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eスポーツの祭典「IEM Sydney 2018」、FaZeが圧倒的な強さでIEM初の栄冠
アジアの新鋭BnTeT選手の挑戦を退ける。100万ドルのIntel Grand Slamに向けて加速へ
2018年5月7日 17:14
インテル主催のeスポーツトーナメント「Intel Extreme Masters Sydney 2018(IEM Sydney 2018)」のグランドファイナルが5月6日、オーストラリアシドニーのQudos Bank Arenaにて開催された。決勝カードは、4月のDreamHack Masters Marseille 2018で優勝し、現在HLTV世界ランク1位のAstralis(デンマーク)と、IEMの常連で、Niko、GuardiaN、rainなどのスター選手を擁する常勝軍団FaZeとの1戦となり、FaZeが3:0でAstralisを破り、IEM初優勝を遂げた。
筆者は、IEMを1年前のIEM Sydney 2017から現地観戦しているが、FaZeは常に優勝候補の筆頭であり、必ず決勝の舞台に立ち続けてきたのを会場で見届けてきた。FaZeは、2016年から本格的に活動をはじめ、選手、コーチを全員ヨーロッパのトップチームからエースを引き抜く形でドリームチームを結成。設立直後から、いきなりトップチームの仲間入りを果たし、数々の栄冠を奪取してきたが、2年あまりのチームの歴史で唯一勝てなかったのがこのIEMだ。調べて見ると、IEM Katowice 2016の8位を皮切りに、IEM Oakland 2016は4位、IEM Katowice 2017からIEM Katowice 2018までずっと2位が続いている。つまりずっと決勝で敗れ続けてきたわけだ。
これは実はIEM的には、一番おいしいストーリーだ。なぜなら、FaZeはそうした設立経緯から、eスポーツ界随一の金満プロチームとして基本的にヒール役だからだ。新参にも関わらず呆れるほどに強いFaZeに対して、SK Gamingやfnatic、mousesports、Natus Vincereといった歴史と伝統のある欧米のプロチームが立ち向かうという構図が出来上がっている。そのFaZeを決勝で倒すわけだから、eスポーツイベントとしては最高に盛り上がるわけだ。
ちなみに、唯一事情が異なったのはポーランドカトヴィツェで開催されたIEM Katowiceだ。IEM Katowiceは、年間1位を決めるワールドチャンピオンシップが開催され、賞金額も高く設定され、Twitchの視聴者は50万人を超える最大級のeスポーツイベントだ。ここでは意外にも圧倒的にFaZeファンが多かった。“ヨーロッパチーム”として全盛期のレアル・マドリードを応援するような感覚なのかなと感じたが、FaZeは“ホーム”状態だったにも関わらず、そこでも勝てず、“最強の2位”の座に甘んじていたのだ。
というわけで、IEM Sydneyの筆者の注目は最初から「FaZeが優勝するかどうか」だけだった。予選トーナメントで、Renegades(オーストラリア、世界ランク16位)に1:2で敗れた以外は、Grayhound(オーストラリア、世界ランク37位)、Cloud 9(米国、世界ランク6位)、fnatic(スウェーデン、世界ランク3位)にいずれも2:0で快勝した。
FaZeの不安要素は、fnaticから移籍したスウェーデンのolofmeister選手が今年3月に個人の都合による活動休止を発表し、代わりにNinjas in Pyjamasから同じくスウェーデンのXizt選手を急遽迎え入れたことだ。“「CS」最強人種”であるスウェーデン人の間での人事異動とも言えなくもないが、「CS:GO」では選手の入れ替えによって、まったく戦術が噛み合わなくなり、失速するということが少なくない。IEM Sydney 2018で言えば、SK GamingやCloud9はまさにそのパターンだと思う。
Xizt選手は果たしてどうだったかというと、IEM Oakland 2017で優勝したNinjas in Pyjamasのエースだっただけに、いきなりのオフライン大会だったにも関わらず最低限の仕事は果たしていたという印象だ。「CS」コミュニティでパフォーマンスの悪い選手に浴びせられがちな「Xiztはクビにすべき」という暴論は出てこないと思う。
そしてFaZeの試合で個人的にもっとも注目していたのは、準決勝のTyloo戦だ。Tylooは「Counter-Strike 1.6」の時代から活動している中国の名門チームで、アジアでは常に優勝か、それに準ずる成績を残し、IEMやDreamHack、ELEAGUEなどの世界の主要な「CS:GO」大会にアジア予選を勝ち抜いて出場し、アジア最強の座を欲しいままにしている。
このTylooがユニークなのは、リーダー兼エースのポジションが中国人でなくインドネシア人であるところだ。2017年3月にそのBnTeT選手が加入してからは、Tylooは破竹の快進撃が続いており、IEM Sydney 2018の予選トーナメントでも、16チームの全選手中トップのパフォーマンスで、Tylooの予選トーナメント1位突破に大きく貢献した。この若いアジアのエースが、FaZeの猛者たちにどれぐらい通用するのか、ひょっとして大物食いもあるのかどうかに注目していた。
準決勝では、TylooのエースBnTeT選手は、リーダーポジションの中央に鎮座し、鋭い表情で、左右の中国人選手に檄を飛ばしていた。もともとTylooは、国籍にこだわらず、海外から選手を招致してきた歴史を持つチームだが、5人中2人がインドネシア人で、リーダーもインドネシア人というのは非常に先進的と言える。果たして今の日本のチームに、こういう選手起用ができるだろうか? とも思うし、日本以上に参加機会が与えられないであろうインドネシアのようなeスポーツ後進国の選手がこうした形でeスポーツドリームを叶えるのは素晴らしいことだと思う。それと同時に日本人選手にも実力次第でこういうキャリアパスが存在しうるのだなということを気づかせてくれる。
さて、試合の方は、前半こそ2ゲーム目までBnTeT選手が実力を発揮し、何度もラウンドMVPを獲得する活躍を見せてくれたが、第3ゲームはFaZe側が意図的に潰しにかかり、完全に失速。エースにも関わらずK/Dが1.0を切る不甲斐ない内容で1:2で終戦となった。
「CS:GO」は、選手毎にだいたいのポジションが決まっており、パフォーマンスの良い選手に対しては、戦力を集中させて潰し、流れを変えるということをよくする。1対1なら勝てなくても多対1の状況を作り、1対1でできないようなセットプレイで潰すわけだ。後半、BnTeT選手は繰り返し首をかしげ、予選トーナメントのようなパフォーマンスが発揮できないことにフラストレーションを溜めている様子だったが、まさに世界トップチームの洗礼を受けた感じで、この敗戦の悔しさをバネに更なる飛躍を期待したいところだ。
ちなみにHLTVが発表したIEM Sydney 2018の個人成績では、BnTeT選手は予選トーナメントの好成績のおかげで、全選手中2位という堂々の結果を残した。本大会でMVPを獲得したFaZeのGuardiaN選手や、FaZeのエースであるNiko選手を上回る成績で、名実共に世界を代表する選手の1人と言える。
そして個人成績1位の記録を残したのがFaZeと決勝戦を戦ったAstralisのエースMagisk選手だ。FaZeは決勝戦においてMagisk選手を最後まで止めきれず、いいようにやられてしまっていた。Magisk選手のようなエースがもうひとり居れば勝者はAstralisだったと思う。
最終的にFaZeが勝利したのは、「IEMに勝ちたい!」という勝利への執念と、勝つべきところでエースがしっかり活躍したからだ。1ゲーム目のCache、2ゲーム目のOverpass共に延長戦を制したところもそうだし、もっとも印象的だったのは3ゲーム目のTrainだ。
Trainはマップバランスが悪いため、NukeやDustと並んで選択されないマップの1つになっている。T(Terrorists)サイドは、爆弾を設置するためには車庫に侵入しなければならないが、CT(Counter Terrorists)サイドはそのすべての侵入路を容易に塞ぐことができるからだ。よっぽどの実力差や、戦術的なポカがない限り、Tサイドで勝ち越すのは難しく、常にCTサイドが勝利するというワンサイドゲームになる。
この決勝戦においても、もう1ゲーム勝てばFaZeが優勝という局面にも関わらず、CTサイドのAstralisが10:0まで押し込んだ。あまりの一方的な展開に会場からは「16:0! 16:0!」コールが巻き起こる。実際には15ラウンドで攻守交代なので、15:0になっても、今度はFaZeがラウンドを取りまくる展開になるため、16:0というのはありえないのだが、そうなりそうだと思わせるぐらい一方的な展開になったのだ。逆に言えば、こうなるからTrainはつまらないのである。
ターニングポイントは11ラウンド目。このままFaZeの0行進が続くかと思われた場面で、世界最高峰のスナイパーであるFaZeのGuardiaN選手がギリギリのところで踏みとどまり、1対1を制してこのラウンドを取った。「このTrainを勝つためには15:0でいくしかない」と考えていたはずのAstralisは、ここで焦ってしまった。もともとFaZeは、爆弾設置が早いチームだ。多くのチームが時間をたっぷり使い、タイムアップギリギリに設置して、ゲームをコントロールするのに対して、FaZeは設置できる最速のタイミングで爆弾を設置し、露骨に圧力を掛ける戦術が多い。
FaZeは12ラウンド目以降、投げものを多用して一気に侵入し、残存兵力で設置した爆弾を死守するという死に物狂いの作戦で4ラウンドを取り、前半戦を11:4で折り返した。数字の上ではAstralisが圧倒しているが、この時点でFaZeの優勝は確定したといっていい。
満を持してFaZeがCTサイドに回った後半戦は、まさに“GuardiaNスナイプショー”と化した。普段はアサルターだがスナイパーもできるスーパーエースのNiko選手もスナイパーライフルを持ち、スナイパー2人体制で、車庫にやってくるAstralis勢をつるべ打ちにしていく。侵入路付近には、rain、Xiztの2名を配置し、固まって侵入するAstralis勢をアサルトライフルでなぎ倒していく。「CS:GO」に途中投了が認められていれば、完全に「gg(Good Game)」な展開だ。
それでもAstralisはさすが世界ランク1位というべき強さだった。手を替え品を替え様々なセットプレイで波状攻撃を掛けていく。少なからず「作戦“俺”」的な側面があるFaZeと比較すると、戦術の豊富さは比べられないほどで、そこに突破力のあるMagisk選手が車庫内に乱入して、スモークやフラッシュバンが入り乱れる乱戦を制していく。
FaZeはMagisk選手らが車庫を制するとスッと引き、武器温存に務めた。このあたりが試合巧者なところで、14ラウンドまで、つまりあと3つは負けてもいいとばかりに武器温存のためだけに2つ簡単に取らせた。スナイパーライフルが1本あればどのラウンドでも勝てるからだ。結局、AstralisがTサイドで実力で取ったのはわずか1ラウンドのみ。気づけば14:14だ。
お互いフル装備で臨む次の29ラウンド目が事実上の最終決戦となった。盤石の態勢で待ち構えるFaZeに対して、Astralisはギリギリまで時間を潰し、残り数十秒からの一点突破にかけたが、それを予期していたNiko選手らになぎ倒され万事休す。普段はクールなNiko選手が本大会で初めてガッツポーズを繰り出し、勝利の雄叫びをあげた。
個人的には、このTrainは、11ラウンド目のGuardiaN選手の粘りが勝敗を分けたと思う。3ゲームを通して暴れ回ったGuardiaN選手はK/D(キル/デス)が90/65、ADR(Average Damage per Round)が86.1という10人中トップのパフォーマンスで優勝に大きく貢献し、大会MVPにも選出された。IEM Katowiceでもfnaticとの決勝戦で、1対5の状況から、fnaticの猛者を相手に5連続スナイプキルという偉業を達成したが、やはり彼は“神”としか言いようが無い。
これでFaZeは、Intel Grand Slam対象大会において2勝目を記録した。Intel Grand Slamは、インテルがスポンサードする賞金20万ドル以上の国際大会を対象に、10試合で4勝すれば、その大会の賞金とは別に、100万ドル(約1億900万円)を贈るというジャックポットプログラムだ。
現在1勝しているのはAstralisをはじめ4チーム、これまで2勝してるのはSKだけだったが、SKは1勝目を挙げてから7試合が経過しており、残り3試合で2勝する必要があり、達成は厳しい状況にある。今回の勝利によりFaZeが100万ドルに一番近いポジションに着けたといっても良さそうだ。FaZeが今後の大会で3勝目を挙げ、グランドスラムに王手が掛かると、今度はFaZeを倒したチームに対して、グランドスラムを阻止した報酬として10万ドル(約1,090万円)が与えられる。FaZeが3勝目を挙げると、どのような盛り上がりを見せるのか、グランドスラムを達成したら、世間がどのような反応を示すのか、今から楽しみでたまらない。IEMおよび「CS:GO」の2018年の盛り上がりに引き続き注目していきたいところだ。