インタビュー

「龍が如く8外伝」謎多きエンディングの真意は? シリーズチーフディレクター堀井亮佑氏インタビュー。ファン必見の開発裏話もお届け

【龍が如く8外伝 Pirates in Hawaii】
2月21日 発売
価格:
パッケージ版・デジタル版 6,930円
パッケージ限定版 真島吾朗 コンプリートボックス 19,800円
デラックス・エディション 8,690円
「龍が如く」シリーズチーフディレクター 堀井亮佑氏

 龍が如くスタジオが送り出した「龍が如く」シリーズのスピンオフ作品「龍が如く8外伝 Pirates in Hawaii」(以下、龍が如く8外伝)。シリーズの人気キャラクター真島吾朗を主人公に据え、「海賊」をテーマにした冒険活劇は、これまでの「龍が如く」シリーズとは一線を画す内容だった。

 なぜこれほど大胆なスピンオフ作品が生まれたのか。ナンバリング作品とは異なるテイストの中に、開発陣はどのような「龍が如くらしさ」を込めたのか。そして、ファンを驚かせたあのエンディングに秘められた意図とは? 今回は、「龍が如く」シリーズチーフディレクターの堀井亮佑氏にインタビューを実施した。

 この記事では、堀井氏が語る作品コンセプトやキャラクターへの想い、海戦や楽曲といったゲームシステムのこだわり、そして今後のシリーズへの期待にも繋がるエンディングの内容について聞くことができた。本作の魅力の核心を探る、ファン必読の発売後の深掘りインタビューをお届けする。

【『龍が如く8外伝 Pirates in Hawaii』ローンチトレーラー【2025年2月21日発売】】

シリーズで異色作品の「龍が如く8外伝」の手応え

「龍が如く」シリーズチーフディレクターの堀井亮佑氏

――発売から1カ月が経過した今の心境について教えてください。

堀井氏:発売から1カ月経ったのですが、発売当初からシンプルに「面白かった」という声が今までで一番多かったように思います。修学旅行に行ったような楽しさがあったと言われていて、僕達もそれを狙っていたというか、海賊で冒険というゲームなので、今までとは少しテイストが違いますが、「ゴロー海賊団との旅は楽しかったな、色々あったけど楽しかったな」と日常とは違う特別な体験として感じてもらえるゲームを目指して作っていました。その意図がちゃんと伝わったようで、「シンプルで楽しかったです」という声が多かったのが一番嬉しかったですね。

――オープニングのミュージカルやエンディングのカーテンコールなど、ポジティブな意味で「龍が如くっぽくない」という感想もありましたが、これは狙っていたのでしょうか? また、その感想を受けてどう思われますか?

堀井氏:“海賊”という突飛なテーマを扱うので、歌やミュージカル調のシーンは海賊らしさを表現する上で非常に親和性が高いと考えました。私自身もミュージカルゲームを作りたいという思いがあり、「龍が如く8外伝」という機会に、これまでできなかった演出や新しいことに挑戦したいと考えていました。このチャンスを逃す手はないと思い、最初の段階からミュージカル要素を取り入れることを決めていました。

 ただ、ミュージカルシーンの制作経験はなかったので苦労はしましたね。時間がない中で「旅立ちの歌 -Journey to the new world-」を急いで作り、静かな会議室で僕が歌って「こんな感じなのですがどうですか?」というような手探りの状態から始まりました。ですが、そこから曲に導かれるように皆がノリノリになってくれたので、結果として非常にお気に入りのシーンというか楽曲が完成したと思っています。

 歌は軸というか海賊らしさや冒険感が出るじゃないですか。ゴロー海賊団のテーマも含め、「この曲を聴けばあの場面を思い出す」というような楽曲があるといいなと思ったので、それらをうまくパッケージングできた点は、非常に良かったと考えています。

――「龍が如く8外伝」は「龍が如く8」で描ききれなかった部分を補完する意図があったのでしょうか?

堀井氏:「龍が如く8」の内容を補完しなければならない、ということが大前提にあったわけではありません。しかし、次の展開として「龍が如く8」にはハワイという新しい舞台や、掘り下げ可能な要素が多くあったのも事実です。そのため、後日談のような形で、使いきれなかった要素を活用しつつ、より面白い表現ができないかと考えたのが企画の出発点でした。

 その上で「龍が如く8」の後となると、パレカナの後始末など、避けて通れない問題がありました。桐生は病を抱え、極道の後始末も道半ばです。誰が代わりを務めるのかとなれば、堂島大吾か真島しかいない。それでは「真島が桐生の意思を引き継ぐ」という方向性で考えてもいいかもしれない、というのが最初のアイデアでした。そこから「海賊っぽいよね」というテーマなどのアイデアが生まれ、今の発想にたどり着きました。

今作主人公の真島吾朗

――企画段階でやりたいと思っていたことは、この外伝で盛り込めたという感覚ですか?

堀井氏:「龍が如く8」の補足を徹底的に行なったタイトルというわけではありません。海賊になってからはあまり関係ない部分もありますし、そこまでストーリーの補完をしたかったわけではありません。ですので、盛り込めなかった後悔などは全くありません。ただ、「龍が如く8」の後の作品として、1年もかからず出した作品として、これだけ毛色の違う新しい体験を生み出せたことは、クリエイターとして大満足しています。

 開発は大変でしたよ(笑)。「龍が如く8」を作り終えた後の2023年末頃に「龍が如く8外伝」の制作が決まり、2024年の1年間で開発したため、スピード感のあるスケジュールでした。逆にそれが良かった点もあると考えています。ボリュームはナンバリング作品に比べて短いですが、その分、物語が複雑になりすぎず、カラッとまとまった形で届けられたのは、結果的に良かったと捉えています。

絆と個性が光る!登場人物たちの魅力

――ゲームを作られていて、象徴的なシーンや、印象に残ったシーンなどを教えてください。

堀井氏:僕が気に入っているのはサイドコンテンツの導入部分で、「ミサキ」という女の子がデビルフラッグスに親を殺されて、真島たちが協力して仇討ちに行くシーンです。「龍が如く」シリーズのサイドコンテンツであのようにシリアスに始めたのは初めてです。

 本編は「お宝でイエーイ」という楽しい雰囲気があるので、サイドコンテンツは少しシリアスに寄せたのですが、その方向性で正解だったと感じています。楽しいだけではなく、シリアスなシーンをサイドストーリーで多めに描くことで、陽気な旅の雰囲気が少し引き締まるようないいバランスになったと考えているので、そこは気に入っていますね。

 また、真島の行動心理についてですが、子供にダサい姿を見せるのは嫌だという点は、今作で真島を描く中で一番大事にした部分です。理屈や目先の損得よりも、「ノアの前でカッコ悪い大人の姿を見せない」、「夢を諦めてはいけない」ということを大人の生き様として伝える。これはメインストーリーでも重要なテーマとして描きましたが、そこは一番大事にしたかった軸なので、そういう意味でも非常に象徴的なシーンだと考えています。

――真島とノアの絆をフィーチャーした理由はどこにあるのでしょうか?

堀井氏:真島のモチベーションとして、単にお宝探しで大金持ちを目指すというのは動機としては軽いと感じました。真島はお金や権力に強く執着するタイプの人間ではありません。「海賊になるぞ、宝を集めるぞ」という行動には、しっかりとしたモチベーションがないとプレイヤーも感情移入しにくいと考えました。そこで、どのようなモチベーションがいいかと考えた時、「助けてくれた少年に外の世界を見せてあげる」、「夢を叶えてあげる」といった、誰かのために行動するというモチベーションが、「龍が如く」シリーズで大切にしてきたテーマにも合致し、より物語に深みが出ると考え、このような形にしました。

 まず「海賊をやろう」と決まった後に私が企画をまとめたのですが、その時点で「ゴロー海賊団を結成し、ゴロー丸に乗って敵を倒す。最終的にはお宝探しでいい感じに締めくくる」という大枠は固まっていました。その上で、ストーリーをどう展開させるかとなった時に、シナリオ担当の古田と相談し、「ノアを登場させ、彼のために行動する」という方向性を決めていきました。

ノアと真島の絆が強く描かれる

――シナリオの中で真島と冴島の絆の深さが強調される一方、お堅いイメージだった冴島をコミカルに描く場面も多かったですが、そこの狙いはありましたか?

堀井氏:周りが明るいメンバーが多い中で、冴島は初対面だと少しとっつきにくいキャラクターだと思います。急に自分のチームに冴島が後輩として入ってきたら、戸惑うじゃないですか。ですので、彼の可愛らしい一面や、記憶喪失とはいえ真島が兄弟として本能的に信頼している部分を描きつつ、彼をゴロー海賊団に馴染ませるために、少しコミカルにいじるような描写を取り入れた部分はあります。

――冴島を登場させることは最初から決まっていたのでしょうか?

堀井氏:プロットの時点から決めていました。冴島を出さないという選択肢もありましたが、普通に考えれば、真島が極道の後始末をするなら、兄弟分である冴島も手伝うのが自然だろうと考えました。また、真島の初の単独主人公作品なので、側に冴島がいないのは物足りない、と僕たちも感じていましたし、出すからには、彼らの仲の良さを絆ドラマなども含めてもう少し深く描きたいという思いがありました。彼がいない方が不自然になってしまうキャラクターですので、登場させるのが正解だったと考えています。

かつての東城会大幹部にして真島の唯一無二の兄弟分である冴島大河

――サブストーリーについてお伺いします。茂田が仲間にならなかったのが印象的でしたが、何か理由はありますか?

堀井氏:当初は彼も仲間にする予定でしたが、物語を作る中で、彼の幸せを考えると仲間にならない方がいいという結論に至りました。サブストーリーをクリアすれば報酬として仲間になるというゲーム的な都合を優先するあまり、道理が損なわれるのは本意ではありませんでした。真島も「誰でも歓迎や」と言いつつも、その人のためにならないと判断すれば止める人間であるべきだと考え、あえて仲間にしない選択としました。

――クレアの話も印象的でした。自分を偽らないことの大切さが描かれていましたが、シリアスとコミカルのバランスは意識されましたか?

堀井氏:メインストーリーが明るい作りの場合は、サブストーリーでシリアスな要素を入れるなど、バランスを意識して制作しています。今回は全体のバランスというより、サブストーリーも絡めてゴロー海賊団の仲間を増やしていく楽しさを重視しました。サブストーリーをゴロー海賊団の思い出の中にうまく内包したいと考えたからです。そのため、仲間になるキャラクターを個性的にし、「このキャラクターが仲間になってくれた!」という前向きな気持ちになれるよう、いつも以上にキャラクター中心の描き方を意識しました。いつもの作品はエピソードがあってそれに合うキャラクターが登場しますが、今回は仲間になること自体の嬉しさ、例えば強くなくても仲間になってくれて嬉しい、といった感情が出るように、キャラクターを意識していますね。

――今回も豪華な声優陣でしたが、感想や特に印象的だった演技などがあれば教えてください。

堀井氏:全員素晴らしかったですが、皆様も感じていらっしゃる通り、ノア役のファーストサマーウイカさんは感動しましたね。言われなければウイカさんだと気づかないレベルで、あんなにマッチするとは期待以上でした。ノアは今回、真島に次ぐもう1人の主人公とも言える存在です。その役を素晴らしい演技で固めていただけたことで、作品全体がぐっと引き締まりました。歌も含めて、ミュージカル調の部分が自然に受け入れられたのは、ウイカさんのバイタリティがあってこそだと感じています。

ファーストサマーウイカさん演じるノア

 マサル役のロバート・秋山さんも素晴らしかったです。海賊団全体が明るい雰囲気になったのは、マサルというキャラクターの存在が非常に大きいです。ジェイソンが渋い魅力を持っているというのはもちろんあるのですが、ノアとジェイソンは身内関係でギスギスしかねないところを、誰からも愛され、皆を笑顔にしてくれるマサルというキャラクターがいたことで、ゴロー海賊団への親近感を増やしてくれた存在だと思いますし、これは本当に秋山さんならではの、唯一無二の存在感でしたね。「Masaru's LOVE JOURNEY」も見事に演じきってくださいました。

ロバート・秋山さんが演じる「マサル」の演技を唯一無二と語る

――「Masaru's LOVE JOURNEY」の収録は台本があったのでしょうか? それともアドリブが多かったのでしょうか?

堀井氏:最初に何度か相談しました。秋山さんは「ロバート秋山のクリエイターズ・ファイル」などで面白い活動をされていますよね。そのエッセンスを、今回、動画コンテンツを制作する中で取り入れたいと考えていました。そこで、女性とうまく絡みつつコンパをしながら、様々なキャラクターを演じるという形で、秋山さんならではの面白さを表現できないか、直接ご相談させていただきました。

 「面白いですね」という反応をいただきつつ、動画収録は時間がかかるため、限られた収録日でどう撮り切るか、内容についても何度か直接打ち合わせを重ねました。結果的に、あの「Masaru's LOVE JOURNEY」というパッケージで、様々な秋山さんを表現するという形に落ち着きました。

 台本については、打ち合わせで、例えばえなこさんの写真好きというキャラクター設定などを決め、そこにどう絡んでオチに繋げるか、といった大枠は決めていました。あとは本番の流れで、アドリブもお願いしたところ、素晴らしいものになりました。コンセプトと必要なネタは事前に準備しましたが、会話の流れはご本人や現場の空気に委ねる形で進めました。

 その中で「飲むヨーグルトを使ってみては?」といったネタは考えていて、それを買ってくる準備などはしました。大まかな流れとオチの方向性だけ決めて、あとは秋山さんにお任せして、見事に演じきっていただきました。それぞれ3,4回は打ち合わせを重ね、通常はこちらで作ったものをお願いする形ですが、秋山さんとは打ち合わせの段階から1時間ほど一緒にアイデア出しをしてくださり、非常にいい経験になりました。僕たちにとっても、演者の方とここまで中身を一緒に考える機会は初めてに近いので、勉強になりましたね。

「Masaru's LOVE JOURNEY」のインパクトは非常に強かった

海戦・バトル・楽曲……遊びへの徹底的なこだわり

――海賊団を強化していく要素が、メインストーリーと上手く絡んでいて美しいと感じましたが、どのように決まっていったのでしょう?

堀井氏:いつもの「龍が如く」シリーズでは、メインストーリーや設定などが干渉しない独立したサイドストーリーを作る手法を取っています。例えば「龍が如く8」でも、ドンドコ島の話がなくてもメインストーリーが成立するゲームデザインでした。

 しかし今回は、「海賊団を強化して悪いやつらを倒す」というのが物語の根幹となるテーマです。このテーマを描く上で、ゴロー海賊団が最後に戦う相手は海賊であって欲しいし、海賊船を持っているべきだと考えました。メインストーリーに海賊団の強化要素を組み込むことは必須だと判断し、あれだけ海賊団結成を掲げておきながら最後に出てこないのは違うと感じたため、今回はそのような形にしました。

 海賊団の強化はサイドコンテンツの側面もありますが、今回はメインコンテンツでもある、という立て付けにした方が、よりプレーヤーの感情を揺さぶるだろうと考え、そのように設計しました。

海賊団を強化していくのが物語の根幹になるテーマだ

――海戦について、帆船を操作する遊びは調整が難しかったと思いますが、どの程度ライト層に向けて調整されたのでしょうか?

堀井氏:調整は非常に難しかったです。最初は僕たちもノウハウがない状態で、海に船を浮かべるところから始めて、コツコツやっていったのですが、当初はリアルさを重視し、波や風といったリアリティを高める要素を入れてみたのですが、非常に難しくなってしまいました。僕自身、ゲームがあまり得意な方ではないのですが、全く操作できず、「これは無理だ」と感じました。

 シューティング要素も、当初はFPS/TPSのようなしっかりとした照準操作なども検討しましたが、難易度が高すぎました。また、僕たちが目指したのは、細かいリアルさよりも「海賊団イェーイ!」という爽快感や楽しさだったので、一度作ったものを見直し、何が難易度を上げているのかを分析し、段階的に簡略化していきました。

――海戦は、あるべきだろうという要素を削ぎ落として完成した形でしょうか?

堀井氏:そうですね。当初入れてみた要素を、難易度や操作性を考慮して削ぎ落としていった形です。今回は海戦をクリアすることが必須となるゲームデザインなので、強化要素も可能な限り充実させ、アクションが苦手な方でも、強化を進めればクリアできるように配慮しました。例えば、船の操作が苦手でも、真島でロケットランチャーを撃てば勝てる、といった攻略法を多く用意することで、最終的にバランスの取れた難易度にできたと考えています。

海戦のバランスもかなり調整したのだという

――今回は、女性キャラクターもバトルに参加するのが意外でした。

堀井氏:今回は女性も一緒に戦うゲームにしたかったという思いがあります。「龍が如く7」や「龍が如く8」で紗栄子をはじめとする仲間キャラクターが戦っていた流れを踏まえ、今作でも女性キャラクターもサポート役ではなく、一緒に戦う方が自然だろうと考えました。えなこさんがマシンガンを撃つ方が楽しいですよね。それに「龍が如く8」であれだけ戦った後で、今回戦わないのは逆に不自然ですよね。そうした意図から、女性の仲間キャラクターも、可能な限り戦闘に参加させるようにしました。

――アクションについて、セミオート機能がありましたが、導入の意図は何でしょうか?

堀井氏:セミオート自体は、「龍が如く7外伝」から導入しています。ただ、あまり活用されていなかったので、今回はチュートリアルの後で選択肢として提示するなど、よりわかりやすく目立つようにしました。意外とよくできた機能なのですが、あまり知られていなかったかもしれません。

 「龍が如く」のアクションは比較的簡単な部類に入ると思いますが、それでも難しいと感じる方はいらっしゃいます。特に「龍が如く7」や「龍が如く8」といったRPG作品から入られた方の中には、「龍が如く7外伝」のアクションが難しかったという意見も正直ありました。そういった声も踏まえて、アクションゲームではあるけれども、「ボタンを押していれば色々出ますよ」という形でアシストする機能が必要だと考えました。そのため、今回は選択メニューに加えるだけでなく、機能自体も改良して搭載しています。それが導入の意図です。僕自身も、慣れるとセミオートの方が気持ち良かったりします。よくできた機能ですので、ぜひ試してみてください。

セミオート機能が搭載されており、遊びやすくなっている

――エンディング曲について、これまでのシリーズ作品のように外部アーティストの既存曲や書き下ろしテーマ曲を使わなかったのはなぜですか?

堀井氏:短期間での開発だったという事情も正直ありますが、他の外部アーティストの方にお願いすることも検討はしていました。「旅立ちの歌 -Journey to the new world-」なども含め、今回はゲームとして“海賊”というテーマでまとまった作品にしたいという想いが強かったです。制作途中で全体像が見えない中で外部にテーマ曲を依頼するよりも、海賊団を象徴する歌があり、それが目立つような形にした方が、今回は海賊体験を伝える上でより効果的だろうと考えました。そのため、今回はあえてタイアップという形は取らず、今回の作品では自分たちの楽曲で世界観を構築するのが最善だと判断しました。

――今作の楽曲はシリーズの中でも特に気に入っているとのことですが、好きなポイントやクリア後に改めて聞いてほしい曲はありますか?

堀井氏:今までで一番聴いていてワクワクするというか、冒険心をくすぐられるサウンドになったと感じています。「この曲を聴けば、ゲームのあの場面を思い出す」というような、ゲーム体験と強く結びつく楽曲にできたと思います。「旅立ちの歌 -Journey to the new world-」もそうですし、「ゴロー海賊団のテーマ」のように、聴いたら思い出に直結する曲を多く残せました。一方で、「龍が如く」らしさと海賊らしさのバランスを取ることはBGM制作で悩んだところでした。当初は冒険・海賊の色が強すぎて「龍が如く」らしさが薄れてしまった時期もあり、ミュージックディレクターの吉田氏と相談を重ねて調整しました。

 そういった試行錯誤の結果、冒険モノってワクワクしないといけないと思うのですが、聴いているだけでワクワクするような楽曲が多く仕上がったと思っていて、すごく満足しています。全曲好きですが、やはり「旅立ちの歌 -Journey to the new world-」が一番好きで、僕も朝のアラームに設定して聴いています(笑)。「The Power of Goro's Pirates」というゴロー海賊団のテーマをリミックスしたバトル曲も、非常に気に入っています。ですので、今回のサントラは特にお気に入りですね。

――ライブイベントでお客さんと一緒に歌ったりなど、そういった形で披露されるのも期待されます。

堀井氏:「旅立ちの歌 -Journey to the new world-」はあの厳しいスケジュールの中でよく完成したなと思っています。初めて歌詞から作った曲で、通常は曲に歌詞を合わせるのですが、ミュージカルということで作ったことがなく勝手がわからず、作曲メンバーの福田氏にまず歌詞のイメージを伝え、デモを作ってもらう形で進めました。1週間ほどでデモが上がってきたのですが、それが「意外といいのでは? それっぽいじゃん」という感触で、そこから本格的に制作を進めて、非常にいい出来になったと思います。あの曲が良くなかったら、作品全体の評価も変わっていたかもしれないので、本当に良かったです。ライブイベントも、いつか実現できればと考えています。

――ハワイの街について、1年という時間の経過による変化などはありますか?

堀井氏:アロハリンクスなどもそうですが、街の人々については、「龍が如く8」から1年後ということで、そのまま登場しているキャラクターもいれば、少し変化を加えているキャラクターもいます。「龍が如く8」に登場した彼らが1年後も同じ場所にいてもおかしくないですが、全員同じでは面白みに欠けるため、一部のキャラクターについては1年後を描写するなど、細かい変化は加えています。その辺りの小ネタは意識して入れたつもりです。「龍が如く8」をプレイ済みの方なら、「龍が如く8」で登場したキャラクターも多数登場しますので、差分は意識しているのでそこを楽しんでいただければと思います。

エンディング「続」の真意とは!?

――エンディングで“続”と表示されましたが、その意図は?

堀井氏:あれほど喜んでいただいたり、反響があるとは予想していませんでした。当初は仮で「完」と入れてみたのですが、どうもしっくりこなかったんです。「龍が如く8外伝」の物語としては一区切りですが、作中で語られるように、彼らの人生はまだまだ続いていきます。桐生には闘病生活や新たな夢があり、真島もまた新たな道を歩んでいくでしょう。そのような未来に続く終わり方にしているので、「完」という文字に納得がいきませんでした。

 ですから、「『龍が如く9』に続きます」というようなシリーズの続編の予告というよりは、彼らの人生がこれからも続いていくというメッセージを込めて「続」という表現を選びました。その意図をSNSなどで詳しく説明するのは野暮なので控えています。これから「龍が如く」シリーズがこの先続くかどうかはここでは明言できませんが、今回のゲームの持つ雰囲気やメッセージ性に合わないと感じたのが一番の理由です。色々な未来の可能性を示唆する意味合いも込めて「続」というメッセージにさせていただきました。

――クリア後の最後の部分で桐生がどうなっているかなど、プレーヤーの考察も見られますが、そういった意見はご覧になりましたか?

堀井氏:考察系の話題は、意識して見ないようにしています。エンターテインメントは自由に考察して楽しむものですから、僕たち作り手側が「それは合っている」、「間違っている」と口を出すつもりはありません。皆様が自由に楽しんで、盛り上がってくだされば嬉しいです。この後、続くかどうかはわかりませんが、もし次の作品が出ることがあれば、それが答えだと思っています。

――プレイヤーが気づきにくいような、開発者だけが知る隠しネタのようなものはありますか?

堀井氏:隠しネタですか……何かあります?(笑)。あまり隠しているつもりはないのですが、僕は今回ゲームディレクターも兼任していて、作品の内容は全て把握しているので、逆に何が隠されているのかわからないくらいです。

――最後に読者の方へメッセージをお願いします。

堀井氏:本当に世界中のたくさんの方々にプレイしていただき、そして「面白かった」、「ゴロー海賊団の冒険が楽しかった」といった感想を多くいただけたことを、大変嬉しく思っています。今回は僕たちにとっても実験的な要素を含む、ある意味で突飛なタイトルでした。そういった「龍が如く」らしくない部分もあった作品だと思いますが、その中でも「龍が如く」らしさを感じていただけたという声もあり、それは私たちにとって非常に大きな成果だったと感じています。

 今後の展開についてはまだ具体的にお話しできませんが、今回の「龍が如く8外伝」という実験的な作品で得た学びや、良かった点は数多くあります。それを糧にして、海賊よりびっくりするような、さらに面白いモノを作っていきたいと思っているので、今後の「龍が如くスタジオ」の続報、そして次の作品を楽しみにお待ちいただければ幸いです。

――本日はありがとうございました!