インタビュー
セガ3D復刻プロジェクト「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」インタビュー
「スペシャルステージは、プリレンダ映像を1枚1枚目コピでZ深度を付けました!」
(2015/7/22 14:00)
セガゲームスは、ニンテンドー3DS用「セガ3D復刻プロジェクト」第2期追加タイトルの第3弾「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」を7月22日より配信を開始した。価格は800円(税別)。
「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」は、中 裕司氏を初めとするスタッフの手により生み出されたメガドライブ用アクションとして1992年に発売されたタイトル。らせん状に構成されたループなど前作から大幅に進化したギミックが、グラフィックス面だけでなくゲーム的にも新しく、大ヒットを記録した。
「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」では、3D立体視に対応しているだけでなく、所持リング数が0になりづらい「リングキープモード」、最終ゾーンやスペシャルステージも含めどのステージからでもプレイできる「ステージセレクト」など、当時クリアできなかった人がゲームをプレイする中で快適にプレイできるよう追加要素も用意されている。
「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」では、なんといっても3Dで表現された「スペシャルステージ」の移植と、上下2分割された「対戦モード」の移植は素人目にも困難を極めたのではないかと想像できる。セガゲームスの奥成洋輔プロデューサーとエムツー技術陣はこの難関にどう立ち向かったのだろうか?
弊誌の恒例企画として、奥成洋輔プロデューサーとエムツーの堀井直樹社長のスペシャルインタビューをお届けする。また、今回は「セガ3D復刻プロジェクト」が一区切り付いたということで、プロジェクトを振り返っていただいた。
物量作戦で復刻作業を乗り切れるのか? ステージの数も、広さも格段にアップ!
―― 毎回、移植するだけでも苦労されているということですが、「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ2(ソニック2)」の制作にあたって1番苦労されたところはどういったところでしょうか? 移植の難易度は、全体的に難しかったのでしょうか?
奥成洋輔氏: 今回のシリーズで「ベア・ナックルII」、「ガンスターヒーローズ」、「ソニック2」の3本を選んだことについては以前お話したように、本当は出したくて第1期の時に候補として上がっていながら、エムツーさんが「技術的に難しい」ということで移植を見送ったメガドライブの3タイトルだったわけです。
その3タイトルにそれぞれ、多くの技術的な問題点があったのですが、今回の「ソニック2」が開発にあたって問題点が1番多いタイトルだったので、シリーズの最後を飾るということになりました。普通に考えると「ソニック・ザ・ヘッジホッグ(ソニック1)」が移植できているので、同じシリーズですから、同じようなゲームだろうという考え方もできるのですが、「ソニック2」はいくつか超えなければいけない壁がありました。
ひとつはボリュームが非常に大きくなっています。ステージの数だけで言うと、面の数はそこまで変わらないのですが、ゾーンの種類で言うと倍くらいになっているんですね。「ソニック1」は1ゾーンが3つのアクトで成り立っていて、それが6つのゾーンで構成されていて、全部で19面プラススペシャルステージとなっています。「ソニック2」はゾーンが11ありまして、うちゾーン7までアクト1~2で構成されて、ゾーン8だけアクト3あります。これの他にスカイチェイスとウィングフォートレス、最終面のデスエッグがあるので、ステージは20。これに加え、3D化しなければならないスペシャルステージがあるというところが、大きなハードルなんです。
―― 物量的にももうかなり厳しい状況に置かれているということですね。
奥成氏: 実際に測ったわけではないのですが、1ステージあたりのマップの広さも「ソニック2」でかなり広くなっていると思うので、そこも含めてやることが多いということがひとつ。ただ、ボリュームだけであれば「ガンスターヒーローズ」の時のように時間で解決できるところがあると思うのですが、今回はもう2つ問題がありました。
スペシャルステージ……これは立体視で見てみたいポイントの1つとして、半円のチューブをソニックが奥に走って行くという面ですね。あのグラフィックスを、そもそも3D立体視化できるのかという問題がありました。
―― これが1番わかりやすく難しい問題ですよね。
奥成氏: 最後の3つ目。実は忘れられがちなのですが、このゲーム対戦モードが入っていて、画面上下分割で対戦ができるというモードが入っています。これがインターレースを使っていてかなり凝った作りになっているので、これこそ中 裕司さんの真骨頂みたいな大技で実現しているシステムなんですけど、こちらをそもそもニンテンドー3DSで再現できるのかという問題点がありました。3DSは液晶ディスプレイですから、インターレースという概念がありませんからね。
このシリーズが最初に立ち上がった4年くらい前には、この3つのハードルを超えるのは「無理」という判断がありまして、「ソニック」シリーズの移植は1作目だけになりました。しかし今回は、あれから3年くらいの技術的蓄積を経て、エムツーさんが「ソニック2」にチャレンジできるということになったので、移植を進めることができたということですね。
―― まず3つの問題点のうちの1つ目なんですけど、通常ステージに関してだけ言えば、分量は多いにせよ以前の技術だけでクリアできたということですよね。
堀井直樹氏: ある程度は、移植できますよね。ただ、「ソニック1」に比べて、マップが上下左右全て対して広いので、物量は格段に大きくなっていて、比べてみれば本当に途方もない量ですね。
奥成氏: マップの広さだけでなく、ギミック的にも「ソニック1」ではシャトルループのように360度回転するというところがありましたが、「ソニック2」では更に螺旋のような回転が加わっていたり、凝ったアクションがありましたので、そういったギミックを3D立体視化するというところでも、ハードルとしては上がっているんですよね。
―― 「ソニック1」では、割と(ステージの進行が)一方向にむかうことが多かったのですが、「ソニック2」ではあっちに行ったりこっちに行ったりするじゃないですか。そういった点でも、移植が難しかったですか? 「ガンスターヒーローズ」の時は移植作業に1年半くらいかかったと言うことですが、今回も同じくらいかかっているのでしょうか?
堀井氏:メガドライブの第2期をやる前から、奥成さんから「もしラインナップとして挙げるのならこれらのタイトルだよね」という話もあった事もあり、興味本意でやっていました。ただしキチンと開発を始めたのは、この話が決まってからになりますね。
奥成氏: 「ソニック2」は技術的ハードルを超えるための研究が必要だったのです。
―― では技術的な目処がついたところで、これから話していただく2つ目、3つ目のハードルがクリアできそうというところから開発が本格的に始まったわけですね? それでも分量的には大変だったというわけですね。
奥成氏: 「ベア・ナックルII」は、60フレームが実現できるかどうかという問題もありましたが、斜め上からの視点の映像を3D立体視にする部分をクリアできるかというところがポイントでした。しかし「ガンスターヒーローズ」と「ソニック2」は、「ベア・ナックルII」の移植が前提となっているというか、それを土台としていますから、「ベア・ナックルII」で超えたハードルは特に「ソニック2」では大きな問題にはなりません。ですから、協力プレイの60フレーム化と、だまし絵的なグラフィックスの3D立体視化についてはできることが前提ですね。
「ベア・ナックルII」でクリアしたハードルを、「ガンスターヒーローズ」では、とにかく物量を時間で乗り越えました。「ガンスターヒーローズ」のスクロールスピードは、実はそんなに早くないですし、わりと常識的なアクションのマップサイズです。途中でボス戦があってスクロールは止まりますし、ボス1体1体にギミックを付ける作業がありましたが、ここはやはりエムツーさんのセンスで乗り切ることができました。
しかし「ソニック2」はマップのサイズが前2作と比べて膨大な点と、それ以外に「技術的に3D立体視にする事ができるのか?」という部分がありましたので、難易度の桁が違うというのがありますね。「ソニック2」にかかった開発規模はシリーズでいちばん大きくなりました。
―― 人的コストがかなりかかったということですか。
奥成氏: そうですね。
堀井氏: 大雑把に分けて、ゲーム全体を立体視にするプログラマーと、スペシャルステージを何とかするプログラマー、対戦モードを開発するプログラマーの3人体制でいけば何とか開発できるんじゃないかなと思ったのですが、そういう感じで予算も膨れ上がってしまった感じです。
―― 今までは1人のプログラマーの方が、1つのタイトルの開発を担当していたのですか?
堀井氏: メインは1人で、そこにお手伝いが付くことはあっても、みんなバラバラにパラレルに1本のタイトルを作ることはなかったんですよ。「ソニック2」の場合は、メインのゲームの部分とスペシャルステージとは、本当にまるきり関係なく別々に作っていました。
―― それぞれ専門職でやっておられたんですね。
堀井氏: そうですね。
スペシャルステージは、驚異の「プリレンダ映像を目コピ」で移植!
―― 通常ステージは物量作戦で大変だったというのはわかるのですが、次のスペシャルステージは本当に開発が大変だったのだと思うのですが。
奥成氏: まずスペシャルステージを3D立体視化できるかというところが、このプロジェクトをスタートできるかというネックでした。始めるという話をしたのは、おそらく「セガ3D復刻アーカイブス」を開発しながらタイトルを選んでいたという段階でした。その時は難しいと言いながらも「何とかしたい」と言っていて、いくつか技術的なアイデアとして出して頂いて、その中で実現可能なものを探っていくという形でした。
ただ、エムツーさんと話していて、やりたくないと言っていた1つの手法としては、スマートフォン版の「ソニック2」ですね。あれはエミュレーションではないので、我々が作っている方法とは別のアプローチになっているのですが、特にスペシャルステージは背景そのものがポリゴンになってるんですね。つまり、もう全く違うものになっていました。
「HD」であったり別のゲームにするのであれば、もちろん方法としてはありなんですけど、我々のプロジェクトは「復刻」を銘打ってるので、この「3D立体視」のスイッチを切ったら、ほぼメガドライブのスクリーンと同じであってほしいというところがありました。iPhone版の「ソニック2」と同じ形であれば3D化はできますが、そうではないやり方でエムツーさんにはやってほしいと話していました。
堀井氏: それはそれでひとつのやり方だとは思うのですが、今回我々の作っているプロジェクトでは違うよねと話していて、その部分は共通認識でいましたね。
―― その中でも勝算はやっぱりあるわけですよね。
堀井氏: 実は、勝算はなかったのですが、ただやり方が2つあるので、どちらかがうまくいけばいいかなくらいに思っていました。
1つ目が「スペースハリアー」のキャラクターを輪切りにして立体視にするという方法を「アーカイブス」の時にやったのですが、それと同じ方法で、ボーナスステージを輪切りにして、5~7レイヤーに重ねていって、そこに深度をつけていけば、それっぽく見えるんじゃないかという割りとお手軽な方法です。1コマ1コマ違うので、それを輪切りにするので数は膨大になるのですが。その手法をやってみた時に、そこそこそれっぽく見えるけど、物足りないなぁという話がありまして、そのままいくか別の方法を考えるか、ずいぶん悩んだのですが、社内的にはもう1案出ていた別の方法でやろうという話になりました。
―― そのもう1つのめんどくさい方法というのは?
堀井氏: 「ソニック2」のスペシャルステージは、実は元はポリゴンで作ってあって、動画で圧縮して縦横半分にして荒いけれどカセットに放り込むという方法なんです。僕らはそのプリレンダの画をまたポリゴンに戻して、自分たちで同じポリゴンを作り直し、そこからドット単位でのZ深度を取るというやり方をとりました。ですから、「ソニック2」のボーナスステージを作るためのデータを解析して取り出したんです。プリレンダの画ではあるのですが、セガさんの開発陣がかっこよく見えるように画を直してる部分があるんですよ。そこの部分は僕らが作ったポリゴンだと不自然になるので、ポリゴンの方を造成して、元の画と同じになるようなコースをつくり、3DSで破綻なく表現できるようになっています。
これ自分が作業したわけではないので冷静に言えるんですけど、ここに担当者がいたら、「なんでそんなことをやろうと思ったんだろう?」とか、「そんな面倒くさい作業をやらせやがって!」とかそういうセリフが山盛りに出てくるんじゃないかなと思います。
―― そのアイディアはスペシャルステージを担当したプログラマーの方が出されたのですか?
堀井氏: いや、「それが1番きっちり見えるよね」というのは、スペシャルステージを担当した人ではない人が出しました。担当した人が「俺が時間あるからやるよ」という感じではじめて、初めから終わりまでその調整を延々とやっていました。その作業やっていた彼の席が、会社の出入口の1番近いところにあるので、出社するたびにディスプレイに映っているのは「ソニック2」の同じコースだったんです。作業が進んでいないように見えるけど、膨大な量のデータと戦ってたんですよね。
―― 膨大な量の調整がかかっていたのですね。
堀井氏: グラフィックスとしては、メガドライブをベースにしつつ、プログラムとしてZ軸を用意したので、それに合わせて動いているという感じです。基本的に僕らが作った元のポリゴンって元の絵に立体情報をつけるためだけに動いているので、当たり判定などの動きは元のゲームと同じなんですよ。
奥成氏: ですから、プレイ感覚であれ、「スペシャルステージ」の難易度上がっているといったことは起きにくいわけです。
―― そのプログラムの部分は一緒だからという事ですね。
奥成氏: そうです。
―― では、同じ画像を作り上げるためだけにポリゴンをつくって、レンダリングをして、グラフィックスが描き起こされているんですね。
堀井氏: そうです。目コピで作ったポリゴンのコースからレンダリングした立体情報を元の絵に加える事で、立体視版スペシャルステージのコースができました。
―― めんどくさいというか、よくそんなことをしましたね!
奥成氏: そのおかげで、見た目通りの立体感といいますか、破綻がない、嘘ではない3D立体視になっています。
更なる難関! 中裕司氏の工夫が詰まった「対戦モード」は初めはあきらめていた
―― もう1つの大きな問題となった、対戦モードの実現はどうされたのでしょうか?
奥成氏: このプロジェクトがスタートした時には、対戦は入れられるかどうかわかりませんでした。結局結論としては、エムツーさんとしてはやってみないとわからないけれど、すごく大変なのでリスクない形で開発をスタートさせると、「ソニック2」の開発期間はその時の想定だとさらに半年は必要という話になり、そのくらい対戦モードのハードルは高かったんです。
さすがに「ガンスターヒーローズ」と「ベア・ナックルII」を夏までにリリースする計画だったので、「ソニック2」だけ冬にリリースですという形にはできず、エムツーさんには「もう対戦モードはあきらめましょう」と話し、対戦モードに関してはコミットせずにプロジェクトをスタートさせました。エムツーさんとしては、できないからやらなくて良いです」と言われたのですから、対戦についてプロジェクトの重要度は下がったんですね。というか、重要度を下げざるを得なかったという表現が正しいでしょうか。
ですけど、プロジェクトがスタートしてまもなくしてから、「なんかできそうなので、可能であれば入れても良いでしょうか?」という提案を出されまして、セガとしてはスケジュールなどの契約を終えていたので、「スケジュールを守れるのであればもちろんいいですよ。そこはエムツーさんに託しました」という感じで、進めることになりました。
堀井氏: 良くなるのに「ダメ」とは言われないと思いましたので。
―― 一方でエムツーさんとしては「やらなくてもいいですよ」と言われた時は、できるかもしれないという希望的観測は技術的にはあったのですか?
堀井氏: 技術的に稚拙でも導入は可能だと思っていたのですが、ただ本物と同じ速度で動くかが問題だったわけですよね。なので、「やらなくてもいいですよ」というなら気楽に作業することができる。必ず入れなければならないとなれば、可能かどうか厳しいなぁとなるのですが、やらなくていいならわりと気楽に取り組めるので、入れることができれば良いな程度で逃げ道を作ることができました。
でも今まで「セガ3D復刻プロジェクト」をやってきたことを見返してみると、ここで入れないという選択肢は取りたくなかったんですよね。「ソニック2」が最後だったので、最後はなるべく全ての要素を入れて、世に送り出したいというのもあったので、スタッフに頑張ってもらいました。
―― 「問題を技術的に乗り越えられる」と聞いたときは、どういった感じだったのでしょうか?
奥成氏: 対戦モードは技術的な部分で特殊だという講義をエムツーさんから受けました。「ソニック2」が制作された当時は僕もセガにいなくて、家でゲームをプレイしていたら明らかにレゾリューションが違っていて、でもなんか2つの画面で動いてるんですよね。そのまま画面が圧縮されてて。これは「メガドライブですごいことをやっているに違いないっ!」て感じのグラフィックスだったんですよ。
ですから、「対戦モードを3DSで再現するのは難しい」と言われた時は「そうなんだろうな」としか言いようがなかったんです。ただ、「ベア・ナックルII」と「ガンスターヒーローズ」が1人用になるということはまずいけれども、「ソニック2」はもともとメインは1人用モードではあったので、そこは「無理でも仕方がない」と受けざるを得なかったですね。で、僕が諦めたあと、エムツーさんが挑戦するという。
堀井氏: 奥成さんにはいくつかのプランをお伝えしました。対戦モードは上下2画面分今までの画面を圧縮して表示しているのですが、それを1Pと2Pでバラバラに表示すれば、処理負荷も軽くできるし、何とかできるんじゃないかという話をしました。結論から言うと圧縮した2画面をそのまま出すということになったのですが、それは、相手のプレイが見えないと、ゲームの駆け引きが成立しない部分があるということから、この方法を選びました。プログラム上は「ソニック2」の1Pの2画面分の負荷量を下げることにひたすら頭をつかう作業でしたね。
―― 確かにそうですね。倍表示しているんですもんね。
堀井氏: そうです。
―― それはいろいろなことを節約することで解決したのですか?
堀井氏: いや~、どうやったんでしょうね(笑)。
奥成氏: 対戦モードで特定のゾーンしか選べないのも、おそらく2Pができるできないで分けてたんでしょうね。
堀井氏: そこは、多分そうでしょうね。
奥成氏: そういう意味で言うと、作ったものから入れていかないといけないので、全部3D立体視でやって、“ギガドライブ”と呼んでいるメガドライブのエミュレーターで「能力的に足りるのか?」とか、「やはり30フレームになってしまうんじゃないのか?」とかいう問題ですね。「3D ベア・ナックル2」の時に60フレームが最初無理だと言っていたころから考えると、「ソニック2」の2Pが60フレームで回っているというのは、僕にとっては「なんだ、できるじゃん!」の一言なんですけどね。
堀井氏: 一応、圧縮して2画面と言っても、元のゲーム画面も1フレームあたり書き換える量というのはインターレース表示なので、ライン数は変わらないんですよ。毎回224ライン分のデータを書き換えていて、448ラインで1フレームになるんですけど、3DSでは増えていなかったので、そこが技術的に乗り越えられるポイントだと思います。実際に3DSのグラフィックスを作るところに関しては縦の圧縮をしているので、前の絵と後ろの絵を混ぜてブレンディングしています。2Pのところだけレンダリング方法が変わってるので。
奥成氏: やはり、それ以前からもすごかったのですが、中さんという天才プログラマーが「ソニック1」で開花して、「ソニック2」でできることが増えハードルも上がったんですよね。そういった意味でも、「ソニック2」にはその先のメガドライブのタイトルでも使われてないようなすごい技術が使われていたりするんです。メガドライブの後期タイトルではないので、「すごい!」とだけ言われてあまり検証されていないのですが、実はプリレンダの背景とかアニメーションしているとか、そういうもうこのゲームだけの凄さがいっぱい入っているというのが、今回のエムツーさんの解析により明るみに出て、作業する上でのネックになったという事なんです。
堀井氏: 解体中にいろいろ出てくるんですよね……。
奥成氏: やはりエミュレータとしてのギガドライブにも、メガドライブのすべての要素が入っているわけではなくて、使っていない部分を使ってスピードアップさせたりするのですが、それだけにメガドライブの全てを使っているゲームの移植は1番難易度が高いんですよね。
―― フルで機能を使うと余裕が無いんですね。
奥成氏: メガドライブの半透明の機能とかも「ソニック2」では使いこなしていたりとか、あとは水の表現とか。
堀井氏: そうですね。「ソニック2」では水面が上下するステージが結構あるのですが、あの水面の上下はラスタースクロールのZ版みたいなことをやっていて、ラスターが切り替わるごとに色数が変わっているんです。詳しくは調べていないのですが、おそらく「ソニック2」では、水面の上下で61色ずつ色が使える仕組みになっているんだろうと思います。メガドライブって全体で64色なんですけど、上下で色変えてるんです。色を変えている途中にノイズが出るので、そこにはスプライトの水面をたくさん表示して見えないようにしていたり、もう本当に工夫の塊というか、足りないところをどう補うかをすごい技術でクリアしていっているのがよくわかるんですよね。でもこういった技術も、最近やらなくていい話だからね。
奥成氏: まあ、今となっては必要ない技術なんでしょうけどね。ロストテクノロジー。このプロジェクトはメガドライブの再現にこだわって、メガドライブという枠を設けないと再現できないということにこだわった結果、当時の技術に苦しむ人が出てくるというか。1つ1つを当時の通りに再現していかなければいけないというところが、このプロジェクトならではのネックですね。だから普通にリメイクするなら、スペシャルステージはプリレンダじゃなくポリゴンで適当に再現すればいいですし、そのほうがフレームレートも高くもできて、大体似たようなこともできますからね。
―― それはこの商品のコンセプトが「復刻」だからですよね。
堀井氏: 当時、そういう技術的に工夫していた人は多くいらっしゃって、ただ軸は今とは違うというか。フレームバッファとラインバッファでどこが違うかで内容がまるきり変わってくるんですけど、あえてトンチという言い方をしますけど、トンチを使える人は使える。
―― 今回の「ソニック2」は、その工夫の集大成といえるんですね。
奥成氏: 「ソニック2」で16本目だから完全再現できたものですという話です。
ダメージを受けてもリングが半分しかなくならない「リングキープモード」を追加
―― それでは、「ソニック2」で加えられている、プラスアルファの部分について伺いたいと思います。
奥成氏: 第2期のタイトルでお馴染みの、2種類のオリジナルにない追加ポイントなんですが、1つは「ソニック2」ではステージセレクトが標準搭載でできるようになっているところですね。これは単純にすでに遊んだことのある人が気軽にすべての面も遊べるようにハードルを下げていこうということですね。
そして、今回の目玉となるのが「リングキープモード」です。「ソニック2」というゲーム自体が、当時クリアできなかったという人が多かったように感じるんですね。特にラスボスはメカソニック戦とエッグマンロボ戦なんですけど、このラストのところが相当難しくて、僕も何度ロボエッグマンにやられたかわからないんですけど、しかも当時は現役(のゲーマー)だったのにあんなに難しかった。それをこの歳になって、3DSでクリアするなんて絶対できないというところもあって、それを無敵にするとかじゃなくて、楽しく遊んでクリアしてもらえるようなアイデアを入れようと思いました。それが「リングキープモード」です。
ダメージを受けた時にソニックは持っていたリングをすべて手放してしまいますが、1個でもリングを拾えば死なないというのが、ソニックのアクションのハードルを下げている部分だと思うのですが、「リングキープモード」では更に落とすリングが半分になってるんです。例えば50枚持ってたら普通は全部散らばるんですけど、25個だけ散らばるので済むんですね。
―― では1個になるまで大丈夫なんですね。
奥成氏: そういうことになりますね。どんどん半減していって、最後の1個になったらゼロになるんですけど、そこまでは半減なので、難易度は下がりますね。だいたいゲームを進める中で少しはリングを拾ったりもするじゃないですか。ソニックがリングを持っている状況が増えるので、下手な人でもリングにものを言わせて進むことができるという感じです。そして重要なのがゲーム開始時に10枚持っているという要素もあるので、ボス戦前でスタートした時も10枚持っているので、かなりダメージ受けても大丈夫ということですね。
―― 確かにボス戦前にリスタートになると、余裕がないからキツかったですよね。
奥成氏: ですから、とりあえず「リングキープモード」を使用することで進めなかった人もエンディングまで行けるんじゃないかなと思います。
―― 奥成さん的には「ソニック2」は3DSで普通にクリアできるのでしょうか?
奥成氏: もう無理ですね! 元々そんなにうまい方でもなかったので(笑)、ノーマルモードでは無理ですね。
―― 今回の「セガ3D復刻プロジェクト」は、昔クリアできなかったゲームでも3DSでクリアできるようになってもらうのがポイントにもなっていますものね。
奥成氏: そうですね。当時クリアできなかった人ができるようになるというのは大事な要素にしています。コントローラーが違うので、当時そのままのプレイはできないですから、さらに難易度を高くすることはしたくないので、中断しながらでも進めればいいじゃないかというところです。ボリュームのあるゲームなので、チクチクと遊んでいただけるんじゃないかなと。
―― それでは最後に、「3D ソニック2」をプレイしようとしているユーザーさんに向けて一言お願いいたします。
奥成氏: メガドライブのタイトルの中でも世界で1番売れたタイトルが「ソニック2」だと思うので、そういう意味では世界一メジャーなメガドライブのタイトルが今回ようやく3DSで遊ぶことができます。「ソニック2」は“ミスターメガドライブ”みたいなソフトだと思っています。「セガ3D復刻プロジェクト」の16番目というとても切りの良いタイミングでトリを飾れたというのは非常に良かったと思います(メガドライブは「16bit」を強く押し出していたため)。今回復刻されたメガドライブの3タイトルは、メガドライブというハードを回想する際に1番思い出しやすいタイトルなんじゃないかなと思うので、ぜひお楽しみいただければとお思います。
堀井氏: 私も16本目に「ソニック2」が来るという印象深いことだと思います。「ソニック2」はシャトルループだったり柱のまわりをぐるぐる回るギミックだったり3D立体視的にも見どころあるものが多かったりするので、是非楽しんでください。
あと、少しでもいいからスペシャルステージを手がけたスタッフのことを思い出しながらやってもらえるといいんじゃないかなとお思います。プリレンダを目コピですべてやるということはもうこれ以降ないと思いますので!
奥成氏: ニンテンドーeショップで3D立体視のPVを見ることができるので、このインタビューを見て気になった方はぜひそのPVで見どころをチェックしていただきたいですね。
AC版「バーチャレーシング」を移植したかった……
―― そして、「ソニック2」で「セガ3D復刻プロジェクト」も一息つきます。このプロジェクトを振り返って一言お願いします。
奥成氏: セガの1980年台のアーケードゲームとメガドライブのゲームはかなりの数がリリースされていて、あの時代こそがビデオゲームの時代だと感じる同世代の方は多いと思うんです。でもそれらのタイトル1つ1つを、全力で移植するチャンスというのが後にも先にも無いんじゃないかというくらい、いろいろなことが実現できたプロジェクトだと思いますので、自分の人生においても幸せな時間だったなと感じております。
知名度や人気において、だいたいトップに位置するタイトルがラインナップとして並べられた……「サンダーブレード」はベスト16に入るかは怪しいところがありましたが、まあそこも含め、2010年台に改めてリリースできたというのが幸せで、これからも3DSと共に愛でていただければと思います。
堀井氏: 本当に昔のゲームを復刻して遊んでもらうというプロジェクトに在籍して結構経つのですが、3DSで復刻するというところで、3D立体視にする1点においてユーザーの皆さんが驚いてくださったので、開発の方向性としてとてもやりやすかったです。いつもはどうすればもう1度遊んでいただけるかというところで頭をひねるんですけど、3DSに関しては、その当時頭に思い描いていたであろう空間を再現するだけで、ずいぶんなインパクトになって、(3D立体視の効果は)僕らもびっくりするくらいだったので、すごく相性のいい組み合わせだったと思います。それを永遠と続けていくことで、俺の3DSがセガハードになったということで感無量です。「サンダーブレード」が動いているということは、もうセガハードですよ!
―― 今だからこそ移植したかったタイトルってありますか?
奥成氏: 僕がやりたかったゲームと言えば、「バーチャレーシング」のアーケード版です。これまで忠実に再現したゲームが1本も出てないんですよ。メガドライブや「32X」、セガサターン、あとプレイステーションと4回移植されてるんですが、どれも違ってるんです。
メガドライブや「32X」版も当時はすごかったのですが、当時「バーチャファイター」ではなくて「バーチャレーシング」で(3Dのすごさに)先に驚いた部分があって、もう少し「バーチャレーシング」も注目されてほしいなと思います。先に出ていた「ウィニングラン(当時ナムコが制作したレーシングゲーム)ではピンとこなかったのに、「バーチャレーシング」はすごいと思えたんですよね。30フレームで表現されてて、これまでのゲームとは全然違ってなめらかに感じたので、そこに違いがあったんじゃないかなと思うんです。「ハードドライビング」や「ウィニングラン」は30フレーム出てなかったので。
あと設定でグランプリモードというのがあって、人気が落ち着いてきた頃には200円で15周プレイというのができたんです。タイヤがすり減っていくのでピットに入ってタイヤ交換をするタイミングを考えるんですが、それを友人と4人でプレイできるのは楽しかったですね。あれをいつかどこかで再現したいなという気持ちはありますね。今ではもっとすごいレーシングゲームがあるのに、あえて「バーチャレーシング」をやる意味はないじゃんと言われたらそれまでなんですが、こればかりは思い出のゲームなので、なにかチャンスがあれば復刻したいなとは思っております。
堀井氏: 全くかぶるんですけど、プリミティブなものをやってみたいなということで「バーチャレーシング」はやってみたいですね。
―― 今回で「セガ3D復刻プロジェクト」は終わりかも知れないですが、ぜひどこかで実現するといいですよね。
奥成氏: 本当に! でもこの「セガ3D復刻プロジェクト」のインタビューが何回も掲載されて、その中で何度“最終回”詐欺(プロジェクトが終わりますと言いながら続けている)してるかって話ですよね。第1期の「3Dベアナックル」の時はタイトルに「さらば!」って書こうって言い出したのは私なんですよね! 取材も最終回のつもりでいらしていたので。
堀井氏: 続くという話をするとは聞いていなかったのであの時はビックリしました。
奥成氏: 本当にシリーズが終わるつもりだったのは「3D サンダーブレード」で、この連載のように続けていただいた記事もあそこで終わるはずだったんですよね。そうしたらそのあとパッケージ版が出せることになって、番外編ということでインタビューも恥ずかしながら戻ってきて、そこで「今度こそ終わり」と言ってたんですよね。でもけっきょく次もこうして続けられて。
エムツーさんと過去のゲームの移植をもう10年続けてきました。この復刻クオリティまで到達できたのは、エムツーさんがずっとセガに付き合ってくれたからですね。初めは忠実な移植だけだったのが、少しずつやりたいことも増えてきたので、この「セガ3D復刻プロジェクト」では「『3D スペースハリアー』で最終ボス『HAYA OH』を加えよう」から始まり、追加でモードを入れるのが標準になりました。これもお客さんがずっと支持してくれたおかげで続けられたわけです。いいお客さんに恵まれたと思っております。
―― ありがとうございました。
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