだった

……とまぁ、座談会をみて僕が考えたことや思ったことというのは、だいたいこういうところでした。なんでこのゆるゆるが唯一の魅力といっていいこのコラムでここまで書くのかと言えば、それはまぁ大事な時期だと思えるから、ですね。ゲームが好きな人たちからいろんな議論を出してもらって、それが出尽くすまで重ねられるべきだと思います。

もっと個人的な感情で言うと、後半にウメハラ氏が語った「今のあれこれはあんまりワクワクしない」という言葉は1番大事なことだとも思います。何をどういったところでまだまだ、どう始まるかどうか、未来がどうなるかなんて誰もわからないなかですし、お金の話や、それこそ何かが保証されるのを目当てにやるようなものじゃないですよね、ゲームって。

ゲームを競技に使うときの呼び名がeスポーツ。

なので、eスポーツである前にゲームはゲームですよね。

ゲーム好きがワクワクしない展開や活動には、そもそも魅力がないということで盛り上がりようもない。そういう意味でゲーム文化を扱うものとしての本質を捉えている話だなと思います。

eスポーツ向けとされるゲームタイトルが競技性のみを追求して、丸くてとがったところのないゲームバランスになったときに、競技用ツールとしては公正であったとしても、そのゲームははたして「ゲームとして面白いかどうか?」。それの競技人口は増えるかどうか。そんなところも実は問題としてありますし、その問題に対しても「ワクワクするかどうか」ということがキーワードになるかもしれません。

「今日話されたものにはワクワクしない」とバッサリ、そして本質的なところを語ったウメハラ氏。もっと大きなものを目指したい、それにならいくらでも協力する、と自身の想いを語った

座談会では浜村氏から、コミュニティへの説明不足を謝る言葉もありました。実際のところ込み入った話であり、大事な話でもあるので、この座談会だけではまだまだ説明が足りていないとも思います。

今後にもこうした回答を得られる機会を設けるなどして議論を重ね、不安のないものへと仕上げていき、ひいてはウメハラ氏の言うワクワクできるものに昇華されるよう、ユーザーさんやコミュニティとも取り組んでもらえたらなと思います。

こちらは2月20日の21時~23時に放送されたAbema TVのニュース番組「AbemaPrime」でのeスポーツ特集。高橋名人と黒川塾を主催される黒川文雄氏が解説しました。ライセンスの話題を皮切りに、eスポーツの報道が増えています。その今だからこそ、もっと議論を重ねて、確かなものにしていかなければいけないと思えます

ではでは、今回はこのへんで。また来週。