インタビュー

「SEGA AGES アレックスキッドのミラクルワールド」インタビュー

原作開発者の小玉さんがいるからこそ挑める追加要素を搭載して、“俺たちのアレク”登場!

左から順に、リードプロデューサー及びディレクターの小玉理恵子氏、エムツーの堀井直樹氏、スーパーバイザーの奥成洋輔氏
2月21日 配信

価格:925円(税別)

CEROレーティング:A(全年齢対象)

プレイ人数:1人

 セガの名作を“こだわり満載”で復刻する「SEGA AGES」。2月21日に6タイトル目となる「SEGA AGES アレックスキッドのミラクルワールド(以下、『SEGA AGES アレックスキッド』)」の配信が開始されたので、恒例のインタビューをお届けしよう。

 今回のインタビューにご参加頂いたのは、セガゲームスより、リードプロデューサー及びディレクターの小玉理恵子氏、スーパーバイザーの奥成洋輔氏、開発を手がけるエムツーより堀井直樹氏の3人。

 今回のタイトルは小玉理恵子氏が開発者の1人である「アレックスキッドのミラクルワールド(以下、『アレックスキッド』)」だけに、当時のお話などもたくさんお聞きした。そのあたりもじっくりとお読み頂ければ幸いだ。

日本以上にヨーロッパで圧倒的に人気だったマスターシステムのスター“アレックスキッド”

【アレックスキッドのミラクルワールド】

セガ・マークIII/マスターシステム用のアクションゲームとして1986年に発売され、1980年代におけるセガのマスコットキャラクターの代表格と言える存在だった。

ストーリーは、岩をも砕く「ブロッ拳」の使い手アレックスキッド(アレク)が、侵略者「じゃんけん大王」に支配された世界を取り戻すために大冒険を繰り広げるというもの。

海へ空へ大地へと展開する多彩なステージに、ステージ中で手に入れたお金でショップでアイテムを購入できるRPG的な要素、同じく購入することで「スコパコサイクル」や「プチコプター」など便利な乗り物にも乗れるなど、任天堂の「スーパーマリオブラザーズ」を意識して制作されつつも、独自の要素を多く詰め込んだ作品となっている。

主人公アレクの好物はおにぎりで、アレクのイラスト類の中でも嬉しそうにおにぎりを食べるアニメーションが特に知名度が高い。なお海外版の一部バージョンではおにぎりがハンバーガーに差し替えられている。

「SEGA AGES ぷよぷよ」はオンライン対戦のデバッグに時間がかかっているが、現在も全力で取り組んでいるとのこと

――「SEGA AGES アレックスキッド」のお話に入る前に、1月後半に近日配信として告知されていた「SEGA AGES ぷよぷよ」についてお伺いいたしますが、開発は難航しているのでしょうか?

小玉氏:楽しみにして頂いている皆様には申し訳ないのですが、がんばって開発を進めているものの、新しい配信予定はまだお伝えできない状況です。

 「SEGA AGES ぷよぷよ」と「SEGA AGES アレックスキッド」は並行して開発を進めてきたタイトルなのですが、「SEGA AGES アレックスキッド」を先に配信することになりました。

――「SEGA AGES ぷよぷよ」は、今も現在進行形で開発に苦労されているという状況でしょうか?(今回のインタビューは2月某日に収録)

堀井氏:今もオンライン対戦周りのデバッグに取り組んでいるところです。泣き言になりますが、オンラインプレイ対応の開発というのはバグが無限に出てきてしまうところがあって、それだけで普段の「SEGA AGES」タイトル1本分以上に重い取り組みになっています。年末年始も返上して進めてきたのですが、まだこの有り様で。大変申し訳ないです。

小玉氏:取り組んでもらっているオンラインプレイ対応の開発というのは「SEGA AGES ぷよぷよ」だけのものではなくて、今後の「SEGA AGES」のタイトル全部に使っていくベースになるものなんですよね。そのため中途半端なものにしてしまうのは良くないと考えて、時間をかけてでもしっかり整えてもらっているんです。

――今後のSEGA AGESシリーズ全体で使っていくオンラインプレイ対応の開発を、「SEGA AGES ぷよぷよ」というタイミングに合わせて完成させようという取り組みだったんですね。

堀井氏:そうなんです。

奥成氏:「SEGA AGES ぷよぷよ」の開発は元よりハードルが高くてクライマックス感があるんですよね。お話のようにシリーズ全体で使っていくオンラインプレイ対応を1から作っていますし、Wiiのバーチャルコンソールアーケードの「ぷよぷよ」のオンライン対戦で好評を頂いたので、あれと同等ぐらいの操作性や快適さを目指さないといけないという目標もあります。ですが、まだそこまで到達できていないですね。

――なるほど。今回のオンライン周りをしっかり作りこむことで、後のいろんなタイトルのオンラインプレイ対応にも期待できるということであれば、月に1本を意識されて無理に出してもらうよりも、しっかり作り込んでもらって後悔のないものを配信してもらう方が良いのではと思えます。ユーザーさんにも同じように考える人は結構いらっしゃるのではないかなと思います。

小玉氏:ユーザーの皆様にもそう思って頂けるとありがたいのですが。いずれにせよしっかり取り組んでいきますので、もうしばらくお待ち下さい。

スーパーバイザーの奥成洋輔氏。この日のTシャツは海外版アレックスキッドだった。
エムツーの代表取締役の堀井直樹氏。エムツー社内にはアレク好きが多いそうだ
リードプロデューサー及びディレクターの小玉理恵子氏。「アレックスキッド」は1986年頃にご自身がデザイナーとして開発に加わった作品であり、約33年越しにご自身のディレクションでリリースすることになった

――では、あらためて。2019年の最初のタイトル「SEGA AGES アレックスキッド」ですが、セガ・マークIII/マスターシステム用タイトルですし、今回のSEGA AGESラインナップとしては原作の発売時期が最も古い作品になりますね。

堀井氏:「SEGA AGES ファンタシースター」に続いて2本目のセガ・マークIII/マスターシステム用タイトルですね。

――SEGA AGESのラインナップに「アレックスキッド」が入ったのには何か理由などはあったのでしょうか?

奥成氏:例によって、僕がラインナップ予定を聞いたときにはもう決定タイトルのひとつに入ってましたね。

堀井氏:弊社のディレクター松岡は、セガ・マークIIIのタイトルからクオリティを確実に確保できるものを入れたかったと話していました。それに、うちには「アレックスキッド」が好きなスタッフがいて、「セガ3D復刻」シリーズでもクレジットに頻繁に登場させたりもしていましたし、ラインナップ決めの流れの中で、自分たちも遊びたいタイトルを入れてきたというところがこっそりあったかもしれません(笑)。

――3DSでの「セガ3D復刻」シリーズでも、マスコットキャラクターとしてアレクがいつの間にかお馴染みになっていましたね(笑)。

奥成氏:「セガ3D復刻」シリーズでは、元々はセガ・マークIIIのタイトルはやる予定がなかったんですよね。単独タイトルの配信ではセガ・マークIIIはやっていないですし。

 というのもセガ・マークIIIのタイトルは3D立体視化に向いていなくて、背景とキャラクターなどの階層を別けているスクロール面が少ないから、3D立体視化しようとすると全部を手作業でやらなければならなくて大変過ぎたんですよね。

 ただ、結局はシリーズ後期の「セガ3D復刻アーカイブス」では「ファンタジーゾーンII」や「アウトラン3D」などを、全部手作業で3D立体視化したんですけども(笑)。

 アレクがクレジットに登場したのは「セガ3D復刻プロジェクト」の当初の最後のタイトルだった「3D サンダーブレード」ですね。あれは「もうこれでシリーズもおしまいだから、出せなかったゲームも含めていろんなセガのキャラクターを登場させてお祭りっぽくしよう!」ということで、その中にアレクもいたんですよね。

 その後は、ありがたいことに「セガ3D復刻アーカイブス」を作ることができて、その後に海外向けの単独配信ボーナス3タイトル、そして「セガ3D復刻アーカイブス2」に「セガ3D復刻アーカイブス3」と、終了宣言後のボーナスタイムが2年も続いたのですが、それらのクレジットにも引き続きアレクが登場してなぜか目立っていて。そこはもう完全にエムツーさんでクレジットを担当していた人の趣味ですよね(笑)。

3DSで展開した「セガ3D復刻プロジェクト」の「3D サンダーブレード」に収録されていたクレジットには、セガキャラが大集合!中心に他のキャラを押さえてアレクの姿があるのも、まさにエムツーのアレク愛によるもの

堀井氏:弊社の高橋ですね(笑)。本人から直接聞いたわけではないですけど、とにかく「アレク」を登場させたいというのがにじみ出ていましたね(笑)。

 「アレックスキッドのミラクルワールド」が発売された頃に楽しんでいた我々としては、セガのマスコットキャラクターとしてのアレクは親しみがあって、結構本数も出ていて特に海外ではより親しまれていたということですし。でも、その後にあっさりとソニックにその座を奪われてしまったわけで、アレクにも何かしてあげたいという気持ちがあるんですよ。

――“俺たちのアレク”的な。

堀井氏:ネタ的なところもありつつですけど、社内では話題にあがるんですよ。

――エムツーさんの社内にあった「アレックスキッド」愛が、今回のSEGA AGESでは原作の開発者の1人である小玉さんが合流したことで、「ついにその時が来た!」っていう感じになったんですかね。

堀井氏:「ファンタシースター」も「アレックスキッド」も、小玉さんがいらっしゃるから、なんでも聞けるし、何か追加でやるにしても小玉さんに見て頂いているというお墨付き感が出ていいのでは、というのは松岡は考えたと思いますね。

――そういった諸々あって、松岡さんからのSEGA AGESラインナップ案に最初から「アレックスキッド」が入っていたと。

小玉氏:あと、私が考えたのは「アレックスキッド」って日本よりも海外の人気がより高くて、今でも覚えてもらっている人が多いんですよ。レトロなタイトルの特集などでアレクがフィーチャーされたり、グッズも今でも発売されたりして。今回のSEGA AGESは日本だけなく世界でも配信していくというところもありますので、その点からも「アレックスキッド」はありかなと思ったんです。

奥成氏:日本やアメリカだとセガ・マークIII/マスターシステムというハード自体が、メガドライブ、セガサターン、ドリームキャストほどメジャーではなくて、「アレックスキッド」自体も知名度が高くないのですが、ヨーロッパだとナンバーワンハードがマスターシステムだった時代が結構あって、「アレックスキッド」の知名度も高いんですよ。ヨーロッパのゲームミュージアムなどの企画展では必ず「アレックスキッド」がメインコンテンツのひとつにあったりして。

 あと、Wiiのバーチャルコンソールに「アレックスキッド」を出していましたが、そこでもヨーロッパ地域のダウンロードランキングのベスト10に入ったりしていたんですよ。バーチャルコンソール全体のランキングなので、「ゼルダ」や「マリオ」なども入っている中でですよ!

堀井氏:すごい!

奥成氏:ヨーロッパでは、メガドライブの「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」よりも、マスターシステムの「アレックスキッド」の方が売れてたりするほど人気なんですよね。それが日本だと「セガガガ」で知ったという人が結構いて、なんとなく影のあるキャラクターになってしまってたり(笑)。

※2001年発売のドリームキャスト用タイトル「セガガガ」に登場したアレクは、ゲームキャラクターを辞めてゲームショップの店長をしているという、哀愁を感じさせる設定だった。

――確かに日本ではマリオに対抗したものの、そこまで奮わなかったキャラクターみたいなイメージになってしまっているかもしれませんね。

奥成氏:そうなんです。でも、海外ではすごく定着した人気キャラクターだったんですよ。とは言えヨーロッパの人でも「アレックスキッド」が好きな人というと多分もうアラフォーかアラフィフといった層にはなるのですが。

 マスターシステムがヨーロッパで1番活躍していた時代というのは1990年代の前半なんです。日本では1988年にメガドライブが発売されたタイミングでマスターシステムの市場は終了しているわけですが。

――当時は海外には国内よりも一世代前のゲームハードが提供されるという傾向がありましたね。

奥成氏:いえメガドライブはメガドライブで出てヒットしているんです。しかしヨーロッパ全体では「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」にしてもマスターシステム版が売れたりしていますね。そして、海外でのみ提供されたマスターシステムの廉価新ハードである「マスターシステムII」に「アレックスキッド」はプリインストールされたんですよ。なので、ヨーロッパでは誰もが遊んだことのあるゲームになっていったんです。

――なるほど。今活躍されているゲームクリエイターさんや開発者、特に海外の人に影響を与えた可能性も非常に高いタイトルと言えるかもしれないですね。

奥成氏:ヨーロッパのゲーム好きの人なら、「アレックスキッド」や「ワンダーボーイ」を知っている可能性は高いでしょうね。

堀井氏:セガ好きの人はそうでしょうね。

――そうした影響の大きさも小玉さんのGDC 2019パイオニア賞受賞(※)の理由のひとつなんでしょうね。

小玉氏:(笑)。

堀井氏:あると思いますよ。世界中の開発者の人達で選ぶ賞ですからね。

奥成氏:海外の人が小玉のプロフィールを見ると、「アレックスキッド」を見て「やったよ、これ!」ってなるでしょうし、もしかしたら「ファンタシースター」より有名かもしれない(笑)。

――その受賞の年に「アレックスキッド」が出るというのは奇遇な感じがしますね。

小玉理恵子氏は、2019年の「Game Developers Conference(GDC)」での、世界中のゲーム開発者が選出するゲームアワード「Game Developers Choice Awards(GDCA)」にて“パイオニア賞(The Pioneer Award)”に選ばれた。日本人の受賞者は小玉氏で3人目となる。受賞者発表の記事はこちら

――小玉さんとしては「アレックスキッド」にはどんな印象がありますか?

小玉氏:「アレックスキッド」は私がセガ入社2年目ぐらいに作っていたタイトルで、私はキャラクターデザインではなく、背景のほとんどを描いたんですよね。当時はプロジェクトに参加している時間も少なく、回転早く作っていた時期で、無我夢中だったというか、細かな思い出までは残っていないんですよね。

 でも後々にインターネットで海外の開発者ともやり取りをするようになったら、「『アレックスキッド』プレイしていました!」って言ってもらえたりして。

 「お父さんが『アレックスキッド』が好きだったから、子供の僕の名前をアレックスにしたんですよ」って言われたこともあるんですよ(笑)。

堀井氏:お父さーんっ!

奥成氏:すごいですねー!

小玉氏:その人は今は日本在住で、日本語もペラペラなんですけどね(笑)。当時はヨーロッパでマスターシステムが人気だったという話は知らなかったので、2000年代に入ってインターネットの普及があって知っていった感じで。「そんなことになっていたのかー」って後から思ったんですよね。

――なるほどー。それにしても自分の名前のきっかけになったという話を、しかも小玉さんにされたというのはすごい話ですね!

堀井氏:良い話ですよねー。日本だと「子供にギャルゲーのキャラの名前をつけたんだ、嫁には絶対内緒だぞ!」みたいな話を飲みの席で聞くので(笑)。

全員:(笑)。

――子供の頃に「キャプテン翼」が好きで、今では世界トップクラスのサッカー選手になったという人もいますし、それに近いものもあるかもしれませんね。

奥成氏:「アレックスキッド」をやってた人が今は世界屈指の拳法家になっている可能性が……?

全員:(笑)。

奥成氏:SEGA AGESの起動後のオリジナルムービーでもアレクがばっちり登場しますしね。最初に見た時には「ここに出てくるのか!」って思いました。

小玉氏:私もあれを最初に見た時にはびっくりしましたね(笑)

堀井氏:司会進行ですよ! MCですよ。

奥成氏:あのオープニングムービーにはラウンドガールとしていろんなゲームのキャラクターがランダムに登場するのですが、実は、あのラウンドガールには「ゲームに登場するキャラクターは出さない」という約束事があるんです。例えば「SEGA AGES ファンタシースター」では、ゲームに登場するアリサはラウンドガールにはしないようにしています。

 そういうレギュレーションで作ってきたにも関わらず、今回はアレクがMC役で固定で登場しているんですよね(笑)。そこが一体どうなっているのかは……買ってみてのお楽しみです(笑)。

SEGA AGESシリーズのオープニングムービーではついにMC役で華やかに登場したアレク。この画像は「SEGA AGES ゲイングランド」でのものだが、今回の「SEGA AGES アレックスキッド」でアレクがどうなっているのかは……製品で見てのお楽しみ

――なるほど、いろいろなところに登場させてきた結果、今回はそんな特殊な問題も発生したんですね。

堀井氏:そうなんですよ。アレクは比較的自由にさせてもらえるということもあって、アレク好きのスタッフがいろんなところに出してきたのですが。

奥成氏:ソニックとかぷよぷよのキャラなどの、今も最新作が出ているゲームのキャラクターは、エムツーさんとしては扱いに気を使うわけなんですよね。

――扱っている開発チームの人がいらっしゃいますからね。

奥成氏:そうそう。で、エムツーさんは逆に、しばらく新作が出ていないとかのゲームはノリノリでいじっちゃうんですよ(笑)。

堀井氏:いじったことがきっかけで新作が出て、後に気を使うべき存在になってくれたら嬉しいじゃないですか!

――キャラいじりをしたことで存在感が蘇っていくという。そういう意味ではアレクはまさに「セガ3D復刻」シリーズの頃からの地道な活動が実を結んでいるという感じがしますね。

堀井氏:ついに念願叶ったという感じです!

プレイモードは3つ! チャレンジモードではセガエイジスオンライン版にあったトライアルを収録

――「アレックスキッド」の移植作業はいかがだったでしょうか?

奥成氏:「アレックスキッド」は、2012年に配信したプレイステーション 3とXbox 360で展開したセガエイジスオンラインではトライアルモードというオリジナル要素を入れて配信しましたし、バーチャルコンソールでも配信したので、今回で3回目。なので、作りやすいだろうという思惑はありました。

 そこで僕からは、「じゃあ、PS3/Xbox 360版の要素も入れつつ、新しい追加要素も何かやりましょう!」と、ディレクターの松岡さんにお話ししたんですよ。

――なるほど。

奥成氏:今回は収録しているモードが3つありまして、まずはオリジナル版そのままを楽しめる「オリジナルモード」ですね。こちらはもう原作そのままです。

 次は、PS3/Xbox 360版での新要素だった「トライアルモード」を今回あらためて収録している「チャレンジモード」です。

 PS3/Xbox 360版だと3つのルートを用意していたのですが、そのうち1つは全ステージをクリアするというもので、普通にプレイするのにも近くてちょっと遊びづらかったので、今回はそれを外して。それ以外の2つを収録しました。

 2つのうちの1つは、「大空に挑戦」はプチコプターという乗り物に乗った状態で挑むタイムアタックですね。「アレックスキッド」は集めたお金でアイテムを買うというRPG的な要素があるのが特徴で、スコパコサイクルというバイクと、プチコプターという自転車を漕いで飛ぶヘリ、スイスイボートという水上バイクがあるのですが、3つとも操作にクセがあるというか。上手く使おうとするとなかなか難しいんですよね。

 特にプチコプターはお金を稼ぐのに重要な乗り物だったりするのですが難しい。そこで、チャレンジの「大空に挑戦」はプチコプター操作の練習に最適ですし、練習したあとで「俺はプチコプター使いとしてどの程度の腕前なのか」を挑めるというタイムアタックになっているというわけです。

 もう1つのチャレンジである「じゃんけん大王に挑戦」は乗り物なしでのタイムアタックですね。こちらはじゃんけん大王の城を攻略するというもので、終盤ステージの練習にもなります。

 セガエイジスオンラインで腕を磨いた人はぜひ、今回のNintendo Switch版のオンラインランキングも荒らして頂ければと思います(笑)。

チャレンジモードのひとつ「じゃんけん大王に挑戦」。最終ステージのダンジョンを使ったタイムアタック
チャレンジモードのひとつ「大空に挑戦」。プチコプターで障害物を華麗に避けて最短クリアを目指す

追加要素搭載の「AGESモード」では、小玉さん監修の新規ビジュアルに、もしもFM音源対応をしていたらのBGMアレンジなど、多くの要素を追加!

――3つのモードがあるということは、次の1つが新要素を追加したモードでしょうか。

奥成氏:そうです!「AGESモード」ですね。今回のAGESモードは「SEGA AGES ファンタシースター」の時と考え方は近いのですが、今プレイするためにも遊びやすく、そして楽しめるようにするという方向性です。

 というわけでまず1つ目の追加要素は、「新規のカットインビジュアルの追加」です!

AGESモードでは、ステージ開始前に新規の追加ビジュアルが楽しめる

奥成氏:オリジナル版だとステージ開始前に地図が表示されますけど、そこに新規に作成したビジュアルを追加しています。これはアレクの道中に待つ「この先にはこんなドラマがあるよ」というか予告というかカットインですね。それをセガ・マークIII準拠のカラーで描いています。

――こちらは何か別の素材を持ってきたとかではなく、完全に新規で制作したビジュアルなんですか?

堀井氏:そうです。弊社のスタッフが愛情を込めて描かせて頂きました!

奥成氏:当時風の絵を、各ステージのオープニング分作っていますね。

――こちらはもちろん小玉さんが監修されているわけですよね。

堀井氏:そうなんですけど……最初は「似てない!」って言われちゃって。

小玉氏:(笑)。

堀井氏:ダメ出しされた今あらためて見ると、確かに「味はあるけど似てないですね」って思うんです(笑)。

エムツー制作の新規ビジュアルに小玉氏から「似てない」というダメ出しも

奥成氏:セガ・マークIII準拠で描いているので、色数や解像度も当時と同じ制限でやってはいるんですけどね。

――当時に小玉さんががんばっていたような苦労を今やったわけですね(笑)。でもこれこそ、小玉さんがいるからこそ挑める追加要素ですね。

堀井氏:小玉さんに似てないって言われたらもう問答無用でやり直しですよ! みんな納得です。「似てないってよ!」、「わかった!じゃあ、もっと似せる!」ってすぐにやりなおすべき案件。

――(笑)。小玉さんから結構リテイクを出された感じですか?

小玉氏:いえ、そこまで多くはなかったんですけど(笑)。アレクって、ゲーム操作中のキャラクターであったり、おにぎりを食べている絵だったりなど、いろいろあってバラつきもあるのですが、そのどれとも違う感じの絵になっていたので。

――なるほど、どれかには寄せてほしいというような。

小玉氏:そうですねー。

堀井氏:アレクは、シニカルな絵を描く人がシニカルに描くと、かわいくないんですよね。

奥成氏:ちょっと下手ウマな感じを出していたんですよね。なので、リテイクではそういうのを気にしないでやってもらったという感じでしたね。

小玉氏:あとは、似せるという以外に「もうちょっとドット絵の雰囲気を残して欲しい」というのもお願いしましたね。

堀井氏:ドット絵感をより出すというか。

――なるほど。そのあたりのこだわりは小玉さんに監修頂いたからこそですね。

堀井氏:もし小玉さんがいらっしゃらなかったら、新規の絵を原作に追加するとかはなかなか恐れ多い試みですね。似ないままに絵が世に出てしまったりもするかもしれないし。監修頂いていることで、解釈を間違ったりすることもないですから。とはいえそれでも、小玉さんに見てもらう時は滅茶苦茶恐れ多い感じでしたが!

――(笑)。

奥成氏:次のAGESモードでの追加要素は、「BGMのFM音源アレンジ」です!

堀井氏:「アレックスキッド」が出た時にはFMサウンドユニットがまだ発売されていなかったのですが、今回は“もし「アレックスキッド」がFMサウンドユニットに対応していたら?”ということをしています。

 FMサウンドユニット対応の音源は、「セガ3D復刻アーカイブス2」の時にはマスターシステムの「ファンタジーゾーン」で、もしもFMサウンドユニットに対応していたら……という形でのアレンジをしたわけですけど、あの時はFM音源のレジスターを毎フレーム好き放題に叩いて鳴らせる限界に近い音を出していたんです。

 ですが、今回の「アレックスキッド」では当時のセガさんがFMサウンドユニットを使って鳴らしていた音で「アレックスキッド」の曲をアレンジしたというものになっています。なので今回のアレンジは耳障りがいいというか、「あぁ、なにか聴き覚えがある!」っていう音だと思いますね。

 「ファンタジーゾーン」のアレンジは、正直なところあれでもできることの8割ぐらいのものではあったのですが、聴いた皆さんからは「これ、FMサウンドユニットの実機だと鳴らないでしょう?」っていう声があったんです。それを言われて、「あぁ、そう思われてるんだ……。」って悲しい思いをしたんです(笑)。

“もしも「アレックスキッド」がFMサウンドユニット対応だったら”というコンセプトで、FM音源アレンジを収録!FMサウンドユニットの発売は1987年の秋と、「アレックスキッド」発売の約1年後だった

奥成氏:わざわざ後日にイベントで実機とROMを用意して、「ほら、ちゃんと実機で鳴ってるでしょ!?」って証明してましたよね(笑)。

――やってましたね(笑)。

堀井氏:そうそう、ごく一部の人だけが知ってるんですけど、そんなことまでするぐらいだったので、今回は、「これはマスターシステムで鳴る音だね」ってストレートに思ってもらえるものにしています。

――もう少し自然な感じというか。

堀井氏:セガさんが使っていた音色や作り方をそのまま使って作っているという感じですね。

奥成氏:マスターシステムの「ファンタジーゾーン」の時は、元々にアーケード版というオリジナルがあったので、FMサウンドユニットを使ってアーケードに曲を近づけてみるというのがあったんですよね。「マスターシステムも駆使すればここまでできるんですよ!」っていう意気込みが。

 でも「アレックスキッド」はオリジナルがPSGで鳴っているセガ・マークIII版そのものなので、ここからあまり余計なことはせずに、この曲の作りや元の良さを残したままでFM音源に対応させる。つまりそれは、あの当時にセガ・マークIIIで遊んでいた時に、FMサウンドユニット対応のゲームでPSGとFM音源を切り替えたら「あ、音が豪華になったな」って思えるような感覚に近いわけです。

――今回目指しているのは、より当時のFMサウンドユニット対応に近い再現なんですね。

奥成氏:そうです。FMサウンドユニットが発売されたのは、「アレックスキッド」が発売されてから1年以上先のことだったのですが、その“もしも”を今回やってみたという。

堀井氏:「アレックスキッド」の曲を知っている人で、なおかつFMサウンドユニット対応タイトルで散々遊びこんだ人なら、「FMサウンドユニットで鳴らすとしたら、このパートはこういう音で鳴らすんじゃないかな?」って想像したら、結構当たるんじゃないかなって思います。

FM音源アレンジの曲はサウンドプレーヤーでももちろん楽しめる。アレンジには曲名のあとに(FM)という表示がついている

――ちょっとFM音源アレンジを聴いてみてもいいですか?

奥成氏:オプションのサウンドプレーヤーで聴けるのでPSGの原曲と聴き比べてみましょう。

(メインテーマを、原曲とFM音源アレンジとで比較)

――あーなるほど! いかにもよく耳にした音色の感じ。暖かみや素朴さがアップしたような響きになりますね(笑)。

堀井氏:ですね、親しみのあるOPLLのラッパの音が味があるんですよ。

――このアレンジはどなたが担当されたのでしょう?

堀井氏:今回はChibi-Techが担当しています。

※Chibi-Tech氏は、エムツー所属のサウンドクリエイター。ゲームハードの音源を活かした楽曲やチップチューン系の楽曲を手がけており、エムツー制作タイトルの数多くで、独自のリミックスやメドレーアレンジ楽曲を手がけている。

奥成氏:Chibi-Techさんは以前のセガエイジスオンラインでも、各タイトルごとにそのゲームの音源ドライバを使ってメニュー曲を新規で作るという、変態的なことをやってくれたこともあるので、今回のようなアレンジはお手のものという感じですよね。

堀井氏:お手のものですねー。OPLLギリギリまで使ってって言ったら、そういう風にやるでしょうけど、松岡からは今回は「当時のセガ風でやってみて」とお願いしています。

奥成氏:Chibi-Techさんが本気を出すと、「シュタゲ」の時みたいに「これ絶対ファミコンで鳴らないよね?」って言われる感じになっちゃうからね(笑)。

堀井氏:マスターシステム「ファンタジーゾーン」の時のアレンジは弊社の春日がやったのですが、2人とも、「実機では鳴らないだろうって言われないように抑えめにしました!」って言って出したものなのに、そう言われてしまうという感じなんですよね。

――本当は本気を出したらもっとすごいことに。

堀井氏:そうそう、実機でももっと鳴るんですよ。

奥成氏:もう1つ、当時のファンならニヤッとしてもらえるかなという追加要素があるのですが。当時セガはゲームミュージックのレコードを出し始めた頃で、最初に「セガ・ゲーム・ミュージック VOL.1」っていう「アウトラン」をメインにしたレコードを出したんです。そのレコードのB面には「アレックスキッド」の曲が収録されているんですよ。

 そしてそのレコードには「スコパコサイクル」という乗り物の曲があるんですけど、その曲はゲーム中には鳴らないんですよ。

1986年に発売された「セガ・ゲーム・ミュージック VOL.1」のジャケット。アウトランをA面でメインに収録し、B面には「スペースハリアー」の曲を収録。その後に「アレックスキッド」の曲も入っていて、そこに幻の「スコパコサイクル」の曲があった

――「スコパコサイクル」の曲は、ゲーム中にデータとしても存在していないのですか?

奥成氏:いや、中には入っているんですよ。でもゲーム中では聞く方法がないです。鳴らない理由もあったのかもしれないですけども、当時のスタッフに聞いても覚えてないみたいで、わからないんです。ちなみに海外版では鳴ります(笑)。

堀井氏:先ほど小玉さんもおっしゃっていましたが、開発期間がタイトでスピーディーにプロジェクトが入れ替わっている時代ですからね。

奥成氏:まぁそんな曲があるので、今回のAGESモードではスコパコサイクルに乗るシーンでは「スコパコサイクル」の曲が流れます!

――AGESモードということは、FM音源アレンジで流れるんですか?

奥成氏:FM音源です!

――オリジナルの、レコードでしか聴けなかった曲の方は?

奥成氏:そちらは海外版を英語でプレイしてください(笑)。あとサウンドプレーヤーで聴けますので、もしレコードを持っていないという人は、そちらで聴いてみてください!

――オリジナルの曲も聴けるのは嬉しいですね。さすがに当時のレコードは持っていない人がほとんどですし。

堀井氏:持ってないよなぁー!

奥成氏:いやでも、当時のオリコン上位になったぐらいのレコードだから、当時からのゲームファンの人なら記憶にあるっている人も多いと思いますよ。

堀井氏:それにしても、最初に出したレコードに「アウトラン」の曲とセットで「アレックスキッド」を入れているというのは感慨深いですよね。

小玉氏:なんでその組み合わせだったんだろうって、不思議に思うところもありますけどね。

奥成氏:どうなんでしょうね。「アウトラン」がA面で、「スペースハリアー」の曲がB面に入っているその後に「アレックスキッド」の曲が入っているので。すごい組み合わせですよね。当時、セガがセガ・マークIIIとひいては「アレックスキッド」に力を入れているのかというところでもあったと思いますよ。

 「アレックスキッド」はその他にもプレゼント用に缶ペンケースも作ったし、ボードゲームも作ったし。当時のセガが今みたいにマーチャンダイジングを色々とやっていたなら、もっと「アレックスキッド」グッズが出ていたに違いないですよ! アレクのお弁当箱とかだってあったかもしれない!

堀井氏:アレクのお弁当箱はすごくキャッチーでありだと思う! 俺なら使っていた!

奥成氏:最近は日本のアパレル系のメーカーさんが「アレックスキッド」のグッズなどを作って頂いていますしね。今こそ時代はアレクですよ(笑)。

当時「アレックスキッドのミラクルワールド」の説明書に付属する応募券をセガに送ることで、合計10,000名にプレゼントされた「アレックスの走るカンペン」
こちらはボードゲームの「アレックスキッド ゲーム ミラクルワールド大冒険」

奥成氏:ちなみに今回の「BGMのFM音源アレンジ」と「新規のカットインビジュアルの追加」は、実機のカートリッジに載せられる容量や仕様にするという点にはこだわらずに作っています。

 というのも、まずFM音源アレンジはセガ・マークIIIでのFM音源対応って、あくまでFMサウンドユニットという追加ユニットによるものなので制限があって。BGMをFM音源にするとSEはPSGで鳴らせなくなっちゃうんですよね。全部をFM音源で鳴らさないといけなくなる。でも、FM音源でSEを鳴らすとクセがあるので。今回はSEはあくまでPSGで鳴らすようにしています。

堀井氏:正確に言うとFM音源とPSGを同時に鳴らすこともできるものの、マスターシステムならノイズが乗らないのですが、セガ・マークIIIでFMサウンドユニットを使っているときにPSGも鳴らそうとするとノイズが乗るんですよね。なので禁じ手になっていたんです。

 ここをどうにか実機のカートリッジで自然に動くようにするとなると、また2~3カ月必要になってしまうので。やりたいとは思うものの、今回はそこにはこだわらずにやっています。

奥成氏:今回は効率を重視しての判断をしていますね。「新規のカットインビジュアルの追加」に関しても、カートリッジ容量を意識せずに追加データを乗せています。元の「アレックスキッド」は1Mbitの容量にギリギリまで詰め込んでいるゲームなので。

堀井氏:「ノイズの乗らないマスターシステムの上に、もう1個マスターシステムの拡張機能があるとして作っている」みたいな感じですね。動かし方としてはマスターシステム2個分で実現しているというやり方です。

奥成氏:ある意味、今回はギガドライブ的な追加の仕方をした要素になっていますね。

※「ギガドライブ」はエムツーが「セガ 3D 復刻プロジェクト」を進めるなかで開発した、3DS上でメガドライブ+3D立体視を実現するためにセガの新ハードとして仮想設計したものの通称。詳しくは「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」インタビューを参照頂きたい。

奥成氏:「アレックスキッド」は元のROM容量の範囲内で手を入れるのが、非常に大変なんですよね。セガエイジスオンラインの時に「じゃんけん城で逆送するとハングアップする」という有名なバグをできないように直すことにしたのですが、エムツーさんは滅茶苦茶に苦労して。というのも、カートリッジ容量の1Mbit内に納めたいけど修正データを入れると越えてしまうから。そこでなんとか、残り空き容量の数bitのパッチを作って当てるということを(笑)。

 それぐらいのわずかな空きしかないので、今回のFM音源アレンジなんて入れた瞬間に2Mbitを越えちゃうわけで、まったく入らないんです(笑)。そんなわけで今回の追加要素はあくまでAGESモードというギガドライブ的な遊びとして楽しんで頂ければと思います。

――なるほど。セガ・マークIIIのオリジナル版のカートリッジ容量に追加データを納めるというのは確かに厳しいですよね。そこはROM容量が少なかった昔のタイトルであればあるほどに難しくなるという。

堀井氏:そうなんですよー。

「アレックスキッド」のコンティニュー画面。ゲームオーバーの曲が流れているわずか数秒の間に上を押しながらボタンを8回押すという、かなりギリギリの入力をするとできる裏技だった

奥成氏:AGESモードのお次の追加要素は「コンティニューが標準で表示される」というものですね。「アレックスキッド」のコンティニューって、ゲームオーバーになった時の「チャッチャラッチャ チャッチャッチャー」っていう短い曲が流れている間に「上を押しながらボタンを8回押す」という操作をしないと出ないんですよね。

 以前にゲームセンターCXで「アレックスキッド」に挑戦されていた回があったのですが、有野課長がやられて「あかん、ゲームオーバーになってもうたー!」って言っている間に曲が終わってコンティニューができず、また最初からになるということがあって(笑)。

――「しまったー! また忘れてたー!」っていうアレですね(笑)。

奥成氏:そうそう、スタッフの人に「コンティニュー早く!」って言われるぐらいでした。そうなってしまうくらい「アレックスキッド」のコンティニューは事故が多かったんですよね。しかも“上押しながら”っていうのがまた肝で、セガ・マークIIIのパッドで上を入れていても微妙に斜めに入ってしまったりとかもあって。

 そこを気にした松岡さんが、今回のAGESモードではコンティニュー画面が何もしなくても登場するようになっています。ただし「アレックスキッド」のコンティニューは、ゲーム中に集めたお金が400バウム必要なんですよね。なのでお金を貯めておかないといけないのですが、お金が足りないときはサービスでまけてくれますので(笑)。

――実質コンティニューし放題ではありますけど、お金があるときは取られちゃうんですね。

堀井氏:そうなんです。お金がある人からはちゃんと頂きます!

※最終的な調整により、所有バウムの数量にかかわらず、コンティニューの際にバウムを消費しない仕様となりました。お詫びして訂正いたします。

お金の概念があって、ステージ中でお金を集めていくのが「アレックスキッド」の特徴のひとつ
ショップでアイテムや乗り物を購入できるのだが、コンティニューでもお金を払うことになるので、お金をどう使うかがポイントに

奥成氏:次がAGESモードの最後の追加要素ですが、こちらもプレイを助けるものですね。「ヘルパーモード」です!

ヘルパー機能を搭載!
敵に当たって死んでしまっても……
ヘルパーで5秒前に巻き戻し!

奥成氏:「SEGA AGES ゲイングランド」にも搭載した“いつでもプレイを巻き戻しできる機能”です。「SEGA AGES ゲイングランド」に負けず劣らず事故死しやすい「アレックスキッド」が、この機能を駆使すれば超簡単ゲームに……なっているかどうかはアレですけど、実際にプレイしてお試し下さい(笑)。

小玉氏:(笑)。

堀井氏:「SEGA AGES ゲイングランド」も巻き戻し中の動きがシュールでしたけど、「アレックスキッド」もかなりシュールですよ(笑)。

奥成氏:「アレックスキッド」はキャラクターの操作感にクセがあるというか。結構しょっちゅうやられちゃいますけど、今回もボタンを押せばいつでも5秒戻せますので。

――巻き戻しの内部的な処理についてなのですが、5秒戻したあとにもう1度5秒前へ戻そうとしても戻せないですよね?

堀井氏:5秒前のバッファを常に1つ持ち続けるという仕組みなので、5秒前にはいつでも戻せるのですが、それより前には戻せないですね。

――なるほど、そのような仕組みなんですね。

奥成氏:5秒戻せるだけでもリトライし放題ですから、お気軽に「アレックスキッド」を冒険しやすくなっているかと思います。

堀井氏:ミラクルワールドを漫遊するのが楽になっています。

奥成氏:とは言え、なかなか死ななくなったことで「アレックスキッド」が簡単なゲームになるのかというと、そうでもなくて。例えば、高いところにあるアイテムをどうやったら取れるだろうかなど、ちょっとしたアクションパズル的な部分はそのまま楽しめるので。ヘルパーがあることでゲームの面白さがスポイルされているということはないと思います。

堀井氏:再チャレンジがしやすくなったという感じですよね。めげにくくなった。

奥成氏:このヘルパー機能を「アレックスキッド」に搭載できたのは、「SEGA AGES ゲイングランド」できちんと実装できた後だったからという背景もあって。その順序でよかったというのがありますね。「SEGA AGES ゲイングランド」に劣らず、「アレックスキッド」もヘルパー機能が必要なゲームだと思います。

――「アレックスキッド」の難易度だと、当時に子供の頃にプレイしていた人でも、クリアまでは厳しかったでしょうね。

堀井氏:まぁでも、当時は年に2、3本しかゲームを買えなかった頃ですし、簡単にクリアできてしまうのも微妙だったのかなと。とはいえ、アラフィフになった今はそうも言ってられないですしね。

――今は自身の衰えが。

堀井氏:そうそう。遊ぶ時間もなかなか取れないですからね。そのあたりを考慮したAGESモードであらためて挑んでもらえれば。

――小玉さんとしては今回の機会に久しぶりに「アレックスキッド」を触られたと思うのですが、思うところございましたか?

小玉氏:「これは難しい!」って思いましたね(笑)。こんなにシビアだったっけって驚きました。当たり判定もシビアですし、本当に覚えゲーだなって感じるところもあって。2面のサソリとかも「こんなに小さなエネミーを描いていたのか」って。私たちが当時に作ったんですけど(笑)。

堀井氏:そうですよ! セガのCSの皆さんが作ったんですから。しかも当時はテレビにRFスイッチで繋いでいて、ボケた画面で見ていましたからね。

奥成氏:そうそう、緑の中から赤い尻尾がピョッと出ているだけで、なかなか気がつきにくくて(笑)。

堀井氏:「サイ○リア」の間違い探しレベルですよ!

全員:(笑)。

――そういう意味では、今回も画面モードにブラウン感を再現した「ヴィンテージ」も備えているのでしょうか?

奥成氏:はい、しっかり搭載していますので。当時っぽい画面の雰囲気でお楽しみ頂きます。

画面モードとエフェクトを「ヴィンテージ、スキャンランライン+スムージング」にすれば、当時のブラウン管テレビでプレイしていた雰囲気が出る
画面モード「ノーマル」
画面モード「フィット」
画面モード「フル」
画面モード「ドットバイドット」
画面モード「ヴィンテージ」で画面エフェクト「スキャンランライン+スムージング」

奥成氏:ちなみに画面表示の話ですと、今回は壁紙にもご注目頂きたいんですよね。画面の上下には思わせぶりなジャンケンマークが並んでいるので。いざというときに見ると、いいことがあるかもしれませんね(笑)。

「アレックスキッド」の個性のひとつ、「ボスとのじゃんけんバトル」。実は壁紙に秘密があるとか……?

海外版ももちろん収録! マスターシステムIIプリインストール版のみの“ハンバーガーVer.”も

海外版も収録。壁紙もそれに合わせて海外パッケージ風に

――海外版の収録などはどのようになっているでしょう?

奥成氏:これはセガエイジスオンライン版と同じく、「日本」、「海外」、そして「ハンバーガー」を収録しています。セガエイジスオンライン版よりも表記をわかりやすくしていますね。

 「日本」はそのまま日本語版ですね。「海外」は英語版です。「ハンバーガー」というのは“マスターシステムIIのプリインストール版”なんですね。

――海外でのみ販売されていたマスターシステムIIにプリインストールされていた「アレックスキッド」ですね。

奥成氏:そうです。海外版とハンバーガー版の違いというのは、そのままアレクが食べているのが、おにぎりではなくてハンバーガーになっているんですよね。その変更にはオリジナルスタッフは関与していなかったらしいのですが(笑)。

堀井氏:勝手にハンバーガーにされた的な。

今回特別にご用意頂いた当時の資料より、海外版「アレックスキッド」のパッケージイラストのコピー。日本のパッケージイラストとは大きく路線変更されている

奥成氏:マスターシステムIIというのはヨーロッパメインで作られたハードで、そこにプリインストールするソフトですので「おにぎりから変えた方がいいのでは?」と、なったのだと思うんですけどね。

 ちなみにプリインストール版ではなく、普通にカートリッジでの海外版「アレックスキッド」は、おにぎりなんですよ。

――なるほど、プリインストール版だけの変更なんですね。

奥成氏:そうです。おそらくヨーロッパではハンバーガー版の方が多く出回ったのだと思うのですが。ちなみにハンバーガー版にはもうひとつ大きな変更があって、なんとジャンプと攻撃のボタンが逆なんです!

堀井氏:それによりスタンダードなボタンレイアウトにされているんですよ!

――「アレックスキッド」って、左ボタンでジャンプ、右ボタンで攻撃という独特は配置だったんですよね。

堀井氏:そうそう、「なんでこっちがジャンプなの!?」っていう操作だったんです。

奥成氏:そこが、ハンバーガー版では入れ替えられて、一般的なアクションゲームの操作に迎合されているんですよ。ただ、これはバーチャルコンソール版から僕らはそうしているのですが、4ボタンの左右どちらにもジャンプボタンをアサインしているので、オリジナル版とハンバーガー版のどちらの配置でも操作できるようにしてあります。もちろんボタンコンフィグで変えることもできますしね。

――なるほど、指の置き方次第でどちらにもなるようにレイアウトされているんですね。

奥成氏:ちなみにハンバーガー版にすれば壁紙も変わりますので。

ハンバーガー版にすると、壁紙もちゃんとハンバーガーに!

「ファンタシースター」の原点は「アレックスキッド」? 小玉さんに聞く当時の秘話の数々

当時の「アレックスキッド」の資料を懐かしそうに見る小玉氏

――小玉さん監修のもとでの、エムツー製の最新「アレックスキッド」となったわけですが、小玉さんとしてはいかがでしたか?

小玉氏:リメイク等のお話を頂いた時にはいつも、もうオリジナルのスタッフを気にせずに、新しい人が新しい気持ちで作ってもらえればいいのかなって、お伝えしているんですよ。昔にファンだった人が今はゲーム開発者になったのなら、自分たちの気持ちで作ってくれればと思うんです。

――オリジナルスタッフの方ならではのお話ですね。

堀井氏:ですねー! 暖かい目で見守って頂いているというお話で。ありがたい限りです。

――オリジナル版制作当時はどのような感じだったのでしょうか?

小玉氏:そうですね……。キャラクターデザインをされたのは私の先輩デザイナーの方で、メインプログラマーは私と同期の人で。

 メインの企画をされたのはオサール・コウタさんこと林田さんなのですが、彼とはその後に「ファンタシースター」を一緒に作りましたね。

奥成氏:「ファンタシースター」の原点は、ある意味「アレックスキッド」にあるんですよ。「ファンタシースター」のゲーム中には、「キミは兄のイグルを探しているんだろう?」みたいな会話があったりするのですが、それは「アレックスキッド」の物語の話なんですよね。

 それに、「アレックスキッド」には重力を無視して移動できる便利なアイテムがあるのですが、そのアイテムの名前は「サイコウォンド」なんです。「ファンタシースター」シリーズではお馴染みですよね。今ではサイコウォンドをWebで検索しても「PSO」ばかりで「アレックスキッド」はだいぶ下になっちゃっていると思うのですが(笑)。

――なんと! ちょっとしたファンサービスというか。お楽しみがあったんですね。

堀井氏:当時は「アレックスキッド」の翌年に「ファンタシースター」が発売されたので。

――なるほど。連続してセガ作品を楽しんでいる人に向けた感じですね。

奥成氏:オサールさんは他にも「ピットポット」というゲームも手がけられていて、そちらも「アレックスキッド」とストーリーが繋がっていたりするんですよね。

 「アレックスキッド」のアレクの兄のイグルは、ルーニー姫というお姫様と一緒にじゃんけん大王に囚われていてそれを助けるのですが、イグルは「ピットポット」というゲームの主人公でもあって、そちらでもルーニー姫がさわれているんです(笑)。オサールさんは作品同士を関連させるのが好きだったんでしょうね。

小玉氏:そうだろうねー。

奥成氏:昨年に「SEGA AGES ファンタシースター」をプレイして頂いた人は、今回「SEGA AGES アレックスキッド」をプレイして頂けると、「あれはこういうことだったのか!」ってなるかと思います。

――当時とは逆の流れで味わっていくという。

小玉氏:オサールさんは「30年後にこういうことも起きるかもしれないと思って仕込んでいたんだ!」って言い張るかもしれないですが。私的にはそんなことはないだろうなって思いますね(笑)。

全員:(笑)。

――当時に小玉さんが手がけられている仕事で覚えていることなど、なにかございますか?

小玉氏:背景のいろんなものを描いていたのは覚えていて、タイトル画面の「タタンタタン、タタンタタン」っていう曲に合わせて、コマが1個ずつ出るようにしてねって、プログラマーさんにお話したということもありましたね。

 でも、タイトル画面のロゴは私が作ったのではないと思うんですよね。色は私がつけたのかもしれないし、ドット絵のグラフィックスにしたのは私だったと思うのですが、最初にロゴデザインしたのは別の人だったと思うんですよね。

奥成氏:「アレックスキッド」のロゴって紙の資料がないんですよね。10年ぐらい前に「アレックスキッド」のサントラを出したときにも「商品パッケージにロゴがないね」っていう話になって、それでゲーム画面から起こしています。今回の「SEGA AGES アレックスキッド」でも起動画面とかのロゴは、その時に作ったロゴをブラッシュアップしています。

――今日は当時のマニュアル作成用の資料があったということで、小玉さんにそちらをご覧頂いていますが、どうでしょう?

小玉氏:(マップのイラストを指さして)あ、これは私が描いたものですね!

――ステージ開始時に表示されるマップですね。

小玉氏:「ファンタシースター」でも同じような地図のイラストを描いたんだけど、あれもこれと同じようなイラストだよね(笑)。

堀井氏:あー! なるほど!

奥成氏:ほら、やっぱり「ファンタシースター」の原点は「アレックスキッド」なんですよ!

全員:(笑)

――ちなみに開発当初から「アレックスキッドのミラクルワールド」という名前だったのでしょうか?

奥成氏:セガの名作アルバム「アレックスキッドのミラクルワールド」にそのお話が語られているのですが、開発時の名前は「ミラクルランド」なんですよね。どんな資料を見ても「ミラクルランド」っていう名前が書かれていて、おそらく最初に呼んだ名前を内部ではずっと使っていたんだと思うんです。

 「ファンタシースター」も資料を見るとあまり「ファンタシースター」という名前では書かれていなくて、「スペースファンタジー」って書いてあったりします。プロジェクト名というかコードネームみたいなものだったんでしょうね。

「セガ名作アルバム VOL.04 アレックスキッドのミラクルワールド」では、オサール・コウタこと林田浩太郎氏による開発秘話がたくさん語られている

――なるほど。セガ名作アルバムにもこのお話は載っていますが、「スーパーマリオブラザーズ」を意識して制作されたタイトルだったわけですよね。

奥成氏:ですね。そこはもうセガ名作アルバムを読んで頂ければと思うのですが、パッケージイラストを描いた人は特に意識しているなって思いますよね(笑)。

小玉氏:(笑)。

「アレックスキッド」のパッケージイラストは、遠くにお城が見えていて悪者がさらったお姫様を抱き抱えていて……と、まさに“そのままな構図”で描かれている

堀井氏:あれはもう意識っていうレベルじゃないですからね!

奥成氏:悪者とお城があって悪者がお姫様を抱えていて(笑)。

小玉氏:でもこのイラストは、確か外部で作ってもらったイラストだったと思いますよ。

――そのまんまの思い切った構図がむしろ外部の人が作った感があるというか。内部の人ならさすがにもう少し独自のものにしそうな感じがしますね。

小玉氏:そうですねー。取扱説明書の表紙のイラストなどは内部で描いたものなんですけどね(笑)。

小玉氏:「アレックスキッド」を作っていた当時は、まだアーケードとコンシューマーのチームは一緒にあれこれをやっていた頃で、アーケードのタイトルをやったり、コンシューマーをやったり、あっちこっちに人が動いていたんですよね。

奥成氏:「アレックスキッド」はアーケードゲームも同時開発していますよね。

堀井氏:「アレックスキッド ザ・ロストスターズ」?

奥成氏:そうそう。セガ・マークIIIで「アレックスキッド」を作っている時から、「これをマリオに負けないセガの看板キャラにしよう!」という意向があって、ボードゲームとかのグッズも作って、オサールさんが全くタッチしていないアーケードの「アレックスキッド ザ・ロストスターズ」も並行で制作されたのかなって思うんですよね。

小玉氏:確かに。私が「アレックスキッド」の前に作ったのは、歌手の人の曲をテーマにしたアーケードゲームがあって……

奥成氏:「テディーボーイブルース」?

小玉氏:そうそう、「テディーボーイブルース」!「テディーボーイブルース」のキャラクターデザインをした人が、「アレックスキッド」でもキャラクターデザインをしたんですよ。

堀井氏:やられた時とかは「アレックスキッド」と一緒ですよね。

奥成氏:「テディーボーイブルース」にはダルマンっていうダルマが数珠繋ぎになっている敵キャラクターがいるんですけど、それが「アレックスキッド」にもそのまま登場しているんですよね(笑)。

小玉氏:(笑)。

「テディーボーイブルース」は、1985年にセガから発売されたアーケード用アクションゲームで、アイドル歌手の石野陽子さんのデビューシングルとのコラボレーションで製作された。@@

奥成氏:その後の「アレックスキッド」シリーズは、アーケードの「ザ・ロストスターズ」があって、「BMXトライアル」があり、メガドライブでは「アレックスキッド 天空魔城」が、メガドライブが発売されてから2年目の1989年2月に発売されるのですが、SEGA AGESも同じく2年目ですし、シリーズ最後の「天空魔城」発売からちょうど30周年の2月に「SEGA AGES アレックスキッド」が配信されるのは、もう運命なんですよ(笑)。

堀井氏:すごい! こじつけがピッタリはまってる!

小玉氏:「アレックスキッド 天空魔城」は忙し過ぎて、ほとんど覚えてないんですよねー。

堀井氏:制作に関わったのは間違いないんですか?

小玉氏:やりましたね。

奥成氏:だって小玉さんはその頃「獣王記」も作ってますよね?

小玉氏:そうそう。なので、「アレックスキッド 天空魔城」は背景の一部だけをちょっと描いたはずです、たぶん。

奥成氏:「ファンタシースターII 還らざる時の終わりに」も同じぐらいの時期にありましたし。

小玉氏:「ファンタシースターII 還らざる時の終わりに」は、ユーシスが見る悪夢の中での絵だけ描いたんだよね。

――ひっぱりだこというか、いろんな作品にスポット参加されているのがまさに当時の感じですね。

奥成氏:僕も当時の資料とかを調べたりするんですけど、デザインとサウンドの人はクレジットの名前と実際に手がけた人が合っていないことも多いんですよね。デザインとサウンドはチーム総出でいろんな作品をやっていたりするので、当時の課長などのプロジェクトリーダー的な人の名前だけが作品に入っていたりするんですけど、実際は内部のいろんな人がやっていたりして。

――デザイナーやサウンドは独立したチームのようにあって、そこに依頼がきたものをみんなで手分けしていたり。

奥成氏:クレジットに残っている名前の人だけでなく、実際に作ったのは別の人だったりして。なので小玉さんのお仕事も、絵を見てもらって「これは私がやった」って確認してもらわないとわからないです(笑)。

小玉氏:絵を見せてもらえば、自分のクセはわかっているからわかるんですよ。「アレックスキッド」の葉っぱと、「ファンタシースター」の森の葉っぱの描き方は同じようなものになってます(笑)。

全員:(笑)。

堀井氏:この機会に小玉さんにぜひお伺いしたいのですが、セガ・マークIIIの頃って色のパレットにすごく制限がありますよね。小玉さんがデザインされていた時って、色の並びというかパレットは誰かがもう決めていたもので描いていたのですか?

奥成氏:パレットをデザイナーが決められたのかどうか。

堀井氏:そうそう、「セットが決まっているからその色で描いてくれ」って言われたのか、「3色は自由に使っていいからその色と今ある色で描いてくれ」っていう話だったのか。

小玉氏:それは、例えば「ここに緑の石を描いてくれ」って言われたときには、「この石用に3色を用意してあるから」っていう話になるのが普通でしたけど、「アレックスキッド」の背景は私が全部やっていたので。

堀井氏:配色を決めたのは小玉さんなんですね!

小玉氏:背景はそうですね。あと、ここのまったく色味の違う黄色いブロックは全ステージに登場するブロックだから、専用の色を用意していましたね。その色はこの黄色ブロックを描くためのものだし、なにかがあったらカラーチェンジをして点滅させたりするかもしれないと考えて、他には使わないようにしていましたね。

堀井氏:なるほどー!「アレックスキッド」の背景の色彩設計を誰がやったのかが知りたくて、色彩設定の手法も知りたかったのですが、わりと小玉さんがご自身でやられていたんですね。この壊すとお金が出てくる黄色いブロックは全ステージ共通だから、パレットに常にそれ用の色が乗せていたと。

小玉氏:背景とその手前にいるキャラクターのスプライトは、全然別のパレットにしてますね。

堀井氏:セガ・マークIIIはスプライトが1個なので、スプライトのパレットはキャラクターですね。スプライトのパレットを8×8単位でBGに割り当てたりすることもできるのですが、見る限りそういうことをしているゲームはなくて。背景は背景のパレットでやっていることが多いですね。

小玉氏:そうですね、背景は背景で1パレットで……1パレット16色ですよね?

堀井氏:です。透明を入れるので実質15と言ってもいいような。

小玉氏:この時代はエンドビットは立てていないので、エンドビットの色はなかったはず。あったとしても黒でしたね。……とりあえず、「アレックスキッド」の色設計は、プレーヤーキャラクタやエネミーの色はキャラクターデザインの人が決めて、背景は私が全部決めていましたね。

堀井氏:そうだったんですね。セガ・マークIIIのようにハードの制限が多かった時代に、色を決める裁量がどれぐらいもらえていたのかが疑問だったんです。例えば、いろんな人で手分けして音を作るのはできなくもないと思うのですが、絵に関しては決まった色があってそれで作らないといけないですし、描く時に色を決める裁量がもらえるのか、誰が決めていたのかが気になっていたんです。

小玉氏:「アレックスキッド」の背景は私がほぼ1人で描いていたので、あまりそのあたりを覚えていないんですよね。でも、それは“どの瞬間に切り替わっているか”の話だと思います。スクロールだと同じパレットでやるだろうと思いますが、1画面書き換えなら別のパレットにして、別の人が担当することもしやすいですよね。

 なので「ファンタシースター」であれば、アリサのカットインは私が全部描いているけど、タイロンなどの他のキャラクターが出ている画面は大島さん(キャラクターデザインの大島直人氏)が描いていて、カラーパレットも別で自由に持っていたと思います。

堀井氏:そうなんだぁ……。ハード的に不自由な制限のなかでも、できる限りやりたいことをできるような態勢でやっていたんですね。

奥成氏:でもそれはほら、ハード的に不自由があったと言っても、今があるからこそ不自由に見えるだけなわけで。

堀井氏:ですよねー。それに、セガ・マークIIIは当時の他のハードに比べたらめっちゃ自由にできるんですよね。15色あるし、ファミコンは3色だったんだし。

小玉氏:(ゲーム画面を見つつ)でも今あらためて見ると……ここの丸い水色の絵とかは背景じゃなくスプライトで描いているのかな。

堀井氏:スプライトのパレットで置くこともできますね。

小玉氏:ですよね。絵としては背景の一部なんですけどスプライトのパレットで描いているのかもしれないです。でも、スプライトは沢山並べると処理落ちするので、どうだったのでしょうか?あまり覚えてなくて申し訳ないです。

堀井氏:ここの茶色い岩のところはどちらのパレットにもある色っぽいので、ここでは背景色に使うっていうようにやっていると思うんですけど。

小玉氏:確かにそうかもしれない。でも、ほんとにうろ覚えで申し訳ないです。当時のデザイナーと一緒に話せばもっと思い出すかもしれないのですが(笑)

堀井氏:こういう話なら4~5時間できる(笑)。

全員:(笑)。

堀井氏:こうしてみると「アレックスキッド」の画面ってすごくカラフルなんですよ。でも、これを作っていくのは大変だろうなって感じるところもあって。どういう作り方をしていたのかが気になっていたんですよ。

奥成氏:このカラフルさがあったからこそ、ヨーロッパのゲームファンは魅了されたわけですよね。

――あらためて色彩が鮮やかですよね。濃い原色をふんだんに出していて。

堀井氏:キャラクターを濃い色にすることで背景との差別がついて、どこが足場なのかもわかりやすいからというのがあるかもしれませんね。もちろん後のハードと比べるとRGBの段階数が少ないのでビビッドな色合いそのままに使うほかなかったというのもあると思いますし。

 ファミコンはそもそもカラーパレットが1個のBGに対して3色や4色なので、同系統のグラデーションで色と影をやらなければいけなかったんですよね。例えば「悪魔城ドラキュラ」の主人公ならオレンジと黄色と白とかでできていたりして、同色でがんばっているんですよね。

奥成氏:そうやって考えると逆に「スーパーマリオブラザーズ」ってすごいなって思って。マリオのドット絵ってあらためて見ると全体にすすけた色合いをしていて。なかなか主人公のパレットじゃないですよね。

――なるほど、確かにそう言われてみるとクラシカルな色彩ですよね。

堀井氏:昨年にファミコンの仕様でグラフィックスを作る仕事が結構あったんですけど、「なんでこの配色になっているのかわかった!」って気づく社員が続出したんですよ(笑)。「もうそれしか組み合わせがなかったんだ!」とか「残った中でこれが1番キレイな組み合わせなんだ!」とか。そこに「ロックマンの青はめっちゃ攻めてる」って興奮する奴も現われて、面白かったんですよ(笑)。

――(笑)。それに比べるとまだ自由がきく中で、小玉さんは鮮やかな色を使われていますよね。

小玉氏:ですねー。でも、完全に自由に色を選べるというわけではなくて、青でも何段階かの中から使う青を選ぶという感じで。その何段階かの色というのはハードに依存するものなので、ハードを設計した人がまず選んでいるんですよね。

 メガドライブの頃になると、色の選び方からデザイナーが参加して「こういう色が欲しいな」ってやったような記憶がありますね。まだ設計中の基板の頃に、試しで「この色を出すとこういう色になるよ」とか、「赤の隣に緑を置くとこういう見え方になるよ」とかを見せてもらったりして、「それなら緑はもう少し明るい色を載せて欲しいです」って話したりして。そういうのをハード設計のときにデザイナー全員参加で何度かやっていましたね。

――すごいお話ですね。マスターシステムの時にはなかった色彩をメガドライブで欲しくなったりという意識の流れもありそうな。

小玉氏:確かにそういう気持ちもあったかもしれませんね。でも、そういうこともしつつも、セガの場合はアーケードのボードで使っている色が基本にあり、家庭用機で再現するという使命もありましたので。

――なるほど、それが脈々と流れる“セガ作品の色彩”という。

小玉氏:ですね、セガの色。「ソニック」もすごくビビッドな色で、それはハードが変わっていっても受け継がれていて、今でも鮮やかな色のイメージが定着していますしね。

――そのセガの色が、海外で人気が出た理由のひとつだったのかなとも感じますね。

小玉氏:そうですね……。ちなみに私たちはメガドライブの頃ずっと“半透明が使いたかった”んですよ(笑)。

堀井氏:シャドウ機能は一応ありましたけど半透明は……。

小玉氏:そうなんですよ。私たちはすごく羨ましくて、「半透明が欲しかった……」ってしょっちゅう言っていたのをよく覚えています(笑)。

「セガフェス2019」前には何が出る? “みんながびっくりするような仕様”をひっさげたタイトルが進行中

昨年のセガフェス2018から始動したSEGA AGES。1年経った今年はどんなものが登場するのか?

――今後のことについてもお伺いしますが、今年も「セガフェス2019」を3月30日、31日に開催すると発表されまして、そこで1年になります。何か動きがあるのでしょうか。

奥成氏:「セガフェス2019」の直前に何かタイトルが出るのでしょうか!?

堀井氏:……っ!

奥成氏:「SEGA AGES ぷよぷよ」なのか、それ以外なのか……「SEGA AGES バーチャレーシング」とか?

小玉氏:……っ!

――……っ!?

全員:……。

奥成氏:……何か出るといいですね(笑)。

――今、すごい沈黙の時間が流れましたね(笑)。

堀井氏:「セガフェス2019」では許されるならプレイアブルでいろいろ出したいところですが!

奥成氏:去年は「SEGA AGES サンダーフォースIV」を突然プレイアブルで出して来場された人の度肝を抜いたわけですけど、エムツーさんは今年どんながんばりをしてくれるのか。

堀井氏:何を出すかはセガさんが決められることでもありますので。でも、ご期待下さい!

――まだ検討中の段階かと思うのですが、ステージや展示なども構想されているのでしょうか?

奥成氏:そうですね、ステージは何かしらやると思いますし、昨年は会場にメガドライブとドリームキャストのブース展示がありましたが、今年はセガサターンが25周年ですしね。そのあたりの展示をするのではないかなって、勝手に思っています(笑)。

――勝手に(笑)。でも25周年ですし何かしら懐かしいものを見たいですね。

CDアルバム「SEGA AGES OutRun -Music Collection-」の発売が決定!

奥成氏:ですよね。あと、別の話なんですけど「SEGA AGES アウトラン」のインタビューでもお話したCDアルバム「SEGA AGES OutRun -Music Collection-」の発売が決まりましたので、こちらも少し紹介させてください。

――SEGA AGESサントラの第1弾ということになりますね。

奥成氏:次が続くのかわからないですけど。例えば「SEGA AGES アレックスキッド」のFMサウンドアレンジをCD化してほしい!という機運が高まれば、あるかもしれないです。

 この「SEGA AGES OutRun -Music Collection-」は既存のアーケードの曲も全部、デジタルで新規録音をしていて、過去の音の流用はひとつもありません。マスタリングもやり直した結果、音質も変わっていて。20周年記念版の音とも、「SEGA AGES アウトラン」の音ともまた違うものになっています。マスタリングはHiro師匠立ち会いのもとに行なわれていて、2019年最新のサウンドになっているそうです。

 あとは、「SEGA AGES アウトラン」では逆に聴けなかった、メガドライブ版の「Step on Beat」などの元の曲もボーナストラックとして収録していますので、そちらも良い音で聴けるようになりますので。ぜひお楽しみにして頂ければ。

――わかりました。それでは最後に一言ずつ頂けますでしょうか。

奥成氏:僕やエムツーの人達の世代的にはセガ・マークIIIは家庭用のセガハードで1番最初にハマったハードで、いつも各作品を復刻するチャンスをいつも睨んでいるのですが、なかなか商売的にもチャンスがなくて。でも今回のSEGA AGESでは「ファンタシースター」に「アレックスキッド」も登場しましたので、セガ・マークIIIいいなって思ってもらえれば、この先もどんどんいろんなゲームが出るかもしれないので。セガ・マークIII好きの人はぜひ応援してください!応援頂ければ、「アストロウォリアー」とかも出るかもしれない!出ないかもしれない!

堀井氏:「アストロウォリアー」かぁ!

奥成氏:僕は「アストロウォリアー」は当時に華麗にスルーしたので思い入れは特にないんですけどね(笑)。

堀井氏:ないんですかっ!

奥成氏:他にもあるじゃないですか……「星をさがして…」とか「ナスカ'88」とか!

小玉氏:懐かしい(笑)。

堀井氏:僕らは当時セガ・マークIII作品に埋もれて暮らしていましたけど、ファミコンソフトからゲームを遊ぶようになった人なら知らない新作のように映るとも思いますし。ぜひプレイしてみてもらいたいです!

奥成氏:ぜひ!

――わかりました。それでは堀井さん小玉さんからも一言お願い致します。

堀井氏:今日は「アレックスキッド」のお話をたくさんさせて頂きましたが、もうあとちょっと一押しすれば世に出せるというタイトルが他にも貯まってきていて、今後もすごい仕様のすごいタイトルが出てきますので、「アレックスキッド」を楽しみつつ待っていてくださいという感じです。

 全力投球で今回もやりましたが、この後もこれ以上に“みんながびっくりするような仕様”を実現していますので。タイトルによっては追加要素を想像している人もいると思うんですけど、本当にやるとは思わなかったって言われるような仕上がりになっていますので。そういうものを出していきますので、ぜひ楽しみにしてお待ち頂ければと思います!

小玉氏:「SEGA AGES ファンタシースター」の時もそうだったのですが、自分が作った30年以上前のタイトルにもう1度向き合う機会というのを与えてもらって、ありがたかったのと……恥ずかしいというのちょっとあって(笑)。

 自分たちがまだ20歳そこそこの頃に、若さをぶつけて「いろんなことをやろう!」っていう気持ちで作った1本ですので、そんなところも感じて頂きながらプレイしてもらえたら嬉しいです。手強いゲームですが、ぜひ遊んでみてください!

――ありがとうございました!