【特別企画】

「本気で勝ちに行く」のが新陽流! 札幌新陽高等学校が「LoL」で目指す日本一

“eスポーツ特待生”も準備中! 先進的かつ熱量最大限のeスポーツ研究部を取材

【第2回 全国高校eスポーツ選手権】

「リーグ・オブ・レジェンド」部門

オンライン予選:11月16日~17日、11月23日~24日

オフライン決勝:12月28日~29日

 山形県立酒田光陵高等学校、福岡県立八女工業高等学校と続けてきた日本各地のeスポーツ部取材も3校目を迎えた。今回取材したのは、北海道札幌市にある全日制私立高校、札幌新陽高等学校 eスポーツ研究部。

 札幌新陽高等学校が特徴的なのは、2016年に荒井優氏が校長に就任して以来、“定期テストを廃止する”など既存の概念にとらわれない施策を次々と打ち出していることだ。「日本一に本気で挑戦する人の母校」がスローガンの斬新な風土の中で立ち上がったeスポーツ研究部は、どのような活動を行なっているのだろうか。

札幌新陽高等学校 eスポーツ研究部

発足:2018年11月~
人数:12名
競技種目:リーグ・オブ・レジェンド、フォートナイト
部長:合田朋生さん(2年生)

主な実績:
第1回全国高校eスポーツ選手権「ロケットリーグ」予選出場(1回戦敗退)
第1回全国高校eスポーツ選手権「リーグオブレジェンド」予選出場(1回戦敗退)
STAGE:0「フォートナイト」予選出場(予選敗退)
STAGE:0「リーグオブレジェンド」北海道ブロック予選優勝 全国決勝大会出場
第2回全国高校eスポーツ選手権「ロケットリーグ」予選出場(1回戦敗退)

先進的な校風の下で生まれた“eスポーツ研究”の土壌

 札幌新陽高校は、JR札幌駅から地下鉄と徒歩で30分ほど行った場所にある私立高校である。札幌新陽高校が他の高校と少し違うのは、先述した荒井優氏が2016年に40歳という若さで就任し、倒産寸前だった学校経営にメスを入れ、以来新入生を増やし続けている点だろう。

 札幌新陽高校は荒井氏の祖父が創立した学校ではあるものの、荒井氏自身は教員免許を持っていない。一方で、リクルートに入社し、その後ソフトバンクで孫正義氏の側近を務めるなどビジネス面での実績は十分。その経験を活かし、ビジネス的な視点を取り入れた学校経営を打ち出している。

「本気で挑戦する人の母校」という文字が掲げられた校舎。頭に「日本一に」と付き、より具体性が増したのは今年度からとのこと。どのくらい先進的かというと、女子野球部の合宿費用や大会遠征費をクラウドファンディングで集め、しかも成功させているほど。そうした驚くべき胆力に溢れた校風である

 その1つが、冒頭で紹介した「定期テストの廃止」だ。新陽高校では、中間テストも期末テストもなく、日々の生活の積み重ねがそのまま成績として反映される。今までは当たり前だった「テスト直前だけ根を詰めて勉強する」ことが本当に生徒に役立つかどうかを考えた結果、このような方針を導入したという。

 2018年度には課題解決に重きを置いた「探究コース」という専門コースが新設されるなど、今もなお制度改革は進行中。挑戦を奨励し、とにかく実践的にものごとを進める新陽高校の風土を考えると、eスポーツ研究部が生まれたのも素直に納得できる。

 eスポーツ研究部が生まれたのは2018年11月のこと。創設の中心となったのは当時1年生だった倉本恵輔さんと合田朋生さん。この2人から、現在顧問を務めている平中伸英先生に話が持ちかけられたことがきっかけとなっている。

顧問を務める平中伸英先生

 最初は「eスポーツが盛り上がってきている」などという授業中の雑談を皮切りとして、倉本さんらが「もしeスポーツ部を作るなら平中先生が顧問をやってくださいね」などとやり取りをしていたところ、合田さんがサードウェーブのゲーミングPCレンタルプログラム「eスポーツ部 発足支援プログラム」の情報を見つけてきた。それを聞いた平中先生が「そこまで本気なら」と創設に向けて動き出すこととなった。

 新陽高校では新部の創設となると同好会から始めるのが通例だが、eスポーツ研究部はいきなり部として始動している。これは、既存のパソコン部が3年生1名と廃部寸前であったことから、関係者の許可を取って「名称変更」という形を取ったから。同好会では学校から予算が下りないが、部であればそれも可能だ。これによって、多少なりとも予算面での不安がなくなった。

 さらに、その時は学校のインターネット回線を有線から無線へと全面移行する直前だったそうだが、平中先生が根回しをして、現在eスポーツ研究部の活動場所となっているメディア室の有線回線だけは確保できた。11月締切だった「eスポーツ部 発足支援プログラム」の第1期募集にもギリギリ間に合い、すべてがタイミング良く立ち上がったそうだ。

メディア室にはMacがずらり。「LoL」も動くという

日本一を獲るために本気でぶつかり合う

 eスポーツ研究部は現在12名在籍しており、2年生中心と1年生中心の「LoL」5名チームが1つずつ、残りの2人は「フォートナイト」に取り組む日々を送っている。活動の中で特徴的なのは、倉本さんと合田さん率いる2年生「LoL」チームは、活動時間中のほとんどをミーティングに費やしていること。

 もともとゲームに関心の高い倉本さんと合田さんは、自宅に馴染みのあるゲーミングPC環境があり、他のチームメンバーは“学校で使用しなくなったが「LoL」が動作するPC”を学校から譲り受けている。全員が必ず集まる活動時間は戦略と今後の方針を確認する時間に費やし、実戦や特訓は帰宅後に自主練習する。勝つために何をどうすればいいか生徒自身で考えた結果、このスタイルにたどり着いたそうだ。

部長の合田朋生さん

 この「勝つため」という姿勢は、eスポーツ研究部の“研究部”というネーミングにも表れている。ただeスポーツをやるのではなく、eスポーツを研究し、成果を出すことも含めて活動する。「日本一に本気で挑戦する人の母校」というスローガンにも沿うのであれば、大命題となるのはやはり日本一の称号だ。そのためには何が課題で、どう解決していくか。

 “研究部”とすることにこだわったのは平中先生だが、これは課題解決に本気で取り組んだ経験は、その後の人生にも役立つはずという意味を込めたからだという。挑戦と実戦が校風である新陽高校らしさが、このネーミングひとつからも感じられる。

1年生が中心のチームは「LoL」をプレイ。連携を確認したり、迷ったら先輩に相談したり、日々研鑽を積んでいる
「フォートナイト」を練習する生徒もいた

 さらに、部長の合田さんに話を聞いていて面白かったのは、創設メンバーの合田さんと倉本さんはもともと「フォートナイト」プレーヤーで、eスポーツ研究部が始まるまで「LoL」は未経験だったということ。それがなぜ、今「LoL」に取り組んでいるかというと、これも平中先生の発案だったという。

 平中先生いわく、「フォートナイト」はより個人スキルが求められる競技であり、さらに小中学生から触れているプレーヤーが多数いる。一方で、小中学生から「LoL」をプレイしている人はそこまで多くないほか、個人スキル以上にチームとしての総合力が物を言うタイトルであるため、高校生大会であれば十分に勝てるチャンスがある。その狙いから、思い切って未経験でも「LoL」をメインのプレイタイトルにすると決めたそうだ。

 話を聞いていると、eスポーツ研究部創設の根回しや、ネーミング、勝てるタイトルの選定まで、平中先生自身がとても戦略家なことがわかってきた。本人にそのことを伝えると「いえいえ」と謙遜していたが、「でもやるからにはとことんですよ」と闘志をたぎらせているのが印象的だった。

1年生チームを見守る合田さん

 「LoL」2年生チームの目下の課題は、トップレーンの増強である。というのも、トップレーンを担当する武田海斗さんの動きにチームの勝利の行方がかかっているとわかってきたからだ。

 もともと武田さんはバスケ部との兼部メンバーであり、他メンバーのサモナーレベルが100をゆうに超えている中で78とかなり低め。チームを率いる倉本さんと合田さんも、以前はそこまでトップレーンを重要視しておらず、一番プレイ経験の浅い武田さんを担当に置いていた。

 が、さらに上を目指そうとなると、そうも言っていられないことがわかってきた。取材した日のミーティングは、初っ端から倉本さんが武田さんに檄を飛ばす形で前日の反省点と動きの確認、さらには中立モンスターとバフの関連性に至るまで、熱心に説明をしていた。

 作戦を十分に理解した上での動きと、指令が出てからの動きでは、どうしても若干の遅れが生じるし、場合によっては致命傷にもなる。このギャップを埋めるためにも、武田さん自身が「LoL」を細かいところまで理解して、チームの意思を指令よりもはやく体で感じ取る必要があるというわけだ。

マスクをしているのが倉本さん。菊池さんに説教に近い説明をしているところ
倉本さんの説明を受ける武田さん(右)。倉本さんの本気をしっかり受け止めている

 倉本さんの物言いは傍から見ていてかなりキツめなので、メンバーの関係性が悪くならないかと一瞬心配したのだが、チームメンバー全員が「チームが勝つために言っている」と理解しているため問題ないという。武田さんもただ従っているわけではなく、バスケ部を退部して「LoL」に取り組むことに決めたばかり。

 休部ではなく退部というあたりに武田さんの覚悟が垣間見える。真剣に意見をぶつけあいながら、一緒に高みを目指す仲間がいる高校生活には羨ましさすら感じられた。武田さんは、まずはサモナーレベル100に到達するまで特訓の日々を送ることをメンバーに約束している。

 そんな新陽高校「LoL」2年生チームは、8月に決勝大会が行なわれた「Coca-Cola STAGE:0 2019」で見事に北海道ブロックを勝ち抜き、「LoL」部門の決勝大会に出場している。全国大会の舞台に立てただけに「Stage:0」への思い入れは強く、来年の大会での優勝がはやくもメンバーの悲願となっている。

 目の前に迫った「第2回 全国高校eスポーツ選手権」では、新しい戦略を試すなど実験の場として使いつつ、さらには全国大会出場かそれ以上の成果を狙うようだ。

学校説明会では、eスポーツ研究部の見学希望者が20人ほどいた。それだけの人数が集まる部活は他になく、平中先生自身も中学生のeスポーツへの関心の高さに驚いたそうだ

 さらにeスポーツ研究部としては、来年度に“eスポーツ特待生”を獲得する動きもあるという。これも、平中先生の策略だ。タイトルは「フォートナイト」。学校説明会の中で大会実績のある生徒から「eスポーツでの推薦はないか」と質問が上がり、ここに平中先生が目をつけた。平中先生が狙うのは、特待生を入れることによる周りへの刺激と、eスポーツ研究部として最速手で狙うさらなる実績獲得だ。戦略家としての鋭い視点が、こうした新たな前例を作っていくのだろう。

 eスポーツで高みを目指す生徒と、したたかに下地を整える顧問。この両輪で、新陽高校eスポーツ研究部は日本一を本気で獲りにいく。今後の活躍がとても楽しみな高校だ。