インタビュー

これが最後のインタビュー! 「メガドライブミニ W・アジアエディション」特別インタビュー

奥成洋輔氏「5年後、10年後に“真・メガドライブミニ”というハードを作るかもしれない」

3月25日 発売

【メガドライブミニW・アジアエディション】

価格:8,980円(税別)

 「メガドライブミニ」は、その愛溢れるタイトルラインナップ、開発者が前面に出ることで思い入れとこだわりが伝わり、ファンの間で高い評価を受けた。今回、「メガドライブミニW・アジアエディション」が発売されたことで国内で仕様の違う3つのエディションをファンが入手しやすい環境が整った。

 弊誌はメガドライブミニのインタビューを最初に行なった。この時は発売半年前であり、メガドライブミニ」の開発に携わるセガの宮崎浩幸氏と奥成洋輔氏に、タイトルへの想いや企画の立ち上げなどを聞くことができた。今回、“メガドライブミニ最後のインタビュー”として、これまでの集大成としての話を両氏に聞いた。

 筆者もメガドライブのファン、“メガドライバー”である。セガの開発者、当時送り手であった宮崎氏と、ファンに近い目線でこだわりに満ちた復刻プロジェクトを進め続けている奥成氏と、メガドライブの話ができる。これは正直とてもうれしく、楽しい時間であった。ファンの方も楽しんでくれれば幸いだ。「メガドライブを知らない」という方も、このインタビューで興味を持っていただき、ぜひ触って欲しい。

今回で国内販売で3つのエディションがついに揃った。インタビューはアジアエディションだからこそプレイできる9タイトルに加え、これまでの集大成としての話も聞いた

アジアエディションの国内販売は、セガのハードメーカーとしてのノウハウ

 最初は非常に基礎的な質問をぶつけてみた。「なぜ国内版、北米版、アジアエディションでタイトルは違うのか?」。奥成氏は「元々メガドライブミニは国内版だけを想定して作ったハードでした」と答えた。

 しかしそこから、「海外(北米・欧州)向けに作ろう」という話になり、海外の人気タイトルも選考候補に入れてラインナップを考えていった。企画段階で100タイトルに候補を絞り、そこから移植を行なうM2に向け、70タイトルに絞った形で提示した。この70タイトルから、日本国内向け、米国向け、欧州向けでタイトルを選別していった。タイトルの選別において問題となったのが「ライセンス問題」である。30年近く前にリリースされたタイトルであるため権利関係をどこに問い合わせて良いかもわからないものがある。こういった問題も考えてタイトルは選別された。

宮崎浩幸氏

 途中で北米と欧州は同一のタイトルで行こうとなり、国内版であるメガドライブミニと、欧米向けのSega Genesis Miniとなったという。そういった開発が進められている中、アジア向けに「メガドライブミニ アジアエディション」も販売しようと言う話が持ち上がった。メガドライブは韓国や台湾などでも当時発売されていたが、ローカライズが行なわれたタイトルは少なかった。このためアジアエディションのタイトル選別に関しては、「日本語があまり理解できなくても遊べるゲームにしよう」という考えのもと、収録タイトルを決めていったという。

 国内版とアジアエディションでは9つのタイトルが異なる。アジアエディションでは「ヴァーミリオン」、「ストライダー飛竜」、「アイラブミッキーマウス ふしぎのお城大冒険」、「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」、「ワンダーボーイV モンスターワールドIII」、「ぷよぷよ」、「OutRun2019」、「シャイニング・フォースII 古えの封印」、「エイリアンソルジャー」が収録されている。

 この収録に関して奥成氏は「元々国内版は検討を重ねた結果、現在の42タイトルになりました。アジアエディションはその日本向けタイトルを可能な限り変更しないようにしつつ、どうしても外す必要のあったタイトルの代わりに、国内版では入れられなかったアジアのユーザーにお勧めできるタイトルを入れました」と語った。

 国内版のみ収録タイトルは「ライセンスの許諾範囲が日本国内のみ」というものがいくつかあり、また「ゲームルールが複雑だが、言語が日本語しかサポートしていない」というタイトルもアジアエディションでは収録から外した。「ロードモナーク とことん戦闘伝説」や「ダイナブラザーズ2」がそういったタイトルに当たる。「パーティークイズ MEGA Q」なども日本語がかなりわからないと遊べないタイトルだ。

奥成洋輔氏

 言語設定でプレイ可能になるタイトルは、セガが公式ページで紹介しているので、こちらを参照して欲しい。今回の収録タイトルでは「ストーリー オブ トア ~光を継ぐ者~」が韓国語対応をしている。他に関してはこちらもライセンスの所在がわからず、残念ながら繁体字版や韓国語版の対応タイトルはないとのこと。実はメガドライブは日本語のみか、日本語と英語のタイトルがほとんどだ。多言語に対応しゲームが世界的に広がっていくのはこれ以降なのだ。

 ちなみに、アジアエディションの日本での発売は最初は考えていなかったとのこと。「メガドライブミニ」販売以降のユーザーからの要望に応える形で実現したという。発売時期に関しては「エイリアンソルジャー」の25周年、というところが大きかったと奥成氏は明らかにした。コミック「異世界おじさん」で、当時以上に「エイリアンソルジャー」への興味が高まっている中、これを収録した「アジアエディション」は喜ばれるのではないかと奥成氏は考え、実現させたとのことだ。この事情もあり、アジアエディションの特典には「異世界おじさん」の作者である殆ど死んでいる氏によるポストカードを追加で付属させることにした。

 それでもアジアエディション国内販売は、宮崎氏によれば「行き当たりばったり」だったとのこと。最初から計画されていたものではなく、セガストアとAmazon専売なのも「とにかくかき集めたから」からだ。韓国や台湾で販売しきれなかったものが“発見”されて国内での販売となった。しかしこの無茶とも言える販売が実現できたのは「製造」側のノウハウだったと宮崎氏は明らかにした。

アジアエディションの特典となる、「異世界おじさん」の作者である殆ど死んでいる氏によるポストカード

 国内で商品を販売するのは「認証」が必要である。国内版は認証を通っているが、海外でのみ販売する予定だったアジアエディションは国内での認証を通していなかったら……セガの製造部は“念のため”、アジアエディションの認証をあらかじめ国内でも通していたため、企画が持ち上がってすぐにアジアエディションの日本国内での販売が実現したのだ。ドラマやアニメで使われる「こんなこともあろうかと」というセリフそのままの、製造部のファインプレイといえる。

 “念のために国内の認証も通しておく”という用意は、「セガがハードを販売していたノウハウ」があるからこそだと宮崎氏は語る。セガが「ドリームキャスト」でゲームハード開発を撤退してからも、得られたノウハウはきちんと継承されている。「メガドライブミニ W・アジアエディション」の国内販売で、宮崎氏はそれを実感したとのことだ。

テストする度にボスが違う! こだわりが詰まった「エイリアンソルジャー」

 次に各タイトルへの想いを聞いてみた。「エイリアンソルジャー」はやはりアジアエディションの大きな目玉だと言えるが、こちらが登場した1995年には奥成氏はセガに入社したばかりだったものの、メガドライブ担当部署が本作で盛り上がっていたのを覚えているという。その話題とは「テスト用ROMが更新される度にボスが変わる」ということだった。

 「エイリアンソルジャー」は45体ものボスとの戦いが繰り広げられる超硬派なアクションゲームだ。そのボスそれぞれの動きや攻撃方法は凝っており、プレーヤーはそれらのボスの特性を掴んで戦う高い攻略性が求められるゲームである。実は開発中に存在していたボスはこれ以上で、ボツになったボスも非常に多かったとのことだ。メインの開発者であるトレジャーのNAMI氏はこだわりに満ちた人物で、かなりの完成度のボスでも自身が「ゲームに合わない」と思うと即座にボツにしてしまうという。

 奥成氏はゲームボーイアドバンス向けの「ガンスタースーパーヒーローズ」でもNAMI氏のこだわりを目にしている。見た目はすごく良くできたボスがいたのだが、「ゲームとしての面白さを作りきれなかった」とバッサリ削除してしまう。セガ側のプロデューサーが「もったいない」と止めても、決して自分のこだわりに妥協しなかったとのことだ。NAMI氏は「美学」を大事にする開発者だ、と奥成氏は言う。

NAMI氏の強いゲームへのこだわりが実感できる「エイリアンソルジャー」

 「1995年のメガドライブは、時代はセガサターンに移っている中で、だからこそメガドライブのゲームはよりとがったものが作れるという雰囲気がありました。『今、あえてメガドライブで遊ぶ』というお客様に向けて、本当のメガドライブファンに向けて作ってるので、どのゲームも個性豊かでしたね」と奥成氏は語った。

 「エイリアンソルジャー」は知らないでプレイするとものすごく難しく、心が折れてしまう。しかし攻略の仕方がわかるとボスを“瞬殺”できたり、自分がスーパープレイをしている気持ちに酔える作品だ。このため奥成氏は「SEGA AGES 2500 シリーズ Vol.25 ガンスターヒーローズ ~トレジャーボックス~」を発売するにあたり、当時日本で一番「エイリアンソルジャー」がうまいであろうプレーヤーをネットの情報を手がかりに探し出し、コンタクトを取って、彼の攻略プレイをリプレイデータに収めゲームに収録したとのこと。その方はゲーム業界と関係のない一般の方だったが、彼に開発機とROMを渡し、プレイ動画を収録してもらったとのことだ。

 現在はプレイ動画は簡単にアップロードでき、それを手軽に公開できる時代だ。しかし昔はアーケードゲームで後ろからうまいプレーヤーのプレイを見るのがやっとで、ハイスコアを狙う人はそれを見せないようにしていた。「エイリアンソルジャー」はうまい人のプレイから学んで攻略をしていくゲームだ。奥成氏は「ぜひうまい人のプレイを見て参考にして下さい」とアジアエディションを手に入れるユーザーへ語りかけた。

 ちなみに宮崎氏は「パンツァードラグーンオルタ」、「ハンドレッドソード」などを手がけたゲームクリエイター向山彰彦氏が「『エイリアンソルジャー』こそ我が人生最高のゲーム」と言っていたことで強く印象に残っているとのこと。「ある人にはものすごく刺さるゲームだったんだと思いますね」と宮崎氏は語った。

ディレクター大プッシュの「ヴァーミリオン」はプレイしやすさがウリ

 次に質問をしたのが「ヴァーミリオン」。AM2研開発のRPGであるが、RPGとしては他にも候補がある中、「どうしてこれなのか?」というところに筆者は疑問があった。「ヴァーミリオン」が収録タイトルに選ばれた理由として奥成氏は、当初「Sega Genesis Mini」の候補として北米担当者から選考タイトルの1つととして推されたこと、ディレクターを務めたM2の駒林貴行氏が大好きなタイトルであったこと、RPGとしてシンプルで遊びやすいことなど、いくつかの理由があったという。

 AM2研にとって「ヴァーミリオン」の開発経験は「レンタヒーロー」へと活かされることとなる。このため国内版では「レンタヒーロー」だけが収録されるのだが、こちらは日本語版のみなため、海外のユーザーではわかりにくいところがある。一方「ヴァーミリオン」は英語対応タイトルであり、日本語がわからないアジアの人も英語版でプレイ可能というところで、アジアエディションでの収録が決まったとのことだ。

 “プレイのしやすさ”という観点で奥成氏は「ファンタシースターII還らざる時の終わりに」を挙げる。「ファンタシースターII」はストーリーやキャラクター描写など様々なポイントでファンが語り継ぐ名作だが、RPGとしてのバランスがきつく、現在の価値観ではプレイしやすいゲームとは言えない。このためその後のRPGの流行を受けプレイしやすくなり、キャラクターやストーリーの評価も高い「ファンタシースター 千年紀の終りに」(シリーズ第4作)が収録タイトルに選ばれた。「ヴァーミリオン」は遊びやすく、雰囲気も面白いゲームとして選ばれたという。

プレイしやすさがウリの「ヴァーミリオン」

 そして「OutRun2019」は奥成氏が強烈にプッシュしたタイトルだという。「メガドライブミニが2019年に発売されると言うときに、まさにその年をタイトルに冠したゲームはラインナップに加えたいと思ったわけです。仮に『OutRun2018』だったら候補には入れませんでした(笑)」。「なぜ2019なのか?」と宮崎氏が奥成氏に疑問をぶつけると奥成氏は、多分、映画「ブレードランナー」の世界が2019年だからではないか、と答えた。ゲームから「ブレードランナー」との関係性は明確には語られないが、“未来世界の年号”として引用されたかも知れないとのことだ。

 「OutRun2019」は、“2019年を象徴するタイトル”として入れたかった。さらに“スポーツゲーム/レースゲーム”としても本作はゲームジャンル的に魅力だったとのこと。メガドライブミニ、そしてSega Genesis Miniでは様々なスポーツゲームが発売されていた。特に実名の選手が登場する野球、サッカー、バスケ、フットボールなどは、北米で特に人気を集めたタイトルだった。しかし権利関係でどうしても詰めきれなかったという。レースゲームも同様で、実車関連はライセンス問題が絡む。

当時予想した2019年の世界観? 「OutRun2019」

 現在でもそうだが、「実際の選手や車、場所などがゲーム内に出てくる」というのは大きな魅力だが、一方でメガドライブミニのような“復刻ゲーム”を出す時には大きなネックになりかねない。今後のゲーム開発においては、復刻を視野に入れた権利関係も視野に入れることが必要かも知れないと宮崎氏は指摘した。このためスポーツゲーム/レースゲームのタイトルという意味でも「OutRun2019」は魅力だった。しかしEAの「ロードラッシュ」がEAの権利関係での尽力でクリアされたので、国内版、Sega Genesis Miniではレースゲームはこれ1本になった。「OutRun2019」はアジアエディションでの収録になったという事情を奥成氏は明らかにした。

 「単体でダウンロードだと買わないゲーム、手に入れないゲームってあると思うんです。でもラインナップにあると、好奇心で触ってみたくなる。『OutRun2019』ってそういうゲームだと思います」と奥成氏は語った。宮崎氏は「高橋名人があるイベントで『OutRun2019』をメガドライブミニに収録して欲しいと発言していて、その時はまだ発表できなかったから驚いた」というエピソードも教えてくれた。色々話題を集めたタイトルだったのだ。

シリーズで比べられるアジアエディションの魅力

 「ワンダーボーイV モンスターワールドIII」はそれまでアーケードゲームとして展開していた「ワンダーボーイ」シリーズの集大成となるゲームで、実にメガドライブ向けの作品だったが、国内版では「モンスターワールドIV」のみの収録となった。本作が国内版に収録されなかったのは、「シリーズタイトルは1作だけ」という国内版で自ら課したルールがあったためだ。このため国内版では「ソニック」も「シャイニング・フォース」も「ぷよぷよ」も1作だけが収録されている。

 しかしSega Genesis Miniではその限りではない。アジアエディションも同じように「シリーズタイトルは1作だけ」という縛りはなく、「モンスターワールド」、「ソニック」、「シャイニング・フォース」、「ぷよぷよ」そして「ミッキー」のシリーズタイトルを収録している。「シリーズが遊べるよ」というのもアジアエディションの大きな強みだと奥成氏は語った。

 「モンスターワールド」で、「III」と「IV」どちらを国内版で収録するかはそれほど悩まなかったという。M2の駒林ディレクターは「III」を強烈にプッシュした。「III」はこれまでの「ワンダーボーイ」の集大成であり、完結編とも言えるストーリーとなっている。シリーズのファンにはうれしい作品だったからだ。一方で「IV」はプレーヤーキャラクターは女の子となり、ストーリーも外伝的な立ち位置で一新されている。メガドライブのゲームに初めて触れる人が多く、遊びやすくより敷居の低い、国内版では「IV」が収録されたとのことだ。

こちらも駒林ディレクター大プッシュの「ワンダーボーイV モンスターワールドIII」

 そして「ストライダー飛竜」はメガドライブで初めて8Mロムを使用し、当時のファンの間でも思い入れが深いタイトルだ。筆者も個人的に、アジアエディションに収録されてうれしいタイトルの1つである。なぜ国内版に収録されなかったかに関して奥成氏は、「サードパーティー間でのバランス」を理由の1つとした。国内版のタイトルですでにカプコンは「ストリートファイターII ダッシュプラス CHAMPION EDITION」、「ロックマンメガワールド」、「大魔界村」と3本あった。

 カプコンタイトルが多いのは、メガドライブにカプコンがいかに注力してくれていたかの証でもあるのだが、他のサードパーティーと比べて多くなりすぎることを考え、「ストライダー飛竜」はアジアエディションでの収録となったとのことだ。ちなみに「ストライダー飛竜」のコンティニューが可能な“裏ワザ”はしっかり機能する。こういった裏ワザもちゃんとチェックしているので、プレーヤーにはぜひネットで調べて試して欲しいと奥成氏は語った。

当時初の8Mロムで移植された「ストライダー飛竜」

様々な知見は“次”に活かされる!? 確かな手応えをもたらしたメガドライブミニ

 今回のアジアエディション国内販売で3種類のメガドライブミニを手にできる状況となった。改めてこの風景に対しての感想を聞いてみた。宮崎氏のメガドライブミニの大きな目的は、国内版であるメガドライブミニと、海外版のSega Genesis Miniを並べてハードの外見の違いを実感してもらうという所にあったという。

 そして各バージョンの収録タイトルも変えることで、日本と欧米で評価されていたタイトルの違い、文化の違いもきちんとわかるようにできた。その2つをユーザーが手に入れ、比較して下さい、という気持ちは宮崎氏自身にはない。表現できたこと、形として出せたことに満足感はあり、価格も入手しやすいところに抑えることはできたので、熱心なファンはこの“違い”を楽しんで欲しいと宮崎氏は語った。

 「ジェネシスは“勝ち組”だった。欧米のジェネシスファンは勝ち組だったわけです。一方で日本のメガドライバー達は勝ち組ではなかった。決して負けてはいませんが、メインストリームではなかった。だからラインナップやマーケティングにも違いが出た。Sega Genesis Miniのメジャー感と、メガドライブミニのこだわりに満ちたメジャーではないラインナップ、それぞれのファンが好むゲームタイトルの違いは出せたと思っています」と宮崎氏は続けてコメントした。

 奥成氏はSega Genesis Miniのタイトルは「当時の懐かしさ」を重視したタイトルが中心だという印象を持っている。当時売れて、多くの人が手に取ったソフトが揃っている。対してメガドライブミニのタイトル選別は奥成氏自身が行なっている。奥成氏は「当時メガドライブは知ってるけど、触ったことがなかった」という人にも向けて、とっつきやすく、遊んでいて面白さが見つけやすいというポイントを心がけている。

 当時のファンの思い入れとしては「ファンタシースターII還らざる時の終わりに」が上だが、人に薦めるならば今遊ぶなら「ファンタシースター 千年紀の終りに」だ、というように今現在ゲームをプレイしている人に向け、メガドライブのソフトを選別したと奥成氏は語った。

 宮崎氏は特に「エイリアンソルジャー」や「コミックスゾーン」などメガドライブ最後期のソフトの“熟成”に注目して欲しいという。ユーザーの目はすでに次のハードに向かっている時代。これらのソフトはプレーヤー人数に伴う市場の減少で当時の出荷本数も少なかったが、ゲームの完成度、開発技術の熟成ぶりは目を見張るものがある。「今でもメガドライブの開発をずっと続けていたら、3Dポリゴンでぐりぐり動くメガドライブゲームが開発できたんじゃないか?」と宮崎氏はコメントした。

 おそらくこのインタビューがメガドライブミニに関する最後のものになるだろう、ということで宮崎氏は「反省もいっぱいあります」と語った。準備期間の考え方、何に手間がかかるのかも見えない、まさに手探り状態のプロジェクトだったという。もし今後何らかのプロジェクトがあるならば、その辺のノウハウは活かされるだろうと宮崎氏は感想を語った。「次はちゃんと専門部署でやろう」というのが宮崎氏が痛感したことだという。

 昔のゲームを今の時代でもきちんと出すことでユーザーの評価を得られる。その手応えを宮崎氏はメガドライブミニ発売前から持っていて、今回ユーザーの間でメガドライブミニが話題になったことでその気持ちはさらに強くなった。「思い出がビジネスになる」という確信は得た。

 今年はセガ60周年となる。だからこそセガの60年の蓄積を活かし、ユーザーそれぞれの思い出に応えていくネタはたくさんある。それはただビジネス面を強調するのではなく、「大人になったファン達に、当時の思い出をサービスしたい」という気持ちが強いという。その思い出に対し、ユーザーに同意を得られる“伝え方”という手法を今回学べたと宮崎氏は語った。従来の広報からの発信だけではなく、SNSや実況放送など双方的な手法などいくつものやり方があることが今回わかった。その知見は活かしていきたいとのことだ。

今回の開発はお2人のみならず、セガに大きな知見をもたらしたとのこと。今後の展開は大いに期待したい

 “次”というのは、「サターン」だろうか? 筆者はやはり個人的には「メガCDミニ」が欲しい。特にメガCDのゲームアーツの作品は素晴らしいものが多く、やはりあの時代のメガCDのタイトルをもう1度プレイしたい、そういう想いをぶつけてみた。奥成氏は今回、「アリシアドラグーン」で初めてゲームアーツに伺い、当時開発していたスタッフとも会うことができて、「メガCDのゲームもやりたいね」という話で盛り上がったというエピソードを話してくれた。ゲームアーツとセガはサターン、ドリームキャストでも関係が深かった。奥成氏自身も「また何かあればお会いしたいです」と言葉を交わしたという。

 「メガドライブミニは今回で終了ですが、5年後、10年後に“真・メガドライブミニ”というハードを作るかも知れません。そのときに『シルフィード』とかが入れられると良いですよね。僕自身これまでPS2やPS3向けにアーカイブゲームを作ってきましたが、まさか40本以上のメガドライブゲームを収録したハードを、今になって出すなんて夢にも思っていませんでした。チャンスがあればまたやりたいと思っています」と奥成氏は語った。

 奥成氏はファンに向けて、「今回、メガドライブミニを望んだユーザーにしっかりハードを届けられたという実感を得ました。この実績そのものが僕の力になりました。世界中にこのプロジェクトを応援してくれた人がいる。そのことは今後の復刻プロジェクトを行なうことでの試金石となりました。応援ありがとうございました」と語りかけた。

 宮崎氏は「PCエンジンminiもいよいよ発売されました。ぜひユーザーの皆さんはコレまで発売されたハードも全部並べて写真に撮って欲しいですね。そしてレトロハードをトレンドの一位にして欲しいです。そうすれば次の企画も通しやすいので(笑)。他のレトロハードはライバルではなく、共に時代の中を戦った強敵(とも)です」と語った。

 その上で奥成氏は「メディアにはもっと“対決”を煽って欲しかった」という。メガドライブやPCエンジンの頃はアーケード版を完全には再現できず、それぞれ特色を活かした移植を行なっていた。当時の文化はそこを紹介し、ハードごとのゲームを比べる文化があった。当時のハードへの想いを掘り下げて欲しいとも思っているとのことだ。

 最後に宮崎氏は「買ってくれた皆さん、話題にしてくれた皆さん、本当に感謝しています。『もっとこうだろう』という皆さんの想いもわかっていますが、これが我々に今できるベストです。価格.comのプロダクトアワード2019のゲーム部門で1位になり、ついに我々は初めてSONYさん、任天堂さんに勝ちました(笑)。こんな経験もさせていただき、我々自身もとても楽しいプロジェクトでした。ありがとうございました」とコメントした。

 奥成氏は「僕は十数年復刻プロジェクトに携わりましたが、今回は特に大きな手応えをつかめました。それは販売実績ももちろんですが、お客様の声が世界に発信しやすい時代になったからと言うことも大きいです。これからもがんばっていきますので応援よろしくお願いします」ともう1度ファンに向かって語りかけた。

 改めて「メガドライブのファンで良かった」と実感できるインタビューになったと思う。当時プレーヤーだった筆者はメガドライブミニはとてもうれしいハードだ。プレイすることで様々な想いが蘇ってくる。それをこれほどリッチなハードで42タイトルものゲームで体験できるのはホントに楽しい体験だった。やはり“当時のゲーム”は特別な魔力がある。“次”にも大いに期待したい。