インタビュー

「3D ファンタジーゾーン オパオパブラザーズ」インタビュー

3D立体視や「ウパウパモード」など、もはや異次元(?)の凝りまくりの1作

エムツーの堀井社長(左)とセガの奥成プロデューサー(右)
3月19日 配信開始

価格:762円(税別)

CEROレーティング:A(全年齢対象)

 「3D復刻プロジェクト」第2期の第2弾「3D ファンタジーゾーン オパオパブラザーズ」が3月19日より配信となる。価格は762円(税別)。

 今回も、開発を担当したエムツー(M2)さんにお邪魔し、セガのプロデューサーである奥成洋輔氏と、エムツーの堀井直樹氏にインタビューにお応えいただいた。さらに、本作のプランナーである古賀恵介氏にもコメントしていただいている。お楽しみいただきたい。

アーケード版「ファンタジーゾーン」とは!?

【ファンタジーゾーン】

「3D ファンタジーゾーン オパオパブラザーズ」の画面より

 1986年に登場したセガのアーケード用システム基板「システム16」の第2弾タイトル。MC68000を1つ、Z80を1つ搭載という構成は、68000が2つ積まれた「スペースハリアー」で採用された通称「ハリアーボード」を汎用化したものともいえる。A/Bの2バージョンがあり、後期のものは拡大機能を持つスプライト(1画面最大128枚表示可能)を搭載しているが、「ファンタジーゾーン」の頃には機能は無かった。音源はYM2151を搭載。

 1レバー2ボタンの操作系で、左右に任意にスクロールさせることのできる、セガとしては割と貴重な、横画面シューティングゲーム。主人公「オパオパ」にはショットとボムの2種の攻撃手段があり、ステージに設置されている10基の前線基地を撃破するとボス戦となる。敵や前線基地は破壊することでコインを落とすので、これを回収することで一定額をストックすると風船型の「SHOP」が登場。接触すればショットとボム、エンジンやストック(残機)などの追加装備の買い物が可能となっており、エクステンド(残機増加)も買い物のみで行なうなど、独自性を出していた。ROMバージョンは細かくは4つあるが、「3D ファンタジーゾーン オパオパブラザーズ」にはOLD/NEWの2バージョンが収録されている。

 本作はマークIII(マスターシステム)、ファミコン、PCエンジン、X68000、セガサターンなどなど、数多くの家庭用ゲーム機に移植されてきた。エムツーによる移植はプレイステーション 2向けの「SEGA AGES 2500 Vol.33 ファンタジーゾーン コンプリートコレクション」に続いて2作目となる。

買い物システムが入っているのが本作の特徴
多彩な武装も購入すれば(時間や弾数制限があるが)使える
独特の色合いを見せるグラフィックス
前線基地をすべて破壊するとボスキャラが登場

より貪欲に立体視化された「ファンタジーゾーン」!

――「セガ3D復刻プロジェクト」第2期の第2弾は「ファンタジーゾーン」ということで、またまたお話をお伺いします。よろしくお願いします。まず、お約束として聞いてしまいますが、なぜ「ファンタジーゾーン」が選ばれたのでしょうか?

奥成氏:「3D復刻プロジェクト」第2期は、国内のお客さんに喜んでいただけるタイトルを手がけていく、ということは「3D アフターバーナーII」のインタビューでもお話しましたが、「ファンタジーゾーン」を選んだ理由は、このゲームが日本向けだからです。実はこのタイトル、海外ではほとんど無名のタイトルでして。アーケード版は、海外へはほとんど出荷されていないんですね。

堀井氏:それが今わかるというのがすごい。

奥成氏:だから、海外で「ファンタジーゾーン」を知っているお客さんというのは、マスターシステムでプレイしていた方とかになっちゃうんですよね。アーケードで当時遊ばれていないんですよ。ほぼ。ROMバージョンに「海外版(USA版)」と呼ばれているものはあるんですが、日本に比べるとほとんど流通していなかった。「海外版」という基板のイメージで出荷されていた印象があるんですが、出てはいるものの、「獣王記」や「ゴールデンアックス」といったタイトルと比較すると、ほとんど知名度がないんです。

 逆に日本ではすごく人気があって。アーケード版があって、直後にリリースされたセガ・マークIII版という本体を普及させた立役者的存在があって、その1年後に発売されたサンソフトさんのファミコン版がこれまたよくできてまして。この移植度の高さと、超メジャーハードでリリースされたことで知名度が上がり、そこからさらに1年後にはPCエンジン版もあって、こちらも「スペースハリアー」と同様に、知名度を上げることに貢献しているんです。マークIII、ファミコン、PCエンジンと8ビットゲーム機を制覇したおかげで、人気も知名度も高かったんですよね。

堀井氏:そういう理由だったんですね。

奥成氏:なので、今回改めてアーケード版の移植を手がけることができたのは、日本国内での「セガ3D 復刻プロジェクト」の反響が高かったからですね。

堀井氏:そうすると、「3D アフターバーナーII」の反響で、「サンダーブレード」を選んでもいいわけですね……。

奥成氏:そういう意味で言うと、「3D ABII」はもうちょっとがんばらないといけないかもしれませんね……。

――(笑)。今回、「3D復刻プロジェクト」としてはジャンル的に初めてとなる横画面横スクロールシューティングということになりますね。

奥成氏:セガの3D視点でないシューティングゲームってあまりリリースされていなくて。アーケードで言うと、「ソニックブーム」や「スクランブルスピリッツ」といった縦スクロールシューティング、横スクロールになると「アストロフラッシュ」とか……。

――いわゆる一般的な横画面スクロールシューティングゲームってほとんどないですよね。

奥成氏:「オーライル」とか「ヘビーメタル」とか、無理にタイトルを挙げるとないわけではないですが、そこからさらに社内で制作されたシューティングゲームと絞ると数えるほどしかないですね。

――そういう意味でも「ファンタジーゾーン」って知名度の高さも含めて、セガの横画面シューティングゲームという印象の強さ、貴重な存在というイメージがありますね。

システム16版「ファンタジーゾーンII」

奥成氏:今回は、これまでのスタッフとは別に、新たに「ファンタジーゾーン コンプリートコレクション」でシステム16版「ファンタジーゾーンII」の開発を手がけたエムツーさんのスタッフも参加しまして。「ファンタジーゾーンII」の続きみたいな感じで始まりました。

 立体視に関しては、プロジェクトも第10弾と数を重ねてきて、かなりこだわっておりまして、「ザ・スーパー忍II」などで反響のあった、背景の部分などの立体視対応の部分をかなり作りこんで、立体感のある画面になっているかなと。

堀井氏:見た感じ、ピクセル単位で奥行きが付けられているように見えるかと思いますが、スペック的な余裕はそこまでなくて、BG・FG面のどちらかを最大4枚に分割、テキスト面は縦8ドット単位ではありますがかなり自由に奥行きをつけられます。

奥成氏:ギガドライブをシステム16に持ってきたみたいな感じですかね?

堀井氏:理屈としては、ギガドライブからちょっと増えた感じで、セル単位で任意の4段階の深度に割り当てることができ、(指定するのに制限が付きますが)同一セル内でも深度が違えば複数のチップを配置することができる……という感じです。立体表示システム16こと「システム16E」(自称)のスペック上は、さらなる描画ができるんですが、人間の脳みそとツールの兼ね合いで今回はここまでとなっています。

奥成氏:これまでメガドライブのゲームの3D立体化に関しては、2Dアクションのゲームなので、まずはスクロール面を立体化するところを足がかりにしてきました。だから最初に手掛けた「3D 獣王記」では、あえてスクロール面を使って立体効果を出していたメガドライブ版を選んだわけなんですが、その後「3D エコー・ザ・ドルフィン」などを経てノウハウがたまってきたことで、「3D ザ・スーパー忍II」にいたっては、もともと背景が1枚のところも立体視で奥行きを表現できるようになってきたんですね。

 まあ、できるというよりは、効率化と同時に作業量を増やしたということなんですけど。

堀井氏:背景1枚に対して、いくつものレイヤーが付けられるようになってきたので、それをシステム16でもできるようにしてみました。

奥成氏:古くから「ファンタジーゾーン」を知っている一部の人にとっては有名なんですけれども、電波新聞社(マイコンソフト)さんのX68000版は立体視に対応していて(※)、「3D 獣王記」のようにスクロール面を使って立体化していたんですけれども、今回の「3D ファンタジーゾーン」は、「3D ザ・スーパー忍II」や「3D ベア・ナックル」のように、一見多重スクロールしているかのような、「絵に対して感じる深い立体感」が実現できています。

※……X68000には立体視端子があり、ファミコンの3Dメガネ[液晶シャッター式]の端子を改造して接続することで立体視が可能だった。

堀井氏:ラウンド1でいえば、手前に生えている植物は全部奥行きがついています。これは今回からできるようになりましたね。

――プレイしてびっくりしたんですが、さらに前線基地も立体化してますね、これ。

堀井氏:そのあたりはオブジェクトを倍使うことで実現しました。

奥成氏:キャラクターの立体感は、今回立体視化したときの面白さの1つになっていますね。

ラウンド2の前線基地(バイバープ)。両手が手前に飛び出して見えるようになった

堀井氏:ラウンド1なら前線基地(ドラリンフラー)の中央がぽこっと手前に出ていますし、ラウンド2の前線基地(バイバープ)なら、2つの手が手前に出るし……というようになっていますね。

奥成氏:ちょっとキャラクターの丸みというか、ふくらみが擬似的に感じられるような立体感がついています。

堀井氏:本当は、ボスキャラにも付けたかったんです。付けられたんですけれども……倒してバラバラになるところで破綻しちゃったんで残念ながら諦めました。でもラウンド2のボス(ボランダ)のように、パーツごとにバラバラになってパーツ単位で破綻しないものは、立体処理を付けているものもありますよ。

奥成氏:口で言うのは簡単なんですが、実際はギガドライブよりもさらにめんどくさいことをやっているんです。

堀井氏:背景の3D化についての説明は、口で説明するとわかりづらいので、図を用意しました。簡単に言うと、元々2Dだった絵を立体で見せるには、1枚絵では見えなかった、その背景の裏の部分や横の部分まで横から見えるので、そこまでをゲーム内で表示しないといけないんです。

 もちろんオリジナルのグラフィックにはそこの絵は無いので、そこでこの図のような方式で、背景の別のパーツを持ってくることで、「オリジナルのグラフィックから1ドットも描き換えや追加を行なわずに、表示を増やす」という、パズルのような方法で立体にしています。

【背景の3D立体視化】
M2制作の解説図。本当にパズルのような方法で立体視化していることがおわかりいただけるだろうか?

――なんと!!

堀井氏:次に前線基地のようなオブジェクトの方の多層化ですが、これは立体化したときに奥側に残っていてはまずい部分、例えばラウンド2の基地の手などを、奥にある本体の部分の絵から消すために、元のグラフィックに手を入れる必要がありました。

 ちなみにこのオブジェクトの立体化については、前にプログラマの齊藤(彰良氏。3D復刻プロジェクトのほとんどのタイトルを手掛けるキーマン。X68000の頃からSCMといったサウンドドライバを手がけている)が密かに試していたものを本作のメインプランナーを担当した古賀が見ていたらしく、彼が齊藤にお歳暮を贈って無理やり入れてもらったそうです。今後、この仕組みはさらに進化させたいですね。

――(笑)お歳暮ですか……。とにかく、これは新鮮でしたので、今後もどんな立体視が見られるのか、楽しみが増えました。

奥成氏:立体視という視点で見ると、「ファンタジーゾーン」は一見地味そうなんですが、このように裏では相当な苦労がありました。でもそのおかげで、かなり画面から感じるカラフルな、というか、にぎやかな雰囲気を立体視で味わえるものになったと思います。初めて見た時の感動が甦りますよ。ゲームとしての古さも感じさせないですし、普段の3DSのゲームっぽい立体感が味わえるんじゃないかと。

 ちなみに、画面のワイド対応に関しては、いろいろ試行錯誤を重ねたんですが、今回対応しておりません。これは、「できるんだけどできない」という……。

堀井氏:時間さえあれば、絶対不可能ではないんですが!

前線基地の距離や高さがわかるマーカーが追加

奥成氏:背景のワイド化ということだけで言えば問題なくできたんですが、ゲームバランスを考えると、ワイド化するということは、4:3の画面では表示していない敵を新たに描画することになるわけです。「それを表示させるの? させないの?」ということもあり、ゲームバランスがオリジナルと異なるものになってしまう可能性があって、「ワイド化の表示プログラムとゲームバランスの調整に割く時間は他に割こう」ということでやめました。その代わり、4:3の画面を横に引き伸ばしたフル画面モードはあるんですが、これがあまり違和感なく遊べるんですよ。これならゲームバランスも破綻しないので、ぜひ1度お試しください。

 ワイドにしなかった分、代わりといってはなんですが、「前線基地の場所がわかるマーカー」を画面外に入れました。これで画面外にいる前線基地の高さがわかりますし、近づくとマーカーが大きくなります。移動していての前線基地との激突死や、うっかり倒していない前線基地をスルーしてしまうことが防げるのではないかと。

 あと画面表示としては、ギガドライブにもあったクラシック(ブラウン管のゆがみを再現)も入っています。これは特にオススメですね。黒い3DSをお持ちの方は机に置いてこのモードでリプレイを鑑賞していただくと、テーブル筐体の雰囲気が、これまでになく、すごく味わえますよ。

――当時のプレーヤーさんには懐かしい感じですね。

奥成氏:渋谷で「ノーコン・キッド」と「ゲームセンターCX」のコラボカフェを訪れた方には、あの感じがご家庭でも味わえます(笑)。

下画面にもご注目

――今回、下画面(タッチスクリーン)にも凝ってらっしゃいますよね?

奥成氏:下画面については、別にこれまでも手を抜いていたわけではなく、やりたいことはいっぱいあったんですが……。

堀井氏:処理速度が足りなくなるんですよ。3画面を書き換えるようなものなので(上画面は立体視処理があるため2画面分の処理になる)。社内では「上画面を書き換えているときに下画面を書き換えるのはご法度!」ってあれだけ言ってたのに、今回下画面で前線基地を倒せば消える(残り数が変わったり詳細な位置がわかるようになっている)わ、ボスキャラが表示されるわ……。

 先ほどと同様、プランナーの古賀が、「3D アフターバーナーII」(3D ABII)の仕様を横目で見ながら、「やばい、『ファンタジーゾーン』はアップグレード的なものが付いていない」って言い出して……「下画面をにぎやかに使おう」と言い出したために、プログラマが“本当に、本当に”死んでいたので。

奥成氏:慣れていない人には「次に登場するのは、このボスか。じゃあ購入する武器は……」というように、攻略ガイドとして見ていただければなと思います。

――プレイに一生懸命になると、慣れていない人は下画面を見ている余裕はない気もしますが(笑)。

奥成氏:そうかもしれません(笑)。でも下画面がこうしてにぎやかになると、より3DSのゲームを遊んでいる感が増しているんじゃないかと(笑)。

堀井氏:「メニューだけ表示しているのも殺風景だよね」という話も出ていたので……。

 余談ですが、下画面を書き換えるというのは処理速度的には本当に不利になるのです。今回スタッフクレジットもかなり気合が入っているんですが、上画面がガンガン処理落ちするので、下画面のスタッフクレジットの描画を15フレームぐらいにしてるんですが、それでも上画面が処理落ちするという……。

――(笑)。システム16を3DSで再現しようとすると、やはりギガドライブぐらいの処理負担がかかるということなんですか?

堀井氏:そうですね。メガドライブよりも大変な部分もあったりするので。開発からするとすごいことなんですが、それはお客さんには関係ないところですけどね。

ためたコインをチャージしてラウンドセレクトをスタートできるようになった

――では、移植の部分以外の、ゲームのシステム部分についてもお話を伺いたいのですが、今回は、仕様もいろいろ凝っているとか。

奥成氏:これまで何度も移植されてきた「ファンタジーゾーン」の中でも、かなり画期的な追加だと思うのですが、今回「コインストック」という機能があります。ゲームをプレイして「オパオパ」が手に入れたコインの総額がどんどん貯金されていくというものです。ゲーム中で消費した金額はカウントしておらず、とにかく集めた分だけたまります。

 「コインストック」でためたお金は、今回も標準装備されているラウンドセレクトでゲームをスタートした際に役立ちます。「いきなりコインゼロでスタートしても最終面はクリアできないよ」(所持金ゼロでスタートすることになるのでSHOPで買い物ができない)という問題に対して、このコインストックから貯金をおろしていただくわけです。

――ラウンドセレクトしてからの復活が楽になっているんですね。

奥成氏:はい。おろした貯金の分だけ、最初から所持した状態でプレイスタートできるので、おかげでゲームをどのラウンドからも気軽にスタートできるようになってます。ただし、引き出す金額を自分で設定して、ゲームオーバーになった時点でその残りのお金は消えて無駄になってしまうので、使いすぎにはご注意ください。お金に関しては、「ご利用は計画的に」というわけです。

 でもあまりケチケチすると、プレイ中に「もう少しおろしておけばよかった」と思うかもしれません。究極の資本主義的なゲームである「ファンタジーゾーン」に「貯金」という要素が入ったことで、より「ファンタジーゾーン」らしくなったんではないかと。

堀井氏:もし「III」を作ることになったら、ローンを返しましょう。「ファンタジーローン」なんつって。……あ、滑った!

一同:(笑)。

――「ヒーローバンク」的な感じですね?

堀井氏:かぶってますねー。

奥成氏:「オパオパ」をかぶっているヒーロー着「セガリオン」もありますしね(笑)。

(佐伯憲司)