【特集】

【メガドライブミニ2タイトルレビュー】「夢見館の物語」

幻想的で、ちょっとホラー。しっとりとした雰囲気が魅力のアドベンチャー

【夢見館の物語】

1993年12月10日発売

発売時のメーカー:セガ

 「満月の晩、光る蝶を追いかけると花畑にある楡の木に連れて行かれる。楡の木には怖い悪魔が住んでいる。光る蝶を長く見続けた者は同じ蝶になってしまう……」。「夢見館の物語」は、光る蝶を追いかけて機能まではなかったはずの大きな館に迷い込んでしまった妹を探す、兄を主人公としたアドベンチャーだ。

 3DCGゲーム創世記といえる時代に生まれた本作は、リアルタイムの描画ではなく、あらかじめコンピューターで描画した映像を取り込んで使用する「プリレンダー」という技術が使われている。このため画面には独特の"荒さ"があり、それが館の不気味な雰囲気を増している。

プリレンダーによって描き出された館。このざらりとした質感が独特の雰囲気をもたらしている

 ゲームは幻想的だが、ホラー風の演出が取り入れられており、ちょっと怖いと感じるところがある。しかし全体的にしっとりとした静かな雰囲気が魅力のゲームなので「ホラーが苦手」という人もぜひ遊んで欲しい。ゲーム性も移動と、数種類のアイテムを使用するギミックしかないのでゲームをあまりプレイしたことがない人にもお勧めだ。

 夢見館の住人は言葉を話す"蝶"で彼等はかつて人間だった存在だ。蝶達は妹を探して迷い込んだ兄に対し、それぞれの姿勢で語りかけてくる。ある者はうっとりと蝶になることの素晴らしさを語り、ある者は蝶になることのむなしさを語り「ここにいてはいけない」と警告してくる。主人公は妹の姿を求めて館内を探索していく。

館の住人は蝶。それぞれの部屋で主人公の少年に語りかけてくる

 「夢見館の物語」の魅力は声優達の声の演技も大きい。特に妹を演じたこおろぎさとみさんの無邪気に危険な場所に近づいてしまう危なっかしさや、守ってあげたいと思うあどけなさがこのゲームの大きなモチベーションになっている。館の住人達のどこか疲れた、達観したような、「人であることをやめた人達」の落ち着いた台詞回しもとても良い雰囲気だ。彼等のバックボーンは深く語られないからこそ様々な想像をしてしまう。

 ゲームとしてはシンプルで、謎解きもそこまで凝ったものではない。独特のリズムや、インタラクションが少ない要素などは、当時のゲームとしても物足りない部分ではあるが、この世界観は本当に大きな魅力がある。ぜひプレイしてほしい。

各部屋は蝶になった彼等が人間だったときのことを感じさせるものになっている。ゲーム内で語られる以上に様々な物語を想像させる
謎解き要素は少なめ。あまりゲームをしない人にも触れて欲しい作品だ