インタビュー

セガ愛がここにも! セガトイズ、「アストロシティミニ」開発者インタビュー

夢のアーケード筐体のミニハード化はなぜ実現できたのか?

【アストロシティミニ】

2020年12月発売予定

価格:12,800円(税別)

 セガトイズは、セガ往年のアーケードゲーム全36タイトルを収録したコンパクトサイズのアーケード筐体「アストロシティミニ」を2020年12月に発売すると発表した。

 アストロシティとは、セガが1993年に発売し、90年代に全国各地のゲームセンターを彩った、同社の汎用型ビデオゲーム筐体を代表する作品だ。白を貴重としたデザイン、プレーヤーが画面を見やすくなるよう、絶妙の角度に調整された29インチの大型モニターを搭載、そして漆黒のプレート上に固定された、鮮やかな緑色のボタンとレバーボール……。とりわけ、「バーチャファイター」シリーズをはじめとする、当時の対戦格闘ゲームに夢中になったプレーヤーには、今なお愛着がある筐体ではないだろうか。

 あれから27年の月日が流れ、年号は平成から令和へと変わり、アーケードゲームのトレンドも当時から大きく変化した現代にあって、まさかアストロシティミニのようなハードが発売されるとは、おそらく誰もが予想だにしなかっただろう。特に40代以上のゲーム好きにとっては、かつて少年・少女時代を過ごした、おらが町のゲーセンにあったなじみの筐体をミニサイズで蘇らせた本作は、まさに夢のハードと言っても過言ではない。

【【アストロシティミニ】セガ・アーケードの伝説を手のひらサイズに!!僕らの青春と当時の興奮がよみがえる!|セガトイズ】

【アストロシティミニ】

【収録タイトル(一部)】
「エイリアンシンドローム」
「エイリアンストーム」
「ゴールデンアックス」
「ゴールデンアックス デスアダーの復讐」
「コラムスII」
「ダークエッジ」
「タントアール」
「バーチャファイター」
「ファンタジーゾーン」
「獣王記」

 では、かつてのビデオゲームが熱かった時代に登場したゲームを満載した夢のハードは、いったいどのようにして開発されたのだろうか? 開発を担当した、セガトイズの下川智、青地優一両氏にお話を伺った。

【インタビュイーのおふたり】
下川智氏:セガトイズ企画本部 プロダクト企画部 シニアスペシャリスト。「それいけ!アンパンマン」、「クレヨンしんちゃん」、「爆丸」シリーズなど多数の玩具開発を手掛け、アストロシティミニでは企画を担当した
青地優一氏:セガトイズ企画本部 ハイターゲット企画部 シニアスペシャリスト。過去には自動演奏ピアノ型玩具、「グランドピアニスト」などの開発を担当。今回のアストロシティミニでは、「十数年ぶりに商品開発の現場に入りました」とのこと

表面から裏面まで、デザインも素材も本物そっくりに再現

――本日はよろしくお願いいたします。まずはアストロシティミニを作ろうと思ったきっかけから教えていただきたいのですが、本ハードの開発プロジェクトが立ち上がったのはいつ頃だったのでしょうか?

下川氏: 2018年ですね。

――今年でセガは設立60周年を迎えましたが、アストロシティミニも設立60周年のタイミングで出そうと意識していたのでしょうか?

下川氏: ええ。そのタイミングで何かやりたいなとずっと思っていました。我々以外にも、いろいろなアイデアがほかの社員から出ていたのですが、やはりセガとアーケードは切り離せない存在だろうと。そのなかでも、アストロシティはアーケード用のビデオゲーム全盛期の商品であるということで、アストロシティミニの商品化が決定しました。実はアストロシティミニ以外にも、初の国産ジュークボックスである「SEGA1000」のミニチュア版も出せないかと、私が企画を進めていたのですが、こちらは諸般の事情で残念ながら断念しました。

――今から2年前ということは、メガドライブミニの発売が2019年ですから、セガサミーグループ全体で見ても復刻ミニハードをまだ発売していないタイミングですよね? その時点で、すでにアーケードゲームのミニハードを企画されていたとは驚きました。アーケードゲームの復刻ハードを作ろうという発想は、どうやって思い付いたのでしょうか?

下川氏: 発想の原点は2つあります。まず1つ目は、ゲームセンターでビデオゲームが熱かった時代を蘇らせたいという思いでした。青地もそうですが、最初はセガに入社してからセガトイズに移って来たほかの社員ともいろいろと話をしていると、やはりゲームの思い出の発端はゲームセンターであり、アーケードゲームになるんですよ。じゃあ、それを蘇らせてはどうかというのが、ひとつの発端になりました。

 私は1990年にセガに入社したのですが、入社前からずっとセガのファンで、当時の流行は何だったかと言えばやはりアーケードゲームでした。昔は24時間ゲームセンターが営業をしていて、100円玉を筐体の上に積み上げながら、タバコが煙たいなかでよく遊んでいました。その頃はコミュニティのようなものはまだなくて、他人が遊んでいるのを盗み見ながらゲームが上達していくようなところがありましたよね。私が特にハマッたのが 「フリッキー」(※1) で、「これ面白いな。どこの会社が作ったんだろう?」と思って調べたらセガだったと。それ以来、セガのゲームにどんどんハマるようになったんです。

 もうひとつは、弊社が子供向けのパッドやPC用の玩具など、特に電子系の玩具を強みとしておりますので、その特長を生かせると思ったことですね。実は、かつてセガでゲームのハード開発を担当していた者が今でも弊社内におりますので、そのメンバーから協力も得られるというのもメリットになっていました。我々のアーケードゲームに対する熱い思いと、弊社ならではの強みを生かせる企画だなということで、アストロシティミニの開発がスタートしたわけですね。

※1……「フリッキー」: 敵のネコやトカゲに捕まらないように主人公フリッキーを操作し、ステージ内にいるすべてのピヨピヨ(小鳥)を捕まえて出口まで連れ出すとステージクリアとなるアクションゲーム。1984年に発売された。

――アストロシティミニの企画・開発を進めるにあたり、セガのゲーム開発部門の方々はどのような反応がありましたか?

下川氏: セガ歴代のタイトルは、グループ全体にとってもすごく大事な資産ですので、開発陣の皆さんにもいろいろと相談をしました。開発のほかにも、マーケティングやプロモーション、ライセンスなどグループ全体の関係メンバーの皆さんから、快くご協力をいただくことができましたね。お陰様で、アストロシティミニのオリジナルサウンドは Hiro師匠(※2) に作曲していただけましたし、プロモーション映像のナレーションには 光吉さん(※3) にご登場いただいております。皆さんの協力がなければ、アストロシティミニのプロジェクトは成立しなかったと思いますので、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

※2……Hiro師匠: 「スペースハリアー」、「ファンタジーゾーン」など、数多くのセガ作品で作曲を担当したゲームミュージックの巨匠。現在は音楽ゲーム「maimai」シリーズのサウンドディレクターとしても活躍中。

※3……光吉さん: 光吉猛修氏のこと。「バーチャファイター」シリーズのアキラやカゲのボイスを担当し、「デイトナUSA」や「セガラリー」のテーマ曲ではボーカルを務めたことはあまりにも有名。

――セガ製の汎用ビデオゲーム筐体は、アストロシティのほかにもエアロテーブルやエアロシティ、あるいはブラストシティなど多くの機種がありますが、なぜアストロシティを選んだのでしょうか?

下川氏: 企画段階では、今おっしゃったような機種など、いくつかの候補がありました。そのなかから、今回のメインタイトルは「バーチャファイター」ということで、当時のゲームセンターで「バーチャファイター」が動いていた筐体と言えば、やはりアストロシティだろうということで選びました。おそらく、皆さんも当時のゲームセンターで一番目にした筐体であり、思い出が最も詰まっているのがアストロシティではないかと思います。

――アストロシティミニのサイズはどのぐらいでしょうか?

青地氏: アストロシティの約6分の1です。数字で言いますと、幅が130mm、高さが170mm、奥行が170mmですね。ただし、ボタンは6分の1にすると小さ過ぎて押しにくくなってしまいますので、約2分の1にデフォルメをしました。こちらも正確に言うと、オリジナルの56パーセントのサイズにしてあります。レバーのシャフトも金属製にして、なるべく本物の構造に近いものにしようとこだわって作りました。

下川氏: 実際にレバーを触っていただければ、本物と同じような感触になっていることがわかると思いますよ。

――(実際に動かしながら)確かに! ちゃんと「カチカチ」という、シャフトがマイクロスイッチに触れたときの感触が手に伝わってきますね。

青地氏: そうなんです。ちゃんと中にスイッチが4個入っていて、上下左右だけでなく、ナナメも含めた8方向すべてに入力できるようにしました。それから、先端のボールの部分も本物と同じネジ式になっていますので、手で回せば外れるようになっていますよ。

元祖アストロシティの6分の1サイズに設計されたアストロシティミニ。ちょうど片手で持てるぐらいの大きさだ
ボタンは6個あり、約2分の1の押しやすいサイズに調整。コンパネ部分の形状、色合いも忠実に再現している

――今、本体を触らせていただいたところ、素材も本物のアストロシティと変わらない印象を受けました。素材もオリジナルの筐体と同じものを使っているのでしょうか?

青地氏: はい。製造方法は違いますが、アストロシティと同じ樹脂を使っています。アストロシティは、セガ初となる樹脂を使用した筐体で、3次曲面がすごくきれいに表現できるようになったことによって、それまでの エアロシティ(※4) から一気にフルモデルチェンジしたんですね。その図面をセガさんからご提供いただくとともに、監修もお願いしたうえで作りました。

 スピーカーも、本物と同じく上部に置いてステレオ出力に対応していますし、蛍光灯が入っていた部分にはLEDがちゃんと点灯するようにもなっています。それから、お客さんが普通は見られない、裏面のデザインもきちんと再現しました。ただし、コロ(キャスター)は付いていないですけどね。

下川氏: これこそがまさに、我々のこだわりですね。

※4……エアロシティ: 1988年にセガが発売した、アップライト型のビデオゲーム汎用筐体の一種。サイズはアストロシティよりも小さかったが、素材が金属製であったため、重量はアストロシティよりもやや重い。

電源をオンにすると上部のLEDがちゃんと光る。この緑色を見るだけでも、アストロシティが現役だった時代を知る人であれば懐かしさがこみ上げてくるハズ
運搬時につかむ取っ手のデザインなど、裏面の形状も忠実に再現。下部左側の黄色いツマミは電源スイッチで、以下、左から順にHDMI、ジョイスティック用のUSB(2ポート)、イヤホンジャック、電源用のmicro USBの接続端子が付いている

収録タイトルは移植の難易度よりも面白さ優先で決定。スタッフの「セガ愛」を結集させて商品化に成功

――アストロシティミニで遊べるゲームは、全36タイトルと伺っております。数あるセガ作品のなかから、収録タイトルをどのようにして絞り込んでいったのですか?

青地氏: セガさんのアーケード部門の方々にも、「どれがいいですか?」とお尋ねしているうちに、どんどん話が広がってたくさんの案が出てきましたね。「メガドライブミニ」を開発された奥成(洋輔氏)さんともお話をして候補を出していただいたら、絞り込むどころか60~70タイトルぐらいの候補が出てきてしまいまして……。

下川氏: そうそう。逆にどんどん肥大化していったような気が(笑)。

青地氏: 数ある候補のなかから、コアユーザーの皆さんにきちんと刺さるタイトルはどれなのかを重視しつつ、過去に移植されたものとダブっていても、「これは定番タイトルだから必要だ」とか、あるいは「意外性のあるものはどれだろう?」と考えながら選んでいきました。

下川氏: 最初はアーケードゲームとして出たタイトルが、後にメガドライブなどの家庭用にもたくさん移植されましたが、移植版はハード性能の制約上、どうしてもアーケード版と同じ表現ができなかったものが多かったんです。そこでアストロシティミニでは、オリジナルの良さをもう一度、新しく価値があるものとしてご提供できるものにしたいと思っております。最終的に収録タイトルをどうするのかは、実は今なお苦悩の最中なんです。

――発表済みの10タイトルを見てみますと、「ファンタジーゾーン」などシステム16基板を使った作品が目立つ印象を受けました。収録タイトルは技術的に移植がしやすいよう、システム基板の種類も考慮したうえで決めたのでしょうか?

青地氏: いいえ。あくまでタイトルありきで、自分たちが移植したいものを優先して選びました。「このシステム基板の移植は難しいから」などと言っているようでは、この商品を作る意味がないだろうと。で、選んだのはいいけども、本当に作れるのかなといろいろやっているうちに、もう作り始めてから2年も経ってしまったのですが……。

――古いタイトルを移植・再現するにあたり、特に苦労されたのはどのような点でしょうか?

下川氏: ゲームの基板を集めるのに苦労しました。あらゆる関係各所を駆けずり回って探しましたが、トラブルも多かったですね。

青地氏: ROMが古過ぎて読み込めないこともありました。同じタイトルでも、見た目はそっくりだけど実際には違うバージョンがいくつか出ていたりとか、開発部隊の誰が何を持っているのかとか、我々のほうでも手を尽くしていろいろと調べました。

下川氏: アストロシティミニは、オリジナルの基板から直接移植することにこだわっていましたので、昔の基板をせっかく発掘したのに、全然動かなかったこともあったのでたいへんでしたね……。

青地氏: セガの方々に、「この基板を解析できませんか?」と尋ねて回ったりもしました。皆さんからは本当に快くご協力をいただけて、この仕事を通じてセガ愛の強さをすごく感じました。

下川氏: アストロシティミニを作ることができたのも、かつて現場にいた皆さんのご協力があったからこそですよね。オリジナルを作ったメンバーが、今回のためだけに再集結してくださったりして、本当にありがたかったです。

――ほかの収録タイトルも、当然ですがたいへん気になるところです。残りの26タイトルの発表はいつ頃になるのでしょうか?

下川氏: 今後順次発表させていただく予定です。PVも公開していきます。ほかにも、ファンの皆さんにお楽しみいただけるネタをいろいろと仕込んでいます。こちらも段階的に公開できればと思っておりますので、ぜひご期待ください。

――アストロシティミニの価格は12,800円とのことですが、開発者であるおふたりから見ても、お得感のある商品ができたという手応えはありますか?

青地氏: はい。これだけのタイトル数を収録して、LCD(液晶)画面もちゃんと付いていますのでそれはもう!(笑)

下川氏: ファンの皆さんにとっても、お値段以上のお得さがきっとあるものと思っております。アーケードゲームのオリジナル版が、これだけのラインナップがそろって、しかもアストロシティの形状をしたミニ筐体で遊べますからね。

――HDMIケーブルをつないで、映像や音声を出力することもできるのでしょうか?

青地氏: もちろんです。HDMI出力を用意しないと、ファンの皆さんがガッカリしてしまいますので。

――いただいた資料によりますと、別売りの専用コントローラーも発売するそうですね。

下川氏: はい。「アストロシティミニ コントロールパッド」を、本体と同時発売する予定です。アストロシティにつなぐパッドというのは、まさに本邦初ですよね。

――「コントロールパッド」はどのようなものになるのでしょうか? 家庭用のメガドライブのパッドと同様のデザインにする予定でしょうか?

青地氏: そうですね。ファンの皆さんは、おそらくメガドライブのパッドが一番使い慣れているのではないかと思いますので、信頼性の高いパーツを使ったうえで、オリジナルの良いものを作ろうと思います。「バーチャファイター」などのゲームでも、コマンドが正確に入力しやすい、セガ愛に満ちあふれたものにしたいと思いますので、デザインも含めてこちらもぜひご期待ください。

【アストロシティミニ コントロールパッド】
※監修中につきデザインは変更となる場合があります

――ちなみにアストロシティミニは、2人以上の同時プレイ、または対戦プレイにも対応しているのでしょうか?

下川氏: 「ゴールデンアックス デスアダーの復讐」のように、ゲームによっては3人あるいは4人まで同時にプレイできるものもあるので、そこも含めてきちんと再現したかったのですが、どうしても通信機能に関してはオミットせざるを得なかったため、たいへん申し訳ないのですが2人プレイまでの対応となります。2人で遊ぶ場合は、1人は本体のレバーとボタンで操作し、もう1人がコントロールパッドを1台接続してプレイするか、またはコントロールパッドを2台接続して2人で遊ぶこともできますよ。

「ゴールデンアックス デスアダーの復讐」は、本来は4人まで同時プレイが可能だが、アストロシティミニでは2人同時プレイまでの対応となる

――本物の基板と同様に、ディップスイッチやテストモードを動かして、タイトルごとに難易度などの設定をいろいろ変えながら遊べる機能もあるのでしょうか? 私もそうですが、アーケードゲーム好きにとっては基板をいじれるような機能があるととてもうれしいのですが……。

青地氏: それも実現させたかったのですが、商品としてご提供することを考えると、どうしても難しい面がありました。ですので、アストロシティミニでは一定の設定でのみ遊べるように作らせていただきました。

――メガドライブミニやゲームギアミクロと同様に、プレイデータをセーブする機能も付いていますか?

青地氏: はい。タイトルごとにセーブできます。アーケードゲームは、本来は1コインでどこまで進めるかという遊び方をするものですが、アストロシティミニでは、もし後半のステージにうまく進めた場合は一度データをセーブしておけば、そこから何度でも挑戦して楽しんでいただけるようにしています。

――楽しいお話をもっとお聞きしたいところですが、そろそろお時間が迫ってまいりました。それでは最後に、GAME Watch読者に向けて、おふたりからメッセージをお願いします。

下川氏: 今は40~50代の皆様が、かつて熱い思いを持ってゲームセンターで遊んでいたゲームを蘇らせたアストロシティミニを、自信を持ってお贈りします。ぜひ発売までお楽しみにしていてください。

青地氏: ゲームセンターでビデオゲームが熱かった時代に登場したセガのタイトルは、今遊んでも面白いなと改めて痛感しました。今回のアストロシティミニに収録させていただく、オリジナルのタイトルを開発された皆さんのクリエイティビティや遊び心には感銘を受けました。当時の開発スタッフは、皆さん本当に若いんですよね。私が93年に入社した当時、セガ社員の平均年齢は27歳でしたから、おそらくスタッフの大半は20代だったと思いますが、今でも十分に楽しめるものを若かりし頃の皆さんが作っていたのが、セガのすごいところではないでしょうか。

 そんな素晴らしいゲームを、アストロシティミニではしっかりとパッケージングしたうえで、世に出さなくてはいけないという使命感、責任感を持って開発をしております。きっと皆さんのご期待に添える商品になっていると思いますので、ぜひご期待ください。

――ありがとうございました。収録タイトルなどの続報、発売を楽しみにしております!