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「全国高校eスポーツ選手権」「LoL」部門全国1位は東京学芸大附属国際中等教育学校の「ISS GAMING」!

Flaw選手とAkabuff選手ら注目選手が見事なプレイ。一発のスキルが逆転の芽を摘む

3月24日開催

幕張メッセ1ホール

 毎日新聞主催、サードウェーブ共催で開催された「全国高校eスポーツ選手権」。その2日目にあたる3月24日には、「League of Legends(以下、LoL)」の決勝戦が行なわれた。昨年12月に行なわれ。93もの高校生チームが参加したオンライン予選大会を勝ち抜いた4校が全国「LoL」ナンバーワン高校生の座をかけて争った。今回は大会の模様をレポートしたい。

 「LoL」はMOBAの代表的なタイトルであり、世界で最もプレイされているオンラインゲーム。5vs5のチーム戦で、プレーヤーは様々な特徴や役割を持ったチャンピオンと呼ばれるキャラクターを操作し、相手の拠点(タワー)を破壊しながら本拠地にあるネクサスの破壊を目指す。奥深い戦略とチームワークがカギとなるゲームだ。口コミを中心にプレーヤーを獲得してきたタイトルであり、高校生も友人同士で一緒にプレーしていることが容易に想像できる。実際、プロリーグの選手間も昔からの友人という選手は多く、本大会でも昔からの友人同士のチームが決勝に進出していた。

 出場高校は横浜市立南高校(神奈川)「The Grateful Feed」、N高校心斎橋キャンパス(大阪府)「KDG N1」、岡山県共生高校(岡山)「eスポーツ部」、東京学芸大附属国際中等教育学校(東京)「ISS GAMING」の4チーム。厳しい予選を勝ち上がってきただけあって、どのチームもそれぞれ独自の強みを持っている。

 尚、本大会のルールは準決勝がBO1(1本先取)、決勝戦がBO3(2本先取)、パッチは9.6で行なわれた。

選手の入場は選手ごとに行なわれた。緊張の面持ちのから、余裕のを見せる選手まで、表情は様々だった
入場時にポーズを付ける赤バフ選手

 また、予選大会に引き続き総合MCとしてOooDa氏が登壇。アナリストとして国内プロリーグ(LJL)で解説を務めるRevol氏が参加。試合の実況はLJLキャスターのkatsudion氏、解説としてLJLでコーチを務めるLillebelt氏がそれぞれ担当。さらにイベントのスペシャルサポーターとして、自身も「LoL」をプレイするケイン・コスギ氏が参加した。

大会の司会を務めたOooDa氏
アナリストを務めたRevol氏
スペシャルサポーターのケイン・コスギ氏
実況を務めたkatsudion氏(左)と解説のLillebelt(右)
本大会のトーナメント表

準決勝、注目選手2人の活躍は?

 準決勝1試合は岡山共生とN髙 心斎橋の試合。本大会の注目選手であり、アマチュア大会でも結果を残しているる岡山共生、Akabuff選手の動きに注目が集まった。

アマチュアの試合では、プロリーグではなかなか見ることのないメタ外の特徴的なチャンプがピックされる。この試合では岡山共生のMetanoia選手が「シャコ」をピックした

 試合は序盤から激しいぶつかり合いが続いた。まず、BotレーンにMetanoia選手がガンクを試みるも、これにN髙 心斎橋のmarimo選手が見事な対応でシャコを倒し、最初のキルを獲得。しかし、ここでAkabuff選手もしっかりとダメージを出しmarimo選手をキルし返した。

 その後、今度はMetanoia選手がTopでガンクに成功するも、Botでmarimo選手がダブルキル。MidではN髙 心斎橋WhiteAndPinl選手が使うリサンドラの移動妨害スキルにジャングルYosio選手が合わせる形で、逃げスキルを持っていない岡山共生Tenichi選手の使う「ベイガー」をキル。ほぼ同時に全レーンでキルが生まれる熱い展開に。

 その後、N髙 心斎橋は集団戦でAkabuff選手を集中して狙う作戦を展開。集団戦の開始とともにAkabuff選手の使う「ドレイヴン」を倒すことで、エースを欠いた岡山共生をそのまま全員倒しきるというプランだ。実際、N髙 心斎橋は作戦通りにいくつかの集団戦でAkabuff選手を真っ先に倒すことに成功。しかし、無理にAkabuff選手を倒すために陣形が乱れてしまい、ベイガーやシャコといった瞬間火力が出てキル性能が高いチャンピオンにダメージを出されてしまい、Akabuff選手の排除に成功したにも関わらず、肝心の集団戦で敗北してしまう。

 その結果、岡山共生が徐々に有利を広げていき最終的には試合を決めることのできる強力なバフを付与するモンスター「バロン」を獲得。最後はオブジェクトを守ろうとするN髙 心斎橋のチャンピオンに対し、Tenichi選手のベイガーが強力な移動妨害スキル「イベントホライズン」を3人にヒットさせ、そこから始まった集団戦で勝利。そのままネクサスまで破壊し、岡山共生が決勝へコマを進めた。エースプレーヤーを落とせば勝利できるとは限らない「LoL」の難しさが感じられる試合だった。

勝負を決めた「イベントホライズン」は触れるとスタンする壁を指定地点に発生させるスキル。岡山共生はこのスキルによって勝利を確実なものとした

 準決勝2試合目は横浜市立と学芸大附属の試合。学芸大附属はプロチームの練習生であるFlaw選手が中心となるチームということもあって、優勝候補に挙げられているチーム。一方の横浜市立は中高一貫校に通う友人同士で結成したチームで、チームワークでここまで勝ち残ってきた。

 試合は終始学芸大附属がゲームを支配する展開に。MidのPokipon選手の使う「シンドラ」がレベル2でソロキルをし、その後もレーンで有利を作る。マップの中心にあるMidレーンの支配権をとったため、敵のプレッシャーを受けつらくなったFlaw選手は一気にテンポアップ。Topに、Botにと次々にガンクを決めていく。

 オンライン予選で解説陣から称賛されていた学芸大附属のマップコントロールは今回も的確で、中盤以降は視界をとることで隙を見せず、相手の動きを予測しキルからオブジェクトへと繋いでいった。

 試合終盤、学芸大付属Tokiboy選手のアルティメットスキルがクールダウンに入っていたこともあり、横浜市立は一発逆転を狙った集団戦を仕掛けるも、学芸大附属はこれを見事にいなして勝利。そのままゲームエンドとなった。大差の試合ではあったが、最後まで勝利をあきらめなかった横浜市立のプレイも素晴らしかった。

Flaw選手の使う「エリス」はかなりテクニカルなチャンピオンなのだが、見事に使いこなしていた

最後の最後まで分からなかった決勝戦

 決勝戦はBO3(2本先取)のため、Ban/Pickにおいて今までにない戦略が求められるほか、連戦での集中力や、前の試合を引きずらないことなどが求められるようになる。また、決勝戦は岡山共生のAkabuff選手、学芸大附属のFlaw選手、2人の注目選手がぶつかり合うことになった。

 このエース2人の役割は対象的だ。Flaw選手はジャングラーであり、序盤からゲームメイクをする役割で、後半の集団戦での影響力は少ない。一方のAkabuff選手は集団戦でダメージを出すマークスマン。終盤になるほど影響力が増していく。学芸大附属がFlaw選手を中心に、Akabuff選手の時間になる前に試合を終わらせることができるのか、岡山共生はその時間まで耐えられるかが重要になる。

 決勝戦第1試合は 岡山共生のTenichi選手がテクニカルなアサシン「Zed」をピック。見ていて楽しいZedはプロシーンでピックされても盛り上がる、観戦における人気チャンピオンだ。一方の学芸大附属はBotレーンにおける序盤強力な組み合わせである「ルシアン」と「ブラーム」をピック。序盤からAkabuff選手を抑える作戦に出た。

 試合は序盤からFlaw選手がMidでガンクを決めた後、もう一度Midにガンクを試みる。しかし、Tenichi選手が移動スキルを駆使してこれを捌ききると、岡山共生のTopレーナ―であるRiven chan選手がテレポートで駆け付けカウンターでキルを獲得。素晴らしいプレイに会場からは歓声が上がった。

 しかし、その後もFlaw選手はMidに行くことを止めずにガンクを決めていく。気づけば学芸大附属はTop、Mid、Jgで有利を作っており、その後の集団戦でも勝利。マップを支配していきバロン獲得へと向かった。

 ここで岡山共生の素晴らしいプレイが炸裂。4vs5の状況にもかかわらず、Tenichi選手のZedが敵に入っていき、陣形が崩れたところでAkabuff選手がダメージを出していく。その結果、岡山共生が集団戦に勝利しバロンを獲得。続いて起こった集団戦でもAkabuff選手がキャリー仕切って勝利。そのままネクサスまで破壊し、岡山共生が逆転勝利で優勝へリーチをかけた。

マークスマンは集団戦における影響力が高い。Akabuff選手程の腕ならば、終盤の大逆転も可能だ

 1試合目で逆転負けを喫し、後がなくなった学芸大附属。インターバル中のミーティングで立て直すことが重要だ。「LoL」は序盤の有利をつけることが勝利につながりやすいため、他のレーンに介入するジャングラーにFlaw選手を擁する学芸大附属の方が有利と言っていい。序盤の有利は、勝っているチームのミスか、負けているチームのスーパープレイか、あるいはその両方が重なることでしか逆転できなくなりがちだからだ。実際、準決勝ではFlaw選手は序盤に有利を作り出し、チーム全体でその有利を拡げることで勝利をつかんできた。逆転負けによるショックもあるだろうが、それをリセットしなければいけない。

 逆に岡山共生にとっては、プロであるFlaw選手を序盤に抑えるのは難しい。いかにセーフティにプレイして序盤をしのぎ、Akabuff選手の強い時間を迎えるか、そして逆転勝利で得た勢いを次の試合で活かすかが重要となる。

 第2試合目、ゲームスタート直前にキルが発生したものの、その後は先ほどの試合に比べて静かな展開。しかし、Flaw選手は相手側のジャングルに入っていく動きで徐々に有利を広げていく。先にガンクを仕掛けたのは岡山共生のMetanoia選手。Topにガンクを仕掛けるもガンクを受けたTokiboy選手が見事にさばきタワーダイブに失敗。それを見たFlaw選手は敵のジャングルが助けに来れないためMidに素早く動きガンクに成功。この試合もMidとJgを軸に有利を広げていく。また、学芸大附属はサポートのmochi選手が素晴らしいスキル精度でチームを支え、ゲーム中盤には10キル以上の差をつけていた。

 しかし、岡山共生は集団戦で再び魅せる。学芸大附属が仕掛けた集団戦で、チーム全員が素晴らしい動きを見せ岡山共生が勝利。不利な地形と陣形でリスクの高い集団戦を仕掛けた学芸大附属のミスもあるが、全員が自分の仕事をこなした岡山共生のプレイが素晴らしかった。

 不利な中で仕掛けられた集団戦で勝利。逆転の可能性がまだあることを示した岡山共生だったが、この集団戦によって気が引き締まったのかそこから先は学芸大附属が堅実なプレイを続け、今度は有利な陣形で集団戦を仕掛け圧倒。このままタワー、インヒビターからネクサスまで破壊し学芸大附属が勝利した。

大差であっても相手にとって有利な地形で、バラバラに当たってしまうと負けてしまう。学芸大附属にとってこの集団戦では、範囲攻撃が多い構成に狭い場所で突っ込んでいったために不利な形となった

 第3試合、学芸大附属は第2試合で手ごたえがあったのか、マークスマンを「シヴィア」から「アシェ」に変更しただけで構成をほとんど変えなかった。一方の岡山共生はMidに後ろからダメージを出す「ベルコズ」を置き、強力な学芸大附属の仕掛けの届かない場所からダメージを出すプランに変更した。

 試合はやはり序盤からFlaw選手がゲームメイクをしていく展開となり、Midガンクを中心に立ち回っていく。特にこの試合はMidに強力な移動妨害スキルを持つ「リサンドラ」がおり、且つ逃げるのが苦手な「ベルコズ」相手ということもあってFlaw選手のプレッシャーはすさまじいものに。ベルコズは射程こそ長いが、逃げ場の少ないレーン戦では捕まりやすく、どうしてもガンクが刺さってしまう。ガンクによってMidの有利を作った後は、これまでと同じように学芸大附属がマップを支配していき、次々にオブジェクトを獲得していく。

 それでも諦めない岡山共生は、仕掛けられた集団戦でAkabuff選手が見事な判断でキルをとったものの集団戦で破れ、Akabuff選手の使う「トリスターナ」にゴールドを集め、最後の逆転を狙う形に賭けた。

 そして試合は最終局面に。バロンを獲得してゲームエンドを狙う学芸大附属は集団戦を仕掛ける。この時すでにAkabuff選手はコアアイテムが3つ揃っており火力が出るため、一発逆転があってもおかしくない状況だ。しかし、ここで学芸大附属のhabentti選手の使う「アシェ」のアルティメットスキル、強力なスタン効果を持つ「クリスタルアロー」がAkabuff選手にヒット。これでできた隙をFlaw選手が見逃さずにAkabuff選手をしっかりと捕まえてキルし、そのままなだれ込むように集団戦に勝利。ネクサスを破壊して学芸大附属が見事「LoL」における高校生初代1位の座を獲得した。

見事なスキルショットで集団戦に勝利。万事休すという表情の赤バフ選手
喜びを分かち合う学芸大附属の選手たち

 本大会では優勝した学芸大附属はもちろん、出場したすべてのチームが高校生らしいアグレッシブなプレイを見せてくれたと同時に、時にはプロ顔負けの名プレイを見せてくれた。なにより「LoL」というチーム間の実力がはっきりと出るゲームで、どんなに大差がついても最後まで諦めずにプレイする選手の姿には感動すら覚えた。

 また、試合後のインタビューで多くの選手が「試合が始まったら緊張を感じなかった」と答えていたことが印象に残った。プロの練習生であるFlaw選手や、アマチュア大会で実績のあるAkabuff選手以外は緊張でいつも通りにプレイできないのではないかという考えがあったが、見事に裏切られた。国内リーグやアマチュア大会の盛り上がりで、大舞台でのプレイを見ているからこそ事前の心構えができているのかもしれない。

試合後、インタビューに応じてくれた選手たち。疲れた表情を見せることもあったが、どのチームも笑顔を見せてくれた。

 どのチームにも「この大会に出場して、『LoL』のプロになることを意識するようになった」と答える選手が一定数いたのも印象深い。今後、こうした学生向けのイベントが新たな選手の発掘や、プロを目指す選手を増やすことにも繋がり、国内リーグをより一層盛り上げてくれることに繋がることだろう。

 なお、「全国高校eスポーツ選手権」は第2 回大会の開催も決定しており、「LoL」は引き続き競技種目として採用されることが発表された。今回出場したチームの中にも、次回大会への意気込みを語る選手は少なくなかった。第2回大会では今回出場した選手の成長したプレイや、新たな注目選手の登場など、多くのことが期待される。

 最後に、既に大学リーグや社会人大会などのアマチュアリーグも盛り上がりを見せつつある「LoL」だが、こうした学生向けのイベントが増えることで、日本全国でより一層eスポーツ文化が浸透・発展していくことに繋がるのではないだろうか。今後、こうした大会・イベントが増えていくことを期待したい。

試合終了後には「全国高校eスポーツ選手権」のテーマソングを歌うBURNOUT SYNDROMESがライブを行った。壇上には参加選手も上がり、学芸大附属の選手たちは音楽に合わせトロフィーを掲げた