山村智美の「ぼくらとゲームの」
連載第156回
「難しい……!」を越えると、とてつもなく面白いゲームに変貌する恐るべきゲーム「SEKIRO」の話
2019年3月27日 12:00
この連載は、ゲーム好きのライター山村智美が、ゲームタイトル、話題、イベント、そのほかゲームにまつわるあれやこれやを“ゆるく”伝えるコラムです。毎週、水曜日に掲載予定。ちなみに連載タイトルは、本当は「ぼくらとゲームの間にある期待の気持ち」。新しい体験の、その発売を、いつでも楽しみにしている期待の気持ち。そのままだと連載タイトルとしては長すぎたので……「ぼくらとゲームの」。
まさかこれほどのものとは。いろんな意味で想像を上回る恐ろしいゲームです、「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」。
フロム・ソフトウェアの最新作「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」が3月22日についに発売されたわけですが、週末はひたすらに挑んでいたという人も多いですよね。
もちろんボクもその1人。
他の仕事の兼ね合いなどもあって、発売前に1度も体験プレイなどをする機会がなかったので、それならばと、あえてゲームに関する情報も極力入れないようにして発売日を迎えました。
そうしていよいよ挑んだ「SEKIRO」のファーストプレイですが、“クラクラするほどの多量の死と、先に進めない地獄”が待っていたんですよ。
いやぁ、強烈でした。
ボクも一応、これまで「ダークソウル」シリーズや「ブラッドボーン」など、フロム・ソフトウェアの歯ごたえ満点アクションをどっぷりプレイしてきた身ですし、それから多少は年を取ったとは言え、まだまだイケるつもりだったのですが……「SEKIRO」では死にまくり&ボスを倒せない時間が延々続く有り様。
ネタバレにならないように苦戦したボスの名前をプレイ済みの人だけわかるような呼び名にしておきますが、
プレイの初日や2日目あたりは、
こっちは狼なのに「まだまだ子犬よ」と何度挑んでも子犬扱いで蹴散らされたり、
「大手門は開かぬ」おじさんに何度も怒られたり、
そこをなんとか乗り越えたと思ったら今度は「葦名のため…」と言うばかりの兄さんに何度も何度も斬りふせらる始末。
「ダメだ……。ボクももう年なのだろうか……?」と思った瞬間すらあったほどでした。
(今思えば「ソウル/ボーンシリーズ」に慣れすぎているのが「SEKIRO」のプレイに災いしたところもありますね。似て非なるものなところがあって、特に戦い方は意識を変えないといけないです。)
あまりにもボスに苦戦するので、「これはさすがに難しすぎるのでは……」と悩んでしまう時間もあったほどなのですが、
これが“ある時を境にガラッと変わった”んですよ。
ハッキリと「SEKIRO」の戦い方が理解できたと感じたのは、
“「葦名のため…」にと言うばかりの兄さん”こと、葦名兄さんとの戦いでした。
葦名兄さんには何度やられたかわからないほどで、20回、30回、いやもっとリトライしたかもしれません。
思えば、葦名兄さんにたどり着くまでは、「SEKIRO」の戦闘の本質的なところをまだ理解できておらず、敵の動きのパターンを掴みつつ時間をたっぷりかけての慎重な戦い方をしていて、「ソウル/ボーンシリーズ」の延長のようなプレイで無理矢理なんとかしていたんですよね。
でも、葦名兄さんとの戦いはそれではらちが明かず、粘ってもジリ貧で負けるばかり。
さすがに投げ出しそうになる時もあったのですが、それでも諦めずに挑み続けると……その先にあったんですよ。
「SEKIRO」が持つ最大の魅力“剣戟アクションの境地”と言える本当の面白さが……!
簡単に言ってしまえば、大事なのは“攻め続ける”こと、相手の攻撃を避けようとするのではなく“ガード”し、攻撃のリズムを掴んだら積極的に“弾き”を使うこと。
どうしてもゲーム好きな人ほど、距離を取って敵の攻撃を空振らせて、その隙を突くという、アクションゲームのセオリー的な動きをしてしまいがちなところがあると思います。特に「ソウル/ボーンシリーズ」経験者はそれをやってしまいがちと思うのですが、
「SEKIRO」では、その戦い方は非常に効率が悪いんですよね。攻め続けて敵の体幹ゲージを溜めさせることが非常に大事ですが、ヒット&アウェイしているとそれができません。
体幹ゲージはこちらが攻撃したり、相手の攻撃を弾いたりすることで溜まっていき、最大まで溜まると態勢が崩れて、大ダメージを与えられる「忍殺」を決められるのですが、迂闊に距離を取ると、せっかく削ったボスの体幹ゲージは見る見る時間回復してしまいます。
休む間を与えずに攻め続けるのがポイント。
葦名兄さんは、迂闊に距離を取ろうとするものならすかさず強烈な弓を放ってきて、「安易に距離を取ろうなどと思うな!」と言わんばかりに教えてくれるんです。厳しいけど優しい先生です。
攻め続けて体幹ゲージを溜めていくためには、当然こちらの攻撃が届く距離にいなければなりません。そのため基本的にボスとほぼ密着距離で戦い続けることになるんですよね。
当然、攻撃を喰らう緊張感も増してきますが、でも、そこでひるんで距離を取ってはいけないんです。
それはあたかも“勝負で重要なのは精神的に負けないこと”と言わんばかり。“気迫の勝負”であり、“決して引かないという心の強さを計る”かのよう。
密着距離で戦うので相手の攻撃を避けきるのは難しくなりますが、「SEKIRO」ではステップで避けることよりもガードが大事。むしろステップで避けようとすると、避けた先に攻撃の先端が引っかかって結局ダメージを喰らってしまうということが頻繁に起きる傾向があります。
攻撃をガードするとこちらの体幹ゲージが溜まっていきますが、ガードの構え中は体幹ゲージの回復が速まるので、ゲージを溜められつつもガード維持で減らしていくのが有効。
そうして敵の攻撃を受け止めつつ動きのパターンとリズムを見ていき、タイミングがわかってきたら、ガードから“弾き”へと変えていくときです。
ガードのL1ボタンを敵の攻撃に合わせて押すことで敵の攻撃を弾くことができ、弾きが成功すればこちらの体幹ゲージ上昇をわずかに抑えつつ、相手の体幹ゲージを溜められます。
L1ボタンを連打すると弾きの成功タイミングが短くなってしまいますが、それでも意外と弾きまくれるので、最初は連打で良いから敵の動きに合わせてがんがん使っていくのがポイントですね。
L1連打だと刀をカチャカチャと上下させる弾きダンスをしちゃうのがチョイダサですけど……上達するまでは気にしない!
ボクはプレイ当初、この弾きを「ソウルシリーズ」で言うところのパリィのような、ここぞという時に狙うテクニックのように考えてしまったのですが全然そんなことはなくて。
「SEKIRO」の弾きは、むしろ防御方法の基本ですね。
L1ボタン長押しのガード状態から、敵の攻撃に合わせてL1ボタンを瞬間的に放しポンポンっと短く押して弾いていくという、ガード弾きみたいな操作が身についてくると、葦名兄さんの攻撃はほとんど怖くなくなります。
怖いのは、弾けない“投げ”や“下段攻撃”、弾きはできるもののガードはできない“突き”ということになるのですが、いずれも「危険マーク」が出るので、注意すべきは「危険マークが出る攻撃のモーション見極め」だけということになります。
一応モーションを見極めて対応を変えないといけないという歯ごたえは残されており、それが「SEKIRO」の厳しさのライン際なところがありますが、葦名兄さんはこちらも予備動作が大きくて非常にわかりやすいので、その意識を身につけるのに最適な先生でした。
葦名兄さんのリズミカルかつスピーディーな攻撃は弾きやすく、弾きが成功してバッと明るい火花が次々に散るのは、音ゲーでタイミングよくボタンを押せたときのエフェクトのようでもあり、弾くことそのものが気持ちよくなっていきます。
葦名兄さんは舞うような連続攻撃を放ってくることもありますが、それもことごとく弾き返すことができると葦名兄さんの体幹ゲージはごっそりと減らせます。相手の放つとっておきの技を返せれば、大きなチャンスになるというわけですね。
こんな感じに、密着距離でアグレッシブに攻め続け、ギリギリのところで攻めを転じて、斬り返してきた相手の攻撃を弾き、危険な技を見極めてかわしていく。
そういうプレイができるようになってくると、「SEKIRO」のプレイはとてつもなく刺激的でスピーディーで楽しいものに変貌していきます。
反射と反応に意識を委ねてひたすらに操作し続け、頭が真っ白になって息をするのも忘れるほどに集中し研ぎ澄まされていく。剣戟のリズムと舞い散る火花に高揚感と陶酔感が高まってきて、その高まりがピークにたどり着く頃……ボスは体幹ゲージが溜まりきって崩れ、忍殺が決まるというカタルシスが訪れます。
刀の斬り合いのイメージ、忍びのイメージにもある速さをシステム的に入れ込み、見た目にもかっこいい刃に乗せた気力のぶつけあい、“気迫で負けたらいけない”と言わんばかりのアグレッシブな剣戟アクションが1番良い戦い方になるよう、非常に上手く作られています。
「ソウル/ボーンシリーズ」とはまた異なるアクションの魅力がありますね。
プレイ当初は「これは難しすぎるのでは」なんて思っていたボクも、葦名兄さんに鍛えられて理解度が高まってからは、面白くて面白くて、「こんなにすごいゲーム滅多に出てこないぞ!」って思うぐらいにハマって気に入っています。
「ソウル/ボーンシリーズ」はジャンル表記がアクションRPGでしたが、「SEKIRO」はアクション・アドベンチャー。探索込みのアクション要素の強さが、的確にジャンル表記に示されているんだなと感じた次第です。
また、戦いだけでなく探索の自由度も非常にいいですね。
立体的なマップをかなり自在に動けるのも魅力ですね。上下方向への移動が「ソウル/ボーンシリーズ」とは比較にならないほど自由なので、特に行き詰まった時には上を見るようにしたいところです。
基本的な難易度の高さというのが、特に序盤の今回書いていったような戦い方の基本が身につくまでにあるので、そこで人を選ぶところはあると思うのですが、その先にあるものは極上の手触り。
アクションゲームが得意という人はぜひ挑んでもらいたいですし、逆にアクションゲームが苦手ではないものの得意とも言えないぐらいという人は、「SEKIRO」でくじけずにシステムをひとつひとつ押さえて理解していくようにすれば、それまでに知らなかったアクションゲームの手触りの快感というものに目覚めるのではと思います。
プレーヤーを育てるような懐の深さすら、あると思えます。
強烈な武の匂いを秘めた「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」。
またひとつ、恐るべきゲームが世の中に現われました。
一筋縄ではいきませんが、オススメです。ものすごく。
ではでは、今回はこのへんで。また来週。