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「SEGA AGES ファンタシースター」インタビュー
いにしえの超技術にエムツーまさかの敗北……!? 原作当時の開発秘話も満載!
2018年10月31日 00:00
セガの名作を“こだわり満載”で復刻する「SEGA AGES」。10月31日に3タイトル目となる「SEGA AGES ファンタシースター」が配信開始されたので、恒例のインタビューをお届けしよう。
インタビューにご参加頂いたのはセガゲームスよりシニアプロデューサー下村一誠氏、リードプロデューサー及びディレクターの小玉理恵子氏、開発を手がけるエムツーより堀井直樹氏。なお、今回はスーパーバイザーの奥成洋輔氏は海外出張中のためお休みとなった。
今回は特に、リードプロデューサー及びディレクターの小玉理恵子氏が、原作のセガマークIII/マスターシステム用「ファンタシースター」にデザイナーとして参加した原作制作者なので、当時の制作状況や秘話などもたくさん伺わせて頂いた。そのあたりもお楽しみ頂ければ幸いだ。
原作のデザインを手がけた小玉さんが自ら監修した「SEGA AGES ファンタシースター」
1987年、セガマークIII/マスターシステム向けに発売された、セガ初めての本格的オリジナルRPG。4M大容量カートリッジを採用し、アニメーションするモンスターとの戦闘や美しいグラフィック、SFとファンタジーを融合させた独自の世界観などが当時のゲームファンを驚かせた。
「兄を亡くした少女・アリサが、国王ラシークの野望を阻止するため、仲間たちとともに3つの星を舞台に冒険を繰り広げる」というストーリー。エアポートに宇宙船が発着しロボットが行き交うSF世界と、剣と魔法でドラゴンと戦うファンタジー世界を、絶妙に融合させたオリジナリティ溢れる世界観となっている。
その後もシリーズ作が続いていき、メガドライブでも復刻版を含め4作品が発売。セガサターンやプレイステーション 2には、当時の「SEGA AGES」による移植版やリメイク版も発売された。ドリームキャストで始まった「ファンタシースターオンライン」シリーズは、現在もセガの看板RPGとして展開している。
なお、Nintendo Switch「SEGA AGES」のリードプロデューサー兼ディレクターである小玉理恵子氏は、「ファンタシースター」の開発スタッフの1人としてデザインを行なっており、その後もメガドライブでのシリーズ作に携わっている。
――「SEGA AGES ファンタシースター」は、配信日が1度延期されて未定になっていましたが、10月31日配信に決まったということで。ユーザーさんの目線からも、急遽決まったという印象があると思います。
小玉氏:そうですよね。それに国内は10月31日配信なんですけど、海外はちょっとずらしていて11月15日を予定しているんです。
下村氏:世界同時に配信していきたかったのですが……。9月20日に第一弾を配信してから、どうしても月1本のペースでリリースしていきたいという気持ちがあったんです。そこで、この作品では「間に合う地域から出していこう……!」ということにしました。
堀井氏:つまりは滑り込みなんです。おおむね我々が悪いんです!
下村氏:終盤で色々と無理をしたところもありましたが、エムツーのスタッフさんには頑張ってもらえまして、なんとか無事に発売に漕ぎ着けることができました。
――なるほど、難航したお話についても後に伺ってまいりますが、まずは第1弾の2タイトルに続いて3本目に「ファンタシースター」が決まっていった理由からお聞かせ頂けますでしょうか。
小玉氏:「RPGを1本やりたいな」というのがあったことと、今回は私がプロデューサーをするということで奧成からも「『ファンタシースター』をやったらどうでしょう?」と提案して頂きました。あと、エムツーのディレクターの松岡さんからも「ファンタシースター」のファンなんですとおっしゃって頂いたんですよ。
堀井氏:そうなんですよ。かなりテンションが高かったですねー。
小玉氏:というわけで、みんなで「よし、じゃあ『ファンタシースター』をやろう!」となって進めてきたという感じですね。
下村氏:「ファンタシースター」に関しては僕の目標はただひとつで、「SEGA AGES」で「ファンタシースター」をやるという流れを作って、それを小玉さんに担当してもらうようにする。これさえ整えれば、小玉さんとエムツーさんとで僕の想像を超えるような素晴らしい作品に仕上げてもらえると思っていたんですよ。
これが例えば、「アウトラン」とかなら「Hiro師匠の新しい楽曲欲しいよね?」とか、そういう僕からの注文もしたいところですけど、「ファンタシースター」に関しては他でもない小玉さんがやってくれて、エムツーさんのスタッフの中にも熱いファンの人がいて、その相乗効果を生み出すフィールドを作ることで、僕のこの作品におけるミッションはほぼ果たしたなと思ってます。
堀井氏:お膳立てとしてはバッチリですよね。今までで1番「原作者の人に話を聞けるタイトルになった」というのは間違いないです。ご本人としては、「当時のことをあんまり表に出さないで!」という気持ちもあったりするようなのですが(笑)。
――(笑)。
堀井氏:うちの開発チームの原作ファンは、いろいろなお話が伺えて嬉しかったと思いますよ。
――小玉さんはまさに原作を作られたチームのお1人ですもんね。ただ、3DSの「セガ3D復刻」シリーズではRPG作品をやっていなかったり、アーケード嗜好が基本的に強い印象もあって、今回「ファンタシースター」が早い段階から登場したのはちょっと意外に感じられます。
堀井氏:そうですよね。実際、RPG作品はチェック項目がすごく膨大になるから大変というネックがあります。あと「セガ3D復刻」シリーズでは3D立体視を必ずやるというのがあったので、「ファンタシースター」の全シーンを立体化していくのが厳しかったというのもありました。……もちろん、3Dダンジョンの立体視をなんとかやってみたかったと思わなくもないのですが!
――なるほど。今回の開発はいつ頃から行なわれていたのでしょうか? 第1弾の2本は昨年の冬あたりから進み始めたということでしたが、「SEGA AGES ファンタシースター」もそれと並行していたのでしょうか?
堀井氏:そうですね、並行しています。開発には各タイトルの“中身を作るスタッフ”と“Nintendo Switchのアプリとして仕上げるスタッフ”がいるのですが、中身を作るスタッフがたくさんいて、他にも多くのタイトルをどんどん解析しているという感じですね。
――エムツーさんでは今も同時進行でラインがいくつも走っていて、各タイトルの材料が次々に作られているというわけですね。
堀井氏:ですね。「SEGA AGES」とは関係のないスタッフも、「ゲイングランド」とか「アウトラン」などいろいろなゲームの制作中の音とかが聞こえてきて、「懐かしいな」とか「これもやるのかー」なんて思っているようです。でも、「俺もあっちに絡みたいけど、こっちはこっちで大変だ」みたいな感じですね。
――エムツーさんと「ファンタシースター」シリーズの関わりとしては、2008年に発売されたプレイステーション 2用の「SEGA AGES 2500シリーズ Vol.32 ファンタシースターコンプリートコレクション」を手がけたのが最初になるんですよね。今回はそれを踏まえて進めているという感じなのでしょうか?
堀井氏:当時の「コンプリートコレクション」に関わっていたスタッフは今回も参加していますので、「コンプリートコレクション」に実装していた“経験値が増えてサクサク遊べるモード”などの機能は一通り収録していますね。
――小玉さんから見て、そういった「コンプリートコレクション」など、いろいろな人が移植した「ファンタシースター」が過去にもあったわけですが、それに対して何か感じていたり、思っていたことなどはあったのでしょうか?
小玉氏:先ほど堀井さんもおっしゃっていたのですが、「あまり昔に描いた絵を見たくない!」というか、「恥ずかしいから載せないでっ!」っていうのが、やっぱりあってですね(笑)。実は以前の「コンプリートコレクション」の時にも、「私の描いた絵を大きく載せるのとか勘弁してくれないかなぁ……」なんて抵抗したりしたんですよ。
でも、今回はもう私自身が担当しているので、「もういいです、好きに使って下さい……」という感じです(笑)。昔の取扱説明書に描いた絵ですとか、メガドライブ版のパッケージ裏に描いた絵とか、あと、「ファンタシースター 千年紀の終りに」の時に本が出ていたのですが、それ用に描いたアリサやルツのイラストのデータなども全部渡してやって頂いてます。
堀井氏:今日いない奧成さんもですけど、当時からのファンがたくさんいますから。今の「千年紀の終りに」の本のことなど、作品のあれこれを全部知っているというのが強かったですね。
――ご本人以上にファンである周囲が覚えているような状態だったんですね。小玉さんとしてはやっぱり「恥ずかしいなぁ」っていう気持ちがありますか?
小玉氏:それはそうですよー! だって、もう30年も前に描いた絵なんですから……。30年も前の絵を「これを描いたんですよね?」って見せられるというのはですね、なかなかこう……。
――よっぽど自分が大好き過ぎる人でもないと、なかなか(笑)。
小玉氏:(笑)。
堀井氏:この30年の間に「黒歴史」っていう言葉も生まれましたけど、そこに近い感覚を掘り起こす感じだったと思うんですよね。でも小玉さんは「プレーヤーの皆さんが楽しみにされてますから」っていうと、「……わかりました」って言ってくれるんです(笑)。そこはやっぱりゲーム制作者だなって感じました。
――そのあたり、下村さんからも小玉さんを説得するようなことがあったりしたのでしょうか?
下村氏:いや、今回はもうお願いしたら「どんとこいっ!」っていう感じでしたね。
小玉氏:前にPS2で出た「ファンタシースター generation:1」というリメイク版があったのですが、それを担当されていたのも下村さんだったんですよ。実は、その時にかなり強く抵抗したんですよね……(笑)。
――なるほど、最初の抵抗はそこでもう済んでいたんですね(笑)。
小玉氏:そうそう(笑)。
セガサターンやPS2のコレクション版も踏まえてさらに新要素を追加したが、「オートマッピング」実装に苦戦
――今回の「SEGA AGES ファンタシースター」はどのようなコンセプトで進められたのでしょう?
小玉氏:今回は、「昔のものをもう1度遊ぶために遊びやすくしよう」がコンセプトです。リメイクするということではなく、何かを大きく変えるとかもなくですね。「AGESモード」というものがあるのですが、そこでは歩く速度が速かったり、経験値が多かったり、お金がたくさん手に入ったりと、遊びやすくしています。
エムツーのディレクターの松岡さんとも相談したのですが、「ものすごくいろいろな物を足して新しいもののようにしてしまう」というのも可能といえば可能なんだけども、そうではなく「昔の味を活かしたもの」にしましょう、と。松岡さんも「ファンタシースター」がお好きだったということで、そこを崩さずにやりましょうとなったんですよね。
昔をそのままにというところだと、例えば、海外版の英語のテキストは今見ると翻訳的にどうかとか、文法的にどうかという意味では間違っている箇所もあるんですよ。ですが、そこも「これはこれで当時のものですから」ということで、そのままにしています。
堀井氏:英語版で「ペロリーメイト」とかどう訳されてるんだろうとか気になりますよね!
全員:(笑)。
※「ペロリーメイト」は、ゲーム中に登場する回復薬。
――30年前ですもんね。ゲームのローカライズの歴史としてもかなり初期のものになりますし、ノリで乗り切っているところもあったかもしれないですよね。
小玉氏:ですねー。今だと、ファンタジー作品なら1度翻訳したあとに美しい英語にもう1度訳してみたりとか、韻を踏むなどファンタジーの世界観にふさわしい美しい文章に直しますが、当時はそんなことをしていたのかはわかりません。でも、海外にはそれで遊んでくれていた人もいたわけですし、原作のものをそのまま入れていますね。
――なるほど。「AGESモード」についてですが、ゲーム本編を遊びやすくする方向としては、おそらくエムツーさんは10年前の「コンプリートコレクション」の時に奧成さんと意見を出し合っているところですよね?
堀井氏:やってますね。「10年前も同じ事を言っていた気がするな」っていう感じもするのですが、当時は「昔に遊んだものをもう1度遊ぶというのはどういうことか」を話し合っていて、子供の頃に月に何本もゲームを買えないから1本をじっくり遊んでいたのと、やろうとすれば何本も買って積めちゃうような今の状況で遊ぶのとでは楽しみ方が違ってくるよね、とかですよね。
そういうところから考えていって、歩くスピードを上げたり、経験値を増やしたりという、わかりやすいところを当時に追加していました。そこは10年経った今回も健在で、引き継いでいますね。
ただ、前作はオプション機能を駆使しないと簡単設定がわからないとか不親切なところがありましたので、そこはモードとして1つにまとめるなど、よりわかりやすくしました。また、現在PS2版はPS2アーカイブスで廉価で購入できるようになっていますが、今回はオートマッピングやモンスター図鑑などを追加することで、単体で売っても恥ずかしくないクオリティに仕上げたつもりです。
――変わらず、より進化したということですね。ちなみに、Nintendo Switch「SEGA AGES」としては、第1弾の2タイトルはメガドライブ作品でしたけど、今回の「ファンタシースター」は1世代前のセガ・マークIII/マスターシステム作品ということで、基本的な移植作業に特に問題などはなかったですか?
堀井氏:「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の時にはマスターシステムのVDPとメガドライブが一緒になった「MEGA PLAY版」があったりして大変でしたけど、そういうのは今回はなかったですね。マスターシステム単品のゲームですからゲーム的には軽いです。
でも、そこで「じゃあ、こういうこともできるよね」ということで「オートマッピング」や「モンスター図鑑」などの新要素を追加しています。軽くなったら軽くなったで、結局はそのぶん別のことをするというわけですね。
ちなみに、今回の新要素である「オートマッピング」や「モンスター図鑑」は原作ファンでもあるディレクターの松岡がアイデアを出してくれたんですよ。
いつもだと僕が「こういうことをやりたいんだけど、こうすれば技術的にも可能だよね?」って話をしていて、すると松岡に「見込みが外れたときに僕がひどい目にあうんですよ!?」なんて怒られていたんです。
だけど今回は松岡自身がアイデアを出して、その実装までの見込みがはずれてひどい目にあっているんですよ(笑)。
――松岡さん自ら考案して、自ら苦労されたんですね……(苦笑)。ちなみにセガサターン版にあった「ひらがな混じり表記のモード」も入っているということですが、これはセガサターン版のプログラムを今回のNintendo Switch版に持ってきているということなのでしょうか?
堀井氏:2008年の「コンプリートコレクション」のときは、セガサターン版のソースデータをもらいましたので、それを解析してPS2版へと入れていったんです。今回のベースも同じですね。
――そこはもう前回で踏まえているところなんですね。余談ですが、セガサターン版のときにただの移植ではなく「ひらがな混じり表記のモード」という要素が入っているのも、今の「SEGA AGES」的なこだわりを感じますよね。
堀井氏:そうなんですよ。セガサターン版の当時のことをお聞きしたわけではないのですが、僕が勝手に想像すると、マスターシステムのVRAMにカタカナを入れた時点であふれちゃったけど、セガサターンならその制約がないから、「いっちょ拡張してやろう!」と奮起した人がいたんだと思うんですよね。
小玉氏:あれは読みやすくてよかったですよね。原作を作っていたときにも、ひらがな混じりにもちろんしたかったんですよ。でも入らなかったから(笑)。
堀井氏:ROM内がキツキツでフォントも入らないかもしれないし、キャラクターの定義枚数も255枚の中でやらないといけなくて、ひらがなとカタカナを両方混ぜるのは無理だよねっていうところがあったと思います。
――そうして考えると、セガサターン版の「ファンタシースターコレクション」も、原作を好きな人の気持ちが感じられるところがありますね。
堀井氏:間違いないですね。なのでPS2の「コンプリートコレクション」のときにも、セガサターン版がすごくがんばっているのが感じられて、その要素は僕たちも押さえたいというのがありましたね。
「ファンタシースター」のひらがなカタカナ混じりのテキストですが、文字表示にはマスターシステムのBG機能が使われているので、そのマスターシステムのBGの定義領域を2ページ(=倍)にしました(そのままだと、ひらがなとカタカナを定義するためのメモリが足りないのです)。
その上で、マスターシステムのBGのネームテーブル(背景のBGタイルに何を表示するかを指定するメモリ)に1ビット分未使用のメモリがあったので、その1ビットをカタカナ側の表示かひらがな側のどちらを表示するかの判定に使って、今表示すべき文字がひらがなかカタカナなのかを判定しています。
実質、BGの定義パターンが倍になったマスターシステムを新たに作った事になります。「マスターシステム+」ぐらい名乗ってもよいかもしれません。なお、セガサターン版の「ファンタシースターコレクション」も(あれはエミュレーターではないですが)同じ方法で拡張していた様です。
――今回の新要素である「オートマッピング」ですが、画面レイアウトも独特ですし斬新な仕上がりになりましたね。
堀井氏:一瞬、違うゲームのように見えますよね。これは弊社の松岡が、10年前のPS2「コンプリートコレクション」を制作したときのことを振り返りつつ、やっぱり「ダンジョンは迷うよね」という気持ちがあったようで。そこを埋めるためのオートマッピングなんです。
……実は、ここがいろいろと引っかかって、バグが出てしまったポイントだったんです。
――手こずったところなんですね。
堀井氏:マップを表示するだけならまだ良かったんですけど、落とし穴の表示とかをやっていくうちに「ただマップを見せるだけでは仕様として成立しない」というところがポンポン出てきて、当初の見通しとはだいぶ違ったものになってしまったんですよね。
――当初は、3Dダンジョンのマップを表示したいよねっていうことだけを考えていた感じですか?
堀井氏:そうですね。3Dダンジョンはマップがあった方が良いよねっていう考えから入って、「じゃあ、ダンジョン以外の場面は画面レイアウトどうするの?」となって、あれもこれもと作っているうちに、バグが出て……。
そういうのが積み重なった結果、10月31日っていうギリギリの発売日になっていったんです!
小玉氏:そんなこんなで、水曜日発売ですっ!
――変則的ですよね(笑)。
下村氏:いろんなところに無理を言ってしまいまして、関係各位にはご迷惑をおかけしてしまいました。
堀井氏:今回はもう、僕の後頭部をぶん殴りたくなるのを下村さんが一生懸命我慢しているんじゃないかっていう状況ですよ!!
全員:(笑)。
堀井氏:いろんな仕様や問題が後から次々に出てきてしまって、ご覧の有り様になりました。大変お待たせしました!
――諦めるかどうかもあったとは思うのですが、そのあたりは「移植をして発売する機会って滅多にこないんだ」っていう気持ちがやはり大きいですよね。
堀井氏:そうそう、そうなんです!「ファンタシースター」は2度目ですけど、それでも10年単位ですね。
――10年単位で移植のチャンスが巡ってくるタイトルなんてほぼないですし、その貴重な1回の時には、妥協して心残りを残すわけにはいかないっていう気持ちになりますよね。ユーザー目線としては、ポンポンっと発売して欲しいという気持ちもありますけども。
堀井氏:いや、そのつもりでやってはいるんです! 月刊どころか、隔週で月2本ぐらい出していきたいですし。本当なら「ファンタシースター」は、1度10年前に手がけていて当時のスタッフもいるし、さらに小玉さんもいらっしゃるしで、もっとスムーズにいくはずだったのですけど、予想外なものが出てきてこうなってしまって。なかなか見込み通りにはいかなかったというケースなんです。
――他には、公式サイトの紹介には「海外版ファンタシースターのFM音源化!」というものもありますが、こちらはどういったものでしょう?原作の海外版だととりあえずFM音源は入っていないんですよね。
堀井氏:そうです。原作の海外版にはFM音源は入っていなかったのですが、今回の「SEGA AGES ファンタシースター」ではそれが聴けるようになっています。これはおそらく当時だと、英語版にしていくときに容量が日本語よりも膨らんだんだと思うんですよね。それでFM音源を削ってリリースしたんじゃないかなと思います。
――なるほど、それが今回は聴けるということで。これは主に海外のユーザーさんのための機能ですね。
エムツー解析班も驚愕!「マッドドクター」は最後までデータ格納場所が判明せず
――他の新要素には、「モンスター図鑑」や「全マジック、全アイテムのリスト化」というものもありますが、これもやはり松岡さんをはじめとしたファン目線としても欲しい機能という感じですよね。
堀井氏:僕は、「ファンタシースター」って、セガが「ドラゴンクエスト」のカウンターに出したタイトルだと個人的に思っていて。3Dダンジョンが滑らかに動いたり、モンスターも全部アニメーションしたりと、当時としてはかなりすごいんですよね。そうしたひとつひとつが遊んでいたときの記憶に残るゲームだと思うんです。
そこで、「モンスター図鑑」や「全マジック、全アイテムのリスト」を作って、それらをいつでも見られるようにしようということなんですよね。
――この2つの機能は、開発にそこまで苦労される感じではないですよね?
堀井氏:いえ、実は……、「モンスター図鑑」は相当に手こずりました。これがある意味、今回の1番の問題で。ざっくり言えば、遭遇した敵キャラクターのアニメーションを表示して、説明文をつけるっていう仕様なんですけど……。
マスターシステムのゲームで4MbitのROMですから、そこに圧縮されたモンスターの絵データが入っていて、圧縮を展開するルーチンがあってアニメーションがあってというのが、モンスターの番号を変えれば出るのかと思ったら……、全然そんなことはなくてっ!
「ファンタシースター」は、“モンスターの絵に対して、その絵に1番圧縮効率の良い圧縮ルーチンが選ばれる”ようになっているんです。原作のリード・プログラマーである中裕司さんの頭の中にはおそらく「絵のタッチによってどのアルゴリズムで圧縮するのがいいか」があって……。
1バイトでも容量を節約するために圧縮展開ルーチンが全部違うんですよ!
――えーっ!
堀井氏:最初は軽い気持ちでモンスター図鑑を作り始めたものの、表示できないモンスターが次々に出てきて、なんで出てこないのかを調べていったら、絵ごとに圧縮ルーチンを変えているのが判明して……。「これは図鑑は無理じゃないか?」っていう空気に(苦笑)。
小玉氏:(笑)。
堀井氏:4MbitのROMの中に1体でも多くひとつでも多くのアニメーションを入れるための工夫として、最適な圧縮ルーチンを選ぶというのを中さん(中裕司氏)がやってらっしゃるんですよね。
これを知った僕は、「すごくセガっぽい!」と大興奮でしたよ! いやでも、興奮している場合じゃなくて大変なんですけど、それでも僕は松岡たちが苦しんでいるのを見て「俺が応援したセガは、やっぱりすごかった!」って思って!!
――嬉しいやら大変やら(笑)。
堀井氏:かなり手こずったものの結局は、9割方のデータは引き出せたんです。
……ただし、「マッドドクター」というモンスターのデータは見つかりませんでしたっ!
――えっ?
堀井氏:ROM内をひたすら探索したんですけど、「マッドドクター」というモンスターを表示する方法だけが見つからなかったんです。どこにどうやってデータが入っていて、どうやったら引っ張り出せるのかが、わからない。
なので、その「マッドドクター」だけは我々が目コピで別データを用意して図鑑に表示するようにしています。
……中さんっ! もし、このインタビューをお読み頂いたら「マッドドクター」はどうやってたのか教えて下さいっ!!
全員:(笑)。
堀井氏:いや、ホントに、ホントに!
小玉氏:こんなことになっちゃうぐらい、原作はROMにデータを詰め込んでいたんですよ(笑)。
堀井氏:いやぁ……、「北斗の拳」を作り、「ファンタシースター」を作り、後に「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を作る人がいかに凄いか。いつかは直接お話させて頂きたいなと心から願っております。
――エムツーさんの敗北ですね。
堀井氏:そうなんですよ。ROMから引っ張って作るモンスター図鑑なのに、1体だけ目コピって。ちょっと、ねぇ……。
小玉氏:このモンスター図鑑は本当にかなり時間がかかっていて、「なんでそんなにかかるんだろう?」って私も思ったぐらいなんです。「だって、そのまま探し出して表示すればいいのでは?」って思うじゃないですか(笑)。
――そうですよね。これは開発現場もわけがわからずパニックですよね。それにしてもエムツーさんの開発話としては珍しいですね。
堀井氏:僕らはもう、敗北感にさいなまされていますよ。丸裸にしてやるって言ってゲームを作り始めているのに……。
――天才の前についに。
堀井氏:天才の技であり、怨念であり。やっぱり「俺たちが天下を取る!」っていう強い気持ちや、「このゲームでユーザーをどこか新しい次元へ連れていくんだ!」っていう気持ちを持ってゲーム制作をしていた人の凄さを感じましたね。
――それにしてもモンスターのデータの入れ方に驚きます。当時は容量とのせめぎ合いの時代ですよね。
小玉氏:ですねー。中さんがどうにかデータを詰め込んでくれて、「これだけ余ったから絵をもう1枚入れましょう!」って言ってくれたこともありました。
当時はRPGで敵がアニメーションするものとかもなかったので、「やりたいけど、それには容量が厳しいよね。」っていうところから、どうにか工夫して実現しようと進めていったのをよく覚えています。
堀井氏:当時のファミコンとかマスターシステムのゲームは、大きくても2MbitのROMなんですよね。それが「ファンタシースター」では4Mbitになっていて。そこにどれだけのデータが詰め込まれているのかといえば、中さんの手腕のおかげで普通に作ったときの5Mbitとか6Mbitぶんぐらい入っているんですよ。それを今回の「モンスター図鑑」作りで苦労しながら、改めて感じました。
中さんがゲーム機を極限まで使い倒す鬼のような人なのは「北斗の拳」とかを見て知っていたのですが、改めて対峙させて頂いて「やはり荒野を開拓した人は違うなぁ……。」と思った次第です、はい。
――当時の開発って、あくまで想像ですけども、1人のがんばりで「こうなったから、こうしちゃおうぜ!」とかがどんどん入ってきたり、リベラルというか自由だったのを感じますよね。
小玉氏:うんうん。
堀井氏:本当にそうですよね! 当時の作品って、マスターアップ前にも大規模な仕様追加とかもしていると思うんですよ。「できちゃったから入れちゃおう」とかね。先ほど小玉さんがおっしゃっていた「容量が空いたから絵をもう1枚入れよう」とかって、今はないですしね。
――今は、いろんなパートの人との兼ね合いがあって勝手なことはできないですし。
堀井氏:そうそう。
――でもそこに、面白いことの秘訣というか、何か大事なものがあるような気もしてきますね。
小玉氏:「ここは任せるからっ!」っていうのが多かったなと思いますね。「ここには『絵』をお願いします!」って言われて、「絵ってどんな?」って聞いたら、「全面的にお任せしますので!」というので、相応しいであろう背景を描いてみたり(笑)。
昔のセガのデザイナーにしてもプログラマーにしても、みんなちょっと職人的な感じだったと思うんですよね。ここはもう職人さんに任せるんでっていうものが多くて、それぐらいの事で全てのゲームが成り立っていて、1年かからないぐらいで完成していた時代。当時はデザイナーが2、3人だけみたいなものですけど、今みたいに人が多くて容量も大きいと統率してやらないとできないですよね。
――制作者のセンスと技術がそのまま詰め込まれていた時代のゲームですね。
堀井氏:コードを読めば誰が書いたものかわかるし、絵を見ればどなたが描いたがわかるし、スプライトのパレットを見ればこの人なんじゃないかなってわかるような、そういうゲームですよね。
――こうしてお話を伺っていくと、シリーズ作の中でも、そうした時代の1番最初の手探りの中で、技術とセンスを詰め込んで完成していった初代作品は最も特別で、そこから移植していきたいとなるのは当然だなと思えてきます。
堀井氏:思いますね。解体してみたら、より強くそれを思うようになりました。
4MbitROMに詰め込まれた、当時のゲーム制作技術の数々
――今回の「SEGA AGESファンタシースター」がなぜ予定が伸びたのかというのは、「原作のコードがあまりに手強かった」というところに終始する感じですね。
堀井氏:そうですね、そこに終始します。「オートマッピング」と「モンスター図鑑」と、あと「ステータス表示を画面の外にも表示」できるようにしていたりするのですが、実はそれも手間がかかっちゃってて。この3つの苦労がなければリリースは3~4カ月ぐらい縮まったんじゃないかっていうぐらいですね。
それぐらい時間のかかってしまったものなのですが、Nintendo Switchに「SEGA AGES」という名前で出すのならこれもやりたいんですと相談したら、下唇を噛んでプルプル震えながら「……やりましょう」とセガの皆様が言ってくださって、そのおかげで実現しています。
小玉氏:でもねー、こんなにかかるとは思わなかった(笑)。
堀井氏:ですよねっ! すみませんっ! ここは正座しながら聞きますっ! すみません、がんばりますっ!! ……やばいなーこれっ!!
全員:(笑)。
――想像するほどにおっかない状況ですよね。発表も予定されているのに、解析でつまずいちゃってて「これどうしたらいいんだ!? わからないぞ!」ってなっちゃってるわけですから、気が気じゃない。
堀井氏:この場を借りて言い訳をするわけじゃないですが、ある程度の見通しを立ててから解析するわけですけど、その見通し通りになるとは限らないんですよね。モンスターの表示ルーチンもまさか何通りもあって、最後まで解析しきれないモンスターまでいるだなんて解析前にはわかるわけないじゃないですか。わかっていたら、もっと別なことを考えようかってなりますから。
――ですよね。それにしてもそのモンスター表示ルーチンの謎は気になりますね。
堀井氏:容量をちょっとでも小さくするために、例えば、タイルをいっぱい使っている絵と、同じ色が並んでいる絵となら、それぞれに違う圧縮ルーチンを通した方がより圧縮できるんですよね。そういうことをひとつひとつ中さんが考えていって、個別に圧縮ルーチンを用意していったんだと思うんです。
――それで数バイト空くぞ的なことを積み重ねていって。
堀井氏:そうそう、その積み重ねで絵をもう1枚入れられるようになりました、みたいなことをされていたわけですよね。
小玉氏:そういうのは当時は結構あった話で、例えば、私じゃなくて別のデザイナーなんですけど、「こういう色の並びを使った方がデータの圧縮率が高まるはず」って考えて絵を描いていたりもしていたんですよ。
堀井氏:そうか、逆もあるんだっ!! デザイナーさんも圧縮効率かつテレビでの見栄えを考えて絵を描いていくみたいな。
小玉氏:そうそう、それを両方考えて配色するとかをやってたんですよ。
――今とはアプローチが違いますよね、デザインも技術から入ってる。
小玉氏:昔だと、8×8ドットを1セルと呼んでいたのですが、それを描いて反転させて使えばそのぶんの容量は空きますから、それを多用して容量を節約したりしたんですよね。
堀井氏:やり過ぎるとそこがバレて絵が安っぽく見えたりするし、光源をきっちり書き込んであると反転させて使ったら「光源おかしくない?」ってなるので、その辺はバレないようにやるのが技でしたよね。
小玉氏:大きい絵の中で「こことここは実は反転してる」から、見た目にはわからないけど実はそんなに容量を使っていない、とか。「ファンタシースター」のイベントシーンの絵とかは比較的そういう方法を多用していると思います。
あとは波が行ったり来たりしている海辺があるんですけど、その波もカラーチェンジで動いているように見せているだけなんですよ。
堀井氏:アニメーションの絵を用意しているわけではなくて、色をグラデーションして青いところを増やせば波に見えて、青いところを減らすと砂浜に見えるみたいな。そういう変化だけでアニメーションしているっぽく見せているんですよね。
――容量を節約しつつアニメーションしているように見せているわけですね。
小玉氏:当時はそういう技をたくさん使っていましたね。
――当時の感覚って、1個1個発明しているような感じというか、「こうすればいいじゃん!」、「あ、これいいね」の連続だったような。
小玉氏:そうですね、そんな感じだった。
堀井氏:“とんち”を思いついて、このとんちイケてるから使おうみたいな。そういうのが、いろんなゲームにあると思うんですよね。文字フォントがパレット変えると別の文字になったりするのを逆に上手く使っているのを見たりしたことがあって、「こいつらどこまでやるんだ……!」って思ったこともありますね。
「ファンタシースター」制作当時のお話の数々! 「ドラゴンクエスト」を上司に勧められて仕事としてプレイしたことも
――原作を制作されていた当時のお話をもっと伺いたいのですが、今ではセガのRPG作品と言えば「ファンタシースター」シリーズとなりましたが、初代当時の1987年あたりは、セガがアクション・アーケード路線で走っているなかですよね。そこに「ファンタシースター」がポンと現われているという印象があります。
堀井氏:当時のコンシューマーゲーム機の状況に対して、セガさんが斬り込んでいったという印象ですねー。
――やはり「セガもRPGを作らないと!」という気持ちや考えがあってのスタートだったんでしょうか?
小玉氏:そうですね。私は作り始めにはまだチームに参加していなくて、多分そういう話があったのは、中さんと企画の林田さん(林田浩太郎氏)あたりかなと思いますね。企画とプログラマーの話として、「3Dダンジョンやりたいよねー」とか、「モンスターは全部アニメーションさせたいよねー」とか話して、そこからデザイナーに話がやってきたという流れだと思います。「3Dダンジョンって作れる?」みたいな話をミーティングしましたね。
あと、それの前フリだったんだと思うんですけど、私は当時の部長だった青木さんから「小玉、ちょっとこの『ドラゴンクエスト』をやってみろよ」って言われたんですよね(笑)。
堀井氏:えぇっ、言われたんですか!?
小玉氏:言われましたよ、「すっげー面白いからっ!」ってROMまで用意してくれて。「仕事中にやっても構わないから!」とまで言われて、「……マジですか?」って聞き返したりして(笑)。
堀井氏:じゃあやっぱり「ファンタシースター」ってセガとしてもRPGが欲しいっていう上からの要請もありつつ、「ドラゴンクエスト」が好きな人もいたりだったんですかね?
小玉氏:そこまでは私の目線からははっきりしないので、林田さんとかに聞かないとわかりませんが。青木部長は自分で「ドラゴンクエスト」を遊んでみてすごく面白かったみたいで、他にも「ウルティマ」や「ウィザードリィ」などの海外のRPGをスタッフもやっていたようでした。そういうところから「ファンタシースター」に繋がったんでしょうね。
※ファミコン版の「ドラゴンクエストII 悪霊の神々」が1987年1月26日に1MbitROMで発売。「ファンタシースター」は同じ1987年12月20日に4MbitROMで発売されている。
――3Dダンジョンはやはり「ウィザードリィ」からの影響があったのでしょうか。
小玉氏:そうですね、「ウィザードリィ」の存在があったからですね。
堀井氏:3Dダンジョンを滑らかに動かそうというのも最初から考えていたのですか?
小玉氏:滑らかに動かしたいっていうのは最初から言ってましたね。ただ本当は、ダンジョン内の自然物の表現もやりたかったんですよ。でも、容量が足りなくて諦めました。
――あ、壁の絵をつけるということですか。ダンジョンの。
小玉氏:そうそう、岩壁っぽい絵にしたかったんです。
堀井氏:それって絵は作って試したんですか?
小玉氏:絵も用意して動かしてましたね。でも「無理だねー」となって。
堀井氏:あー……。
小玉氏:実は「ファンタシースター 千年紀の終りに」の時にも3Dダンジョンを作って壁の絵をつけることにチャレンジしたんです。けど、それでもやっぱり滑らかに動かすことはできなかった。滑らかに動かすのなら3DCGじゃないと厳しいよねとなって、「千年紀の終りに」では3Dダンジョン自体をやめてトップビューで多重スクロールを使ったダンジョンにしたんですよ。
初代「ファンタシースター」に話を戻すと、3Dダンジョンを移動していくアニメーションを手で描いたんですけど、最初はそれらしく見えなかったんです。それで、中さんがワイヤーフレームでダンジョンを作ってくれたので、それをプリントアウトして、それを見ながら描いたんですよ。それでわかったのは「1歩前に進むときに壁の線がどう動いていくかの見せ方」で移動しているっていう感覚に差が出てくるんですよね。そういう工夫をしてアニメーションを作ったんです。
ちなみに中さんがワイヤーフレームで作ったダンジョンはめっちゃ高速に動いていて、「これはこれでシューティングゲームが作れるぞ!」なんて言って、映画「スター・ウォーズ」の最後のデススターに入っていくシーンが作れそうとか、みんなで盛り上がりました(笑)。
――3Dダンジョンを滑らかに見せるためにかなり苦労があったんですね。キャラクターやモンスターのデザインについてはいかがでしょうか? 当時はRPG作品が初めてですし、資料的なものもなかなかないというか、入手の難しかった時代だと思うのですが。
小玉氏:そうですね。資料は海外のファンタジー系のイラストですとか、映画とかを見たりでしたね。でも、「ファンタシースター」ってそういう時代考証とかそういうものは全て取っ払ってましたから、好きなものとか、「これ、かっこいい」って思ったものを持ってきてますね。ファンタジーの定番のモンスターなんかも入っていたりはしますけどね。
――ちなみに、「ファンタシースター」の開発は全体的な印象として、大変で難航していたのでしょうか? それとも勢いがあってドンドンと出来上がっていったのでしょうか?
小玉氏:そうですね……、初代の「ファンタシースター」は、シナリオは結構直していたような記憶はありますけど、デザインはそこまで苦労していた感じはなかったですかね。デザインでこだわっていたのは「アニメーションさせる」というところですね。グラフィックスパターンでアニメーションさせるのか、カラーチェンジでそれっぽく見せるのかとかはすごくやりましたね。フィールドマップの波打ち際がちゃんと水がきているように描いたり、山も同じ絵だけどカラーチェンジで雪山に見えるようにしたりとか。そういうのを繰り返し作っていましたね。
――やはり容量のせめぎ合いが熱かった感じですかね。
小玉氏:そう、容量ですね。容量は最初の予定はもっと小さかったんじゃないかな。最初から4MbitのROMを積もうなんて考えてなかったと思うんですよね-。
堀井氏:……っ! そうなんですか!?
小玉氏:多分そうだと思う。あまり覚えてないですけど、最初から4MbitのROMを見越して設計していたんじゃないと思いますよ。
堀井氏:えーっ、2MbitROMで想定して出来上がったのがこれだとすると、相当ですよ(笑)。僕らはいつもこのインタビューで「予定が遅れてすみません、想定外なことをやっていたら膨らんじゃったんです」みたいなことを言ってますけど、そんな僕らが引いちゃうぐらい。最初から4MbitのROMを見越していたんじゃないかっていうぐらい、中身はぎゅうぎゅうですから。
小玉氏:他に4MbitのROMを積んだゲームってどんなのがあったんでしたっけ?
堀井氏:セガ・マークIII/セガ・マスターシステムの「アフターバーナー」が4MbitのROMだったと思います。
小玉氏:あ、「アフターバーナー」が4MbitのROMになったから「よし、いける」って思ったのかもしれないですが……、やっぱり、あまりよくは覚えていないですねー。
堀井氏:……っ!そうか、なるほどっ!
――アーケード移植の「アフターバーナー」だからこそ、それ用に4MbitのROMを作ってもらったという話はありそうですね。
堀井氏:ですね。それで、隣で4MbitのROM使ってるから、うちも使わせてもらおうみたいになったのではないか、と。本当のところはこの場だとちょっとわからないところですけど、「アフターバーナー」あっての4MbitのROMだったというのは腑に落ちます。
※「アフターバーナー」は1987年12月12日発売、「ファンタシースター」は1987年12月20日発売と、ほぼ同時期に進んでいる
――当時のコンシューマーゲームはROMの容量が大きくなっていくのも初めての試みで、それ自体も宣伝文句になっていましたよね。
小玉氏:ですね。でもセガはハードメーカーでしたので、現場の要望に応えていただけたのかもしれませんね。
堀井氏:中さんのプロジェクトで言うとメガドライブの「大魔界村」も5MbitROMなんですよね。4Mで足りなかったからさらに載せましたみたいな話で。
――そうやって考えると、アーケード移植でどうにもならないからか、もしくは中さんのプロジェクトでROM容量が増えていったようにも見えてきます(笑)。
堀井氏:確かに。でも、セガは実績のある人が言うとなんでもやってくれていた印象で、鈴木裕さんが「欲しい」って言った機能はハード系の人が実際に入れていったっていう話があって、なぜなら「ちゃんと売れるから」っておっしゃられていたんですよね。おそらく中さんも同じような存在だったんだと思います。
――そうして考えると、後々までずっとそうだったんだろうなっていう感じがしますよね。ゲームに合わせてコントローラーを作ったりも多かったですし。
堀井氏:そうそう、「NiGHTS」用にマルチコントローラー作ったりね。
――ちなみに、初代「ファンタシースター」がマスターアップした時はどんな様子だったのかというのは、覚えてらっしゃいますか?
小玉氏:それはですね……、当時はデザイナーはマスターアップ前に抜けていて、次のプロジェクトに行っているから、私はよくわかっていないんですよ。ただ私は最後の最後に、エンディングで表示される「4人が並んでいる絵」を描いたのをすごく覚えていますね。
その絵の予定は元々はなくて、私はもう次のプロジェクトに参加していたんですけど。中さんがプログラムを詰めてちょっとだけ空きができたからって、「このセル数のこの容量で4人の絵を描いてくれ!」って言われて。「その容量で4人を描けだと!?」ってなって(笑)。
なので、その絵はちょっと歪みつつあるのが本当に申し訳ないんですけど、なんとかその容量の中に納めた絵なんですよ。
――「SEGA AGES ファンタシースター」について、当時の開発話も含めて、たくさんお聞きしましたが、堀井さんとしてはいかがですか?
堀井氏:僕らが考える「これがやりたい」っていうのは大体やれたと思いますし、「ファンタシースター」をやったことがないという人がプレイしてみたり、昔にプレイしてもう1度やってみたいという人へのフォローは万全になったと思います。
――今日聞いたお話を思いながらプレイすると、また別の楽しさがありそうですよね。
堀井氏:当時にプレイしたという人も、今日のお話を踏まえてまたプレイしてもらうと、いろいろと新鮮に楽しめると思いますね。ぜひやってみてもらいたいです。
「SEGA AGES」の今後について。基礎研究も済んでリリースペースはこれから加速していく?
――今後のプロジェクトの展開についてお聞きしていきます。配信の延期などもありましたし、今後のスケジュールにも変更があったのではないかと思うのですが、そのあたりはいかがでしょうか。
下村氏:当初、僕らが計画していたスケジュールよりも遅れることになってしまいました。ご期待頂いていたユーザー様にはご迷惑をおかけしまして、本当に申し訳ありませんでした。これはひとえに「作り込み過ぎた」というところがあると思うのですが、ただ、ユーザーの皆さんが期待しているところを実現するには、そういう作り込んだ作品に仕上げることは必要だと思うんですよね。中途半端なものが1番いらないと思いますので。我々として、納得できるものをお届けしたいと今も考えています。
一方で、「タイミング良く出さないといけない」とも思っています。まとまった単位でユーザーさんにお届けしないと、他に埋没してしまってプロジェクトとしての勢いが弱くなっていく。
その2つは二律背反してしまうポイントで、それを抱えながら僕らは進めているわけなんですが、やはりちょっとそのひずみがちょっとずつ大きくなってしまって。タイトルを出すスピードというのが遅くなってしまいました。
今回の「SEGA AGES ファンタシースター」もエムツーさんにがんばって頂いて、なんとか10月31日に配信できることになりましたが、これまで時間がかかってしまった理由のひとつはNintendo Switchという新しいハードと今回の「SEGA AGES」のフォーマットに合わせるための基礎研究もありました。それがようやくまとまってきましたので、今後はもう少しスピードが上がっていくのではないかと思います。
エムツーのスタッフの皆さんも慣れてきて、さらに人も投入して頂いていますので。当初の計画に近いところに持っていきたいなと思います。ただ、当初の予定だった年度内に15タイトルというのはこぼれる可能性がありますね。
――前回伺ったときには、予算組みとして、4月から翌年の4月までの1年が今のところ決まっている期間ということでしたから、もう半分は過ぎてしまったということに。
下村氏:そうなんですよね。
――基礎研究が済んだということですので、これからの加速度合いでどうなるかというところですね。
堀井氏:現場はかなり手慣れてきて、動いているゲームもばんばん上がってきています。東京ゲームショウでは「SEGA AGES バーチャレーシング」も発表されましたが、そういう特別なタイトルのための機能実装などを除けば、足回りはできています。
「SEGA AGES バーチャレーシング」のための特別な機能というのも、社内ではもう動いていて見通しはつきつつあります。……この話もまた、ディレクターの松岡に「それはまだ言ってもらっちゃ困るんです!」って怒られちゃいそうですがっ!!
――(笑)。
堀井氏:……でも、基礎研究も並行しているというのに「モンスター図鑑」とかで大ハマリとかしちゃうからいけないんですよねー……。
下村氏:まぁでも、そういう普通はそこまでやらないようなところまでがんばっているからこその「SEGA AGES」ですから。僕らは、厳しいながらもその道を進ませて頂きたいと思います。
堀井氏:皆様のご支援があれば、その方向性の道をひたすら究めていきたいと思っています。
――わかりました。ただ、タイトルラインナップの発表が先行して間が空いてしまっているので、それが製品が追いついてきていないという印象をより強めてしまっているなと感じるところもあります。
下村氏:そうですよね。そこは本当に申し訳なく思っているのですが、タイトル発表する機会って、先に決まってたりするんですよね。4月のセガフェスに、9月のTGSであったりとかです。その既存のタイミングに乗っかる形で対外発表をしているものですから、無理をした部分でこういう状況になってしまっています。
じゃあ発表をしなければ良かったのかというと、プロジェクトを続けていくためにより多くのユーザーの皆さんに存在を知ってもらうというのもやはり大事で必要だとは思います。皆さんのお叱りをきちんと受け止めつつ、今後は開発のスピードも上がっていくはずですので、不安に思われているところを払拭していきたいと思います。
堀井氏:僕が1番言われると辛い言葉は、「プレイしてみたけど、これで発売するのなら出ないほうがよかった……」というものです。発売ペースが遅いよねと言われてしまうのは申し訳ないのですが、そのかわり出たときには「待たされたけど待ってて良かった!」って言わせて見せますので!そこで挽回させてください!!
――発売はされたものの、これじゃあ困るというか。「腐ってやがる。早すぎたんだ」みたいなクオリティだと最悪の場合取り返しがつかなかったりしますし。発売されたけどひどいっていうパターンがおそらくゲーム好きとしては1番きついですね。
下村氏:そうなってしまうとプロジェクトそのものが死んでいってしまいますので、1本1本エムツーのスタッフさんを含めた我々の魂のこもったものを出していきたいと思います。
小玉氏:でも、今回の「SEGA AGES ファンタシースター」の「モンスター図鑑」とかは、ユーザーさんが普通にゲームを遊んで触っても、「これはそんなに苦労しないよね」って思いますよね。このインタビューがなかったら、そんなに苦労していたなんて想像できないと思う。
堀井氏:仕様的にはそうですよねー。我々もそう思っていましたから。
小玉氏:それを見ただけで大変だっただろうなぁってわかってくれるのは、作ったご本人だけかもしれない(笑)。
堀井氏:「モンスター図鑑」は作った苦労の割には、あると嬉しいかなぐらいだとは思うんですけどね。開発の裏では、「8bitのゲームすごいなぁ」っていうのを改めて痛感できる感じですごく良かったんですけど、そこについていくだけでも我々は厳しかったですね。
それくらい苦労したので、ぜひマッドドクターを倒してモンスター図鑑で見てみて下さい!
――そういう意味では、中裕司さんがプログラムを組まれたタイトルは今後も怖いですねー。
堀井氏:予定にもあるんですけどね!「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」とかありますけど、中さんがやっているプログラムで、「本来は中さんもこうしたかったであろうと思えるところがあるんですけど、メガドライブのハードの都合上どうしてもできなかったというのを、なんとかできませんか?」という依頼も来ていたりはするんです。
そういうのもあるので、また挑みます!!
――中裕司さんが手がけたタイトルというと……、僕としては、いずれどこかのクリスマスのタイミングに、素敵な新要素を追加した「ナイツ NiGHTS into dreams...」を出して頂けると嬉しいので、よろしくお願い致します(笑)。
堀井氏:「NiGHTS」かーっ!!
小玉氏:(笑)。
※セガサターンの名作として、2008年にプレイステーション2へと移植された「ナイツ NiGHTS into dreams...」だが、その移植作業は想定を遥かに超える難易度で、約16カ月ものあいだ苦戦し続けた。中裕司氏の技術の恐ろしさを知れる代表的なエピソードのひとつとなっている。詳しくはこちらに当時の模様が詳しくまとめられている。
「SEGA AGES バーチャレーシング」には“みんなで遊ぶために必要な環境”を使った新しいモードを開発中!
――先ほども少し出ましたが、東京ゲームショウ2018のステージイベントでは「SEGA AGES バーチャレーシング」を発表されました。今はどのようになっているのでしょう。
堀井氏:僕らがセガの3Dハードものをやるという意味では、やはりPS2の頃の「SEGA AGES」以来ですね。PS2の時には「電脳戦機バーチャロン」とか「セガラリーチャンピオンシップ」とか「ラストブロンクス -東京番外地-」をやらせて頂いたのですが、今回はNintendo Switchというパワフルなマシンですので。
「SEGA AGES バーチャレーシング」は画面の再現度などをまだ詰めなくてはいけないですけど、技術的にはばっちり動くというのは確認できています。
――MODEL1基板はばっちり動かせます?
堀井氏:ばっちりです。全タイトルいけるぐらい。許可さえもらえればアーケードの「スター・ウォーズ」だって出せますよ!
下村氏:「スター・ウォーズ」やりたいですねー。
小玉氏:やりたいってずっと言ってますよね(笑)。
堀井氏:先ほども少し触れたのですが、特別な機能として、“みんなで「バーチャレーシング」を遊ぶ”ための、“みんなでセガさんのゲームをNintendo Switchで遊ぶために必要な環境”を作り込んで、「SEGA AGES バーチャレーシング」の遊び方を増やして配信することになると思います。
これを言うと、「また遅くなりそう……」って思われちゃうかもしれませんが、「バーチャレーシング」を満足いく再現度で満足いく仕様を盛り込むために、いつもうちが使っているシステムよりも、もう少し軽めのNintendo Switch用システムを用意した上で、そこに「バーチャレーシング」を載せて進めています。
――かなり興味深いお話で楽しみです。ちなみにドリームキャストのゲームというのはどうなのでしょうか?
堀井氏:細かく言うと我々が研究中なのは、ドリームキャストというよりNAOMI基板のタイトルですね。実は、僕らが遊びたいから作っているというNAOMI基板のゲームがあって。これは下村さんにも刺さるタイトルなのでお見せしているんです。なんとか出したいですよね。
下村氏:確かにもうNintendo Switch上でNAOMI基板が動いているんですよね。「SEGA AGES」第1シーズンを成功させて実現させたいです。
※NAOMI基板は、ドリームキャストとアーキテクチャが共通のアーケード基板
堀井氏:Nintendo Switchは携帯できるハードでありながらも、NAOMI基板のゲームをハイレゾ化してキレイに動かすことができますからね。
――3Dグラフィックスのゲームであれば内部の解像度を高めたハイレゾ化をしたりと、2Dタイトルとはまた異なる工夫どころがありますよね。
堀井氏:「SEGA AGES バーチャレーシング」の画面写真でも、「これは遠くまで描画されてる!」とか、「すでに解像度上がってるよね」など気づいて頂いているのですが、実はまだ言えないですけど、それ以上のことも考えていますので。
――楽しみです。ですが、先ほど下村さんがちょっと話されましたけど、NAOMI基板のあるタイトルも、「SEGA AGES バーチャレーシング」も、おそらく今の第1シーズンがうまくいってシリーズが続いていかないと……っていうお話ですよね。
堀井氏:そうなんです。出せないままお蔵入りになってしまうのは避けたいですね。
下村氏:僕の最終目標は、「セガの全てのタイトルをこのブランドで出しきる」というものですが、プロジェクトを続けるためにプロデューサーとして四苦八苦がんばっているというところですね。
まだインタビュー掲載時点で3タイトルしか出ていないので、このタイミングで良い悪いという評価はまだ出せないですけど。この後のタイトルでももっと勢いをつけていって、次の第2シーズンではより驚きのタイトルを出せるように仕込んでいきたいですね。
――前回のインタビューからの間に追加発表されたタイトルラインナップについても軽く触れさせてもらえますでしょうか。「スペースハリアー」、「コラムスII」、「サンダーフォースAC」、「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」、「アウトラン」とあります。
堀井氏:今まさに社内で動いているタイトルですね。それを例えば東京ゲームショウなどで出展していたら、「もうできているんだし、すぐ出してよ」って言われるぐらいだと思います。でも、もう少し大事なところをやっている最中ですね。
――前回のインタビューでも詳しく伺った調整の部分ですね。
堀井氏:ですね、大事な部分です。
――「サンダーフォースAC」は、実質的に「サンダーフォースIII」をNintendo Switchでプレイできるものにもなってくるので、「なるほど、そういうことかー」と納得したところがありました。
堀井氏:実は「セガ3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE」でもAC版を入れたいっていう話をしていたんですけど、泣く泣く見送ったんです。3DSというハードにC2ボードの「サンダーフォースAC」を入れるというのが難しくて、それで、次の機会には出したいっていう風に考えていたんです。
AC版は、メガドライブ版の「サンダーフォースIII」よりもステージが増えているし、実は色数も増えているんですよね。ついに今回、Nintendo Switchで出せますね。
――TGSでは「ゲイングランド」の試遊を出展されましたが、反応はいかがでしたか?
堀井氏:「ゲイングランド」を試遊して頂いた人から、僕のTwitterにものすごく熱いDMをっ!
――DMがっ!
堀井氏:しかも一通ではなくて、中には原作のゲーム制作者の人からも「ここはこうだよね!」っていう内容を頂いたんです。「よし!」と想いを新たにしたところがありましたね。
濃いファンというか、中身に惚れ込んでいる人がいるゲームなんですよね。そうした人はきっちりよく理解されて長年遊ばれているので、こちらもがんばって作り込まないとダメですね。
人によるのですが、「俺はこう遊びたいから、こういう設定をできるようにしてくれ!」っていう人と、「このゲームはこう遊ぶと面白いから、それを知ってもらうために、こうしてみたらどうだろうか!?」っていうことを伝えてくる人がいたりもするんですよ(笑)。
1人でもゲームの魅力を知ってもらって仲間に引き込もうみたいな。「二郎」のラーメンに連れて行くみたいな人が結構いて。そこは同じように良いところを知ってもらいたいと考えているので、がんばっています。
――今日は奧成さんがいないのでちょっとタイミングが悪いかもしれませんが、「移植希望アンケート」のランキングは東京ゲームショウだと集計途中の速報ということでしたが、最終的な集計結果をどこかのタイミングで発表されたりするのでしょうか。
下村氏:まだちょっと結果発表をどうしていくかは未定なんですけど、皆さんの熱い想いはきちんと頂きましたので、今日のお話でいう第2シーズンのラインナップの参考にしていきたいなと考えているんです。
――なるほど。今の「SEGA AGES」第1シーズンのラインナップは、2016年に行なわれた「セガ3D復刻」でのアンケート結果を反映している感の方が強いですよね。
堀井氏:それはありますね。これまでやれていなかったシステム24基板からMODEL1へと、年代を追っているというのもありますけど、「バーチャレーシング」はアンケート2位で僕らも手をつけていてやりたかったものですし。「ゲイングランド」もそうですよね。
今回新たに行なったアンケートは、僕個人の感想としては、セガさんで新作を作っているものも絶対にあるよねって思ったので、そこと被らないもので僕らがやれるタイトルは「やりたいですね」って話してます。
――今回のアンケートは先ほど下村さんからもあったように、第2シーズンに反映されていくという順序ですね。
下村氏:第2シーズン、もしくはそれ以降というところですが……、続けられるとあれば、あれだけたくさんの熱い意見を頂いて何もやらないメンバーではないです。
堀井氏:NAOMI基板もあれだけ動いていますし、やれるやれないで言えばやれます。ただ、とりあえず動くという状態から、ちゃんと調整して追加要素も入れてというものが「SEGA AGES」なわけですが、ハードの規模が大きくなっていくと、その作業も膨大になるなというのは認識しています。
――セガさんの展開での被りというお話がちょっとありましたが、先日にPS4に「電脳戦機バーチャロン」シリーズ3タイトルが移植されることが決定しましたけど、そうすると「『SEGA AGES』では『バーチャロン』はやらないのかな?」とか思うところもあるのですが。
堀井氏:いや、でもセガさん内部で「電脳戦機バーチャロン」シリーズを移植する人たちも相当な強者で、あの方々がやってくださるのなら……なんて思っちゃうんですよね。あ、いや、僕はよく知らないですけどっ!(笑)。
以前のタニタさんの「ツインスティック商品化プロジェクト」は僕も購入していたんですけど、今回はシリーズ作品の移植も発表されてすぐに達成されたということで、「やったー!」って思いましたね。
下村氏:僕もあちらが実現するのを期待していました。ああいう動きができるのなら「僕らも何かできるんじゃない?」と思っているんですよ。向こうは「電脳戦機バーチャロン」でしたが、僕らは僕らの何かがあるんじゃないかなって。いい関係で切磋琢磨するような感じにできたらいいなと思いますね。
――となると、参考にするところはあっても、それほど直接的にラインナップに影響が出たりはないという感じでしょうか?
下村氏:そうですね。エムツーさんとやっているうちのラインとは直接は関係がないです。
――それはそれ、これはこれ、みたいな。
下村氏:もし僕らが「電脳戦機バーチャロン」を出すということになれば、「SEGA AGES」としての基本として何かしらの追加要素を入れたりして出すことになると思いますね。
――なるほど。アンケートの最終結果については奧成さんがいるときにでもまた……。
小玉氏:そうですね。ただ、集計してみて奧成は「すごく新鮮だった」と話していましたね。やはりセガサターンやドリームキャストあたりのタイトルがかなり多くて、「今積極的に投票されている人にとってはそこが思い出のゲームなんだ」というのを、改めて認識した感じでしたね。
前の「セガ3D復刻」のときのアンケートは購入した人からのアンケートでしたが、今回のアンケートは広く一般の人からのものだったので、そこにも違いはあったと思います。我々としても勉強になりましたね。第2シーズンができるとしたらと考えるときの「こうなんじゃないの?」って思っていたものを「あ、こうなんだ!」っと考えを改めるところがありますね。
堀井氏:そうですね。今は過去から未来へと辿ってきていますけど、もう少し早めに先の年代にも背伸びをしたいという気持ちになりましたね。
――年内は残り2カ月となりますが、年内の動きはどうでしょうか。
下村氏:どうでしょう、今日の時点では特に予定はなしですね。
堀井氏:実はまだ告知していないタイトルとかも……!
下村氏:いやいや、それだとどれだけ隠し球あるんだっていう感じじゃないですか?
堀井氏:実はいっぱい作っているんですよー。
――先に告知されている定番タイトルラインナップは粛々と出して頂いて、それとはまた別に不意打ち気味なタイトルも期待したい気がしますね。
下村氏:とりあえずラインナップをお伝えするのは東京ゲームショウで一段落していますので、今のところは年内については未定ということにさせて頂きたいです。
――わかりました。それは最後に一言ずつ頂けますでしょうか。
堀井氏:本当にお待たせしました。ですが、ずいぶん豪華になりました。我々も作っていてたくさんの発見と勉強をできて面白かったです。当時遊んだ人も、「ファンタシースターオンライン(以下、『PSO』)」シリーズをプレイしている人も、ぜひシリーズの原点を見て欲しいなぁと思います。快適に遊べるようにがんばりましたので、ぜひプレイしてみてください。
小玉氏:今「PSO」の話が少しありましたが、今回は「PSO2」をやられている酒井プロデューサーともお話したら、「PSO2」絡みでも宣伝してくださるということですので、ぜひ興味を持ってもらえたらなと思います。30年前のゲームですがエムツーさんががんばって蘇らせてくれましたので、ぜひ楽しんでもらえればと思います。よろしくお願い致します。
下村氏:当初の計画よりも遅れてしまいましたが、そのぶん中身はいい物になっているという自信はあります。このプロジェクトはいつも言っていますが、ユーザーの皆さんとともに進んでいく、ユーザーの皆さんに育てられ、ともに成長していく。そういうプロジェクトですので、今後も引き続き応援頂ければと思います。応援が続く限りはプロジェクトを押し進めていくという意志を持っていますので。よろしくお願い致します。
――ありがとうございました!
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