インタビュー
「SEGA AGES アウトラン」インタビュー
“あの頃のテイスト”に満ちた追加曲の数々!大画面で楽しめる最新「アウトラン」!
2018年11月29日 00:00
セガの名作を“こだわり満載”で復刻する「SEGA AGES」。11月29日に4タイトル目となる「SEGA AGES アウトラン」が配信開始されたので、恒例のインタビューをお届けしよう。
インタビューにご参加頂いたのはセガゲームスより、リードプロデューサー及びディレクターの小玉理恵子氏、スーパーバイザーの奥成洋輔氏。開発を手がけるエムツーより堀井直樹氏の3人。なお、今回はシニアプロデューサーの下村一誠氏はお休みとなった。
3DS「3D アウトラン」でもまだやりきれなかった部分を入れた「SEGA AGES アウトラン」
【アウトラン】
1986年に稼動を開始した、セガの体感ゲームとしては第4弾にあたるドライブゲーム。男女2人がオープンカーに乗り、チェックポイント間を制限時間内に通過することで継続プレイとなる。他の車やコース外の建物などに激しく接触するとクラッシュし、自車が派手に回転したり吹き飛ばされたりする。樹形図状に展開するコース分岐をたどることで16のコースが用意されていた。
筐体はデラックス、スタンダード、コクピット、アップライトと4タイプが作られ、足元にはアクセルとブレーキペダル、そしてHiとLoの2段切り替えのシフトレバーがシート左側(アップライトは右側)に設置。デラックスとスタンダード筐体は、ハンドル操作にあわせて、またコースアウトやクラッシュの際に可動する。
新旧2つのバージョンがあり、国内では新旧が混在、海外では新バージョンが稼動していた。それぞれコースの並びが異なったり、バグが修正されていたりする。
「MAGICAL SOUND SHOWER」、「SPLASH WAVE」、「PASSING BREEZE」の3曲をプレイ開始時にラジオのようなセレクターで選択できたことも当時画期的だった。
また、ギアを上下に連続して行なう「ギアガチャ」により、コースアウトしても速度を落とさず走行する裏技的な走法が発見され、タイムアタックに燃えていたプレーヤーたちをさらに熱狂させることとなったのも記憶に残る本作のエピソードだ。この走法はシフトレバーを酷使するため、筐体の寿命を縮める結果につながってしまったが……。
基板は「スペースハリアー」より世代の進んだ通称「アウトランボード」で動作。MC68000×2とサウンド制御用のZ80が搭載されており、128枚のスプライトが表示可能。サウンドにはYM2151とセガオリジナルのPCMが搭載され、効果音だけでなくBGMのリズム隊などにも利用されている。
――「SEGA AGES」4タイトル目の「SEGA AGES アウトラン」インタビューになります。4タイトル目でついにアーケードタイトルの登場になりましたね。
堀井氏:あーそうか!そうなりますよね。やっと……という感じもありますが、弊社では他にもセガのアーケードタイトルがいくつも動いているんです。いろんな音が聞こえてくるので、社内はハイテクランドセガみたいになってますよ(笑)。
奥成氏:僕らは、もともとはアーケードタイトルを中心に考えてセレクトしてはいるんですけども、開発スケジュールの都合や「最初はやっぱり『ソニック』がいいよね」など、いろいろあった結果、4本目でようやくアーケードタイトルが出るということになりましたね。
――「アウトラン」をラインナップに選んだ理由ですが、これはやはり「なくてはならないよね」という気持ちが強くあってのチョイスでしょうか?
奥成氏:それもありますけど、3DSで展開していた「セガ3D復刻プロジェクト」の頃から「大画面で遊びたい!」っていう声を結構頂いていて。そういう要望の中でも「アウトラン」は特に人気の高いタイトルですし、今回の「SEGA AGES」でも出していこうと、すんなり決まったという感じですね。
今までもお話ししてきましたが、今回の「SEGA AGES」というプロジェクト自体には「なるべく多くのタイトルを出していこう」という方針がありますので。「セガ3D復刻」シリーズで出したタイトルからも何本か移植したうちの1本となっています。発表済みのタイトルだと「スペースハリアー」などもそうですが、この後のまだ未発表のタイトルについてもいくつか準備中です。
――なるほど。「アウトラン」あたりは出さなかったらそれはそれで「あれ?出さないの?」って言われそうなぐらいの存在ですよね。
小玉氏:最新のハードで遊びたいですっていう声はやっぱりありますよね。
堀井氏:毎回移植を購入するぐらいの好きな人からすると、「これで何本目の『アウトラン』だろう」っていうところもあるかもしれませんが、僕もセガ・マークIII版から全部買っているので、相当なことになっていますね。
――「アウトラン」の移植の歴史を振り返ると、セガ・マークIII版からメガドライブ版、ゲームギア版やPCエンジン版など、1980年~1990年代にかなり多くの移植がありつつ、1996年にはセガサターンでの最初の「SEGA AGES アウトラン」があり、2004年にPS2「SEGA AGES 2500シリーズVol.13アウトラン」がありますね。
そして、2014年に「セガ3D復刻プロジェクト」でエムツーさん開発による「3D アウトラン」が登場したわけですが、エムツーさんが「アウトラン」を手がけたのは、あの3DSでの「3D アウトラン」が最初だったんですよね?
堀井氏:そうですね、あれが最初です。
奥成氏:「3D アウトラン」は、「セガ3D復刻プロジェクト」の第2期でようやくチャレンジできたタイトルでしたね。かなりいろいろ苦労しましたが(笑)。
――今回にもその要素が引き継がれていますが、「3D アウトラン」の時には、ワイド画面対応をして、60fps化もしていて、奧成さんとエムツーさんとで取り組んできているタイトルの中でもこだわりが強かったというか、3DSでやるには厳しい要素にトライされていたなと思えます。
堀井氏:たしかにそうでしたねー。
奥成氏:当時は最後の最後までなかなかに苦労しましたね。でも、今回はNintendo Switchになって、「3D アウトラン」で苦労したところは楽になっているんですよ。
堀井氏:スペック的にできないっていうところは減っていますね。あの当時に苦労して実現した要素は、今回にもそのまま持ってこれています。Nintendo Switchでは3D立体視がなくなったぶん、負担が軽くなっているところもありますね。
※「セガ3D復刻プロジェクト」第2期、第2弾タイトル「3D アウトラン」は奧成氏のこだわりと、それをどうにかクリアしていくエムツーの苦労が満載!インタビューは、Part1がこちら、Part2がこちら
――なるほど。エムツーさんでは3DSの「3D アウトラン」以降に「龍が如く」シリーズ内などに収録されたミニゲームとしての「アウトラン」移植を手がけたりもされていますよね。それらも含めて、エムツーさんが開発する「アウトラン」は「3D アウトラン」以降、それをベースにしてきていると考えていいのでしょうか?
堀井氏:基本的にはそうですね。今回の「SEGA AGES」版まで引き続いて3DS版をベースにはしています。
奥成氏:ただ、「龍が如く」シリーズに収録された「アウトラン」は、もともとは「龍が如く0 誓いの場所」を作るにあたって1980年代の街並を再現するなかで、その当時にあったゲームセンターのゲームも置きたいよねっていうところからのものなんですよね。
そこで、ぜひその移植もエムツーさんにお願いしようとなったというわけですが、あくまで当時を思い起こさせるためのオブジェクトのひとつなので、中身はアーケード版そのままのものを収録しています。
それに対して、こちらの「SEGA AGES」や「セガ3D復刻」シリーズでの取り組みはミニゲームというものではなく単体配信するものですので、本腰を入れてこだわりの新要素を入れたものになっている、というところが大きな違いですね。
――移植にあたってのスタンスがそもそも違っていますし、今回はワイド画面対応や60fps化のされた「3D アウトラン」を大きな画面で楽しめるのが大きなポイントになりますね。
堀井氏:そうなんですよ。大きな画面でワイド画面対応や60fps化された「アウトラン」の画面を見ていると、毎回移植を買っている僕でも個人的に「あー、これはいいなぁ!」って思えるものになっているんです。
――「セガ3D復刻」シリーズでの「3Dアウトラン」では、3DSの能力を限界近くまで使っての移植だったというお話を当時のインタビューで伺いました。今回はさすがにスペック面では余裕があったということですよね。
堀井氏:ですね。Nintendo Switchはやっぱり据置機だよねーありがたいって、感じるところです。
――となると気になるのは、「余裕があるぶん、今回はこういうことをやろう」という、恒例の追加要素の部分ですね。
堀井氏:そうですね。でも、グラフィックスの部分をこれまで以上にいろいろいじるというのは、僕らがしていいものだろうかという思いがありますので。今回は“ドライブ”という体験的な部分にいろいろと追加しているんですよ。
奥成氏:今回は、「セガ3D復刻」シリーズでの「3D アウトラン」でやりきれなかった部分をやろうというのがありましたね。その前には、まず「3D アウトラン」での基本要素をすべて取り入れることが必要です。「3D アウトラン」の要素だったワイド画面化と60fpsでの描画、追加BGMの2曲、新車やパーツを手に入れてチューンナップさせて遊びやすくできる要素など、全て今回の「SEGA AGES アウトラン」にも収録しています。
ただ、ハードの違いから3D立体視と、本体を傾けての操作と筐体のムービングが連動する機能は、今回は入っていないです。筐体のムービングについてはそのままに再現することはできないものの、代わりにJoy-Conのジャイロを使った操作を搭載しています。
――「3D アウトラン」でやりきれなかった部分というのはどういったものでしょう?
奥成氏:やっぱり、「曲を増やしましょう!」というものですね。「3D アウトラン」でも追加曲を2曲増やしていたのですが、あれはゴールとエンディングが5種類あるのに対して原作だと曲が3曲だから、あと2曲追加すると、それぞれのコースを全部違う曲で遊べるようになって嬉しいよねっていうことだったんです。それで、並木さん(※)作曲の「Cruising Line」と、Chibi-Techさん(※)作曲の「Camino a Mi Amor」が入りました。
そのときに重要視していたのが「アーケード版の音楽に準拠したものにする」ということで、アーケード版のサウンドボードで鳴らすことができる音楽として作ろうというものだったのですが、2人とも1980年代のテイストを上手く引き出して、オリジナル3曲のBGMを作曲されたHiro師匠(※)にも負けないぐらいの曲を作ってもらえました。
※並木学氏。1990年代からシューティング作品を中心に多数の楽曲を手がけてきた。「3Dアウトラン」当時はエムツーに所属。現在はゲーム開発会社のグリッドに所属している。
※Chibi-Tech氏は、エムツー所属のサウンドクリエイター。ゲームハードの音源を活かした楽曲やチップチューン系の楽曲を手がけており、エムツー制作タイトルの数多くで、独自のリミックスやメドレーアレンジ楽曲を手がけている。
※通称Hiro師匠こと川口博史氏。セガ・インタラクティブ所属のゲームミュージック作曲家で、1980年代から今に至るまで数多くのセガ作品のサウンドを手がけてきた。「アウトラン」の楽曲も代表するひとつ。
堀井氏:1980年代の街並であったり、そこにどんな音楽が流れていたかというところまで振り返って、考えながら作曲してもらったんですよー。
奥成氏:「1980年代のあのテイストを追加曲でも出す」というのを1番大事に考えて。追加の2曲はそういう形でやってもらいましたね。
――なるほど。1980年代のあの雰囲気が何よりも「アウトラン」の味ですよね。ちなみに原作が開発されていた1986年頃について、小玉さんは何か思い出があったりするでしょうか?
小玉氏:私は「アウトラン」には直接関わってはいなかったので、そこまで詳しい思い出はないんですよね。ただ当時はアーケードチームとコンシューマーチームが同じフロアにあったので、アーケードマシンもちょこちょこ見ていたりはしました。「アウトラン」が、アップライト筐体で動いているところとかを見て「おおー」ってなってましたね(笑)。
当時はレースといえばサーキットでしたが、「アウトラン」は公道レースで“ドライブの楽しさ”がありました。それが当時としては珍しくて、新鮮に感じた記憶がありますね。
堀井氏:あの筐体が作られていく過程だなんて、ものすごい光景ですよ!僕なんかはあの筐体ができがっていく光景を目にしていたら、「これならセガが天下を取れる!」ぐらいに大興奮しちゃいますよ!
小玉氏:(笑)。でも、それで言うと1番最初に凄いなって思ったのは、やっぱり「ハングオン」なんですよ。あの筐体がバーンと開発現場に現われて、「ちょっと座ってみて」なんて言われましたね(笑)。最初の筐体は重くて、女性が動かすのが難しかったりしましたね。「スペースハリアー」や「アウトラン」など、AMのみんなが試行錯誤を繰り替えして、ゲームセンターにデビューしていったのですね。
――ドライブの楽しさというのは本当の車好きの目線ですよね。今でこそ「オープンワールドを自由にドライブする」というコンセプトのドライブゲームが定着しましたが、昔は車のゲーム=レースというのが普通だったと思います。音楽をプレーヤーが選択して、それを聴きながら走るというのも「アウトラン」で既にやっていることですし。そういう意味ではものすごく時代を先取った作品ですよね。
堀井氏:本当にそうですよねー!偉大ですよ。当時のセガのアーケード開発って間違いなく世界一の現場ですし、その場にいたかった!!
全員:(笑)。
今回の新要素のポイントは「追加曲」!アーケード版「アウトラン」に合うアレンジで、様々なハードの楽曲をチョイス
奥成氏:……そんなわけで、話を今回の追加曲のことに戻しますと(笑)。3DS版の「3Dアウトラン」では追加曲を2曲入れて全部で5曲になって。5つのゴールに5つの曲でひとまず形がまとまったなとは思っていたんですよね。
それから4年経って、今回また「アウトラン」を作れる機会がやってきて。「さて、今度はどうしようか」となったわけですが……。そもそも過去の「アウトラン」家庭用移植作にも曲を増やしていたものがあるんですよ。やはり「アウトラン」と言えば音楽というところがありますから。
そのひとつが、メガドライブ版追加曲の「STEP ON BEAT」なんです。前回も話題にはのぼりつつも、新曲に力を入れることにして、無くなったんですけど、「3Dアウトラン」をご購入頂いた人の感想で「あの曲が入ってないなー」っていう声が結構あったんですよ。
それって、その人にとっての「アウトラン」の原体験がアーケードではなくてメガドライブ版だったということなんですよね。そして、そういう人が結構多かったということでもあって。メガドライブ版の前にはマークIII版、後にはPCエンジン版、セガサターン版があって、「シェンムー」内で遊べるドリームキャスト版の「アウトラン」もありましたが、セガサターン版は原曲のアレンジバージョンはあったものの、3DS版以前に追加曲があったのはメガドライブ版だけなんですよ。
1番最初に「『アウトラン』に曲が増えた!」といえばメガドライブ版の「STEP ON BEAT」なわけで、思い入れのある人が予想以上に多いんだなと感じたんですよね。それで、次の機会があったら「STEP ON BEAT」をやりましょうって、エムツーさんとも話したんですよ。
ただ、メガドライブ版の追加曲の音はアーケード版の画面と合わせても違和感があるので、「STEP ON BEAT」も当時のアーケード版の基板に準拠したアレンジでやらないとね、と言っていたんです。
というわけで今回の追加曲1つ目は、「STEP ON BEAT -ARCADE EDITION-」というものになりました!
奥成氏:「STEP ON BEAT -ARCADE EDITION-」は、この前の東京ゲームショウ2018でのイベントでも少し流したのですが、来場されていた人もすぐに反応してもらえてましたね。
堀井氏:これはメガドライブ版じゃなくアーケード版になっているんじゃないかって、すぐに反応をされている人もいましたね。やっぱり記憶に強く残っている人が多いんだなと感じました。
奥成氏:ただ、ユーザーさんからすれば「STEP ON BEAT」が追加されるのは想定の範囲内だとも思っていて、この路線でもう少しこだわれないかとエムツーさんと話したんです。
そこで「じゃあ、今回の追加曲は3曲にしよう!」って提案して、後はスケジュールが間に合わなかったら減らしても仕方ないねと。「STEP ON BEAT」をアーケード風にアレンジするのなら、他にも既存の「アウトラン」シリーズの曲からもう2曲をアレンジして追加してみたらどうかと。エムツーさん的には「……簡単に言ってくれるな」という感じはあったんですけど(笑)。
堀井氏:まぁ、ぶっちゃけて言うとそうです!(苦笑)曲を追加するだけと思われちゃうかもしれないですが、手間はかなりかかるんですよ。
奥成氏:ストリーミング再生で流すのならなんでも流せるんですけどね。ストリーミングなら、それこそセガサターン版の「アウトラン」のようなアレンジを入れることもできます。でも、3DS版ではストリーミング再生ができるように移植版のプログラムがなっていなかったので、今回のNintendo Switch版でそこを改良するのも結構大変です……という話もありつつ。そもそも「3D アウトラン」の時はアウトランボードで鳴る新曲だったんですから、今回もできる限りそうしたいよね、と。
それで、あと2曲をどうしようというときに、僕からは「SHINING WIND」という、海外でマスターシステム向けに発売された「OutRun 3-D(アウトラン 3D)」に収録されていた、ちょっと「スペースハリアー」のメインテーマっぽさもある曲をリクエストしたんです。3DS版のインタビューでも話していたやつですね。
……でも、その曲は結局、アウトランボード向けにならないというか、「アウトラン」らしく聞こえないという感想になっちゃったんですよ。
堀井氏:元の「SHINING WIND」はセガ・マークIIIのFM音源ユニットでのOPLLで鳴っている曲なのですが、それをアウトランボードのOPMで鳴らしてみても、今ひとつしっくりこなかったんですよ。
奥成氏:そんなわけで「SHINING WIND」は最終的にギブアップという話になってしまいまして。でも、エムツーさんもただギブアップするのは面白くないので、「アウトラン 3D」から別の曲ならできるのではないかと検討いただいて。
そうした経緯で今回の追加2曲目になったのが、「MIDNIGHT HIGHWAY」です!
※「アウトラン 3D」は3DS「セガ3D復刻アーカイブス」にも収録された。当時のインタビューの「アウトラン 3D」パートはこちら
奥成氏:ところが、この「MIDNIGHT HIGHWAY」もやはりアウトランボード用にアレンジをしても、どこかしっくりこなかったらしく、最終的に「アウトランボードに準拠した音源ではあるのですが、ストリーム再生する曲になっています。
「あれ、ストリーム再生できるようになったの!?(笑)」という話なのですが、その辺は後述しますけど、ストリーム再生もできるようにあらかじめ開発も進めておいたのだそうで。というわけで当初の計画からは少しズレちゃったのですが、よりそれらしい曲が楽しめるようにそうした方が良いだろうと判断したところです。
堀井氏:チャンネルの割り振りを変えたり、アウトランボードの音源にはない機能を使っているので、ストリーム再生になりました。
奥成氏:でも、よっぽど音源に詳しくない人でないと、アウトランボードで鳴っているようにしか聞こえないと思いますよ。
堀井氏:そうですね。ただ、そこはこだわりの部分でもあったので、ゲーム中でBGMをセレクトするときは、内蔵音源で鳴っている曲は原作のままにラジオのチャンネルを切り替えて選ぶようになっていますが、ストリーム再生の曲は“カセットテープを入れる”というグラフィックスに変更することにしました。
――なるほど、内蔵音源の曲とストリームの曲とで、セレクトの見た目を変えているんですね。
堀井氏:エミュレーションするのはこだわりでしたから、そこはもうはっきりと。
奥成氏:しかしこの車、カセットテープをどこに入れるんだろう?見えないところにあるんだろうね(笑)。
小玉氏:(笑)。
さらなる追加曲には、まさかのレジェンドから提案の1曲に、ギリギリで収録されたサプライズのボーナス曲も!
奥成氏:2曲は私の提案だったのですが、その際にエムツーさんから「じゃあ、『アウトラン2』からも1曲選出するのはどうですか?」という提案があって、ではチャレンジしてみてくださいと、進めてもらうことになったんです。ですが、これがアウトランボードの内蔵音源用にアレンジするのがものすごく難しくて、かなり悪戦苦闘した末に、最後は「すみません、もう間に合いません」というお話になっちゃったんですよ。
――あら。
奥成氏:「残念だけど、じゃあ追加曲は2曲になっちゃうのかな」っていう空気になっていったのですが……。そこで別方面の話になるのですが、僕はまだ今回の発表前に、「追加曲を収録した『アウトラン』をNintendo Switchで出すんですよ」という話を、セガサミーグループの音楽会社であるウェーブマスターにいる伊藤に漏らしていたんですよ。サントラ出してほしくて(笑)。
彼は元々セガで「セガモバ(セガ モバイルフレンズ」とかを担当していたのですが、とにかくセガのゲームミュージックが好きで。セガ作品のサントラの監修などもやっていたんです。あまりにセガサウンドが好き過ぎて、今年になってウェーブマスターに転職しちゃったほどなんですよ(笑)。
その彼が、「ウェーブマスターに入ったので、奧成さん何か仕事しましょう」と声をかけてくれたときに、「実は今……」と、今回の「SEGA AGES アウトラン」の追加曲の話をしたんですよね。その時は「じゃあサントラCD出しましょうよ」なんていう話もしたんですけど、今のお話のとおりゲームの開発が悪戦苦闘の日々だったので、収録予定の曲がなかなか上がってこない。
一方で、伊藤は今「S.S.T.BAND」(セガサウンドチームによるバンド)の30周年記念で「S.S.T.BAND -30th Anniversary Box-」という商品を作っていて、その先には当然「S.S.T.BAND」のメンバーであり、「アウトラン」のオリジナルのクリエイターであるHiro師匠もいます。そこで伊藤が、Hiro師匠に「こういう『アウトラン』を今度出すらしいですよ」って話したらしいんです。
すると、Hiro師匠は「それなら自分も何かやりたいな」って言ってくれたそうなんですよ(笑)。
――回り回って!
堀井氏:ありがたいですよー、本当に!
奥成氏:さすがにセガインタラクティブ所属のHiro師匠に新曲とかをお願いするのは遠慮していたんです。スケジュールだってほとんど空いてないでしょうし。そう思っていたところに伊藤から「師匠がやりたいそうですよ?」っていう連絡がきたんです。
ただ、一方でこちらの開発はもう終盤間際まできていたので、ここにさらに追加要素を入れられるかが厳しかったんです。でも小玉もエムツーさんも「これは何とかしよう」というお話になって、最終的にHiro師匠からの追加曲を入れられることになりました。
その際に、Hiro師匠から「これならすぐにできるだろうから」と渡してもらえたのが、今回の追加3曲目になる「RADIATION -NOSTALGIC VER.-」です!
――なんと、Hiro師匠から曲のデータをすぐに頂けたのですか?
奥成氏:はい、MIDIデータですね。この「RADIATION」という曲はもともと「OutRun 2006: Coast 2 Coast」という海外版パッケージに初めて収録された曲なんです。「OutRun 2006: Coast 2 Coast」を日本向けに改良したのが、プレイステーション 2用「アウトラン2 SP(アウトラン2 スペシャルツアーズ)」になりますね。
この曲もいろいろ経緯があるのですが、「アウトラン2」の歴史の話をしますと、まずアーケードに「アウトラン2」が出て、それはXboxに移植されて家庭用のオリジナル要素が追加されたりしたんですけど、これと同時期にアーケードでコースが追加された「アウトラン2 SP」も登場しました。その「アウトラン2 SP」をベースに、家庭用向けに再度開発し、せっかくだからと曲まで増えたのが「OutRun 2006 Coast: 2 Coast」です。
この「OutRun 2006: Coast 2 Coast」は海外製なのですが、なんというか、わりと大雑把なクオリティだったので(笑)、日本のお客様向けに移植度に手が入れられて、日本向けにPS2「アウトラン2 SP」という形になって発売されました。これが実質的な「アウトラン2」シリーズの完成形で、最終形態といえるものです。
そんなわけで、今回の追加曲である「RADIATION」は、日本のユーザーさんからするとPS2「アウトラン2 SP」で初めて聴くことになったという曲なんですね。もちろん作曲したのはHiro師匠です。
――なるほどー。海外向けからはじまって、回り回って日本のユーザーも耳にしたという曲なんですね。
奥成氏:それで、今回Hiro師匠から曲を頂くときには「この曲なら、初代の『アウトラン』の内蔵音源にも合うだろう」とおっしゃられていたんです。でも元の曲は生音も使っているような2006年当時の曲で、僕らは「え、『RADIATION』ですか!?」って驚きつつだったんです。でも、頂いたデータをエムツーサウンドチームの皆さんがアウトランボードの内蔵音源用にアレンジしていったところ、意外なほどに初代「アウトラン」の中にも馴染んでくれたんですよ。
堀井氏:メロディーラインが、まさに初代「アウトラン」の曲なんですよー!
奥成氏:12年前の2006年頃に作曲された曲を1986年風に、なので、さらに20年戻してますね(笑)。
堀井氏:頂いたMIDIデータを解析しながら、今度はアーケード版「アウトラン」の音源へと割り振っていくという作業になるので、手間もかかりますし、出来上がってみてもしっくりいかないことも多いのですが、これは元から初代「アウトラン」にあってもおかしくないぐらい自然にまとまりましたねー。
――なるほど、MIDIデータを全く違う音源へと当てはめて再構築するというのは、うまく馴染んでくれるか相当に難しいですよね。
堀井氏:そうなんですよ、本当にそこなんです。そこはサウンドチームの新メンバーである工藤が相当な熱意で仕上げてくれました。
結果として、Hiro師匠が作曲された曲を追加するという、最も理想的な形になってくれて、曲もまさに「アウトラン」というもので違和感がなくて。ディレクターの松岡も「さすがHiro師匠!」と喜んでいましたね。
奥成氏:Hiro師匠も活動を続けていく中で音楽的な造詣が深くなって、音楽性も変わっていくわけで、この「RADIATION」も「アウトラン2 SP」に収録されていた時は、全くもって最新のBGMなんですよ。でも、こうやってさまざまな音を減らしてノスタルジックな音源に戻してみると、「あ、『アウトラン』だ!Hiro師匠の曲だ!」ってわかるんですよね。
堀井氏:そうそう、わかるんですよー。
――Hiro師匠も最初に「これは初代『アウトラン』に合うはずだから」と確信を持って、みなさんにMIDIデータを渡されているわけですよね。ご本人は誰よりも、もうわかってらっしゃったんですね。
堀井氏:そうなんですよ、この話はそこがすごくて!MIDIデータを受け取った段階では、僕らはどうだろうかって不安もあったんです。残された時間もほとんどなかったですし。でも、やってみたら自然に「アウトラン」に馴染む曲になっていて。……さすが師匠としか言いようがないんです!
――「OutRun 2006: Coast 2 Coast」に収録するものとして最初に作曲した段階で、変わらない良さというか、これぞ「アウトラン」という曲を作っていた……ということなんでしょうか。
奥成氏:クリエイターとしてのオリジナリティは変わらない……ということなのかもしれないですね。別のゲームのために作られた曲ではなく「アウトラン2」のために作られた曲だというのも大きいと思います。
――「アウトラン」楽曲のエッセンスそのまま、雰囲気もばっちりなものを追加できたわけですね。
奥成氏:結果として「アウトラン」シリーズに対して、“初めて(3曲以外に)追加された曲”と、“最後に追加された曲”を追加できることになりました。「MIDNIGHT HIGHWAY」はマスターシステム用海外タイトルの「アウトラン 3D」から、「RADIATION」は「OutRun2006 Coast 2 Coast」や「アウトラン2 SP」で追加された曲ですので。
それに加えて、メガドライブ版からの「STEP ON BEAT」と、新旧「アウトラン」の追加曲がここに集まったという3曲になりました。
――キレイにまとまりましたねー。それにしてもこうやって考えると、「アウトラン」の移植は常に「曲が重要だから、できれば追加曲を入れよう」といつでも考えてこられたんだなっていうのを感じますね。それこそ昔のアーケードゲーム移植となれば、容量の都合で曲が削られていたっておかしくないのに。
堀井氏:本当そうですよねー。それこそ「アウトラン」だからこその特徴だと思いますね。
奥成氏:……で、実はまだ続きがありまして。ここまでの追加3曲で今回は終わりになるはずだったのですが、実は結構早い時期からエムツー内ではChibi-Techさんに「何かやろうよ!」って話していたそうなんですよ。
堀井氏:ただ、しばらくは音沙汰がなかったというか、Chibi-Techは我々と違った時の流れを生きているので(笑)。やりたいことはあったようなんですけど、今回には間に合いそうもないので、僕らは諦めようかという感じになっていたんですよ。
奥成氏:なのに、開発も最後の最後「RADIATION -NOSTALGIC VER.-」も入った後にゲーム内を見てみたら、「あれ?また曲が増えてる?」となって(笑)。
それが、Chibi-Techさんが作った追加曲の4曲目である「DRIVER'S MEGAMIX VOL.1」です!
……ちなみに、VOL.2はありません(笑)。
――ドライバーズメガミックス!しかもVOL.1!
奥成氏:これもストリーミングなので、カセットテープ表示での収録ですね。
堀井氏:Chibi-Techの好みに合わせて、カセットテープの色はピンク色になっています。
――(画面のカセットテープを見て)、このパステルカラーなピンク色もいかにも1980年代だなーっていう感じがしますねー。
奥成氏:この「DRIVER'S MEGAMIX VOL.1」は、「アウトラン」の曲を1980年代風にメドレーアレンジしたというものですね。実はNintendo Switch版でひそかにストリーム再生機能を実装していたのも、Chibi-Techさんのこの曲を入れるための準備だったそうなんですね。
堀井氏:アーケード基板の音源にもこだわらずに、しかし1980年代の音楽シーンや音源に合わせたアレンジを施した初代「アウトラン」メドレーになっています!
奥成氏:他の曲とは完全に規格外なので、ボーナストラック的な存在としてお楽しみ頂ければと思いますね。
――ちなみに「DRIVER'S MEGAMIX VOL.1」という曲名はChibi-Techさんが自分でつけたものなんですか?
堀井氏:そうです。
――曲名がいろいろ気になりますね、「ファイターズメガミックス」を思い起こさせるものがあったり、「VOL.1」ってついていたり。……もしかして、1980年代の曲とカセットテープ繋がりで「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」だったり?
奥成氏:おそらく、それもあると思いますよ(笑)。
――(笑)。
※「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」劇中に登場するクイルが宝物にしているカセットテープには、「AWESOME MIX VOL.1」と書かれている。
※「ファイターズメガミックス」は、1996年12月21日に発売されたセガサターン用の対戦型格闘ゲーム。
奥成氏:というわけで、今回の追加曲は全部で4曲になりました!アーケード版の3曲に、「3Dアウトラン」で追加された2曲、そして今回の追加曲4曲で、全9曲が収録されています!当初の予定よりも結果的に増えたので、たっぷりとお楽しみ頂ければと思います。
……ちなみに、ウェーブマスターの伊藤と話していたサントラがどうなるのかは、今後のお楽しみです。出るのか出ないのか、出るならいつになるのかは今のところまだわかりませんが、ここまでインタビューで喋ってしまってはきっとやらないわけにはいかないでしょう(笑)。
――もし発売されたら、その時に「DRIVER'S MEGAMIX」のVOL.2が聴けるかもしれませんね(笑)
奥成氏:それだと発売がずいぶん後になってしまいそうです(笑)。
【エムツーサウンドスタッフ「工藤索興(クドウサクオキ)」氏にコメントを頂きました】
こんにちは。エムツーの工藤と申します。今回の「SEGA AGES アウトラン」では、3曲のアレンジ楽曲の制作を担当しました。
この内「STEP ON BEAT -ARCADE EDITION-」「RADIATION -NOSTALGIC VER.-」については、「セガ3D復刻プロジェクト」版で追加された新曲同様、元々のサウンドドライバで鳴っています。
アウトランは自分も大変思い入れが強いゲームで、「MAGICAL SOUND SHOWER」を初めて聴いた際に「この素敵な音楽は何だろう?」と思った事をよく覚えています。
そのようなこともあり、今回アレンジを担当することになった時は、嬉しさ半分、緊張半分な、大きなプレッシャーを感じての制作でありました。
当初は初代アウトランの音楽の特徴を掴むことができずに苦労しましたが、最終的にはよく馴染み、また聴きごたえのあるものに仕上がったと思います。
『工藤氏による楽曲ごとの解説』
「STEP ON BEAT -ARCADE EDITION-」原曲: 「アウトラン」(メガドライブ版)
スタッフ内でも追加するならコレは外せない!といった調子で、真っ先に収録が決まりました。元々楽曲の再現度が高かったメガドライブ版ですが、アーケード音源になって、よりゴキゲンなアレンジとなっております。
「RADIATION -NOSTALGIC VER.-」原曲: 「OutRun2006 Coast 2 Coast」等
生音の豪華なアンサンブルを、初代アウトランの音源に可能な限り落とし込みました。もちろんソロパートも収録!原曲のデータを提供してくださったHiro師匠様へ、この場を借りてお礼申し上げます。
「MIDNIGHT HIGHWAY -PLAYBACK-」原曲: 「OutRun 3D」(海外版マスターシステム)
基本はアーケード音源ですが、元々のサウンドドライバでは実現できなかった機能を使用したかったため、ストリームでの演奏となっています。ドラム音源は1度実際にカセットテープで録音したものを使うなど、ストリームであることを生かし、見た目通りにテープのエッセンスを加えた音に仕上げてあります。
これら3曲のアレンジに加え、弊社Chibi-Techによる「DRIVER'S MEGAMIX VOL.1 」の、計4曲を追加収録しています。「DRIVER'S MEGAMIX VOL.1 」は…ぜひあなたの耳でお確かめください!名前にたがわぬ、とても気持ちの良い一曲となっています。
今回のアウトランは、全9曲(!)から好きな楽曲を選んで走ることができます。慣れ親しんだ楽曲はもちろん、新たな楽曲たちもラジオ(やカセットテープ)から流し、新鮮な気持ちでドライブを楽しんで頂けたら嬉しいです!
【エムツーサウンドスタッフ「Chibi-Tech(Jaelyn Nisperos)」さんにコメントを頂きました】
Hi! This is Jaelyn, a.k.a. chibi-tech.
(こんにちは、Chibi-Techです!)
I previously contributed the BGM track “Camino a mi Amor" for “3D Outrun"
for Nintendo 3DS. For SEGA AGES outrun for switch, I was asked to contribute another in-game BGM track - but this time I was given the freedom to compose the track without sound source limitations.
(私は以前に3DS「3D アウトラン」での追加BGM「Camino a mi Amor」を作りました。そして今回も、「SEGA AGES アウトラン」に新たなBGMを作ってみてもらえないかと求められたのですが、今回は、音源の制限なしにトラックを構成する自由を与えてもらったんです。)
Although i felt a bit uneasy to contribute a completely original song without limitations (as I felt it would seem like an unfitting outlier compared to the rest of the entire soundtrack), I felt that I could give this no-technical-limits rule an exception by making an arrange medley of the original three arcade BGM songs. Nevertheless I still wanted to make the medley relatively “era-correct", so I decided to make the medley as an 80s-style synthwave remix - which I hope you not only enjoy, but also feel like it's appropriate for the time period! As a nod to keep the song proudly “SEGA" themed, I chose the title “Driver's Megamix", haha.
(音源の制限なし、技術的な制限もなしということで、私はオリジナルの3つのアーケードBGM曲のメドレーにして、そしてそれをあえて「時代遅れ」にしたいと考えました。そこでメドレーを80sスタイルのシンセウェーブリミックスにすることに決めました!曲名は「セガ」をテーマにした賛美歌として「ドライバーのメガミックス」というタイトルにしました 笑)
Obviously there's still no getting around the fact that it's a song that's technically different than the rest of the soundtrack (and not bound to sound source limitations), but I still wanted to exemplify this fact with the most graceful excuse possible. So I came up with the last-minute idea that the song comes from the driver's cassette tape collection rather than directly from a radio broadcast, haha. And so, that hidden tape deck on the car radio is finally put to use! I truly do apologize to all the FM purists out there, but it really is the unexpectedness of a mixtape after all, right?
(このメドレーは音源の制限に縛られていない曲なんだということを、私は優雅な表現で伝えたかったのです。そこで私は、「この曲はラジオ放送から直接ではなく、ドライバーのカセットテープコレクションから流れている」という表現を思いついたんです。というわけで、カーラジオの隠しテープデッキがついに使用されるようになりました!FM音源に準拠した曲を期待していた人がいたら謝りますけど、それもまたミックステープが起こした予想外の結果だから、しょうがないよね?)
大きな画面でも、携帯モードでも。あの頃を思い出せる最高のドライブが楽しめる
奥成氏:曲以外のところをお話しすると、3DS版に準拠していますので、5つすべてのゴールに到達すると、30fpsのアーケード版もプレイ可能になりますね。
同じく3DS版にもあったものですが、今回はアーケード版の移植ということで、筐体でプレイしている風の壁紙も収録しています。壁紙はスタンダード筐体、デラックス筐体、アップライト筐体を用意してあります。
――今回は大きな画面でプレイできるから、アーケード筐体そのものなスケールで遊べますねー。
奥成氏:3DS版より解像度も上がっているので、細かいところも見えるようになっていますね。せっかくですし実際にプレイしてみましょうか。
据置モードでテレビに映してプレイを開始
奥成氏:でかいなー。
堀井氏:でかいねー。
――でかいですよー。
小玉氏:このテレビだとアーケード版よりも大きいよ(笑)。
奥成氏:ですよね、4倍ぐらい大きいかも。「スペースハリアー」筐体のモニターも久しぶりに見たら「ちっちゃ!」って思いましたしね。
――画面の迫力もアーケード筐体以上にできますし、サウンドも良い音で聴けますし。そのあたりが今回の大きなメリットだなって思えますね。
堀井氏:ですよね。今回も画面にスキャンラインをかけたり、ブラウン感再現のヴィンテージもありますので、より自分の記憶にある雰囲気に近づけて頂ければと思います。
――そのあたりも嬉しいですね。それにしても、「アウトラン」あたりの曲を聴くと、1980年代~1990年代のゲームセンターの雰囲気を一気に思い出すものがありますね。
堀井氏:そうなんですよ、ハイテクランドセガ感が出るんですよー。
奥成氏:メーカーさんによってそれぞれの音がありますよね。タイトー風の音、アイレム風の音とか。
堀井氏:先日、「KORG Gadget for Nintendo Switch」(※)にセガの音源を搭載した追加ガジェットが発表されていましたけど、そのガジェットの名前が「OTORII」で。「アウトラン」の音は大鳥居の音ですね(笑)。
全員:(笑)。
堀井氏:ちなみに、「アウトラン」は筐体だと頭の後ろにスピーカーがありますので、可能な人はスピーカーを用意して再現されると、より雰囲気が出ると思います。
※音楽制作ソフトウェア「KORG Gadget for Nintendo Switch」。セガゲームスおよびセガ・インタラクティブの協力による追加音源ガジェット「OTORII」が、2019年初頭にリリース予定。
奥成氏:「アウトラン」も、実はこっそり小玉さんが背景のどこかを描いていたりはしませんか?デザイナーさんは、たまに「あ、実はこのゲームのここだけ自分がやったんだよ-」みたいな話がぽろっと出てきたりするじゃないですか。
小玉氏:あー、あるよね(笑)。ちょっとしたものを他部署のデザイナーさんにお願いしていたりね。
奥成氏:以前、Hiro師匠にSYSTEM16作品を集めたサウンドトラックを差し上げたら、「表に出てないけど、実はこのゲームのこの曲だけは俺が作ったんだよねー」って新事実が後からわかったりして(笑)。サウンドやデザイナーのスタッフはいろんなプロジェクトにヘルプに入っていたりしますよね。
小玉氏:看板みたいなちょっとしたオブジェクトとか、カードのデザインを1枚だけやってたりとかね。
奥成氏:サウンドやデザインは自分の仕事が終わったらプロジェクトの最後までいる必要が無いので、あちこちのプロジェクトを渡り歩いて、いろんな仕事をされてて。
小玉氏:そうですね。あとは“いろんなタッチの絵が欲しい”というときもそうでしたね。それこそ、この「アウトラン」で行なっているかはわかりませんが、道ばたの看板みたいなものって、いろんなタッチの看板があった方がそれらしいから、1人1点描いてもらったりしてますね。
堀井氏:なるほどー!
小玉氏:RPGでドラゴンを6種類描かないといけないとき、他のデザイナーに「お願いがあるのですが、ちょっとドラゴン描いてみないかい?」って声かけてみたり(笑)。
全員:(笑)。
(そんなこんなでゴールまで完走してエンディング後にネームエントリーの画面へ)
小玉氏:私はこの曲を聴くと、「あぁ、アウトランだなぁ……」って、当時のこととかを思い出したりしちゃいますね。
奥成氏:ネームエントリーの初期状態で入っている当時のスタッフの皆さんのお名前も感慨深いところですよね。
――今回はJoy-Conを傾けてのジャイロ操作にも対応しているということですが。
奥成氏:こちらもちょっとやってみますか?ちなみこのジャイロ操作は携帯モードでNintendo Switchごと持って傾けてプレイしたり、Joy-Conだけを持って遊ぶ想定ですね。ギア設定はATのみになります。
――では、プレイさせてもらいます。(テレビ出力でJoy-Conを両手に持ったスタイルでプレイ)これは、なかなか慣れがいる感じですね。
堀井氏:携帯モードでのプレイを想定しているものなので、そのスタイルは辛いかもしれないですねー。
――これは携帯モードでプレイした方がいいですね。「マリオカート8 デラックス」とかでやっているような、ハンドルアタッチメントにJoy-Conを装着して……みたいなことかなと思っていたのですが、それとはまた違うんですね。
堀井氏:あー、そこはあまり意識していない感じになっていますね。
――なるほど……、縦持ちしている左Joy-Conを傾けてのステアリング操作だから、ハンドル的なものに輪ゴムとかで左右Joy-Conをくくりつけちゃえばいいのかも。
堀井氏:L/Rボタンでジャイロのセンタリングをリセットする機能もあるので、それを使ってズレを調整しつつ、みたいな感じですね。ギアもATのみになるので、あくまで雰囲気を味わう対応になっています。
――わかりました。これで「SEGA AGES アウトラン」について一通りお聞きしたかと思うのですが、どうでしょうか?
奥成氏:GAME Watchさんの読者の方でもどこまでついて来ていただけるか、かなり細かいところなのですが、アーケード版には「ギアガチャ」というギアを素早く変え続けることで路肩を走ってもスピードが落ちないという裏技がありますよね。上手い人はギアガチャし続けて路肩を走り続けるため、ほとんど道路を走らないという。
あれには当然「ギアガチャでの最短ルート」というのがあって、特定の抜けられる道があるんですよね。でもあの完璧と言われたセガサターン版では1箇所だけ、アーケード版でのギアガチャルートでは通れない道があったんですよ。そこが今回の「SEGA AGES アウトラン」では走れます(笑)。
堀井氏:ギアガチャありでアーケード版をよっぽどやりこんでいた人でないとわからないところだとは思うんですけどね。普通に遊んでいたら全然気がつかないポイントです。
奥成氏:なので、そこは「俺のやりこんだ『アウトラン』のルートはこれなんだ!」というこだわりがある一部のアウトランナーな方に喜んでもらえるポイントかなと思います。
出したくても出せなかったタイトルにも、いずれ、もう一歩踏み込みんでいきたい!
――奧成さんは先月の「SEGA AGES ファンタシースター」のインタビューはお休みでしたので、お話を伺うのは実は7月以来です。奧成さんとしては今のところの「SEGA AGES」の展開はいかがでしょうか?
奥成氏:率直に言って、ファンの皆様にとっては、タイトルが発表されても、なかなかタイトルが揃わなくて待ちくたびれていますよね。だから今後は「コンスタントに次々とタイトルを出して行く!」なんですよね、堀井さん?
堀井氏:(弱りながらも)……やるぞー!
奥成氏:とりあえず今回の「SEGA AGES アウトラン」でようやく4タイトル目が配信ということで、「15タイトル以上を予定」と発表した中の、まだ3分の1にも満たないぐらいです。
ようやくここまできて、次はいよいよ“今回の「SEGA AGES」で初めて”というアーケードタイトルになります。そういう意味では、次を出して初めて本格的なスタートなのかなと思えるところがありますね。
堀井氏:これまでも「SEGA AGES サンダーフォースIV」は初めて手がけたタイトルだったわけですけど、それもアーキテクチャとしてはメガドライブ作品ですし、他の3本は他ハード向けで手がけたことがあるタイトルでした。それらを作りつつ並行して「SEGA AGES」の土台作りをしてきたわけです。というわけで、次で完全に初めてのタイトルを出してからが、奧成さんの言うように本格的な始まりになるという感じがありますね。
――なるほど、タイトルを出しつつ態勢作りをしてきた期間が終わってきて、いよいよ新しいチャレンジ的なフェイズに入っていくと。
奥成氏:そうですね。そういえば、先月のインタビュー読みましたよ!NAOMI基板のタイトルの配信がもう確定しているかのように海外でスクープ記事になっていて、びっくりしました。まだ予定はありません(笑)。一方で先日、小玉が来日したセガのアメリカやヨーロッパのスタッフと話し合いをしてましたね。
小玉氏:これまでSega of AmericaやSega Europeと日本のセガは、それぞれにレトロタイトルの展開をしていたところがあるのですが、その足並みを揃えてみてはということで、お話をしましたね。
――なるほど、海外向けのセガタイトルパック作品があったりと、国ごとにそれぞれ個別に展開されていたところがありましたよね。
小玉氏:そうなんです。今後のセガのレトロゲームはどうあるべきか、ユーザーの皆さんに喜んで頂くためにどうしていくべきかという話をしたんですね。うちからはエムツーさんと進めている「SEGA AGES」の展開について説明もしたので、より良い形で展開できるようにしていきたいですね。
――より本格的に過去のセガタイトルをグローバルに扱っていくということですね。
小玉氏:そうですね。そういう態勢を整えようというところです。
――楽しみです。ちなみに、奧成さん以外の皆さんには先月にお聞きしたのですが、「セガエイジス移植希望アンケート」のランキングについてはいかがでしょう。投票のあったタイトルの中で驚かれたりした名前はありましたか?
奥成氏:1番びっくりしたのは、この前に配信が終了したばかりの「ワーチェ(『ワールドチェイン』)」とか、「新甲虫王者ムシキング」とかですね。アンケートを出している皆さんそれぞれに「セガのゲームをいろいろ遊びたい」というのがあって、みんなそれぞれに「これは誰から見ても鉄板のはず!」って思って投票されているんだと思うんですよね。でも、「セガと言えばこれ」というのが世代ごとに全く変わっているんだ、というのを改めて感じました。
それらが「SEGA AGES」向きかどうかというのは別として、こういうお客様の声はさまざまなかたちで社内共有していければと思いますね。
「SEGA AGES」というプロジェクトのコンセプトは“セガのゲームを蘇らせる”というもので、今は流れを順に辿っていくという意味でも1980年代~1990年代のタイトルを進めていますが、今後はどうやってファンの方のニーズに応えていくのか、というところがありますね。
ユーザーさんから見ると、ランキングにも入っているのに「なんでこれがいつまで経っても移植されないんだろう?」と思われるタイトルもいくつかあると思うんですよね。そのあたりはコスト面であったりとか、ライセンスの問題であったりとか我々としても“やれない理由”があって。毎回復刻系のプロジェクトを立ち上げるたびに名前が上がるものの、最後まで出せないままのタイトルも、あったりします。
そういうタイトルは移植のハードルがどうしても高くて、タイトルの移植難易度が高いものはどうしても後回しになりがちです。それをなんとかクリアするためには、今まで以上の十分な開発期間が必要になるんですね。実は「セガ3D復刻プロジェクト」も同じで、第1期は、PS2版やバーチャルコンソールで開発実績のあったものを移植して、お客様の感触を見てから、満を持して第2期で初移植タイトルにチャレンジしていったという過去があります。
そういった部分を「SEGA AGES」でも、目標通りに長期的なプロジェクト化できたときに、もう一歩踏み込みたいなっていう気持ちがありますね。
――1年規模のものをやるとするなら、先を見越してもう考え始めないといけないというところもありますよね。下村さんからも「SEGA AGES」の今の第1シーズンと、その先の第2シーズン以降というお話を先月に伺いました。
奥成氏:もし「SEGA AGES」での第2期が実現するなら、過去の移植実績のない、いろいろなタイトルへ踏み込んでいきたいなという気持ちがありますね。
――時代と共に、ユーザーさんの求める作品の年代が上がってきているのもありつつ。少しずつこれまでやっていなかったところにも踏み込んでいきたいと。
奥成氏:技術的なハードの成長にともなって、やれるタイトルの幅が広がってきています。あとはそれに取り組むための態勢を整えたりといった問題をクリアしていくことが必要ですね。
……今はエムツーさんが「SEGA AGES ゲイングランド」や「SEGA AGES バーチャレーシング」をなんとかがんばっているところですので。決まってもいない将来のものよりも、まずは目の前の告知済みのタイトルをなんとかがんばらないとですね(笑)。
堀井氏:ですね。でも、ようやく土台と言える各機能が整ってきて、僕が無謀な希望というか願望を言っても、「まぁ、やれるだけの状態は整っているよね」と思えるようになってきたところです。「SEGA AGES バーチャレーシング」はそれこそ当初は、妄想も何も言えないぐらいの状況から進んできましたので。
今やっているものよりも新しいハードのものに挑むとなると、ひとつひとつのゲームの規模が大きくなっちゃうので大変なんですけど……やれるようにはなってきています。やりたいですね。
奥成氏:がんばりましょう(笑)。
――わかりました。それは最後に一言ずつ頂けますでしょうか。
堀井氏:3DSでもいろいろなことを詰め込んでいた「アウトラン」に対して、今回はどんなことをできるだろうというところもあったのですが、「曲」を追加するということで、3DSの時にできなかった曲を入れたり、Hiro師匠からの曲も頂けたり、弊社のChibi-Techもいい感じの暴走をしてくれたりで(笑)。良かったと思います。
奥成氏:タイトルを出しながら、皆さんからのいろんな要望を叶えられるように進めていくというのがセガ復刻プロジェクトだと思いますので、長い目でプロジェクトの成長を見守って頂ければなと思います。今回の「アウトラン」は音楽を、蛇足にならないように追加していくということを当初は怖々とやっていたのですが、結果としてはとても良い追加曲ばかりになって、やって良かったなぁと感じますね。
実は、「STEP ON BEAT」のアレンジができたのは東京ゲームショウ2018の開催直前だったのですけど「これはすぐにユーザーの皆さんに聴かせよう!」と思って、ステージで流すことにしたんですよ。あの時の反応の嬉しさみたいなものを、まだ公開していない他の曲でも味わってもらえると思いますので、ぜひ聴いてみてもらいたいですね。
とはいえ、Chibi-Techさんの「DRIVER'S MEGAMIX VOL.1」はこのインタビューが初出なので、このインタビューを読むか、もう配信開始されているソフトを買ってそこで知るか、どちらかわからないですけど(笑)。多くの人は翌日の出勤する際の移動時にこのインタビューを読んでわくわくして頂いて、帰ってきてからソフトを買って頂くのかな。どういうタイミングかそれぞれだと思いますけど、楽しんで頂ければと思います。
小玉氏:インタビューの中でもお話ししたのですが、アーケード版が作られていたあの頃のことを、絵や音楽から思い出しますね。今回は片岡CEOやHiro師匠にもお世話になって、メールですけど久々にご連絡してお返事を頂いて。懐かしい人と懐かしい話をしながらゲームをお届けできたので、本当に嬉しかったです。あの時代のものをもう1度蘇らせて、何かをプラスして、それを皆さんに遊んで頂けるのが、ただただ嬉しいです。ぜひ遊んでみてください!
――ありがとうございました!
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