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eXTREMESLAND 2018、圧倒的な強さで韓国MVP PKが初の栄冠に輝く

eスポーツとして更なる盛り上がりを見せる「CS:GO」。チート問題が暗い影を落とす

10月18日~21日開催

会場:中国上海666号館

 中国上海で開催されていた「Counter-Strike: Global Offensive(CS:GO)」のアジア大会「eXTREMESLAND 2018」が10月21日全試合を終え、韓国代表MVP PKが、中東代表のNASRを2:0(Nuke 16:1、Train 16:10)で破り、初の栄冠を勝ち取った。優勝賞金は4万ドル(約450万円)。

 本大会は、アジアから14カ国/地域から15チームが参加し、「CS:GO」アジアチャンピオンの座をかけた戦いが4日間に渡って繰り広げられた。日本からは繰り返しお伝えしているとおり、GALLERIA GAMEMASTER CUPで優勝したSCARZ Absoluteが参戦したものの、初日と2日目で2連敗し、グループリーグ敗退という結果となった。彼らの戦いの模様はレポートインタビューで紹介しているので、そちらも合わせて参照して欲しい。

【SCARZ Absolute】
日本代表のSCARZ Absoluteはグループリーグ敗退となった

 筆者は昨年に続いて今年も、会期前日の事前練習から決勝戦まで取材した。残念ながらSCARZ Absoluteの優勝を見届けることは今年もできなかったが、その代わりに「CS:GO」のアジアでの更なる盛り上がりを実感することができた。

 正直な所、日本でeスポーツを取材していると、「CS:GO」の盛り上がりを感じられる機会は、GALLERIA GAMEMASTER CUPぐらいしかないため、eスポーツタイトルとしての「CS:GO」の凄さを忘れがちになってしまうが、ひとたび海外に出ると、FPSの分野では比類の無い良質なeスポーツコンテンツだと気づかされる。

 攻めと守りというルールのわかりやすさ、一発で流れを変えるスナイパーのインパクト、セットプレイからの攻めが美しいアサルターの攻め、そしてわずか2分で雌雄が決するテンポの良さ。どれをとっても20年近くの蓄積を感じさせる魅力に溢れており、見るものを飽きさせない。「CS 1.6」から現在までに、一時期、韓国や中国のオンラインFPSという名の“「CS」クローン”にその存在を脅かされた時期もあったが、最後まで残ったのは「CS:GO」だけだったのを見ても、その確かな魅力がわかる。

【MVP PK】
Nukeで完璧な布陣で敵を封じ込めるMVP PK

 それにしてもMVP PKは強かった。過去2度の大会でいずれも中国チームが優勝していたが、出場チームの中では実績、経験共にずば抜けているMVP PKを優勝候補に挙げる人が多かったが、まさに圧勝だった。

 その“ヤバさ”に気づいたのは、決勝トーナメント1回戦のフィリピン代表のTNC戦だ。TNCは国際大会の経験があまりないためあまり知られていないが、確かな実力を持つアジアの強豪チームのひとつだ。

 Dust2を16:8で取った第2ゲーム目、Infernoで事件が起こった。もともとInfernoはMVP PKが得意とするマップだが、なぜかTNCはInfernoをピック。MVPは自らピックしたDust2で快勝した後、続けて大得意のInfernoに臨み、なんと16:0の完全試合を達成。このレベルの国際大会で16:0というのはかなり珍しく、しかもTNCを相手に完全試合を達成したため、その仕上がりぶりに会場ではどよめきが発生していたほどだ。

【Infernoで完全試合】
メディアルームで観戦していたがあれよあれよという間に、MVP PKが16:0を達成

 そして迎えた最終日、MVP PKは、昨年優勝チームの中国Flashと、本大会を象徴するダークホースとして勝ち上がってきたNASRと、準決勝、決勝を戦い、Flashに自身がピックしたDust2を14:16で取られるというアクシデントはあったものの、後半11ラウンドを取る猛攻で勢いを取り戻し、FlashがピックしたMirageでは16:9、Cacheでは16:8と、その後は一度も流れを渡さず完勝。見事アジア1位の座に輝いた。

【MVP PKが見事優勝!】
優勝の立役者は「CS」界のレジェンドプレーヤーであるsolo選手。鋭い眼光で状況を俯瞰し、矢継ぎ早に指示を出す。試合中の鋭い表情と、優勝インタビュー時の柔和な表情のギャップがおもしろかった

 「eXTREMESLAND 2018」のトピックは、ついにホスト国である中国が優勝の座から滑り落ちたこと、アジアにおいてeスポーツとしての「CS:GO」が空前の盛り上がりを見せていること、それに付随してチートに手を染めるプロ選手が国の代表チームにいたこと、この3点だろうか。

 既報のように「eXTREMESLAND 2018」は、BenQ Chinaが主催しているeスポーツ大会で、多くの視聴者を集めるために、中国チームが優遇されてきた経緯がある。開催規模が拡大すると共に、徐々に優遇措置はなくなり、今年はついに出場枠が2枠まで減り、名実共にアジア1位を決める大会となった。

 本大会の主役となったのは韓国MVP PKだ。「League of Legends」や「Dota2」など、複数のタイトルで活躍する韓国を代表するマルチゲーミングチームで、「CS:GO」部門は、韓国には「CS:GO」のプロリーグが存在しないため、主に韓国や日本のチームを練習相手に、国際大会を主な舞台に活動している。eXTREMESLANDへの出場は、2年振り2度目。「CS1.6」の時代から活動している「CS」レジェンドのsolo選手(1988年生まれの30歳)をリーダーに、2年前はHLTVの世界ランクは200位程度で、世界的にも無名なチームだったが、この2年間でアジア不動の1位である中国Tyloo(本大会は別の大会と重なって不参加)に肩を並べる存在となっている。

 アジアで「CS:GO」がもっとも盛り上がっている地域は、間違いなく中国だ。「CS:GO」のチームは、中国全土に何百、何千とあり、都市部にあるネットカフェで毎週のようにアマチュア大会が開かれ、さらに定期的に都市のスポンサーを付けた都市大会が開かれ、優秀な人材は都市ごとに存在するプロチームにリクルートされるという人材ピラミッドができあがっている。ちなみに今回出場した5POWERは大連系、Flash Gamingは北京系のチームだ。

【敗れた5POWER】
中国予選で優勝し、優勝候補のひとつに数えられながら、準々決勝で同じ中国のFlash Gamingに敗れた5POWER。Flash Gaming戦後の反省会を見ていたが、モンゴルから加入したモンゴル人との意思疎通に時間が掛かっていた印象で、多国籍チームの難しさを伺わせた

 中国のチームは、豊富な人材プールから有意な人材をピックし、常にフレッシュで最新鋭の戦力を整えることができるという強みがあるが、その一方で人材の入れ替わりが激しいため、「CS:GO」で重視されるメンバー同士の連携は、セットアップを重視するヨーロッパの強豪や、アジアではMVP PKなどと比較してあまりうまくない印象がある。MVP PKの大きな特徴は、わずか2年あまりで、豊富な人材プールを持つ中国勢を凌ぐ強さを身につけたと言うことだ。

 強さの秘密は、水際だった連係プレイだ。アサルターは常に2人1組で行動し、常に局地戦で数的優位を創り出す。複数人で攻めかかり、仮に1人目が敗れても、もう1人がリベンジし、敵の防衛ラインを突破する。1人が欠けても、再び別の誰かと組み、再び2人1組で行動する。これがとにかく徹底している。このため、ゲーム終盤の遭遇戦になっても各個撃破されることがない。

【常に複数で行動】
MVP PKはスナイパーも例外ではなく、複数で行動している。息ピッタリの動きが素晴らしい

 事実上の決勝戦となった準決勝第1試合、韓国MVP PK対中国Flashの1戦は、さながら連携対エイムの戦いとなった。「CS:GO」のスナイパーライフルAWPは、遮蔽物なしで当てると必ず倒すことができる。このため、エイムの巧いチームが勝つのがこのゲームの基本セオリーだが、MVP PKの見事なセットプレイからの連携を見ていると、こういう勝ち方もあるのかと「CS:GO」というゲームの奥深さに気づかされた。

 日本のチームは、昔も今も、5人1組控えなしという一枚看板で戦ってるチームが多いが、メンバーが常に同じチームの強みは、緻密なセットプレイを実戦投入できるところだ。MVP PKの見事な連携は日本チームにとってひとつのロールモデルになると感じた。

 トピック2つ目、アジアでの「CS:GO」の盛り上がりを体現する存在が、今回ダークホースとして準優勝に輝いた中東代表のNASRだ。アマチュアチームで、本業はそれぞれ別にあるという。国際大会は予選止まりの成績が多く、当の本人達も決勝戦まで勝ち残る確率はないと判断して、決勝戦が行なわれる時間帯の便で帰国予定だったほどだ。しかし、本人達の判断とは裏腹に、対戦相手にも恵まれたこともあり、見事決勝まで勝ち上がった。

 アジア圏ではほぼ無名の存在の彼らだが、強さは本物だ。グループリーグで、SCARZ Absolute(日本)とD13(モンゴル)をそれぞれワンサイドゲームで退けると、準々決勝でChiefs(オーストラリア)、準決勝でBOOT-d[S](シンガポール)を2:1で撃破。それぞれ1ゲーム取られてからの逆転勝ちという粘り強さで本大会の台風の目となった。

 決勝進出の立役者となったのが、スナイパーのNami選手だ。SCARZ Absolute戦の時点から、このAWperは相当優秀だと感じていたが、ゲームを経るごとにますます調子を上げ、BOOT-d[S]戦では、ハーフゲームで26キルという、本大会最高キル記録を更新した。同じAWperのReita選手(SCARZ Absolute)に、Nami選手の凄さを聞くと、反応速度がケタ違いに速いという。

 獲物はほとんどのケースでAWPで、あまりに決定力が高いため、特に決勝トーナメント以降は“作戦Nami”状態になり、お金をかき集めてNamiにAWPを渡すという作戦が目立った。それが決勝戦を除いてある程度機能していたから凄いのだが、このレベルの強さのチーム、選手がまだ中東にゴロゴロ眠っていると考えるとなかなか恐ろしい話だと思う一方で、アジア全体の底上げに繋がると考えるとワクワクする。

【NASR Nami選手】
BOOT-d[S]との1戦では、Infernoで41キルを達成していたNami選手。SCARZ Absoluteをはじめ、多くのチームが彼の存在に苦しめられていた

 また、今回、GALLERIA GAMEMASTER CUPのプレイオフ出場の副賞として、2位から4位のチーム全員にeXTREMESLAND 2018観戦ツアーが贈られた。Ignis、RIG、DWFNの3チームから12名がツアーに参加しており、筆者もSCARZ応援団の一員として一緒に観戦して、色々な意見を聞くことができた、「CS:GO」を遊びの延長としてではなく、競技として真面目に取り組むストイックな姿勢に感心させられた。

 もともと「CS:GO」は、日本ではパブリッシャー不在で、大会開催はおろか、まともなプロモーションも行なわれていないため、プロになれる、お金が儲かる、有名になれる、みんながやっているといった理由で競技シーンに首を突っ込んでいる人は1人もいない。純粋に最高峰のeスポーツ競技として、自分の腕を世界で試したい、強くなりたい、頂点を目指したいという、まさにアスリート的な発想で、日々のトレーニングに取り組んでいる選手達がほとんどだった。

 おそらく日本のeスポーツ市場で、「CS:GO」が天下を取ることは今後もないと思うが、競技シーンの未来は明るいと感じた。日本と同じように、国内にリーグや大会がない韓国でもMVP PKのような強豪チームを生み出すことができるのだから、日本も強いリーダーシップと明確な意志を持ってやれば、MVP PKやTylooに勝るとも劣らないチームを生み出すことができるはずだ。

【一緒にくつろぐ日本チーム】
GALLERIA GAMEMASTER CUPの1位から4位までのチームが一緒に観戦したり、練習したり、雑談したりする姿を見ることができた

 そして最後に触れざるを得ないのがOptic Indiaのforsaken元選手が起こしたチート事件(参考記事)だ。彼の事件によって「CS:GO」にチートがあることを否応なく思い出させてくれた。「CS:GO」は、もともとの発祥が「Half-Life」のMODということもあり、MODツールに対して伝統的に非常に寛容だ。MODツールが入れられるということは当然チートツールも入れられるわけで、「Counter-Strike」は誕生以来、チートの存在に悩まされてきた。eスポーツ大会で、チート対策のためのセキュリティが厳しいのは、「CS 1.6」でチートが蔓延していたことの影響が大きい。

 forsaken元選手が使ったのはオートエイムだったとされる。されるというのは、まだ大会運営側も解析中でわかっていないためだ。チートツールはword.exeというファイルに格納され、自身が持ち込んだUSBメモリを通じて導入されたという。どういうツールだったのかは今後明らかになる見込みだが、「CS:GO」世代のチートツールは、「CS 1.6」時代の“市販品”ではなく、チート専用のプログラマに頼み込んで作って貰う、いわばBTOタイプのオリジナルチートツールが主流になっているため、“新種のコンピューターウィルス”と同様に、クライアント側では検知できない。

【forsaken元選手チート事件】
驚異的な精度でキルを重ねるforsaken元選手
2ゲーム目、10対9のところでテクニカルタイムが掛かった。forsaken元選手の周りに関係者が集まっているのが確認できる
最終スコア。チートの仕様が発覚したためRevolutionの勝利となった

 今回はUSBメモリという単純な方法を使ったため発見されたが、USB接続が許可されているマウスやキーボード、ヘッドセットには記憶領域を持つものもあり、デバイスの持ち込みが可能な時点で、チートツールを完全に排除するのは不可能とされる。

 HLTVで彼を検索すると、世界最高峰のスコアを叩き出していることがわかる。特に異常なのがヘッドショットで、61%という神がかり的なスコアを記録している。実際にはオートエイムによるものだった可能性が非常に高く、eXTREMESLAND以前に行なわれた、トヨタが冠スポンサーのToyota Master Bangkok 2018東南アジア予選でも異常なスコアが出ており、Optic IndiaはSCARZ Absoluteを上回る4位に入っている。こうなってくると、eXTREMESLANDのインド予選をはじめ、すべての試合が怪しくなってくる。彼がしでかした影響は計り知れない。

 今後、国内でeスポーツが発展していくにつれて、チート、八百長、ドーピングの問題が徐々にクローズアップされていくはずだ。eスポーツが、スポーツとして、興行として発展していくにつれて、そうした誘惑からは逃れられないからだ。forsaken事件は、そうしたことを考え直す良いきっかけを与えてくれたと思う。それらの問題をキチンと克服した上で、eスポーツとして健全な発展を期待したいところだ。

【チートをどう防ぐか】
右から2番目がforsaken元選手。LANの国際大会で、チートに手を染める選手がいるというのが衝撃的だった。日本でも同様の事件が起こらないことを願いたい