【特別企画】
【アストロシティミニ全タイトルレビュー】「バーチャファイター」
「筐体の中で人が動いている!?」 誰もが驚かされた、3D対戦格闘の始祖
2020年12月15日 00:00
「アストロシティミニ」に収録されたタイトルの中でも、特に存在感の強い対戦格闘アクション「バーチャファイター」は、1993年にアーケードに登場した。リリース当時のアーケード市場は、対戦格闘ゲームの最初のピークを少し過ぎた頃で、各社がヒットタイトルの続編やアップグレード版をリリースし、さらには新しい駆け引きを模索していた中での本作の登場に、プレーヤーはもちろん、ゲーム業界全体が震撼したのだ。
それまで2Dのドット画で表現していたグラフィックスが、ポリゴンによる3Dとなり、それが秒間30フレームという滑らかなアニメーションで動いている。その当時のアーケードゲームで3Dポリゴンを採用していたタイトルはレースやシューティングなどが主だったが、まさかの対戦格闘アクションへの採用である。無数の多面体で構築されたソリッドなキャラクターは、ドット絵とはまったく違う雰囲気があり、そのシンプルさから「ダンボールのようだ」と評されたこともあったようだが、筆者には当時最先端だった3DCGのキャラクターが滑らかに動く様子は純粋に格好良く見えたのだ。さらにアドバタイズやリプレイでは、その姿があらゆる角度から映し出され、2Dのグラフィックスでは決して味わえないキャラクターや技の魅力を引き立たせていた。
さらにキャラクターのモーションも従来の格闘アクションとは一線を画し、画面の中で本物の格闘家が動いているように感じられた。かつて週刊少年マガジンに掲載された「ゲームクリエイター烈伝 バーチャファイターを創った男達」というドキュメント漫画に、セガ第2AM研究開発部(AM2研)ディレクターの鈴木 裕氏の、本作に実戦の動きを導入することを開発陣に促すために、「今からオレを殴ってみろ!!」という名セリフがあり、それが事実なのか漫画的な演出なのかはわからないが、とにかくゲームに登場するキャラクター達のモーションは現実味があり、同作中で強調されていた技を食らったときの“痛さ”もその見た目から感じることができた。当時はまだモーションキャプチャーの技術がなく、その全てが手付けだったというから驚きだ。
グラフィックスは3Dで、キャラクターが戦う四角形のリングにも奥行があるが、対戦システムは原則的に2Dで、向かい合ったキャラクターが左右に並ぶ画面構成となっている。技の判定などによってキャラクターの位置関係が奥にずれることもあるが、両者が動ける状態になったときは向かい合い(状況によって相手に背を向けることもある)、カメラも両者を横から捉える位置に補正される仕組みだ。
レバーと3ボタンでプレイする操作系もまた、対戦格闘ゲームとしては革新的であった。ボタンの内訳はガード・パンチ・キックで、特にボタンで行なうガードは、筆者も慣れるまでしばらく戸惑った記憶がある。技に飛び道具はなく、上段・中段・下段の打撃技と、上段・下段・背面の投げ技を使った肉弾戦が展開する。レバーとボタンの入力により様々な技が繰り出され、モーションやダメージもそれぞれ異なり、相手の技の出がかりやジャンプ時などに技を当てるとダメージが1.5倍になるカウンターの概念も導入されている。投げ技は通常、特定の範囲にいる相手に対しガード+パンチのボタン同時押しで出るが、コマンドの投げ、しゃがみ状態や背中を見せた相手への投げ、さらに相手の技を受け流す投げ技なども存在する。一方ガードは上段(立った状態)と下段(しゃがんだ状態)があり、原則として前者は上段・中段攻撃に、後者は下段攻撃を防げる(上段攻撃は当たらない)が、それぞれの投げ技には無力で、こうした攻防の駆け引きが対戦時の深い読み合いを生んでいる。
プレーヤーキャラクターは個性的な8人で、それぞれ異なる流派に基づく固有技を持っている。固有技の種類はキャラクターごとにまちまちで、性質もまったく異なっている。当時筆者は、ジャイアントスイングが豪快なプロレスラーのウルフを使っていたが、後に漫画の「拳児」を読んでからは、八極拳のアキラを使っていた時期もあった。またもしこの「アストロシティミニ」で初めて本作に触るという人には、技が多彩で切れ味もあるジャッキーかサラのブライアント兄妹をオススメするが、色々と試してみて、プレイスタイルに合ったキャラクターを見つけられれば、さらに楽しめることは間違いない。
2Dの対戦格闘とはかなり違う駆け引きが繰り広げられた本作は、新たなファンを獲得し、ゲームセンターを舞台とした対戦シーンは一つのカルチャーにもなった。当初からゲーム関連の執筆業に携わっていた筆者は、当時発売された本作の攻略本「バーチャファイターマニアックス」の内容には大いに感銘を受け、少なからず影響を受けたという思い出もある。またアーケード版の開発陣であるAM2研が移植を手がけた翌1994年発売のセガサターン版は完成度が非常に高く、ハードのローンチに貢献したことも印象深い出来事だった。同じ1994年には、次世代のシステムボード「MODEL2」を採用した続編「バーチャファイター2」がアーケードでリリース。キャラクターや技が増え、テクスチャマッピングにより人間味が増したキャラクターの描画や秒間60フレームというさらに滑らかな動きを実現し、ゲーム内容はもちろん、ゲームを取り巻くシーンもさらに充実していくわけがだが、それについてはまた別の機会に触れられればと思う。
家庭用ゲーム機では、前述のセガサターン版やメガドライブのスーパー32Xなどにも移植されたが、アーケード版を完全再現したものはこの「アストロシティミニ」版が初めてとなる。今年は「バーチャファイター×esports」プロジェクトが発表され、シリーズの新たな動きに大きな注目が集まっている。その始祖である本作をぜひこの機会にプレイして、新展開への期待を高めてほしい。
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