インタビュー

「SEGA AGES ゲイングランド」インタビュー

30周年滑り込み!全世界の「ゲイングランド」研究者へ贈る、初の完全移植プラス!

左から順に、シニアプロデューサーの下村一誠氏、リードプロデューサー及びディレクターの小玉理恵子氏、セガゲームス所属サウンドクリエイターの瀬津丸勝氏、エムツーの堀井直樹氏、スーパーバイザーの奥成洋輔氏
12月27日 配信

価格:925円(税別)

CEROレーティング:A(全年齢対象)

プレイ人数:1~2人(ゲームバージョン海外:1~3人)

 セガの名作を“こだわり満載”で復刻する「SEGA AGES」。2018年の最後、12月27日に5タイトル目となる「SEGA AGES ゲイングランド」が配信開始されたので、恒例のインタビューをお届けしよう。

 今回のインタビューにご参加頂いたのは、セガゲームスより、シニアプロデューサーの下村一誠氏、リードプロデューサー及びディレクターの小玉理恵子氏、スーパーバイザーの奥成洋輔氏、開発を手がけるエムツーより堀井直樹氏。

 それに加えて今回は、セガゲームスサウンドセクションに所属されているサウンドクリエイターの瀬津丸勝氏にもご参加頂いている。

 瀬津丸氏は「ソニック」シリーズや「龍が如く」シリーズなどの効果音や楽曲を手がけてきたセガのサウンドクリエイターだが、実はセガに入社される前から「ゲイングランド」が好きでやりこんでおり、今回のプロジェクトにもテストプレイ等で協力されているということで、今回のインタビューにもご参加頂いたというわけだ。

 2018年の最後、30周年ギリギリのタイミングに満を持して登場となる「SEGA AGES ゲイングランド」。今回もたっぷり開発話をお聞きしたので、じっくりと楽しんで頂ければ幸いだ。

アーケード基板「SYSTEM24」に初めて挑んだ、「SEGA AGES」最初の山場となる「ゲイングランド」

【ゲイングランド】

 1988年にセガよりアーケードゲームとしてリリースされたタクティカルアクションシューティング。未来世界のレジャー施設「ゲイングランド」に閉じ込められた人々を救い、暴走したコンピュータを停止させるため、20人の仲間が力を合わせて戦っていく。

 原始時代・中世・近世中国・未来という時代が異なる4つの世界にそれぞれ10ステージがある全40ステージ構成となっており、待ち受けるロボット兵を倒しながら囚われの仲間を助け出していく。助けた仲間は次の面から新たなプレーヤーキャラクターとして活躍できるところが本作のポイントで、20人のキャラクターは全員、武器・走力・射程距離など特徴が異なる。

 ステージをクリアするには、敵を全滅させるか、画面内の「EXIT」からキャラクターを脱出させるかの二択になるが、「EXIT」から脱出する場合は仲間を1人ずつ「EXIT」へ向かわせなくてはならず、制限時間がなくなった時点で脱出させられなかったキャラクターはいなくなってしまう。“戦術や選択”が重要視され、パズル的要素と高い戦略性による独特な魅力が多くのファンを獲得した。

 高解像度ディスプレイ専用業務用マザーボード「SYSTEM24」の第3弾タイトルでもある。それまでセガのアーケードゲームの主流となっていた業務用基板「SYSTEM16」の解像度が320×224ドットだったのに対して、SYSTEM24は496×384ドットとなっており、「ゲイングランド」もまた、その高い解像度を活かした緻密なグラフィックスが魅力のひとつとなっていた。

奧成氏と堀井氏の間でもこれまでに何度も移植したいタイトルとして名前が挙がってきたという「ゲイングランド」。今回ついに念願が叶うことに
2016年に結果が発表された「セガ3D復刻アーカイブス2」での移植希望アンケートの結果。いわゆる車ゲームが上位にある中、4位に「ゲイングランド」が入っている
下村氏、小玉氏としても、熱いファンがいるタイトルだということを理解して進めてきた

――2018年も年末となりましたが、ついに「SEGA AGES ゲイングランド」が登場となりましたね。

奥成氏:「SEGA AGES ゲイングランド」は最初に発表したラインナップのひとつで、アーケードタイトルから初移植しているという意味では、今回の「SEGA AGES」で初めてになるというタイトルですね。

堀井氏:「ゲイングランド」は基板のアーキテクチャから初移植になっているというのが大きいですね。

奥成氏:2016年の東京ゲームショウで「セガ3D復刻アーカイブス2」での移植希望アンケート結果を発表しているのですが、そこでは「ゲイングランド」が4位でした。いわゆる“車もの”を除けば1位という順位だったんですよ。

 もっと昔に遡ってみても、「ゲイングランド」を移植して欲しいという声は常に高かったんです。プレイステーション 2の時にも「セガエイジス 2500シリーズ Vol.9 ゲイングランド」を発売していますね。

下村氏:PS2のときは、希望の声が高かったのもありつつ、開発スタッフのクリエイター陣からもやりたいっていう声が挙がったというタイトルだったんですよ。

奥成氏:そんな人気の高さもあって「ゲイングランド」を僕たちのプロジェクトでも移植したいという気持ちは常にあったのですが、これまでは“高解像度がネック”でした。例えば、PS2解像度は640×448なのに対して、「ゲイングランド」の解像度は496×384なので、「ゲイングランド」の縦画面をそのままに表現するのにはPS2でも足りないんですよね。

 これが「セガ3D復刻」シリーズの時の3DSとなると、3DSの解像度は400×240ですから、縦持ちにしたとしても画面は潰れちゃう。というわけで、私たちがアーケードを完全移植するにはここまで時期を待たないといけなかったんです。待望の……と言ったら、長くお待たせしすぎたかと思うのですが(笑)。

――完全移植をするタイミングやハードがこれまでは合わなかったということなんですね。

奥成氏:そうなんです。もっと過去には「ゲイングランド」がいくつかのハードに移植されてはいるのですが、テレビ画面のアスペクト比にアーケードの縦画面を持っていくのには基本的に解像度が足りないので、どの機種版でもアレンジをしていますね。

 過去の移植で言うと、まずはメガドライブに移植されているのですが、「メガドライブ」の解像度である320×224に、アーケード版そのままな大きさのキャラクターを当てはめるという作りをしているんですよね。この取材の前に久しぶりに自分でメガドライブ版をプレイしてみたのですが、画面が狭くてすごくびっくりしました。

 キャラクターサイズがそのままなのでプレイしている感じはすごく良く再現されているのですが、画面の大きさは1/4ぐらいになっているので狭いです。ただ、ゲームの内容自体は詰め将棋みたいな戦略的なところがあるので、小さいながらも「ゲイングランド」らしさがしっかり楽しめるという、いい移植だったなと思います。

 その後には、海外ではマスターシステム用としてかなりアレンジされたバージョンが発売されているのですが、それも変わった形のアレンジになっているので面白いですね。

 また、PCエンジンにも移植されていますが、そこではファミコンの「ロードランナ-」と同じように画面が上下スクロールする方式にアレンジされています。それによってアーケードそのままなステージの広さを再現しているのですが、ステージ全体を見渡して考えるようなパズル要素的な側面はどうしてもやりづらくなってしまっていますね。

 その後は、しばらく期間が空いて、2004年に先ほども話したPS2の「セガエイジス2500」版が登場しています。あれは瀬津丸さんも監修されていたんですよね?

瀬津丸氏:そうですね、やりました。

奥成氏:「セガエイジス2500」版はハードがPS2ということもあって、ただの移植ではなくリメイクをしようということからグラフィックスが2Dからポリゴンの3Dになっているんですよね。その見た目には賛否があったのですが、プレイした感触は評価頂いている感じですね。

――「セガエイジス2500」版の「ゲイングランド」の時は、まだ奧成さんがセガエイジスチームに加わる前ですよね?

奥成氏:そうですね。その少し後ぐらいに入るので、ボクはその頃だと「サクラ大戦」や「ドラゴンフォース」をやっていましたね(笑)。

――となると、奧成さんとエムツーさんとでセガタイトル移植に挑むようになっていった以降に「ゲイングランド」が移植されるのは今回が初めてということになるんですよね。

奥成氏:そうですね。

堀井氏:「『ゲイングランド』をいつかやりたい!」っていうのは、いつでも話に出ていましたね。

奥成氏:一応、Wiiのバーチャルコンソールにメガドライブ版を移植したことはあったんですけどね。「ゲイングランド」はエムツーさんとの間でも本当にしょっちゅう名前が出ていたので、今回ようやく完全移植できたという気持ちですよ。

堀井氏:熱心なファンの人が本当に多いタイトルですし、機会がやってきて良かったですよ、本当に。

――では、今回の「SEGA AGES」のラインナップに「ゲイングランド」が入った理由は、アンケート結果やそれまでの人気の高さ、思い入れからしても必然だったという感じでしょうか。

下村氏:僕がタイトルラインナップ案を見た時には、すでに「ゲイングランド」は入ってましたね。小玉さんとエムツーの松岡さんとで最初に話した段階で名前が出ていたんだと思います。

小玉氏:そうですね。もともと3DSの時の移植希望アンケートで上位に入ったタイトルですし、エムツーさんからも「『ゲイングランド』をやりたい」というのが最初からありましたから。

堀井氏:僕らとしても、本当にやりたかったですからねー!

下村氏:僕はもう、ラインナップ案に入っているのを見て「よしよし!」と思って(笑)。

奥成氏:僕もそうですね(笑)。ついにエムツーさんがSYSTEM24(※)に手を出すんだなーと思って。

※「ゲイングランド」は、高解像度ディスプレイ専用業務用マザーボード「SYSTEM24」用のタイトル。SYSTEM24基板のタイトルはエムツーでもこれまでは手がけていなかった。

業務用マザーボード「SYSTEM24」を紹介している当時のパンフレットより。高解像度を全面にアピールしつつ、ゲームROMをフロッピーディスクで提供する方式や、フレームバッファ方式などの特徴が紹介されている

――SYSTEM24のエミュレーションに初挑戦しているというのも大きなポイントですよね。

堀井氏:そうなんです。実はSYSTEM24のBG面って、MODEL1のBG面と同じアーキテクチャのものなんですよ。そういう意味では「バーチャレーシング」への通り道にSYSTEM24の一部が入っているんです。なので、どうせ一部をやるのならSYSTEM24そのものも押さえていきたいという気持ちがありましたね。

――一石二鳥というか、セガのアーケード基板を攻略していくという流れ的にも。

堀井氏:流れをちゃんと辿っていくのは大事ですし、MODEL1を作っていくための布石にもなっています。

――なるほど。SYSTEM24のタイトルを初めて作るというところからも、今回の「SEGA AGES」ラインナップの中でも「ゲイングランド」は最初の大きな山場になっているのかなと思えます。

奥成氏:今回の「SEGA AGES」のラインナップを組むにあたって、まず初めてのNintendo Switchで展開するということがありましたので、僕らがこれまでに移植を経験済みなタイトルをNintendo Switchで動かすところから入っていったんですよね。それが「ファンタシースター」であったり、「アウトラン」であったり。

 そうして熟練度を上げつつ、新しいことに挑戦していく。そのひとつがこの「SEGA AGES ゲイングランド」であり、その次が「SEGA AGES バーチャレーシング」ということになりますよね。

堀井氏:アーキテクチャが新しくなるものを連続して次々にやるというのはさすがに難しいので、そういうタイトルはスケジュールのところどころに点在させて予定して、他よりも時間を多く取ってやっていこうというのがありますね。でも実際は、「ゲイングランド」も想定していたよりさらに時間がかかっているんですよ。

――今年何度かあったイベントステージなどでも、「ゲイングランド」は苦戦しているけどがんばって進めていますというお話を何度かされていましたよね。

奥成氏:してましたねー(笑)。

堀井氏:新要素を入れるとなると、今までに手がけてきたメガドライブのタイトルなどでも、それなりにやるべきことが出てきて苦労するわけですが、新しいアーキテクチャのものだと、それがさらに大変になってしまうんですよね。

SYSTEM24のポイントはやはり解像度の高さ。画面の各所の精細さやフォントも、それまでのセガアーケード作品とは異なったものになっている

――SYSTEM24の特徴といいますか、エミュレーションを作る上で大変なのはどんなところになるのでしょう?

奥成氏:そこはやっぱり解像度ですよね。

堀井氏:目に見える範囲では解像度がひたすらに特徴がありますね。SYSTEM16やメガドライブのゲームよりも遥かに画面が緻密で、画面上のフォントを見てもそれ以前のセガ作品のものとは違っています。

 内部的にも、SYSTEM24はSYSTEM16と比べても遥かに新しい基板になっていて、CPUには68000を2個搭載しています。そのぶん演算資源が多くて、いろんなことができるようになっていますね。

奥成氏:ハードのアーキテクチャとしてはSYSTEM16の延長線上と思えるものなんですか?Xボードとかともだいぶ違っている?

堀井氏:うーん、SYSTEM16ともまた全然違っているハードになっていますね。

奥成氏:ハイレゾの解像度を活かすっていう意味で生まれた新規ハードという感じですかね?

堀井氏:そう思って良いと思います。SYSTEM18だとSYSTEM16の延長という印象なんですけど、SYSTEM24はもう丸っきり新規のハードですね。

――セガハードの流れ的にも、世代がひとつ変わっている感じがあるんですね。

堀井氏:ですねー。

奥成氏:1980年後半の頃はゲームハードの方向をいろいろと考えている時代だったと思うので、体感物ではないシンプルなビデオゲームであっても、いろんなチャレンジをしていた頃なんですよね。SYSTEM基板と言いつつも、16と18と24とあって、そこにCボードがあったりSYSTEM Eがあったりと混在していたり。

堀井氏:その中でもSYSTEM24は、パソコンの高解像度を意識したのかなと思えるところが個人的にはありますね。ラインバッファ方式ではなくフレームバッファ方式になっているのも特徴です。

※スプライト表示の方式で、ラインバッファ方式は走査線1本分のみのデータを描画するが、フレームバッファ方式では画面の1フレーム分をまるごとバッファリングして、より緻密な表示が可能になる。ただし、フレームバッファ方式はデータを一旦バッファに貯めてから表示するために、表示遅延が起こる可能性があるといったデメリットもある。

奥成氏:エムツーさんには「セガのハードをひとつずつ攻略してもらおう」という、これまで10数年取り組んでもらっているミッションがありますので、そういう意味では今回の「SEGA AGES」だと、SYSTEM24とMODEL1を攻略するという目標があるわけですね。

――なるほど。それにしてもMODEL1の「バーチャレーシング」のためにも、SYSTEM24はやっておくべきという見方があるというのは、これまで知らなかった新鮮なお話です。

堀井氏:ですよね。ただ、わかる人にはわかってしまうのでお話すると、PS2のセガエイジスの時にやったMODEL2タイトルでも、MODEL2の背景はMODEL1同様にSYSTEM24のBGを使ってはいるんです。でも、PS2の時は完全なエミュレーションではなくて、直接ネイティブで動かしている部分がありました。今回は丸ごとエミュレーションできているのがポイントですね。

奥成氏:MODEL2タイトルはPS2でもエミュレーションするにはスペックが足りなかったんです。なので、一部をPS2ネイティブにコンバートさせたもので動かしていました。

――今回はついに丸ごと完全動作というわけですね。SYSTEM24のエミュレーション込みで、やはり今回の「SEGAA GES ゲイングランド」はかなり期間がかかっているのでしょうか?

堀井氏:かかってます。CPUの68000やFM音源のYM2151といった、SYSTEM24を構成するデバイスのひとつひとつについては既に手がけたものがあるのですが、今回はVDPの表示周りを新たに作っています。それと、それらを組み合わせてSYSTEM24として動かすというところには、いろいろと手をかける必要があるんですよね。これらを0からやったら年単位での時間が必要になるかと思いますね。

――SYSTEM24のエミュレーションを構築して、そこに「ゲイングランド」というゲームを乗せてという流れなわけで、これまでのタイトルと比べてもその工程は何倍にもなりますよね。

堀井氏:ざっくりとですが、2~3倍はかかっていますねー。

奥成氏:でも……、こんなに苦労して作っているのに、SYSTEM24のヒット作品ってあまりないっていうのが悲しいんですよね(笑)。

堀井氏:いや、でも! うちの社内には「クラックダウン」がどうしても欲しい派とかもいるからっ! いずれはなんとか!

奥成氏:今回は「ゲイングランド」ありきでSYSTEM24を作るということになっているので、SYSTEM24の他のタイトルを今後にどうするかという話にはなっていないんですよね。「SEGA AGES」シリーズが続いたらいつかは……というところですかね。

堀井氏:「ボナンザブラザーズ」とか「スクランブルスピリッツ」とかもあるから!

奥成氏:いくつか知名度のあるタイトルもあるので、チャンスを頂ければやりたいですよね。

セガサウンドクリエイター瀬津丸氏が語る“プレイするうちに次第にハマっていく”魅力

セガゲームスサウンドセクションに所属されているサウンドクリエイターの瀬津丸勝氏。「ソニック」シリーズや「龍が如く」シリーズなど、セガ作品の様々なサウンドを手がけてきたクリエイターだが、実は無類の「ゲイングランド」好きということで、今回の「SEGA AGES ゲイングランド」のテストプレイも行なっている

――では、いよいよ「ゲイングランド」そのものについてお聞きしていきますが、今回は結構コアなタイトルだというところもありますので、まずはどんなゲームなのかというところから入って頂けるとありがたいです。

奥成氏:ですね。そう思って、今回はこのビルで働くセガサミー全グループ内6,500人の中で最も「ゲイングランド」に長けている瀬津丸さんに来て頂きました!

堀井氏:6,500人の頂点!

下村氏:グレートゲイナー!

瀬津丸氏:いやいや! あくまで社内の話であって、世間には私より上手い人がたくさんいるんですから(笑)。

堀井氏:コアなファンの人はすごいですからねー。

奥成氏:まぁそれはさておき、瀬津丸さんは当時は「ゲイングランド」のスコアラーだったんですか?

瀬津丸氏:いや、身近にハイスコアラーがいたという環境だったんですけど、自分は全然たいした事なくて。でも、全国トップスコアを出している人のプレイを間近で見れていたので、どこで何をやればスコアを稼げるかは丸わかりだったんですよね。それで自分ものめり込んでいった感じでした。

――なるほど。瀬津丸さんからすると「ゲイングランド」はどういうゲームでしょうか?

瀬津丸氏:そうですね、まぁとにかく、ちまちま動くキャラクターを操って、ずんずん先へ進んで行くという、面クリア型の、今からすると地味なゲームではあると思います。当時のアーケードゲームはインカムを重視するために初めに勢いのいい場面を持ってくるべきだとか、そういう戦略があったと思うのですが、そういうものからもかけ離れていて。時代の逆を行くようなタイトルだったと思います。

――画面をパッと見たときの印象として、玄人好みに感じるものはありますね。

瀬津丸氏:ですよね。画面の印象は地味だし、上手い人の1回あたりのプレイ時間は長いし。「なんでこんなものをアーケード用で出したんだろう?」って当時からずっと思っていますよ。

奥成氏:……めっちゃ開発者のマック・オースチンさんをディスってますよね(笑)。

瀬津丸氏:ここまでの話はマック・オースチンさん(※)や大岡さん(※)をだいぶディスった感じになっちゃってますね(笑)。

 でもね、これが実際にプレイしていくと、長く遊べるのは遊ぶ側としてはまぁ嬉しいですし、プレイしていくうちに理解が高まってきて、噛めば噛むほど味が出るタイプのゲームだったのもあって、遊ぶうちにそれがわかってくるんです。そうして、気がついたらハマっているっていうゲームなんですよ。

 例えば、ステージ1-5とか1-6あたりになると敵の配置の密度が高くなってワラワラと出てきて、最初はあわあわしているうちにやられちゃったりもするんですけど、「あれ、この敵の弓ってこっちにいたら当たらないよね?」っていうのが、やっているうちにわかってくるんです。敵の弾はそんなに速くないので、わかってしまえば厳しくないですし。がっちり取り組まなくてもなんとなく先に進める良さもあって、面白さがわかってくるんですよね。

※マック・オースチンは、「ゲイングランド」の最終コーディネイトを行った責任者(の偽名)。

※「ゲイングランド」のプログラマーである大岡良樹氏。「セガ名作アルバム VOL.08 ゲイングランド」には大岡氏へのインタビューもあり、開発秘話が満載となっている。

――シューティングゲームのパターン作りをじっくり取り組んでいくというか、パズルゲームの解き方をアクション的にやっているというか。

瀬津丸氏:ですね。パズル要素ありの、慌てなくてもいいアクションシューティングという感じで。すごくゆったりと良さを楽しめるゲームなんですよ。

――わりと家庭用ゲーム的なリズム感を持ったゲームにも思えますね。

瀬津丸氏:じっくり取り組めるところがアーケードライクな感じとはひと味違っていて、独特ですよね。

奥成氏:1980年代のPCゲームには固定画面のパズルものがたくさんあって、「ゲイングランド」にはそういう部分もあったんだと思いますね。パズル的な要素+アクションに近いシューティングというか。まぁ、この頃ってアクションと、シューティングと、さらにアクションシューティングってジャンルは、あまり明確に別れていなかったというか。作って完成したものを見てみたら、そういうジャンルだったみたいな収まり方だと思うのですが。

 「ゲイングランド」は、高解像度の画面をどう活かすかという中で考えられたのかなとも思います。これが例えば、画面がスクロールする方式になっていて広いマップがあるゲームだと、ゲームの魅力も違ったものになってしまっただろうなと思うんですよね。

堀井氏:それはPCエンジン版をディスってますね?

全員:(笑)。

奥成氏:それを言ってしまうと、ファミコン版の「ロードランナー」もそうなっちゃうんだけど(笑)。まぁ、家庭用のゲームとしてはスクロール方式でマップを広く表現するのも良かったとは思うものの、アーケードゲームではそういうものはあまりなかったですし、当時は馴染まなかったんじゃないかなと思いますよ。

瀬津丸氏:ちなみに先ほど堀井さんから、SYSTEM24のアーキテクチャについて話していた中に、ラインバッファではなくフレームバッファになっているという話がありましたが、フレームバッファになるとどうしてもゲーム全体に遅延が出てくるんですよね。よくよく考えるとSYSTEM24でリリースされたゲームってシビアなアクションを求めるようなものはなかったんですよ。

堀井氏:あぁー! 確かに!

瀬津丸氏:SYSTEM24第1弾タイトルの「ホットロッド」にしても、大きな画面に小さな車がゆるく走っていましたし、「ゲイングランド」も「クラックダウン」も細かなキャラクターが動いていて、ハイスピードで動いているものはないんですよね。

 その後のタイトルもクイズ系のタイトルだったりして、SYSTEM24にはシビアなアクションものがないんです。そういった部分の棲み分けというのは、ハードウェアの特性を考えた上でついていたのかもしれないなと思いますね。

堀井氏:いやぁ、それは興味深いですね。当時作っていた皆様が実際にそこを意識されていたかはわからないですけど、そういうタイトルが自然と集まっていったのかもしれないです。

――ハードウェアの特性としても、同時プレイができるゲームの特性としても、画面をスクロールさせるのではなく解像度を活かして固定画面で見せるというものになったと。

瀬津丸氏:そうですね。そしてアクション性よりも戦略性を重視したものになっていったというのも、ハードの特性にマッチしていたのかなという気がします。

――なるほど。それらが重なって結果的に、アーケードゲームだけでなく家庭用ゲーム機向きにも思えるようなゲーム性になっていったのかもと思えるものがありますね。

瀬津丸氏:実は、メガドライブ版が発売されたときに私はセガの社内販売でそれを買ったんですよ(笑)。それを昼休みにちまちまプレイしたりしたのですが、アーケード版を既にやりこんでいた私でも「これはこれですごく良く出来ているなぁ」って感じられるものになっていて。家庭用ゲームにアレンジして持ってきても楽しめるゲーム性をしていたんだなと思います。

奥成氏:瀬津丸さんはアーケードでハマってメガドライブ版も触ったという人ですけど、最初に遊んだ「ゲイングランド」はメガドライブ版だったという人はすごく多いでしょうね。

 あとは、ゲームセンターで見かけたけど、触らないままに入れ替わっちゃっていたという人は多そう。

――良さを知るまでの敷居は結構高いのかもしれないと思えます。先ほどの瀬津丸さんのお話にあったように、やっていくうちに良さがわかってくるスルメタイプですよね。

奥成氏:ゲームとしては、操作キャラクターをゴールまで運ぶか、敵を全部倒すかというシンプルなルールですね。当時のゲームって大体は3機設定で1UPしたりしますけど、このゲームはプレーヤーキャラクターが20人いるので、最大で20機にもなるんですよね。キャラクターそれぞれに攻撃方法が違って演出も違って、非常に贅沢なゲームになっていますね。

 助けたキャラクターがどういう攻撃をするのかも、自分で使って学んでいくという感じで。やればやるほど面白さがわかってくるっていう作りですね。

アーケードに「ゲイングランド」がリリースされた1988年頃は、「ファンタシースター」が前年に発売され、小玉氏の手がけた「獸王記」も登場。メガドライブも発売されるなど、セガとしても次のステップに踏み込んでいる年だった

――小玉さんは「ゲイングランド」について、当時に何か思い出があったりしますか?

小玉氏:残念ながら、「ゲイングランド」はノータッチなので覚えていることもあまりないんですよね。ただ、中心で作っていた先ほど名前が出たお2人のことはよく知っていますけども(笑)。

奥成氏:1988年あたりで「ゲイングランド」が開発中だった頃だと、小玉さんは「ファンタシースター」が終わった頃ですよね?

堀井氏:翌年の1989年には「ファンタシースターII 還らざる時の終わりに」が出るっていう時期かも。

奥成氏:あー、でも小玉さんのメガドライブの初作品は「獸王記」ですよね?

小玉氏:メガドライブはそうだね、「獸王記」が最初。

奥成氏:なので、アーケード的にも「獸王記」が出て、SYSTEM16がちょっとパワーアップしてきた頃ですかね。

小玉氏:「ゲイングランド」は、「獸王記」よりも後? 先かな?

奥成氏:アーケードの「獸王記」が1988年の前半に稼動していて、メガドライブの「獸王記」は11月に発売されましたけど、アーケードの「ゲイングランド」の完成は12月ですね。なので、「ゲイングランド」の開発が始まった頃は1987年末あたりからだと思いますね。

小玉氏:その頃はもう、アーケードとコンシューマーとで開発のフロアも完全に別々になっていましたね。その前のフロアが分かれていない頃には、マック・オースチンさんや大岡さんのことをよく知っていたという感じですね。

――なるほど。どういう発想から「ゲイングランド」のようなゲームが出来上がっていったのかは気になることろではあるのですが。

奥成氏:それについては弊社の「名作アルバム」というサイトに「ゲイングランド」の回があって、そこにプログラマーの大岡さんのインタビューなどもありますので、そちらを見て頂くのがいいかもしれませんね。

※「セガ名作アルバム VOL.08 ゲイングランド」はこちら

瀬津丸氏:「セガエイジス2500」版が発売された頃のインタビューには、「ゲイングランド」を作った人達は麻雀が好きで、全員が点数計算ができる人だった……なんていうのもありましたねー(笑)。

堀井氏:なんかわかる、それっ!

瀬津丸氏:わかる感じありますよね。とにかく戦略などを緻密に考える人達が集まって作っていたんだなという。

堀井氏:手札を選びつつ、ゴールまでの組み立てを楽しむ感じがっ!

瀬津丸氏:そうです、そうなんです!

堀井氏:麻雀でも1,000点抜いてトップ取れればいいやみたいな上がり方もあるじゃないですか。「ゲイングランド」もそれに近しい遊び方を強いられることがありますよね(笑)

瀬津丸氏:そうして考えると、そういえば私も麻雀の点数計算ができますし。「ゲイングランド」向きだったんだなーって思えるんですよ(笑)。

全員:(笑)。

エムツーに寄せられる“「ゲイングランド」研究者”からの、静かながらも熱い声!

――「SEGA AGES ゲイングランド」そのものの開発についてですが、どのような苦労があったのでしょう?

堀井氏:SYSTEM24はなにしろ初めてなので、表示系でちょっとおかしなところがあったりすると大変なんですよね。

 例えば、メガドライブのタイトルをエミュレーションで動かしている時に不思議な挙動が出ても、「あ、これはハードウェア的にそうせざるを得なかったから、この不具合は目をつぶったんだろうな」っていうのが、もうわかるんですよね。それで、実機で確認してみても「やっぱりそうだよね」って、十中八九は当たるんです。

 でも、SYSTEM24は初めてなので不具合に直面すると、「これは……実機でも起きるのか、それとも我々がミスしているのか」というのが全くわからない。なので、常に実機で確認できるようにしておいて進めました。

 ついでに言うと、「ゲイングランド」は供給形式がフロッピーディスクなんですよね。なのでフロッピーディスクをエミュレーションするハードを調達してきて、それをSYSTEM24につけるところから入っていますね(笑)。

――そのハードのエミュレーションに対する熟練度のようなものが、例えばメガドライブあたりになるまでには、どれぐらいかかるのでしょう? 1年とか、タイトル移植2~3本もやれば……といっあたりでしょうか?

堀井氏:何本か立て続けにやれば、ノウハウはずいぶん上がると思うんですけども、ただ、メガドライブは家庭用なので、みんなも実機を家でプレイしていた経験がいっぱいあるじゃないですか。でもアーケードは、触れるのはゲームセンターに置かれていた期間か、もしくは基板を個人で所有していた間だけ、というわけで。

――経験値が。

堀井氏:そうなんです、経験値がそもそもなかったりもしちゃうんですよ。

――なるほど、特にアーケードゲームの後半のステージともなるとさらに。

堀井氏:ですね。ものすごくやりこんでいたという人がいたら、その人に聞くことでだいぶ解決される話ではあるのですが、それでも記憶は曖昧になるので、実機での確認が多く必要になりますね。

奥成氏:チェックする側にも熟練度が必要で、その熟練度を上げるのも時間がかかりますからね。なかなか他に近いゲームもないですから。

堀井氏:そうなんですよ。でも世間で「ゲイングランド」を求めている人は、僕らの10倍ぐらい熟練度があるんですよ! いつもなら「○○警察」とかって表現していますけど、「ゲイングランド」の場合は警察というより“大学の研究室から来ました”みたいな人がたくさんいるんです!

――「ゲイングランド研究者」!

堀井氏:そうそう!「素人なので明るくないのですが……」の後に、すごく濃いこだわり話が続いていくみたいな!できる限りがんばりましたけど、研究者の皆様の報告が恐ろしいですね。

――謙遜気味に「ゲイングランド」について話されるのに、出てくる話はとてつもない濃さという。

奥成氏:今回はそのために、社内にいた熟練のプレーヤーである瀬津丸さんに協力してもらったんですよね。仕事が終わったあとにコツコツ触って頂いて。

瀬津丸氏:社内の「ゲイングランド」研究者として(笑)。

――瀬津丸さんとしては、今回の移植はどんな印象でしょうか?

瀬津丸氏:結論から言うと、ほぼ違和感はないですね。

堀井氏:やっぱり“ほぼ”という感じにはなってしまいますか?

瀬津丸氏:いえ、実はそこは個人的な事情があって。今回この「ゲイングランド」のお話にあたって、最初に小玉さんから「実機のフロッピーディスクはあります?」って聞かれたんです。で、フロッピーはあるんですけど、SYSTEM24の基板の方が高田馬場のミカドに貸していて、家になかったんですよ。

 それで、ミカドの池田さんに電話で「今から行きたいんだけどSYSTEM24の基板返してくれる?」って聞いたんですけど、「今来られてもすぐに出せないです」っていう話だったので、そんなこんなで私の側では実機との比較がタイミング悪くできなかったんです。それが“ほぼ”っていう言い方に留めている理由ですね。

※高田馬場にあるゲームセンター「ミカド」。ミカドではコレクター所有の基板が預けられていて稼動しているものも多い

――エムツーさんでは当然ながら実機との比較をしていますが、瀬津丸さんのテストプレイでは実機との直接比較ができなかったので、その気持ちから“ほぼ”という言葉になるんですね。

瀬津丸氏:そうなんです。でも、こんな大事なテストプレイに記憶頼りのみというのは良くないので、我が家にあった“アーケード版「ゲイングランド」のプレイを録画したDVD”を繰り返し見ながらプレイしたんですよ。

――そのDVDは、瀬津丸さんの自作のものなんですか?

瀬津丸氏:そうです。アーケード版での自分のプレイを録画したものなんです。

――それはすごい! やっぱり研究者……。

瀬津丸氏:(笑)。当時、友人から「『ゲイングランド』のフロッピーがあるんだけど預かってくれない?」とか、「SYSTEM24をテレビに映す機器も預かって」ってお願いされたことがあって、そんなこんなで「ゲイングランド」のプレイ映像を録画する環境が整ったんです。それをDVDに入れたものを、今回は繰り返し見ながらテストプレイしたんですよ。

奥成氏:なので、下手な攻略ビデオよりも、自分のプレイだけに“見ると思い出す”っていう(笑)。

瀬津丸氏:そうそう(笑)。それを見ながら細かなところも「あぁ、こうだったよねー」と思い出しては試していって。その限りでは、今回の「SEGA AGES ゲイングランド」は違和感がないものになっています。

奥成氏:瀬津丸さんにテストしてもらって見つかったものもあって。マスターアップ前後の最終段階のもので、「ここの表示バグってるよ?」って言われて青ざめたことも(笑)。

瀬津丸氏:(笑)。

堀井氏:マスター提出後にエンディング中の表示バグを指摘されて、心臓に悪いという事件が。それで結果的に提出したものはマスターじゃなくなりました。

下村氏:あの時は小玉さんから「瀬津丸さんからバグ報告が来ているんですけど、どうしましょう!」って連絡がきて。「どうしましょうって言われても……直すしかないですよ」って、「発売日がーっ!」ってなってましたね。

奥成氏:セガタイトルのバーチャルコンソールをやっていた時にもあったんですけど、今回の「SEGA AGES」のように月に1本などコンスタントに出していくには、内部的にはどれだけ流れ作業にできるかというところが大事だったりするんですよね。でもそうすると、致命的なミスが出ることもあるんですよね。そこが難しいところです。

 あと、当たり前ですけど、「SEGA AGES ゲイングランド」での今の話の箇所はちゃんと直ってますよ、大丈夫です(笑)。直ってないならそもそも話せないですけどね(笑)。

堀井氏:このインタビューでお話できる話です! ご迷惑をおかけしました。それにしても、バグがちゃんと見つかって良かったですよ。この「SEGA AGES ゲイングランド」は、学会に発表する論文みたいなものなので、ミスが残ったままだと大変なことに……! 老練な教授の皆様がいらっしゃいますので。

――独特なテイストのゲームだけに、好きな人の思い入れが深そうですよね。

堀井氏:ですね。そういう方々のためにリリースするといっても過言ではないと思います。

海外版を収録して、海外版だけの「3人同時プレイ」も実現! 筐体写真はシカゴまで撮影に

奥成氏:それでは今回の追加要素のお話をしていきましょうか。まず追加要素の1つ目は「海外版の収録」です。海外版だけの特徴として”3人同時プレイ”ができるのですが、それも可能にしています!

海外版を収録し、海外版だけの「3人同時プレイ」も可能に!

堀井氏:海外版だと3人同時プレイができるというのは噂には聞いていたのですが、実機は見たことがなくて。この開発が始まって調べてみると、確かに専用筐体があったらしいとなって、収録することにしていったという感じですね。3人同時プレイの時には、画面下の真ん中に3人目のアイコンが並ぶんですよ。

――3人プレイができる筐体は海外のみで、日本版は2人用までだったんですよね。

堀井氏:そうなんです。もしかしたら、当時のロケテストの時とかには3人プレイもできていたかもしれないですけども。

奥成氏:今回は、セガにもデータの保管が無かったのですが、幸いあるコレクターの方から海外版「ゲイングランド」のROMをお借りして。めでたく海外版を収録することができました。

――海外版の「ゲイングランド」というのは、日本のファンの人だとほとんど目にしていないぐらいのものなのでしょうか?

奥成氏:普通は見たことがないんじゃないですかね。プレイをしたことがある人もほぼいないと思うので、ファンの人でも初めての体験になるのでは。

――海外のファンの人だと、3人プレイの「ゲイングランド」筐体が馴染み深い……と言っていいぐらいなのでしょうか。

奥成氏:それも、どうなんでしょうねー。海外の人でアーケードの「ゲイングランド」を遊んだことがある人がどれぐらいいるのかというところがあって。相当にマイナーなゲームだったのではと思いますね。

堀井氏:今となっては、海外版の筐体も現存するものがあまりにも少ないですしねー。

奥成氏:当時から出回っている数は少なかったのだと思いますよ。

小玉氏:でも、弊社のスタッフで当時アメリカに留学していた人がいて、その人は現地の人が3人で「ゲイングランド」をがんがん遊んでいるのを見たことがあるって言ってましたよ。

――日本だとじっくりパズル的に取り組むというゲームだったかもしれないですが、海外では3人プレイでワイワイ遊ぶゲームという存在だったのかもしれないですね。

小玉氏:日本だと座ってプレイするビデオ筐体でしたけど、海外では立って3人で遊べる筐体でしたしね。

海外版プレイ時の壁紙は、海外版筐体の画面横にあるキャラクター紹介イラストと、筐体の側面にあるイラストをミックスさせたもの。バルキリーの綴りが「BACKILLY」と独特だったり見た目も変わっていたりと、国内版との違いが面白い

――ちなみに壁紙も20キャラのイラストが描かれた海外のものに変わっていますが、これは?

奥成氏:これは海外のゲームセンターに置かれている筐体を写真に撮って、それを収録しているんですよ。

堀井氏:筐体の側面に貼ってあるイラストなんです。それを写真に撮ってスキャンして入れてあります。キャラクターの性別が変わっていたり、絵柄もだいぶ変わっていたりするんですよ。

奥成氏:バルキリーは男になっていてネイティブアメリカンの男性風になってますね。

下村氏:エムツーさんがこの筐体のために海外まで写真を撮りに行かれたんですよ。

堀井氏:E3へ行ったついでに、シカゴに行って現地の筐体の写真を撮ってきたんですよ。

奥成氏:でも、堀井さんたちの写真は反射などもあってゲーム内に収録するのには使えなかったので、結局は現地のゲームセンターに連絡して、指定した撮り方で写真を撮ってもらったんです(笑)。

――なんと! でも、その写真はこのインタビューで海外版の筐体がどんなものなのか知ってもらうのに良いと思うので、ぜひ掲載させてください(笑)。

堀井氏:了解です! 役に立った!

全員:(笑)

海外版「ゲイングランド」を求めて堀井氏が訪れたのは、米国シカゴの「Galloping Ghost Arcade」。4枚中2~4枚目のアップの写真が現地で堀井氏が撮影されたものだ。ただ現地は他の筐体がひしめきあっていて、筐体全体が納まるような引きの写真が取れなかったそうだ。1枚目の筐体全体の写真は「Galloping Ghost Arcade」で公開されているもの

最初から20人全員でプレイ可能&クリア済みステージはステージセレクトできる「フルメンバーモード」

奥成氏:もうひとつの追加要素が「フルメンバーモード」というものです。これは最初から全てのキャラクターがいる状態でプレイできますし、ステージもクリアしたところまではセレクトできるようになっているんです。

 ちなみにこれはメガドライブ版に元々あったモードなんですよね。メガドライブ版の難易度ハードを選ぶと最初からキャラクター全員がいるようになっていたんですよ。

堀井氏:それをアーケードの「ゲイングランド」に組み込んでいるというものですね。

「フルメンバーモード」では最初から全20人のキャラクターが使用可能! 最初からサイバーでプレイなんてこともできる
「フルメンバーモード」ではステージセレクトも搭載。1度クリアしたステージは以降のプレイでセレクトできるようになる

奥成氏:後半にならないと登場しないキャラクターを最初から使えるので、キャラクターを自由に使っての新しいステージ攻略も楽しめたりするのがポイントですね。

――あくまでもゲームとしてはアーケード版ですが、メガドライブ版の要素を持ってきていて、ステージセレクトも搭載しているというモードなんですね。

奥成氏:ですね。ただ、このフルメンバーモードは日本版のみでプレイ可能で、海外版には切替えできないんです。海外版のROMにはプロテクトがかかっていて、そのプロテクトを外すだけで移植作業の期間が終わってしまったんです。

堀井氏:プロテクトが外せなかったら、海外版の収録自体もできなかったですからね。

奥成氏:プロテクトを外して海外版を収録するとことまではギリギリ間に合ったんですけど、フルメンバーモードを海外版に組み込んだりするところまでは時間がなかったんです、すいません。

――となると、海外向けに配信される「SEGA AGES ゲイングランド」でも、フルメンバーモードは日本版でプレイするものになるのでしょうか?

奥成氏:そうなっちゃいますね。まぁ、「時間」と「敵」という文字とキャラクターが「助けて!」っていうところが日本語なだけではあるので、大体わかりますよねというところで(笑)。

――ちなみに、フルメンバーモードの同時プレイ人数は日本版なので2人までとなるのでしょうか?

奥成氏:そうなります。3人プレイはあくまで海外版の要素になっていますね。

堀井氏:そのあたりも、なんとかしたかったんですけどねー。

奥成氏:そのなんとかする時間も、「SEGA AGES バーチャレーシング」に注ぎ込まないと。また次の配信タイトルのスケジュールが……。

堀井氏:確かに……。

いつでも好きなタイミングで5秒だけ時を戻せる!「ヘルパー」機能を搭載

奥成氏:続いての追加要素は、「ヘルパー機能」ですね。これは実際にプレイを見てもらいましょうか。これはクリアできない初心者の人にも最適な機能で、この機能をオンにして例えばやられてしまった時に……

(画面が5秒ほど早戻しされて)

――あっ! リワインドした!

奥成氏:(笑)。

「ヘルパー」をオンにすると、ゲームプレイを早戻しするリワインドの機能が使えるように
「やられた!」と思ったらすぐにリワインド! ミスした時だけでなく、いつでも5秒間早戻しできる

――最近エムツーさんが発売した「ケツイ Deathtiny ~絆地獄たち~」のインタビューでも同じセリフを言ったような!

堀井氏:テクノロジーは社内で共有されておりますっ!

――なるほどー! ちなみにこれは何秒ほど早戻しされるのでしょうか?

堀井氏:5秒ですね。ちなみにやられてしまった時だけじゃなくて、いつでも早戻しできるので、「このキャラクター、俺が欲しかったのにお前が取りやがってー!」みたいに、2人プレイでも使えます(笑)。

プレイにドラマを生んだ伝説のバグ「4-8」も再現! バグフィックス版でのプレイももちろん可能

奥成氏:次は、追加要素というよりオプション的なものですが、ステージ「4-8」をアーケードどおりか、バグフィックス版にするかを選択できるようにしています。

 4-8バグというのは、「ゲイングランド」をある意味で有名にさせたバグというか。ファンにとってはすごく伝説的なバグですね。

 4-8というのは最終面の2面前なんですけど、このステージには上の左右それぞれに4個ずつの砲台があるんです。

 ここはちょっと、瀬津丸さんに実際にプレイしてもらいましょうか。

バグで名高い「4-8」。敵の数はロボット兵器が4機に上部の砲台8機で合計12だが……

瀬津丸氏:4-8は画面上に砲台が8機あって、通常ならそれを含めて全部の敵を倒せばステージクリアになるんですけど……、バグでこの砲台の数が敵の数に含まれていないんですよ。(砲台を倒しつつ)こんな感じに。

――あー、敵の残り数が減っていかないですね。

砲台を壊しても敵の残り数が8から減らないので……

奥成氏:これがどういうことになるかというと、敵を全滅させてのクリアはできなくなるので……

――……あっそうか!

奥成氏:わかりました?(笑)。そうなんです、残り時間内に何人の仲間を「EXIT」まで運べるかという話になるので、あとの2面をクリアできるかどうかがかなり左右されてしまうんです。

敵を全滅させてクリアはできず、残り時間がなくなるまでEXITに仲間を行かせるしかなくなる。だが、時間的に全員は助けられない

――それってかなり厳しいですよね。そこまでに仲間がたくさんいても全員は連れて行けない?

奥成氏:足の速いキャラクターは運びやすいんですけど、足が遅いロボットとかはダメだよねとなったり、でもロボット使いたいよねというジレンマがあったり。

――そんな取捨選択が。これはやりこんでいた人は絶対に忘れないバグですね。

奥成氏:そうなんです。そういう恐ろしいバグがアーケードにはあって。というか、クリアまでテストプレイしましょうよっていう話なんですけど(苦笑)。

――確かに、1回通しプレイすると気づきそうなバグですが……。

奥成氏:詳しくは、先ほどもお話しした弊社の「セガ名作アルバム ゲイングランド」の回で大岡さんご本人がお話されていますので、そちらをお読みください(笑)。

堀井氏:マスター提出間際で混入されてしまったバグですよね。

奥成氏:ですね。でも解釈としては、「ゲイングランド」のストーリーって、未来のVRのゲームに囚われた人を救出しよう、救出した人と協力して先へ進んでいこうというものなんですけど、この4-8では、そこまでに助けた人を選ばないといけなくなるんですよね。

堀井氏:そこがちょっとドラマチックに!

――「俺のことはいいから、お前達だけでも先にいけ」みたいな脳内ストーリーが浮かびますね。

瀬津丸氏:(笑)。

奥成氏:ここまではいろんなキャラクターの特性を考えて進んできたのに、最後の2面に連れて行くキャラクターはどうしても足の速いキャラクターになるんですよね。そんなわけでちょっと終盤のアクセントになっていたりもします。

オプションで、アーケードでは希少だったというバグフィックス版も選択できる

――ちなみにこれは、バグフィックスされたバージョンもあるんですよね?

瀬津丸氏:ありますね、アーケードにもバグフィックス版はあるのですが、流通している数が非常に少なかったようで、ほとんどお目にかかれることがなかったです。

 以前、ハイテクランドセガ蒲田に「ゲイングランド」があるということで遊びにいって、4-8までいって「誰を残そうかなぁ……」なんて思いつつ砲台を壊したらステージクリアになって。「おぉ、バグフィックス版初めて見た!」って驚きました(笑)。

 この「SEGA AGES ゲイングランド」では、そのバグフィックス版もプレイできるので、それがありがたいんですよ。

堀井氏:蒲田という元々セガのお膝元だった地域だけに。

――確かに(笑)。ちなみにこのバグは海外版だとどうなっていたのでしょう?

奥成氏:海外版は「砲台は敵の数に含まれない」という形でバグフィックスされているんですよ。日本版とは違った形ですね。

縦画面表示に縦専用の壁紙も用意。コントローラー追従をすると横向きでも大きな画面でプレイ可能に

――「ゲイングランド」は縦画面のゲームですが、画面設定はどのようになっているのでしょう?

奥成氏:もちろん縦画面にも対応しています。画面モードはノーマルとフィットの2種類あり、画面開展は右回転と左回転できます。

 また、画面エフェクトはいつも通りの「スムージング」と「スキャンライン」が選べます。ただし、SYSTEM24は高解像度なので、携帯モードだと解像度の関係でスキャンラインが選べなくなっています。すみません。

首を90度曲げたくなる縦画面ゲームの横表示だが、「コントローラー追従」をオンにすると移動入力が90度変わるので、このままでもすんなりプレイできる

――「コントローラー追従」という他のSEGA AGESタイトルにはない項目がありますが、これは?

奥成氏:これは、「追従をする」にすると、コントローラーを右に入れたときにキャラクターが上に移動するようになるんです。「追従をしない」なら右入力でそのまま右に移動します。

――入力を90度変えて、縦スクロールのゲームを横スクロールにしちゃうみたいな機能なんですね。

奥成氏:そうなんです。モニターを横のままで縦画面したら、本来は首を横にしたり寝そべらないと遊びづらかったですけど、追従させればそのままでも遊べます(笑)。

下村氏:新しいゲームみたいになりましたね。

――これは携帯モードとかで横画面の大きな表示で遊びたいという時に良さそうな。

堀井氏:そうなんです、縦シューなのに横シュー風で遊べるんですよ。

――縦画面専用の壁紙も用意されているのが嬉しいですね。

奥成氏:これは、東京ゲームショウ2018に出展していたときと同じ「エアロシティ筐体風」の壁紙ですね。海外版のときは3人同時プレイできる海外筐体の壁紙になります。

縦画面にすると壁紙も専用のものに。日本版だとエアロシティ筐体を再現したものになっている
海外版でプレイすれば縦画面壁紙も海外の筐体のものに。3人プレイできる筐体に向きあっている風になる

――SYSTEM24基板や「ゲイングランド」のサウンド周りの再現についてはいかがでしょうか。

堀井氏:OPMの再現も練れていますので、そちらもいい感じに鳴っていると思いますよ。

奥成氏:今回「SEGA AGES ゲイングランド」を作って改めて気がついたのですが、昔サイトロン・レーベルから販売されていたサントラはモノラルだったのですが、実際に基板から出ている音はステレオなんですよね。

瀬津丸氏:サイトロンから出ていたサントラは、中世の曲のテンポが遅いんですよね。なので、そもそも実機から出ている音を収録したのではないんだろうなと思います。

奥成氏:3年ほど前にウェーブマスターから発売された「SEGA SYSTEM24 SOUND COLLECTION」というSYSTEM24作品のサントラがあるのですが、そのときに実機から収録された「ゲイングランド」の曲はステージ2と4だけステレオで、1と3がモノラルなんですよね。

 つまり、作曲者が林克洋さんの曲だけステレオなんですよ(笑)。

――ステージの時代が変わるごとに作曲された人もステレオ/モノラルかも変わるんですね。分業でお任せしたらそうなったのか、それとも10面ごとにテイストを変えるためにあえてそうしているのか。

奥成氏:変わった作りですよね。

瀬津丸氏:それはそれで面白いですし、ありなのかなぁと思えますね。

瀬津丸氏の実演プレイで「ゲイングランド」の魅力を解説! 自分なりの攻略を作って遊びこんでいくのがポイント

――実は、「ゲイングランド」をちゃんとプレイしたことがなくて。読者の人にもそういう人はいると思いますので、もう少しゲーム内容や魅力についてレクチャーしてもらってもいいでしょうか?

奥成氏:わかりました。ゲームとしては、ゴールの「EXIT」まで自キャラを運んでいくか敵を全滅させるというもので、途中に捕まっている仲間を助けてからステージをクリアすると、次のステージからは助けたキャラが使えるようになる、というシンプルなものなんです。

 ポイントは「背景によって攻撃が貫通するものとしないものがある」ということと、「高低差がある」というもので、特に「高低差」が曲者で、上にいる敵に攻撃できるのは「槍」を持ったキャラクターだけです。

 槍を持っているのは全20人の中でも3人だけなのですが、そのうち2人はすぐに出てくるので、「その2人で、高い位置の敵を倒せばいいんだな」と気がついたり。槍で高い位置の敵を倒した後、そのキャラクターはEXITまで運ぶのか、それとも敵を全滅させるのか、という選択もあったり。いろいろ考えるポイントがあります。

 最初からいる3人だと「ジョニー」というライフル使いのキャラクターが、攻撃が遠くまで届くので1面で使ってみると、敵の槍の射程外から撃てるので「簡単、簡単」となるんですが、高い位置の敵が出てくると、ジョニーのライフルでは倒せないとなったり。

 じゃあ高い位置の敵を無理に倒さず、やり過ごすようにするとなると、敵を全滅させないほうが難易度は高くなるんです。敵を全滅させない場合は、手持ちのキャラクター全員をEXITまで運べばいいとなるのですが、最初は3人だからそれも簡単だけど、仲間を助けて増えて10人とかになると、10人全員を制限時間内にEXITまで運べるかという話になってくるんです。

 プレーヤーキャラクタが増えてくると敵を全滅させた方が良いんだけど、それはそれで、倒すのに苦労する敵がいる、ということになっていくんですね。

――なるほど、どういうプレイをするか、どう組み立てるかのバランスがうまくできているんですね。

奥成氏:そうなんです。プレーヤーキャラクター20人とも、1人として同じ攻撃方法ではなく違っていますしね。ちなみに、「利き手」という要素もあって、キャラクターはそれぞれ右利き、左利きが違っています。なので、この位置からの攻撃が左利きだから当たる、とか、右利きだから当たらない、とかも出てくるんですよ。

――細かい!

堀井氏:本当に細かいですよね。

奥成氏:遊びこんでいくと、そういうキャラクターの特性みたいなものが身についてきて、プレイの組み立てがまた変わってくるんですよ。

――右利き、左利きでの位置調整の感覚を変えていかないとダメなんですね。

瀬津丸氏:そうなんですよ。

奥成氏:弓が使えるバーバルという、バイキングのハルバル父さんみたいなキャラクターが使いやすくて、それとジョニーを使っていけばどんどん先にいけるんですけど、バーバルでもジョニーでも苦戦するステージも出てくるんです。実はそのステージで有効なのは、1つ前のステージで助けたキャラクターだったりするんですよね。

堀井氏:単なるステージ完結型のデザインではなく、全体の流れの中で仲間をどう使うかというところがあるのがいいんですよ。

――なるほどー。先ほど開発者の皆さんが麻雀が好きだったという話があったので麻雀的に例えると、ツモった牌をどこでどう使うか、それとも自分の手としては使わないから捨てちゃうのか、みたいな感じがあるんですね。

瀬津丸氏:あー、確かに。

堀井氏:自分なりの手作りでステージをクリアするみたいな感じですよね。

奥成氏:せっかくなので、ちょっと瀬津丸さんに実演プレイをしてもらいましょうか。

橋を渡ると左右から増援の敵が出現するステージ1-2

(瀬津丸氏のプレイを観ながら)

奥成氏:攻撃には「通常攻撃」と「特殊攻撃」の2種類があって、例えばジョニーだと通常攻撃は8方向に撃てるショットですが、特殊攻撃だと正面にしか撃てないけど長距離のショットがあるんです。あと、ジョニーは左利きなので、身体の左側から弾が出るんですよね。

 ステージ1-2では途中に先ほども話したバーバルが捕まっていますね。バーバルはクリアに役立つ重要キャラクターなので彼を助けてゴールしたいのですが、橋を渡ると……左右の画面外から追加の敵が出現するんです。「スパ○ボ」でもよくある敵の増援ですね(笑)。

 ステージ1-3からは助けた仲間のバーバルを使うと楽ですが、バーバルは8方向に槍が撃てるほか、高いところへ弾速の速い槍攻撃ができるのが、すごく便利なんですよね。

瀬津丸氏:斜め上の高いところにいる敵にバーバルの矢を当てたいんですけど、彼は右利きなので、こんな感じにちょっと角度をつけて敵の下側から撃たないと当たらないんですよ。

――8方向の斜めといっても、斜め45度よりもちょっと上の角度に飛んでいきますね。

奥成氏:この距離感や攻撃が飛んでいく角度がキャラクターごとに変わってくるんですよ。

――なるほど、この感覚をキャラクターごとに掴まないといけないですね。そのぶん、使いやすくて気に入るキャラクターとかも人それぞれに出てくる感じなんですかね。

ステージ1-3で画面外の見えないところに向かって攻撃すると、その度に得点が入る。これを残り時間いっぱいまでやるのがスコア稼ぎの基本

瀬津丸氏:そうなんですよ。ちなみにこのステージ1-3で画面外の敵に向かって攻撃すると、ずっと点が稼げるんですよ(笑)。

――あー、得点が入ってますね(笑)。

奥成氏:これがハイスコア狙いの基本のひとつですね。初心者の人は覚えなくていいです(笑)。

 ちなみに、敵を全滅させるか、時間内にキャラクターをEXITまで運べばクリアになるんですけど、時間内にEXITまで行かせられなかったキャラクターはいなくなってしまいます。

――なるほど、置いてきぼりになったというか、救出できなかったという感じですね。

奥成氏:ステージ4は敵がどんどん押し寄せてきますね。あっ。

瀬津丸氏:やられちゃった(笑)。

奥成氏:ちょうどいいので死んだキャラクターの説明をすると、やられたキャラクターは1回ミスしても捕虜という状態になるので、それを助けてEXITまで連れて行ければ復活させられるんです。

堀井氏:良いキャラクターがやられてしまっても「もう絶望的だー!」とはならないんです。1チャンスあるんですよ。

瀬津丸氏:(ベティがやられて)あ、またやられちゃった。まぁいいや、あいつは助けずに進んでしまおう。

奥成氏:こうやって助けずにステージをクリアすると、今のベティはいなくなっちゃいます。上級者の人は、このキャラクターは使わないなと思ったら助けずにスルーで先に進めちゃいますね。

堀井氏:システム的にはキャラクターが残機みたいなものなんですけど、それでもいらないものはいらないってなるんですよね。

瀬津丸氏:そうなんです。私はブーメラン攻撃のバルキリーは使わないので、私は助けずにスルーしちゃうんです。

奥成氏:え、使わないんですか! ブーメランの話しようと思ったのに(笑)。

全員:(笑)。

建物の中に敵がひしめいている。ここでは前のステージで助けたバルキリーのブーメランが活躍するが、もちろん他のキャラクターで工夫して攻略してもいい

奥成氏:バルキリーのブーメランは、助けた次のステージ6での門の中にたくさんの敵がいるところに、ブーメランが放射状に飛んでいくので倒しやすいんですよ。

――次のステージでまさにピッタリの活躍の場があるんですね。

奥成氏:そうなんです。でも、瀬津丸さんはバーバルがいればいいということで。こういう選択は人それぞれですね。

瀬津丸氏:バーバルでやる場合なら、バーバルは右利きなのでこの角度にいると攻撃を当てられますし、一方で敵の攻撃は絶対にこっちに当たらないんですよ。

――なるほど。

奥成氏:マッドパピーは取らない?

瀬津丸氏:あいつはいらないっすねー。

奥成氏:右上のマッドパピーはすごく攻撃が強力なんですが移動速度が遅いんですよね。戦車みたいな特徴で使いどころが難しいんです。

 とまぁ、こんな感じで、助けたキャラを駆使して、自分なりの攻略を作って遊びこんでいくというゲームです。全40面で、10面ごとにボスがいて、ボスを倒すと次の世界にいくという構成になっています。原始時代、古代中国、中世、未来となっているんです。

――1コインクリアできる人ならかなり遊べますね。

(ほどなくして瀬津丸さんの実演プレイが終了)

学生の頃、青春時代に「ゲイングランド」にのめり込んだという瀬津丸氏に当時のお話も伺った

――実演プレイと解説ありがとうございます。ちなみに、瀬津丸さんがアーケードで「ゲイングランド」をプレイしていた当時はどのような感じだったのですか?

瀬津丸氏:私は当時まだ学生で、地元の石川県の金沢市で遊んでいたんです。そこに「ゲイングランド」のスコア全国一の人がいて、彼らのプレイを見つつ、自分もプレイしていたんです。

 当時はネットも普及していないですし、いわゆる雑誌のハイスコア投稿の時代ですよね。そこに石川県のゲームセンターがトップスコアに載ったところ、先月までトップだったゲームセンターから「そんなスコア出るわけないだろ!」っていう電話がかかってきたらしくて(笑)。

――熱い展開(笑)。

瀬津丸氏:当時は、その金沢市のゲームセンターと、福岡や熊本のゲームセンターがスコア争いをしていたようですね。あと、群馬県高崎市にもセガのゲームを異様にやり込んでいる人達がいるゲームセンターがあったそうで、そこのスコアラーさんも凄かったようで。

――なるほどー。そうするとその界隈でアーケード版をプレイしていた人が、今回のエムツーさんの移植に熱いコメントを寄せている「ゲイングランド研究者」な人の可能性も……(笑)。

瀬津丸氏:あるかもしれないですね(笑)。ちなみに、今回の「SEGA AGES ゲイングランド」には当初連射機能がついていなかったのですが、スコア稼ぎには連射があった方がありがたいので、連射機能を追加して頂きました。

奥成氏:慌てて連射機能を入れてもらいました(笑)。

瀬津丸氏:2000年代に入ってもまだ「ゲイングランド」が稼動しているゲームセンターは、シンクロ連射搭載が基本だったので、あった方がいいのではというところですね。大画面でもプレイできますし、私の知る限りの攻略パターンもしっかり再現できましたし、違和感のない出来だなと思いますよ。

テーブルモードでプレイするとこれぐらいのサイズ感に。相当小さくはなるが、新年会の場で同時プレイという遊び方もできる!?

発表から5タイトルのリリースとなった今年の「SEGA AGES」。来年の「SEGA AGES」はどうなる?

――2018年最後のインタビューとなりましたが、今年を振り返ってみると、いかがでしたでしょうか?

堀井氏:“エニータイム、綱渡り!!”っていう感じでしたね!あっという間でしたよ。

奥成氏:いや、もう本当に。あっという間でしたね。春のセガフェスで電撃的に発表して、「サンダーフォースIV」が既にもう動いていて。そこから……沈黙の夏を経て(笑)。

下村氏:あの時は上司に怒られてね……(苦笑)。

小玉氏:辛い期間がありましたね(笑)。

下村氏:ちょっと足踏みをしたところもありましたけど、ユーザーの皆さんのご支援を頂きつつ、今回で5タイトルを配信して、なんとかここまでたどり着くことができたという感じですね。

 欧米は計画的に配信タイミングを調整しているので、このタイミングで3タイトル配信できたというところになっています。僕らは15タイトル以上やりますと発表していますので、それに対して国内5タイトル海外3タイトルということで、期間的には折り返し地点に来ているのですが、タイトル数的にはまだまだ出だしという状況です。

 販売の状況は、期待半分不安半分というところで。15タイトルを発売しきって次に上手く繋げられるかどうか。そこは僕と小玉さんの腕次第かなというところがありますけども、なんとか引き続きやっていきたいなと思います。

小玉氏:今年に入ってから、特に夏過ぎから毎月タイトルをリリースしているので、セガで今までいろいろなタイトルを作ってきましたが、ここまで短期間にタイトルをリリースするというのがなかったので新鮮というか大変です(笑)。今まで年間に3本を発売したという時はあったのですが、それより短い間隔で毎月リリースしていますから。

 配信したものは今回の「SEGA AGES ゲイングランド」で5本目、現在進行しているタイトルも4~5本以上あって、それをコントロールしていくというのはやはり大変ですね。エムツーさんでもディレクターの松岡さんをはじめとしてたくさんの人が動いているのですが、「ここでこの話をしたと思ったら、あっちでまた別の相談が待っている」みたいな感じで(笑)。

 一方で、セガ社内でのチェックチームであったり、海外配信についてアメリカの方のプロデューサーやチェックチームと話をしながら進めているところもあって。今までにない経験で、非常に充実しています。下村さんにもご迷惑をおかけしちゃいましたね(笑)。

下村氏:一緒に怒られて(苦笑)。

小玉氏:一緒に喜んで(笑)。

下村氏:「マスターアップしました!」っていう連絡がついに来た時は、本当にうるうるしました。

全員:(笑)。

奥成氏:僕は今回の「SEGA AGES」ではスーパーバイザーという、横から口を挟む立場で協力しているのであまり大きなことは言えないのですが、バーチャルコンソールみたいなメガドラ限定での素の移植でのリリースではなく、でも、「セガ3D復刻」シリーズのような3カ月や半年ペースという時間をかけずもっとコンスタントにリリースするという、その中間のポジショニングを見つけるのがすごく難しい1年だったなぁと思います。

 僕はついつい、「仕様を増やして欲しい」というユーザー目線の意見ばかり言って、小玉プロデューサーやエムツーのディレクターの松岡さんを困らせているのですが、今のところ配信されているタイトルについては、ユーザーの皆さんにもギリギリ納得して頂けているのではないかなと思います。今後も素の移植ではなく、何かしらひと手間かけていくという形をエムツーさんがなんとかやっていますので、この調子で応援したいという感じですね。

――ベタ移植で出すのと、期間を度外視に思いつくものを全部入れるというのは、ある意味で簡単な話ですけども、決まった期間内でできる限りやって出すというのは、1番バランス感覚の難しい取り組みなのではと思います。

「ぷよぷよチャンピオンシップ」の会場にて、「SEGA AGES ぷよぷよ」と「SEGA AGES ぷよぷよ通」が発表された
「SEGA AGES ぷよぷよ」と「SEGA AGES ぷよぷよ通」は、「SEGA AGES」で初めてのオンライン対戦対応タイトルとなる

奥成氏:バーチャルコンソールみたいに、「素の移植でいいからとにかく数を出してくれ」という意見がある一方で、「徹底的に作り込んで追加要素をいっぱい入れて欲しい」という意見もあります。そういう中で、中間の1番いいところはどこかなぁというのを探りつつというところですね。

 新たに発表した「SEGA AGES ぷよぷよ」と「SEGA AGES ぷよぷよ通」についても、オンライン対戦なしで出すというわけにはいかないですよね、というのがありますし。そういう「このタイトルでひと味加えるならどこだろう?」というのを、上手く考えて進めていけるといいでしょうね。毎月1本遊んでもらえるぐらいに落ち着いてくれればいいのかなって思います。

――月末近くになったら「あ、『SEGA AGES』のタイトル配信がある」というのが定番になってきたらいい感じですよね。

奥成氏:そうですね。今のところなんとかそうなっていますが、内部的には毎月そわそわ冷や冷やしているんですけど(笑)。

――「今月はSEGA AGESタイトル出るのかな? 出ないのかな?」っていう空気から、配信日の直前に配信決定のニュースリリースが出てますからね(笑)。

奥成氏:まぁでも、ダウンロード配信のタイトルですし。「あのタイトル出るんだー!」って知ってからすぐに買って遊べるぐらいがいいんじゃないかなとも思いますね。今後の発表もそんな感じかなと。

小玉氏:いや、私の目標はそうじゃなかったんですけど。もっと余裕のある発表と配信にしたかったですよ(笑)。

――(笑)。

奥成氏:来年もどうでしょう。ペースアップするというよりは、月1本を守っていければというところですかね?

下村氏:どうかなぁ、月1本というのも言い切れないかな……。うちはもうね、自転車操業ですから。

奥成氏:(笑)。

下村氏:今年は自転車操業的に月1本を目指してマスターアップして、すぐに配信していくという形でやっていきましたが、それが本当に良い方法かどうかは、1度レビューする必要はあると思っているんですよ。

 例えば、これまで通りに月に1本を目指して出していく方がいいのか、それとも、数本作ってまとめて出して埋もれないようにする方がいいのか、ユーザーの皆さんに聞いて意見を取り入れながら、第1シーズンの残りのタイトルとその先の第2シーズンをより良い形にしていけたらいいなとは思っていますね。

――1度、展開の仕方を精査するべきかもしれないと感じておられるわけですね。ちなみに、これまでは今後の展開に必要な開発下地を揃えてきたというお話もありましたが、それはだいぶ揃ったという感じはあるでしょうか?

小玉氏:そうですね、「SEGA AGES ぷよぷよ」と「SEGA AGES ぷよぷよ通」でオンラインプレイ要素が入れば、今後のタイトルにも必要な仕様が大体整うかなという感じですね。

――なるほど。「SEGA AGES ゲイングランド」という1つの山場が終わり、開発下地も整って来年というところですね。

奥成氏:長期的な開発になっていた「SEGA AGES ゲイングランド」が出たことで、他の音沙汰がないタイトルもコツコツ裏で作っていたのをだんだんと前に出していけるようになるかもしれないです。

下村氏:もうひとつ、「SEGA AGES ゲイングランド」を出すということそのものが、私たちの姿勢を示すことでもあると思っています。

 「SEGA AGES ゲイングランド」は正直なところ、すごくたくさんの人に買ってもらえるゲームというわけではないだろうと思ってはいるんです。でも、「復刻すべきゲームだ」という使命感からラインナップに入っているひとつなんですよね。長い開発期間を経て出すという、その費用対効果としては高くはないかもしれないですし、そのことで僕がまた上司に怒られるかもしれないですけど……それでもいいと思っているんですよ。

――出して欲しいという人の気持ちに応えるんだ、ということを示すタイトルであると。

下村氏:「このタイトルをきちんと出してくれた!」って納得してもらえるように。特に「ゲイングランド」を支持して頂いている熱い人達に喜んでもらえるようにですね。売り上げ的には難しいかもしれなくても、コアなタイトルも出していくんだというのを知ってもらいたいという想いがありますので、それをぜひ感じてもらえたらなと思います。

――わかりました。それでは最後に一言ずつ頂けますでしょうか。

奥成氏:「SEGA AGES ゲイングランド」は、セガのアーキテクチャをエムツーさんがひとつずつ攻略していくシリーズの最新作です。SYSTEM24の高解像度というのは、今のゲームハードからすればかわいいものではあるのですが、その解像度で当時のテクノロジーで作られたデザインには、今のゲームにはないオリジナリティや面白さがあるのではないかなと思います。これでしか味わえない面白さを、ぜひお楽しみ頂ければ嬉しいです。

堀井氏:「SEGA AGES ゲイングランド」が無事に年末にリリースされてくれたら、今年はなんとかバッチリ……ということにしたい気持ちでいっぱいです。この先には“次の本命”がありますが、そちらではUIの処理負荷をどこまで下げられるかに取り組んでいて、処理負荷を下げたぶんだけ仕様を詰め込んでいきますので。来年も引き続きがんばります!みなさまよろしくお願い致します!

瀬津丸氏:30年ぐらい前のゲームを今のハードで遊べるわけですが、当時遊んでいた人はだんだんと老眼になってきていると思うんです(笑)。でも、この「SEGA AGES ゲイングランド」なら大画面のテレビに繋いで遊べるので、私としてはこれが非常に嬉しいところです。

 “ゲイングランド研究者の1人”としていろいろと目を配らせたつもりではありますので、噛んでも噛んでも味の出てくる魅力を、たっぷり楽しんでもらえればと思います。

小玉氏:今回はアーケード版を作られた大岡さんとも話をさせて頂いたりしつつ、瀬津丸さんにもアドバイスを頂きつつということで、このプロジェクトの特徴でもある過去のスタッフの方々や、当時にプレイされている皆様の意見を取り入れながら作っていくということができました。エムツーさんもシカゴまで行って写真を撮って頂いたりして。そういういろいろな要素が集まってひとつのゲームになっていますので。初めてプレイするという人も多いかなと思うのですが、ぜひ楽しんでもらえたらなと思います。

下村氏:「SEGA AGES ゲイングランド」は、僕はアーケードよりもメガドライブ版でプレイしていた口なのですが、本日お話にあったように、開発の難度からも移植するハードルの高いゲームなんですよね。

 そのゲームをきちんと作り上げてくれたエムツーさん、チェックするところの多いこのゲームのデバッグをしてくれたQAチーム、開発の途中途中で色々と気遣ってくれてメールを送ってくれた原作者の大岡さん、過去の資産を最大限に活かしてご協力頂いた瀬津丸さん、僕に怒られながらもなんとか形にしてくれた小玉さん、「切羽詰まっているこのタイミングになんでそんなことを言うの!?」と言いたくなるような要望をくれた奥成(笑)、そんな素晴らしい仲間に感謝をしつつ。

 我々の血と汗と涙の詰まったゲームが完成しましたので、その想いを汲み取ってお楽しみ頂ければと思います。来年も引き続き皆様のご支援頂けますよう、よろしくお願い致します。

――ありがとうございました!

【プログラマーの大岡良樹氏よりコメントを頂きました!】

1.「30年を経て再現されるハイレゾタイトル!!」

 ゲイングランドのオリジナルはアーケード基板SYSTEM24用に開発したものです。SYSTEM24の表示機能として解像度が通常アナログTV解像度の縦・横方向とも1.5倍の解像度があったことと、多発色の拡縮機能スプライトが2,000個以上表示できることが特徴として挙げられます。

 MEGA DRIVE版はこのSYSTEM24版からのハード制約を巧妙に乗り越えミニマイズされた名作で、オリジナルを観られない時代のゲイングランドのマスターイマージとなっていると思います。

 そういうユーザさんが、今回のSWICH版の画面を見るとアレンジが激しいように感じるかもしれませんが、これこそが30年前にゲームセンターで見られたグラフィックなのです。オリジナル版と見比べながら1つ1つグラフィックを調整されたスタッフの方々には、そのご苦労に頭が下がる思いです。

 できれば、本体モニターだけでなく、TVに表示して楽しんでください。縦モニターなら、本気!アーケード気分に浸れるでしょう。

2.「プレーヤーがシナリオを創る!!」

 ゲイングランドのオリジナルはアーケードの途中参加(入れ替わり)プレーを想定しています。初期設定を攻略する”覚えゲー”プレイも面白いですが、チームを組みメンバーの役割を決め、タイミングを合わせるチームプレーがオススメです。

 喩え途中参加でもプレーヤー同士が協力し合えば、アバターを受け渡し、より有利なチームを組むことができます。チームの挙動により行動タイミングが変わるエネミーたちにはチーム間での意思疎通が重要になります。エネミーをすべて倒すのか、メンバーをGOALに逃がすのか、プリズナーを誰が助けるか、相談しあっても思い通りに進まないプレーこそが、このゲームの魅力なのです。パーフェクトプレイだけでなく、アクシデントを乗り越えた先の達成感をお感じください。

 現代の常識を外して、30年前のゲームの気風をご存知の方は思い出し、初めての方は想像しながら、お楽しみください。