インタビュー

「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」インタビュー

「メガドライブ」の3DS移植から3D立体視化への苦難の道のりとは?
立体視に対応した「ギガドライブ」構想とは!?

5月15日 配信

価格:600円

CEROレーティング:A(全年齢対象)

 セガは、ニンテンドー3DS用配信タイトル「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を5月15日に配信する。「3D復刻プロジェクト」第3弾は、メガドライブ発売25周年記念としてこのタイトルが登場することとなった。今回もセガにお邪魔して、本プロジェクトのプロデューサーであるセガの奥成洋輔氏、開発を担当したM2の堀井直樹氏にお話をお伺いした。

 アーケードが続いた本プロジェクトの3本目がなぜメガドライブタイトルになったのか? 横視点アクションの3D立体視化はどういう苦労があったのか? そのあたりを中心に、実機ソフトを見せていただきながら、お話を伺うこととなった。

3DSのVCで「メガドライブは難しい」だから「3D復刻プロジェクト」で!

――本日もよろしくお願いします!

奥成氏:「3D復刻プロジェクト」では、これまで「スペースハリアー」、「スーパーハングオン」と来たので、次はどんな体感ゲームが? という期待もあったかと思うんですが、今回は「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を3D立体視化したものをリリースすることになりました。

 「スペースハリアー」も「スーパーハングオン」も、今までのインタビューでお話したとおり、奥行き方向に進行するゲームを3D立体視にするという、誰でも想像しやすいものを2本リリースさせていただいたので、そろそろ「これも3Dになるの?」というタイトルも出したかったんですね。その方向でいろいろ検討していく中で、最終的に「セガといえば『ソニック』だろう!」ということで、ソニックのデビュー作である「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」を選びました。

 ただ、「ソニック」になるまでにはかなり時間がかかりました。まず、このプロジェクトは開発スタートから、「3D スペースハリアー」の発売発表までにかなり期間がかかっているのは、これまでのインタビューですでにおわかりかと思うのですが、具体的には、プレイステーション 3/Xbox 360/3DSで発売された「ソニックジェネレーションズ」の開発がスタートした直後くらいだったんです。「ソニックジェネレーションズ」では完全に3D化されたグリーンヒルゾーンが当時のイメージそのままに3Dで再現され、しかも立体視にも対応しているわけです。

 そんなタイミングで「わざわざメガドライブの『ソニック』を3D立体視に対応させることに意味があるのか? 必要なのか?」ということは、当然出てくる疑問です。しかし、いわゆる「3Dとして作ったもの」と、「もともと2Dのイラストで作られたものを3Dに起こす」というのは、「結果として違う表現になるんじゃないか?」ということで、始めることにしました。

堀井氏:それって、僕らが「メガドライブのゲームで3D立体視化できるものはある?」と奥成さんに聞かれた頃には「ソニックジェネレーションズ」の開発も進んでいたということなんですか?

奥成氏:うん。

堀井氏:その中であえて「ソニック」が残ったんだ。

奥成氏:セガのタイトルを3D立体視で復刻しようという中には、家庭用ゲームもやってみたいということもあったんですね。それはM2さんや欧米のセガスタッフとすべての3D復刻シリーズのラインナップを決めていく中で「スペースハリアー」や「スーパーハングオン」を選んで、「サンダーブレード」を外し(笑)と、タイトルを選んでいく中で残っていった1本です。

 その一方で、3D復刻シリーズと平行して、ゲームギアの「バーチャルコンソール」も開発がスタートしたんですが、「今後、ゲームギア以外のセガゲームハードのタイトルをバーチャルコンソールに持っていけないか?」ということももちろん話題には出していて。M2さんに相談したところ、最初から「メガドライブは難しい」と言われたんですね。……結果として今「ソニック」は動いているわけですが(笑)。

堀井氏:そりゃ、間を省いたら動くよ(笑)。3DSはニンテンドーDSやゲームボーイアドバンスとアーキテクチャーがガラッと変わって、3D立体視に特化したGPUを使っているので、スプライトとBG(バックグラウンド)で構成していた時代のソフトをエミュレーションで持っていこうとすると、遠回りをたくさんすることになるんですよ。その分で、CPUのスペックアップ分が相殺されてしまうという状況だったんで、「難しい」と。

奥成氏:いきなり「3DSでメガドライブは難しいのか……」という話から始まって。

堀井氏:メガドライブにはBG面が2枚あったり、パレット(色定義テーブル)が4枚あったりするので、それを再現するのは……という話ですね。

【参考:ゲームギアとメガドライブ】

・ゲームギア……CPUはZ80。VRAMは16kByte、スプライトは64個。画面解像度は160×144ドット。音源はPSGが3chとノイズが1ch。

・メガドライブ……CPUはMC68000とZ80。VRAMは64kByte。スプライトが80個、BG面2枚。画面解像度は320または256×224ドット。音源はFM音源6音とPSG3音、ノイズ1音(FM1chをPCMとして使用可能)。

 ゲームギアは「セガ・マークIII」や「マスターシステム」世代のアーキテクチャーを受け継いだもの、メガドライブは「スペースハリアー」アーケード版のダウンサイジング版といえる(メインCPUが1つ、スプライト最大表示数が2/3に、拡大縮小機能などが省かれている)。

奥成氏:もともとバーチャルコンソールはゲームギアで進めるつもりだったので、一旦は諦めたんですが、「3D復刻プロジェクト」では「動かない」……と言われたメガドライブタイトルをどうするか、検討してみたわけです。一応見た目はそのまま、内部のプログラムは完全に別物という「目コピー」でやってみるという手法もあるにはある。ただ、M2さんとしてはこれはまずやりたくないでしょうし……でも「エミュレーションは難しいんでしょ?」と。

堀井氏:そもそも目コピーで作る時間もないじゃないですか……。

奥成氏:目コピーだと時間も掛かるんですね。ゲームをすべて解析したうえで、再現度を上げるためには、検証にすごく時間がかかるということと、どこかに落とし穴があって、オリジナルと同じ挙動にならないミスを起こしやすい。

堀井氏:「グラディウス」を目コピーで作るより、「グラディウス リバース」を作る方が早いんですよ(一同笑)。

奥成氏:とにかく今回は「復刻」なので、「どうしよう?」と。そうしたら、堀井さんが「『動かない』と言ったけれども、『動かせる方法はある』」と。プレイステーション 2の「SEGA AGES 2500」シリーズのときも、普通にやったら最初は動かないものだったものが、最終的にメガドライブのエミュレーターを動かすことができた。「あの手法を使えば、『3DSでもメガドライブは動くだろう』」と……。

堀井氏:PS2のときと同じ手法というか、PS2の時と同じ苦労をすれば、ということですね。手法もへったくれもない(一同爆笑)。

――結局あれは、メガドライブの機能のうち、使っていないところを省いたということですか?

堀井氏:端折りつつとか、アセンブラでコードを書いて高速化することをやりながらやっていたんですが、3DSでも可能な限りCPU資源を有効に使うということで、アセンブラで書くところはアセンブラで、Cで書いていたエミュレーターを開いて(コードを置き換えて)いくことは、なかなか時間がかかる、かつ壮観な作業になりますよね。何かをやるときには必ずキャッシュにヒットしやすくなるようなコードを書くとか、ということを延々やるんですが、そうして速度を少しずつ集めて(稼いで)いくと。

奥成氏:M2さんのポリシーとして、まず入力遅延が起きるような処理の重さは問題外だったので、レスポンスはオリジナルに限りなく近づける、ということを前提として作った場合、速度というのはかなり困難かつ重要な部分で。そこはPS2のときもずっとこだわっていたところなんですけれども、3DSでも同じような苦労があったわけです。

堀井氏:年取った分だけ、しんどくなっていく気がする(笑)。徹夜がしづらいとか(笑)。明らかに。

奥成氏:結論として、バーチャルコンソールでメガドライブタイトルはやらないけれども、予算と時間をバーチャルコンソール以上に掛けて、少しオマケ部分を加えて「3D復刻プロジェクト」としてメガドライブタイトルをやるのはありではないかということで、メガドライブタイトルも複数進めることにしました。

「処理落ちとの果てしない戦い」

奥成氏:ところが、最初から3D表現されている「スペースハリアー」のようなゲームと、2Dのゲームを3Dにするのは「作る難しさ」が全然違っていて、開発を始めてすぐに問題が出るわけです。

 わかりやすく説明するために、今回、最初に3DSで動いた時のバージョンを持ってきたので、見てもらいましょうか。「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のファースト版です。この時点で普通に最後まで遊べます。

 当初のもくろみとしては、メガドライブはBG面が2枚とスプライトがあって、BGの部分は遠景ですから、BGに深度情報を置いて、手前に(深度情報をつけた)スプライトを置けば、3D立体視らしくなる、という考えだったんですね。でも、これだと立体視した際に物凄く「画が物足りない」んです。完成版と比較してもらうとわかるんですが、背景のラスター処理されている部分の見え方など、かなり違っています。誌面ではまったく伝わらないかな(笑)。

――ファースト版ではラスター処理されている部分に深度情報が入ってないですね?

奥成氏:そうです。このファースト版を遊んでみて、3D立体視のゲームとしてはあまりにも迫力も魅力も無くて。せっかく動いたけど「これはダメかな……『ソニック』はやめようか」という話すらしていたんですね。メガドライブの代表作である「ソニック」であるからには、3D立体視にしても(それに見合った)面白さがなければいけないと思うんですが、ファースト版ではやっつけの3Dでしかなくて。動くところまではいけたけれども、面白いところまでは持っていけてないなと。特に1面のグリーンヒルゾーンが(立体感がなくて)面白くない。

 ただ、360度ループのところで、普通に立体視で見ると破綻するところを「パッチで直しました」と言われたところがありまして。つまりそこは手作業で3Dの処理をつけて直しているという話だったんですね。

360度ループでは、絵で描かれた立体の道を3D立体視で破綻しないように処理されている

 そこでいろいろ話をしている中で、M2さんが3D立体視の研究の中で、「背景をラスタースクロールさせているシーンに立体感をつけるとすごくいい」という話をしていて、だったら「『ソニック』の雲とか海とかもラスター処理されているから、そこに奥行きをつけるといいんじゃないか?」という話をしたら「技術的には可能だけれども、それをやると処理が重くなるし、手間がかかります」と言われたんですが、それでも、「それはやったほうが絶対いいよね」という話をなおも続けまして。

 しかも、実はこの時はまだ処理速度確保のためにFM音源のエミュレーションはできていなくて。FM音源を鳴らした時点で処理落ちすることが確定だったのに、さらに処理落ちするようなお願いをしているわけです。

(佐伯憲司)