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TGSフォーラム基調講演「eスポーツが“スポーツ”として広がるためのロードマップ」が開催
「ストリートファイターを国技に!」。見えてきた日本発のeスポーツ戦略
2018年9月21日 00:35
東京ゲームショウと併催という形で行なわれるカンファレンスプログラム「TGSフォーラム」。毎年初日に行なわれる基調講演では、その年のトレンドに則ったテーマで特別セッションが行なわれるが、今年もeスポーツとなった。CESAとして目下最大のテーマは依然として“eスポーツ”ということになる。
昨年は、海外から識者を集め、海外での事例を日本に紹介するものだったのに対し、今年は設立1年目の日本eスポーツ連合(JeSU)会長の岡村秀樹氏を筆頭に、主に国内でeスポーツビジネスに携わる経験者が登壇し、現在の取り組みと将来の展望が語られた。
海外からは、今年、アジア競技大会のeスポーツ部門を成功させたAESF(Asian Electronic Sports Federation)から会長のケネス・フォック氏、そしてリアルスポーツの中でもっともeスポーツとの連携に積極的な日本サッカー協会(JFA)からも副会長の岩上和道氏が参加するなど、多彩な顔ぶれが揃った。
一騎当千の5人を集め、果たして90分で終わるのかと思われたが、予想通り、予定を30分近くオーバーし、なおも議題半ば、まだまだ語り尽くせないという印象だったが、日本発のeスポーツの取り組みの最前線と、それらを束ねるJeSUのビジョン、そして宿願であるリアルスポーツとの融合、すなわちスポーツ化、その遙か先にあるオリンピック競技化に向けた道筋まで、eスポーツに関わる様々な論点が見えてきた基調講演だった。約2時間の長丁場に渡る講演となったため、本稿では中でも重要だと思われる要素についてかいつまんで紹介したい。
最初に基調講演に先んじてCESA会長の早川英樹氏が挨拶を行なった。早川氏は今年5月にCESA会長に就任したばかりで、会長就任後の初の東京ゲームショウとなる。早川氏はやや緊張した面持ちで、国内外のゲーム市場の拡大傾向や、依然として旺盛なゲームに対する潜在需要の高さなどを手短かに報告した上で、ゲームとeスポーツとの親和性の高さについて多くの時間を割いて説明した。
早川氏は、「競技に対して、選手/指導者、ファン/サポーター、メディアという3者構造が生まれるのはスポーツと何ら変わりはない」とeスポーツのスポーツとの類似性について改めて言及。CESAが岡村氏から早川氏にバトンタッチした際、CESAのeスポーツに対する向き合い方がどうなるのかが注目されたが、岡村体制下の方針を全面継承しつつ、さらに発展させていくという基本方針が明確となった。
これは考えてみれば当然の話だ。競技振興を目的に活動する団体としてのJeSUの特異性は、競技団体ではなく、業界団体であるところだ。理事に、有識者や(現/元)選手、(現/元)指導者、審判、医者などが含まれておらず、JeSUを構成する5つの団体の出身者で埋められている。ゲーム業界側の意思が圧倒的に、一方的に通りやすい状況にある。
ただ、CESAとJeSUが偉いと思うのは、そうした状況下であえてJFA岩上氏を招き、JFAの状況と取り組みを語ってもらうことで、相対的にJeSUが競技振興を目的に活動する団体としていかに不完全で、不十分な状態にあることを客観的に示したことだ。
JFAは1921年に設立され、100年近い歴史を持つ。関連組織には、FIFA(国際サッカー連盟)とIOC(国際オリンピック委員会)を頂点に、AFC(アジアサッカー連盟)やOCA(アジアオリンピック評議会)を挟む形で、日本唯一の統一団体としてJFAがあり、その中に、男子、女子、フットサル、ビーチサッカー、キッズ、インクルーシブなど様々な区分けがあり、JFAの下部組織として9つのリージョン、全国47都道府県にそれぞれ支部があり、さらにその下に無数の加盟チームがいるという壮大な組織ピラミッドが形成されている。こういうものを目の前に突きつけられると、その違いは圧倒的で、eスポーツはまだ何もかも足りないという気持ちになる。
その一方で、サッカーは少子高齢化、遊び/スポーツの多様化により、競技人口、感染者人口が、Jリーグ設立当時のように右肩上がりではない状況に陥っており、新たな魅力的なカンフル剤を必要としている。それがeスポーツだ。JFAとしてeスポーツへの取り組みは実はJeSU設立より前の2016年11月で、eサッカー事業を設立することが理事会で決定している。
ただ、このときは決まっただけでそれ以上の進展はなかったようだが、2018年に入り、3月から5月に掛けて、初の公式eスポーツ大会「明治安田生命eJ.LEAGUE」を開催。eスポーツがJFAの公式活動のひとつとして扱われている。
岩上氏は、「我々はサッカーを好きになる人を増やしたい。それがリアルスポーツなのかeスポーツなのかはどうでもいい。体力的にキツいからゲームをやるでもいいし、大事なのは最終的にサッカーファンを増やすこと。eスポーツが盛んになってくれることがありがたい」と語る。
筆者も、いくつかの取材を通じて、スポーツの視点からeスポーツを見るようになって気づいたのは、スポーツ業界にとってこの上ない“宝”である子供達がほぼ100%夢中になり、国内外で30年に渡って成長し続けている産業はゲームだけだということだ。一方、リアルスポーツには、eスポーツに足りないあらゆるノウハウ、経験値がふんだんにあり、この両者の融合は、スポーツ産業にとって明るい未来に繋がると思う。
岡本氏も「サッカー協会は素晴らしいしっかりとした組織で、ビジネスも含めてしっかりとした構造を持っている。100年の歴史の中にはたくさんの試行錯誤があったはずで、日本の社会に根付くためには時間が必要。積み重ねがチャンスを生み出す。社会からの理解を深めて、協力が得られるような環境作りをしていくことが重要。ただ、事故になるので急ぎすぎてはいけない、ただし100年は掛からないだろう」とJFAに最大限のリスペクトを示す形で、“eスポーツ100年の計”を語っていた。
そしてeスポーツがスポーツと本質的に異なるポイントの1つが競技種目が特定のメーカーのIPであることだ。スポーツの種目は、極端に言えば競技者がいなくなっても所轄団体が困るだけだが、ゲームの場合は会社が潰れてしまう。メーカーのeスポーツ担当者は常にeスポーツタイトルを振興させ続けなければならない使命を担っている。
今回は、国内のeスポーツタイトルの中から長い歴史と経験を持つカプコンの「ストリートファイター」シリーズと、コナミの「ウイニングイレブン」シリーズの最新事例が語られた。
eスポーツ歴でずば抜けて古いのはカプコンだ。1992年に両国国技館で行なわれた「ストリートファイターII Turbo」の全国大会が最初で、現在に至るまで、主催、共催、協力様々な形で「ストリートファイター」シリーズを用いたeスポーツビジネスをグローバル規模で展開している。
ユニークなのは、ただ単に大会を実施するだけでなく、どのようにやり、どのように視聴者を捕まえるかに腐心しているところだ。「ストリートファイター」シリーズは、格闘ゲーム界では名実共に頂点に君臨するタイトルだが、eスポーツタイトルとしては、まだ頂点とは言えない状況にあり、海外eスポーツタイトルと激しい競争の波にさらされている。日本発のeスポーツタイトルとして、国際的な競争力を高めるために、地道な努力の積み重ねが続けられているのだ。
具体的な取り組みとしては、個人戦である「ストリートファイターV」に、選手同士のストーリー性を加味すべくチーム戦を実施したり、新規ユーザーの獲得と、新たなスター選手の発掘のために全国6カ所でキャラバンを実施したりしている。この基調講演では“草の根”、“グラスルーツ”という言葉が繰り返し語られていたが、現場レベルでは、eスポーツを万人向けのスポーツとして成長させるためには、いかに新規ユーザーを獲得し、いかに視聴者を獲得するかが重要だと考えられていることが伝わってきた。
これに対してコナミは、eスポーツとして「ウイニングイレブン」に加え、「実況パワフルプロ野球」、「遊戯王」などを擁し、バリエーション豊かだ。森田氏が制作を担当する「ウイイレ」については、1995年から現在まででグローバルで1億本のセールスを達成するほど世界中で愛されているタイトル。eスポーツとしての取り組みは2001年からスタートして今年で18年目となる。個人戦のみならず、新たに2対2のアジアトーナメントなど変則的な種目も取り入れながら、eスポーツタイトルとして磨きを掛けている。
コナミとしては、世界での圧倒的な知名度と、スポーツの王様であるサッカーのゲームであることを活かし、eスポーツ大会の公式種目となることを第一目標に掲げて活動している。その大きな成果のひとつが、今年行なわれたアジア競技大会での公式種目化で、見事日本人選手が金メダルに輝くなど、大成功を収めた。次のターゲットは茨城国体で、コナミは47都道府県での予選も含めてスポンサーとして全面協力し、“日本の国技化”を狙っていく。
両社の事例でわかるのは、カプコン、コナミ共にアプローチは異なるものの、草の根レベルで競技人口を増やし、競技として魅力を高めようという姿勢は同じというところだ。ただ、メーカーレベルではやれることに自ずと限界がある。今回、登壇者全員がeスポーツの課題として挙げた要素に「選手の質と量の拡大」があるが、この点JeSUとしてはどう考えているのだろうか?
岡村氏は、「eスポーツを目指す人、アスリートをどのようにして育てていくか、その環境整備をいかに整えるか、これが一番重要なこと」と語る。続けて「日本にとってはオフラインの対戦機会が少ない。カプコンさんやコナミさんが昔から取り組んできているが、それでもまだ少ない」とした上で、「JeSUの視点からは、良質なeスポーツタイトルに対して興味を持って貰い、アスリートとなることを目指して貰い、そこで切磋琢磨しうる環境整備を整えていくことが喫緊の課題。それがあって初めて観戦者も増える」と語り、JeSUとして今後“公式な練習施設”を整備していく考えを明らかにした。
岡村氏のプランが、LFS池袋のような既存の施設との提携なのか、文科省が管轄する味の素ナショナルトレーニングセンターのようなトップレベルの競技者向けのトレーニング施設を新設する計画なのかは不明だが、この考え自体は世界的にも珍しく、今後の動向に注目していきたいところだ。
最後に、タイトルにも使った「ストリートファイターを国技に!」という言葉は、議論半ばでタイムスケジュールを大幅に超過し、少しずつ退席者が目立ち始めて来た中で、カプコン荒木氏が将来の目標として唐突に放ったワンフレーズだ。あまりにも想定外のフレーズが飛び出したため、会場がわずかにどよめいたほどだが、日本のeスポーツが目指す方向性として非常にキャッチーで面白いと思う。個人的には、「eスポーツをオリンピック競技に」という競技者視点不在のまま、一方的に決められている茫漠とした目標よりも、ずっと現実的で、ずっとユーザーの立ち位置に近くて素晴らしいと思う。
ただ、国技というものは、自称すればそれで確定するというものではなく、世界中から認めて貰う必要があり、そのためには国技と言うに相応しい圧倒的な強さ、層の厚さ、それに加えて、世界への普及活動の両輪が噛み合わなければならない。これもまた1メーカーですべて担えるものではなく、JeSUの協力が必要不可欠になってくる。JeSUが今後、名実共に競技団体にゆるやかに移行していくにあたり、こうした“重点競技”の扱いをどのようにしていくのか、議論を深めていく必要があるだろう。
今回の基調講演では、日本のeスポーツが目指している方向性が少しだけ明らかになったという手応えを持った。とりわけ、JeSU設立とタイミングを合わせてCESA会長を離れ、JeSU会長専任となった岡村氏の取り組みには注目したいところで、JeSUの力でeスポーツが徐々に一般化していく、当たり前の存在になっていく、そういう流れができてくることに期待したいところだ。