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【新春特別企画】初めて“元年”を突破した日本のeスポーツ。2019年は地方やアマチュア層も巻き込んで更なる大きなうねりへ
2019年1月7日 07:00
明けましておめでとうございます。2018年は日本のeスポーツ界にとって新たな歴史を刻んだ年となった。その勢いは年末まで休まることなく、いよいよ盛り上がる一方で、2019年はついに“eスポーツ元年の壁”を突破し、日本のeスポーツの歴史において初めてとなる“2年目”を迎えることになる。
2018年は日本のeスポーツの歴史においてどういう年だったのか、それを踏まえて2019年はどういう年になることが期待されるのか、新春特別企画としてまとめておきたい。
空前の盛り上がりとなった2018年の国内eスポーツシーン
まず、筆者から見た2018年のeスポーツシーンを振り返ると、「Age of Empires」や「Starcraft」がリリースされた1998年頃からeスポーツという存在を意識し始めてから20年あまりの中で、ダントツでeスポーツ関連の取材が多い年になった。
正直な所、実は元旦の時点から「今年はどうも違うぞ」という予感がしていた。筆者の2018年の“eスポーツ初め”はRIZeST Gamer's Baseの「2018年 福男決定戦!!」だった。第1回RIZeST Gamer's Baseは年末年始に掛けて行なわれ、正式サービスを開始したばかりの「PUBG」で100人マッチを行ない、ドン勝した福男がゲーミングPCを初めとした豪華賞品を総取りするという豪儀な企画。
「年始のこのタイミングに『PUBG』をやる人などいるのだろうか?」と思いきや、すぐに100人埋まり、元旦直後から大盛り上がりとなった。このときに、「PUBG」ブーム、バトルロイヤルブームは、一過性のものではないなと感じた。当時αリーグを開催していた「PUBG」は、2018年に「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS JAPAN SERIES(PJS)」として正式に立ち上がり、日本のeスポーツシーンを牽引する存在となった。
2月には日本のeスポーツ界に衝撃を与えたJeSU(一般社団法人日本eスポーツ連合)の発表が行なわれた。プロライセンスの発行や公認タイトルの認定、高額賞金付き大会の解禁など、枝葉の部分ばかりが注目されたが、もっとも重要なのは別々の方向を向いていた5つの団体がeスポーツの名の下に1つになったことだ。これによる日本が一丸となって世界に打って出る下地ができた。
その後は、読者の皆さんもご存知の通り、JeSU公認、非公認にかかわらず、様々なゲームタイトルで、eスポーツ大会、リーグ、そしてプロチームが立ち上がり、誇張ではなく毎週のように日本のどこかでeスポーツ大会が開かれるようになった。これまで「League of Legends」や「ストリートファイターV」のように特定のタイトルが日本のeスポーツシーンを賑わせたことはあったが、これほど大量かつ、同時多発的な展開は史上初めてといっても過言ではない。
筆者の取材先は国内だけではない。eスポーツの本場は今も昔も欧米だ。2018年も、オランダアムステルダムで開催された「ハースストーン」の世界大会「HCT 2017 World Championship」(参考記事)を皮切りに、ポーランド カトヴィツェのIntel Extreme Masters Katowice(参考記事)、オーストラリア シドニーのIntel Extreme Masters Sydney(参考記事)、中国上海のeXTREMESLAND(参考記事)、米国アナハイムのBlizzCon 2018(参考記事)などなど、世界中のメジャーなeスポーツイベントに参加することができた。
このほかに、純粋なゲームの取材としてTaipei Game ShowやE3、gamescom、そして東京ゲームショウなどをカバーしたが、どのイベントでも会場のどこかでeスポーツイベントが開かれ、大きな盛り上がりになっていた。国内外でeスポーツを取材していて実感したのは、eスポーツは国内だけで成長しているのではなく、グローバルでもいまだに成長を続けているということだ。これまではグローバルの動きと、日本の動きはほとんどリンクしていなかったが、ギアが少しずつ噛み合いつつあり、日本のeスポーツアスリートが世界に打って出る下地が整ったという印象だ。
印象的だった2018年のeスポーツシーン
次に、もう少し2018年の国内のeスポーツシーンを掘り下げてみたい。2018年の日本のeスポーツシーンは、単に規模、数、バリエーションの面で拡大したというだけでなく、ゲーム史という枠組みで革新的な出来事がいくつもあったように思う。2018年に筆者が取材したeスポーツイベントは優に50を超えるが、限られた取材機会の中で筆者が特に強い印象を覚えたのは以下の3点だ。
・PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS JAPAN SERIES(PJS)の正式スタート
単純に2017年のβ版の段階からその成長を見届けてきたため、思い入れが深いということもあるが、やはり20チーム80人(現在は16チーム64人)という前代未聞の規模でバトルロイヤルをeスポーツとして成立させたのは画期的といえる。
2017年中に何度か行なわれたエキシビションマッチでは、必ずしもうまくいってなかった。正式サービス直前の2017年11月に開催された「IEM Oakland 2017 PUBG Invitational」(参考記事)では、各チームとも無理な戦闘を避けてあまりにも消極的な戦いが繰り返されるため、「Counter-Strike: Global Offensive」に客を取られていたし、2018年2月に日本でスタートした「PJS αリーグ」も、キルよりもサバイバルに重きが置かれ、期待したほどの盛り上がりはなかった。eスポーツとして、序盤があまりにも淡泊で、筆者もαシリーズの段階ではバトルロイヤルをeスポーツとして成立させるのは難しいのではないかと思っていた。
ただ、ここで終わらなかったのが「PUBG」の凄いところだ。「PUBG」のβテストの世界的な成功を受けて、2017年9月にPUBG Corpが正式に設立され、正式サービスに向けて本始動すると同時に、国別のリーグや世界大会を主軸としたeスポーツにフォーカスしたタイトルとして軌道に乗せることが新たな目標として設定された。2018年7月に実施された初の公式世界大会「PUBG Global Invitational Berlin 2018」、10月にお膝元の韓国で開催されたプロリーグ「PUBG Korea League 2018 Season 2」において大胆にルールが改定され、スタート直後から銃撃戦が行なわれる積極的な展開に様変わりした。
この新ルールは日本では12月に行なわれた「PWI2018」で初採用されたが、結果としては大成功だったように思う。ドン勝に対して、キルのウェイトが高いこと、それに比してダウン自体はポイント無しなど、まだアンバランスな点は残っており、今後も引き続きルール変更は行なわれていくと思うが、なにより魅力的なeスポーツとして成立させるために大胆にルールを変え続けていくという運営側の意思が素晴らしいと思う。2019年の展開にも注目したいところだ。
・全国高校eスポーツ選手権
2つ目は、毎日新聞社とサードウェーブが今年からスタートさせた「全国高校eスポーツ選手権」だ(参考記事)。7月に開催、12月に予選、3月に本戦と非常に慌ただしいスケジュールだったにも関わらず、初年度から150校以上が参加。12月には「League of Legends」と「ロケットリーグ」の2種目で熱い予選が繰り広げられた。3月には幕張メッセを会場にオフラインで上位4校による本大会が開催される予定で、史上初となるeスポーツの高校選手権の行方に注目が集まるところだ。
毎日新聞社としては選抜高校野球、全国高校ラグビーに続く高校生を対象としたチャンピオンシップで、PCメーカーとしてもっともeスポーツ事業に熱心なサードウェーブとタッグを組み、お互いの強みを活かす形で短期間での実施にこぎ着けた。
とりわけユニークな施策だったのは、環境のない高校でも参加できるようにゲーミングPC「GALLERIA」およびBenQのゲーミングモニターを5人分、3年間無償で貸し出す「eスポーツ部 発足支援プログラム」だ。年度の途中で、部室を用意したり、顧問を設置することは意外とハードルが高く、先着100校に対して、応募は78校に留まったが、すでに第2回大会の開催も発表されており、2019年はさらに高い注目を集めそうだ。
弊誌では、予選直前に、強豪校のひとつである岡山共生高校に取材を行ない、その模様をレポートした(参考記事)。ゲームが、そしてeスポーツが、学校教育科目のひとつとして認められ、部活動として活用されるなど、少子化に悩む地方校の“学校おこし”にも活用されていることがわかり、想像以上に多くの学びがあった。学校教育の現場におけるeスポーツ部の取り組みはまだ始まったばかりだが、世界に羽ばたく“超高校級”のeスポーツアスリートの誕生に期待したい。
・「モンスターストライク」のeスポーツ化
筆者にとって2018年最後のeスポーツ観戦となった12月29日の「モンスターストライク プロフェッショナルズ2018 トーナメントツアーファイナル」。8チームによるトーナメントツアーの上位4チームが出場できる最終戦で、10月から行なわれていた全国ツアーを最終戦でようやく観戦することができたが、想像の何倍も凄かった。
20年近くeスポーツに携わっていると、“eスポーツと言えばPC”という固定観念がどこかにできてしまっているが、そういうものを軽く吹き飛ばすインパクトがあった。オフライン大会としては500人ほどのキャパシティでそれほど大きくなかったが、オンラインの視聴者はなんと7万人を突破し、とんでもない盛り上がりを見せていた。日本ではオンライン配信の視聴者が1万人集まれば良い方で、「LoL」の世界大会ですら4万4,000人だということを考えると、ずば抜けて多い。これが大ヒットしたモバイルゲームの力、ユーザー母数の違いなのだろう。
そしてもっとも驚いたのは、競技内容だ。チーム同士で直接対決を行なうPvPではなく、ボスバトルをチームごとに攻略し、そのタイムを競うというPvEをeスポーツ競技として採用しているのだ。いかにも日本らしい発想と言えるが、この日本ならではの“eスポーツの再発明”には心底驚いた。PvEがeスポーツになるのであれば、すべてのゲームがeスポーツになりうる。今後、日本からどのようなeスポーツが生まれるのか、楽しみでならない。
ちなみに、この「モンスターストライク プロフェッショナルズ2018 トーナメントツアー」は、「League of Legends」のRiot Gamesで「League of Legends Japan League(LJL)」を手がけたスタッフが数多く参加しており、「LJL」のノウハウがかなり注ぎ込まれている。10月開始、12月終了という急ごしらえだったにも関わらず、大成功を収めたのもその影響が大だ。同ツアーは、2019年も行なわれるということなので、eスポーツファンはぜひ注目して欲しい。
2019年の国内eスポーツシーンに期待すること
2018年の日本国内でのeスポーツの盛り上がりを受け、2019年はどういう年になることが予想されるのか。筆者個人の希望的観測を交えながら3点ほど挙げてみたい。
・地方の盛り上がり
日本各地でeスポーツイベントを取材していて感じたのは、eスポーツは、アーティストのコンサートや各種フェスティバルと同様に、人を集められるコンテンツだということだ。しかも、主催者にとっては喉から手が出るほどほしい若者やファミリー層が集められる。2018年は、こうした事実を、プロチームやスポンサーなどのeスポーツ関係者のみならず、地方のイベント運営団体や地方自治体も気づき始めた。
これを受けて2019年は東京のみならず地方でもeスポーツイベントの誘致がより積極的になるだろうし、eスポーツを主体としたイベントがより増えることが予想される。地方にとっては集客でき、地方のファンにとってはトッププレーヤーのプレイを間近で観る機会が増え、選手達にとっては活躍の場が増す。まさにWin-Winだ。
印象的だったのは12月に神戸市で行なわれた第2回RIZeST Gamer's Base(参考記事)だ。第2回RIZeST Gamer's Baseは、初の地方開催ということもあり、12月に入るまであまり告知をしていなかった。これでは人は集まらないのではないかと思いきや、当日は地元神戸のゲームファンをはじめ、京阪神から訪れたゲームファンでいっぱいになった。
集客に尽力したのは、RIZeST Gamer's Baseを神戸に誘致した神戸市だ。「初のeスポーツの誘致に成功した」というやや大げさなプレスリリースを出し、それが新聞やラジオなどを通じて広がったことで集客に結びついたのではないかという。担当者は予想以上の来場者に驚いていた様子で、「神戸はイベントに飢えている」という言葉が印象的だった。
神戸市としては、これを一過性の取り組みで終わらせるのではなく、神戸市のテーマである“若者に選ばれる街”になるために、eスポーツを使った街おこしを続けていきたいという。具体的な計画はまだないものの、毎年ゴールデンウィークに開催しているクロスメディアイベント「078」にeスポーツを取り入れたり、将来的にはeスポーツの世界大会の誘致も検討していきたいという。こうした動きが全国で広がれば、eスポーツは今とは比較にならないぐらい拡大するだろう。2019年は地方の動きに注目したい。
・アマチュアシーンの拡大
eスポーツ先進国と言われる欧米や韓国、中国と、日本との大きな違いは、肥沃なアマチュア層の有無だ。eスポーツ先進国では、学生大会やゲーミングカフェによるアマチュア大会が頻繁に開かれており、競技としてeスポーツに取り組むアマチュア層が存在する。日本はまだプロに対する待遇改善や環境整備の段階で、アマチュア層まで目配りできていない。2019年はそろそろアマチュアの育成を意識し始めても良い段階だと思う。
国内で著名なアマチュア大会と言えば「Logicool G CUP」(参考記事だ。“プロへの登竜門”をテーマに、ロジクール主催で「League of Legends」を競技種目に2014年より行なわれており、ここから「LJL」に出場するプロ選手も育っている。2019年はこうしたアマチュア大会が、様々なタイトルで爆発的に増えることが期待される。
注目されるのは、第74回国民体育大会(いきいき茨城ゆめ国体)と同時平行して文化プログラムとして行なわれる「全国都道府県対抗eスポーツ選手権 2019 IBARAKI」だ。「ウイニングイレブン 2019」に加え、「グランツーリスモSPORT」、「ぷよぷよeスポーツ」の3タイトルが正式な競技種目と決まり、4月以降に予選、10月4日に本大会が行なわれる。
国体同様、都道府県対抗で行なわれ、各都道府県の名誉を賭けてeスポーツに挑むという未だかつていない座組がおもしろい。各都道府県としてもみっともない負け方はしないように真剣に取り組むだろうし、その過程でアマチュア大会も増えてくるだろう。プロはプロで素晴らしいが、アマチュアはアマチュアでならではの魅力がある。2019年は、アマチュア層の拡大、アマチュア大会の充実に期待したい。
・オフライン大会の充実
やはり最終的にeスポーツの行き着く先はここになると思う。2018年もIEM Katowiceや、Overwatch World Cupといった大規模なeスポーツイベントを取材したが、まだ日本にはこのレベルの万単位の来場者を集め、数十万人の視聴者を集めるようなeスポーツイベントは開催できていない。質、量の両面で、まだまだ日本は立ち後れているのが実情だ。
スポーツと同様、eスポーツもオフラインで観戦した方が何倍も楽しいし、何よりゲームの競技を“eスポーツ”と呼ぶ理由がわかるはずだ。eスポーツはオンライン試聴と相性が良いため、オンライン観戦を否定するつもりはないが、やはりeスポーツの感動と興奮は、オフラインに勝るものはない。
eスポーツの発展に必要不可欠なのは、魅力的なeスポーツアスリートと、良質なeスポーツイベント、この両輪だ。eスポーツアスリートについては、JeSUの尽力によりプロゲーマーの存在が世に知られるようになり、eスポーツをテーマにしたTV番組も増えたため、プロを目指す若者は確実に増え、絶対数も倍加したように思う。足りないのは、彼らの活躍の場となるeスポーツイベントだ。
eスポーツイベントを増やすのは簡単なことではないが、ひとつ朗報と言えるのは、現場レベルでは、これまでTV番組の制作を手がけてきた人材が、eスポーツイベントに携わるようになってきており、イベント運営の質は飛躍的に向上しつつあるという。見せ方の面で巧いなと思うeスポーツイベントが増えてきているが、その背景にはそうした事情もあるようだ。
また、イベントそのものが少ないことで育ちようがなかったeスポーツ観戦カルチャーについても、2018年はよりリラックスして観戦できるようにアルコールの提供や、VIPシートの設置、選手席シートの新設など、欧米の観戦カルチャーを強く意識したスタイルのイベントが増えてきた。
国内プロリーグの代表格である「LJL」も、2019年はよしもとクリエイティブ・エージェンシー、プレイブレーンと提携し、オフライン体験を拡大させる。「PUBG」のプロリーグ「PJS」も、オフライン大会「PWI2018」の成功を受けて、オフライン大会の機会を増やす方針だ。先述した「モンスト」についても、2019年2月の闘会議においてジュニア(3歳以上18歳未満)向けの大会を開催するとしている。
ここで挙げた内容は、すでに欧米では実現されていることで、実現して当然の未来と言える。現時点では国内のeスポーツイベントはまだスポンサー頼りだが、興行として成立するようになれば、お金を払ってeスポーツ観戦を楽しむという、欧米ではメジャーなeスポーツの楽しみ方が、日本でも当たり前になるかもしれない。そうした未来がやってくることを期待しながら今年もeスポーツ取材に臨みたいと思う。