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IEM Katowice 2018のメインイベント「CSGO」World Championshipが開催
7時間超の熱戦は史上空前の盛り上がりに。様々な伝説が生まれ、フルゲームの末にFnaticが初の栄冠
2018年3月6日 01:01
世界最大規模のeスポーツ大会「Intel Extreme Masters Katowice(IEM Katowice) 2018」が現地時間の3月4日、最終日を迎え、「Counter-Strike: Global Offensive(CSGO)」の世界大会「CSGO」World Championshipグランドファイナルが開催された。
グランドファイナルは、世界ランク1位で、本大会でも圧倒的な強さで勝ち上がってきた常勝軍団FaZe Clan(ヨーロッパ)と、そのFaZe Clanに予選リーグで唯一土を付けたFnatic(スウェーデン)の一戦となり、7時間超の激戦の末、わずかな差でFnaticの勝利となった。
それにしても凄い試合だった。BO5でフルゲームまでもつれ込み、最終ゲームは延長に突入。アメリカの朝に合わせて現地時間の17時に試合が始まり、終わったのは24時を過ぎていた。今回、このグランドファイナルを観戦するために日本からドーハ、ワルシャワ経由で、24時間以上かけてこの地を訪れたが、わざわざ来た甲斐があったと思えた歴史的な1戦だった。
会場となったSpodek Arenaは、「CSGO」の世界一が決まる瞬間をこの目で見ようと開始前から超満員で、階段を含めて立錐の余地もない。客層は、いわゆるコアゲーマーやeスポーツファンだけでなく、子供や家族連れ、女性の姿も目立つ。Twitchの視聴者は、英語のメイン放送だけで30万人を突破。とにかく凄まじい賑わいに「CSGO」の日本で人気の低さを知っている筆者からすると、これは果たして現実なのか信じられないほどだ。筆者も世界各地のIEMの大会や、メーカー主催の大会を観戦してきたが、過去最大級の盛り上がりといっていい。
何より参加者は、“eスポーツ観戦の楽しみ方”を熟知しており、大声援のみならず、応援歌、ウェーブ、手拍子、ジャンプ、横断幕、スマートフォンのライトなどを駆使して応援する。それが試合中か、インターバルかに関わらず、常に全力で応援しており、極めて騒々しい。この地では日本のように静かに観戦することは諦めなければならない。
また、今回IEM Katowiceに初参加して、ひとつ意外に感じたのはFaZeの人気振りだ。FaZeは、ヨーロッパの様々なチームからエースを引き抜いてドリームチームを結成した新参チームだ。IEMでは、2017年5月のSydney、11月のOakland、そして2018年3月のKatowiceと3回連続で決勝に勝ち進んでいる。まさに「CSGO」界の常勝軍団だが、Sydney、Oaklandでは、常に声援は対戦相手におくられ、圧倒的なヒールだった。“小憎らしいほど強い”というのが彼らの基本的なポジションだと思っていたが、ところがKatowiceでは、筆者が把握している限り、すべての試合においてFaZeに対する声援の方が大きかった。
クォーターファイナルを戦ったCloud9は米国チームだからFaZeを応援したくなる気持ちはわかるが、セミファイナルのAstralisはデンマーク、Fnaticもスウェーデンといずれもヨーロッパのチームだ。FaZeは、デンマーク、スウェーデン、スロヴァキア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ノルウェーとメンバーの国籍がすべて異なり、ヨーロッパ連合らしいところがEU圏のポーランドeスポーツファンの琴線に触れるのかもしれない。
ところで、筆者自身はFaZeの優勝をかなり早い段階で確信していた。3月2日のCloud9戦は、BO3でフルゲーム、しかも3ゲーム目は3度も延長するという大接戦で、爆弾を解除すればCloud9の勝利という局面で、敵が爆弾解除に手を掛けた一瞬の隙を突いてGuardiaN選手が壁抜きスナイプを決めて、そこから大逆転勝利を果たした。続くセミファイナルでも、予選リーグ無敗のAstralisを2:0(16:10、16:10)で難なく撃破。グランドファイナルの対戦相手Fnaticは、昨年はメジャー大会の勝ち星に恵まれておらず、2017年7月よりスタートした「Intel Grand Slum」の対象大会でまだ勝ち星が挙げられていない。ましてや完全ホーム状態のFaZeが負ける要素はないと思っていた。
ただ、本大会の予選リーグでFaZeに唯一土を付けたのがFnaticでもあり、勝者としてのプライドと、雪辱に燃えるエネルギーがぶつかり合い、非常にエキサイティングな試合になるのは間違いないと思っていた。まさかフルゲーム、しかも延長までもつれ込む長丁場になるとはまでは予測できなかったが、実に150ラウンド以上に渡る熱戦を存分に堪能することができた。
試合の流れは、1ゲーム目はFaZeが16:5という一方的な展開で勝利し、幸先の良いスタートを切ったが、2ゲーム目を延長で20:22で落としてからは最後まで波に乗りきれず、勝ちが手からこぼれ落ちてしまったという印象だった。勝てるチャンスはたくさんあったが、取るべきところで取れず、流れを引き戻せなかった。
「CSGO」は、30ラウンドの中でお金を貯めて武器を買い、武器で敵を倒して16ラウンドを先取した方が勝ち、という独自のマネーシステムを採用したFPSだ。最初はお金がないため、お互いハンドガンのみで戦い、収入に応じて武器をアップグレードし、投げものやアーマーを買いそろえていく。勝てば収入が増え、負ければ収入が下がるため、勝った方はますます有利に、負けた方はますます不利になる。これが永続すると一方的な展開になってしまうため、この収入格差をシステム的に是正するために、連敗数に応じて敗者側の収入が増える仕組みになっており、5連敗すると勝者も敗者も収入が変わらなくなる。こうしたことから「CSGO」は先勝した方が4つないし5つの単位でラウンドを積み上げていく、というのが基本的なセオリーだ。
ところが、IEM Katowiceに出場するようなトップチームは、このセオリーが通用しない。1つ取っても連勝を許さず、総力を挙げて積極的に取り返していく。武器の差やマップによる有利不利を戦術でカバーする形で、お金を貯めるために武器購入をセーブするエコラウンドでも、数的優位による奇襲やセットプレイで勝利をものにしていく。どんな状況でも爆弾設置まで持っていき、チャンスがあればピストルキル、ナイフキルを狙っていく。その勝利への執念は観客を魅了する。
両チームは、実力的にはほぼ互角で、毎週のように世界各地で対戦しているため、相手の戦術はお互い知り尽くしている。知り尽くしているからこそできるブラインドショットで、見えない相手にヘッドショットを決めたり、相手の到着時間を見計らって正確にグレネードを投げたり、完全に相手の裏をかいてナイフで倒したりなど、見るものを飽きさせない展開が続く。
戦術の起点となるのは“投げもの”だ。トッププレーヤーはこの投げものの使い方が非常にうまい。スモークグレネードは、数的優位を凌ぐために防衛用に使うだけでなく、相手の“検問”を突破する目的でも使われる。スモークを炊き、タイミングをずらして、一気に突入する。フラッシュグレネードはカウンター用に投入されるもので、不利な状況から一発逆転を決めると大盛り上がりだ。焼夷グレネード/火炎瓶は、牽制用というイメージが強いが、以前より威力が上がったためか、彼らは壁の反射を利用して、隠れる相手を積極的に燃やしていく使い方が多かった。
そして本大会でも様々な選手がスーパープレイを魅せてくれた。FaZe最強のアサルターであるNiko選手、対するFnaticのflusha選手は、毎回のように2人抜き、3人抜きを決めて試合を盛り上げてくれたし、FaZeリーダーのKarrigan選手は回り込んでの側面からの攻撃が芸術的にうまかった。試合結果に関わらず、トップ選手のスーパープレイの感動を大勢の観客と共有できるのが、eスポーツ観戦最大の醍醐味だ。
そして本大会のMVPといえる活躍をみせてくれたのは、FaZeのGuardiaN選手だ。eスポーツアスリートらしからぬ柔和な表情で、大きなおでこと人なつっこい笑顔が特徴的な選手だが、ひとたびスナイパーライフルを手にすると、常に正確なスナイプでゲームを支配する。
極めつけは、グランドファイナルの第2ゲーム、9ラウンド目だ。2:6で迎え、1対5、残るはGuardiaN選手のみという圧倒的に不利な状況。スナイパーは複数に寄られると対処しきれないため、数的優位を作られて敗北は確実かと思われたが、GuardiaN選手はまず1人をスナイパーライフルで撃破すると、位置を把握して近寄ってきた相手にまとめてフラッシュグレネードを決め、目潰しした相手に次々にスナイプを決めていった。最後5人目も理想的な待ち伏せ撃ちでヘッドショットで決め、まさかのスナイパーライフルでの5人抜きを達成。「CSGO」界に新たな歴史を刻んだ。こういうプレイがリアルタイムで見られるからeスポーツ観戦はたまらなくおもしろい。
さて、7時間超の長丁場となった「CSGO」World Championshipだが、グランドファイナルのみBO5で、5ゲーム目はde_trainとなった。このマップは、構造上、CT(カウンターテロリスト)サイドが有利で、お互いにとって戦術が組み立てにくいため、国際大会では敬遠されることが多い。一方で、初代「CS」から存在するマップのひとつで「CS」ファンにとっては馴染みが深く、「CS」の世界一を決めるには相応しいマップとも言える。
T(テロリスト)サイドでスタートしたFaZeは、不利な状況をものともせず、水際立った立ち回りとスモークグレネードの活用によって一気に車庫に侵入し、乱戦をものともせず爆弾設置まで持っていく。T側不利の定石を覆す、凄い戦い方だ。FaZeは前半を8:7と上々のスコアで折り返し、有利な状況で後半戦を迎えた。
筆者はこの時点でFaZeが勝ったと思ったが、Fnaticもまったく譲らず、flusha選手、fw選手の大活躍もあり、FaZeに主導権を渡さない。FaZeと同じようにスモークグレネードを駆使して車庫に侵入して、爆弾を設置し、そのまま超接近戦に持ち込んでいく。このtrainは爆弾設置に成功すると、攻守が入れ替わり、T側が爆弾解除に来るCT側を有利なポジションから待てるようになる。トップチーム同士の対戦では、爆弾設置まで織り込んで有利不利が逆転しているのかもしれない。
結局、後半戦はFnaticが8:7で勝ち越し、15:15となり延長戦に突入したが、FaZeは最後まで流れに乗りきれず、そのまま17:19で敗北。IEM Katowice 2018の覇者はFnaticとなった。
7時間の観戦はさすがに疲れたが、観客は23時を回ってもほとんど帰らず、応援し続ける熱意には驚かされた。その一方で、クォーターファイナルやセミファイナルでは、勝敗が確定的になった時点で席を立つ人が多く、「CSGO」に精通しているファンが多いと感じた。
「CSGO」の観戦システムもますます進化しており、敵の位置や投げものの軌跡がシルエットで見えるだけでなく、新たに武器の射線がレーザーのように常に見えるようになっており、俯瞰視点でも各選手がどこを狙っているのかが正確に分かるようになっている。また、リプレイにスローモーションも取り入れられ、エイミングの速さや、リコイルコントロールのうまさがじっくり把握できるようになっているなど、今回30万人超を数えたオンライン観戦は、スタンダードな観戦スタイルのひとつとして今後も盛り上がっていくと思う。
ただ、こうしたスタジアムでの、数千、数万の観客との一体感のある応援や、スーパープレイの感動の共有、地響きが続くかのような盛り上がりというのは、現地に行かなければ判らない部分であり、多くのeスポーツファンに味わって貰いたいと思う。今後日本でも同じような大会が開催されることを期待したいし、その盛り上がりによってはじめて日本もeスポーツが定着していくのではないかと思う。
最後に、日本でも「CSGO」コミュニティが徐々に盛り上がりを見せつつあることをお知らせしておきたい。2017年、日本の主要な「CSGO」大会を総なめにしたSCARZ Absoluteは、活躍の場をアジアに広げており、アジア最大規模の「CSGO」大会「World Electronic Sports Games(WESG)2017」への参戦が決まっている。
「WESG2017」予選リーグでは、SCARZ Abusoluteが入るグループに、幸か不幸かIEM Katowiceでも活躍したCloud9、そして優勝したFnaticが入っており、厳しい戦いが予想される。逆に言えば、世界最高のチームと戦う権利を得たわけで、ぜひSCARZ Absoluteの善戦に期待したいところだ。
そのSCARZ Absoluteは、日本の「CSGO」コミュニティ発展のために独自の「CSGO」大会「SCARZ CUP」を主催しており、その第1回が3月3日に開かれたばかりだ。この記事あるいやTwitchの配信を通じて「CSGO」に興味を持ったというゲームファンは、ぜひこの機会に「CSGO」を始めてみてはいかがだろうか?