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【特別企画】「eスポーツの裾野を広げる」という前代未聞の取り組みにチャレンジした「全国高校eスポーツ選手権」。ボトムからのマグマのような盛り上がりに期待!

3月23日、24日開催



会場:幕張メッセ1ホール

 日本のeスポーツシーンにおいて国内初の取り組みとなる「第1回 全国高校eスポーツ選手権」が、成功裏に幕を閉じた。フィナーレでは既報の通り、第2回大会の開催もアナウンスされ、2年生を主力としたチームは、早くも来期の目標ができてモチベーションもアップしただろうし、2018年にeスポーツ部を設立に失敗し、“高校生eスポーツ”というビッグウェーブに乗り遅れた高校も、満を持して参戦してくるだろう。

 筆者は、この3月23日と24日の両日、幕張メッセにおいて「第1回 全国高校eスポーツ選手権」と、3つ隣のホールで開催されていた「ファイナルファンタジーXIV」のファンイベント「FINAL FANTASY XIV FAN FESTIVAL 2019 in TOKYO」の両方を掛け持ちする形で取材し、物理的にヘトヘトになったが、いちゲームファンとしてこの上なく充実した週末を送ることができた。

 共に“ゲームをモチーフにしたオフラインイベント”という点は共通しているが、「FFXIV」のほうは、新たなゲームコンテンツと、ゲーム自体をコアバリューとしたバトルコンテンツやゲームサウンドなどに高い注目を集めた一方で、「全国高校eスポーツ選手権」は、“高校生eスポーツ”という筋書きのない荒削りなドラマに期待して来場者は会場に足を運んでいた。掛け持ちしたことで、この対比が明瞭に見えてきたのは、非常に貴重な経験だった。本稿では、2日間の大会取材を経て、本大会開催の意義と、今後の課題についてお届けできればと思う。

【全国高校eスポーツ選手権】
幕張メッセ1ホールが会場となった
2日目は初日以上の来場者が訪れた
応援しやすいように高校名が示されていた
ついにスタートした決勝戦
手前に陣取っているのは岡山共生高校の応援団。岡山から駆けつけた人も多かった

高校生大会としては前代未聞の規模で行なわれた「全国高校eスポーツ選手権」

 まず、大会運営について、「ロケットリーグ」は紛れもなく過去最大規模、「League of Legends」についても、公式プロリーグ「League of Legends Japan League(LJL)」に勝るとも劣らない規模で、衝撃的だった。どの選手達も、この規模はまったく想定していなかったようで、多くの感激と緊張、そしてドラマをもたらした。

 筆者は開催前日、関係者と選手以外立ち入り禁止のバックヤードも視察させてもらったが、メインステージの作り、配信機材、選手控え室、実況解説席など、いずれもアマチュア大会では考えられないようなクオリティだった。これらは共催のサードウェーブが昨年買収したeスポーツ運営会社の成、現 E5 esports Worksが手がけており、PCメーカーでありながら、この規模の大会を内製でできるというところにサードウェーブの凄味がある。

【バックヤード】
たっぷり空間を確保したバックヤード
コントロールエリア
選手席から見た風景
選手控え室。試合と同じ機材で自由に練習

 会場手前側、企業ブースエリアは、主催の毎日新聞社が担当しており、ゲームやeスポーツとは直接関係のないメーカーのブースが軒を連ね、文化創造の担い手である毎日新聞社の営業力が発揮されていた部分だ。サードウェーブブースでは、試合用のユニフォームを身につけ、競技用のPCに座ってみたり、トロフィーを手に記念撮影を行なったり、夢を見させてくれるアクティビティがおもしろかった。出展ブースに特化したレポートも掲載しているので、ぜひ確認して欲しい。

 また、大会応援ソングを設定し、決勝戦終了後にミニライブを挟むと思いきや、そのまま高校生達を壇上に上がらせ、優勝した学芸大付属には中央で優勝トロフィーも掲げさせるという演出は素晴らしかった。

【BURNOUT SYNDROMESミニライブ】

 1点だけ、客席エリアの仕切りに関しては、毎日新聞社とサードウェーブが同床異夢を起こしており、今後調整が必要な部分だと感じた。具体的には、本大会をオフラインを主にするのか、オンラインを主にするのか、両社で見解が異なっているように思う。サードウェーブは、当然オフライン。だからこそ、あえてこの規模のハコを確保し、最先端のLED照明をはじめ、リッチな舞台装置を用意し、「eスポーツなんて手慰みの小遊びだろう」とまだまだ懐疑的な一部の来場者を、音と光による演出で一気に“浄化”させる作戦に出た。

 一方、毎日新聞社は徹底してオンラインだ。春・夏の甲子園でも、全国高校サッカーでも、視聴の主体はテレビであり、それらに勝るとも劣らないクオリティでオンライン配信を行ないたい。さらに言えば、主催メディアとしてすべてのシーンでベストショットを押さえたい。それ自体は正しい判断だと思うし、その権利があると思うが、結果として会場がどうなっていたかというと、残念ながら来場者ファーストではなく、毎日新聞社ファーストの大会になっていたように思う。

 具体例は幾らでも挙げられるが本論からズレてしまうので1つだけ挙げると、出場選手達との交流の場を設けて欲しかった。eスポーツ風に言えば「憧れのプロ選手とのサイン会」だが、そこまで行かなくても、高校生アスリートたちは、自分たちがどう思われているのか、本当に社会に感動を与えられているのか、喉から手が出るほど知りたがっているし、地元からの応援団に加え、単に出身が同じというだけで駆けつけたファンも意外と多かった。それらを繋ぐ場があれば、来場者にとっても選手達にとってもかけがえのない思い出を作る場になったのではないかと思う。

自ら道を切り開いた高校生アスリート達に拍手

 一方、高校生アスリートたちはいかに戦ったか。これはもう「ロケットリーグ」部門、「League of Legends」部門共に、本当によく戦ったと思う。100点満点だと思う。

 「ロケットリーグ」部門は、そもそも日本では大会に参加する機会がなく、大会種目に決定してからゲームを始めたという高校生も多かった様子で、実質的に“エントリーすることに意義がある”というそういうレベルだった。

 オフライン決勝大会では、3カ月間みっちり練習した成果を見せ、高校生らしからぬハイレベルな戦いが繰り広げられたが、多くの選手達は、緊張で手が震えたり、頭が真っ白になったりして思うようなプレイができなかった様子だが、当然だと思う。小学校の校庭でソフトボールしかしたことのない球児が、いきなり甲子園の準決勝の場に立たされるような話だからだ。この経験が第2回大会以降にどのように後輩に受け継がれ、新たな伝統となるのか注目している。

【「ロケットリーグ」部門】
唯一のプロ選手でありながら、オフライン大会で勝利を収めることができなかった横浜清風高校milla選手(中央)
盤石の試合運びで優勝した佐賀県立鹿島高校「OLPiXと愉快な仲間達」

 「LoL」部門については、自分も含めて大人はなかなか酷なことをするなあと思った。そもそも高校にまだほとんどeスポーツ部がない中で、プロとほぼ同じレギュレーションで試合をする。しかも決勝以外はBO1(1戦勝負)だ。これは切ないと思った。

 とりわけオフライン決勝大会の準決勝で敗れたN高 心斎橋(大阪)と横浜市立南(神奈川)は、バンピックをこうすれば良かったとか、序盤こう動けば良かったとか、悔やんでも悔やみきれないだろう。これがBO3だったら結果がひっくり返っていた試合もあったと思う。

 このBO1というレギュレーションを逆手に取って本大会で縦横無尽の活躍を見せたのが、岡山共生高校の赤バフ選手だ。彼は、最初からメタを無視したポケットピック(あえてメタ外のチャンプをピックする戦術)に賭けていた。なぜならメタを意識したオーソドックスなバンピックを行なうと、岡山共生がチーム力ではなく、個の力で戦っていることがバレてしまうからだ。

 岡山共生高校は、岡山共生高校訪問レポートでもお伝えしたが、中国人留学生を積極的に受け入れており、彼らeスポーツ部は、頭数を揃えるために、「LoL」の経験者が多い中国人留学生を積極的に受け入れた。

【岡山共生高校】

 中国人留学生は、留学してから日本語の勉強からするというレベルで、当然円滑な意思疎通が難しい。今回敗者インタビューでも日本語でのインタビューにまったく答えられない選手もいたが、これでは当然、ボイスチャットで指示を出しながらオーダーの統一指揮のもとで一糸乱れぬムーブをすることなど不可能だ。

 そこで主将を任された赤バフ選手が採った奇策がポケットピックだった。BO1ならこれが極めて有効に作用する。相手が「しまった!」と思ったときにはもう遅く、戦いの帰趨はすでに決している。

 岡山共生は、ポケットピックによる“奇襲”と、ADCの赤バフ選手にすべてのリソースを集めるという「作戦:赤バフ」で、予選から決勝戦第1試合まで勝利し続けた。これがBO1なら岡山共生の優勝だったわけだが、決勝のみBO3、ここにドラマが待ち構えていた。

 岡山共生の赤バフ選手と、本大会でMVP級の活躍を見せた学芸大附属のエースflaw選手は、同世代の互いに認め合うライバル同士として、多くのプロ選手がそうであるように、彼らも練習を共にしている。flaw選手は、当然、赤バフ選手が得意なチャンプを知り尽くしており、バンピックでは相手のポケットピックを意識しながら、赤バフ選手が得意とするチャンプを徹底的にバンし、さらにADCの赤バフ選手が暴れ出す前に勝負を決めれば確実に勝てると判断した。

【東京学芸大付属国際中等高等教育学校】

 かくして岡山共生は2ゲーム目、3ゲーム目を完全に封じ込められ、ワンサイドゲームで敗北を喫し、手につかみかけた優勝トロフィーがこぼれ落ちてしまった。個人的には、どんなに対策されてもあくまで赤バフ選手に賭ける岡山共生の立ち回りは感動的だったが、「LoL」はチーム力、修正力、そして集団戦における細かい駆け引きが勝負を決めるゲームであり、両チームの間には明らかな差があったように思う。これが仮にBO5だとしても岡山共生は1:3で敗れていると思う。

 岡山共生は、引き続き赤バフ選手を主将に、3年生のRiven chanの穴を他の選手が補う形で活動を継続していくという。赤バフ選手と並んで大活躍していたTenichi選手はまだ1年生で、来年度も引き続き活躍が期待される。赤バフ選手に新年度の抱負を尋ねると、「中国人選手を迎えたことは全体としてメリットよりデメリットの方が大きかった。もし全員が日本人だったらと思ったことはある。素直に話を聞いてくれないし、自己中な性格が多いので、彼らに日本人について理解して貰うことから始めたい。今回の敗戦をバネにして次回こそは優勝を勝ち取りたい」とコメントしてくれた。チーム力が欠けていると分かっていた状態で全国大会準優勝というのは素晴らしい結果だと言える。引き続き赤バフ選手と、岡山共生高校eスポーツ部の活躍に注目したいところだ。

【赤バフシフトを敷かれた決勝戦】
ドレイヴンを筆頭に、赤バフ選手が得意とするチャンプを徹底的にバンする学芸大付属
0:12という絶望的な状況から岡山共生が集団戦で3キルを取り返したシーン。実況katsudion氏の感情を込めた「赤バフが暴れている! 赤バフが暴れている!」は最高に良かった
悔しそうに最終局面を見届ける岡山共生の選手達

大事なのは「全国高校eスポーツ選手権」が投げたボールを学校と親がどう返すか

 さて、「全国高校eスポーツ選手権」が、他のeスポーツ大会と比較して画期的な点は、“eスポーツの裾野を広げる”という大命題のもと、高校生をターゲットにした大会であることだ。

 ただ、その一方で、冷静に指摘しなければならないのは、現時点では「高校生eスポーツ大会」という“小さな点”がひとつできただけの話であり、上にも下にもパスが用意されていないということだ。わかりやすく言えば、「全国高校eスポーツ選手権」から、「LoL」のプロリーグである「LJL」までのパスが存在しない。アナリストのRevol氏は、「全国高校eスポーツ選手権」から自身が解説を務める「LJL」に出場する選手が生まれることに期待を寄せていたが、現実的には難しいストーリーだ。

 その理由は、本大会のトップ選手である赤バフ選手やflaw選手ですら、プロ選手との実力差が大きいということと、LJLに参加しているプロチームですら選手の育成にコストをかける余裕がないためだ。LJLの所属チームは、どこもなけなしのコストを、有力選手の獲得、ひらたくいえば“引き抜き”に投入しており、その結果、ニューカマーが入らず、LJL参加選手の平均年齢だけがグングン上がるというジレンマを抱えている。

 運営元ライアットゲームズでは、このジレンマを解消するために廃止した2部リーグLJL CSの代わりとなるシステムとして、選手育成を公式的にサポートする取り組み「スカウティング・グラウンズ」をスタートさせた。これはいわゆる合同トライアウトで、トライアウトに参加した全候補生を、1部リーグのオーナーやコーチがレビューし、有望な選手を候補生としてピックアップできるというものだ。

 一見素晴らしいシステムに見える「スカウティング・グラウンズ」だが、問題点は、全候補生のレビューと、ピックアップした後の育成に、チームにとって無視できないコストが発生することだ。チームにとっては単純な負担増になっており、ここから未来のYutapon選手やCeros選手といったスター選手が生まれるのかどうかは不透明だ。

【スカウティング・グラウンズ】

 逆に今度は下のパスから見て見よう。筆者が小学生の頃は、月謝を払ってソフトボールに通っていた。父親は頼みもしないのに鬼コーチを買って出て、母親は早起きして2人分の弁当を作ってくれた。筆者は残念ながらまったく芽が出ず、早々に両親に諦められたが、有望な子供は中学で野球部や、プロチームのアカデミーに入り、高校は野球の強い有力校に特待生として入学し、甲子園を目指す。甲子園で活躍した選手には、大学野球への誘いや、プロ野球へのドラフト指名があり、大学野球やファームでの育成を経てプロ野球選手として活躍することになる。

 今のeスポーツに決定的に欠けていて、絶対に必要だなと思うのは、スポーツで功成り名を遂げるための起点になっている“月謝を払ってスポーツを教えて貰う”ということと、それを絶対的な是とする“両親の全面協力”だ。

 この2つは実は両輪だと思う。たとえば、今回解説を務めたLillebelt氏が教えてくれる“Rascal Jesterアカデミー”がもし存在すれば、行ってみたいと思う中高生アスリート、その予備軍は少なくないと思う。だが、未成年者ならアカデミーに入るためには親の承諾が必要だ。その際に、親が月謝を払い、快く送り出してくれるだろうか?

 「LoL」なら13歳以上が対象のゲームだから、ちょうど中学1年生。高校、大学に向けて学業が本格化するこのタイミングに、学習塾ではなくRJアカデミーに、月に数万円出してくれるだろうか? しつこいようだが、「僕さ、部活で『LoL』やりたいから、RJアカデミーに行っていい?」と中1の息子に言われたときに、親は「わかった」と言えるのか。こここそがeスポーツの裾野を広げる、ボトムから頂点までのキャリアパスを形成する上で、決定的に重要なポイントだと思う。

【家族の協力が得られるようになるのか?】

 そして、現時点で“両親”という作用点を唯一突き動かしてくれそうな存在が「全国高校eスポーツ選手権」だと思うのだ。今大会でも、息子の活躍を見にわざわざ会場まで詰めかけていた親が何人もいたが、このムーブメントが、数人から数十人、数百人、数千人になってくれば、後はもう黙っていても中学のeスポーツ部から、LJLまでのパスが出来上がると思う。そこまでできて初めてeスポーツの裾野が広がったと言えるのではないだろうか。

 果たして「第1回 全国高校eスポーツ選手権」の開催を経て、全国の高校で雨後の竹の子のようにeスポーツ部の設立が相次ぐのか、eスポーツに取り組むことについて親の協力が得られるようになってくるのか。まずは4月22日から始まる「第2回 全国高校eスポーツ選手権」「ロケットリーグ」部門のエントリー状況を見届けることにしたい。ひとまず関係者の皆さん、お疲れ様でした!

【子供達に明るいeスポーツの未来が作れるかどうか】
サードウェーブブースでeスポーツ大会の雰囲気が体験できるコーナー。こうした子供達がeスポーツアスリートを目指す未来を作れるかどうか