【特別企画】

「高田馬場ゲーセンミカド」池田稔店長と、アストロシティに賭けた青春、思い出をとことんまで語り尽くす!

アストロシティミニ発売記念特別対談“俺たちのアストロシティ”

【アストロシティミニ】

12月17日発売予定

価格:12,800円(税別)

 いよいよ発売される、セガ懐かしのアーケードゲーム37タイトルを収録したアストロシティミニ。そのモデルとなった汎用ビデオゲーム筐体、元祖アストロシティは1993年に発売され、とりわけ対戦格闘ゲームの大ブーム期を支え、長らくプレーヤーおよびゲームセンターを経営するオペレーターに愛され続けた。

 発売からすでに27年が経過した古い筐体ゆえ、今ではセガの直営店でもほとんど見掛けなくなり、特に20代以下の若いプレーヤーは、アストロシティに触れた経験はほとんどないと思われる。ところが、現在でもアストロシティ、および同シリーズの各種筐体が現役バリバリで多数稼働し、店を支えているゲームセンターがあるのをご存知だろうか?

 と、ここまで書けば、熱心なアーケードゲームファンの方であればお察しがつくだろう。そう、今や日本一、いや世界一有名なゲームセンターと言っても過言ではないであろう、東京・高田馬場にあるゲーセンミカド(以下、ミカド)だ。当サイトではアストロシティミニの発売にあたり、そのルーツを改めて振り返る企画は何かできないものかと以前から考えていたが、ここはやはり長年にわたりアストロシティを知り尽くした、同店の店長で「イケダミノロック」こと池田 稔店長にお話を聞くしかないという結論に至った。

 ゲーム大会のイベントやネット配信を日々精力的に実施し、先月は3号店を新たにオープンさせるなど多忙を極める池田店長だが、ありがたいことに本取材のご快諾をいただいた。ひとりのゲームファンとして、そしてゲームセンターのオペレーターとして、長年にわたりアストロシティに心血を注ぎ、筐体の表も裏も知り尽くした池田氏に、夢中になったゲームやメンテナンス中の忘れられない思い出など、本機に込めた思いを存分に語っていただいた。筐体やゲーセン運営の歴史に残る、貴重な証言もたくさんいただいたので、最後までぜひご一読を!

高田馬場ゲーセンミカドの池田 稔店長
今やアーケードゲームファンの聖地と化した、高田馬場ゲーセンミカド

当時としては画期的な大画面を搭載。店員目線で見たアストロシティの特徴とは?

――本日はよろしくお願いいたします。まず最初に、池田さんがアストロシティと最初に出会ったきっかけからお聞きしたいのですが、この筐体で初めて遊んだ時期やゲームは覚えていらっしゃいますか?

池田氏:初代「バーチャファイター」がゲーセンに入ったのが最初のきっかけです。「バーチャファイター」が出た1993年は、私がちょうど高校を卒業してゲーセンで働き始めた頃で、店の筐体がエアロシティ(※1)からアストロシティに切り替わるタイミングを、プレーヤーとしても店員としても経験しました。

※1……エアロシティ:1988年にセガが発売した、アップライト型の汎用ビデオゲーム筐体。シティシリーズ筐体の先駆けで、全国各地の店舗に広く普及した。

――奇しくも、池田さんとアストロシティはゲーセンで仕事を始めたのが同じ年だったんですね! では、筐体を見たときの第一印象はいかがでしたか?

池田氏:画面がデカイなあと。エアロシティのモニターのサイズが26インチで、アストロシティは29インチでしたから、特に縦画面のシューティングゲームを遊ぶ場合は、画面がデカ過ぎてちょっと見にくいなあと正直思いましたね。ブラウン管がむき出しの筐体でしたから、プレーヤー目線で見ると画面がとても綺麗だった印象もあります。

 店員目線でお話をしますと、ブラウン管がむき出しだと静電気が発生しやすいんですよ。ですから筐体を清掃するときに、ちょっと怖いなあとも思っていました。具体的に言いますと、例えば「ぷよぷよ」の基板は「キー飛び」って言うんですけどI/O(入出力)が利かなくなってしまい、そこの部品がいきなり故障してしまうことがあるんです。静電気って、意外と電圧が高いんですよ。

――ちなみに、池田さんが最初にお勤めになったのはどこのゲーセンですか?

池田氏:大宮にあったオリンピアという店です。働き始めた頃には、もうアストロシティが入り始めていましたので、筐体の搬入を何度もやった記憶があります。

――1993年前後の時代は、主にどんなゲームを稼働させていましたか?

池田氏:やはり「バーチャファイター2」ですね。「2」が出たのは1994年ですから。

――すると、当時のお店ではアストロシティの筐体2台を背中合わせにして、いわゆる通信対戦筐体として主に稼働させていたわけですね?

池田氏:そうです。ほかにも、あの頃は「ストリートファイターZERO」とか、「THE KING OF FIGHTERS'94」や「真サムライスピリッツ」などのSNKのゲームも、たくさんアストロシティで動かしていました。

――筐体の搬入やセッティングと並行して、通信ハーネスも当時はたくさん作ったのではないでしょうか?

池田氏:はい。通信ハーネスと、それからキックハーネス(※2)も長く延ばして、2P側につなぐ作業ばっかりやっていましたね。

※2……キックハーネス:対戦格闘ゲームなど、ボタンを多く使用するゲームの基板とコンパネをつなぐ、ボタン入力信号を送るためのハーネスの通称。「ストリートファイターII」のキックボタン3個分の入力用に使われ、有名になったのがその由来。

――対戦格闘ゲームにも使用したということは、1993~1994年の頃は店内のビデオゲーム用筐体の大半がアストロシティだったのではないしょうか?

池田氏:ええ、ほぼ全部の台がアストロシティでした。また店員目線でお話をしますと、アストロシティはエアロシティと違って、FRP(※樹脂の一種)で作ってあるのでとても軽いんですよ。エアロシティは金属製ですごく重かったので、アストロシティは軽くて運びやすいなあと思いましたね。

――今、店員目線でのお話がありましたが、日々のメンテナンスの際に、例えばここがやりやすいとか、あるいはやりいくいとか、アストロシティならではの特徴は何かありますか?

池田氏:後から発売されたブラストシティ(※3)に比べると、私の場合はアストロシティのほうがメンテナンスしやすいです。アストロシティは、筐体の扉を開くと、その中にJAMMAハーネス(※4)につなぐ場所とか、サービススイッチもテストスイッチも、ボリュームのツマミも電源スイッチも、全部まとめて付いているから楽なんですよ。ブラストシティ以降の筐体は、サービススイッチとかを押す場合はコンパネを開かなくてはいけないので、基板の入れ替えをするときの手間がちょっと増えちゃったんですね。

 それからスピーカーも、アストロシティのほうがブラストシティよりも壊れにくいですね。アストロシティのスピーカーは放っておいても全然壊れなくて、過去に交換した記憶はほとんどないんです。お客さん的にも、スピーカーが筐体の上側に2個付いているアストロシティのほうが、左右の端にスピーカーが付いたブラストシティよりも好まれるみたいですね。

※3……ブラストシティ:1996年に「バーチャファイター3」の基板と同時に発売された筐体。セガ製の汎用筐体では初となる31KHz、いわゆるハイレゾリューションモニターを採用した。サイズはアストロシティよりやや大きめ。

※4……JAMMAハーネス:ゲームの基板と筐体を接続するための共通規格を使用したハーネスのこと。JAMMAは当時の業界団体「一般社団法人 日本アミューズメントマシン協会」の略称で、現在のJAIA(一般社団法人 日本アミューズメント産業協会)にあたる。

ミカドで稼働中のアストロシティ。ゲームは「ゴールデンアックス デスアダーの復讐」(※コンパネ部分のプレートはブラストシティのものを使用している)

――先月からミカドでは、セガトイズ公認のアストロシティミニを使った番組のネット配信を何度も実施されていますよね。こちらの配信を始めたきっかけを教えていただけますか?

池田氏:セガトイズさんからお話をいただきました。当初は、「バーチャファイター」の大会を単発でできればいいかなという考えだったのですが、せっかくなので週1回の配信にしませんかと、逆に私のほうからご提案をして、配信を1カ月ほど続けることにしました。

――配信に使用したゲームのタイトルは、池田さんが全部選んだのでしょうか?

池田氏:はい、私が決めました。ミカド勢には、アストロシティミニに収録されたゲームの上手なプレーヤーがかなりいますので、みんなで集まってもらって配信をしました。自分でもびっくりするほど、過去にミカドで人気あったゲームが収録されているのでちょうどよかったですね。

 常連さん同士で集まって、「お前はこのゲームをやってくれ、俺はあのゲームをやるから」って、古いゲームばっかりなのに、何だかんだ言ってる間にちゃんと全部のタイトルが埋まるんですよ。やっぱり、今でもみんなセガが大好きなんだなあと。「ダークエッジ」や「エイリアンシンドローム」が死ぬほどうまいとか、「ワンダーボーイ」をクリアできるプレーヤーが、ミカド勢には今でもいるんですよ(笑)。

――スゴ腕の常連さんがそんなにいらっしゃるとは! では、番組をご覧になった皆さんの反応はいかがでしたか?

セガ広報:特に初回放送分の再生回数が、配信が終わった後からもどんどん伸びました。ミカドさんの配信のおかげで、多くの皆さんにお楽しみいただけたと思っております。実は弊社内でも、アストロシティミニの発売が決まった当初から「ミカドさんで宣伝したら一番いいのでは?」という意見が出ていたんですよ。

池田氏:それはたいへんありがたいお話ですね、どうもありがとうございます。でも、今はアストロシティを置いた店なんてほとんどないですし、そうなるとまあウチしかできないのかなあと(笑)。

――アストロシティどころか、ブラストシティも発売から20年以上過ぎていますから、今どき使っているゲーセンはかなり少ないですからね……。

池田氏:また店員目線でお話をしますと、実はモニターに関してはアストロシティのほうが、後から出たブラストシティよりも物持ちがいいんですよ。ブラストシティのほうは、アストロシティにはない機能がいろいろ付いたことで、その分のコストは低く抑えられるのですが、モニターは逆に故障が発生しやすいんです。

――モニターが故障した場合、例えばモニター基板の修理や交換などをするかと思いますが、今は市販のテレビやPCのディスプレイはみんな液晶で、ブラウン管のモニターはもうほとんど製造されていないですよね? モニターあるいはコンパネ用のパーツ類など、修理用の部品は今でも手に入るのでしょうか?

池田氏:あることはあります。アストロシティのモニター基板には、汎用の部品がいろいろと使われているので直しやすいのですが、ブラストシティのモニターはカスタム部品を使っているので、もし壊れた場合は修理がちょっと大変になりますね。

【アストロシティミニ ✖ ゲーセンミカド3 20201121】

YouTubeで配信された「アストロシティミニ×ゲーセンミカド3」より。池田氏自らがプレーヤーとして、「ワンダーボーイ モンスターランド」と「サンダーフォースAC」の1コインクリアを実演した