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【CEDEC2017】「ゼルダ」のマップは京都から始まった!?

「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」におけるフィールドレベルデザイン

8月30日~9月1日 開催

会場:パシフィコ横浜

 CEDEC2017も2日目に。8月31日には、任天堂による「『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』におけるフィールドレベルデザイン~ハイラルの大地ができるまで~」というセッションが開催された。ここでは同社の企画制作本部ディレクターである藤林秀麿氏、同アーティストの米津真氏によるプレゼンテーションが開催された。

 今回の「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」では米津氏と藤林氏がまず最初にフィールドを作り上げていったとのこと。本作については、広いフィールドがあれば新しい遊びができそうだと始まった。しかし今までシームレスな3Dフィールドを展開したことがなく、かなり苦労したという。なぜならば、プレーヤーは自由に動けるため、動きが読めない。しかも時々のポイントで、ゲームのヒントとなるものを見せておきたい場所を設けたい。それをどうするかが課題だった。

 そこで最初に模索したのは“点と線”。15本ある塔を点として配置し、そこに至る導線を引くことでユーザーを導くつもりだった。しかし結果としては失敗に。とてもやらされている感が強かったり、一本道に思えたり、体験が人によってバラバラになってしまった。「理想としている誘導ができていなかった」と藤林氏。しかし誘導には成功していたので、失敗と思わず、理想型に持っていくことにしたそうだ。

 そして次に考えたのは“引力”。自然と引かれるようなかたちにすればよさそうだ。引かれるのはどこかというと、お得な場所。必要なランドマークは多数あったが、役割を持たせて引力を発生する場所として設計することにした。その1つは馬宿。当初は馬を預けるだけだったのが、ベッドを設置したりして宿にし、お得な情報が聞けたり、買い物ができるようにした。祠や敵の拠点についても意味を持たせて引力を強化した。

企画制作本部ディレクターである藤林秀麿氏(左)、同アーティストの米津真氏(右)

 このほか、目的地に向かっていくと、自然にほかの目標が見えるように設計。拡大したり、距離を詰めたときに引力が発生するものも創り上げた。「引力を発生するロケーションとして、それを発生するものが近距離や中距離に寄って初めて威力を発揮するパターンが必要だった」(藤林氏)。そして魔物が持つ武器や山の鉱石、森のキノコといったものの価値を上げるために、武器は宝箱のみから出るようにしたり、序盤はルピーを出さなかったり、パワーアップする料理のアイテムも、植物や野生動物からのドロップにした。これによって、ある程度想定導線から外れたユーザーも、気がつけば矯正されたようなストレスを感じずに、最終的な目標へ行くのではないかと感じた。

 これらの“引力”を持つものは、目に見えることで初めて機能する。これを解決するために塔の上から見下ろしたときの風景を強化。上からさまざまな“引力ロケーション”を見つけてもらうようにした。塔から飛べるので、その時に見つけたロケーションに誘われるようにプレーヤーは向かっていく。そして近づくとまた新たな引力ロケーションが見つかるような設計も施した。「これでプレーヤーを誘導する光明が見えた」(藤林氏)。

 そしてこれらのロケーションは、様々に変化するよう設計された。まずはサイズによる引力の変化。山や塔は大きいので遠くからも引力を発生する。またプレーヤーの嗜好の違いによっても引力が変化するので、それにも対応した。「敵からアイテムを奪える敵基地は、サイズが小さくても上位に上がってくる」(藤林氏)。昼夜もあるので、その場合も引力が変化する。こういった機能をフルに使って、各ロケーションの引力でユーザーが能動的に動くことで回る無限期間の施策を行なった。

 「これで誘導を完成したといいたいところだが、それはまだ道半ば」と藤林氏。地形による誘導の工夫が必要だった。

 そこで導入されたのが“フィールド三角形の法則”。本作のフィールドは地形を制作するにあたって、三角形の構図をベースに作り上げられた。丘や山は三角形のシルエットなので自然に見える。これをゲームの地形要素として考えると、左右に迂回したり、登坂するという分岐の選択肢になる。迂回していくうちに奥の物体が見えてくる。登坂しても同じ体験が起こる。

 「徐々に見えてくるのがポイント」(米津氏)。これらを丁寧に設計することで、画面内に必ず何かしらの目標がある構造ができるようにした。そして大小をつけて役割も与えた。このバリエーションとして四角形、台形といったバリエーションも用意した。これらは馬宿の発見や敵との遭遇、重要ポイントの発見の演出に使われた。こうした要素を配置することで記号化され、機能を持った凹凸の集合体となった。

 また、三角形を円錐状の山ととらえて配置。そして全方向から進入できるため、プレーヤーがたどる全ルートを計算するのは不可能。円錐をフィールドに配置することで、どこからどういうルートを通っても、大きい三角形と近くの小さい三角形が画面内に同居するようにした。「広大でシームレスな世界を現出するという、ゼルダ作品としては初の試みだったが、この大中小の要素で構成することをひと区画で作り、プレーヤー誘導の意図と合わせながら一回り、もう一回りと徐々に手法を広げていき、全世界を組み立てた」(米津氏)。その結果、方向性や指針はある程度存在しつつも強制感のない導線を作ることができたという。

 設計の基礎ができあがってからは、デバッグ移動は使わず、作っては歩いてみたという。そうすることで問題点がわかってくる。そこから分析に基づき地形を作り上げていった。「プレーヤーの目的地が遮蔽と出現を繰り返すことで、塔を目指して遊んでいた人が知らないうちに構造物や馬車、敵基地といった引力に引かれ、寄り道してしまいたくなるよう、中距離での目的意識を植え付けた。これが一本道にならないための導線誘導」(米津氏)。

 そして遊び応えという観点でもさまざまな工夫をしている。コログを発見するところなどでは、ユーザーにプレイした満足感を持たせるため、レバーやボタンを多くする仕掛けを作ったとのこと。また、音の情報も欠かせないので、敵基地などでは音が変わるように聴き応えも考えて地面を細かく塗り分けられている。「全方向の進入を想定して、360度の展開を考える」(米津氏)。

フィールド設計図はこうして作られた

 次にフィールドの設計図の作成手法について解説された。その時に重視したのは、“距離感”と“密度感”、“尺感”だ。距離感とは長さや広さ、密度感とは感覚や数、確率、尺感は時間、テンポを考えるもの。「広大なフィールドが舞台なので、それを成立させるために必要なフィールドが何キロ×何キロなのかも分からなかった」(藤林氏)。そのためにも、脳内に基礎となる物差しをしっかり持たないと始まらないと、いろいろな試みを行った。

 距離感を得るために利用したのは京都地図。なぜかというと京都の地理であればよく知っているし、距離感が実感としてつかみやすいから。プレーヤーの移動性能も決めていたので、必要なサイズはどの程度なのかプランニングスタッフと歩き回ったそうだ。「ゲーム中にGoogleから取ってきたマップを貼り付けて、二条城にどれくらいあったらたどり着けるのか、御所から京都タワーがどれくらいの距離で見えるのか考えた」(藤林氏)。

 だいたい広さの当たりをつけて、ベースとなるフィールドのサイズを決めて数値化。必要な地形と治世を盛り込んだ3D地形を作った。そこからはブロックにした地形を歩き、検証した。

 その次に考えたのが密度感。引力ロケーションの誘導物をどの密度で置いていくのが適切かを考えた。その調整の方法としては、対象物を適当に置いてみてみるのが適当だが、どのくらいにしたらよいのか見えづらい。そこで用いたのが、現実での感覚。例えばコンビニの数だ。「そのほかにもポストなど、設定したいイメージに合わせて探していく。ターゲットが決まったらインターネットで調べる。その数値を使用すればよい」(藤林氏)。密度の物差しとなるものは町中に氾濫している。

 割り出しが終わったら数値化を図る。登場する「祠」については密度を元に配置したのだそう。「これは、開発の最後まで初期設定から増減がなかったのは注目できる点」(藤林氏)。

 最後に尺感だ。1日のプレイ時間やミニゲームの長さなど、ゲームのテンポについて考えた。当初、リンクが高高度からダイブする遊びを考えていたそうで、徐々に地上が近づいていく感覚を見るために、京都の町を3Dで起こし、考えた。「城攻めにかかる時間はどれくらいかとか、石垣に登るときのロマンのある絵を見て悦に入っていた」(藤林氏)。そこから数値化を図っていった。

 これらの作業が終わったら、マップを紙に印刷して、想定するフィールドの仕様を書いていく。ゲームデザイン意図を書いたものや動植物の生息域マップ、町や祠の仕様などを重ね合わせて設計図を完成させる。「これらを重ね合わせることで、それぞれのエリアがどのような意図があるのか明確になり、フィールド作成序盤でのガイドラインとなった。また各セクションと徹底して共有して作ることで、予定していたゲームデザインがぶれることなく完成させられた」(藤林氏)。

 これらの情報については「ゼルダエディタ」を介して画面内で共有。バグや制作物の「タスク」について、フィールド内に「看板」を作ってわかるようにした。フィールドについても同様に「フィールドタスクビュー」によりタスクを管理するようにした。こうした手法をとったことで、情報共有が高速かつ正確になったとのこと。「現場スタッフが横軸で知りうる情報が増え、個人の最適解を見つける近道ができ、作業効率が上がった。お互いのアイディアを生かし合い、相乗効果で面白い遊びが生まれて、さらにゲームに磨きがかかった。情報共有とツールによる見える化が重要だった」(藤林氏)。

 これまで紹介したのは、本作を作成する上で効果を上げた手法。藤林氏は「ゲーム開発の現場は生き物のようで、状況によりめまぐるしく変化し、開発者に臨機応変さが求められる。これらの手法は応用することができるかと思い、紹介した。本日の話がゲーム制作の一助になれば幸い」と述べ、セッションを終えた。

【訂正】
任天堂からスライドの公開について取り下げ要請があり、スライド写真について取り下げさせて頂きます。(9月4日対応)