ニュース
BlizzCon 2018 eスポーツイベント観戦レポート
eスポーツでも“アジアの時代”鮮明に。「Starcraft II」決勝戦の予想外のドラマに感動
2018年11月5日 09:46
BlizzCon 2018があっという間に2日間の会期を終え、幕を閉じた。今年のBlizzConもすこぶる楽しかった。メディアにとってBlizzConは大変疲れるイベントだ。カバーしきれないほどの多くのイベントが同時多発的に発生するし、容赦なく長い列に並ばされるし、新規コンテンツのアナウンスメントやインタビューもたっぷりあるため、eスポーツ観戦で疲れた体にむち打って夜中まで原稿を書かなければならないからだ。
にもかかわらず、BlizzConは終わった直後に「また参加したい!」と強く思わせてくれるイベントだ。その魔法の力はどこから来るかというと、やはりコミュニティの熱意と、eスポーツイベントの楽しさ、この2つを直接肌で感じられるところだ。
BlizzConの参加者達は、開場の何時間も前から並んでいるし、開発者との交流イベントは長い長い行列ができる。イベントが終わってからも夜中まで外で騒いでいるし、いきなり数百人規模のマーロックが出現したり、コスプレーヤーの数の多さや、その完成度もハンパなく高い。こういうとてつもなく濃い空間に身を置けるのがゲームファンの1人としてとても幸せだ。
eスポーツに関しても世界大会クラスの大規模な大会が5つ同時平行して行なわれるというのは、数多くのeスポーツタイトルを擁するBlizzardならではで、それぞれに数千人の観客が熱心な歓声を送り、とりわけ決勝戦の盛り上がりは凄まじいものがある。実際、日本からも「HEARTHSTONE WORLD」のMCを務めるゲーム配信者のせんとす氏や、元ゲームメディアのスタッフなど、どうしても参加したいからアメリカまで自費で来たという話をいくつも聞いた。BlizzConとはかくも魅力的なゲームイベントなのだ。
筆者は会期2日目、日本展開している「ハースストーン」と「オーバーウォッチ」、そして個人的に好きな「Starcraft II」の決勝戦をハシゴした。BlizzConで行なわれる各タイトルの決勝戦は微妙に時間をずらしており、会場移動のコツを掴めば、ほぼすべての決勝戦をライブで観戦することができるのだ。
さて、今回筆者は「ハースストーン」、「オーバーウォッチ」、「Starcraft II」の順番で観戦を楽しんだ。どのタイトルも韓国、中国など、アジア勢の躍進が目立ち、eスポーツにおいても“アジアの時代”が到来しつつあることを強く感じた。その輪の中に日本勢が入れていないのは残念なことだが、アジアが強いということは、日本もより強くなれるチャンスがあるということでもあり、今後の躍進に期待している。
さて、「ハースストーン」は、年明けの世界大会への出場権を賭けて世界中を転戦する世界選手権「Hearthstone Championship Tour(HCT)」ではなく、「Hearthstone Global Games(HGG)」と呼ばれる国別対抗戦の決勝トーナメントが開催された。
HCTの合間を縫って7月から予選が開始され、11月のBlizzConまで4カ月に渡って戦いが繰り広げられた。国や地域ごとのトッププレーヤーがチームを組んで、国や地域を代表して戦うということでHCTとはまた違ったおもしろさがある。
4人1チームで、常に4人で意見を出し合ってプレイするため、ターンごとにいくつもの選択肢がある中で、異なる意見をどう集約するか、誰をリーダーに立てるかなど、HGGならではの観戦の楽しさがあり、HGGは「ハースストーン」eスポーツにとって欠かせない存在になりつつある。
決勝カードは、中国対ブラジルというBRICS同士の対決となった。中でもブラジルは予選を6勝0敗という圧倒的な成績で勝ち上がり、今大会の台風の目となった。その後のグループステージやプレイオフでも4勝1敗という素晴らしい成績で決勝まで勝ち上がってきたが、最後の最後に中国の厚い壁に阻まれた。
中国は、国単独で独立したリージョンを構成していることから、常にHCTの出場権を確保しており、絶えずオフラインイベントの経験を積める有利な立場にある。ただ、ここ数年、真の意味で実力も付けてきており、HCTのトリを飾る世界大会「2017 Hearthstone World Championship」でも2人が出場したほどだ。
決勝戦は、クエストメイジで大魔術師アントニダスの無限ファイアボールコンボが決まるなど、かなり運にも恵まれていた印象だが、見ている限りではとにかくチームワークが良く、統一した指揮のもとで戦術を考えられていたのが勝因だと感じた。優勝賞金は5万ドル(約560万円)。この勢いが「2018 Hearthstone World Championship」でも続くかどうかに注目したい。
お次は「オーバーウォッチ」だ。「オーバーウォッチ」も「ハースストーン」同様、「Overwatch League」ではなく、国別対抗戦「Overwatch World Cup」が開催された。「オーバーウォッチ」については、「オーバーウォッチ」ファンならご存じの通り、韓国では「Starcraft」に次ぐ“国技”となっており、「Overwatch League」には130名中59名の選手を送り込んでおり、この「Overwatch World Cup」では2連覇を達成中。他を寄せ付けない圧倒的な強さであらゆる大会を支配しているのが現状だ。
このため優勝がどこになるかというのは、「Starcraft II」の優勝国を予想するぐらいたやすいことになっている(とはいえ今年は20年の歴史で初めて予想が外れたが)ため、注目はどこが韓国を苦しめ、どこが決勝に勝ち上がってくるかに絞られた。
決勝トーナメントでは、昨年、準決勝で韓国を苦しめ、勝利まであと一歩のところまで追い詰めた米国が、準々決勝で英国に敗れて早々に姿を消し、初日の時点で韓国の独走態勢に入った。その英国は、選手全員が「Overwatch League」に参加しているプロチームということもあり、韓国を相手に善戦し、「Overwatch World Cup」を大いに盛り上げてくれた。
そして決勝まで勝ち上がってきたのは中国だった。中国もまた3年連続で決勝トーナメントに出場している強豪だが、2016年、2017年共に、準々決勝止まりだった。「Overwatch League」2019年シーズンでは、従来の上海に加えて、成都、杭州、広州の3チームを加え、中国から4チームが出場することが決定していることもあり、かなり実力を付けてきている印象だ。
ほぼ定刻通りにスタートした決勝戦は、予想通りというか、予想以上に韓国のワンサイドゲームに終わった。韓国と中国にはまだ明らかにかなりの実力差がある印象で、韓国勢の牙城はまだしばらくは揺るがなそうだという確信を持った。大会MVPは、ヒーラーのゼニヤッタを操りつつ、アタッカー顔負けのダメージを稼いでいた韓国JjoNak選手。
JjoNak選手は、チーム全員が韓国人で構成されたNew York Excelsiorのエース。
New York Excelsiorは、「Overwatch League」においてレギュラーシーズンをほぼ1位で終え、「Overwatch World Cup」でも8名中4名の代表を韓国チームに送り込んでいるという「オーバーウォッチ」の韓国支配を象徴するようなチームだ。「Overwatch World Cup」においても「Overwatch League」を彷彿とさせるチームワークで、決勝トーナメント全試合を0封の完全勝利で優勝。「オーバーウォッチ」における韓国旋風はまだまだ続きそうだ。
そして最後に観戦したのが「Starcraft II」だ。「Starcraft II」は、純粋な世界大会「2018 StarCraft II World Championship Series」が開催された。ただ、そのプレイオフへの出場枠の設定は非常に独特で、16名中8名は、世界で唯一プロリーグが存在する韓国に与えられている。残り8枠を巡ってその他の国や地域の選手達がWCS Circitと呼ばれる大会に参加し、優勝あるいは稼いだポイント数によって出場権を獲得するというスタイルを採る。
一見、不平等も甚だしいレギュレーションだが、Blizzardがeスポーツの分野で最初の成功を収めたのが「Starcraft」であり、その成功に大きく貢献し、社会現象まで巻き起こしたのが韓国だ。両者の関係性は特別なものがある。「Starcraft」は韓国ではまさに国技扱いで、筆者も当時のことをよく覚えているが、2003年にソウルで開催されたeスポーツ大会World Cyber Gamesでは、エキシビションマッチで、当時ソウル市長を務めていた李明博元大統領が「Starcraft」をプレイしたほどだ。
そしてなんといっても韓国勢は有無を言わせないほど強い。1998年の初代「Starcraft」のサービス開始から現在まで、Blizzard主催の世界大会ではずっと韓国勢が世界チャンピオンに輝いてきた。今年も最終日の準決勝まで勝ち進んだのは、4名中3名が韓国選手で、その中には、昨年度優勝したディフェンディングチャンピオンであり、IEM Katowice 2018でも優勝したRogue選手と、WCSを2013年と2015年の2度制覇し、IEMでも世界一に輝いたレジェンドsOs選手が勝ち上がってきており、決勝はこの両者の対決になると思っていた。
ところが筆者の予想は完全に外れていた。「Overwatch League」の韓国の完全優勝と優勝セレモニーを見届けてアリーナを飛び出した後、「Starcraft II」ステージの手前にあったライブモニターを見ると、韓国Stats選手とフィンランドSerral選手が戦っており、Serral選手がBO7の3:0で優勝に手を掛けている! まったく予想していなかった展開だ!
「Starcraft II」ステージは、「オーバーウォッチ」の観客も詰めかけたためか超満員で、異様な熱気に包まれていた。それはそうだろう、20年続いた歴史がまさに今塗り替えられようとしているのだから。Serral選手のナイスプレイが飛び出すと、その度に大きな歓声が沸く。Stats選手は完全にアウェイだ。韓国人選手達はこのような環境で20年勝ち続けてきたのかと思うと、今更ながらに彼らはとんでもない偉業を成し遂げてきたのだなとただただ感心させられてしまう。
Stats選手は、会場の期待とは裏腹にその後2つ取り返し、2:3で迎えた6ゲーム目。ゲームが中盤に差し掛かったところで大きく試合が動く。飛行部隊編成のタイミングで、Stats選手が操るマザーシップが、Serral選手が操るザーグの飛行ユニットによって引きつけを食らい破壊されてしまったのだ。その後も細かいミスが続き、リソース量と戦力差に大きな開きが生まれてしまった。絶体絶命のピンチだ。
現在主流のMOBAの源流であるリアルタイムストラテジー(RTS)は、個人戦が基本であり、軍団編成の過程での細かい指捌きの積み重ねが後半大きな差となって現われてくる。「Starcraft II」は良くも悪くも20世紀に誕生した「Starcraft」のクラシックなゲームデザインをそのまま引き継いでおり、一旦差が付くと、基本的に挽回する術はない。拠点の消失というのは、軍団ひとつを丸々失うような致命的なミスであり、普通であれば投了してもおかしくない曲面だ。しかし、なぜかStats選手は投了しない。
そればかりか、あたかもまだ勝機が残されているような立ち回りで、再度戦線を整え、攻勢を掛けていく。しかし、いかんせん多勢に無勢で、残る部隊や拠点が次々にザーグの大軍に押しつぶされていく。その姿は、0対10、9回裏でショートゴロをヘッドスライディングでファーストベースに飛び込む高校球児を見るようであり、勝ち負けを超越したeスポーツアスリートとしての生き様を見せる戦いぶりにすっかり感動してしまった。これぞeスポーツ観戦の醍醐味といっていい。
そしてついにStats選手が投了し、Serral選手の優勝が確定すると、会場はBlizzCon 2018で一番の大歓声が巻き起こり、Serral選手はその衝動に突き動かされるようにステージ中央に駆け寄り、トロフィーを高々と頭上に掲げた。欧米勢として韓国勢からトロフィーを奪還するという宿願が20年越しで実現した瞬間だった。Blizzard eスポーツの主軸が「オーバーウォッチ」と「ハースストーン」に移行して久しいが、「Starcraft II」でこのようなもの凄い試合を観戦することができたのはeスポーツファン冥利に尽きる。RTSにもまだまだeスポーツとしての可能性があるどころかバリバリの現役だということを感じることができた。
そういう意味では、2019年に登場する「Warcraft III」のリマスター版「Warcraft III: Reforged」は楽しみな動きだ。個人的な予想では、「Warcraft III: Reforged」はワンポイントリリーフで、大本命はその先にある「Warcraft IV」だと思う。RTSの形式を維持するのか、MOBAになってしまうのか、マネタイズはどうなるのか、気になることだらけだが、初代「Starcraft」からeスポーツを楽しんでいる人間としては、eスポーツの一角としてRTSがさらに盛り上がってくれることを期待している。そして今回の敗退が韓国勢にどのような刺激を与え、どう逆襲してくるのかにも注目が集まる。2019年の戦いが楽しみだ。