インタビュー

「フロントミッション」の系譜を受け継ぎながらアクションで人間ドラマを描く「LEFT ALIVE」

鍋島俊文氏、坂本幸一郎氏インタビュー。やりたいことができる“自由度”と“リアルな戦場”が生むサバイバル

2月28日 発売予定

3月6日 Steam版発売予定

価格:8,300円(税別)より

 スクウェア・エニックスから2月28日に発売されるプレイステーション 4/PC(Steam)用サバイバルアクション「LEFT ALIVE」。発売に向け、徐々にその姿が見えてきた。1月31日には“『LEFT ALIVE』live show vol.1”が配信され具体的なゲームシステム、世界観が明らかになった。

 「LEFT ALIVE」はスクウェア・エニックスのロボットシミュレーションシリーズ「フロントミッション」と世界を同じくする。「フロントミッション」はロボット兵器「ヴァンツァー」が中心となっていたが、今作では戦場となった街を舞台に、3人のキャラクターが中心となり、いかに生き残るかが描かれる。ヴァンツァーは敵が使う兵器として登場し、主人公達はそれを奪って戦う事もあるが、中心となるのは人間でのアクションとなるという。

 ファンにとっての注目は本作を手がけるディレクターが鍋島俊文氏であるということだ。フロム・ソフトウェアでロボットアクション「アーマード・コア」シリーズを手がけていた鍋島氏が、「フロントミッション」シリーズの世界観でどんな物語を描き、どんなゲームを提示してくれるのだろうか? 今回は鍋島氏と、本作のプロジェクト・マネージャーを務める坂本幸一郎氏に話を聞いた。

【LEFT ALIVE サバイバルトレーラー】

厳しい戦場で何ができるか、プレーヤーの試行錯誤ができる自由度こそが、本作のテーマ

 「『LEFT ALIVE』はTPSに見えるけど、違います。もちろん敵を撃ち倒し前進することも可能ですが、ここは敵に囲まれた戦場です。無謀な兵士が突然現われても敵兵はあっという間に集結し、倒されてしまう。もちろんシューティング要素もあるけど、それだけではないよ、ということは言っておきたいです」鍋島氏は最初にそう語った。

 社内のテストプレイでも、いきなり銃を持って強引に前に進むようなプレイをする人が多かったが、「LEFT ALIVE」ではそれは選択肢の1つであり、そして危険度の高い選択である。ゲームの目標は「生き残ること」であり、正面から自分の存在を大声で主張しながら進むのは、成功率の高い行動ではない、というのがこのゲームの方向性だという。初めて触った人から「このゲーム難しすぎないですか?」といわれることがあったが、それはプレーヤーがあえて難しい道を進もうとするからなのだ。

ディレクターの鍋島俊文氏
プロジェクト・マネージャーを務める坂本幸一郎氏

 「LEFT ALIVE」は“自由度”を重視したゲームにしよう、というのが開発のスタートだと鍋島氏は語った。1番最初に鍋島氏が開発スタッフに提示したゲームのイメージはローグライクゲーム。パッと見は全く違うゲームに感じるが、鍋島氏によれば同じ要素があるという。ローグライクゲームは“先の階に進むこと”がゲームの目標となる。モンスターを倒さず、避けて進むのもスマートな方法の1つだ。目的を達成するためにはどんな手段が良いか、それを模索するゲームを作りたかったという。

 ローグライクゲームには“モンスターハウス”という特別なフロアがある。そこでは一斉にモンスターが襲いかかってくる。戦いは避けられない。プレーヤーはこの時のために貯めていたリソースを使い、モンスターに立ち向かう。「LEFT ALIVE」も敵を避けるだけでは突破できない状況がある。そのときは弾薬や武器などをありったけを使って乗り切る。「LEFT ALIVE」は難易度が徐々に上がるタイプではなく、時々状況によって跳ね上がるような、緊張感をもたらすタイトルになるとのことだ。

 このため「いかにリソースを管理するか」はゲームの重要な要素となる。武器や弾薬、敵の位置を知ることができる投擲型センサーに使う携帯電話など様々なアイテムを集め、作成して危険な状況に備える。しかし“重量制限”という要素もあり、何を持っていくかの選択は常に問われる。リソースでどんなアイテムを作るか、プレーヤーのアプローチでも必要なアイテムは替わってくる。「LEFT ALIVE」はそういった“幅”を持たせたゲームになっているとのことだ。そういった先のことを考えたリソース管理をしていくと、目の前の敵にどう対処するかも変わってくる。様々な選択肢があることを知り、考えてゲームを進めてもらいたいと鍋島氏は語った。

敵兵が占拠する戦場を進む。見つかればあっという間に撃たれてしまう「LEFT ALIVE」は過酷な状況で生き残りの戦いを繰り広げていく

 “自由度”をもっと突き詰めたいい方をすれば、「プレーヤーがやりたいことをちゃんと実行できるようにする」というのは、今作に限らず、鍋島氏のゲーム開発のポリシーである。「なぜか進むことができない謎の壁」(世界の果て)、「安全のためプレーヤーを跳ね返す崖」、“通れない道”など、「“ゲームだから”というルールを安易に持ち込まない」ということを鍋島氏はフロム・ソフトウェアでゲームを開発していく中で徹底的にたたき込まれたという。

 鍋島氏はプランナー出身だ。製作者にとって都合のいい、ゲーム的な仕組みを作ろうとすると、“なんでそうなの?”、“どういう理屈でできないの?”プレーヤーから怒られる。プレーヤーがやりたいことをできるだけ可能にするということが鍋島氏のゲーム開発のポリシーであり、それは「LEFT ALIVE」でも同様だという。

 鍋島氏が手がけた「アーマード・コア」シリーズでは、アーマード・コア(ロボット)を操縦するのにコントローラーの全てのボタンを使う。それは「難しい」と言われる一方で、「アーマード・コアを自在に動かすにはこれだけの操作が必要だろう」という鍋島氏の考えを実現させるための操作法なのだ。ゲームとしてのとっつきやすさを重視するなら、もっと単純な操作にもできる。しかし、プレーヤーが自分の手足のようにアーマード・コアを使ってもらうために、あえて複雑に感じかねない操作を用意し、自在に動き、様々な武装を使うシステムを構築したのだという。

 「2択ではないけれども、ゲーム内の行動を制限し簡単にするか、操作が複雑でも何でもできるようにするか、究極的に“できることが多い方が良い”というのが自分のゲーム作りの原点といえると思います。そしてその自由度の考え方は、この『LEFT ALIVE』に生きていますし、ここから先僕が作るゲームでも貫かれていくものだと思います」と鍋島氏は語った。

プレーヤーは様々な選択を迫られる。その行動が後の展開に繋がっていく

 今回のインタビューでは、最初にチュートリアルを見ながら鍋島氏がゲームの概要を語っていった。チュートリアルは“『LEFT ALIVE』live show vol.1”と同じシーンだ。「LEFT ALIVE」では、最初のチュートリアルからユーザーが倒されやすくしているという。曲がり角1つ、道の先に敵がいるかもしれない。そして敵に見つかればあっという間に倒されてしまう。そういう緊張感と、本作のバランスをユーザーに体験して欲しいという。

 「LEFT ALIVE」は「フロントミッション」の世界観を継承しているが、例えば共通するキャラクターがいたり、他のゲームで出てきた場面が出てくるなど、直接的な繋がりはない。これまでのシリーズをプレイしていない人にも楽しめる作品となっている。一方で、コアなファンを持つシリーズであるだけに、データベースなどで世界観を継承している。ゲーム内のデータベースによって、これまでのシリーズで出てきた国や勢力が、本作ではそれらがどのように変わって現在はどういう状態にあるか、そういったところも調べられるようになっている。

 緻密に作られた「フロントミッション」の“年表”のどこの位置に本作があるかなど、細かく設定されている。鍋島氏はまさにその年表にはめ込むためにストーリーを工夫し、シリーズに関わってきた坂本氏も整合性をとるために尽力した。ファンにとってしっかりと世界観や年表に組み込まれる物語を目指したとのことだ。

 「『フロントミッション』は世界観やキャラクター、設定にかなり力を入れているシリーズです。だからこそ『LEFT ALIVE』でもキャラクターやストーリーに力を入れてます。『フロントミッション』と世界観を共有するゲームを作るという上で、ただ銃を撃って敵を倒していくだけのゲームにはしませんでした」と鍋島氏は語った。

 ゲーム性も自由度があり、ユーザーが工夫できるものになっている。作り手側が推奨するルートはあるがそれだけが正解ではない。試行錯誤したり、運が良くて進める場合もあるし、アイテムや道に気がつかず困難な方向に進んでしまう場合もある。敵のAIも画一的な反応をするだけでなく、時にはこれまでと違う反応をすることもあり、緊張感をもたらす。

 本作は「ミハイル」、「オリガ」、「レオニード」という3人のキャラクターの物語が描かれる。チュートリアルではミハイルを操作する。他のステルスゲームだと、敵の不意をついたときは敵の首を絞めたり、ナイフで一突きで倒したりするが、「LEFT ALIVE」は金属パイプで殴り、倒れたところにさらに殴りつけるという激しいものになっているのが印象的だった。そういう感想を語ると、「ちょっと乱暴な方が良いな」というのが鍋島氏の判断だという。ちなみにミハイルは、ヴァンツァーに乗りたかっただけの甘い考えで軍隊に入った男とのこと。

本作では3人の主人公が登場する。ミハイルは、ヴァンツァーに乗りたかっただけの甘い考えで軍隊に入った男だという

 もう1つ印象的だったのが、隠れていた兵士との問答。“『LEFT ALIVE』live show vol.1”では戦場で隠れていた兵士と出会ったとき挑発的な言葉を掛け兵士を怒らせ、せっかく持っていた弾薬を奪われてしまうのだが、今回鍋島氏は礼儀正しく所属を答える対応を選択。そうすると兵士はミハイルのためにアイテムを提供してくれるのだ。さらに兵士はこの後敵兵に倒されてしまうのだが、彼の死体から得られるアイテムが変わる。このようにプレーヤーの選択で展開は大きく変わってくる。

 「LEFT ALIVE」は、1度のプレイでは“最良のエンディング”にたどり着くのは難しいという。選択は今後の展開に関わっている。すぐ結果がわかることもあれば、後々の展開に繋がるものもある。そして、エンディングの結果へ繋がっていく。何度もプレイし、選択の違いを楽しんでもらうゲームになっていると鍋島氏は語った。1つのチャプターをクリアすると評価画面が現われ、「あなたがやったこと/やってないこと」が表示され、その結果を見た上でチャプターをやり直すことができる。ここで先に進んだ場合、チャプター内での選択をやり直すことはできないとのことだ。

プレイしている人の葛藤こそが楽しいゲーム性。実況プレイ向きのタイトル?

 ここからさらに制作への想いなどより踏み込んだ質問を行なった。“『LEFT ALIVE』live show vol.1”を放送したことで、ユーザーからはかなり好意的な反応が得られたと鍋島氏は語った。放送内で「ヴァンツァーに乗って戦っているところ」もきちんと見せられたのも良かったという。今回は兵士達の等身大の物語が描かれるが、世界観の上で欠かすことができないヴァンツァーに乗り込むシーンももちろん用意されている。

 「このゲームは実況プレイに向いていると思います」と鍋島氏は語る。ゲーム内のプレイを映像としてみせるだけでなく、キャラクターは動いてないのに、プレーヤーが考えているところ、「どうしよう、強引に行くべきか、それとも別ルートに行くべきか?」など迷い、考えているシーンが楽しい。ゲームのテーマとして「色んなことができるからこそ、色んな事を考えて欲しい」という想いを込めているとのことだ。

 社内テストプレイでも色々な人がいる。ものすごく慎重に敵の行動を観察し敵に発見されずに進もうとする人もいるし、金属パイプで敵を殴り倒しながら進もうとする人もいる。「僕の作るゲームは良く難しいと言われますが、このゲームは意図的にちょっと難しく感じられるように作っています」。銃で強引に進められるバランスで作ってしまうと、ユーザーは他の手段を試さず、結局シューティングゲームになってしまう。そうではなく、色々な方法で現状を打開してもらいたい。色々な方法を試す、そこに面白さを感じてもらいたいゲームであるという。

 チャプター1はある程度ルートは限定されるが、チャプター2は高い自由度のある設計になっている。スタートとゴールは決められているが、ユーザーがどのルートを選ぶか様々な選択肢が提示される。最短ルートをとるか、迂回するか、その結果何が得られるか、どの様な配置の敵と出会うか、様々に変化していく。もちろん開発側がある程度進めるルートは想定しているが、そこから離れてもゲームはきちんと進む。そういう設計を目指しているとのことだ。

たくさんのいる敵がいる。他のルートを選ぶ選択もアリだ

 ステージの設計という所では、本作には「警戒度」という要素が存在する。フィールドでは警戒度の高いところ、低いところが存在し、プレーヤーのアクションに応じて刻々と変化していく。1カ所で騒ぎを起こせばその場所の警戒度が跳ね上がり敵はその地点に集まる。その代わりほかは手薄になる。このため、ある地点の警戒度を上げ、敵を誘導するという作戦も有効だ。

 敵の中で要注意なのは「ドローン」だという。ドローンは小さく、空を飛び回っているので気がつきにくい。そしてドローンはこちらを発見すると地上モードに変形し、銃弾を浴びせに来るのだ。鍋島氏いわく「ドローンはかなりウザイですよ」とのことだ。

脅威となるドローンは早めの対処を心がけたい

 ゲーム的なこだわりを感じたのは「レーダー画面がないこと」だ。ステルスアクションではお約束だが、プレーヤーの周りに敵がいるかがわかるレーダー画面を持つゲームが多いが、「LEFT ALIVE」にはそれがない。本作では携帯電話とマテリアルを組み合わせて、探知波を発するアイテムを作ることができ、それを投げることで敵がどこにいるか察知できるようになっている。察知ができるのはアイテムを投げた範囲だけなので、他に移動したらまたアイテムを作り、投げなければならない。

 レーダー画面や、敵がどっちを向いているかの記号化はあえて行なっていないと鍋島氏は語った。敵が追っかけてきている場合はBGMで知らせたり、敵は胸にライトをつけているので、どっちを向いているかを判断することができる。鍋島氏ならではの戦場の表現も注目ポイントだ。

「LEFT ALIVE」は“ある一晩の物語”だ。恐ろしい夜をどう過ごすか、生き残る道を求めていく

 「自由度を実現する」というところに注力した本作は「独特の面白さがあるゲームになった」と鍋島氏は語る。自分が思ったとおりに行かないこともあるし、いざというときにリソースが足りないといった状況になることもある。「失敗を楽しんで欲しい」というのが鍋島氏の想いだ。一筋縄ではいかない、だからこそ何をやるか、どんなことができるかを探り、そして達成する楽しさを感じられるゲームということになりそうだ。

モスクワの下水道で行なわれるパーティ!? 実際の取材で得た知見が活かされる

 ここで根本的な質問をぶつけてみた。ロボットを操作するのが楽しい「アーマード・コア」を手がけた鍋島氏が、ロボットがテーマとなる「フロントミッション」を題材に、しかしあえて人間中心のアクションゲームを作った。これはどうしてなのだろうか? 筆者の質問に「キャラクター、人間を描きたかった」と鍋島氏は答えた。鍋島氏がロボットをテーマにゲームを作ると、キャラクターは置いてきぼりになってしまうのではないか? 鍋島氏自身はそう考えた。その手法は、「フロントミッション」ではないのではないか? それが鍋島氏が「LEFT ALIVE」を制作した理由の1つだという。

 「人物、ドラマ、物語……そういったものをきちんと表現していくのが、『フロントミッション』のらしさのひとつなのではないか? スクウェア・エニックスのゲームなのではないか、そう考えました。だから『LEFT ALIVE』は、メカもの、という切り口のゲームではなく、戦争ものというジャンルのつもりで作っています。戦争には色々な面があります。今回は、つらく苦しい状況の中を、生きぬいていくところを表現しようと思いました。もちろんヴァンツァーも出てきますが、どちらかと言えば強大な敵として描いています」鍋島氏はこうコメントした。

 ロボット対ロボットと、ロボット対人間、という視点の変化も興味深いところだ。人間から見たロボット、という視点が中心となる本作では、これまでのロボットものとは一味違う表現が可能なのではないだろうか? ヴァンツァーは怖く、驚異的な存在だ。しかしひとたびヴァンツァーに乗り込むことができれば、視点は大きく変化する。それまできつく、不安いっぱいだったのに、ヴァンツァーに乗ると気持ちが大きくなる。それは「LEFT ALIVE」の面白さの1つだという。

ヴァンツァーに乗り戦うシーンももちろん用意されている

 本作では、ヴァンツァーは手に入れても長く所有はできない。基本的には手に入れたヴァンツァーも、チャプターが変わると乗り続けられないようになっている。ただしチャプターによっては最初からヴァンツァーに乗り込み、そのチャプターの間ヴァンツァーで戦うというシチュエーションもあるとのこと。

 「LEFT ALIVE」では敵兵の武器を奪うことはできないが、倒した敵の武器は取得することができる。これまでの「フロントミッション」シリーズのようにヴァンツァーのカスタマイズはできない。しかし敵の武器を拾い、使うことで自分なりのヴァンツァーの戦い方や、武器を変えることでのプレイ感の変化という要素を入れているとのことだ。

 戦争をテーマにした「LEFT ALIVE」だが、“リアルな戦争”という感覚、実際の戦争の背景や生の情報など、そういった部分に関しては鍋島氏は「今後の課題」だと語る。ユーザーに届けたいのはゲームであり、そこにリアルな、本当に生々しい戦争の情報は必要なのかというのは、これから考えていきたいという。ゲームはユーザーにエンタテインメントとして届けるものであるが、実際の戦争はそうではない。

 ユーザーにとってのリアル感、「お前は今本当に恐ろしいことに直面しているんだ」、「これだけ残酷なことが目の前で起きているんだ」ということを実感させるにはどうすれば良いか。現実では恐ろしいこと、残酷なことは起こりうるが、ゲームで表現する場合には、倫理的にも、技術的にも様々な制約がある。その上でユーザーに何を見せていくか、それはこれからも問い続け、取り組んでいく課題だという。

下水道を進むシーンはモスクワでの地下の取材が活きているという

 今回のゲーム開発のために鍋島氏をはじめとした開発チームは、本作の舞台と同じロシア圏で取材を行なっている。具体的にはモスクワと、サンクトペテルブルグに現地ガイドをつけての取材を実施した。「LEFT ALIVE」では街の地下に潜るシーンがある。地下には下水道が通っているのだが、取材ではモスクワの下水道に潜り取材したとのことだ。それは特別な“ツアー”であり、そのツアーの衝撃は「LEFT ALIVE」に活かされている。

 「モスクワは若者達が地下に潜り込んで、秘密のパーティーを開いたりしている。彼らが実際どんな人達かはよくわからないですが、パーティーができるような下水道の一角の開けた場所に、ソファーやテーブルが置いてある。多分いけないことをいっぱいしてるんじゃないでしょうか(笑)。そういうちょっと危ない場所を教えてくれるガイドがいるんです。公園の真ん中にあるマンホールからいきなり入ったんです(笑)」。ちょっと危険な雰囲気の取材だったとのことだ。

 「LEFT ALIVE」の舞台はロシア圏の黒海周辺のある都市である。「フロントミッション」の世界は緻密に構成されており、鍋島氏と坂本氏は世界にきちんと整合性を持たせ、「LEFT ALIVE」の物語を進めているとのことだ。やはりその整合性をとらせるところはかなり苦労したとのこと。坂本氏は一言「大変ですよ」と語った。こういった整合性の部分はゲーム内で閲覧できるアーカイブで確認することができる。「LEFT ALIVE」が「フロントミッション」の世界にどうはまり込んでいるか、そこをじっくり味わうのもファンの大きな楽しみだ。アーカイブはかなりのボリュームで、力を入れて作ったので、楽しんで欲しいと鍋島氏は語った。

 次に質問したのは、「3人の主人公」。なぜ3人の主人公を起用したのだろうか? 坂本氏は「1つの真相があって、そこにたどり着く3人の視点が必要でした。物事には色々な側面があって、真相にたどり着き、謎を解き明かすには、複数の視点が必要でした」と語った。最大の謎は、「なぜ敵は攻め込んできたのか? なぜ戦争が起きてしまったのか?」である。

 バックボーンとしてはゲームの舞台となる街は、“十数年前に1つの国が2つの国にわかれた”状況にあり、その国境地帯にあり所属を巡って火種はくすぶっていたという。しかし一方の国が突然攻め込んできた。しかしそれは“表向きの理由”であり、裏には別の思惑が絡んでいく。ミハイルの場合は“新型ヴァンツァー”、オリガという女性警官の場合は1人の少女が物語を引っ張っていく。こういった要素が絡み合っていくのが「LEFT ALIVE」の物語の楽しさと言うことだ。

 キャラクターの中で、鍋島氏のお気に入りのキャラクターはミハイル。ヴァンツァーに乗りたいという一念だけで軍人になってしまったという青臭いキャラクターで、物語冒頭は鍋島氏が言うところの「アホの子」が、だんだん成長していく。彼は新型ヴァンツァーに関わっていくのだが、序盤は「そんなことはどうでもいいから、俺はここから逃げたいんだ」と言い切ってしまう。そういう人間らしさが気に入っていて、彼の成長の過程を描けたところを気に入っているとのこと。

「フロントミッション」、そしてヴァンツァーへのこだわりが生む本作の面白さ

 今作のタイトルは「LEFT ALIVE」。「フロントミッション」の世界観を受け継ぎながら、あえてシリーズタイトルをつけなかったのは、鍋島氏の、「キャラクターと、物語を作りたい」、「プレーヤーに自由度を与えたい」という考えの基に作られたゲームが従来の「フロントミッション」シリーズとは趣が異なるゲームとなったからだという。「『フロントミッション』としてゲームを作る」、「鍋島氏自身の面白いと感じるゲームを提示する」という2つの点をミックスさせて作るか、というところは悩んだ部分だと鍋島氏は語った。

 これまでも「フロントミッション」シリーズに関わってきた坂本氏が本作を「フロントミッション」ファンに向けて作るために最も鍋島氏が考えてくれたな、と感心したのが「ストーリー」だという。これまでの「フロントミッション」シリーズ作では「謎兵器」、「兵器を巡る陰謀」……そういった要素を1兵士の視点から描く、という展開が多かった。その流れを「LEFT ALIVE」でもきちんと踏襲しているという。

 戦場で1つの事件に直面したキャラクター達が、国家や組織といった大きなものの存在が企む陰謀へ繋がっていく。そういった「フロントミッション」シリーズのテーマを受け継ぐストーリーが「LEFT ALIVE」で盛り込まれている。

 「『フロントミッション』はヴァンツァーが注目されますが、ヴァンツァーはカスタマイズが中心となる兵器であり、実はヴァンツァーそのものの個性やキャラクター性は薄い。ヴァンツァーに乗っているキャラクターの個性や、背景、そして彼が直面する状況が物語の中心となる。そういうシリーズで繰り返し描かれた要素が、『LEFT ALIVE』でもきちんと描かれています」と坂本氏は語った。

「LEFT ALIVE」は2人のこだわりと思い入れが詰まった作品となる

 一方で、それでもヴァンツァーそのものにも強いこだわりが満たされている。「ジラーニ P3」といった機体はこれまでのヴァンツァーのデザインを継承しているが、「アルティメット・エディション」にフィギュアが同梱される新型ヴァンツァー「ヴォルク」は新しいヴァンツァーを意識し、メカニックデザイナーの柳瀬敬之氏がとても考えて、何度もディスカッションして作ったデザインとのこと。

 鍋島氏と柳瀬氏は「アーマード・コア」シリーズで仕事をしており、2人がヴァンツァーにどんな新風をもたらすか気になるところ。鍋島氏はヴォルクのデザインを発注するにあたり、柳瀬氏に「ヴァンツァーっぽくないけど、きちんとヴァンツァーだとわかる感じにして欲しい」というのを第一に出した。この話は鍋島氏と柳瀬氏、キャラクターデザインを担当した新川洋司氏の対談でもエピソードが語られ、新川氏はぼそっと「1番めんどくさいやつだ」と指摘したという。柳瀬氏はその鍋島氏の“無茶振り”に応えたヴォルクを作り上げた。

 ゲーム内ではいくつかのヴァンツァーが出てくるが、「警護用の装備」、「夜間戦闘用の塗装」といったミリタリー的面白さよりも、敵の武器を奪うことができるので、入手できる武器の面白さを中心のバランスになっているとのこと。遠距離射撃から格闘用まで様々な武器が入手でき、戦えるとのことだ。戦場は市街地だが大きな建物があったり、スラム街、港など様々な場所が登場する。取材の経験を活かしたデザインとなっている。スラム街はお気に入りとのことだ。

 今回はヴォルクのフィギュアを見ることができた。左肩にはロケットランチャー、右肩にはレールガン、大きな銃に、複合装甲の盾と、かなりの重装備だ。この重装備でゲーム内で登場するという。実は武器は取り外しが可能で、軽装備に組み替える遊びも可能となっている。今作ではヴァンツァーはカスタマイズはできないが、「設計思想としてカスタマイズができるようなパーツ構成にして欲しい」という要望にも応えている。フィギュアの手足は取り外せないが、ヴォルクのパーツも交換を前提としたデザインになっているという。

「ULTIMATE EDITION」に同梱されている、新型ヴァンツァー「ヴォルク」のフィギュア

 ヴァンツァーは足についた車輪を使って滑走するいわゆる「ローラーダッシュ」が可能だが、ヴォルクはサイドアーマーを展開させ機体を支える補助脚がついている。フィギュアでも実際に展開させ、ローラーダッシュ時の姿勢を再現できる。実はローラーダッシュは鍋島氏のこだわりの部分で、他のヴァンツァーもローラーダッシュの駆動時や、アクション時の描写もより説得力にこだわりを持たせているとのことだ。

 胸部分にも可動するパーツがある。これはダッシュするときは垂直に立て、機体を守る装甲板となり、さらに大きく展開させることで、頭部コクピットへパイロットの登場をさせやすくするステップになってくれる。乗降するときヴォルクは膝立ちになり、このステップを展開させてパイロットを迎え入れる。手足の可動も非常に優秀であり、ロボットフィギュアとして非常に楽しいものとなっている。

 坂本氏のお気に入りは装甲の表面加工。兵器らしいマットな質感を持たせた表面処理をしてあり、造形もシャープで、このフィギュア単体でも思わず欲しくなってしまう、とてもカッコイイフィギュアだ。耐久度も持たせているところが鍋島氏のオススメポイントだという。このフィギュアも柳瀬氏がきちんと監修しているとのこと。

 本作は“周回プレイ”を前提としたゲームデザインがなされている。違うルート、違う選択肢を選ぶと驚きが待っている。その中で1番良い結末へたどり着くと、“ちょっとしたおまけ”があるとのことだ。試行錯誤して色々試して欲しいと鍋島氏は語った。

楽しそうにフィギュアをいじりながら、ヴォルクへのこだわりを語る鍋島氏

 坂本氏はプレーヤーへの挑戦として「ヴァンツァーを格闘で倒して欲しい」と語った。バズーカなど重火器でも倒せなさそうなヴァンツァーだが、金属パイプで殴りつけても一応ダメージが与えられる。そのダメージでヴァンツァーを倒すことが可能で、トロフィーも用意されているので、ぜひ挑戦して欲しい要素だという。

 ファンへのメッセージとして鍋島氏は、「長らくお待たせしましたが、もうすぐ発売になります。色々な遊び方ができるゲームです。自分なりの楽しさを見つけてもらえればと思います。あと、皆でやると楽しいゲームです。プレイしている人を見ながら、『あっちに行けば?』や『こっちの方が良いよ』などワイワイ言い合うのも楽しい。そういう遊び方をすると結構盛り上がるゲームだと思います。プレイしている人の葛藤が面白いゲームです。それも色々ある遊び方の1つだと思います」。

 坂本氏は「『フロントミッション』シリーズをお待ちいただいていたファンの方には、本作はシリーズのエッセンスをたくさんちりばめたゲームとして、楽しんでいただけると思います。ぜひ遊んでください」と語った。

 鍋島氏、坂本氏の強いこだわりと思い入れが感じられるインタビューだった。やはり本作のストーリーが1番気になるが、話を聞いて、ヴァンツァーへの期待もとても高まった。サバイバル、リソース管理、アイテムの作成……実際にプレイしてこの難局を乗り越えていきたい。プレイレポートなども掲載していくので、楽しみにして欲しい。

Amazonで購入