インタビュー
「3D ファンタジーゾーンIIダブル」インタビュー
2Dの3D立体視化で次の次元に突入!? した1作、そして「真のフィナーレ」へ……!!
(2014/7/16 00:00)
7月16日、いよいよセガ 3D復刻プロジェクト第2期第4弾(通算第12弾)となるニンテンドー3DS「ファンタジーゾーンIIダブル」が配信される。価格は762円(税別)。CEROレーティングはA(全年齢対象)。
「ファンタジーゾーン」の続編である「ファンタジーゾーンII オパオパの涙」(リメイク版)と、スコアアタックが楽しめる新要素「ファンタジーゾーンII リンク・ループ・ランド」の2つのゲームがダブルで楽しめる1作となっている。
ゲームの内容に関しては過去記事をご参照いただくとして、お約束どおり、セガの奥成プロデューサー、そして制作のエムツー・堀井直樹社長のインタビューをお届けする。もちろん、新曲を担当したエムツーの並木学氏にもコメントいただいているので、お楽しみにしていただきたい。
「ファンタジーゾーンII オパオパの涙」の「システム16リメイク版」までの道のり
――個人的には「まさかの!」と思いました「ファンタジーゾーンII」ですが、今回もよろしくお願いします。
奥成氏:セガ 3D復刻プロジェクトの第2期は、第1期で挑戦できなかった大作3本「3D アフターバーナーII」、「3D ファンタジーゾーン オパオパブラザーズ」、「3D アウトラン」にチャレンジすることが目的だったので、この3タイトルを移植することでシリーズは完結予定だったのですが、せっかくこうしてシリーズを続けられるチャンスをいただけたので、もう少し欲を出して追加したのが今回リリースされる「3D ファンタジーゾーンIIダブル」になります。
ちなみに「3D アウトラン」のインタビューの最後に次回作が「アンコール的なもの」というお話をしたのは、例えばライブとかに行ったとき、「演目の中にない曲を1曲、(アンコールで)演奏するよね」というイメージしての「アンコール」だったわけです。ファンの方々が予想をしていない曲をやってくれたりするじゃないですか。
――はい、そうですねえ。
奥成氏:……それで「アンコール」という言葉を使わせて頂きました。タイトルとしても、「ファンタジーゾーン」は1回リリースしてますし、「復刻」という意味では今回復刻するのはオリジナル版の「ファンタジーゾーンII」ではなくリメイク版なので、そう考えると8年前という比較的新しいタイトルの復刻でもありますし。今回はちょっと番外編のようなタイトルだと思っています。
――このタイトルを予想していたファンの方々はどれぐらいいるんでしょうかね?
奥成氏:勘のいい人は早くから割と名前が出ていたと思いますよ。番外編であっても、あえてこのタイトルを選んだ理由はいくつかあります。まず初代「ファンタジーゾーン」がリリースされたら「II」も遊んでみたいという声はあるだろうと思っていたことと、「ファンタジーゾーンII」のリメイク版は単体で販売したことはなかったので(今回の移植元となるゲームは、プレイステーション 2で2008年に発売した「SEGA AGES 2500シリーズ Vol.33 ファンタジーゾーン コンプリートコレクション」の中に収録されている1ゲームだった)、いつか何かのタイミングで一本立ちさせてやりたいと思っていたこと。最後にもうひとつ、これまでエムツーさんはエミュレータベースの移植として「セガ3D復刻プロジェクト」を開発していましたが、自分たちが開発したゲームであればその制限が無くなるので、枷を外した彼らの「本気の3D」を見てみたいと思ったわけです。
堀井氏:本気ですし、技術の集大成でもありますね。
奥成氏:そして今回の「ファンタジーゾーンIIダブル」は、「ダブル」というサブタイトルがついている通り、もう1つの「ファンタジーゾーンII」が1本のソフトの中に入っているということが新たな特徴です。
1本は、「ファンタジーゾーンII オパオパの涙」の「システム16リメイク版」を3DS用に改めて作り直すという形のバージョンで、もう1本は完全新作で、ダブルでお楽しみくださいという形になっています。
――なるほど。
奥成氏:まず、「オパオパの涙」の「システム16リメイク」からお話させていただきますが、3DS版から少し話は脱線しますけど、このゲームの誕生までの成り立ちについて、改めてご説明させて下さい。
「ファンタジーゾーンII オパオパの涙」というゲームは、そもそも最初にセガ・マークIII用のゲームとして1987年に発売されました。これは、前作のマークIII移植版がマークIIIのハードを普及させる起爆剤になるようなヒットとなったことが理由です。
元のアーケード版には続編は作られていませんでしたので、家庭用ゲーム機オリジナルの続編となります。これまでセガではアーケードのゲームをアレンジして移植するというということは多々ありましたが、アーケードゲームの続編を家庭用向けに作るというのは初めての試みだったと思います。
――そういえばそうだったかもしれませんね。
奥成氏:開発チームは元のアーケード版のスタッフとは異なるメンバーで構成され、ゲーム内容も、家庭用向けならではの遊びを数多く取り入れたゲームとして開発されました。このゲームは後にファミコンやMSXにも移植されました。家庭用ゲームとしてはボリュームもあり、私も当時いちユーザーとして楽しみました。ただ不満もあったんです。それが、このゲームがアーケードに逆移植されたときのことです。
堀井氏:アーケード版の「オパオパの涙」は、マークIII互換基板の「システムE」(※)で動作している、マークIII版の移植作だったことから、僕らはアーケードゲームとしての風格が足りないと感じたんです。
※「システムE」……セガのアーケードシステム基板。CPUにZ80、スプライトは128枚が同時表示可能。サウンドは矩形波+ノイズが利用可能。「セガ・マークIII」と近いハードウェア構成となっている。「オパオパ」などもこの基板でリリースされた。
奥成氏:アーケード版からの「ファンタジーゾーン」のファンにしてみると、続編として登場したゲームが、元のゲーム(「ファンタジーゾーン」のアーケード版)よりも数段劣るシステム基板で、しかも家庭用版のゲームからいくつか要素まで減っている状態でリリースされて、納得いかなかった人もいたんですね。
堀井氏:そこで、「もし、『II』が初代と同じシステム16上で設計されてこの世に出ていたら、どういう姿になったんだろう?」という妄想を当時のファンはきっと思い描いていたはずで、僕も当時からその妄想をずっと暖めていたんですよ。
奥成氏:そこから20年くらい経ちまして、私がエムツーさんと出会います。初めてお仕事させていただいたのが、PS2版の「SEGA AGES 2500シリーズ スペースハリアーII スペースハリアーコンプリートコレクション」の時なんですが、堀井さんと初めて会った日に意気投合して、「移植だけじゃなくてアーケード版風の『スペースハリアーII』を作ったら面白いんじゃないか?」と、ムチャ振りをしてみたんですね。会ったその日に(笑)。
そうしたら、堀井さんから「それを作るなら、1本の新作を作るのと同じぐらいの労力がかかる。それは今回のプロジェクトでは予算的にも期間的にも不可能だ」と。だけれども、「『ファンタジーゾーンII』のシステム16リメイクだったら、いつかやってみたい」という話をされまして。「それはいいね」と。
堀井氏:僕にしてみると、昔描いた妄想を聞いてくれるプロデューサーがセガにいた、というよくわからない奇跡みたいなことが起こったんです。
奥成氏:その妄想は当時の私も描いていたものでしたものですからね。それに確かに1本新作を作る労力でリメイクするならば、ゲーム的にあまり初代と違いのない『スペハリII』より、『ファンタジーゾーンII』のリメイクをやりたいね」という話をして。そのあと、「SEGA AGES 2500シリーズ」が10本以上リリースされた中で、最後のタイトルとして「ファンタジーゾーン コンプリートコレクション」を選びまして、そのソフトの中の1本として、その理想を実現することができたのが「オパオパの涙」の「システム16リメイク」の誕生だったわけです。
私は「最初に会った時に話した企画がようやく着手できるよ」と言って、堀井さんは二つ返事でOKいただいたわけですが、もちろん作るのは堀井さんだけではないので、中ではいろいろあったみたいです(笑)。
【SEGA AGES 2500シリーズ Vol.33 ファンタジーゾーン コンプリートコレクション】
2008年9月11日にプレイステーション 2向けに発売された、「SEGA AGES 2500」シリーズの最後を締めくくったタイトル。「ファンタジーゾーン」、「ファンタジーゾーンII」、「オパオパ」、「ギャラクティックプロテクター」と「ファンタジーゾーン」関連タイトル11+αが収録されている。PS2アーカイブスとして、4月16日より配信されており、プレイステーション 3で遊ぶことができる。
【収録タイトル】
・ファンタジーゾーン アーケード(システム16)版(4バージョン収録)
・ファンタジーゾーン セガ・マークIII版(OLD/NEW2バージョン収録)
・ファンタジーゾーン ネオクラシック(隠し収録)
・ファンタジーゾーンII リメイク(システム16)版
・ファンタジーゾーンII セガ・マークIII版
・ファンタジーゾーンII アーケード(システムE)版
・ファンタジーゾーンギア オパオパJr.の冒険 (ゲームギア)
・スーパーファンタジーゾーン (メガドライブ)
・オパオパ アーケード(システムE)版
・オパオパ セガ・マークIII版
・ファンタジーゾーン・ザ・メイズ (オパオパ・海外版)
・ギャラクティックプロテクター セガ・マークIII版
堀井氏:僕はシステム16上で設計されて、ということを大事にしたかったので、見た目だけじゃなくて、実際に基板上で動くものでなくてはダメだと思っていたんです。
最初、社内で「システム16で新作を作る」という話をしたときにスタッフから出た反応は、「また社長がなんか妄想をぶちまけてるよ」というものでした。だから、私をあきらめさせようという意味で、「検討はしましたけれども、今のプログラミングのスタイルだと、システム16はワークエリアが少なすぎてゲーム(プログラム)が書けないので、そこが解決されないと無理です」という断りの返事をされたんですよ。でも、周りのハード屋さんに話を聞いてみたら、「メモリを増設してやるよ」という話が出て、実際にシステム16B(システム16の後期型)にメモリを増設してもらったんです。それで断ったつもりが、実際にやらなくてはならなくなったわけです。
――(笑)。
堀井氏:スタッフにメモリを増設したシステム16を見せて、「それ以外には問題なかったはずだよね?」って言ったら「ぐぬぬ……」ってなるわけです。「じゃあ、仕事として成立して世の中に出るものだし、やるよね?」、「やります」となって作られたのが「システム16リメイク版」なので、ちゃんとメモリを増設したシステム16があれば、実機で動作するように作りました。システム16Cの誕生です。
奥成氏:制作の過程としては、PCベースでシステム16エミュレーターのようなものを作って、その上で作ったという感じだったんですよね?
堀井氏:基本的には一旦それで作って、それをシステム16用にEPROMに焼いて、実機で動作確認しながら制作を進めていきました。
――Windowsで動く体験版も配信されてましたよね?
堀井氏:体験版はWindowsで動作するものをそのまま出しました。
奥成氏:PCのエミュレーター上で作ったものを、システム16用にROMに焼いて動作させると、エミュレーターでは起こさなかった処理落ちとか不具合が出るので、それに合わせて動作を軽くしてみたりとか……。
堀井氏:エミュレーターも直してみたりしましたね。
奥成氏:具体的に言うと、画面に表示する弾数が多すぎたりすると、めちゃくちゃ処理落ちしたりとか。BGMがおかしくなったりとか。PC上では問題なくても、システム16実機上では問題が出た不具合は、すべてシステム16上で問題が無いように修正していきました。当時エムツーさんの会議室の中央にシステム16の基板が置いてあって……。
堀井氏:21世紀のゲーム開発現場ではなかったですね(笑)。
奥成氏:最終的には、そうしてできあがってきたものを、さらにPS2(で動作するよう)にもっていくものなので、実機での動作にそこまでこだわる必要はなかったわけですが、エムツーさん、いや堀井さんの中では「あくまでシステム16の範囲の中で動かなければならない」と。
堀井氏:「システム16で最後に作られたゲーム」にという風にしたかった。それをこれから破ってくれる人がいらしたら、「いてくれてもよろしくてよ」ですけれどね。
――(笑)。あくまで実機動作するということがキーコンセプトであったと。
奥成氏:はい。そうして出来上がったのがPS2版に収録された「オパオパの涙」の「システム16リメイク」版です。ややこしいですけれども(笑)。こういった一見無駄なこだわりに反応して頂けた方は、決して多くは無かったと思いますが、そうでなくとも、「ファンタジーゾーンII」のリメイク版が、当時らしいテイストで遊べればそれで楽しいので問題はありませんでした。
堀井氏:1番わかりやすい話でいえばそれですね。マークIII版やファミコン版をプレイしていた方が「すごいアーケード版があるぞ」ぐらいのノリで遊んでもらえればいいだろうな、というところです。
奥成氏:この辺のお話はPS2版ソフトのマニュアル(PS2アーカイブス版にも電子マニュアルとして収録されている)をごらんいただければと思います。
――「オパオパの涙」がマークIIIから互換基板のシステムEでアーケード版がリリースされたというのも、当時としてはおもしろい成り立ちですよね。
奥成氏:「ファンタジーゾーン」が商業的に成功したのはあくまでマークIII版で、実はアーケード版はそこまでのヒットはしていなかったんですよ。
マークIII版の「ファンタジーゾーンII」が作られてから、「せっかく新作を作ったんだし、これもアーケードで出そう」という話になったので、マークIII版の開発が終わった後に、プログラマーがアーケード向けの仕様に簡易的に調整してリリースしたのが、システムE版ですね。
堀井氏:そうですね。アーケードにあっては困る仕様を外して作られていますね。
奥成氏:リメイク版で堀井さんたちエムツーのスタッフの皆さんが作ったのは、「最初からアーケードで『ファンタジーゾーンII』が開発されたとしたらどうなっただろう?」というもので、そこをまったく新しいものではなく、あえてマークIII版のテイストを残しながら作るという「歴史のif」……当時僕がさんざん言っていましたけれども、それを実現させたわけです。
世界観やストーリーやキャラクターは残しつつ、特徴的なワープシステムはブライトサイドとダークサイドの行き来に使う、ということでアレンジされました。新武器も可能な限りアーケードライクに再調整されました。マルチエンディングも追加しました。これにより、初代「ファンタジーゾーン」の約2倍のボリュームの、新しい「ファンタジーゾーン」が誕生した訳です。