【特別企画】

【アストロシティミニ全タイトルレビュー】「ドットリクン」

今や幻のゲーム、まさかまさかの移植が実現。これを遊べば、今日からキミも業界通になれるかも?

導入年:1990年

基板:アストロシティ同梱基板

開発:セガ

 「ドットリクン」は元祖アストロシティに同梱されていた基板で遊ぶことができたゲームだが、実際に稼働させていた店舗はおそらく皆無と思われる、今となってはまさに幻の1本だ(※なぜ皆無だったのは後述する)。

 「Λ」型のプレイヤーキャラクターをレバーで操作し、「×」型の敵キャラを避けながら画面内にあるドットをすべて取るとステージクリアとなるアクションゲームで、セガが1979年に発売した「ヘッドオン」によく似ている。Dボタンを押すとプレイヤーキャラクターが加速し、Eボタンを押すとポーズがかかる。またクレジットボタンを押すとごとに、背景およびキャラクター、フォントのカラーが切り替わるようになっている。

「ヘッドオン」をほうふつとさせる、いたってシンプルなドットイート型ゲーム。ゲーセン店員の経験者以外には、本作の存在を知る人はおそらく皆無だったことだろう

 写真を見ていただければ明らかなように、本作はアストロシティと同梱、つまり1990年に発売したタイトルだが、まるで70年代に逆戻りしたかのような、これ以上ないほどにシンプルなゲーム画面だ。では、セガはこんなゲームの基板をわざわざ作ったのはなぜなのか? その理由は、法律の関係でアストロシティを単体で販売することができず、何かしらのゲーム基板をセットにして販売する、すなわちアストロシティという筐体ではなく、「ドットリクン」というゲームを売るという形で出荷しなくてはいけないという事情があったから。つまり、本作の基板が製造された数は筐体の販売数とイコールになる。本作が「最も売れたアーケードゲーム」とも言われる所以は、実はこれが理由だったのだ。

 発売当時、仮に本作をゲームセンターで稼働させたとしても、ひと目見ただけで100円玉を投入して遊ぼうと思う人は(たいへん失礼ながら)まずいないだろう。ならば、ゲームセンター側には何のメリットもないのかと言えば、必ずしもそうではない。なぜなら、前述のカラーが切り替わる機能を利用して、当時のRGB出力によるブラウン管のモニターを使用するにあたり、カラー出力の調整用テスト基板として使えるからだ。

 なお、本作はサウンドがまったく用意されていので、音声出力のテストには使えない。あえてサウンドを省き、ビジュアルも極力シンプルにしたのは、オペレーター(ゲームセンター側)に余分なコストを払わせないようにという配慮のためと思われる。また、ポーズボタンが付いていることからも明らかなように、本作はゲームセンターへ遊びに来る客に向けたというよりは、オペレーターだけが使うことを前提として作られた、まさに「業務用ゲーム」なのだ。

【モニターのカラー調整に使える「ドットリクン」】
カラーのパターン変更機能を使用したところ。本機で利用する意味は特にないが、ぜひ一度お試しを

 上記のような事情によって生まれた、世間的にはほとんど知られていない本作の収録が実現したのは、これもある意味夢の移植と言える。そんな「業務用ゲーム」に対し、重箱の隅をつついて良し悪しを語るのは野暮というものだろう。

 ちなみに、本作のステージ構成を真面目にご紹介すると、1面をクリアして2面に進むと敵キャラのスピードがアップする。3面からは敵キャラが2体に増え、4面では2体のうち1体のスピードが速くなるといった具合に、徐々に難易度が上がる仕組みになっている。いわゆる残機ストックやエクステンドはなく、敵キャラに1回触れただけで即ゲームオーバーになってしまうが、今となっては貴重な本作をこの機会にぜひ遊んでいただきたい。

ステージが進むごとにどんどん難しくなる。一度のミスで即命取りとなるが、腕に自信がある方はおのれの限界にチャレンジしていただきたい
メニュー画面で本作を選択したところ。あえて遊び方を説明せず、「最初に入っているやつ。」というシンプル、かつ投げやり気味のひとことだけを表示することで、実にいい味を出している