インタビュー
「World of Warships」EXプロデューサーArtur Plociennik氏インタビュー
潜水艦の出来映えに満足。空母はまずは間口を広げ、そこから深みを足していく
2018年9月19日 19:37
東京ゲームショウ直前に立て続けに大きなアップデート計画を発表した「World of Warships」。その詳細については、2本のレポート(空母リビルドレポート、潜水艦レポートで詳しくお伝えした通りだが、説明を行なった「World of Warships」エグゼクティブプロデューサーのArtur Plociennik氏にインタビューを行なった。今回発表された空母のリビルドと潜水艦について気になる要素についていくつか掘り下げることができたのでさっそくお届けしたい。
空母のリビルドについて
――まず、なぜGamescomや東京ゲームショウではなく、このタイミングで発表したのか?
Artur Plociennik氏:まず大前提として「World of Warships」はライブオペレーションゲームなので、完全にできたものを投入するということはしない。コミュニティにいつも変更について意見をもとめ、そのフィードバックを得て調整するものなので、テストがもうすぐ始められるこのタイミングで発表したいと考えた。
それから「WoWS」は3年近く運営してきていて、様々な要素を実装してきて、ようやく大きな変更ができるようになったということもある。この空母の改修にあたっては、小さなバランス調整では処理できず、リデザインの必要があることがわかり、ようやく開発を進めるための人的リソースが確保できたので、チャレンジすることにした。
――空母のリデザインについて、実装した段階で、空母が他の艦艇とプレイに一貫性がないことはわかっていたが、なぜ運営4年目のこの段階でプレイの一貫性を取り戻すようなアップデートを実施したのか?
Plociennik氏:当初はRTSの要素があることが良いことで、それがよりプレーヤーを集められると思ったので投入した。ただ、実際にやってみると、RTS好きな人は少なく、バランス調整も難しかったので、今回の変更に至った。
――リバランスを決断したタイミングは?
Plociennik氏:正式サービスが開始してから1年後には考えていた。空母を使うプレーヤーが想定より少なくて、コミュニティにその件も話始めていたのだが、当時は実現するためのアイデアやリソースが足りなかったので、ゲームの熟成を優先する判断をくだした。現在、ゲームが十分に熟成してきて、アイデアやリソースも確保できたので取りかかることにしたんだ。
畑井翔氏(日本運営プロデューサー):2017年の頭に、空母に関してはリデザインするという話はしていた。ひとつの案を社内テストをした結果、バランスがあまりかわらないということで開発し直しとなり、2018年の4月ぐらいにアクション性のある艦載機のシステムが完成してやっと発表できるということになった。
――リバランスの基本コンセプトとメインターゲットについて教えて欲しい。
Plociennik氏:まずターゲットは、他の艦艇クラスをプレイしている方々。コンセプトは彼らが好きなスローで戦術的で臨場感のあるゲーム、空母以外をプレイしている人たちが楽しんでいる要素を空母に取り入れることだ。
――空母には偵察、対艦、対空という3つの役割が与えられていたが、今回対空の要素がかなり弱められた。その理由を教えて欲しい。
畑井氏:発表会では説明しなかったが、実際には艦載機を呼び出すことができる。消耗品みたいにして使うと、そのエリアを艦載機が偵察して、敵を見つけたら攻撃してくれる。空母を守ったり、艦載機を守ったりできる。この空母の新仕様は、まだ開発中のもので、まずは対艦の部分をしっかり作ってから対空の部分を入れていきたいと考えている。
Plociennik氏:このゲームの根本は、お互いの船にダメージを与えるというもので、ダメージを与えることが経験値やクレジットといった報酬に繋がるので、まずは空母について敵の艦艇にダメージを与えるという部分を完成させてから他のことを調整していきたい。
今後の調整で、戦闘機を復活させるかもしれないし、そのほかの様々な要素が入ってくると思うが、その中で調整していくことになると思う。たとえば、そもそも艦長=プレーヤーなのかという問題が残っている。だとするなら中隊を率いるときはパイロットであるべきで、専用のパイロットスキルも用意した方がいいのかとか、色んな要素を考えていく必要があると思っている。
――現行の空母の魅力は、複数の飛行中隊をほぼ同時に操作できるところだと思っているが、新ルールの空母は1中隊に限定している。これは操作の敷居を下げるためか、それとも他に意図があるのか?
Plociennik氏:1中隊ずつにしたのは、新しいプレーヤーに対して空母の間口を広げ、ゲームに入りやすくするためだ。ただし、この仕様が非常に経験の深い熟練したプレーヤーにとっておもしろいかどうかは別問題で、そこについては引き続き考えていかなければならないと思っている。将来的にはTier8~10の空母は複数中隊を扱えるようにするかもしれないし、艦長スキルで扱えるようにしたりなど、様々なことを検討していきたいと思う。
――新ルールの空母は、従来よりも直接的な打撃力だけでなく、総合的な影響力が下がっている。端的に言えば、大幅に弱くなっている。これは空母乗りからすれば残念な話だと思うが、批判されるのがわかっていてなぜリデザインを断行しようとしているのか?
Plociennik氏:正直に言って新しい空母デザインに関して、RTS好きには何もいいところはないことはわかっている。ただ、空母好きの人数はごく少数なのであまり影響はないと考えている。空母をシンプルにして初心者でも入りやすいクラスとすることで、空母を使用するユーザーを増やし、その上で先ほど説明した中隊を複数にするなどの“深さ”を追加して、徐々に空母の影響度を高めていきたいと考えている。ただ、その場合も、現在のような影響力にはせず、バランスを取れたものにしたいと考えている。空母の現在の一番大きな問題は、バトルに対する影響度が大きすぎたことだ。今後はいずれにしても空母だけのゲームにはしない。
――開発チームとして、最終的に空母をどのような存在にしたいと考えているのか?
Plociennik氏:難しい質問だ。「WoWS」の原点まで話を戻すと、開発チームとしては、各艦艇に対して歴史上と同じ役割を持たせたいと考えている。空母は、海戦のスタイルそのものを変えてしまった存在として、「WoWS」でも戦艦がいらなくなるような状況を作ろうとしたら、現在のバランスになってしまった。だから、新デザインでは、ゲーム的に考えて空母は一歩下がって、空母はサポートの役割をメインにしたい。現在はなんでもできる万能キャラになっているので、索敵をしながらダメージも与えるという1つしかできないようなバランスにするつもりだ。
――それは奇しくも「World of Tanks」における自走砲の改修と同じような感じか。直接致命傷を与えるロールから、前線の重戦車をサポートするロールに変わったような?
畑井氏:そのとおり。これはジャストアイデアだが、空母をもっとサポートに特化する案のひとつとして、潜水艦を索敵するだけのソナーブイを落とす役割など、空母にサポートだけの役割だけを与えるといったことも考えている。
――今回の空母のリバランスに合わせて、他の艦種にはどのような調整が入るのか?
Plociennik氏:それについて空母とのコアゲームプレイを決めてから調整するつもり。まだ最終案ではないが、案としては空母と他の艦艇との接点は飛行中隊なので、対空砲の強さや、集中させるエリアの指定といったことを調整していくことになると思う。空母と他の艦艇の違いは対空しか無いので、対空をどう狙うか、船のどこを狙うか、方向によって、艦載機が近づいてきたら対空をどこに集中させるかとか、あとは対空周りの消耗品や艦長スキルについてもすべて調整していく事になると思う。
――現在、高Tier帯では空母は各チームに1隻ずつしか入れないが、新デザインではどうなるか?
Plociennik氏:それはバランスとリアリティの両方で考えなければならない問題で、バランスという意味では幾らでも増やすことは可能だが、リアリティを踏まえると、全部空母になるのはおかしいので、最大でも2~4隻ぐらいになるだろう。現在調整中のコアゲームプレイが固まってきたら、次に考えるべき問題だと思う。空母の複数化は当然あり得る話だと思う。
――新デザインの空母が気に入らないユーザーへの移行案について、現在検討しているプランについて詳しく教えて欲しい。全額クレジットの払い戻しはあるのか?
Plociennik氏:現状はまだ何も決まっていない。これはとても難しい問題なので、何も決まっていないというのが正直な所だ。
5つ目の艦種 潜水艦の投入について
――潜水艦について聞きたい。「WoWS」の発表以降、私はCEOのビクター・キスリー氏をはじめ、あなたも含めて潜水艦の実装可能性について訪ねてきたが、毎回、強く、ハッキリと否定してきた。だから私は質問をすること自体を辞めたぐらいだが、なぜ今になって急に方向転換をしたのか?
Plociennik氏:それは我々開発チームが「潜水艦は実装できない」と言ってきたので、だからビクターも「やらない」と言っていただけだと思う(笑)。ただ、今は当時と環境が変わり、スタッフもこの3年間で40人から300人以上になって、ゲームも色んな特徴も追加して、ゲームとして熟成してきたので、いよいよ投入できる準備が整った。そこで今回ハロウィーンイベントにテスト実装して、ユーザーの反応を見てみることにした。実際にレギュラーコンテンツとして入れるかどうかはまったく決まっていない。ようやくテストできる状況まで開発することができたということだ。
――ハロウィンイベントにテスト実装するということだが、潜水艦という新たなゲームメカニクスについて実装の手応えは?
Plociennik氏:個人的には満足している。今回はあくまでテストであって、もっとも大事なテスト項目は、ビジュアルと雰囲気がゲームにマッチするかどうか、それがコミュニティの期待値に合うものなのかどうかを検証することだ。クオリティについても個人的には非常に満足していて、すぐにでも本サーバーに実装できる内容だと考えている。
畑井氏:ただ、潜水艦については、現時点ではあくまで操作性とビジュアルだけなので、ゲームバランスについてはまだこれからというところだと考えている。
――運営4年目で新艦種を加えるというのは、バランス調整の面で大変だと思うが、エグゼクティブプロデューサーの立場から、個人的な見解としては5つ目の艦種として入れたいと考えているのか?
Plociennik氏:その価値がないと思うならそもそも最初から開発していないよ(笑)。我々は当然(実装する)価値があると思って開発している。ただ、実装についてはあくまでコミュニティとの対話が重要だと考えているため、そのための準備が整ったという段階だ。
――ではユーザーが潜水艦の実装を望めば、実装を阻むものは何もないと考えて良いのか?
Plociennik氏:基本的にはそうだ。
畑井氏:「WoWS」では毎月アップデートをしていて、その上で定期的な大型アップデートというものが必要だと考えていて、潜水艦はそれに相当するものだと考えている。新たなゲームメカニクスを導入することによってゲームに対するマンネリも回避できるという狙いもある。
――以前インタビューした際、「WoWS」では、新たな艦艇を、リサーチ開始から実装までにだいたい1年ぐらい掛かると言っていた。その点において現時点での潜水艦のリサーチ状況はどれぐらいまで進んでいるのか知りたい。実はもう日本のTierIからXまで企画が進んでいてほぼ出来ているような状態なのか、それともこれからリサーチを始める段階なのか。
Plociennik氏:特定の数はわからないが、潜水艦のリサーチはかなりしている。ただ、それは潜水艦を実装するからということではなくて、一般的なリサーチの一部として続けているもので、幾らでも研究の余地がある。
――仮に潜水艦を5つ目の艦種として実装する場合、どのような形で実装するつもりか? たとえば従来の艦艇と同様にTierIからXまで揃えるような形になるのか、それともプレミアム艦のような形で、特定のTierだけ登場するようなスペシャルな存在になるのか。
Plociennik氏:バランス次第だが、TierIからXまで揃えることはないと思う。ある程度のTierから始まって、すべてのTierにあるわけでもない。例えばTier VII、IX、Xにだけあるとか、そういう形になるだろう。
――今年のハロウィンイベントは潜水艦に一足先に乗れるということで気になっている人も多いと思う。どのような世界観で、どのような内容なのか?
Plociennik氏:基本は去年と同じ。前回のストーリーは、主人公達がゲートを通って悪の世界にたどり着く。今年はその世界を調査するために潜水艦という新兵器を投入するという設定になっている。2016年、2017年のハロウィンモードも実装する予定なので、昨年プレイしていない人でも、そちらから楽しむことで誰でも楽しめるようになっている。
――この世界には何やら深海に巨大生物がいるが、その生物に魚雷を撃ち込んだりできるのか?
Plociennik氏:それはできない。単なる演出で飾りだ(笑)。
――日本のゲームコミュニティに対してメッセージを。
Plociennik氏:新しいアップデートを日本のコミュニティが気に入ってくれることを願っている。これまで空母にあまり楽しい要素を見つけられなかったという人でも楽しめるようになっているので、ぜひ試してフィードバックを送って欲しい。