インタビュー

「セガ 3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE」インタビュー

シリーズセーブデータ連動タイトルはレジェンドクリエイター鈴木裕氏と中裕司氏の“あれ”!

奥成氏:この「コラムス」が入ったことで収録タイトルは全9本になって、7本+おまけ2本が入っていた「アーカイブス2」と同じ数に。しかも今回は「全部がメインです」といえるラインナップになったんです。

下村氏:これで本当はお腹いっぱいというか、開発的には……。

堀井氏:「もうやめて! エムツーのライフはゼロよ!」

下村氏:十分に、「ここまでやりましたよ! どうですか!? 」って言えるぐらいのところまで、きているのですが……。

奥成氏:ここでさらに! 新規収録タイトルがまだあるんです。前2作のアーカイブスとのセーブデータ連動で解放されるタイトルですね。「アーカイブス2」ではセガ・マークIII版「ファンタジーゾーン」があって……、あれはエムツーさんのほとばしりのようなものでしたが。

 でもそれがあったので、今回も「アーカイブス」や「アーカイブス2」を持っていらっしゃる方は、当然何か連動についても期待されているだろうなと思ったんです。

 でも、エムツーさんだって新規収録の4本でもう余力はほとんどない。でも「それでも無理を押してやってくれるタイトルとは何だろう?」と考えたのがこの2本。

 SG-1000の「チャンピオンボクシング」と、「ガールズガーデン」です!

【SG-1000 チャンピオンボクシング】

 1984年にSG-1000用タイトルとして発売。「スペースハリアー」、「アウトラン」などを開発した鈴木裕氏のデビュー作。若きチャレンジャー「ピーチボーイ」を操作して、5つのレベルに分かれたファイターに挑戦する。ジャブ・ストレート・アッパーをパンチ選択ボタンで選んでから、パンチボタンで放ち、上下の打ち分けも可能、ガードの仕組みもあり、後の格闘ゲームへの発展を感じさせる。

 「セガ3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE」では、「セガ3D復刻アーカイブス」1作目のセーブデータがあると遊べるようになる特典ゲームとして収録。

【SG-1000 ガールズガーデン】

 1984年にSG-1000用タイトルとして発売。「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」シリーズを開発した中裕司氏のデビュー作。主人公の女の子「パプリ」を操作し、「ふしぎの花園」に咲く「恋の花」を集め、ミント君のところへ花束を届けます。花は時間経過と共に咲いていき、咲いた花を一定数集める。だが、間違って枯れた花を取ると集めた花の数が半分になってしまったり、花園の番人であるクマのヤンピーが徘徊していたりと、かわいい雰囲気とは裏腹なシビアさも。

 「セガ3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE」では、「セガ3D復刻アーカイブス2」のセーブデータがあると遊べるようになる特典ゲームとして収録。

「チャンピオンボクシング」発売当時のチラシ。ROM32KBの文字が熱い
「ガールズガーデン」のチラシ。片思いを実らせるため、恋の花を集めるために、熊から逃げ回る。熱い
写真のように、初代アーカイブスのセーブデータがあると「チャンピオンボクシング」が、アーカイブス2のセーブデータがあると「ガールズガーデン」が開放される

奥成氏:なぜこの2本なのかと言いますと、状況的にももう余力がないなかセガ・マークIIIのタイトルをと言っても……、先ほどの通り、作るには新作1本と変わらない手間がかかるわけです。だったら、「SG-1000のタイトルなら1画面固定のものが多くて、そこまでの労力はかからないのではないか?」という。

 それにこの2作を入れることで、このシリーズのラストを締めくくれるという意味もあって。これまで「3DSはセガハード!」と言えるぐらいにものすごい数のタイトル……特に有名タイトルがほぼ遊べるというラインナップを揃えることができたなか、タイトルを俯瞰して見えてきたのが、クリエイターとしての鈴木裕さん、中裕司さんという2人のレジェンドの存在なんですね。

 「アーカイブス2」のキャンペーンで、裕さんと中さんのサイン入りの3DSをプレゼントしたんですが、やっぱりお2人あっての1980~90年代のセガだったんだな、と改めて実感することができました。そこで今回、シリーズの最後におふたりのデビュー作を改めて遊んでみたら意義深いのではないか、と。かつ、今までなかなか触れられることのなかった、SG-1000というセガ家庭用ハードの第1弾に還ってくるのも面白いのではないか……ということで、裕さんの「チャンピオンボクシング」、中さんの「ガールズガーデン」はどうだろう、と提案させていただいたんです。

――なるほど、そうした考えから「これならいけるだろう」となったんですね。

下村氏:「いける」と思っていたのはセガ側ですけれどもね。

奥成氏:もっと言えば僕だけ、ですかね(笑)。僕なりの感覚からの「これなら、どう?」という気持ちの選択。

下村氏:エムツーさんはメインの9タイトルだけでもいっぱいいっぱいというお話がある中で、さらにおまけををお願いしようということで……でも、普通に「2本増やしてくださいよ」というだけでは意味がないというか、断られるに決まっているので……。

――何かしらの説得材料は欲しいと

下村氏:説得というか、今回、DL版5本を収録することで、プロジェクトとしてこれで一区切り付きますよね。その区切りをつけるにあたって、裕さん、中さんのデビュー作を入れるというのは、意味があることになりませんかね? という。

堀井氏:意義深いというところで説得されたので。そこがすごい卑怯というか、やらざるを得ない、外堀を埋められたというよりは、積極的に「あ、それはやっておいたほうがいい」という提案だったので……うーん(笑)。

下村氏:エムツーさんも「わかりました、無理しましょう!」とご納得頂けましたので。なんと合計11タイトルが収録されるということになりました。

奥成氏:「チャンピオンボクシング」は裕さんの「スペースハリアー」が収録されている「アーカイブス」、「ガールズガーデン」は中さんの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」が収録されている「アーカイブス2」のセーブデータがある状態で起動すると出現する、という形にさせていただきました。

下村氏:後付けである部分は否めませんけれども、これ以外は考えられないラインナップになったと思いますよ。

――そうですね。こんなラインナップ他にないです

奥成氏:鈴木裕、中裕司というレジェンドクリエイターを振り返る機会が最近増えてきたなと思うんですが、彼らのデビュー作に触れるという機会はなかなかなくて。そもそもSG-1000を持っている人がそれほどいない。どうしてもセガの家庭用ハードといえばメガドライブ以降というイメージがあるなかで、ハードもソフトも手に入らない。ただ、それぞれのファンの方が「チャンピオンボクシング」、「ガールズガーデン」というソフトは聞いたことがあるあるのではないかなと。だったら、ちゃんと遊んでもらえる機会を作りたいと思ったんです。

 この2タイトルが収録されるということに意義を見出せる方はシリーズを支えてくださった方々だとも思うんですよ。それで、「アーカイブス」、「アーカイブス2」のどちらか、もしくは両方お持ちの方々にプレイしてもらえるセーブデータ連動タイトルとしてもふさわしいな、と。

 ……とまあ、そんなわけで。エムツーさんは2016年春から秋の間に6本の新作を作る羽目に!

堀井氏:大変なことになりました。今までなら何カ月かに1本出すというペースだったんですが。

奥成氏:第1期は8本、第2期は5本手掛けたあとに追加で3本、1年間かけて1つ1つ作ってリリースというペースだったんですが、今回はいきなり6本……。

――これらの収録タイトルは順に決まっていったものなんですか?

奥成氏:いえ、一気に決めていますね。順に決めていったら「コラムス」とかは入っていなかったと思います。どれにも着手していなかったからこそ、という勢いもあったと思います。

「チャンピオンボクシング」&「ガールズガーデン」-なめらかモードに、セガ・マークIIIでのカラーパレット互換再現も

奧成氏が持参しましたシリーズPART2。SG-1000実機と、「チャンピオンボクシング」&「ガールズガーデン」のソフト
「ガールズガーデン」を実機プレイしてスクロールの特徴を解説する奧成氏
続いて「チャンピオンボクシング」も実機プレイ。でっかいキャラクタをどう実現していたのかがポイントになる
操作は独特だが、パンチの打ちわけやガードなど、後の「バーチャファイター」へと繋がっていくかのような格闘ゲームの概念が既にあった

――「チャンピオンボクシング」と「ガールズガーデン」にも、追加要素はあるのですか?

奥成氏:なめらかモードを付けていますね。

堀井氏;SG-1000にはもともとスクロール機能がないので、それを疑似的につけてあげたというものです。「ガールズガーデン」は8ドット単位でスクロールしているんで、それを1ドット単位に直したものが遊べます。今日はSG-1000の実機を用意してもらったので、実際に見てもらいましょうか。

――(SG-1000実機で「ガールズガーデン」をプレイ)……ああ、この感じですよね。たしかに動きがコマ送り的にガタガタしています

奥成氏:これがMSXでもおなじみの8ドットスクロールです。

――コナミさんのMSX版「グラディウス」シリーズとかもこの8ドットスクロールでしたよね。

堀井氏:そうです、やっぱりあれが印象深いですよね。今度は3DSの「なめらかガーデン」をONにして遊んでもらいましょうか。びっくりするぐらいなめらかになるというか、びっくりしないぐらい普通になるので(笑)。

奥成氏:こうして実機を比較したりしなければ、最初からなめらかなのが当たり前ぐらい思われるかもしれませんね。

――あ、なめらか(笑)。確かに昔のゲームを知らないと、このなめらかモードが普通と思ってしまうかもしれませんね。3D立体視の方は……お、ちゃんと立体視に対応していて、「ガールズガーデン」は結構、奥行きがありますね。ハチが手前にいるのもわかります。ベルトフロアなんですねこれ。

堀井氏:そうなんです。ベルトフロアアクションなんです。

――こうしたシンプルなゲームを立体化すると、とてもわかりやすいですね。

(続いて、SG-1000実機で「チャンピオンボクシング」をプレイ)

堀井氏:「チャンピオンボクシング」の方はSG-1000で当時にしてはキャラクタが大きい、デカキャラを実現しているんですよ。キャラクタをBG面に描いているので、動きが8ドット単位になっているんです。1歩ごとに8ドット必ず進んでしまうという。

奥成氏:右のボタンでジャブとストレート、アッパーを切り替えて戦う一方で、レバーで上下の打ち分けができるんです。しかも、レバーを入れてボタンを押さないでいるとガードになるんですね。上下の打ち分けとガードを駆使して遊ぶので、とても格闘ゲーム的な内容なんですよ。1984年のこの時代に!

堀井氏:しかも2人で対戦もできてしまうという。このオブジェクトを1ドットで動かしているのが「なめらかボクシング」になります。

 ちょうど、先ほどお話にあったMSXの「グラディウス」で言えば、「ガールズガーデン」はステージのスクロールをなめらかにして、「チャンピオンボクシング」はビッグコアの動きをなめらかにした、ということになります。

奥成氏:3DS版ではヘルパーモードも入れてありますので。「チャンピオンボクシング」では画面でパンチの種類を切り替えていたものを、それそれ別のボタンに割り振って遊ぶことができるようになっています。SG-1000はもともと2ボタンだったんですが、それを3DSのヘルパーモードでは3ボタンで遊べるようにしました。キャラクタの動きもまるでスプライトで描いているように滑らかになっています。

堀井氏:奥成さんは、「SG-1000なら立体視をつけるのも楽だろう」とおっしゃっていたんですが、それはある意味間違ってはいなかったんですけど、こうした機能を1つ1つ付けていたので。えらく手間がかかってしまいました(笑)。

奥成氏:僕も堀井さんに言われるまで気が付かなかったんですが、キャラクタをBGで描いているがゆえに、キャラクタの後ろのリングのロープまでもBGに描かれていて……。

堀井氏:ロープまでBGで描いているから、キャラクタはポールのところまで行けないんですよ。実は。ポールと重なれないんです。

奥成氏:立体視に対応させる場合、キャラクタを前にもってこようとすると、ロープまで前に出てきちゃうことになるんです。横ライン全部がくっついているので。

堀井氏:そこを分けて立体化しないといけないということがあったりしたのは、やってみないとわからなかったですね。すごく凝ったことをしてデカキャラを実現されていて。すごい人たちは最初からすごかったんだな、と改めて思いました。BGに大きなキャラを描いて、背景も重なっているように見せるために、1枚の絵で済むようなデザインにしているという。

――書き割りごと動いているという作りなんですね。

奥成氏:もう1つ、小ネタになるんですが、当時、セガ・マークIIIってSG-1000のゲームがほぼ全部遊べたんですね。互換機能があったので。でも実は、内部的にカラーパレットが互換モード独自のものになっていて、SG-1000そのままの色では遊べなかったんですよ。セガ・マークIIIで遊ぶと、勝手に変換されて近いパレットに変わるようになっていたんです。それを3DSで再現するようにしました。この2本は画面外の外枠の絵柄をSG-1000IIとSC-3000、セガ・マークIIIと用意しているんですが、これをセガ・マークIIIにすると、ハードに合わせたカラーパレットでゲーム画面を表示するようにしてあります。

堀井氏:SG-1000のゲームを当時セガ・マークIIIでしか遊んだことのない方もいらっしゃると思うので、あえてその思い出を復刻するという意味ではこうなる、という再現ですね。

奥成氏:そういう意味では、セガ・マークIIIでしか遊んでいなかった方にも正しい色で遊んでもらえると同時に、自分が遊んでいたパレットカラーで遊んでいただけるということになりますね。背景切り替えでパレットも切り替わるという。ここもエムツーさんのこだわりですね。

下村氏:僕はその機能を最近まで知らなくて……奥成から聞いた時に、「やっぱりエムツーさんに任せてよかったな」と思いましたよ。

――個別のオプションにせずに画面外の枠の絵柄と連動させているところがいいですね。それにしてもこれ、本当にかなり色味が違うんですね。「ガールズガーデン」だと草原の色が土色になるぐらいの変わりよう。

奥成氏:そうなんですよ。これもこだわりたかった部分なので……立体視にしてもそうですが、僕は最初こそ、SG-1000のタイトルは立体視に対応しなくてもいいとすら思っていたんですけれども、結局、凝りましたね。

今作に収録されている「チャンピオンボクシング」で、左はSG-1000、右はセガ・マークIIIのカラーパレットを設定した画面。背景を選択すると自動でこのカラーパレットも変化する。「アーカイブス3」収録ならではのこだわりだ
こちらは「ガールズガーデン」で、左がSG-1000、右はセガ・マークIIIのカラーパレット。色味が大きく変わってくる
今作収録作のパッケージやSG-1000の画面をみつつ盛り上がる。当初は「SG-1000のゲームを30本ぐらい入れる」というアイデアもあったそうだ

堀井氏:奥成さんには最初、「立体視に対応していなくても30本ぐらい入れてみたら?」って話をされたこともありましたよね。

奥成氏:それは「アーカイブス3」のラインナップについて、メインタイトル6本だけだと弱いから、ほかに何をしたらいいだろうと模索している頃ですね。「チャンピオンボクシング」と「ガールズガーデン」が入れると決める前に、「『セガ3D復刻アーカイブス3+α』として、SG-1000のゲームを30本ぐらい入れるのはどう?」って話をしました。立体視に対応していなくてもいいから、とにかく数の暴力で(笑)。30本入っていたら勢いに呑まれて欲しくなったりしないかな、というアイデアで。でもエムツーさんからは、「『3D復刻』というからには、立体視に対応していないのはダメです!」という話をされまして。「せやなー」と思ったんですけれども。

 ただ、ちょっと悔しかったのは、その話のあと、任天堂さんがニンテンドークラシックミニを発表されて。「ファミコンのソフトが30本入ってる!」って。しかもあれは完売だったじゃないですか。もし、「アーカイブス3」に30本のソフトが入っていたら、お店の人が「ファミコンのミニをください」ってお客さんに言われたときに「今、30本入りのファミコンは売り切れているんですけれども、セガの30本入りだったらこちらで遊べます」って言って……。

――それは(笑)。

奥成氏:ファミコンが買えなかったらSG-1000なんですよ!

堀井氏:お母さんが「セガのファミコン買ってきた」っていう35年前のネタじゃないですか(笑)!

――2016年にそんな罠まで再現せずとも(笑)。

奥成氏:まぁ、この僕の案が却下されたことで、9+2本のゲームが収録されることに落ち着いたんですよ。

――「ガールズガーデン」の立体視は個人的に衝撃でしたね。

奥成氏:この絵ですからね。

――地面がドーム型というか、奥に向かって丸く奥行きがついている。「とびだせ どうぶつの森」みたいな見えかたになっていますよね。

奥成氏:これはセガの「どうぶつの森」と言っても過言ではない……!!

――確かに草も取りますし、家もありますし(笑)。

堀井氏:でもそれは似ても似つかないよ(笑)。