【特別企画】

【アストロシティミニ全タイトルレビュー】「ダークエッジ」

「バーチャファイター」の原点!? 史上初の3D対戦格闘ゲーム!!

導入年:1993年

基板:System32

開発:セガ

 アストロシティミニの収録タイトルの中で、間違いなく目玉の1本となる「ダークエッジ」。こちらも「アラビアンファイト」や「ゴールデンアックス デスアダーの復讐」同様、過去に1度も移植されていないレア度の高い作品である。

 本作がアーケードで稼働したのは1993年。1991年にはカプコンの「ストリートファイターII」やSNKの「餓狼伝説」などの作品もリリースされており、ゲームセンターは格闘ゲーム全盛期の時代に突入していた。

 「ストリートファイターII」の影響を受けてさまざまなメーカーが2D格闘ゲームを乱発している時期に、ここでもやはり時代の先を突き進んでいくのがセガ。まだ誰もが見たことがない“3D対戦格闘ゲーム”を1993年に作ってしまったのだから驚きだ。

 3D格闘ゲームとは言っても「バーチャファイター」のような3Dポリゴンではなく2D作品。対戦フィールドの中をキャラクターが360度(正確には8方向なので各45度)自由に行き来することができるのが特徴。「アラビアンファイト」で見せたキャラクターの拡大縮小機能をふんだんに盛り込み、奥行きのある空間を見事に表現した疑似3D格闘ゲームである。

 まさに「十年早いんだよ!」と言いたくなる意欲作「ダークエッジ」。知らない人も多いであろうこの作品について語っていきたい。

拡大縮小機能をフル活用。平面とは思えない映像だ
奥から手前に飛んでくる見せ方も迫力がすごい

 2Dで3Dの格闘ゲームという時点ですでに斬新過ぎるのだが、本作は世界観も当時の格闘ゲームでは類を見ない設定だった。

 時代は遥か未来。巨大コンピュータ「RULER」が支配する世界で、6人のアウトサイダーたちが支配からの解放のため「RULER」の破壊を目指すというストーリー。”格闘家たちが最強の座を目指して格闘大会でぶつかり合っていた”1990年代の王道設定とはひと味もふた味も違う尖った世界観。人を選びそうな作風だが、その分熱狂的なファンも多い。

荒廃した世界観が良い味を出している

 本作のプレイアブルキャラクターは6人。昨今の格闘ゲームと比べると少ない感じもするが、通常の格闘ゲームとは違い横向きだけではなく、1キャラごとに正面や背面の絵も用意しているので、そのデータ量や労力を考えると十分すぎる人数だ。

 戦いに参加するのはグラサンを掛けたアメリカ人の侍や、遺伝子操作で生まれた生物兵器、自らを改造して人間をやめたサイボーグなど、世界観もさることながら登場キャラも尖った濃いメンツが揃っている。筆者個人としては、この前衛的過ぎるキャラクターたちは正直ドストライクである。

2本の刀を使う侍「THUD」
女性格闘家「GENIE」
パワードスーツを身に着ける「GOLIATH」
謎の生物兵器「BLOOD」
銃火器のプロフェッショナル「M.E.K.」
改造サイボーグ「YEAGER」

 そして問題のゲーム内容なのだが、直球で言うと本作はお世辞にも傑作とは言い難い仕上がりだったりする。もっとも最初に挙がる理由としては本作特有の独特過ぎる操作感だ。

 驚きも大きい360度バトルなのだが触ってみると弊害もあり、まず格ゲーの基本であるガードがなかなかに難しい。従来の格闘ゲーム同様、自キャラの後ろ方向にスティックを入れれば攻撃をガードすることができる。通常の2D格闘ゲームなら基本は横向きなのでガード入力は左右どちらかだけなのだが、本作では8方向に移動できるためガード方向も8パターン存在する。自分の立ち位置で変わるガード方向を瞬時に判断して成功させるのはかなり慣れが必要である。

この場合は下入力でガード
この状況なら左斜め上。頭では分かっていても咄嗟に判断するのが難しい

 ガードよりも厄介なのが必殺技だ。必殺技コマンドもガードと同じく立ち位置次第で入力するコマンドが変化する。テンキー表記で例を挙げると、自キャラが左にいる場合の波動拳コマンドなら「236」という入力になるのだが、自キャラが右奥にいたなら「987」というコマンドに変化する。今、キャラの立ち位置とコマンドを想像しながら書いているだけでも頭がおかしくなりそうなのに、これを目まぐるしい戦闘中に一瞬で考えて入力していくのはもはや脳トレの域である。

 本作独自のゲーム性を紹介するとどうしてもネガティブな感じな見え方になってしまうが決して駄作ではない。従来の格闘ゲーム以上に敷居は高く難しいが、最初のハードルを越えられれば他の格闘ゲームでは味わえない面白さが「ダークエッジ」にはある。

どんな状況でも正確に必殺技が出せれば、戦いがかなり有利になる

 おぼろげながらこのゲームのCPUが結構強かったように記憶していたが、実際にプレイしてみると全く記憶通りで、4戦目辺りからは敵の強さが格段に上がってくる。

 プレイアブルキャラの6人を倒すと中ボスの殺戮マシン「RAM-X」との戦闘に入る。こいつのスピードと火力が全キャラ中最高レベルのぶっ壊れ性能で、正面から正攻法で戦ってもまず勝てない。必勝パターンはミサイルを4発撃ってきた後にRAM-Xは必ず突進をしてくるので、そこに合わせて攻撃を置いておく。的確にダメージを与えられればこの行動だけで倒すことができるのでぜひ試してもらいたい。

4戦目から難易度が急上昇。ここからはコンティニュー地獄に突入
中ボス戦の前には「スペースハリアー」風のミニゲームが入る
最強キャラのRAM-X。ミサイルと突進をフルで食らってしまうと1セットで7割近くのダメージ
RAM-Xのミサイルはガード入力しつつ移動で回避
ミサイル発射後、飛んできたところに攻撃を重ねる。タイミングはシビアなので慣れが必要

 RAM-Xを撃破すれば、ついにラスボスの「RULER」戦。RULERは巨大コンピュータなので一切動いてくることはなく、ただひたすらに飛び道具を飛ばしてくるだけという固定砲台のような相手だ。RULERの攻撃は火力が高いので、距離を取って攻撃を左右にかわすのが重要。回避しながらこちらも飛び道具で応戦すれば割と簡単に倒すことができる。

セリフから悪者感全開のラスボスの「RULER」
攻撃をかわしつつ飛び道具で反撃だけでOK。ラスボス戦はそれほど難しくはない

 今回、軽く20年以上振りにプレイしてみたが、やはり最初は操作に困惑するものの思ったように動けてくると途端に面白くなってくるから不思議な作品だ。キャラクターのグラフィックスもすこぶるカッコいいので注目してもらいたい。

 3D格闘ゲームの処女作となる「ダークエッジ」は操作面に難があるのは揺るぎない事実だが、本作があったからこそ洗練された「バーチャファイター」が完成したのではないかと勝手に想像している。サイバーパンクな世界観や、クセだらけのキャラクターたちに好感が持てる人はぜひプレイしてもらいたい作品だ。