インタビュー

「SEGA AGES」インタビュー Part1 帰ってきた“こだわり復刻チーム”!

新たな挑戦の始まりと「SEGA AGES ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のポイントを聞く

左から順に、奥成洋輔氏、堀井直樹氏、小玉理恵子氏、下村一誠氏
9月20日 配信開始予定

価格:925円(税別)

CEROレーティング:A(全年齢対象)

プレイ人数:1人

 セガの名作を“こだわり満載”でお届けする復刻シリーズの最新プロジェクト「SEGA AGES」が、いよいよスタート!セガサターンから始まりプレイステーション2など様々なハードで名作を蘇らせてきた「SEGA AGES」が、装いも新たにNintendo Switchで展開されていく。

 そこで「SEGA AGES」についてプロジェクトメンバーの皆様にインタビューを行なわせて頂いた。ご参加頂いたのは、セガゲームスの奥成洋輔氏と下村一誠氏、開発を手がけるエムツーの堀井直樹氏という3DS「セガ3D復刻」シリーズでお馴染みの皆様に加え、今回の「SEGA AGES」からプロジェクトに参加されているセガゲームスのレジェンドクリエイター小玉理恵子氏を含めた4人となった。

 このPart1では、「SEGA AGES」プロジェクト始動までの流れから、第1弾タイトルのひとつ「SEGA AGES ソニック・ザ・ヘッジホッグ」について伺った。例によってこだわり満載のエピソードをたっぷりとお聞きしたので、じっくりお楽しみ頂きたい。

※本インタビューの収録は開発中だった7月中に行なっているので、その後の配信予定の延期や追加のタイトル発表などが加味されていない内容となっている。その点はご了承頂きたい。

「SEGA AGES」第1弾タイトル
9月20日配信開始となる第1弾タイトル「SEGA AGES ソニック・ザ・ヘッジホッグ」と「SEGA AGES サンダーフォースIV」。ニンテンドーeショップで配信されるダウンロード専用タイトルで、価格はともに925円(税別)
「SEGA AGES」配信予定タイトル(配信日はいずれも未定)
「ファンタシースター」
「アレックスキッドのミラクルワールド」
「ゲイングランド」
「スペースハリアー」
「アウトラン」
「コラムスII」
「サンダーフォースAC」
「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」

新生「SEGA AGES」チーム!原作を手がけたレジェンドクリエイター小玉理恵子さんがセガ側のディレクターになり、よりこだわりが強烈に!

――本日はよろしくお願い致します。

奥成氏:GAME Watchさんのインタビューは「セガ3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE」以来ですね。

下村氏:前作の発売が2年前の年末でしたので、そこから1年ちょっとお休みしていました。

奥成氏:1年半ぐらい経ちましたね。

堀井氏:実はその間に「セガ3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE」の次に「もう1本(3DSで)やります?」っていう話もあったんですけど、タイトルを選定してみると3DSでもう1本アーカイブス規模のものを出すとなると収録タイトル全部を作り終えるのに2年ぐらいかかるって話になっちゃって。それで断念したんですよ……。

奥成氏:……いきなり、そんなぶっちゃけた話から入ります!?(笑)

全員:(笑)。

――非常に気になるお話ですが、そこは後ほどじっくり伺わせて下さい。まずは「SEGA AGES」としての新スタートということで、改めて皆さんの自己紹介からお願いできますでしょうか?

下村一誠氏。ビジネス面も含め、プロジェクト全体を統括し調整するシニアプロデューサー
小玉理恵子氏。「アレックスキッドのミラクルワールド」、「ファンタシースター」シリーズ、「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」などなど、多数のタイトルを手がけたセガのレジェンド級クリエイター。「SEGA AGES」ではリードプロデューサー及びセガゲームス側のディレクターを務める
奥成洋輔氏。こだわりの“無茶振り”でおなじみ。今回の「SEGA AGES」ではスーパーバイザーというポジションに
堀井直樹氏。“無茶振り”をなんとかし続ける、こだわりの開発会社エムツーの社長

下村氏:はい。私は「セガ3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE」ではリードプロデューサーでしたが、今回の「SEGA AGES」ではその立場を小玉さんに譲って、私は小玉さんをサポートしながら、プロジェクトを更に盛り上げていくシニアプロデューサーという役目を担っています。

 プロジェクト全体の責任者であることに変わりはないですが、全体を統括する中でもビジネス面を見る立場です。プロジェクトを一歩俯瞰したところから見る役割ですね。実際の現場でのハンドリングは、リードプロデューサーである小玉さんになっています。

小玉氏:ご紹介頂きましたリードプロデューサーの小玉です。今回の「SEGA AGES」ではセガ側のディレクションも担当していてゲーム全般を見させて頂いています。先ほど1年半ほど間が空いたというお話がありましたが、その間にエムツーさんに通わせて頂いて。「SEGA AGES」のタイトルラインナップも決めていきました。

堀井氏:その1年の間に東京を横断して弊社がある我孫子まで何度も来て頂いてるんですよ。

小玉氏:今も2週に1度ぐらいのペースでお伺いさせて頂いています(笑)。

――セガ側のディレクターに小玉さんが入られたのが今回1番の大きな変化ですね。

奥成氏:僕は3DSの「セガ3D復刻プロジェクト」では初代アーカイブスまでメインリードプロデューサーをしていましたが、アーカイブス2以降は1歩引いて下村さんがリードプロデューサーになりました。今回はさらにもう1歩引いて、スーパーバイザーという立場になりました。

 小玉さんにご参加頂きましたし、他にもプロジェクト内に人が増えて充実しているのですが、そんな中でも「奧成じゃないとできないことがある」と言って頂いて、そういう僕ができる部分をいろいろとやらさせて頂いています。タイトルについての“うるさがた担当”みたいな感じですね。あとは、社内・社外の資料集めも僕のお仕事になっています(笑)。

堀井氏:開発を担当していますエムツーの堀井です。奧成さんからは相変わらず「これができていないのはマズイでしょ?」と突っ込まれていて助かっています。そんないつもどおりの仕事を、いつもどおりにこなせるように。いつもどおりということは、相変わらず狂っているということでして……。今回もそういうところにたどり着けるように頑張っています!

――プロジェクトの枠組みとして、「セガ3D復刻」シリーズよりもさらに規模が拡大されていますよね。

下村氏:そうですね。今回は「セガ3D復刻」シリーズからプラットフォームはNintendo Switchに変わり、タイトルのストックもないところからのゼロからのスタートになりました。負担も大きくなりますのでレジェンドクリエイターである小玉さんにも参加して頂いて。奧成も含めてセガ側は3人体制になりました。

 小玉さんが加わってくれたことで“さらに一歩先に進んだタイトル復刻”ができるようになりましたね。

堀井氏:現場の面々の背筋が伸びるんですよ。なにしろ小玉さんは我々が今まさに手をつけているゲームの原作者だったりするわけで。弊社の若手は小玉さんにお茶を出すのですら緊張していますよ(笑)。

小玉氏:緊張なんてそんな(笑)。私もエムツーさんと一緒にセガの倉庫に行ったりしているんですよ。

堀井氏:今までのアーケードゲームの資料や筐体が残っている倉庫があるのですが、小玉さんはそこにもいらっしゃって頂いてるんですよ。

――小玉さんがセガ側の現場の中心なんですね。セガ作品を復刻する展開としては奧成さんと堀井さんのお2人だったところから始まり、ついに名作のオリジナルを作られた小玉さんまで参加されることになったと。感慨深いですね。

奥成氏:そうですね。「SEGA AGES」シリーズの成り立ちから話すと、最初はセガサターンにセガ作品を復刻しようというところから始まりました(1996年より1998年までに「SEGA AGES」13タイトルがリリース)。

 でも、あの頃って今よりもずっと“最新のゲームこそ最高”っていう時代で、10年前のゲームなんて価値がないものになっていたんです。それをちゃんと1本1本移植して価値を再確認しようっていうものが「SEGA AGES」でした。その頃の僕はどちらかというとプロモーション的な方面から開発の現場を見ていました。

 そこからドリームキャスト時代になって「シェンムー」のおまけ的なものとして過去の名作が収録されたりしつつ、その後にプレイステーション 2での「SEGA AGES 2500」シリーズが始まりました。そのシリーズを見ているのが下村だったんです。

――GAME Watchでインタビューさせて頂いているのはそのPS2「SEGA AGES 2500」の頃で、2005年頃からですね。

※奥成氏が「SEGA AGES 2500シリーズ」のプロデューサーになって間もない2005年のインタビューがこちら変わりつつある「SEGA AGES 2500シリーズ」~奥成プロデューサーに直撃インタビュー~

奥成氏:「SEGA AGES 2500」は最初はディースリー・パブリッシャーさんとセガで合弁会社「スリーディー・エイジス」を立ち上げて、そこで開発をしていたんですけど、それから2年ぐらい経ってその合併会社がなくなり、セガのオリジナル開発になった頃に僕とエムツーさんが加わったんですよ。

 それが2005年のことで。そこからGAME Watchさんが継続的にインタビューしてくれているので、かれこれもう13年ぐらい。その頃のGAME Watchさんのインタビューを見ると「老けたなぁ」とか「太ったなぁ」って思いますね。おかげさまで個人的にも成長アルバムになっています(笑)。

 話を戻しますと、僕が「SEGA AGES 2500」に参加した頃に下村さんから「名作を現代に蘇らせることがこのプロジェクトの意義なんだ」っていう話をしてくれたんです。その後に僕がプレイステーション 3やXbox 360でドリームキャストタイトルの復刻をやったり、「SEGA AGES ONLINE」というものをやったり。そしてニンテンドー3DSで「セガ3D復刻」シリーズをやっていったという流れになったのですが、いつでも最初の「SEGA AGES」のコンセプトはずっと変えずに受け継いでいます。

 奇しくも、「セガ3D復刻アーカイブス2」の頃に下村さんと再会しプロジェクトに参加してもらって。それを経てまた再び「SEGA AGES」という名前でNintendo Switchで展開することになったというわけなんですよ。

堀井氏:奧成さんにしても下村さんにしても、プロジェクトのコンセプトにぴったりあう人をセガさんがアサインされているのがすごいというか、奇跡的ですよね。それによって復刻という展開が形を変えつつですけど15年も続くものになっている。

奥成氏:「セガ3D復刻」シリーズの時にはあまりやらなかったのですが、「SEGA AGES 2500」をやっていた時は「ラストブロンクス」なら「ラストブロンクス」の、「バーチャロン」では「バーチャロン」の開発者の方に細かく監修して頂いて、「ここは違うんだよ」とか「こうした方がいいんじゃない?」っていうお話を頂きながらやっていたんですよね。

 でも今回の「SEGA AGES」はついにリードプロデューサーである小玉さん自らがそういう監修ができる存在なんですよ(笑)。

――これまでのインタビューでも「ここがどうしてもわからなかったので原作の開発者の人に伺った」っていうお話はありましたよね。

奥成氏:ありましたね。でも今回はプロデューサーの小玉さんに原作の開発秘話をすぐに聞けます。まさに「ザ・監修」という存在ですね。

――より理想的な布陣になって挑まれる「SEGA AGES」ということですが、今回は海外にも同時配信していくんですよね。

下村氏:海外にも同時にリリースしたいというのが、このプロジェクトの狙いのひとつです。「セガ3D復刻」シリーズではローカライズ版開発の都合上、時期をずらして海外にも展開させてもらったのですが、ユーザーさんには日本のファンに負けず劣らず大変好評を頂きました。そこで今回はワールドワイドに同じタイミングで提供したいとエムツーさんと相談したんです。世界同時配信は大変なのでエムツーさんは最初は渋られていたんですけど(笑)。

――エムツーさん的には、「Nintendo Switchでの新たな開発に世界同時配信もするのは大変……」という気持ちがあったのでしょうか。

堀井氏:ですねー。でも大変ですけど「できればそうしたい」っていう気持ちもずっとありました。もうネットで世界中の話題が繋がっている時代ですし、世界中で一斉に盛り上がってもらいたいですよね。最初はやれるかどうかわからなかったですけども、今は「なんとかできるようになった!」って思ってます。ただ、このお話をしている今はリリース前で当日に何が起きるかわからないので、ドキドキしてますが!

奥成氏:今回の海外同時配信の直接のきっかけは、「セガ3D復刻プロジェクト」で単体配信した「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」、「ベアナックル2」、「ガンスターヒーローズ」を海外向けに出したことですね。あれが、海外評価のメタスコアでお馴染みのMetacriticで3DSゲームのトップクラスになったんですよ。

堀井氏:メタスコアが90とかになったんですよね。

奥成氏:「ゼルダ」シリーズと競うようなスコアになって、社内でも「なんだこれは!」とちょっとした騒ぎになりました。まぁレビュー数の分母が少なかったからだと思うんですけどね(笑)。

堀井氏:俺もそう思う(笑)。

――熱狂的なスコアが入ったんですね。

奥成氏:そうなんです。でも、そういうのを弊社の里見治紀会長が見てくれたりして。そういうのもいろいろあって今回の「SEGA AGES」ではより拡大して、海外も同時にリリースしようとなったんですよ。

――海外のファンの人も非常に多いですよね。「セガ 3D復刻」シリーズのインタビューやエムツーさんの活動を伝える記事には、海外のファンの人もたくさん反応してくれています。

堀井氏:E3とかのついでに海外のゲーム屋さんを巡ると、そこの店長さんが大騒ぎで「3DSでセガのタイトルを作ってくれてありがとう!」みたいなことを英語で言われたりしました。やっぱりセガのファンの人は根強いし本当に好きなんだなっていう人がたくさんいる。すごいですよね。

――海外の個人のゲームショップさんとかだと店長さんがもうマニアな人だったり。

堀井氏:そうそう、すごいですよ。

奥成氏:並べてるだけで売らないみたいな(笑)。

――コレクション自慢だったり、仲間を吸い寄せるためだったり(笑)。

奥成氏:「これはっ!」っていうものが陳列されてても「NOT FOR SALE」でね(笑)。

「セガ 3D復刻アーカイブス4」も考えていた

2016年12月22日に発売された3DS「セガ3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE」。ここから約1年あまりの沈黙を経て、2018年4月のセガフェスにて「SEGA AGES」始動が発表された

――では、今に至るまでの実際の流れについてお伺いしますが、「セガ3D復刻アーカイブス3 FINAL STAGE」から今回の「SEGA AGES」を発表するまでに約1年ありました。その間にはどんな動きがあったのでしょう?

下村氏:「セガ3D復刻アーカイブス3」に“FINAL STAGE”っていう名前をつけて「これで終わります!」っていう宣言もしたわけですけど、実際はやり残したことがありましたし、またやりたいなっていう気持ちがあったんですよ。なのでエムツーさんにはアーカイブス「4」的な……。

――「4」的な。

下村氏:「4、やりませんか?」っていう話をしたんですよ。「帰ってきた3D復刻」とか、アンコール的な名前ならどうかなと。そういうことを考えていたんですけど……。

 もう収録タイトルのストックがなかったんですよね。「アーカイブス4」を作るなら収録するタイトルを全て1から作らないといけない。「アーカイブス3」では合計で11タイトルを収録していたのに対して「アーカイブス4」を出そうとしてもタイトル数をそこまで用意できないし、開発費も上がってしまう。

 ラインナップも悩ましくて、「バーチャレーシング」を入れるのかとか、シューティングでくくって「サンダーフォース」シリーズや「クライング 亜生命戦争」も入れちゃおうぜとかやるのか。でも、どの構成でやるにしても1年以内に作って発売することができないのは明白で、「本当に『アーカイブス4』を目指すのが良いのだろうか」と考え直しました。

 結果、その方向は止めて。次にVRデバイスへの検討ですとか、PC版のリリースなどを検討しました。でも「セガ3D復刻」シリーズで応援して頂いた人にお届けしたいっていうところを考えると、最新の任天堂ハードであり携帯モードもあるNintendo Switchで展開するのがいいだろうと考えました。

――そのお話がまとまっていったのは時期としてはいつ頃だったのでしょう? 去年の夏あたりでしょうか?

小玉氏:去年の夏頃は、次の展開をNintendo Switchに絞りきってもいなかったですね。夏頃は……、とりあえず何かやるとしても「ラインナップどうしましょう?」っていう話を奧成さんとしていた頃ですね。

奥成氏:実は僕も「セガ 3D復刻アーカイブス3」に「FINAL STAGE」って名前をつけたわりには「3DSで2017年の冬に間に合わせるならこのラインナップ」みたいな話をずっとしていたんです。それを……去年の6月ぐらいまでは言ってましたね。

堀井氏:言ってました、言ってました。

奥成氏:ただ、最終的にはどうやっても「バーチャレーシング」を良い形には間に合わせられないという話になって、それで諦めたんです。ユーザーさんをあれだけ煽っておいて「バーチャレーシング」を出さないままで終わったらお客さんは納得しないですよって思って、粘ってたんですけどね。

堀井氏:ですよね。3DSの「バーチャレーシング」は本当になんとかしたかったんですけど……。

下村氏:スペック的に厳しいところもあって、New 3DS専用で出そうかという話もしたんです。

堀井氏:そんな話もしましたよね。でもどっちみち開発期間を長く頂くことにどうしてもなってしまうので、そうするとビジネス的にも難しかった。

――なるほど……。「バーチャレーシング」を通常の3DSで遊べるようにするだけでも難問なところに、それ以外に「アーカイブス4」らしい収録数を揃えるとなると、ものすごい時間と労力がかかってしまうと。

下村氏:まぁ、「バーチャレーシング」を除いて5タイトルとか6タイトルならなんとか……。

堀井氏:「アーカイブス3」が9タイトル+おまけ2タイトルでしたから、それを越えるのは……。

奥成氏:まぁ、自分達で首を絞めたんですよね。最初に「セガ3D復刻プロジェクト」としてやっていたものが初代アーカイブスの発売で区切りがついて終わったところを、「もっとやってくれ!」っていう暖かい言葉を頂いて延長したものでしたから。本当は“長いボーナスステージ”だった。

 そこから、どうにかこうにか限界まで突っ走っていったんですけど、最後にはお休みを頂かないと次を出せないくらいに追いつかなくなっちゃった、という。

――「セガ3D復刻」シリーズはこれまでに何度か区切りがついていて、アンコールに支えられて1部で終わる予定だったものが、第2部、第3部と続いて、ついに完結したっていう感覚がありましたよね。

奥成氏:そうなんですよ。「セガ3D復刻プロジェクト」の時は配信タイトル全部をパッケージソフトに収録できるなんて夢にも思っていなかったですからね。

 そういう紆余曲折がありまして、今回はパッケージで発売するという考えは一旦全部忘れて、「セガ3D復刻プロジェクト」を立ち上げたときと同じように1から単体配信をやっていこうという話にまとまっていったんです。

――ハードも変わって、名称も変わって、仕切り直しで1からというわけですね。

下村氏:Nintendo Switchにハードを決めたのは、据置ハードで出したいっていうのがあったからなんですよね。プラチナゲームズの神谷英樹さんやソラの桜井政博さんからも「据置機で出して欲しい」っていうお話を以前に頂いてましたし、そういう声は常にあったので、いずれやらないとって思っていたんです。でも一方で、「セガ3D復刻」シリーズは携帯機で展開したものですし据置機に出すのには二の足を踏んでいたところもあったんですよね。

 でも、Nintendo Switchならどちらも大丈夫! こんな言い方をすると任天堂さんに怒られるかもしれないですけど、まさにこのプロジェクトのためにあるようなハードです!

奥成氏:Nintendo Switch は何といっても本体の色が黒いのがいいですよね。

堀井氏:セガブラック!

全員:(笑)

第1弾タイトルを「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」と「サンダーフォースIV」に選んだ理由。価格設定は“できる限り手を伸ばしやすい価格”

「SEGA AGES ソニック・ザ・ヘッジホッグ」
「SEGA AGES サンダーフォースIV」

――そうして本格的に動き始めて、2018年4月のセガフェスにて発表されて。いよいよ第1弾タイトルとして「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」と「サンダーフォースIV」の配信が始まるわけですが、第1弾タイトルをこの2つに決定したのはどういった考えからだったのでしょう?

下村氏:セガの看板タイトルである「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」は外せないという気持ちからですね。「サンダーフォースIV」は、ユーザーの皆さんに驚いてもらいたいというのもありますし、待っている人も多いタイトルだろうと考えてですね。

――テクノソフトの権利を取得されて「セガ3D復刻アーカイブス3」で「サンダーフォースIII」を収録して以降、「他のタイトルはどうするのかな?」という空気感がありましたよね。

下村氏:そうですよね。そこに対して「セガはやる気だぞ」って示すことでもありますし、「SEGA AGES」の本気度を感じてもらうのにも「サンダーフォースIV」は良いタイトルだなと。

奥成氏:「セガ3D復刻アーカイブス3」で「サンダーフォースIII」をやって、次は「IV」をやりたいっていう声に対して、プロジェクトこそ変わりましたが引き継いでいるんですよというのが伝わりやすいですよね。

――ちなみに、「サンダーフォースIII」をNintendo Switch「SEGA AGES」に出すというのはどうなのでしょう?

下村氏:うーん、まずは「ソニック」と「サンダーフォースIV」を無事に出して、その反響次第です。僕らは“ラインナップはセガのアーカイブの分だけある”と考えていますので、ご支援頂いて長く続けていけたなら、どのタイトルも「いつやるか」ということになっていきます。

――心強いお話です。堀井さんとしては第1弾の2タイトルが決まったときにはどのような感想だったのでしょう?

堀井氏:「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」はもう納得ですし、「サンダーフォースIV」もお話を聞けばそれはそうだよねって思ったんですけどすごくぶっちゃけた話をすると「じゃあ、それを発売に間に合わせないといけないんだ!」っていうところが、真っ先にのし掛かるんですよね。

 なので、「『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』は『セガ3D復刻』でやっているし大丈夫なはず……。『サンダーフォースIV』も『III』をやったんだしコード的にはそこまで違いはないはず……。大丈夫なはず……」みたいなことを内心で思ってましたねー。

――最初の見込みとしては「いけそうかな」と。

堀井氏:軽く皮算用して「大丈夫、ニヤリ」って感じだったんですよ。でも結局、「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」も、「サンダーフォースIV」もやばかったんですけどね……!

奥成氏:いつも通り(笑)。

――やっぱり大変だったんですね(笑)。ちなみに、1タイトルあたりの価格は税込み999円ということですが、価格設定はすぐに決まったのでしょうか?

下村氏:正直に言うと悩みました。他社さんよりも高めの設定になっていますが、他社さんの開発費については僕はわからないですけど、「SEGA AGES」ではいろんな追加要素を入れていますので、実は開発費的には結構頑張っている価格なんです。社内でも協議を重ねて、「とはいえ、1,000円を越えるのは厳しいよね」というところで、この価格に着地しました。付加価値のある価格であるとユーザーの皆様にはご理解いただけますと大変うれしいです。

今後に配信される予定のタイトルのひとつ「SEGA AGES ゲイングランド」

――タイトルによっても内部的な労力やそれに伴う開発費用がだいぶ変わってくるのではと思うのですが。

下村氏:そうなんですよね。でも、できるだけこの価格を通したいなと思っています。

奥成氏:と言いつつ、「ゲイングランド」は2,500円とかですよね!!

全員:(笑)。

下村氏:いやぁ、うーん(笑)。まぁそれはさておき、でも例えば、「ある“大きなタイトル”を出しましょう」ってなった時に、それを999円で出せるのかっていうと……。正直わからないです。

――ユーザーさんが納得する価格というのもタイトル次第で変わってきますよね。

下村氏:ですよね。はっきり言ってしまうと「アレックスキッド」が999円というところに今のユーザーさんがついてきてくれるかなっていうのもあります。そういう意味では、全部を999円に統一していれば「高いな」って思うもタイトルもあれば「安いな」って思えるタイトルもありつつで、それはそれでいいのかなと思っています。

――重い軽いをひっくるめたアベレージで価格を考えるということですね。

奥成氏:この手の話は毎回あって、僕がPS2の「SEGA AGES 2500」を担当していたときにも「3,500円にしませんか」とか、「5,000円にしましょう!」と言ったことがあったんですけど、すぐに却下されました(笑)。

下村氏:やっぱりできる限り手を伸ばしやすい価格にはしたいんですよ。「セガ3D復刻アーカイブス」シリーズのユーザーアンケートでの「価格は高いですか、安いですか」っていう項目ではありがたいことに「安い」って答えてくれている人が多かったんです。なので今回の999円にしても、そこまで高いとは言われないかな……と思いつつ。

 それなら、もうその価格に統一して提供した方が気持ちいいのかなって……僕自身も(笑)。

――下村さんがスッキリした気持ちで仕事のできる価格でもあるんですね(笑)。

下村氏:そうなんですよ(笑)。

「SEGA AGES ソニック・ザ・ヘッジホッグ」- 余裕を持って取り組むローンチタイトルだったはずが、MEGA PLAY版収録とドロップダッシュの追加で、やっぱり大変な戦いに

【ソニック・ザ・ヘッジホッグ】

1991年7月26日に発売されたメガドライブ用アクションゲーム。世界中にファンを持つ音速ハリネズミ「ソニック」のすべての物語のはじまりとなるデビュー作であり、全世界1,500万本以上を販売する大ヒット作品となり、そのデビュー以降ソニックはセガを代表するマスコットキャラクターとなった。

ソニックの特技は“音速より速く走れる”こと。ゲームのコンセプトもまたそのスピード感にあり、満点のアクションゲームという特徴にボタン1つと移動だけで楽しめるシンプルな操作で、スピード感満点のアクションゲームが楽しめる。

 なお、主人公「ソニック」が世に出たのは「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」ではなく、アーケード用のレースゲーム「ラッドモビール」。車内のバックミラーぶら下がるキーホルダーとして登場していた。

 「SEGA AGES」での「SEGA AGES ソニック・ザ・ヘッジホッグ」には、メガドライブ「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の日本版、海外版のほか、海外で展開されていたアーケード向けメガドライブシステム「MEGA PLAY」版を収録。初代作品にはなかった、「ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」から登場したスピンダッシュや、「ソニックマニア」から登場したドロップダッシュのアクションも搭載している。

「SEGA AGES ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のメニュー画面

奥成氏:では、お話の前に「SEGA AGES ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を実際に触ってみてもらいましょう。

――では早速……。あ、起動直後は「SEGA AGES」のオリジナルオープニングデモが流れるんですね。あ、あのキャラがおめかししてる!

奥成氏:これが「SEGA AGES」の共通のデモになります。デモ中に入れ込んでいるロゴや画面はタイトルに合わせて変える感じですね。

――デモが流れたあとにオリジナルのメインメニューが出てくるという流れですね。「オリジナルモード」に「リングキープモード」、「チャレンジモード」……おっと、「セガ3D復刻」シリーズでお楽しみだったスタッフクレジットもありますね。

奥成氏:実は、いつもだと製品が完成してからインタビューをして頂いてましたけど、今回はギリギリまで開発を詰めるところもあって、まだ開発中のバージョンなんです(※今回のインタビュー収録日は7月中旬に行なわれた)。なので、スタッフクレジットもまだ仮のものが入れてあるだけなんです。

――まだ配信まではだいぶ期間がありますが、開発の進行度としてはこれは何%ぐらいなのでしょうか?

堀井氏:うーん……80%? いや……79%?

下村氏:ベータ版を80%とするなら79%ぐらいでしょうね。ちょっと入ってないところがある(笑)。

奥成氏:人によっては99%と感じるかもしれないですけどね。ただ、全体的なバランスであったり最後の調整の部分がまだなので、そこを何%と表現するのか……みたいなところがあります。

――見る限り問題なくプレイができますし、そういう意味では99%の出来って言っても納得する人は多そうです。

堀井氏:“ゲームで一応は遊べる”っていうところだけでみたら、できてますよね。

奥成氏:“とりあえず遊べる”っていう意味なら、それこそ20%ぐらいの段階から遊べることは遊べるんですよ。でも僕らとしては、そこからちゃんと調整していくところを大事にしていて。そこの比重がやっぱり大きいです。

――(プレイしつつ)「スピンダッシュ」に、今回の追加要素である「ドロップダッシュ」もちゃんとできますね。

奥成氏:そのあたりはもう全部入っていますね。モードやオプションを紹介しますと、ゲームバージョンは国内版と海外版の家庭用に加えて、海外でアーケード用に出ていたMEGA PLAY(メガプレイ)版も収録しています。スピンダッシュとドロップダッシュといった追加要素のアクションもオプションでオン/オフ可能です。

 画面エフェクトは「スキャンライン」や「スムージング」などがあって、画面モードは「ヴィンテージ」、「ドットバイドット」、「フル」、「フィット」があります。

――この「ヴィンテージ」という画面モードは……?

奥成氏:これが今回のポイントのひとつで、MEGA PLAY版の筐体を再現しています。実際にこの「ヴィンテージ」設定にしてMEGA PLAY版をプレイしてみてもらいましょう。

――(ヴィンテージ設定でMEGA PLAY版をプレイしつつ)あ、なるほど! ブラウン管の丸みに、ちょっと使い込んだ感じの焼け感がある色味。筐体の画面そのままな雰囲気ですね。これは味があって良いですね。

堀井氏:MEGA PLAY版はゲーム内容の方も思ったよりも遊びに幅があるというか、ゲームセンターで遊んでもらう用のキワキワなバランスになっていて面白いんですよ。

奥成氏:タイムがかなり少ないんですよね。

――あ、スタートして間もないのにもう40秒しかない! これってレースゲームみたいに中間ポイントでタイムがエクステンドするみたいなこと……でもないんですね。家庭用版と同じように落下での1発アウトもありますし、なかなかえぐい。

堀井氏:シビアなところがいかにもゲーセン向けなんですよ。ミカドの人達はこれでスコアアタックされているみたいで面白そうなんですよねー。

※ミカドは、高田馬場にあるレトロな筐体やクラシックなタイトルのラインナップも豊富なゲームセンター

奥成氏:今プレイしてもらっているのは、MEGA PLAY版を「リングキープモード」でプレイするという設定なので、これでも難易度は低めになっていると思いますよ。

――「リングキープモード」だとリングをばらまいちゃっても最低3個が残りますしかなり楽ですね。

奥成氏:そこは「セガ3D復刻」シリーズでの「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ2」譲りですね。(ZONE1のグリーンヒルをクリアしたのを見て)……で、MEGA PLAY版は実はステージ構成も違っていて、次がいきなりスプリングヤードになるんです。

――なんと、メガドライブ版からだいぶアレンジされていますね。(プレイを一区切りで終えて)それにしても、この「ヴィンテージ」の画面表示は味があっていいですね。ブラウン管の丸みに四隅のボケ加減や歪みの感じも異様にリアル。

奥成氏:やっぱりこういうところも凝りたいですよね。今はラインナップにないですけど、そのうちゲームギアのタイトルがラインナップに入ったら、「ゲームギア」の画面設定としてすんごいブラーのかかった設定を用意したりするのかな(笑)。

堀井氏:あぁ、ハードや筐体を再現すると画面設定がいろいろと増えていきますね。にじませをシェーダーでやったりとかもできるようになる。

奥成氏:スイッチでゲームギアやってみたいなぁ、原寸大で画面表示させて遊ぶとかもできそうですよね。原寸大で表示したら「ゲームギアの画面ちっちゃ!」ってなる(笑)。

全員:(笑)。

――それでは詳しくお話を伺っていきますが、「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」は「セガ3D復刻」でも手がけられたタイトルでもありますが、今回はどういうアプローチから制作していったのでしょうか。

奥成氏:ラインナップを決めるなかで先ほど下村さんからも話があったとおり、「セガ3D復刻」シリーズのときに「据置ゲーム機でもやりたい!」っていう声があったので。今後のタイトルのヒントになるかもしれませんが「セガ3D復刻」シリーズでやったタイトルもいくつかは「SEGA AGES」でもやろうという話にはなりました。人気のあるタイトルから出していたところもありますし、それをしないとラインナップがかなり狭くなりますし。ただ、全部をやるかどうかは今後の流れ次第ですね。

 そういう考えがある一方で、エムツーさんとしても「セガ3D復刻」シリーズでやった実績のあるタイトルをなるべくやらせて欲しいっていう話がありましたね。

堀井氏:安牌が欲しい!安牌が欲しい!

――(笑)。「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」はそういう意味では、かなりやりやすいタイトルだった……はずですよね?

堀井氏:そうなんですけど、今回追加している海外アーケードのMEGA PLAY版「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」がやばかったんです。

奥成氏:エムツー側のディレクターは「セガ3D復刻」シリーズに続いて松岡さんなのですが、最初に小玉さんと松岡さんとでラインナップを選定してもらって。「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」は誰も否定しない1本ということですんなり決まったそうです(笑)。

堀井氏:スタートは「スペースハリアー」か「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」だよねっていうのがありますよね、やっぱり。僕もソニックは安牌だと思っていたんですけど、そこに後から「MEGA PLAY版」が入ってくるなんて思っていなかった!

小玉氏:(笑)。

奥成氏:堀井さんとしては今回のソニックの話は全部「MEGA PLAY版」に振る勢いだよね(笑)。

堀井氏:全部そこ!「俺はあれの話にしか触れない!」ぐらいの勢いでMEGA PLAY版が大変だった!

全員:(笑)。

奥成氏:MEGA PLAY版を入れることにした経緯ですけど、エムツーさんとしては過去に移植したタイトルをもう1度出したいんですよね。今回は新しいハードでのローンチですし。それはわかる。でも、それなら過去のタイトルでやったことは可能な限り全部入れましょうとなりますよね。3DSでの3D立体視はハード的な違いがあるのでしょうがないですけど、それ以外は全部入れて欲しい。

 そして、その上で“もうひとつ何か足してください”というのもあるんです。決して「セガ3D復刻」シリーズからのベタ移植にはならないようにしましょう、と。ラインナップ予定を見た最初に僕からお願いしたんですよ。

 それで、いくつかのタイトルに「このタイトルにはこの要素を入れるのはどう?」っていうお話をしたんです。それをエムツーの松岡さんに見せたんですけど、どれもこれも松岡さん的には無茶振りだったようで(笑)。

堀井氏:かなりの無茶振りです!

奥成氏:それによって、「過去に作ったタイトルだから楽勝だろ?」っていうタイトルも……。

堀井氏:楽勝ではなくなり!

奥成氏:それでも、「これぐらいしないとお客さんは納得しないでしょう?」って話して。その結果、いろんなタイトルの予定が後ろにずれていきました(笑)。

――(笑)。

奥成氏:でも僕としては、ローンチの大変さもあるというのを考慮して、そのなかでもMEGA PLAY版を収録するぐらいだったら「これならできるかなぁ」って思って要望したつもりだったんですよ?

堀井氏:ローンチのタイトルっていうのは、全体の仕組みを作って、機能を実装して、枠組みを作るところがあるわけなんですよね。その枠組みを作る余裕を持つために、我々が熟知しているハードのタイトルをやろうっていう話なのに……、未知のMEGA PLAY版が入ってくるのが全く意味がわからん!

――(笑)。

堀井氏:ただ、僕もMEGA PLAY版がどんなものなのか内容も知らなかったもので。話を聞いて「あぁなるほど、こんなのがあったのか!」と思ったわけです。収録したいっていう気持ちにもなりました。

 でも、収録したいと後から思っても、ローンチに「ソニック」を出すという予定はもう動かないんですよね。タイトル発表の段取りなんかももう進んでいたので「MEGA PLAY版をやるならもう少し時間ください」と言えない状況。仕方がないので、ローンチにMEGA PLAY版を収録した「ソニック」をなんとか出すしか選択肢が存在しないということに!

北米でアーケードゲームとして稼動していたMEGA PLAY版の「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を収録
紆余曲折を経て、MEGA PLAY版でスコアアタックを競う全世界ランキングモードが今作に搭載された
MEGA PLAY基板と専用ROMがこちら。画像のものは専用ROMが4つ挿しこまれている ※画像は「メガドラ30周年・ドリキャス20周年 ポータルサイト」より

奥成氏:ちなみに、なんでMEGA PLAY版を提案したのかということを話すと、最初に話し合われた今回の「SEGA AGES ソニック」への追加要素案に、もともと「オンライン要素を入れよう」というのがあったんですよ。エムツーの松岡さんは「じゃあタイムアタックモードを新たに作って、そのランキングをオンライン対応にします」という話をしていたんです。

 それを聞いて僕は、「それだったら、『ソニック』にはもともとタイムアタック向けの良いゲームが過去にあったんですよ!」と、MEGA PLAY版の話をしたんですよ!

――あぁ、なるほど!

奥成氏:わざわざ新しい仕組みを作らなくてもMEGA PLAY版「ソニック」を収録すれば、それがそのままタイムアタックになりますよ、と。

 そんなわけで僕がMEGA PLAY版ソニックのROMを発掘して、それを小玉さんにエムツーさんに持っていってもらったんです。

堀井氏:そういうのがスッと出てくるんだよなー。

奥成氏:「これ普通のメガドライブで動くのかなぁ?」なんて言いながら、一応持っていってもらったんですけどね。

――MEGA PLAYってアーケード用の基板にメガドライブのカートリッジ型のROMを挿しこむようになっているんですよね。

奥成氏:そうそう、NEOGEOのMVSみたいになってて。以前、セガの倉庫でダンボールを何の気なしに開けたらそのROMが入ってて。「あ、こんなところにMEGA PLAY用のROMがある!」って思いつつ記録用に写真を撮ってまた戻しておいたんです。

 それを持っていってもらおうと、最初は小玉さんに「あの倉庫の奥のこのへんのダンボールにMEGA PLAY版のROMが入ってるのでエムツーさんに持っていってください!」ってお願いしたんですけど、その説明じゃさすがにわからないってことで僕が倉庫に行って、見つけたROMを小玉さんに持っていってもらったんです。

 ただ、ROMだけしかなくて専用基板がなかったので、それをどうにかして動せるのかはわからなかったんですけど。エムツーさんからは後日、「やっぱり専用基板がないと動かないです」っていう話が返ってきました。いろいろがんばってみたらしいんですけどね。

堀井氏:MEGA PLAY用のROMって一見すると普通のメガドライブ用カセットなんですけどね。もしかしたらメガドライブのカートリッジのピン配置を入れ替えているだけの可能性もなくはなかったですし、それなら動かせるかもしれないと思ったのですが、ダメでした。

奥成氏:どうもMEGA PLAYのROMにはメガドライブ用のベースにもう1個ROMが追加されて載っていて、その部分がわからないと動かせないということだったんですよね。それで今度はそれをなんとかしなければいけないという話になって。

 僕は昔セガの倉庫に行った時に、セガの全タイトルのEP-ROMが引き出しの中に入っているのを発見して、それをすべてメモしてエクセルに起こしておいたんです。自分ではそれを「宝の地図」って呼んでいるんですけど(笑)。それを開いてMEGA PLAYを検索したら……ちゃんとあったんですよ!

――まさに宝の地図。

奥成氏:「倉庫のこのあたりの棚にあります!」と小玉さんと松岡さんに伝えて、もう一度倉庫に探しにいってもらって、それで実機の基板そのものではないですけどそれのEP-ROMが無事発見されたんですよ。

――完全にトレジャーハンティングみたいな話になっちゃってますね(笑)。

堀井氏:お宝ですよー。で、それを解析してわかったのは、MEGA PLAYはメガドライブの機能を使っているのは間違いないんですけど、ハードウェア的にはメガドライブとマスターシステムを“悪魔合体させた”みたいなハードになっているんですよね。内部がメガドライブで、外部がマスターシステム……という理解で多分あっているんだと思います。

 メガドライブが動作している上にマスターシステムの画面を重ねていて、それでタイムアタックなどのアレンジ部分の制御をやっているんですよ。

奥成氏:マスターシステムでメガドライブを制御しているっていう作りなんですよねー。

――すごい発想。

堀井氏:すごくセガっぽいハードですよね。SYSTEM18とかもSYSTEM16にメガドライブのVDPを重ねてみたいなことをしていたのでそれに近いです。タイミング的にそのあたりも触れていますので、「あ、またこのパターンかっ!」っていう気持ちになりましたね(笑)。

奥成氏がセガの倉庫で見つけたMEGA PLAY用ROM。カートリッジの形状だけでなくパッケージもメガドライブのものを流用している。写真の4タイトルはそれぞれ「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」、「Streets of Rage2(ベア・ナックル2)」、「GRAND SLAM(ザ・テニストーナメント'92 グランドスラム)」、「BIO-HAZARD BATTLE(クライング 亜生命戦争)」

――そこから、MEGA PLAYの「ソニック」ROMとEP-ROMの解析から進めていったわけですよね。

堀井氏:そうなんですけど、今お話しているあたりって、今回の「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の遅延をなくすための努力をしていて表示をギリギリまで削って、やっと「よし、これでいける!」っていうところまで来た頃だったんですよ。

 その頃にMEGA PLAYの仕組みが判明してきて、それを収録するにはオリジナルの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」をちゃんと再現するために削った表示以上の量のマスターシステムの表示を重ねないといけないということが発覚するんですよ! 勘弁してくれって思うじゃないですか。

奥成氏:(笑)。

――基本的なところとして、Nintendo Switchでメガドライブ版の「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を動かすのにも、やはり苦労があったのでしょうか。

堀井氏:Nintendo Switchは高性能なハードなので動かすだけなら大体はいけるんですよ。3DSの時は、遅延うんぬんよりも先にまずゲームがそのままだと満足に動かなかったですから。3DSの頃は「このゲームは引き受けても発売できないから!」みたいなところがスタートでした。

――3DSでの「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のインタビューでは、画面外の壁紙もスペック的にギリギリ無理で入れられなかったって悔やまれていましたよね。

堀井氏:そうそう、そういうレベルだった。それに比べるとNintendo Switchは「なんという高性能ハードなんだ!」と。「普通に持ってくるだけで十分に動くじゃないか!」みたいなところがありますね。

 ただ、入力をオリジナルに近づけるためにレスポンスを速くするための処理をさせたりするのですが、そういうのを入れていくと、やっぱりNintendo Switchでもギリギリになったりはするんですよ。

――まさに「セガ3D復刻」シリーズでもレスポンスの再現のための調節については常に同じことをお話されていましたよね。そこはやっぱり今回も変わらないと。

奥成氏:多分、PS2の「SEGA AGES 2500」でも同じ事を言ってましたよね(笑)。

――ハードによってスペックの余裕に違いはあれど、処理遅延と入力遅延をこだわって調節すると、余裕は結局なくなるんですね。

奥成氏:エムツーさんはエミュレーターである程度動かすだけなら、まず大概そこそこの時間でできるんです。でもそこには余計なプログラムによる負荷がかかっていて、どうしても処理遅延を起こして入力遅延も起こしたりするんですよね。

――動いていても感触は原作通りではないと。

堀井氏:そうなんですよねー。

奥成氏:そこを原作と同じになるまで、処理を加え余計なものを削り……を繰り返して詰めていくんですけど、とりあえず動かすまでが全体の30%ぐらいで、追加要素を入れるのに50%ぐらいあって、最後の20%ぐらいで遅延の処理などの再現度を高める調整をしていくみたいな感じですよね。

――Nintendo Switchはスペック的には余裕が増えてはいますけど、原作のレスポンスを再現する調整という部分になるとそこは手作業なわけで、労力は他と変わらないのですか。

堀井氏:変わらないというか……、変わると思っていたんですけど、変わらなかったですね! ただ、スタート時の絶望感がだいぶ和らぎました(笑)。

――ハードによってレスポンスを崩す要因が違ってくるところもあるわけですよね。

堀井氏:そうですね。どこがネックになっているのかというのはハードごとに違ってきます。なので、やはり細かに解析して調整しないといけないんです。

奥成氏:そんなわけで、エムツーさんが地道に「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を進めているところに、MEGA PLAY版も収録しようという話になり、ROMと基板のEP-ROMが発掘されてその中身がわかるにつれて、エムツーさんが予想以上に苦しんでいくことになった……というわけなんです(笑)。

 ちなみに、僕らの手元にあったのはROMと基板のEP-ROMであって、実機の環境ではなかったんですよね。やはりこれは実機の動作とちゃんと比べないといけないということで、実際の基板はEXA ARCADIAのCEOであり、世界でも有数の基板コレクターであるエリック・チャンさんに連絡しまして。「MEGA PLAYの基板って持ってます?」、「持ってる!」、「貸してください!」っていう感じで、「タイミングいいね、ちょうどミカドに置いてもらおうと思ってたんだよ」なんていう話もありつつお借りしたんですよ。

 それで実機での動作を確認して、「SEGA AGES」に収録しているものと比較して。ちゃんと違いのない動作をしているのが確認できました。そういうところも結構、予定外に大変でしたね(笑)。

堀井氏:ローンチに間に合わせるという話で言えば矛盾した要望が来た感じではあったんですけど、僕もMEGA PLAYというハードウェアの構成をみたり、動いているものや内容を知ったりすると、「これは入れたい!」となりましたし。もう、しょうがなかったです(笑)。

――入れたくなっちゃったんですね(笑)。でも、3DSの頃にはギガドライブという仮想ハードエミュレータの上で「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を動かしていたわけですが、MEGA PLAYはメガドライブ+マスターシステムということで、エミュレーターの仕様からはみ出しているものですよね。

堀井氏:そうなんですよね。少なくとも3DSなら絶対に無理でした。Nintendo Switchになったからと言ってもNintendo Switch内でもうひとつ別のハードを同時に動かすのはきついです。今回はNintendo Switchにギガドライブをそのまま持ってきて動作させてみて想像よりも上手く動いてくれたので安堵したんですけど、その気持ちはMEGA PLAY版の収録によって綺麗さっぱり無くなっちゃいましたね。大変でした。

奥成氏:今回の件で、実はメガドライブのアーケード基板っていっぱいあるんだなぁと感じて。C/C2 Boardがあってというところまではわかるんですけど、MEGA PLAY以外にもMEGA-TECH SYSTEMというのもあるんです。

 「MEGA-TECH SYSTEM」というのは昔の駄菓子屋とか旅館にあった筐体みたいな感じで、お金を入れると3分間だけゲームが動きますという時間制限で遊べる比較的に単純なものなんです。

 それに対して「MEGA PLAY」はというと、北米のアーケード向けにセガが1993年頃にリリースした、アーケード向けにメガドライブのゲームを複数入れているというものなんですが、メガドライブのゲームをそのまま遊ばせるのではなくて独自のアレンジを入れていたんですね。

堀井氏:移植をするときに、ちょっと機能を限定していたり、遊ばせ方の幅を広げていたり、逆に枠をつけていたりしているものってよくあって、それによってゲームの面白さがまた違ったものになっているんですよね。今回もMEGA PLAY版をみたときに「あぁ、やはりアーケードに置くとなるとこうなるんですね!」っていう納得と驚きがあって良かったんですよ。

 MEGA PLAY版「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のアレンジって、時間内にゴールしなければと熱中してプレイしてもらおうっていう気概を感じるものがあって、やる気を感じさせるアレンジなんです。

奥成氏:そのままではなく、アーケード向けにひとつ改造を加えたというもので、言うなれば……「ソニック・ザ・ヘッジホッグ'(ダッシュ)」というか、「for アーケード」というか、「VS ソニック・ザ・ヘッジホッグ」みたいなものなんですよね。

 小玉さんは当時「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を実際に作られたわけですけど、MEGA PLAY版とかはご存じなかったんじゃないですか?

小玉氏:知らなかったです。「ソニック」シリーズのプロデューサーをしている飯塚にもその話をしたんですけど「いやぁ、僕も知らないです」って言ってましたね(笑)。

――小玉さんや飯塚さんまでもご存じなかったとなると、もちろんオフィシャルな製品ではありますけども2次制作に近いような存在ですね。

奥成氏:もしかすると中さん(中裕司氏。ソニックシリーズ生みの親)も知らないかもしれないです。

――誰も知らないけど実はちゃんとアレンジの手がかかっている。そんなMEGA PLAY版ですけど、今回の「SEGA AGES」でも当初は厳しい状況だったながらも最終的になんとか収録できたというわけですよね?

堀井氏:エミュレーターの機能拡張をして、最適化を繰り返すことでなんとか実現できました。たまには「残念ながら断念しました……。」っていう話もしたいんですけど、きっとそんな話じゃあインタビューにならないですよね!

――それはまぁ……いや、そんなことはないですよ(笑)。

堀井氏:(笑)。

――「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」でできなかった外枠の壁紙なども今回はスペック的な余裕があり実現できたと。

堀井氏:ですね。入れ物自体には余裕があるので。いろいろと入れがいがあります。

――ただ、その器というか土台部分にそもそも当てはまらないMEGA PLAYみたいなケースだと途端に……。

堀井氏:そうそう、「前提と違うよ、それ!」みたいになるんですよね。

奥成氏:僕がそういうMEGA PLAY版を入れようというアプローチをしてエムツーさんが頭を抱えている一方で、小玉さんは「ソニック」シリーズの現プロデューサーである飯塚さんに「こういうのを作るんですけど、何かリクエストはありますか?」を聞いてきたんですよ。

小玉氏:(笑)。

――あ、そうするともしかして、今回のもうひとつの追加要素である「ドロップダッシュ」が。

小玉氏:そうなんです。「ソニックマニア」のアクションである「ドロップダッシュ」がとても好評だったから、そっちにも入れてみたらどうかなぁっていう話になって。実は、それがまた大変だったんですよ(笑)。

――なんとなくどういう苦労になったのか想像が付くような……(笑)。飯塚さんからすれば聞かれたから、「うーん、ドロップダッシュはどうです?」って軽くお答えになった……みたいなことですよね(笑)。

小玉氏:軽くね(笑)。

奥成氏:僕は僕なりに、「MEGA PLAY版ならエムツーさんの解析技術ならなんとかなるんじゃないの」っていう読みがあって提案したんですよね。でも「ドロップダッシュ」を入れようっていう話には「え、アクション増やすの!? 」ってびっくりしました(笑)。

――でも、5年前の「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の時に「スピンダッシュを追加しよう」って言ったのは奥成さんだったのでは……。

奥成氏:いや! あれはほら、当時にもお話しましたけど、「ソニックジャム」っていうセガサターン用に制作された「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」に、中さんが「スピンダッシュを初代ソニックにも入れたら面白いだろう」と考えて、自分の作ったプログラムを自分で改造して、数少ないメモリの中にスピンダッシュを追加していたっていう流れがあったわけですよ。そのソースプログラムをエムツーさんが解析して「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」にもそのソースを移植する……という話だったわけで。

 でも、今回の話は「ソニックマニア」のアクションなので、そもそもメガドライブじゃないわけですよ!

――現行ハードで動作させているプログラムを、Nintendo Switch内のメガドライブエミュレーターに持っていって動かさなければならないということですよね。

堀井氏:ディレクターの松岡が言っていた話なんですけど、元のメガドライブのソニックって4MbitのROMなんです。4Mbitの範囲内でやれることをやっていて、我々はそれをエミュレーションでやっているんです。スピンダッシュも含めて4Mbitに収めて、ROMカートリッジにもできる形で作っているので、そこに空きがなくなったら「もうダメだー」ってなるんです。

 その「もうダメだー」のところに、どうにかスピンの煙が立つエフェクトを小さくしたりしてなんとかROMに収めたんです。それで、その開発中バージョンを皆さんに見てもらったんです。すると、「あ、煙しょぼいね(笑)」とか言うんですよ! 言ったの飯塚さんだと思うんですけど!!

全員:(笑)。

奥成氏:そんなこんなで今回も松岡さんから「すいません、『ソニックマニア』のソースをください」という要望がきて(笑)。

――「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」にスピンダッシュを組み込んだ時は、中さんにご連絡をしてアドバイスを頂いて組み込んだみたいな話がありましたが、今回のドロップダッシュでは現行機のアクションを目コピしてメガドライブソフトに実装するわけで、やはりソースが見たいと。

堀井氏:そういう感じですね。まぁ仕様はわかるんですけどね。

奥成氏:まず「ソニックマニア」のソースを見て、アクションをどういう仕様で動かしているかを確認して。それをなんとか持ってきて入れていくわけです。

――でも「ソニックマニア」だと現行ハードの強みで贅沢に作っているわけですよね、おそらく。それをメガドライブの枠の中に……。

奥成氏:(笑)。

堀井氏:そう、それをどうにか再現しているのに「しょぼい」って感想になっちゃったもんだから、松岡は3回作り直したそうです。「3回作り直した話は、絶対話してください!」って松岡に言われました!

全員:(笑)。

奥成氏:ただ、ドロップダッシュの音は無理だったんですよね。

小玉氏:音はねー(笑)。

堀井氏:音だけはどうにもならなかったので、エミュレーターの範疇を越えた形で入れています。

――メガドライブの音源としては再現できない音だったということでしょうか?

堀井氏:ですね。別の音源を作って、メガドライブエミュレーターから外部音源へと「このアクションのときにこの音を鳴らす」っていう作りにしています。メガドライブのROMとしては焼けない形ですね。

――なるほど。今回の話はあらためてユーザーさんの理解も深まるのではないかなと思います。あくまで「メガドライブ」の枠でちゃんと作っているからこそ、そこから溢れるものはどうにならないし、そこのギリギリをどうにかしているというのが、「SEGA AGES」のポイントであり、いつもエムツーさんが苦労している理由ですよね。

小玉氏:ちなみに私もそこはよくわかっているんですよ(笑)。中裕司の隣で作っていましたから。「あんなアセンブラを叩いて作っていたものを解析して、そこに新たなアクションを入れるのか、そりゃ大変だ(笑)」って思いつつ要望を伝えましたから(笑)。

――無茶振りをする人が奧成さんと小玉さんのお2人になったんですね(笑)。

全員:(笑)。

小玉氏:ちなみに、今は別のタイトルも進めているのですが、そっちも似たような感じになっていますね(笑)。

堀井氏:毎回ですからね。インタビュー読んでいる人からすると「またかよっ」っていう感じだと思うんですけど、でも追加要素を入れたいのはわかるし、なにしろ小玉さんは原作を手がけたレジェンドなわけで、「小玉さんにそう言われてしまってはやらないわけにはいかないよね」という空気になるのも事実!

小玉氏:がんばって頂いた結果、ドロップダッシュの出来はすごく良くなったので。感謝していますよ。

――ちなみに、ドロップダッシュを追加したというのはゲームプレイ的にはどうなのでしょう? 原作だとこうだったけどドロップダッシュが増えたからプレイが変わるというような。

堀井氏:そういう場面が結構ありますね。

奥成氏:このインタビューを読んでもらった後には、タイムアタックに挑んでくれる人もいると思うのですが、ドロップダッシュはMEGA PLAY版でも使えるようになっているので、今までにはありえないようなタイムも出てくると思います。そこがどんな感じになるか興味津々ですね。

――なるほど。少し出ましたが音周りについてはいかがでしょうか?

堀井氏:Nintendo Switchの音源チップとかの話よりも、本体スピーカーからの鳴りに納得してもらえるかがポイントですよね。

――TVモードで出力するときと、携帯モードで出力するときと2つありますよね。

奥成氏:それにヘッドフォンを使う人もいますからね。

堀井氏:そのあたりをしっかり整えていくというか。詳しくはサウンド担当のスタッフからコメントしてもらっていますので、そちらをご覧ください。

【エムツーサウンドスタッフの皆様にコメントを頂きました】

 ドロップダッシュの音に関しては、当初はソニックのサウンドドライバーに機能を追加して新規効果音としてFM音源で鳴らす方向で作っていたのですが、より本来の音の再現度を高くするため、外部音源で鳴らす作りにしております。

 ソニックの移植に関して言えば初めてではないのですが、Nintendo Switchへの移植という観点で言えば初めてなので、開発環境も大幅に変わったこともあり、サウンドのチェックもほぼ1からのものとなりました。

 そのため、メガドライブに内蔵されているFM音源とDCSG音源の音量バランスの調整を改めて行いました。

 また、サウンドのブラッシュアップにあたり、新ハードということもあり後から後から問題が発覚して苦しめられましたが、セガの西村様による細やかなチェックを頂けたこともあり、最終的には以前の3DS版のソニック以上にサウンド再現性が向上しています。ご協力頂いた方々にはこの場を借りてお礼を申し上げます。

 エムツーサウンドスタッフ 春日・工藤・chibi-tech

――操作レスポンスの再現や入力遅延を軽減する調整についてはいかがでしょうか? Nintendo Switchというハードで、この点を不安視しているユーザーさんがいらっしゃるかと思います。

堀井氏:みなさん気にされていますよね。ですが、これは工夫次第でどうとでもなるところなんです。重いプログラムだとどうにもならないケースもあると思うのですが、我々がやっている「SEGA AGES」では、がんばれば違和感のないところまで持っていけています。

――ハードウェアの問題だからどうにもできない……という説もあったようですが、そうではない?

堀井氏:そんなことはないです。工夫次第ですね。

奥成氏:ゲーム開発で、普通ならこの時点で開発が終わっているはずなのに、チューニングに1年かけたりとか、すごく時間をかけてゲームのあらゆる面を調整しているというケースってあるじゃないですか。名作と言われるゲームはいずれもそこのチューニングに時間と人を費やしていると思うのですが、エムツーさんとやっているうちのプロジェクトについては、遅延や入力レスポンスっていうところは他の会社さんよりもこだわってやっていると思います。スケジュールはちょっとキツキツですけど(笑)。

――なるほど。思えばこの点は、もう10年以上前からインタビューでお話頂いている最大のこだわりポイントですよね。

奥成氏:PS2の頃からやっていますね。

堀井氏:やってますねー。

奥成氏:例えば、ある人が昔によく遊んだゲームの移植を久しぶりにプレイしたら下手になっていて、「俺は年をとってこういうゲームがもう上手くできないんだな」と思ったとしましょう。でも、実はそれは腕が落ちただけではなく、ゲーム側のレスポンスが悪くてギリジャン(ギリギリにジャンプ)が上手くできてなかったりとかするかもしれないんですよ。

 僕らは、そこをちゃんとサポートしたいんです。

 ……でも、そう思って10何年やっているうちにモニターがブラウン管から液晶画面になって、そのハードルが上がったわけですけど!(笑)。

堀井氏:コントローラーがワイヤレスになったりね!

奥成氏:でも、2000年初頭あたりのハードウェアでエミュレーションものをやるときが一番辛い時期だったんですよね。ゲームは出ているんだけど、当時の操作感は再現されていないみたいなものが多い時代で。その後だんだんと、メーカーさんによるかもしれないですけどよくなってきたと思うんですよね。

――こだわり続けて10数年、その最新の成果がこの「SEGA AGES ソニック・ザ・ヘッジホッグ」というわけですね

奥成氏:メガドライブの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を他ハードで動かすという点では、ほぼこれ以上ないのではというところに到達できていると思います。

 あとこの先に何かをやるのならスマホアプリ版「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のように、1から作り直して見た目と雰囲気をそっくりに再現した、いわゆる“リメイク版”にするほかないと思います。リメイクなら画面をワイドにしたりとか、キャラクターを足したりとかもできるんですよ。でもメガドライブのスペックで動くという枠では、もうこれ以上は何も出ませんというところまできましたね(笑)。

堀井氏:今の我々にできることはもう目一杯に詰め込んでますね。

奥成氏:そんなつもりで作っていますので(笑)。みなさんよろしくお願い致します。

 今回はここまで。Part2では第1弾タイトルのもう1つ、「サンダーフォースIV」について、そして「SEGA AGES」の今後についてお聞きしたので、そちらもお楽しみに。