「World Cyber Games」レポート RTS編
「Age of Empires II」「Starcraft」ともアジア勢が圧倒

会期:12月5~9日

会場:COEX Seoul

 12月5日より韓国ソウルで開催されていたWorld Cyber Gamesも、あと残すところ6タイトルの個人戦決勝のみとなった。個人戦決勝はメインステージと第2メインステージを用い、2枚の大型プロジェクタを通じて、超ハイレベルな熱戦の模様をリアルタイムで見届けることができた。本稿では、国内でも人気の高いリアルタイムストラテジー2タイトルに絞って、個人戦決勝の模様をお届けする。


■ 優勝候補筆頭の韓国の対戦相手は意外な伏兵“台湾”
  ~「Age of Empires II:The Conquerors」個人戦決勝

試合中の模様。開始時間が11時と比較的早かったためか、観客は台湾勢を除いて少な目だった
 「Age of Empires II:The Conquerors」個人戦決勝は、先のレポートでもお伝えしたように韓国のエースwargrant氏と、気づけば決勝までただひとり負けなしでトーナメントを勝ち進んできたIamKmKm氏との対決となった。

 決勝に触れる前に両氏のここまでの戦歴を振り返っておきたい。wargrant氏は、前哨戦にあたる決勝リーグを5戦全勝で突破し、トーナメント1回戦で国別団体戦のパートナーKoven氏に勝利。続いて台湾のaluba007氏を破ったところまでは良かったが、香港chun_yu氏に60分水入りの末、きわどい得点負けを喫し、敗北者リーグへ移行した。

 余談だが、この試合はwargrant氏が得意の速攻の攻め手を誤り、先に時代を進化させたchun_yu氏に痛烈なカウンターを当てられるが、そこであきらめずに粘りに粘りまくり、ついに60分戦いきるといった内容。香港chun_yu氏は速攻より進化を優先させるオーソドックスな攻め方をするプレーヤーで、彼のカウンターによりwargrant氏の拠点は一時ぼろぼろになる。凄いのはそこで試合終了を宣言しないどころか、守りにも入らず、攻められているのに攻め続けたことだ。さらに終了間際には同程度のパワーバランスにまで持ち直しており、あと10分あれば試合の行方はわからなかった。すべてのAoCユーザーはこのリプレイを見ておくことをお勧めしておきたい。彼の底力がよくわかる一戦である。

 話を戻そう。wargrant氏は敗者トーナメントに移行後、日本のzyatou氏、カナダのIwillwinyou氏を立て続けに破り、勝者トーナメント準決勝でIamKmKm氏に破れた香港chun_yu氏を再戦で破って、決勝戦に駒を進めた(さらに余談だが、この試合も猛烈におもしろい。今度はwargrant氏が進化優先で押しまくる)。

 一方のIamKmKm氏は、決勝リーグで米国のRandy氏(「Age of Empires:The Rise of Rome」世界大会の優勝者)に1敗した以外はすべて全勝で決勝戦に進んだ台湾のエース。決勝リーグの結果を見るまでまったくノーマークの選手だったが、日本予選1位のHALEN氏、先述のKoven氏とRandy氏のいるD組をトップで勝ち上がっている。

 IamKmKm氏は決勝トーナメントで、ベルギー、米国、カナダ、香港の代表を次々に破り決勝戦へ進出している。しかし、その戦術スタイルは、我々から見てかなり危なっかしいものに思えた。ユニットの育成所を敵領のすぐ手前に建て、先手必勝で叩くというシンプルきわまりない戦法で、しかも速攻に使う部隊の量は決して多くなく、wargrant氏のような猛烈ため込み型でもない。さっさと攻め込んで、あっさり勝ってしまう。それだけである。

 これが世に言う天才型プレーヤーかと感じたが、それでも決勝前は「wargrant氏には通用しないだろう」と思った。それぐらい彼のプレイスタイルは重厚で、誰が見ても強さを実感できる圧倒的な説得力を備えている。前日の国別団体戦の決勝戦終了後、実質的にwargrant氏ひとりに破れた格好となった日本代表ふたりが「グラント(wargrant)つえ~~、強すぎる!」と悔しがりながらリプレイを見直しているのを見て、私も後ろで「うんうん」と頷いてしまったものだ。

 さて、決勝戦。試合開始前、どうも客がIamKmKm氏に近い右側に固まっていると思ったら、それらはほぼすべてが台湾人で、「中華台北加油!」と書かれた赤い横断幕と国旗を描いた手旗を振りまくり、氏に対しやかましいほどの声援を送っていた。一方のwargrant氏は落ち着いた手つきでヘッドセットの調整を行なうなど余裕の雰囲気。メインステージでの試合の模様は、2枚のプロジェクタで見られるが、プレーヤーにゲームの情報が漏れると試合にならないため解説などはいっさいなかった。そればかりか青と赤どちらの文明が両者なのかについてのコメントもないまま、ついに試合は開始された。

 プロジェクタでは文字まで判読できないため、どっちがどっちなのか皆目検討がつかず、しかも映し出されている映像は、審判として観戦参加しているWCGスタッフの視点であるため、トーナメントのような一流プレーヤーの視点で見られないもどかしさがあった。開始10分で戦闘が始まり、片方が一方的に攻め始める。もう片方は難なくしのぎきるが、攻めに転じる前に再度攻められ、なかなか反抗の糸口が見つからないといった展開。一時、散兵で反抗に移るが打撃を与える前に逃げられ、先攻側の主要部隊が散兵から斥候に切り替わると攻撃は激しさを増した。そうして、ついに待避先の農場が発見され、斥候の集団に蹂躙されると、突然IamKmKm氏が立ち上がり、応援客に向かってガッツポーズ。この瞬間IamKmKm氏の優勝が決まった。

 結果は、最初に攻め込み、最後までひたすら攻め続けたのがIamKmKm氏、終始後手に回らされたのがwargrant氏だった。優勝決定後、壇上にいたIamKmKm氏に台湾の応援客が殺到し、壇上手前に置かれたWCGのロゴが書かれたベニヤ製のボードが踏み破られるほどの大混乱となった。台湾選手の優勝はWCG側には想定外だったのか(だとすれば問題だが)、優勝インタビューは通訳をいっさい介さず、中国語のままで行なわれた。唯一理解できたのはIamKmKm氏の「Taiwan Number One!」」という喜びのコメントのみ。ほどなくして彼は台湾MBC文化放送のテレビクルーに連れ去られるようにして姿を消し、隣で控えていたwargrant氏がライトアップされた。

 wargrant氏は、終始うつむきがちで肩をしんなりとさせ、本当に申し訳なさそうにしていた。我々の「敗因は?」という質問に対し、「戦略ミスだった。序盤、基地を守ることができなかった。彼はすべての部分で優れていた。もし可能なら来年も出場して、雪辱を果たしたい」と語ってくれた。なお、日本選手にIamKmKm氏の強さについて聞いたところ、「思い切りの良さでしょうね。ふつう、勝とうと思ってあんな攻め方はできませんよ」ということだ。現在、WCGのサイトでは全試合のリプレイデータが公開されている。彼の全試合のリプレイを見れば、その強さの秘密がわかるかもしれない。

韓国wargrant氏(左)と台湾IamKmKm氏。ちなみに3位は香港chun_yu氏で、アジア勢が上位を占める結果となった

試合中に張り出された応援用の横断幕。右の画面は斥候の集団に攻められるwargrant領の様子。この規模での侵攻が間断なく繰り返される。これがボディーブローとなり、敗北へとつながった


■ 国民的スターの登場に大人や子供は大興奮!! WCG最大の集客ぶりを見せる
  ~「Starcraft」個人戦決勝

試合前の様子。臨時の客席を足しても足してもまだ足りず、50メートルほど離れた第2ステージの客席まで埋まった
「写真も撮ったし、さて座ろう」と思ったら子供たちに完全占領されていたの図
 韓国で恐ろしいまでの人気を集めているBlizzardのリアルタイムストラテジー「Starcraft」は、その人気ぶりを証明するかのように最終日の取りを飾った。対戦者は、韓国のプロプレーヤーとして活躍するgonia119氏と、アジア勢の活躍ばかりが目立つRTS分野にあってひとり気を吐くフランスのElky氏。このふたりは勝者リーグ決勝で一度対戦しており、その際はgonia119氏が勝利を収めており、決勝での再戦となった。

 場内は開始1時間以上も前から観客で埋め尽くされ、さらにKAMEXを見終えた子供たちが「いい席が空いているよ」とばかりにプレス席を完全制圧。だけではおさまらず、最前列まえにもどんどん座り込み、そのおかげで我々は端のほうで観戦する羽目になった(そうした群衆化した子供たちをどかすのがWCGスタッフの仕事であるはずだが、その気配はまったくなかった)。

 30分遅れで試合前のアナウンスが始まったものの、その内容は「本日は日曜日ということで数多くの家族連れが韓国人選手の応援に駆けつけています。みんな韓国人選手が勝つことを信じています」といった韓国人以外にはどうでもいい話ばかり。さらに韓国のデザイナーアンドレイ・キム氏が「韓国でこのような素晴らしい大会が開かれることを大変嬉しく思います。大会運営委員のみなさま大変お疲れさまです」と上塗りし、続いてgonia119氏の両親が紹介されるに至っては呆れるほかなかった。こうした国際大会とは思えない公私混同のスピーチが延々と続いたあと、盛大な拍手とともにようやく試合が開始された。

 gonia119氏はTerran、Elky氏はProtossを選択。残る人種Zerg人気の高い韓国としては珍しいとりあわせとなった。プロジェクタにはほとんどTerranの様子しか映し出されないため、Protossの戦術はよくわからなかったが、Terranは攻守のバランスが優れたユニットVultureを大量にため込み、輸送船Dropshipで敵拠点まで運んで、ラッシュをかけるといった派手な戦法。Protossの強力なラッシュをさけるためか、資源採取半ばでCommand Centerを空に浮かべ拠点を移すというドラマチックな戦術も出て、そのたびごとに観客から大きな拍手が贈られた。さすがはプロといった感じだ。

 試合の方は、完全な横綱相撲でgonia119氏が勝利し、優勝が決まった瞬間、場内はひときわ大きな拍手に包まれた。優勝インタビューでは、「最初から(優勝する)自信があった。一番大変だったのはElky氏。非常にいい選手だった。また対戦してみたい。優勝賞金は旅行に使いたい。私を助けてくれたチームのみなさんと、お父さん、お母さんにお礼を言いたいです」とコメントした。一方のElky氏は、「自分がなさけない。努力が足りなかった。WCGはよく組織されていて、最後までいい環境でプレイすることができた。機会があれば来年もぜひ出場したい」とさわやかなコメントを残した。

 驚いたのはその後で、プレスの群れから抜け出てきたgonia119氏を子供や若い女性たちが取り囲み、紙切れやポスターを手にサインを求めていたことで、PCゲームプロプレーヤーの人気ぶりの高さをいやが上にも見せつけられた。その後、引き続き閉会式となり入賞者の表彰が執り行われた。

厳しいまなざしでモニタを見つめる両名。右の写真は試合終了後の会見の様子

とにもかくにもgonia119氏の国内での人気は半端ではない。右の画面は心配そうに試合の行方を見守る子供たち。WCGのスタッフに怒られてもまったく動じず、そこから動こうとしない。その熱意は見上げたものである

「Age of Empires II:The Conquerors」国別団体戦2位となった日本。左がzyatou氏、右がHALEN氏。急遽開催が決まったとはいえ、ふたりで賞金3,000ドルは安すぎる気がするが、それはともかく入賞おめでとう

左から「Age of Empires II:The Conquerors」個人戦1位のIamKmKm氏、2位のwargrant氏、「Starcraft」個人戦1位のgonia119氏

□World Cyber Games(英文)のホームページ
http://www.worldcybergames.org/
□World Cyber Games(日本語)のホームページ
http://jp.worldcybergames.org/

(2001年12月10日)

[Reported by 中村聖司]

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