インタビュー

「Ghost of Tsushima」は「日本時代劇へのラブレター」の思いで作られていた

お辞儀も納刀もすべては“侍になりきる”ため! クリエイティブディレクターインタビュー

7月17日 発売予定

価格:
6,900円(税別、パッケージ版)
7,590円(税込、DL通常版)
8,690円(税込、デジタルデラックスエディション)

 「『Ghost of Tsushima』は、日本時代劇へのラブレターだ」。本作クリエイティブディレクターのNate Fox氏は、弊誌のインタビューにそう話してくれた。

「Ghost of Tsushima」クリエイティブディレクターのNate Fox氏。現在は本作のパッチの開発作業に従事しており、DLCや続編について言及できることはないとのこと

 Nate氏いわく、「時代劇が大好きなアメリカ人たちが想いを込めた」のが本作。日本の時代劇、侍というヒーローへの憧れや思い入れを「Ghost of Tsushima」に託したのだとした。

 そして、こうした思いを実現するために、本作はあらゆる点で「中世日本の侍になる」ための要素を積み重ねている。それは、過去の時代劇から大きな影響を受けている。

戦いのあと、静かな時間が流れるのが「侍」

 たとえば、本作には納刀やお辞儀といったアクション操作がある。戦いのあと、敵の死体にお辞儀をしたり、刀に付いた血をピッと払い、スッと納刀できるものだ。

 面白いのは、こうした動作がプレイする上、攻略する上では決して必要ないこと。それでもひとつのアクションとして入れているのは、「敵を切り捨てるだけではなく、侍にはその前後の静寂が必要と考えたから」。熾烈な戦いのあと、独特の余韻を残す。この余韻に「侍らしさ」を宿らせている。

血で濡れた刀をピッと払い、ゆっくりと鞘に収める。この余韻が味わい深い

 ほかにも、主人公の境井仁が各地の村を訪れると、座っている人もわざわざ立ち上がって丁寧にお辞儀をしてくれる。これも時代劇の影響で、特に黒澤明監督の「七人の侍」の存在が大きい。

 こうした時代劇では、侍は「高貴な守護者」として描かれる。農民や庶民から敬意を受け、また侍も人々を保護し、大切に思っているような関係。“侍になりきる”ことは、周りの人々とのやり取りも含めて時代劇の中に入り込むこと。だからこそ、こうした細かいリアクションを入れているのだとした。なお「七人の侍」のエッセンスは、本作のあらゆる部分に行き渡っているそうだ。

何も知らないで「こういう時代劇があってね」と言われたら信じてしまいそうな「黒澤モード」でのスクリーンショット

「武士道を捨てなくてはならない侍」はストーリーの核

 ストーリーでは、仁は「侍の誉れ」と「手段を選ばない逆襲」の相反する思いに深く悩むことになる。筆者が書いた「Ghost of Tsushima」レビュー記事でも強調したが、この悩みはストーリーの軸だ。

 Nate氏によれば、「侍が、自分の守ってきた武士道を捨てなければならない」、「それまでの誇りある戦いではなくて、愛する人々を守るためにゲリラ戦のような方法で戦う」といった着想は最初からあったそうだ。

誉れか、邪道か。本心とは裏腹の戦いに身を投じる境井仁

 そこから、誉れを築き上げ、守るために日々努力する姿だったり、一方で誉れを破ることで今までにないような戦い方ができる、といった部分を補強して「Ghost of Tsushima」のストーリーが作り上げられていった。

 多くのゲームではステルスキルが当たり前になっているが、本作の仁は違う。誉れを破る行動は、本来の仁の性格からすれば「抵抗がある」わけだ。この設定こそが、「Ghost of Tsushima」の核になっている。

 それにしてもプレイ中、「“侍の誉れ”という感性が日本独特すぎて世界的に理解されるのだろうか」と心配だったのだが、Nate氏はむしろ「武士道や名誉の掟は、想像以上に世界中で知られている。侍が人気になった理由のひとつに、武士道や“侍の誉れ”があると思う」と教えてくれた。名誉を重んじる侍の姿が世界で知られているからこそ、本作ではその感性が前面に出ているのだろう。

ヒーローとしての侍、武士道精神にたっぷり触れることができる

仲間のストーリーは「仁の内面の反映」でもある

 本作には仁以外にも、石川先生や安達政子といった人物が登場する。彼らはともに蒙古を打ち破らんとする仲間であり、助太刀することで彼ら自身の物語も体験できる。

 こうした物語では、蒙古襲来にどう対応し、どう生き抜いていくかを仁以外の視点で多角的に見せていく。これにより、「Ghost of Tsushima」の世界をより深く体験できるようになっている。

 またNate氏は、彼らの物語は「仁とどこかしら呼応する部分がある」ように描いているのだとした。たとえば石川先生は、弓の弟子だった巴と仲違いしているが、これは仁に武士道を教えた志村と仁自身の関係に似ている。

弟子だったが、自身を裏切った巴を追っている石川先生

 あるいは安達政子は家族を皆殺しにされ、その復讐心で暴走寸前だが、仁にも同じような思いを抱えている部分がある。仁の内面にある思いが極端に表われた人物が仲間たちであり、そうすることで「仁も、もしかしたらこうなっていたかもしれない」という可能性を見せているのだとした。

 Nate氏は「Ghost of Tsushima」について、制作の背景を「マカロニ・ウェスタン」に例えた。マカロニ・ウェスタンは、イタリアで制作された数々の西部劇のこと。その裏には、イタリア人がアメリカのウェスタン映画で育った環境があった。国が違えど、まさに「Ghost of Tsushima」の背景と一致するわけだ。

 マカロニ・ウェスタンからは「The Good, The Bad and The Ugly(邦題:続・夕陽のガンマン)」など傑作が数多く残されている。Nate氏は最後に、「マカロニ・ウェスタンはウェスタン映画文化に貢献していると思う。同じように、本作で日本のみなさんの興味を惹いたり、時代劇という文化に貢献できたら嬉しい。我々の時代劇を、ぜひ楽しんでほしい」と語った。

剣術のアクションは殺陣の専門家を呼び、実際にモーションキャプチャーも行なっている。なお、剣術に関しては「天心流」をベースにしている