【特別企画】

30人以上の審判勢に衝撃! 「第2回全国高校eスポーツ選手権」の裏側を覗く

プロリーグと同じ運営ポリシーを守る理由。プロ中のプロがサポートする“選手ファースト運営”に密着

【第2回全国高校eスポーツ選手権 予選大会】

11月23日~24日開催

会場:ルフス池袋

 高校生がMOBA「リーグ・オブ・レジェンド」で頂点を競う「第2回全国高校eスポーツ選手権」の「LoL部門」。その予選大会(オンライン)が11月23日と24日にかけて開催されたが、会場となったルフス池袋を取材して驚いたことがある。それは、初日に配置された“審判”の数だ。

 会場に入った時点から、やたらとモニター前に座っているスタッフがいるなと思ってはいたのだが、その全員が審判を務めるスタッフだと後でわかった。その数30人以上。予選初日の初戦は同時に52試合が行なわれたが、各試合すべてで2試合に1人、あるいは1試合に1人の割合でしっかりと審判を付けるためである。

【圧倒的な数を占める審判勢】
会場にズラリといるスタッフ。モニター前にいるのは全員審判だ

 最近ではeスポーツも知名度を徐々に上げてきてはいるものの、こうした大会のオンライン予選で30人以上の審判が配置されている光景はなかなか見たことがない。丁寧といえば丁寧だが、かけているコストの高さにこちらが心配になるくらいだ。

 そもそも、単なるオンライン予選と割り切ってしまうのであれば、わざわざ審判にこんなにコストをかける必要はない。多くの注目が集まり、話題になるのは決勝大会(オフライン)のはずなので、予選は最低限のコストで運営して、決勝大会(オフライン)にコストを集中するという選択もあったはずだ。

 そこをあえて番組として配信し、しかも視聴者からはまったく見えない審判にさえこれだけのコストをかけている。言ってみてもアマチュア、しかも高校生大会にである。これはなぜだろうか。

 その裏側にあるのは、「eスポーツを文化にし、最低でも100年はやる」という「全国高校eスポーツ選手権」運営側の思いだ。特に、大会運営は「選手ファーストであるべき」というポリシーが大きく下支えしている。さっそく、その詳細をお伝えしたい。

「全国高校eスポーツ選手権」が軽視しない審判の仕事とは?

 そもそも本大会における審判とはどのような仕事なのか。あえて一言にするのであれば、「試合をしっかり見守る仕事」である。

 審判の役割は、試合の参加者と事前に連絡を取るところからスタートする。各チームと個別にやり取りをしながら、試合前に参加者の名前とロールをチェック。両チームを対戦部屋へと案内して、開始時間に合わせて試合を始めるよう先導していく。

 バンピックの内容を記録し、何かのトラブルに対応できるよう試合の行方を見守る。試合が終われば、各チームにフォローの連絡を入れる。勝利チームには次の対戦時間を案内して、やり取りを一旦終える。

試合に備える審判たち

 内容としては何ら難しいことはないが、こうした参加チームとの地道なやり取りが大会運営を支えていることがよくわかる。実際、予選大会では1つのトラブルもなくスムーズに試合が進行していった。

 取材中、審判の顔出しや審判モニターの画面は撮影NGであることが伝えられた。理由は八百長をはじめとした不正を防ぐため。単にコストをかけるだけでなく、試合品質の管理も徹底している。

 ちなみに、審判をするのに特別な技術は必要ないが、咄嗟の質問にも答えられるように、プレイタイトルをよく理解していたり、参加選手の気持ちがわかることが大切という。機械的に処理をするのでなく、参加選手と一緒に大会を作ろうという高いモチベーションを持ったスタッフが集まっている。そんなチームで、「全国高校eスポーツ選手権」は運営されているのである。

コスト最大限で“わかりやすさ”を貫いた配信番組

 コストをかけているのは審判だけではない。配信番組そのものが全力だ。それだけに、完成度も高く仕上がっている。

 その理由のひとつがカメラワークだ。試合中のカメラは常に対戦のポイントとなる場所を追っていて、集団戦などは直前から必ずカメラがフォローしていた。重要なシーンはリプレイがすかさず入り、実況解説のフォローも手伝って試合全体の流れがとてもわかりやすかった。

【丁寧なリプレイ】
配信番組では、重要な場面ですぐにリプレイが入った

 さらにはその解説の丁寧さも光っていた。高校生大会ということで、親御さんなど「LoL」を知らない視聴者も多くいることが踏まえられている。基本ルールやベーシックな戦略を試合中に繰り返し紹介したり、試合後には将棋の大盤解説のような形でチームの背景も含めた試合のポイントをもう一度おさらいするなど、とにかく“みんながわかる「LoL」解説”が徹底されていた。

【試合の振り返り】
アナリストのiSeNN氏が、試合を改めて振り返る時間が設けられていた
チャンピオンのスキルと特性を基本から見ていく、というコーナーもあった

 番組が終わってみれば、高校生たちの顔は見えていないにも関わらず、チームごとの特徴がとてもよく理解できる内容になっていた。審判スタッフの尽力もあってダレる時間帯もなく、視聴者は決勝大会(オフライン)に向けて、「あそことあそこの対戦が楽しみ」とすでに見どころを押さえられたのではないだろうか。違和感なくこうした情報が入ってきた点でスタッフや出演陣の力量を感じたし、番組として非常に完成度が高いと思ったのである。

 カメラワークのクオリティは、モニター前に常に複数人いることで保っている。マップ全体の試合状況を手分けして把握し、どこで何が起こりそうかを常に共有していく。

【配信ブース】
スタッフが詰めている配信ブース。予選から大勢の人数をかけていることがわかる

 カメラを操作するスタッフは、日頃からチャンピオンの必殺技に合わせてカメラを引いたり、マップを横断するアッシュのアローなどを追う練習をする。その練習のひとつひとつが、試合をより魅力的に見せる技術へと繋がっていく。

 また実況解説の言葉を受けて、カメラやカーソルを操作することもある。特定のアイテムの話が出たらそのアイテムを映したり、タワーの話をしたらタワーを追うようにカメラを移動させたり。事前に解説陣と打ち合わせておくことで、そうした動きにも咄嗟に対応できる。

 つまり、スムーズなカメラワークや解説との連携は、スタッフ陣の鍛錬とチームワークの賜物というわけだが、とにかくすべてが全力だ。

選手のパフォーマンスのために“最高の環境”を作る

 なぜここまで全力なのか。今回の取材で、本大会プロデューサーを務めるサードウェーブ eスポーツプロモーション課課長の佐藤和昭氏、審判長を務めるサードウェーブ コミュニティサポート・大会ディレクターの加藤祥一氏に話を聞けたが、特に印象的だったのが両氏が挙げた“選手ファースト”というキーワードだ。

本大会プロデューサーを務めるサードウェーブ eスポーツプロモーション課課長の佐藤和昭氏
審判長を務めるサードウェーブ コミュニティサポート・大会ディレクターの加藤祥一氏

 審判の数にしろ番組の完成度にしろ、高校生の大会だからといって一切手抜きがない。その大きな理由には、「選手にとって最高の環境を作ってこそ、選手が最高のパフォーマンスを発揮できるはず」(加藤氏)という信念が運営サイド全体にあるからだ。

 加えて、試合の実況と解説に「LoL」の日本プロリーグ「League of Legends Japan League(LJL)」の実況解説コンビでもあるeyes氏とRevol氏、アナリストに元AXIZ所属のiSeNN氏というプロ中のプロを起用している妥協のなさも、選手ファースト精神の表われとなっている。

 いち選手として、他のプロ選手と同じようにリスペクトをもって運営側が接し、実際の試合ではプロと同じように実況解説される。そんな状況でプレイできることこそが、最高の環境づくりのひとつにもなっている。手抜きなし、妥協なしの大会を作り上げ、eスポーツを文化にする。そんな覚悟をインタビューから感じ取ることができた。

実況解説を務めたeyes氏(左)とRevol氏(右)
番組の裏側

プロ顔負けの試合内容で応える高校生たち

 配信の中で面白かったやり取りがある。それは、初心者向けの解説を意識していたeyes氏とRevol氏が、予選決勝試合のレベルがあまりに高いため「これでは解説が追いつかないのでちょっと切り替えます」と宣言したこと。試合が重なるに連れ、解説の主体はアイテムビルドやCSの重要性、細かい連携の機微など内容はどんどん深まっていった。

 番組終了後、出演陣にも話を聞けたのだが、この時2人は試合を見ながら「プロレベルの攻防が行なわれている」と思っていたという。全体を振り返っても「戦略」を感じられる試合が多く、勝つための戦略はもちろん、負けていく中でも「どうやったら逆転できるか」を最後まであきらめないチームばかりだった。「昨年と比べても、全体的にレベルが上がっていると実感できた」と話してくれた。

 iSeNN氏は、「全国高校eスポーツ選手権」という大きな目標が高校生にあることで、今後もどんどんレベルは上がるのではと予測していた。“最高の環境”での試合や大会が、実際に高校生たちのパフォーマンスを引き上げつつあるのだ。第3回、第4回と大会の回数が重なり、さらに高校生のレベルが上がっていくのが今から楽しみだ。

左から、OooDa氏、iSeNN氏、ケイン・コスギ氏、eyes氏、Revol氏。出演者全員でPerfect Bodyポーズをばっちり決めてくれた
試合の行方を見守りながら、試合後解説に備えるOooDa氏とiSeNN氏。高校生の全力を、プロたちが真剣に受け止めている

 そしてOooDa氏、ケイン・コスギ氏を含めた出演陣5名が口を揃えたのが、「高校生大会は素晴らしい」という一言。高校の仲間と一緒に熱中して、成長できる経験が、ゲームでできるなんて、ということだ。

 ケイン氏は「今まで色々なスポーツを経験してきたが、中高生時代の思い出は特別。だからゲームで同じ経験ができる『全国高校eスポーツ選手権』は素晴らしい大会だと思う」と太鼓判を押す。「今の時代っていいな」(OooDa氏)という羨ましさも込みで、出演陣全員が、高校生たちの青春ドラマに惚れ込んでいるとわかって印象的だった。

 プロ中のプロが作り出す、最高の舞台で行なわれる「第2回全国高校eスポーツ選手権」は、決勝大会が12月29日に開催される。その時には、勝ち上がった高校生たちがオフラインの場に集結する。彼らがどんな表情で、どんなドラマを作り出すのか。ぜひ見守りたい。