【特別企画】

仙台育英高校は「LoL」ランク「ダイヤモンド」プレーヤーを擁し、“eスポーツの名門”を目指す!

前回「全国高校eスポーツ選手権」ベスト8。 人数も実力も充実するeスポーツ部が直面する悩みとは?

【第2回 全国高校eスポーツ選手権】

「リーグ・オブ・レジェンド」部門

オンライン予選:11月16日~17日、11月23日~24日

オフライン決勝:12月28日~29日

 全国に広がりつつある”eスポーツ部“の今を追う特別企画シリーズも今回で4校目となる。今回、それぞれ新たにeスポーツ活動を開始した新進気鋭の4校を取材した。山形県立酒田光陵高等学校、福岡県立八女工業高等学校、札幌新陽高等学校に続いてラストを飾るのは、宮城県にある仙台育英高校eスポーツ部である。

 仙台育英高校といえば、野球、サッカー、陸上をはじめ数々の強豪チームを持つ、言わずと知れたスポーツの名門校である。この情報だけを聞くと「あの仙台育英がeスポーツをスポーツとして捉え、動き出したのか」と考えたくなるものだが、その印象は半分当たっており、半分外れている。一体どういうことか。さっそくご紹介していきたい。

仙台育英学園高等学校 eスポーツ部

発足:2019年4月
人数:29名
競技種目:リーグ・オブ・レジェンド
部長:櫻井さん(2年生)

主な実績:
第1回全国高校eスポーツ選手権「リーグ・オブ・レジェンド」ベスト8
「STAGE:0」の東北ブロック予選 準優勝

eスポーツが文化になり、生徒に求められる日に向けて

 仙台育英高校は、宮城県仙台市にある私立高等学校だ。eスポーツ部がある宮城野キャンパスの最寄り駅はJR宮城野原駅で、ここはプロ野球球団、東北楽天ゴールデンイーグルスのホームである楽天生命パーク宮城の最寄り駅でもある。

 宮城野原駅の発車ベルには球団歌の「羽ばたけ楽天イーグルス」が採用されていたり、入り口のひとつはイーグルスカラーになっていたり、ほぼイーグルスに染まった駅と言える。仙台育英高校は楽天生命パーク宮城から見てほんの目と鼻の先の距離とかなり近く、生徒たちはトッププロチームの雰囲気を常に感じながら登下校をしているのかもとつい想像してしまう。

楽天イーグルスカラー(クリムゾンレッド)に染まった宮城野原駅入り口

 仙台育英高校がeスポーツの乗り出したのは2018年、「第1回 全国高校eスポーツ選手権」への出場だ。その前段となっているのは、茨城国体の文化プログラムとして「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」の開催が発表されたこと。

 仙台育英高校は学校として世間で高まるeスポーツの機運に注目し、今後はさらに「eスポーツに取り組みたい」と思う中学生が増えるだろうと予測。そうした生徒たちを仙台育英高校が積極的に受け入れる体制を整えるために、先んじてeスポーツ活動を始めることとした。

 活動を始めるにあたり、一番のネックとなったのはゲーミングPCを揃える予算の問題だったが、そこで飛び込んできたのが「第1回 全国高校eスポーツ選手権」開催とゲーミングPCを無償レンタルする「eスポーツ部発足支援プログラム」の発表だ。

 管理職からも「『eスポーツ部発足支援プログラム』を受けられるなら」という条件付きでの了承を取り、本格的に「リーグ・オブ・レジェンド」部門出場に狙いを定めたというわけだ。とはいえそれまではeスポーツ活動の影も形もなかったため、まずはIT関連の専門知識や技術を学んでいる「情報科学コース」の生徒から参加者を募った。

情報科学コース所属生徒が中心となりeスポーツ部の前身ができあがった

 つまり、まったくの実績ゼロ状態から活動が始まったということだが、驚くべきことに仙台育英高校は出場した「第1回 全国高校eスポーツ選手権」の「LoL」部門でいきなりベスト8の成績を収めている。

 仙台育英チームにとってラッキーだったのは、ひとつは募集段階で20人強といきなり多くの生徒を確保できたこと。そしてもうひとつは、その中にランク「ダイヤモンド」を持つ角張佑馬さん(当時1年生)を含む経験者がいたことだ。

 現在顧問を務める村上淳先生は、「特にダイヤモンドの生徒がいたことが大きかった」と振り返る。ランクでダイヤモンドといえば、プレーヤーの上位5%に入る相当な上級者。その経験や知識が練習にフルに活かされ、さらに留学生の「LoL」経験者もメンバーに加えることで「短い練習期間の中でチームとしての実力がかなり引き上がったのでは」と分析した。

eスポーツ部顧問の村上淳先生

 思いがけないスタートダッシュを決めた仙台育英高校は、その後2019年4月からeスポーツ部を正式に発足。先の「第1回 全国高校eスポーツ選手権」参加メンバーを中心に、新たに1年生を加えて日々eスポーツに取り組んでいる。人数は、現在兼部を含めて29名。「第2回 全国高校eスポーツ選手権」に向けては「LoL」部門で2チームがエントリーしている。

 村上先生が狙うのは「前回より上の成績」。つまりベスト4入りだ。「実際のところ、『学校でゲームなんて』という声が学校内でないわけではありません。私自身ゲームが好きですし、eスポーツはこれから文化になっていくものだと思います。それを証明し、『eスポーツはれっきとした部活だ』と生徒自身が胸を張って言えるように、紛れもない実績を重ねていってほしいのです」と村上先生は語った。

ゲーミングPC10台をフル活用してゲームに取り組む生徒

武者修行計画も! 仙台育英が狙う全国大会へのリベンジ

 仙台育英高校eスポーツ部は、現在PCが並ぶパソコン室で活動している。もともとインターネット環境のあるパソコン室の一角に「eスポーツ部発足支援プログラム」2期分にあたるゲーミングPC10台を並べ、ここを実質的な部室としている。

 一般的な部活は授業終わりの15時30分ごろから始まり、そこからおおよそ18時、遅い時は19時くらいまで活動するようなイメージだったが、仙台育英高校eスポーツ部は17時を目処に切り上げるようにしているという。

17時が過ぎるとPCの電源を落として早々に帰宅時間となる

 活動時間としては1時間をやや超えるくらいであり、「LoL」なら約2ゲーム分で終わることとなる。随分はやく切り上げるなと思ったのだが、これはもともと自宅でのチーム練習が主軸となっているから。仙台育英チームの場合、同じ練習なら自宅の方が集中できるというわけだ。

 後ろから眺めていると、とても和気あいあいと声を掛け合いながらプレイしており、メンバー関係がとても良好であることがわかる。「LoL」をプレイしていないメンバーは戦略などを話し合うなどして時間を過ごしており、遠くから見ているととても部活らしい。

 ダイヤモンドプレーヤーもいるし、「第1回 全国高校eスポーツ選手権」ベスト8の実績もあるし、さらに人数もいる。まさに実力も人数も順風満帆そうに見える
のだが、村上先生としてはそうでもないという。

 その懸念となっているのは、先日行なわれた高校対抗全国eスポーツ大会「STAGE:0」の東北ブロック予選で、角張さん率いるエースチームが同じ仙台市の仙台城南高等学校に敗れてしまっていることだ。「第1回 全国高校eスポーツ選手権」のベスト8から比べれば、かなりはやい段階での敗退となってしまっている。だからこそ、村上先生は「第2回 全国高校eスポーツ選手権」が真の実力を試す大事な挑戦だと位置づけている。

パソコン室に並んだPCたち。eスポーツ部のほかに、ICT技術を活用して表現活動を行なうICT部も活動している

 加えて、村上先生はその先を見据えた施策にも打って出た。それが月間大会「League of Legends TechnoBlood CUP2019」へ部として毎月参加することだ。「League of Legends TechnoBlood CUP2019」は、全国のeスポーツ施設で店舗予選を行なう、テクノブラッド主催による地域密着型の「LoL」大会。

 本大会の特徴は、大会が毎月開催されることと、そしてエントリーの自由度が高いことだ。「全国高校eスポーツ選手権」や「Stage: 0」に比べれば規模そのものは小さくなるが、月に1回という短いスパンで実践の場がやってくることで、モチベーション向上とそれに伴う練習の質向上が期待できる。

「League of Legends TechnoBlood CUP2019」について説明する村上先生

 エントリーの点では、5人1チームならそのまま、少ない人数なら他の参加者とチームを組んで挑戦することができる。ポイントは、本大会の参加条件がオープンであることから、敵としても味方としても大きな学びを得られるのではないかという期待だ。

 特に「味方が何をするか」を知る機会は貴重だ。たとえば、ADCとサポートのペアなら2人で参加、ジャングルなら1人で参加するとする。そこで仲間を組んだメンバーとコミュニケーションすれば、彼らがどんなことを考えてどんな連携をするかを身を以て体験できる。仙台育英チームのメンバーが武者修行のような形で猛者たちの中に飛び込むことになるし、そこで大会に参加するような一般プレーヤーとリアルに交流することになれば、あらゆる点で大きな刺激になり、また財産になっていくだろう。

 またもう一方で、副部長の吉川凜人さん(2年生)はeスポーツ部全体として「もっと細かく作戦を練った方がいいのでは」と感じているそうだ。筆者が話の中で、他の学校ではホワイトボードにサモナーズリフトの簡略図を描き、そこで動きなどを確認している例があると伝えると、「そういった細かい確認が今後は必要だと思う」と大きくうなずいた。

副部長の吉川凜人さん。とにかく「LoL」がやりたくて普段からウズウズしている状態だという

 吉川さんはエースチームではない2番手チームに所属しているが、以前に友人となった角川ドワンゴ学園 N高等学校(「Stage: 0」での優勝チームを輩出した「LoL」最強校)の生徒と積極的にコミュニケーションを取っている。吉川さんはN高の友人を「師匠」と呼んで「LoL」の戦略を学んでいるほか、実戦の中では「とにかく強いチームと当たってどんどん学びたい」と、モチベーションがすこぶる高い。

 吉川さんとしては、部全体の実力をより高める方法を実践したいと感じているものの、プレーヤーとしての実力差の関係で強く言い出せないところもあるという。実力に関係なく、チームが勝つためにいかに忌憚のない意見を交わせるかは、今後の仙台育英eスポーツ部の課題になってくるだろう。

 仙台育英高校のeスポーツ部を取材するにあたって、実のところリアルの方のスポーツ部との連動などの話が聞ければなと思っていたのだが、現時点では直接的な関連性はないという。ただ、生徒からは、練習に運動を取り入れることで何かしらプラスの効果が生まれないか、メンタルトレーニングのノウハウを取り入れたらどうかなど、仙台育英高校の豊富な財産を活かそうとする声が挙がってきているという。今はまだ未知の領域なのかもしれないが、スポーツの強みを活かした戦術が戦略が生まれてくるのであればとても興味深い。その時は、また改めて取材したいと思う。

こちらが仙台育英高校 宮城野キャンパスにある校舎。スポーツの名門から、eスポーツの伝説もぜひ作っていってもらいたい

 今回、「第2回 全国高校eスポーツ選手権」の「LoL」部門に出場する4校を取材してきたが、4校が4校とも、それぞれの方法でeスポーツに取り組んでいるのがとても興味深かった。手探りだったり、戦略的だったり、ひとつひとつの学校にまったく違うドラマがある。

 「LoL」部門に関しては先日、合計119チームによる予選組み合わせが発表されたばかり。この中には、当然取材してきた4校の名前も確認できる。

 個人的にはすでに思い入れどっぷりなのでどの学校も応援したい気持ちでいっぱいだが、ポイントは119チームの背景にすべてドラマがあるということだ。夏の風物詩となっている高校野球と同じように、高校eスポーツにあるドラマを追いかけることで、楽しさは何倍にも膨れ上がる。高校のeスポーツが“風物詩”と言われるような文化に育っていってほしいと、切に願いながら「第2回 全国高校eスポーツ選手権」を楽しみたいと思う。