インタビュー
「3D スペースハリアー」インタビュー
「SEGA AGES」から「バーチャルコンソール」、そして3DSにいたるまでの道のり
(2012/12/26 00:00)
セガは、12月26日、ニンテンドー3DS用配信タイトル「3D スペースハリアー」の配信を開始した。価格は600円。プロデュースを担当したセガの奥成洋輔氏、そして開発を担当したM2の堀井直樹氏にお話を伺う機会を得た。
今回リリースされる「3D スペースハリアー」は単なる移植版ではないことは過去記事をご覧いただくとして、弊誌をご覧頂いている方は、奥成氏、そして有限会社M2という存在に関しては、過去に何度かインタビューさせていただいているので、ご存知かとも思われる。しかし、「スペースハリアー」と両者の付き合いは本当に長い。今回、堀井氏が同席というラッキーに恵まれたこともあり、M2という会社がどんな成り立ちなのか、そして「スペースハリアー」というタイトルと両者の付き合いはどこから始まったのか? 今回のインタビューはそこからスタートさせていただくことにした。プレイステーション 2「SEGA AGES 2500 スペースハリアーII」から話はさらにさかのぼる。
「SEGA AGES 2500 スペースハリアーII」で「これを買っておけば『スペハリ』はOK!」のはずが……!
――まずはM2という会社に関して堀井さんからお話いただけますか?
堀井氏:ゲーム業界にいる方と話をすると、まず間違いなく“ゲーム小僧”だったりするじゃないですか。そこは僕たちも変わらなくて、うちの会社の実質のデビュー作はメガドライブの「ガントレット」(※1)なんですけれども、あれは本当にゲームセンターで4人で遊ぶゲームで、そこに集まっていた面子がそのまま作っているんで……学校とゲーセンつながりですね。遊んでいて記憶に残っているものをそのまま作ってテンゲン(当時)さんに持ち込んで、ようやく資料を購入するお金を捻出して資料を買って、みたいな感じなので。第1作目がアーケード版の精密移植……いわゆる“目コピー”でしたけれど……で始まって、今に至るというのは自分自身、20年以上やってきて納得がいくなと。
奥成氏:好きなゲームを移植したくて……。
堀井氏:当時、ゲーセンのゲームって高くて、買えなかった。買えないし、遊ぶには100円入れまくらなきゃいけないし、かといって移植作品を買ってきても、同じようにはなってないし。「やっぱり違うよね」と思うわけで。そこをなるべく同じように、と思っていくと、自分たちでやったほうがいいなと。
――最初の「ガントレット」から……。
堀井氏:当時、「ガントレット」はまともな移植がされていなかったので、家で4人で遊ぶ手段がなかったんですよね。「作れるぐらいの知識はあるでしょ」というところから始まってますね。
奥成氏:そのあと、うちの会社と付き合いができてきて……。
堀井氏:ゲームギアの「ガンスターヒーローズ」のときに、セガさんに麻生さんという方がいらっしゃって、その人と「へえ、『ガントレット』を作ったんだ」っていう話をしていて「じゃあ、うちでゲームギアをやらないか」という話になって。「好きなゲームをいくつか挙げてみて」という質問に「エドワードランディ」(※2)の名前を挙げたんですが、よく考えたら“「ガンスターヒーローズ」は遊べる「エドワードランディ」なのではないか?”という話になりまして。それをゲームギアに移植したのがセガさんとのお仕事の1作目になりますね。
奥成氏:もともとメガドライブの性能を最も使い切ったと言われていた「ガンスターヒーローズ」をゲームギアに移植する、というムチャなところをやったと。ゲームギア版はPS2アーカイブスにもなった「ガンスターヒーローズ ~トレジャーボックス~」で好評配信中です。裏技ですけれども(笑)。
堀井氏:セガさんとの仕事はそれから4年ぐらい期間が開いて、Windowsで「サクラ大戦」を作ってますね。あと、Dreamcastでもお手伝いしました。サターン版を見たときに「なんて大規模なゲームなんだ」と思ったので、ものすごく難航しました、ということを良く覚えているぐらい大変でしたね。
奥成氏:そして、Dreamcastの「サクラ大戦」のあと、またしばらく開いて……。「獣王記 -PROJECT ALTERED BEAST-」というプレイステーション 2のアクションアドベンチャーがあったのですが、これの開発中に、社内で昔の「獣王記」をおまけに入れるというアイデアがあったんです。M2さんがちょうどそのころ、アーケード版の「獣王記」を移植していて。
堀井氏:勝手に移植しようとしていたんですよ。なんとなく「そういう話もあるかもしれない」というので、頼まれていないのに移植してましたね。そこからですよね。
奥成氏:ですが、結局「獣王記 -PROJECT ALTERED BEAST-」に「獣王記」を入れる話はアイデアレベルで終わってしまいました。でも、セガ社内でM2さんは「移植ができる」という情報が共有されました。その次にプレイステーション 2の「セガラリー2006」でも初代「セガラリー」を付けたらどうだろう? というアイデアが出まして、M2さんに白羽の矢が立ったと。セガではそのときちょうど「SEGA AGES 2500」で「バーチャファイター2」をAM2研が移植していまして、Model2の移植エンジンはあると。ただ、「セガラリー」まではラインに余裕がなく、AM2研で作業はできないので、M2さんに「これで作ってみない?」という話が行きました。
堀井氏:見よう見真似だったんですけれどね。
奥成氏:それがM2さんとセガのPS2での最初の仕事になって。「VF2」では、いわゆるエミュレーター的な作り方をしたんですが、「セガラリー」は基板のバージョンがVF2よりアップしていたのでそのままでは動かない。そこをM2さんが独自にエンジンを解析して、自分たち向けに作り変えて「セガラリー」を移植しました。結局、「セガラリー2006」の本編が発売までに時間がかかって、発売は「スペハリ」よりも後発になってしまったんですけどね。その一方で「VF2」が非常に好評だったので、「SEGA AGES 2500」では今後この路線を続けることにことになり、ちょうど僕が「ドラゴンフォース」を手がけた後、シリーズ全体を引き継ぐことになり、次のラインナップを作るために、いろんな開発会社さんとお話をしていた中で、ここでM2さんと私がようやく初対面になったんですね。
――そうなんですか? 意外ですね。
奥成氏:そこで「SEGA AGES 2500」で「獣王記」はどうだろう? という話にもなったんですが、さすがに「獣王記」単体では(パッケージタイトルとして)厳しいだろうな、ということになりまして、結果的に「SDI&カルテット」ということになりました。結果的に五十歩百歩だったかもしれませんが(笑)。それと、SYSTEM16に近いハードということで「スペースハリアー」をやりましょう、ということになりました。そこからいくつかのタイトルをM2さんにお願いすることになったわけです。それで生まれたのが先日7年ぶりにPS2アーカイブスでリリースされた「SEGA AGES 2500 スペースハリアーII」なんです。
堀井氏:今見て思うのは、このころまだ結構、アセンブラでコードを書いてるんだよね。(スタッフ)みんなすごいから。
奥成氏:SYSTEM16で、音は鳴ってなかったけど、ほぼ完全に動いている「獣王記」と「忍 -SHINOBI-」を見せられて、「ここまでできているんだから、すぐ動くだろう」と思っていたら、全然そうではなくて……。
堀井氏:PS2のスペックで、SYSTEM16を全部きれいに再現しようとすると、FM音源回りが乗らない。そのFM音源を「どこでやろうか」と考えていたら、PS2のPS互換機能のためのプロセッサ「IOP」(33MHz)があったんで、アセンブラコードを書いて、FM音源を鳴らしました。(詳しくはセガボイスVol.15を参照されたい)
奥成氏:当時「スペースハリアー」が20周年だったんで、20年前のゲームなのだから、PS2なら「スペースハリアー」なんて楽々動くだろう、なんせDreamcastでも動いているんだし(『シェンムー』に収録)なんて思っていたらそんなことはなかったですね。エミュレーションという技術も世の中で確立しつつある時期だったので。僕も(移植タイトルを手がけて)最初の頃だったので「ポンポン出せるんでしょ?」って聞いたら「そんなことはない」と。
理由を聞いてみたら、ハードが異なるので、(再現には)非常にマシンパワーを食うということと、M2さんがこだわっていたのが、「とにかく操作性を大事にしたい」ということで。つまり入力遅延です。当時、入力遅延という言葉が世の中で語られ始めた時代で。「実は入力遅延をどこまで削れるかが大変なんです」という話をされまして。「スペースハリアー」はその中でも比較的楽な方だったんですけれども、それ以外のタイトルでもやっぱり入力のずれをどうやったら減らせるか、ということを考えて作っているところに、すごく力を使ってきましたね。
堀井氏:1フレーム遅らせてもらえれば、すごく楽になるという状況も一杯あって。
奥成氏:ポリゴンでいうところの、画面描画を60フレームで回すところを30フレームで回すとポリゴンが倍使える、という話に近いのかな?
堀井氏:似ていると言えば似ているけれども、もう1段階下のレイヤーで頑張っているという感じですね。1フレーム分時間をもらえれば、その時間でできることはできるので、楽だよね、という話ですね。
奥成氏:あと、アーケードの「スペースハリアー」を移植しようという話の中に、リメイク作も出ている状況で2,500円という単価では厳しいと思っていたので、ほかのバージョンも移植したい、という話をしたところ、M2さんはメガドライブとセガ・マークIIIのエミュレーションに関してもある程度着手していたので、それも入れてセットにすることで商品化が決まりました。ただ、リメイクとはいえ1作目がリリースされているということで、混乱するから「II」というタイトルを付けてみたんですが……。
堀井氏:「メガドライブの『II』だけだと思われると買ってもらえないかも」なんて話をしていましたね。そういえば当時、奥成さんが「これに移植しておけば、PS2だけじゃなくて3でも4でも遊べますよ」なんて話をしてましたね。やっとすべてのPS3で遊べるようになりましたけれども(笑)。PS3のPS2互換機能がなくなった当時、どうしようかと思いました(笑)。その苦労も800円で遊べる時代になったんですよね。
奥成氏:「SEGA AGES 2500 スペースハリアーII」の中に、隠しでゲームギア版も入れていたんですが、当初は移植の予定はなかったんですね。なぜかというと、ゲームギア版はマスターシステム版のダウングレード版であったということと、元が携帯ゲーム機なので、解像度的にもTVで遊ぶにはちょっと、ということもあったので。でも、M2さんは「入れられるものは全部入れたい」という話をされていて。マスターシステムとゲームギアは、厳密にいうとハードウェアスペック的には異なっていて、当時M2さんはゲームギアを動かせていなかったんですよ。「じゃあ無理じゃないか」と言っていたんですけれども、最終的には入っちゃった。
堀井氏:7年前の当時思ったんだけど、俺が言うのもなんだけど、「もう『スペハリ』買いたくないよ、これ買っとけばいいじゃん」って言うものを作りたくて(一同笑)。その後Wiiもあれば、「3D」もあるわけで。「僕も買ってるから許してください皆さん」みたいな話は後ですればいいかな(一同笑)。
奥成氏:ゲームギア版は開発当初は入る予定はなかったんですけれど、β過ぎた後で「間に合いました! 作りました!」って言って来て、全然間に合ってない(笑)。その時点ですでにマニュアルができちゃっていて、もちろんリリースも打っちゃっているんで、宣伝もできない。そこで「裏技でゲームが1本入ってるっていうのもいいか」ということで隠しで入れて。その後も何かしら隠しでゲームを入れる、というのがPS2の「SEGA AGES 2500」シリーズでわりとお約束的になっちゃったんですけれども。
堀井氏:今もそうですけれども、当時の奥成さんは、ムチャを最後まで聞いてくれるブレイバー(勇者)だった。
奥成氏:今もひどいムチャを受けている(一同爆笑)。
堀井氏:最近僕らもいい子になったと思うんだけど……。
奥成氏:全然変わらない(笑)。ともかくこのM2さんの作っている間にスペックが変わっていくという話は、その後も尾を引いていくんですけれども。
――その最初のパターンが「SEGA AGES 2500 スペースハリアーII」で確立されたと。
奥成氏:最後の最悪だったのが「SEGA AGES 2500 ファンタシーゾーンコンプリートコレクション」のネオクラシックですね(笑)。うちのライセンスじゃない、サンソフトさんが開発したゲームが元だったんで、慌ててライセンス契約を結んで(笑)。
堀井氏:そうだったんだ。
※1「ガントレット」……1985年にリリースされたアタリのファンタジーRPG風アクション・シューティングゲーム。4人同時プレイ可能。メガドライブ版はテンゲンからリリースされた。
※2「エドワードランディ」……アーケードで1990年にデータイーストからリリースされたサイドビューのアクションゲーム。
さらに出てくる「スペースハリアー」の謎!?
奥成氏:かなり話はそれましたが、ともかく、高い技術力の中で、PS2に「スペースハリアー」が移植できてよかったなと。移植シリーズとしては「いい船出ができてよかったな」と思いましたが、その後、いろんな反響もいただきました。
とくにびっくりしたのが、東京ゲームショウに「SDI&カルテット」と「スペースハリアーII」を出展した際のことです。完成版を出展していて、お客さんへの初お披露目ということで僕も常駐していたんですが、初日の朝イチにまず最初にいらっしゃったのが、先ほどのM2さんたちの最初の担当で、アーケード版「スペースハリアー」の開発者でもある麻生さんと、元ゲームのるつぼのスタッフ、つまりスーパー32X(32X)とセガサターンで「スペースハリアー」を移植した開発者2人の3人だったんです。
――なんと!
奥成氏:「えっ?」と思う間もなく、1人がプレイを始めたんですね。彼らは僕らにとっても“レジェンド”です。当時、PS2よりも断然低いスペックのハードで「スペースハリアー」をそのまま32Xやセガサターンに持ってきた方々です。その人たちが目を皿のようにしてPS2版をプレイするんですよ。やっぱり彼らは「スペースハリアー」が好きで好きで仕方がない方々なので、人が作った「スペースハリアー」も気になるみたいなんです。そうしたら、7面(LUCASIA:マンモスが出てくるステージ)までプレイして「あっ!」って声を出すんですよ。
「いったい何が?」とドキドキしつつ、プレイし終わった後に感想を聞いたら、「とてもよくできています」とお墨付きをいただいたんですけれども、「ただ1つだけ」ということを言われまして。7面で背景に斜めに立っている岩があるんですけれども、これが背景の地平線が……岩って地上物なので、地平線の下にしか表示されないんですけれども、ハリアーが地面を走ったりすると、地平線よりはみ出ることがあって。地平線が上がると、色化けを起こすバグがあるのだと……黒くなるんですね。そこをPS2版は再現できていないという。
堀井氏:ハードウェアの設計上は正しい絵になっているんですけれども、実機の動作とは違うという。
奥成氏:7面の最初から中盤までに出てくる岩がそういう表示になるんです。ですが、元るつぼのスタッフの方が言うには、「バグなんですけれども、岩がキラキラして、きれいに見えた」と。
――そんな話があったんですね……。
堀井氏:他にそれを指摘した人を知らないんですが、るつぼのスタッフさんが初めてでしたね。
奥成氏:この指摘をした人は、結局彼らしかいなかったんじゃないかな。ともかく駆け出しの僕は「まだまだだなあ」と思ったんですね。それからもう1つ、その後、地平線の高さ、という問題がありました。今回の「3D スペースハリアー」に入っている「ハリアーの移動範囲」というオプション設定はこれに対する回答です。
PS2版をリリースした際に、「プレーヤーを1番上に持っていったときの、地平線が1番上がる位置が実機と違うんじゃないか」という指摘がネットで上がっていたんです。「基板の通りに作っているのに、なんで違うという意見が出るんだろう?」と、その時点では理由がわからなかったんです。それと音質。「音質がCDやアーケードと違う」という話があって。アンプなど、アーケードと根本的に違うところもあるんですが、これはM2さんのほうで、入力遅延を起こさないために、マシンパワーをそちらに振ったために、サウンドの部分は若干弱かった。
堀井氏:その後は、うちが手がけたゲームでは、サウンドテストだけ音質が違う、というゲームがあったりするはずです。気がついた人は教えてください。サウンドテストでは処理が軽くできるので。
奥成氏:PS2の「ファンタジーゾーンコンプリートコレクション」の隠しに入れたサウンドモード(SST)は音質が違って聞こえるはずです。
堀井氏:そうしたような気がする。
奥成氏:M2のノウハウも上がった結果でもあるんですが、マシンパワーをサウンド再現のほうに持っていけているので、上がっているんですね。
――まだそんな話が(笑)。今だから言える話だとも思うんですが、内部で計算して出力している分、マシンパワーによって音質に影響が出ているんですね。
堀井氏:ストリーミングで流す場合、効果音で音が消える部分は再現できないんですよね。ゲームによって違いますが、「それがいい」という人も多いので。そこはなんとかしたかった。ストリーミングがベストであればそうしますけれども。
――「ギャラクシーフォースII」のときは両方入ってましたよね。
奥成氏:あれは収録タイトルが少なかったのでできるんじゃないかと、ストリームバージョンと、内蔵音源バージョンと両方入れましたね。あとFMタウンズバージョン(笑)。
堀井氏:あれのストリーミングバージョンはウェーブマスターの職人さんのおかげできれいに録音してもらえました。基板から出力されている音がL/R逆だったという事実もあれを開発していて初めてわかった(笑)。オリジナルは逆ですから、それが正しいということでアーケードのスピーカーに合わせています。
――いろいろありましたねー。
奥成氏:また「スペースハリアー」に話を戻しますが、PS2で2005年に「スペースハリアーII」を出したあと、バーチャルコンソールアーケード向けに2009年に「スペースハリアー」をリリースすることになりました。再び「スペースハリアー」をリリースするチャンスに恵まれまして、そこで「7面のバグ」を再現しよう、ということと、サウンドの部分はさらに頑張ろう、ということになりまして。そして、「アナログレバーと地平線」の問題を検証しよう、ということになりました。
――ついに謎に着手、ということですね。
奥成氏:うちの社内に「スペースハリアー」の永久保管用の筐体があるんですね。倉庫に「スペースハリアー」を実際にプレイしに行きました。そして地平線を見てみたら、PS2版ではかなり上まで上がるんですが、実機だとそこまで上がらないんですね。「確かに違う」と。実機の方が、1面に出てくる「トモス」に弾が当てやすいんですよ。「なんでこんなに違うんだろう?」とテストモードで調べてみたら、レバーを引いたときのアナログ入力(X軸)が最大(100%)まで行かないということに気がついたんですね。それは筐体を動かす中の設定としてそういう設定になっていたと。
PS2版を作っていたときは、基板でチェックしましたが、筐体まではチェックしていなかった。「だから違うんだ」と。Wiiのバーチャルコンソールアーケード版ではそれを反映したものにしました。Wii版ではヌンチャクで動かせるようにもしましたし、僕らの中では今度こそベストの「スペースハリアー」になった、ということで満を持してリリースしたわけです。
――ついに謎も解決できた! と。
奥成氏:そうしたらまた、反響をみていると「違う」という意見が。何が違うのか、というとやっぱり地平線なんですよ。今度は「地平線が低すぎる」と。「PS2版で再現できているのに、Wii版ではなんで再現できないんだ?」というお客さんがいらっしゃったんですよ。そこで「スペースハリアー」の実機を置いている各地のゲームセンターに足を運んでみたり、ネットに上がっている動画をよーくチェックしてみたんですが、確かに地平線がPS2版のところまで上がっているものがあったんですよ。
――どっちも正解ってことなんですか?
奥成氏:「なんで上がっているんだろう?」と思って、スタッフ内で考えてみた結論が、「レバーがヘタっているのではないだろうか?」ということ。永久保管のものはそれなりにしか使われていないしメンテナンスもされているので、状態が良好なのですが、ゲームセンターにあるものは20年以上経っているので、レバーが壊れるんですね。レバーが壊れたとき、修理するとレバーの動きが変わって、稼動範囲が広くなっているのではないだろうかと。レバーがヘタれることで、本来行けないところまでレバーが動くようになったことで、結果としてハリアーの移動範囲が広がったのではないだろうかと。
現在それをプレイしている人や、どのタイミングでその筐体がヘタれたのかはわからないので、その人たちにとってみれば「地平線が1番上がっている状態」での「スペースハリアー」が「俺の知っている『スペースハリアー』だ」と言われたら否定できないんですね。総じて考えてみると、リリース当時の開発者の意図としては、Wii版のほうかもしれないと。だけれども、お客さんにとってのベストは必ずしもそうではないかもしれない、という結論が残りました。余談ですが32X版とセガサターン版もそういうような関係になっていて、サターン版は地平線が上がらないWii版と同じ挙動になってます。
――やっぱり、一筋縄ではいかなかったわけですね。
奥成氏:そこで今回の3DS版では移動範囲を3段階に切り替え可能にすることで、すべてのお客さんに対応できたのではないかと思います。
3D立体視に対応するということはどういうことか?
――いよいよ「3D スペースハリアー」のお話になるわけですね(笑)
奥成氏:Wii版からさらに3年が経ちました。いよいよです(笑)。ながらくお待たせしました。
堀井氏:前振り超長い(一同笑)!
奥成氏:ニンテンドー3DSというハードがリリースされて、「バーチャルコンソール」ができる、ということで手がけることになったわけですが、3D立体視を使ったゲームも考えています、と任天堂さんがおっしゃられていて。「それはやりたい」と思ったんですね。さっそく堀井さんのところに行って「僕らも3Dやろうよ」と言ったら、「バカ言うんじゃないよ」と釘を刺されました。「それはどれだけ大変なことか、わかってますか?」と。発売前に参考出品されていた3Dの「ゼビウス」を見て、「これはやりたい」と思ったんですが、2Dのゲームを3Dにするのはどれだけ大変かということを言われました。
――2Dで作られていたタイトルを3Dに起こすということは……
奥成氏:あれがどれだけ大変か、ということはM2さんたちは見ればわかるわけですよ。これまでPS2時代からやってきたことは、ハードウェアをそのまま擬似的に再現するというエミュレーター技術です。オリジナルに忠実に作るためには1番いい方法の1つだと思うんですが、その分勝手が利かないところがあって。例えば、追加のボスを作ったり、オリジナルのステージを作ったりすることはできないんですね。
堀井氏:家庭用やパソコン版にあった追加要素が「SEGA AGES」版にはない、というのはそういう理由ですね。元のものにないものですから。
奥成氏:3D化するということはそういう無理に近いわけです。なぜなら、もともとキャラクターの絵が2Dで描かれているのに、それに3Dの視点を持たせるということは、まったくないものを作らなければならないということになるわけです。例えば、8bitマシンのころの「デカキャラ」はBG=背景で再現していましたから、アレを単に3Dにすると、プレーヤーの軸とは違う、地平線の彼方にいることになる。それをもし実現させるなら、作り直しと同じことなんです。
堀井氏:変えられるところと変えられないところがあるわけです。目コピーで3Dを再現するならできるだろうし、やってみたいんですが、コスト的に絶対できないだろうなと。3DSがリリースされるちょっと前ぐらいの時期ですね。
奥成氏:でも、「できないんですか?」って聞いたら「やろう」と(一同笑)。
――ええー!(笑)
堀井氏:だって、リリースしたものを見て頂ければわかりますが、3Dにしたら「スペースハリアー」が完成した気がするじゃないですか! 「俺今まで21世紀だと思っていたけど、これ見たら21世紀になった!」と思うぐらい、僕にとってはキラーなソフトだったので。結果見てそう思うぐらいだったので、手がけているときはもっとテンションが高くて。「これをどうやったら3Dにできるんだろう」ってスタッフ皆で考えましたね。できたら面白いのは決まっているわけですから。
奥成氏:「難しいから、そういう覚悟を持って欲しい」、けれども「やる」と言うので、じゃあ「やろう」と。最初にやるなら、セガなら3Dのシューティングゲームだろう、「スペースハリアー」だろう、ということで、3度目の「スペースハリアー」に着手することになったわけです。
堀井氏:それが今回の「3D スペースハリアー」につながるわけです。立体にはなっていませんが、筐体の奥行の中に「ドラゴンランド」を再現する、ということをついにしでかしました、という感じで。開発に関わったり手伝ってくださっている方で初めて「スペースハリアー」をプレイする、という方が外部にもいらっしゃって、「苦手だ」という方もいらっしゃるんですが、このタイトルの何が苦手か? というと、「今、オブジェクトが手前にあるものなのかがわかりにくい」ということなんですよね。
それが3D化することで「これなら俺にもわかる! 遊べるわ!」と言ってくださるんですね。それを聞いて「ああ、やってよかったな」って思いましたね。売れるかどうか関係なしに、俺がやりたいから、ということで始めたんですけれど、思いのほか……。
――立体視になったことで、位置関係がわかりやすくなったんですね。
奥成氏:PS2版にも収録されているマーク3の「スペースハリアー3D」って、裏コマンドで2Dにしても遊べるんですが、明らかに3Dのほうが遊びやすいんですよ。立体視できると、背景がどこまで来て、どこで避ければいいかがわかるんですね。だから、すごくやりやすいんですけれど、2Dでそれを遊ぶと、ものすごく難しい。逆に今回の「3D スペースハリアー」にもまったく同じことが言えて、普通のアーケード版よりも難易度が下がるんですよ。とくに高速スクロールの柱を避けるステージとか、とても遊びやすいですし、敵の弾をどのタイミングで避けるか、というところも、どのぐらいまで避けずに待てるのか、というところがわかるんですね。
堀井氏:ゲームが遊びやすくなったけれども、「何より『スペハリ』は3Dになったら、なっただけの世界の広がりを感じられるから、とにかく画面を見てよ」と言いたいですね。本当に。
――3Dにすると、手前に来るものだけを意識すればいい。2Dでは画面全体を見ていなければいけないので、ゲーム性が変わった気がしますね。
奥成氏:同じゲームなんですけれどもね。変わるんですよね。
堀井氏:こういう風にしたら面白い、というゲームはまだ一杯あって。「3DSの立体視を切って遊んでいます」なんて、このゲームにおいてはとんでもないですよ、と言いたいですね。
奥成氏:3Dと2Dって、映画もそうですが、見ているものは同じなんですよね。だけど、やっぱり全然違うんですよね。
――僕が3Dの「スペハリ」を初めて見たのは、たぶんX68000での立体視改造版なんです。あれができたのは、おそらくBGやスプライトのデータ配置や動作がわかったうえで、立体化させることができたからだと思うんですよ。あくまで素人の推測ですが。でも、今回の「3D スペースハリアー」では、M2さんのやり方だとアーケード版を3DSで再現した上で、ROMのイメージをいじる必要がある。そこをどうやって立体視にしたんですか? これは元のハードやソフトの構造も、移植先のハードの構造も理解した上で、いわゆる移植エンジンもなんらか手を加えないとできないものですよね?
堀井氏:そうですね。中のゲームをちゃんとわかった上でそこに乗っけていくという。今回、割とエミュレーションに近い形で作りましたけれども、厳密にいったらもうエミュレーターではないですね。
奥成氏:コアなところにエミュレーションと同じプログラムが動いている。
堀井氏:細かいことをいうと、アーケード版のCPUであったMC68000のコードはこの「3D スペースハリアー」の中にはもはや使われていないんですよ。そういうことをやってようやく立体視に対応できたわけですから、その価値はありますね。
奥成氏:というわけで、これまでの苦労と技術力の結集になっているんですよ。
堀井氏:その手間をかけることができたので、画面もワイド画面などにも対応できましたし。
奥成氏:ワイド画面に対応したのは、「スペースハリアー」の移植の中でも今回が初めてなんですが、今までワイド画面に対応できたのは、PS2の「ギャラクシーフォースII」だけで。
堀井氏:ゲームの関係上、ハリアーの移動範囲はもとのままにしてあるんですが。ワイド画面でのプレイもやっぱり気持ちいいですね。
奥成氏:私がM2さんに「スペースハリアー」を発注したのはこれで3度目なんですが、移植に関しては今度こそ最後の「スペースハリアー」になるかもしれないので、「決定版を作りましょう」という話をして。PS2の「スペースハリアーII」のインタビューの時に「これ1本買えばこの後いらない」って言ってたんですが、7年経ってみると、まだまだやることはいっぱいあったなと(笑)。
堀井氏:本当に僕はこれに思い入れているので、その後もう1度永久保存の筐体をプレイしに行きたいなとお話をして、行ったときに、そのついでにマイクを立てて筐体のモーター音を録音してきまして。
奥成氏:違うでしょう、あれは録音しに行ったんですよ?(一同笑)。
堀井氏:そこはいいじゃん(笑)。筐体モードで遊んでいるときは、環境音として自分でボタンを連打しているときの音や、モーターがうねる音をキチンと入れてみました。かなりおバカな「スペースハリアー」になったんじゃないかなと。
――今後も、たとえば据え置き機で立体視環境でプレイできるとしたら、当時のゲームセンターの雰囲気なども再現してもらいつつ、筐体ごと立体に見えたら……とか、夢が広がりますね。
堀井氏:前々からやりたかったのは、最近ハードウェアにゲームがインストールできるので、持っているゲームの音で、ゲーセンの喧騒をアトラクトサウンドで再現する、ということができるということになってくると、バーチャルゲームセンターのようなものが作れるんじゃないかと思っているんです。
――ゲームセンターごと再現するという雰囲気ですね。
堀井氏:今は話はありませんが、いずれはやってみたいですね。とにかくまだやりたいことはいっぱいあるんですよ。「サンダーブレード」とか、欲しい人が256万人いたら、セガさんも大いに喜んでやらせてくれるんじゃないかと。
奥成氏:「3Dスペースハリアー」がそのくらい売れたら考えましょう。25万6千人くらいでもいいかな(一同笑)。
今まで以上にさらにこだわった「スペースハリアー」に!
――そろそろお時間となってしまいました。改めて本作の売りをまとめていただけると助かります。
奥成氏:改めて「3D スペースハリアー」の売りをまとめていくと、あんなに難しい、って言っていた3D立体視に対応できちゃいました、ということ。かつ、いわゆる目コピーではなく、オリジナルのプログラムをベースにしたもので、同じものが動いていること。次に、「スペースハリアー」初のワイド画面対応ということ。あとは、M2さん一押しの筐体再現モード。
堀井氏:あのバカバカしさはぜひ経験してもらいたいですね。絶対いろいろ思い出すから。
奥成氏:最初にこのモードが入ったとき、堀井さんに「筐体に(プレーヤーが)乗っていて椅子と一緒に動いているんだから、画面は傾かないよね」って言いましたよね?
堀井氏:それはわかるけど、ロマンじゃん(笑)。
奥成氏:そこは矛盾しているんですけれども、雰囲気は確かにあって面白いからいいかと。そのあとの筐体SEの収録。
堀井氏:筐体のモーターはアーケードの基板の制御の信号を見ながら、今右に動かしている、とか左に動かしているとやっているんで、鳴らしている音のタイミングはオリジナルと同じです。
奥成氏:そこにあわせて、BGMの音質も今回かなり上がっているので。さらに、ついにイコライザーが付きました。頼んでいないのにM2さんが付けてましたっていう(笑)。
堀井氏:これをいじれば割とゲーセンの音に近いものが作れるのではないかと。ユーザーさんが自分がプレイしていた環境に近いものを自分で再現できるという。
奥成氏:プリセットも用意してますし。自分で音を調節していただきたいです。
堀井氏:3DSでこんなことをしている余裕があるんだ、って突っ込まれちゃいそうですが(笑)。
奥成氏:ストレートに鳴らしても、今までの移植版よりさらにいい再現度になっているんじゃないかと思います。このへんは並木(学)さんによるところが大きいんですか?
堀井氏:並木さんも最後までチェックしてましたね。追加した曲に関しても。
奥成氏:今回はM2さんに並木さんが参加されて、社内のスタッフとして関わっていただいたこともあって、かなり細かく見ていただけたのではないかなと。環境音の再現も、並木さん発だったんじゃないんですか?
堀井氏:かなり並木さん。筐体のSEを入れようと言い出したのも並木さん。モーターとボタンのSEはそうです。
奥成氏:これも普通にマイクを置いて録音すると他の音がうるさくて録音できないので、筐体のファンをすべて切って、モーターを右、前、後ろと何度か録音して、1番いいものを入れてます。ボタンの音も。普通の方は誰も喜ばないかもしれませんが、1,000人に1人ぐらいは喜んでいただけけるんじゃないかなと。このゲームを移植する度、「筐体がないと『スペースハリアー』じゃないよね」とずっと言われ続けるんですよね。それは実際その通りだし、筐体は移植できないんですけれども、できないなりに作ってみると、こうなるのかなという、ある意味我々の答えが「3Dスペースハリアー」なんですね。
――なるほど。
奥成氏:それから、細かいところなんですけれども、PS2版やWii版ではあえて再現していた一部のSEが鳴りっぱなしになるバグ。オリジナル版にあったものですが、今回はあえてあれは切りました。今までは基板にあるものはなるべく再現する、というところに重きを置いていたんですけれども、今回はワイド画面に対応していたり、立体視になっていたり、そこまでやってしまうのは厳密にはオリジナルの再現ではないので、初見の人にはちょっとどうかな? というところに関してはあえて修正してしまいました。処理落ちなどもわざと処理落ちさせたりはしていません。そういうところも含めて「スペースハリアー」の完全版と呼んでもらえるといいな、と思ってます。
――触ってみるかぎり、「なるといいな」と僕も思いますね。
奥成氏:ほかにも、移植版のスタッフロールを見る「クレジット」の画面でエネミーの名前がすべてわかるようになっています。ファンの方でキャラクターの名前を知りたいという話をよく聞いたので、M2さんがオリジナルのキャラクターの名前を紹介するデモを表示するようにしてくれました。この名前は10年ほど前「タイピングスペースハリアー」を作った際に、名前をタイプで入力する必要があって、当時はボス以外のキャラクターにほとんど正式な名前がなかったので、鈴木裕さんが名前を付けたんです。つまり原作者オフィシャルの名前です。僕も「タイピングスペースハリアー」の制作者に教わるまでこの事実を知らなかったんですけれど(笑)。これも「スペースハリアー」が好きな人にはうれしいんじゃないかと思います。言っていくときりがないですね(笑)。
――たくさんのお話、どうもありがとうございました。
(C)SEGA