インタビュー

さらば、セガ3D復刻プロジェクト!

3DS「3D ベア・ナックル 怒りの鉄拳」インタビュー

8月21日 配信

価格:600円

CEROレーティング:B(12歳以上対象)

 ニンテンドー3DS「3D復刻プロジェクト」第8弾「3D ベア・ナックル 怒りの鉄拳」。8月21日より配信され、価格は600円となる。CEROレーティングはB(12歳以上対象)。

 今回も、セガのプロデューサー・奥成洋輔氏と開発を担当したエムツー(M2)の堀井直樹氏、そしてサウンド担当の並木学氏にインタビューにお応えいただいた。

 「ギガドライブ」(※)構想もはや5タイトル目。なぜ初代「ベア・ナックル」が選ばれたのか、そこからお話を伺っていったが、最後には衝撃のお話もお伺いすることとなった。ぜひ最後までゆっくりご覧頂きたい。

※「ギガドライブ」……「3D復刻プロジェクト」において「3Dに対応した仮想メガドライブ」として仮想設計されたニューハード構想。詳しくは「3D ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のインタビューをお読みいただきたい。本稿では「3D復刻プロジェクト」における移植タイトルは「ギガドライブ」タイトルと呼称している。

【ベア・ナックル 怒りの鉄拳】

 1991年8月2日に発売。アクセル、ブレイズ、アダムの元・警官の3人のキャラクターから1人を選び、行く手を阻むシンジケートの一味を拳や武器を手に倒して先へと進む、全8ステージのベルトフロアアクションゲーム(斜め上方からの見下ろし視点の前後左右移動+ジャンプを可能としたアクションゲーム)。海外版タイトルは「STREET OF RAGE」。

 2人同時プレイに対応し、協力攻撃を搭載。また、緊急回避用のスペシャルアタックでは、かつての警官仲間がパトカーに乗って現われ、強力な援護射撃を行なうといった独自要素も取り入れられていた。

 ゲームギアに移植された後、メガCD「セガクラシック アーケードコレクション」では海外版が収録。後にWiiの「バーチャルコンソール」にも移植され、さらにXbox 360の「SEGA AGES ONILE」でシリーズ3タイトルを収録した「ベア・ナックルコレクション」の1本としてリリースされている。

 また、続編としてROM容量が強化され、キャラクターが大型化、アニメパターンも増やされた「II」、「III」が制作されている。

主人公は左からアダム、アクセル、ブレイズの3人から選択可能。アダムは「II」以降、さらわれたりなんだりでプレーヤーキャラから外れてしまう
2人同時プレイにも対応。リリース当時はライバル(?)である他のタイトルでは実現できていなかったので、メガドライブユーザーは誇らしい仕様だった

「ベルトフロアアクションを立体視化するのは無理です」と言われても「うやむやでGOを掛けました」

――今回も、「3D ザ・スーパー忍II」に続いて、「ベア・ナックル 怒りの鉄拳」をチョイスされた理由からまずお伺いしようかと。なぜ初代で「II」や「III」じゃないのか? という。

堀井氏:あとで「II」をやるからです!(一同笑) 奥成さんがやらせてくれれば、ですが。

――ジャンル的には、ベルトフロア(スクロール)アクションが初めて「ギガドライブ」として甦るわけですが。

奥成氏:まず、ギガドライブのタイトルを選定していく中で、「ザ・スーパー忍II」までの4タイトルはすべて2D横スクロールアクションと呼ばれるものの範疇の中でやってきたわけですが、当然、それ以外のジャンルのものもやりたい、ということは考えていまして……ただ、スケジュールを見たときに、それ以外のジャンルのタイトルをやるのはかなり時間がかかるだろう、ということは当初から予想していました。

 今回のラインナップの中で、横スクロールアクション以外のタイトルは、リスクがあることはわかっていたんですが、それでもベルトフロアアクションをやりたかったんですよ。セガは「ゴールデンアックス」だったり「ベア・ナックル」だったり、ベルトフロアの人気シリーズを作ってきているんですが、それを立体視でやってみたかった。ですが、今回のスケジュールのなかでそれをやるのは……というより、エムツーさんから、「ベルトフロアアクションを立体視化するのは無理です!」という話が最初に出てきていたんですよ。

――なるほど。

堀井氏:どうしてもパースのおかしい背景がいっぱいあるんですよね。斜めスクロールの部分とか。

奥成氏:これまでのギガドライブの手法、「3D ソニック」などで使われてきた手法を使っていくと、ベルトフロアのゲームは、「ただ背景の上にキャラクターが浮いている」だけのゲームになってしまうんですね。なぜかというと、ベルトフロアアクションは、見た目奥行きが入っているだけで、実際のゲームは2Dですから、そこにはパースの付けられた絵が描かれているだけなんですよね。そこを3D立体視に対応させなければならない。これはギガドライブのコンセプトからいくと、ありえないことだったんですね。「メガドライブのBG面を奥に見せることで立体視化する」というコンセプトでは、3D立体視化できないゲームだと。「ベルトフロアはその手法ではダメ」という話になりました。

 でも、「ゴールデンアックス」や「ベア・ナックル」のシリーズを立体視化したい……3D復刻プロジェクトの将来を含めた上での希望がすごく強かったので、何度も食い下がりまして。「何か1本だけでいいからやろうよ」という話をしたところ、そこで堀井さんが言っていたのが、「とにかくベルトフロアのゲームは、立体化不可能なパースのおかしい絵があるのだから、普通にやったら立体視化することはできない」ということだったので、じゃあ「ベア・ナックル」初代だったら、上下に道が動かない基本的に1本道のゲームだから、きっといけるんじゃないかと。そういう風に説得して……「でも、検証が終わってないし……」と言いながら、うやむやでGOを掛けました(笑)。

――これまでも何度かムチャ振りの話を聞いてきましたが、今回のは改めてすごくムチャクチャな話ですね(笑)。

堀井氏:そうなんですよねー。

奥成氏:実際に断られてますからね。

堀井氏:検証している最中に、時期的にどれをやるかというソフトを決めなきゃならない状況で……ゆっくりやっていた僕らが悪いんですが。

――確かに初代「ベア・ナックル」なら、基本的には1本道ではあるんですよね。ただ、これは想像の域を出ませんが、これまでの横スクロールアクションにはなかった、自分の位置が見下ろし視点の床の上で上下左右に動いて、なおかつオブジェクトの位置も敵の位置も同じようになっていて……そのオブジェクトや敵は立体扱いではなくて、絵として立体のように見せていて、床との兼ね合いで、角度が変わるとウソがいっぱいあるという。それがベルトフロアのつらいところなんですね。

堀井氏:そうですそうです。横スクロールだけならいいんですが、斜めなどにもスクロールされちゃうと、もうお話にならないという。

――その上手なウソをついているところを、どう立体視化するか、ということが課題になったと。ちょっと考えただけだと、「え? 背景を倒して深度を付ければ解決なのでは?」って思っちゃいそうですが……。想像するだけではまだ良くわかってないんですかね、私。

堀井氏:そのあたりは、三次元物を二次元に投影するときにウソをつくことを「アリ」だと思って作るからこそ成立する表現なんですよね。

――いわゆる“だまし絵”を立体化すると感じる違和感なんですかね。……それは断りますよね。確かに。

堀井氏:はい。

奥成氏:では、開発初期のテストで作ったものがありますので、ご覧いただきましょうか(と3DSを見せる)。この3Dを見ていただければ。

――おおなるほど、こうなるんですね。

奥成氏:最初は「いいじゃん、いけそうじゃん?」って言ってたんですけれども、先に進むと、背景のパースについて、当時、消失点などを意識せずに描かれているだろうと思われる場所が出てくるんですよ。それをエムツーさん的には「これを3Dにするのは無理です」と。

堀井氏:そこですね。

奥成氏:背景から宙に浮いたキャラクターがいるという。……というわけでこれを、力技で作り直した今回発売するバージョンを見ていただきましょうか。

――(プレイしながら)全然違いますね。これはすごいなあ。画面奥から手前に移動すると、立体になっているのがよくわかります。

堀井氏:キャラクターの大きさはまったく変わってないのにね。ゲームシステム的にすごく意味のあることなんですよね。

――そうですね。これはすごい。2Dだと全然わからなかったんですが、パンチが超当たります。全然違うわー。電話ボックスの側をうろうろするだけでも感動しますわ。

堀井氏:作った人が報われるセリフですね(笑)。

――なるほどなるほど、だからベルトフロアアクションを立体視に対応させるのが大変だっていうんですね。少しわかってきました。

堀井氏:だけど、「あれが立体になって欲しい」っていう人もいっぱいいるはずなんですよ。「ギャラクシーフォース」を3Dにするのも華があっていいんですが、こっちはこっちでいいんですよ。むしろこっちをバカスカやりたい。

――看板がこうして立体に見えることがすごい、という。これ、位置が自キャラと敵とがずれて離れている時はそこまで強烈には感じないんですが、距離が近づきながら軸が合って、さらに敵を殴った瞬間、はっきりと立体になっていることがわかるというか。近づいてくると軸のズレが強烈に理解できる。これは実際にプレイしてもらったほうがわかりやすいですね。

奥成氏:ギガドライブのシリーズの中で、1番苦労するということも含めて、今回「ベア・ナックル」が最後のタイトルとして選ばれたと。前回「ザ・スーパー忍II」のインタビューで「『ギガドライブ』タイトルの中でも1つの集大成といえる内容になった」、「めんどくさいところをすべてやってきた」とお話ししましたが、「ベア・ナックル」は次の次元、「絵で描かれている3Dを3D立体視にする」……平行して開発していましたので、このタイトルでやったことも「ザ・スーパー忍II」の最終面やステージスタート紹介画面にも活かされているんですが……ゲームの中で奥行きとして立体情報になっている、というところが別の次元になっているということです。

――もう1ランクハードルが上がっている、ということなんですね。

奥成氏:そういう意味で、「ベア・ナックル」を、ベルトフロアアクションを1本やってもらいたかった、という中で、1番ストレートなゲームとしてこのタイトルを今回選びました。そういう意味で言うと、実験の要素はあるんですが、実験は大成功でした、ということがわかったので、続きもできるといいな、という期待も持たせつつ……(エムツーさんは)もう懲りているかもしれませんが(笑)。

堀井氏:確かにきつかったですけれどもね。床のラスター単位の奥行きが付いた段階で、一気に地面の基準が決まって、物体の位置がラインの奥行きに沿ったところに配置されることで、もう「俺のパンチが必ず当たる」状況が作り出されたと。

奥成氏:ゲームのプレイ感覚に影響が出ているので、「3D 獣王記」のステージ3でやった、洞窟の擬似立体感や、「3D エコー・ザ・ドルフィン」でやった立体感とは全く違うんですね。

堀井氏:奥行きをつけた地面に対して位置情報を持たせて、キャラクターが移動するごとにそれを合わせてあげて、キャラクターと地面を一体にすることで一気に……。

――めちゃくちゃ力技っぽいものを感じます。

堀井氏:深度情報を入れたら、画面の中に空間というか箱ができた。びっくりでしたね。メガドライブタイトルの5本目ですが、このタイトルが1番ゲーム性的にバシッと変わったタイトルでしたね。視覚の驚きはこれまでも散々ありましたが、これで百発百中でパンチが当たることが超気持ちいいですから。

奥成氏:今までのタイトルでは、プレーヤーキャラクターは同一ライン上にしかいなかったわけです。ベルトフロアでは、手前から奥まで自由に移動できるようになって、それに対して敵やオブジェクトも深度情報を持って移動したり配置されている。ゲームの歴史のおさらいですが、アクションゲームの進化として、最初に固定画面が誕生し、次にスクロール画面へと進化します。そしてゲームの世界の中に重力が付いたジャンプアクションができて、続いて奥行きのあるベルトフロアが誕生したわけです。

 そういう意味で言うと、横スクロールからベルトフロアに進化しているところの“進化”が、3Dでそのままそこにあった、ということでしょうか。歴史をともに歩んできたアクションゲームの進化の形態を知っている人でないと、その差はなかなか伝わりづらいかもしれないんですけれども……。アクションゲームをプレイしてきて、その差は大きかったじゃないですか。

――この3D立体視化によって、キレイなウソが逆にあだにもなっているという。

奥成氏:最初から3Dなら、何の問題もない話なんですよね。

――だからこそ、「向いている」という意味でのアーケード移植版の奥行き進行型の立体視化がありつつも、でも、メガドライブの立体視化においては、ベルトフロアアクションも避けては通れないものがあったと。

堀井氏:やった分の価値はあると思うので、遊んだ人にはこの価値をわかってもらえると思います。

――これは静止画じゃなかなか伝わらない。

奥成氏:過去に4本やったからこそできる次の次元、ですね。もちろん理想はあるんですが、作ってみないと動いているところが完全には想像できないというんですかね。やってみたら本当にとても良くなった。

堀井氏:本当に、このゲームをはじめ、メガドライブの3D立体視化タイトルはたくさんの人に触って欲しいですね。触ってもらえばびっくりしてもらえると思うので。

――これも「ザ・スーパー忍II」でお話を伺っていた「ギガドライブ Ver.2.0」で対応できたということなんですね。

堀井氏:そうです。まだちょっとこれから先、拡張の余地はありますが。

(佐伯憲司)