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「日本におけるeスポーツ発展の大きな一歩」 日本eスポーツ連合(JeSU)発足
ゲーム業界全体でeスポーツアスリートの育成、支援、地位向上を目指す
2018年2月1日 16:00
- 2月1日発足
日本国内のeスポーツ振興を目的とした統一団体「一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU、ジェス)が2月1日発足し、記者会見を行なった。その概要については速報でもお伝えした通りだが、JeSUの発表は日本のeスポーツ界にとって何を意味するのか、今回の発表会で何が発表されて何が発表されなかったのかまとめておきたい。
JeSUは、日本のゲーム産業を束ねるコンピューターエンターテインメント協会(CESA)、および、日本オンラインゲーム協会(JOGA)の後援のもとで、国内のeスポーツ3団体(日本eスポーツ協会JeSPA、e-sports促進機構、日本eスポーツ連盟JeSF)を1つに統合させた新たな組織。
新たに代表理事に就任したのはCESA会長の岡村秀樹氏(セガホールディングス代表取締役社長)で、CESAからは辻本春弘氏(カプコン代表取締役社長)、早川英樹氏(コナミデジタルエンタテインメント代表取締役社長)が理事に入り、JOGAからは越智政人氏(ガンホー・オンライン・エンターテインメント取締役)、各eスポーツ団体からは、浜村弘一氏(Gzブレイン代表取締役社長)、平方彰氏(電通)、鈴木文雄氏(SANKO代表取締役社長)がそれぞれ理事に選出された。
実際には浜村氏は、CESAの理事も兼ねており、7人中4人がCESA出身であり、既存eスポーツ3団体から一転してCESAの影響力が非常に強い組織となっている。さらに昨年、eスポーツ支援を打ち出したデジタルメディア協会(AMD)や、アミューズメント業界を束ねる日本アミューズメントマシン協会の協力も得るということで、ゲーム業界が一丸となって国内のeスポーツ新興に取り組んで行く姿勢を明確にした。
JeSUの役割は、「日本国内におけるeスポーツの振興」とし、eスポーツ競技大会の普及、プロライセンスの発行と大会の認定、選手の育成支援と地位の向上、関係各所との連携となっている。具体的な目標としては、早期のJOC(日本オリンピック協会)への加盟、2022年のアジア競技大会のeスポーツ部門への日本代表および国産タイトルの供給、eスポーツのオリンピック公式種目採用という三段跳びの構想が語られた。
JeSUが、その立ち上げにおける打ち上げ花火としているのが「プロライセンスの発行」だ。もともとJeSFが、「日本プロeスポーツ連盟」として立ち上げた際に最大の目標として掲げていたもので、韓国でプロライセンスを発行するKeSPA(韓国eスポーツ協会)の支援のもとで、国際eスポーツ連盟(以下IeSF)にも加盟し、IOC/JOCへの加盟も視野に入れながら水面下で交渉を続けていたものだ。
JeSUでは、その遺志をまるごと受け継ぐ形でeスポーツアスリートのプロ認定を通常業務のひとつとして行なう方針を明らかにした。現時点でのプロライセンス発行予定タイトルは、「ウイニングイレブン 2018」(コナミデジタルエンタテインメント)、「コール オブ デューティ ワールドウォーII」(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)、「ストリートファイターV アーケードエディション」(カプコン)、「鉄拳7」(バンダイナムコエンターテインメント)、「パズル&ドラゴンズ」(ガンホー・オンライン・エンターテイメント)、「モンスターストライク」(ミクシィ)の計6タイトルで、今後順次増えていく。来る2月10日、11日に開催される「闘会議 2018」において、それぞれ最初のJeSU公認大会が開催され、優勝やそれに準ずる成績を収めたプレーヤーにプロライセンスが発行される見込み。詳細については明日2月2日10時にそれぞれのタイトルで個別に発表される予定となっている。
プロライセンスは、15歳以上/義務教育修了者を対象としたシニアと、13歳~15歳のジュニアの2段階を用意。有効期間はそれぞれ2年で、1度ライセンスを獲得すれば講習を受けることでプロライセンスを継続できる。ライセンスの発行単位はタイトルごとで、たとえばナンバリングタイトルで新作が出て、eスポーツの主体が新作に切り替わると、プロライセンスを取り直す必要があるようだ。
プロライセンス発行対象者になるためには、JeSU公認大会において優秀な成績を収めるだけでなく、JeSUが定めるプロゲーマーの定義に誓約すること、JeSUの指定する講習を受けることが定められている。特例として、過去に遡って公認タイトルの大会で著しく優秀な成績を収めている人には、IPホルダーの推薦を経て例外的にプロライセンスを発行するという。今回の6タイトルの中では、「ストリートファイターV」や「鉄拳7」において、プロとして活動している選手達が複数存在するが、彼らにプロライセンスが提供されるかどうかに注目が集まるところだ。
ちなみに「プロゲーマーの定義」とは、プロとしての自覚を持つことや、スポーツマンシップ、日々の精進努力、業界への発展寄与など、言わばプロのアスリートとして当たり前のことばかりだ。ただ、JeSUとしては、プロとして公認するからには、あくまで社会的な責務の遂行、プロとして相応しい振る舞いを求めていく方針だ。こうしたスポーツマンシップの部分は、これまでの諸団体ではほとんどなかった部分であり、大いに期待されるところだ。
その一方で、選手側からみれば、プロライセンス制度は、eスポーツアスリートとしてこれまでなかった制約が課せられることになる。それでは“プロライセンス獲得のメリット”とは何だろうか。
そのメリットとは、日本でこれまでタブーとされてきた高額賞金付き大会への参加、賞金の獲得を、JeSUとして正式に認めるというものだ。同時に、JeSUとして、IPホルダー(ゲームメーカー)やeスポーツ運営会社に対して、高額の賞金付き大会の開催も支援していく。賞金付きのゲーム大会の主催は、どこまでがセーフでどこからがアウトという明文化されたものが存在せず、メーカーにとっては催行そのものがリスクになるが、そうした部分もJeSUが矢面に立ってくれるというわけだ。
質疑応答でも法律的な面で懸念を示す質問が出されたが、JeSU岡村氏は「プロの定義とは、そのことを生業としている人たちであり、法律的にも問題ない」と回答。あくまでプロライセンスを、“賞金付き大会の免罪符”とする当初のスタンスは変えない方針を明確にした。
賞金獲得とワンセットとなる納税面についてもJeSUがフルサポートし、プロのeスポーツアスリートが、安心して競技に集中できる環境を構築する。また、プロライセンス発行タイトルの世界大会については、“日本代表”としてJeSUが選手達にユニフォームを贈り、渡航費等のサポートも行なう。これらはあくまで計画だが、もしこれらの計画が本当に実現すれば、日本のeスポーツプレーヤーの多くが長年涙を呑んで諦めてきた様々な問題が解決し、真の意味で日の丸を付けたeスポーツアスリートとして世界で戦う準備が整うことになる。これは素晴らしいことだ。
ただ、大きな課題となるのが、どのようにして「プロライセンス発行タイトル」に加わるかだ。この部分については、メディアからはほとんどがブラックボックスでわからない部分が多い。わかっていることは、「JeSUの大会レギュレーションに則る形でメーカー側が申請し、JeSUが承認すれば、プロライセンス発行タイトルになる」ということだけだが、JeSUが定める大会レギュレーションとはどのようなものなのか、JeSUの収益源となる公認料とはどの程度の金額なのか、「Counter-Strike: Global Offensive」のような国内にパブリッシャーが存在しないタイトルについてはどういう扱いになるのかなど、わからない部分は多い。そもそも「何故その6タイトルなのか」、「世界はおろか、日本のeスポーツシーンともズレてるのではないか」など、ツッコミどころは無数にある。
こうした詰めの甘さはJeSU自身も認めているところで、理事の1人は「我々も不十分なのはわかっているし、特に選手達に対して説明不足なのもわかっている。まずは団体を1つにまとめるのが最優先で、走りながら日々改善しながら調整していく」と語っていた。
個人的には、ツッコミどころは無数にありつつも利害関係が複雑に入り乱れる諸団体をひとつにまとめ、一丸となって前に進める体制を整えたCESAの尽力は最大限に評価したいところで、岡村氏もJeSU設立について「世界的に類を見ない出色のこと。想いをひとつにまとめるのは難しい部分もあったが、関係者の努力でこの日を迎えることができた。日本におけるeスポーツ発展の大きな一歩」と自画自賛を隠さなかったが、まさにその通りだと思う。
もちろん、今回発表された内容が実効性を伴わず、画餅に帰したりするのはもってのほかだが、JeSUの取り組みの結果、日本のゲームファンが世界に打って出られるきっかけになればそれは素晴らしい事だと思う。ひとりのeスポーツファンのひとりとして、今後の展開に大いに注目したいところだ。