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「ハースストーン」東京大会、日本のhinaya選手が初優勝!

東京大会で史上初となる“「ハースストーン」マスター”が誕生

7月28日、29日開催

会場:原宿クエストホール

 Blizzard Entertainmentのオンラインカードゲーム「ハースストーン」のチャンピオンシップツアー「HCT」の東京大会「ハースストーン選手権ツアー 2018 Tokyo Tour Stop(以下、東京ツアーストップ)」が7月28日と29日の両日、東京の原宿クエストホールにて開催され、日本から出場したhinaya選手が初優勝し、優勝賞金3500ドルと、15HCポイント(Hearthstone Competitive Point)を獲得し、APAC地域のプレイオフへの出場をほぼ確実にした。

【ハースストーン選手権ツアー 2018 Tokyo Tour Stop】

選手席と実況席の近さに驚かされる
ギッシリ埋まった客席
ゲーム好き芸人として有名なインパルスの板倉俊之さんがMCとして出演
スポンサーは日清。来場者全員にカップラーメンの新製品が配られた

 オンラインカードゲームを代表するeスポーツタイトルとして4年目を迎えた「ハースストーン」だが、毎年進化を続けており、2018年シーズンはとりわけ大きな変化を遂げた年となっている。

 これまで“メジャー”と呼ばれていたオープントーナメントは、“ツアーストップ”と名前を変え、年に3回開かれるシーズン選手権の地域予選となるプレイオフの予選会という位置づけから、純粋にHCポイント(と賞金)を稼ぐ場と変わった。回数も17回から24回(開催予定を含む)に増え、世界中で開かれるツアーストップに小まめに参加し、結果を残し、HCポイントを稼ぐことで確実にプレイオフへの出場権を獲得できるようになり、その先にあるシーズン選手権、そして世界選手権を着実に狙える環境が整えられた。

 また、このHCポイントは、プレイオフの出場権を獲得するためだけでなく、3シーズン累計で蓄積され、この数値が一定以上に達すると、「ハースストーン」マスターになることができる。毎月開催されるオンライン大会への出場権が自動的に得られたり、大会に出場するだけで最大2,500ドルのボーナスが与えられるなど、言わば“Blizzard公認の「ハースストーン」プロゲーマー”として活動できるようになる。

 この背景には「ハースストーン」はeスポーツとしては珍しい個人戦に特化したタイトルで、他のタイトルのようにチーム単位ではないため、プロチームという枠組みでの活動が難しいことが挙げられる。個人でも、プロ活動を意識してランク戦やツアーストップに参加することで、「ハースストーン」マスターとなり、Blizzardから支援を受けながら、より多くの賞金を稼ぐ機会が与えられる。

 今回の東京ツアーストップは、シーズン2の締めくくりを飾る大会となったが、大会中、史上初となる「ハースストーン」マスターが現われた。ノルウェーから出場したhunterace選手で、彼は2018年シーズンのツアーストップで優勝2回、準優勝2回、ランク戦でも結果を残してきており、本ツアーストップで4位に入賞し、10HCポイントを獲得。これにより累計獲得HCポイントが150となり、3等級で構成される「ハースストーン・マスターズ」の一番下のランクとなる「一つ星マスター」に認定された。

 ちなみにプレイオフに出場するための目安となるシーズンあたりのHCポイントは45、2シーズン分でも90で、hunterace選手がいかに稼ぎまくっているかがわかる。「ハースストーン」の世界ツアーは、テニスにおけるATPワールドツアーや、卓球のITTFワールドツアーと似たシステムとなっており、HCポイントで世界ランク付けすることもできる。hunterace選手は目下、世界ランク1位の「ハースストーン」プレーヤーということになる。

 Blizzardは、今後「ハースストーン」マスターが増えてきたら、「ハースストーン」マスターだけの大会を開催する予定で、早ければ2019年にも開催される見込み。テニスの錦織圭選手が出場して話題を集めた「ATPワールドツアー・ファイナル」のような名実共にトップランカーのみの大会が「ハースストーン」にも開催されれば大いに盛り上がりそうだ。

 さて、話を東京ツアーストップに戻そう。筆者の「ハースストーン」のオフライン大会の観戦は、2018年1月に行なわれた世界大会「HCT 2017 World Championship」以来、半年ぶり。オンラインでは、現在、毎週実施されている国別対抗戦「HGG(Hearthstone Global Game)」をはじめ、Twitchでの有名プレーヤーの配信など、ちょくちょく観戦しているが、やはりオフライン大会は別格のおもしろさだ。

 禁止デッキのチョイス、最初のマリガン、カードのドロー、カードのプレイ、そのひとつひとつにドラマがあり、それは観客の歓声、どよめき、ため息となって表現される。選手はだいたいポーカーフェイスだが、中には露骨に表情を顔に出す選手もいて、それらも含めて場の一体感を味わえるのが非常に楽しい。

 「ハースストーン」大会会場そのものは200名ほどと枠が限られているが、その代わりに観戦会、いわゆるパブリックビューイングも盛んに行なわれており、今回も全国7地域で観戦会が行なわれ、数千名がオフラインで観戦を楽しんだ。オンラインの視聴者も含めると、日本だけで視聴者数は優に1万を超え、eスポーツとしての「ハースストーン」はすでに日本で根付きつつあるのを感じる。

 大会ルールは従来から変化はなく、4デッキ用意、1デッキ禁止、3本先取のBO5で争われる。予選は256名が参加できるオンライン予選を4回(日本、APAC、グローバル、グローバル)行ない、その上位16名がオフライン大会に参加する。ちなみにこの1,024人の枠は瞬殺ということで、選手登録から熾烈な争いが繰り広げられている。

【東京ツアーストップハイライト】
準々決勝第2試合。Machamp選手(日本)対Plevb選手(韓国)。シャダウォックを引きたいMachamp選手と、ハンターとして唯一の勝ち筋であるアーファスベースのバ獣の断末魔で、死の掌握からのシャダウォックスティールを決めたいPlevb選手の行き詰まる攻防戦が熱かった。最終的にMachamp選手がシャダウォックを引き3:0でこの試合を決めた
左から2番目がHCTツアーストップの常連選手であるHunterace選手。準決勝は左から3番目のhinaya選手との一戦となった
両名とも強烈なアグロ構成で、ボクシングで言えばノーガードの殴り合いのような試合が繰り広げられ、奇数ローグで競り勝ったhinaya選手に軍配が挙がった

 今回観戦して「あれっ」と思ったのは、試合時間の短さだ。29日の最終日は、10時半から準々決勝がスタートし、準決勝、決勝まで18時終了の予定だったが、決勝戦は2時間ほど早い16時過ぎには終了していた。

 今回運がどちらかに偏ったのか3:0のワンサイドゲームが多かったということもあるが、もっとも大きな要因は、アグロデッキが多かったことだ。「ハースストーン」誕生以前から存在する、“動物のような低コストのカード”を大量に入れた「ズー」タイプの進化形となる「回復ズー」がここ数カ月でトップTierに躍り上がり、大器晩成型のコントロールデッキを出しにくい状況が生まれた。「妖の森ウィッチウッド」世代らしいデッキといえるシャダウォックシャーマンや、「魔女の刻」によってついに完成を見た挑発ドルイド、コントロールデッキの代表格であるコントロールメイジなどは以前の大会よりも確実に減り、奇数パラディンや奇数ローグといった定番アグロデッキとのアグロ対決が目立っていた。

 このところアグロデッキの代表格である奇数(ミラクル)ローグをバンしてのコントロール対決が多かったため、アグロ対決は非常に新鮮だった。コントロール対決が、制限時間一杯まで戦うレスリングや柔道の対決だとすれば、アグロ対決は開幕直後の面打ちに全精力を注ぐ剣道の試合のようであり、1マナ目からまったく目が離せない。

 個人的に一番おもしろかったのは、決勝戦、hinaya選手(日本)対Alan870806選手(台湾)の第4ゲーム。トークンドルイドとミッドレンジハンターで2勝し、先に優勝に王手を掛けたhinaya選手が最後に残したデッキは回復ズー。これに対してAlan870806選手はテンポメイジと性悪ドルイドを残していた。この2つのデッキはいずれもアグロデッキが得意ではなく、Alan870806選手は絶体絶命の危機だ。

 第4ゲームは回復ズーとテンポメイジの対決となった。マリガン後、後攻のhinaya選手の手札に、ケレセス公爵とハッピーグール、ウードゥーの呪術医が見えた時、「これはもう決まった」と思った。2ターン目からガンガン攻められるからだ。筆者は優勝決定時の1枚を撮る位置を確保するために立ち上がったぐらいだ。

 しかし、テンポメイジのAlan870806選手は、hinaya選手以上にマリガンが良かった。Alan870806選手の手札は、マナ・ワーム、魔法学者、キリン・トアのメイジ、ライフドリンカーと完璧なマナカーブが描かれている。定石通りにガンガン顔を攻めるhinaya選手だったが、爆発のルーンの反撃で攻め手に欠き、逆に6ターン目にアルネスを引かれ、
ファイアーボールを打ち込まれて敗北となった。顔しか狙わないボクシングの試合を観ているようであり、アグロ対決の魅力が存分に味わえた一戦だった。

 2勝同士で迎えた決勝戦第5戦も、アグロデッキの強烈さを実感させる内容だった。ライトウォーデン2枚置きからのキノコの占い師による3体回復で、攻撃力を一気に7まで上げ、5ターン目の菌術師のバフで、サロナイト鉱山の奴隷の壁を突き破り、わずか5ターンでAlan870806選手のドルイドの体力をゼロまで追い込む完全試合で試合を決めた。性悪ドルイドは、かつて世界大会等でも活躍した人気デッキだったが、性悪な召喚師の弱体化によって第一線を退き、そして今回その終焉を見せられた気がした。

【東京ツアーストップ決勝戦】
hinaya選手(日本)対Alan8708806選手
板倉さんが名前の呼び方について質問し場を和ませる
決勝戦は、蒼汁氏とGundamFlame氏の解説のふたりが実況解説を務めた
決勝戦のデッキ構成。Alan選手のデッキ構成がトリッキー過ぎる。バンしたのは奇数ハンター
共にポーカーフェイスの2人
hinaya選手は適応好きだなあと思っていたら、Alan選手が性悪ドルイドなのに、マリガンで究極の侵蝕を2枚引きしてしまう大事故を起こしていた
トークンドルイド最良の形を作るhinaya選手
Alan選手もテンポメイジで一矢報いる
爆発的な攻撃力を発揮するhinaya選手の回復ズー。Alan選手の精神支配技士も不発に終わり万事休す
Alan選手は明らかにマリガンに恵まれていなかったが、完敗後、自ら握手。見事なスポーツマンシップだ

 hinaya選手は、HTCツアーストップ初優勝。「ハースストーン」はスタンダード前の約2年前、日本語化と共に開始したということで、優勝の感想を聞かれて、「めっちゃ嬉しい。夢見心地で、実感が湧かないですね」と嬉しそうにコメント。

 アグロ寄りのデッキ構成を採用した理由については、「最初はマリゴスドルイドを主体とした編成を考えていたが、HCTオークランド大会(7月15、16日開催)で、tarei選手がクエストローグなどアンチコントロールの編成で優勝していたので、このままでは恐いなと思い、アグロ中心の構成に思い切って変えた」という。HCTに参加する選手達は、前大会の傾向も参考にしていることがわかる。

 ちなみにhinaya選手は、b787選手やglory選手など、国内トップ選手を数多く擁するラスカル鑑定団のメンバーのひとりで、b787選手やglory選手にはデッキ構成や練習に付き合って貰い、大会開催中も、同じ日本人選手であるkamaretai選手、Machamp選手、Satelite選手には練習に付き合って貰ったということで、この5人に感謝したいとコメントしていた。

【優勝セレモニー】
優勝賞金3,500ドルを獲得
カップラーメントロフィー(!?)で記念撮影
最後は「ハースストーン」恒例となっている出場選手全員が登場しての記念撮影

 好きなカードは、獰猛なヒナ。今回もドルイド以外の3デッキに入れており、期待したほど攻撃が通らなかったというが、それで勝てた試合もあり満足しているという。ドルイドに強いサメグマ(ハンター)もお気に入りだということだ。

 今後の目標は、シーズン選手権で勝つこと。その予備選となるプレイオフには、今回HCポイントを15ポイントを獲得したことでほぼ出場できるということで、プレイオフで結果を残し、シーズン選手権で勝つことを目標に頑張っていきたいという。シーズン選手権で勝てば世界選手権で、出場できれば日本人初となる。前回の夏季選手権には、日本人選手として、同じチームのglory選手と、トッププレーヤーであるTansoku選手が出場している。hinaya選手がそれに続けるかどうか注目したいところだ。

【優勝インタビュー】
優勝インタビューに応じてくれたhinaya選手。優勝おめでとうございます!