インタビュー

「3D スーパーハングオン」特別インタビュー

ジャイロとムービング筐体が創り出す「新たな移植作への提言」

3月27日 配信開始

価格:600円

CEROレーティング:A(全年齢対象)

 セガは、ニンテンドー3DS用配信タイトル「3D スーパーハングオン」を3月27日より配信する。「3D スペースハリアー」で移植タイトルの新たな1歩を踏み出したといえる「3D復刻プロジェクト」第2弾となるこのタイトル。前回に続き、またもやセガにお邪魔して、セガの奥成洋輔氏、開発を担当したM2の堀井直樹氏にお話をお伺いすることができた。

――またまたお呼びいただいてありがとうございます!

奥成氏:「3D スペースハリアー」のインタビュー記事がとても好評とうかがいまして、それならもう一度やってみましょうかと(笑)。でもなぜあの記事が? ……ということも伺ってみたかったんです。例えば、先月配信開始した「ジェットセットラジオ」と比べても記事の反響では大きく違ってますよね。これはやはり堀井社長が出演されているおかげなのかな(笑)。

――対象になる年齢層など、いろいろな理由があると思うんですよ。それに、「3D スペースハリアー」は単なる移植ではなくて、立体視対応やムービング筐体モードがあって、昔遊んだ層にも新鮮に映ったり、難しかったと思っていた人にも立体視のおかげでわかりやすくなったことが、レトロゲーム移植版でよくある、「昔できていたことができなくなった」という、「現役体験世代にグサッと刺さる現実」をうまくかわしてくれたんじゃないかと。でもそういうとき、自分で難易度を下げたり、オプションを変更するのがちょっぴり悔しいんですよね。

奥成氏:「3D スペースハリアー」を作っているときには、「緩さ」というところを、どこに持っていくのか? というところはかなりいろいろ話をしました。

 実は「3D スペースハリアー」でM2さんと1番議論になったのは、隠しラスボスである「HAYA OH」をどうやって出現させるか? ということでしたね。最初は、どんな状態でも最後までプレイすれば出現するようになっていたんですよ。それだとサプライズがないので、条件をつけようと提案しまして。その条件でモメたのが、私が最初に提示した「全部通してコンティニュー3回でラストまでたどりつく」という今の出現条件の1つです。「途中セーブもあるし、いけるでしょう」と。それに対してM2さんはすごく抵抗して。「それじゃ、みんな出してくれません」と。

堀井氏:だって、「3分ゲーム遊んだら今日のゲームは終わり」って方もいっぱいいらっしゃるわけですよ。今は。

奥成氏:M2さんの提案は「最終面からスタートしてもノーミスでクリア」で、私は、それではいくらなんでもハードルが低すぎないかと言っていたんですが、結局両方の条件を入れることにしました。発売後の反響を見ていると、確かにお客さんの中には僕のように「もう少しハードルが高くてもよかった」という方もいらっしゃるんですが、大概の方は、最終面ノーミスクリアでようやく「HAYA OH」を出せたようで、このくらいのハードルがよかったのかなと。

堀井氏:僕らも昔だったらそうしてましたよ。プレーヤーとしての僕はやっぱり昔の様にスタートから気合い入れて最後まで遊んで欲しいんですよ。そこは変わらないわけで。ですが、電車の中で遊んでいたりすると、状況によってせっかく作ったのを見てもらえないし、夢のラスボスなわけですから。まずは見てもらってナンボ、なんですよ。

奥成氏:配信当日、いつ見つかるかツイッターを見ていたら、リリース後1~2時間ぐらいして「あー!」ってツイートがあって。どちらも面識のない方だったんですが、2人ぐらい叫んでました。その後、続々と遭遇するんですけど、みんな最初に呟いてから「これは今喋らないほうがいいんじゃないか」という気分になるらしく、「いつになったらしゃべっていいんだろう」というような空気になって、まるで「ヱヴァ」の劇場版を観に行ったあとみたいな感じの自主規制が入ってて。

堀井氏:その結束っぷりがいいですね。

奥成氏:そういうところを見ても、お客様は意識の高い人たちが揃ってらっしゃったのかなと。それでとにかく、どうやらそういう結束してくれた方々に前回のお話が好評だったようですので、8年かけた「スペースハリアー」ほどではないですが4年に渡る「3D スーパーハングオン」誕生に至る与太話を、お話させていただこうかと。

バーチャルコンソールアーケードからSEGA AGES ONLINEへのつながり
「勝手に」できていた「ハングオン」と、「スーパーハングオン」の立体視化

アーケード版「ハングオン」。1985年に登場した、セガ体感シリーズ第1弾のバイクレースゲーム。ままたがってプレイするライドオン、座ってハンドルのみを操作するシットダウンの2つのタイプがあった
アーケード版「スーパーハングオン」(ミニライドオン)
アーケード版「スーパーハングオン」(シットダウン)。1987年に登場。コースにアップダウンが追加。前作のコースはアジアコースに引き継がれ、全4種類のコースをプレイできる。「アウトラン」同様プレイ前にBGMが選択できた。左グリップ横にスーパーチャージャーが使用できるボタンが追加され、最高速は324km/hとなった。シットダウンタイプとミニライドオンタイプではアジア以外のコースが異なる。なお、「ハングオン」のライドオンのコンバージョンキットもあったようだが、出回りは少なかった
「バーチャルコンソール アーケード」版「スーパーハングオン」。ヌンチャクスタイルのプレイに対応。コースはミニライドオンタイプのみを収録
「SEGA AGES ONLINE」版「スーパーハングオン。コースはシットダウン/ミニライドオン両対応。3D立体視にも対応している

奥成氏:まず、話はWiiのバーチャルコンソール アーケード(VCA)の「スペースハリアー」を作ったところから始まります。リリース後しばらくして、何にも頼んでないのに、ある日M2さんが「『ハングオン』ができました!」って言ってきたんですね。「スペースハリアー」がヌンチャクでプレイできていたので、「これもヌンチャクでプレイできます」って。M2さんのところに行ったときに突然見せてもらったんです。

堀井氏:VCAは気合入れてやりたかったんですよ。セガのゲームは全部出す、という感じで。

奥成氏:「ハングオン」は、セガのアーキテクチャーのなかでもエポックなタイトルで、それまで「システム1」、「2」という8bitハードから、16bit基板になった最初のタイトルなんですね。後に「システム16」のコアになった部分が反映されたのが「ハングオン」なんです。「ハングオン」をさらに改良して作ったのが「スペースハリアー」のハリアーボードで、次に「システム16」で少しダウングレードして汎用化……という流れなんです。M2さんは「スペースハリアー」の基板ごと移植していたので、「ハングオン」と親和性が高かったんですね。

堀井氏:それなりに、ですけどね。

奥成氏:なので、ある日行ってみたらもう「ハングオン」ができていた。その時点で半分ほどできていたんです。ただ、もし実際に出すなら、今は使えないグラフィックの変更などまだまだやるべきことがたくさんある。それと「ハングオン」は地平線の上下も無くて、コースが左右に動くだけなので、普通に遊ぶだけだとかなり地味なんですね。ヌンチャクで遊んでもオリジナル版の面白さが再現できているとは思えなかった。そこで「『ハングオン』だけだとピンと来ないから、「『スーパーハングオン』とセットで、連続で出すということにすれば、歴史も伝わるし、会社も興味を持ってくれるかな」と。そういう話をしました。

堀井氏:されましたね。

奥成氏:結果的に紆余曲折があって、「ハングオン」は(会社に)通せなかったんですけれども、「スーパーハングオン」はGOが出て、VCAとしてリリースできました。でも、それだけじゃ、ただ減っちゃっただけなので……プレイステーション 3/Xbox 360でもリリースすることにしました。それで「SEGA AGES ONLINE」(SEGA AGES)が生まれたんですね。「SEGA AGES」は「ハングオン」の話がなかったら出ていなかったかもしれません。

――そういう経緯だったんですね。

奥成氏:こうして「スーパーハングオン」の開発を進めていたのですが、Wii版をリリースした後しばらくして、ある日見に行ってみたら、「『スーパーハングオン』を3Dにしました!」って。

堀井氏:当時、「任天堂さんが、ニンテンドーDSの後継機を出す」って話が出ていて、僕らは「絶対ないよね」って思っていた裸眼立体視ができるニンテンドー3DSが出てきて。その喜びに打ち震えて僕は赤青メガネ(※アナグリフ式立体視のためのメガネ)を取りに行くわけですよ(笑)。「スペースハリアー」もそうですけれども、もともと奥行き方向に対して進行するゲームは、3D立体視の表現にすごく合致するんですね。やってみたらこれが結構よかった。

――「勝手に」(笑)3D立体視に対応させたんですか?

堀井氏:僕らは当時3DSを触っていなかったので、「どうなるかを先に知りたい」という理由からですね。

――なぜ「スーパーハングオン」だったんですか?

堀井氏:奥行き方向に進行するゲームだったということもありますし、VCAで手がけた中にあったからということで、ちょうどよかったんですよ。それで3D立体視が面白くなって、大抵のゲームは餌食に……なってるわけですよ(笑)。

奥成氏:そのころ、ちょうどPS3が3D立体視に対応したこともあって、「予定にないな」って思ったんですけれども、確かにプレイしてみると楽しいんですね。

堀井氏:自分がクラッシュしてライダーが飛んでいくのが、それがなかなか……。

奥成氏:「3Dっていいなあ」って話になったんですね。それで、「これはこのままやりましょう」となって。結果的にPS3だけでなく、Xbox 360版も3D立体視化してリリースさせていただきました。

堀井氏:プラットフォーマーさんが規約を作ってくれれば、今のHD機、TVに出力する分には立体視にできるので。

ジャイロとムービング筐体モードを組み合わせることで実現した
「これでようやく、『体感筐体』の雰囲気が再現できたのではないかと」

4回目(?)の移植となる「3D スーパーハングオン」

奥成氏:ということをやりながら、「じゃあ、『スーパーハングオン』はもう3Dになっているんだから、これは3DSでも出しましょう」という話を私から持ちかけたんですね。WiiのVCAから、最初はまったく予定になかった3DS版まで話がつながっていくんですね。ここでようやく3DS版を作りましょう、という話になったんです。

堀井氏:「スーパーハングオン」の移植版全部を追っかけている人もそういないでしょうが、買っていただいてありがとうございます。

――(笑)。

奥成氏:第1弾として先に「スペースハリアー」を手がけることにしました。そして「3D スペースハリアー」を作ってもらっていたある日、例の「ムービング筐体モード」が入っていたんですね。M2さんのアイデアで「こうやったら楽しいんですよ」って。結果として「3D スペースハリアー」でお客さんにもっとも喜んでいただけた要素に、このムービング筐体があったんじゃないかなと。

堀井氏:間違いないです。

奥成氏:では、「『スーパーハングオン』はどうしよう?」と。当然、M2さんは「スーパーハングオン」にもムービング筐体モードを実装していました。ですけれども……それを見た私は、素で「なんでジャイロは入ってないんですか?」って言いました。酷いですね。もともとの予定にないのに(笑)。

堀井氏:いやーもうさー、ジャイロはさー、操作は良かったけど、当時、処理がメチャクチャ重かったんですよ。ジャイロを入れただけで60fpsが維持できない。「どうにかしてくれよ」っていう状態でした。「スペースハリアー」のときもムービング筐体を入れた当初は60fpsが維持できなくて、最後まで高速化を行なっていました。

奥成氏:だって、「スーパーハングオン」といったら、筐体を傾けてプレイするものじゃないですか。「何でジャイロに対応しないんですか? M2さんらしくない」っていう話をして。M2さんの内部的にはジャイロはすごく大変だったみたいなんですが、僕はそんなことを知らないので、とにかく「ジャイロに対応したい」って言ってたら、しばらくして……ジャイロに対応したものができてきたんですよ。そこはM2さんのミラクルなんですけれども。でも実は、ジャイロにしただけだと、プレイしてみるとそんなに面白くないんですよ。

――えー(笑)!

奥成氏:これまでもジャイロに対応しているゲームっていくつかあったと思うんですが、それでもジャイロで楽しんでいた人って、そう多くはなかったんじゃないかと。それはなぜかというと、「十字ボタンやスライドパッドで遊んだほうが、遊びやすい」から。そこで満を持して、「ムービング筐体モードとジャイロを組み合わせて、曲がったら画面の傾きをシンクロするようにしてくれ」って伝えたんですね。そうしたら、とても面白くなった。

堀井氏:画面の中にあるオブジェクトと、自分の動作が合致する面白さだよね。たぶん。

奥成氏:「3D スーパーハングオン」で、ジャイロとムービング筐体を組み合わせることによって、初めて「筐体を動かしている」感を再現できたんじゃないかと。

堀井氏:そりゃもうね。

奥成氏:当時を知っている人だとよくご存知だと思うのですが、セガの体感ゲームは、「筐体が動く」ものと、「筐体を動かす」ものが交互にリリースされていたんですね。前者が「スペースハリアー」、「アウトラン」、「アフターバーナー」、後者が「ハングオン」、「エンデューロレーサー」、「スーパーハングオン」です。

 だから「スペースハリアー」の次に出すなら、自分で筐体を動かす系だろうと思っていたのですが、この順番は正しかったですね。今回、ジャイロセンサーと画面のムービングをシンクロさせることで、この「自分で動かす」感覚の再現度をバツグンに感じていただけると思います。いろんな人にプレイしてもらったのですが、客観的に見ると、遊んでいる人は全然動いてないんですが、プレイしている本人は体をすごく動かしている感覚が出るんです。「3D スペースハリアー」のときは、ムービング筐体モードで画面が傾くことで、さも自分が「傾いているような感覚」だったんですが、「3D スーパーハングオン」では、ムービング筐体モードとジャイロの組み合わせで動かすことによって、とてもいい感じで「自分が傾けている感覚」が再現できた。これでようやく、「体感筐体」の雰囲気が再現できたのではないかと。

 「スーパーハングオン」はWii版を出すまでは移植作も少なくて(※メガドライブ、X68000など)、ゲームセンターに行ってなかった人にはマイナーな印象があると思います。しかもメガドライブ版はラインナップでも初期の頃で若干地味な感じで、X68000ではサイバースティック(アナログスティック)でプレイできましたが、その後はもうWiiのVCAなんですよね。サイバースティックやヌンチャク操作って、微妙な傾きを再現できてはいましたが、バイクを傾けるのとはちょっと違っていたんです。

堀井氏:奥成さんのおっしゃる通り、「スーパーハングオン」の再現という点において、「筐体に乗っている感」があるのは「3D スーパーハングオン」が1番じゃないかと思うんですが、話を順番に聞いていただいてわかるとおり、これは「たまたま」です(一同笑)。狙ってやってないから逆に悔しいんだよなー! ジャイロの話も、全部「こうすればこうなるから、こうしましょうよ」って全部先に考えた上で、ムービング筐体モードに組み込んで見せて「ほらね」ってなればいいんだけど、毎回悔しくてね……(笑)。

奥成氏:こうやってM2さんとキャッチボールすることで、面白いゲームが作れているのかなというところがありますね。「SEGA AGES」は、移植ゲームのクオリティとして非常に満足いくものが出せた、と思っているんですけれども、やはり、「当時遊べたものを、今そのまま遊ぶ」という部分において、それだけでは遊んでいただけるお客さんが減っているのかなという中、3DSでワンアイデアを追加していく方策はお客さんと相性がいいのかなという気がしますね。

堀井氏:持ち歩けるし、すぐにやめられますからね。

奥成氏:うん。

(佐伯憲司)